Category: 論文データ捏造

東大が会見、医学系5教授は不正なしとする

2016年8月にOrdinary_researchersが東京大学の6研究室から発表された学術論文の不正を告発した問題に関して、2017年8月1日に東京大学が不正調査委員会の調査結果の結論を公表しました。


(画像キャプチャー元:データねつ造など…東大教授らが研究不正 日テレ NEWS 24 2017年8月1日 18:28 )

 

分子細胞生物学研究所(分生研)の不正認定は先日、一部新聞等で報道されていましたが(記事)、今回は東大が記者会見を行い公に発表したものです。分生研論文の不正認定が大きく報道されてその影に隠れていますが、注目すべきは、分生研の疑惑論文と同等かそれ以上に不正の疑いが強いと多くの研究者がみなしていた医学部論文に関して、東大が不正はなかったとしたことです。東大が医学部論文に不正はなかったとし、新聞はそのまま言葉の受け売りで「不正なし」と報道していますが、読者がそれを鵜呑みにするのは非常に危険です。以前記事にしましたが、Ordinary_researchersが指摘した東大医学部論文の疑惑の一例として下の図で示すように、デタラメなエラーバーのグラフがあったのに不正はなかったというのは、普通の研究者には到底受け入れられません。このようなグラフからは、実験がそもそも行なわれていなかった可能性や、実験していたとしても有意差のないデータをあたかも有意差が出ていたかのように見せかけた可能性が強く疑われます。東大は医学部の論文に関しても、Ordinary_researchersの指摘した疑惑の一つ一つに関してどのような調査結果を根拠に不正なしと判断したのかを公表すべきです。

 

 

 

東大分生研と東大医学部の調査に天と地ほどの落差があるのが大きな謎でしたが、下のツイートによれば、調査委員員が別だったようです。

 

公正かつ平等な不正調査とするためには、論文著者らと利害関係のない外部の研究者のみからなる調査委員会が全ての論文に関して一貫性のある調査を行うべきです。東大の調査報告書または内部資料の一部と思われる文書がネット上に掲載されましたが、下に示すように、医学部論文に関しては、小学生でも騙されない幼稚な言い訳が並んでいます。こんな稚拙な言い訳を認めてそれ以上の追及をしなかったのだとしたら、不正調査をしたとはとても言えません。


(東大研究不正調査、医学部教授おとがめなしのカラクリ YAHOO!JAPAN ニュース より)

 

(2017年8月3日追記) m3.comが東大の調査報告書または内部資料の一部と思われる内容を報道していたので該当部分を引用します。

【医学系研究科5教授の論文の調査結果の概要】
 調査においては、実験ノート、オリジナルデータの確認を行い、これらの全部または一部失われた場合は、関連する実験ノート、その他のデータ・記録の存在および内容を確認した。その結果、全ての論文について、実験は実施されたものと認められ、本件においては捏造はないと判断した。
 他方で、雑誌に掲載された論文の図および再現データ(出版社のWebサイト上の論文の図等から得られる「ベクトルデータ」から再現された数値データ)を確認したところ、ほとんどの図で、申立者の指摘するような、再現データとオリジナルデータは一致していないという事実が確認された。
 そのため、さらにその原因を調査し、不一致が改ざんによるものか否かの確認、検討を行ったが、いずれも改ざんによって生じたものとは認められなかった。(引用元:東大・分生研教授ら、5報の論文で不正行為 調査結果を公表、医学系研究科5教授は不正なし m3.com 2017年8月2日)

これは興味深い文面です。実験ノートやオリジナルデータが失われていたものがあった事実を認める一方で、”全ての論文について、実験は実施された”と主張しています。しかし、その主張の根拠となる”関連する”資料が具体的に示されておらず、この主張には説得力がありません。また、”再現データとオリジナルデータは一致していない”と極めて重大かつ深刻な事実を告白した一方で、何の根拠も示さずに”改ざんによって生じたものとは認められなかった”と主張しています。この文面で表現された「事実」と「主張」のうち、「事実」のみを取り出すと、実験ノート、オリジナルデータが失われていたものがあった。また、論文発表された図とオリジナルデータはほとんどの場合一致しなかったと言っており、Ordinary_researchersの指摘の正しさを認めているようにみえます。それにもかかわらず、「主張」に関しては、それをサポートする内容が全く含まれていません。

東大は、疑義が呈された全ての論文の図に関して、対応する実験記録(実験ノート、生データの数値など)をひとつひとつ突き合わせて確認した結果を、個別に報告すべきです。上の報告書は、全てをごちゃまぜにして誤魔化しています。また、論文の図(から再現されたデータ)とオリジナルデータとはほとんどの場合に一致しなかった、と極めて重大で深刻な事実を認め、”その原因を調査し、不一致が改ざんによるものか否かの確認、検討を行った”にもかかわらず、その検討結果を一切示さずに、一方的に、改竄は無かったと主張しています。この部分には非常に大きな論理のギャップがあり、この主張を裏付ける根拠があるのなら示すべきです。これでは報告書としての体を全くなしていません。

 

(2017年8月4日追記) 東京大学が2017年8月3日に「22報論文に関する調査報告(骨子)」をウェブサイト上で発表していました。医学部関連に関する記述は、

2.調査結果の概要(医学系研究科関係)
(結論)申立のあった5名について不正行為はない

という簡単なもので、それ以上の中身はありません。中身はないにもかかわらず、既にこの文書内には矛盾があります。この文書は、”22報論文に関する調査報告(骨子)”、つまり論文に関する調査報告です。実際、分子細胞生物学研究所に関しては、

3.調査結果の概要(分子細胞生物学研究所関係)
(1)結論
論文(図) 5報(16図)について不正行為があったと認められた。
不正行為を行ったと認定した者は、下記2名である。

と、”論文(図) 5報(16図)について不正行為があったと認められた。”と記されています。この書き方に従えば、医学部の論文に不正がなければ、「論文(図)17報(XX図)について不正行為がなかった」となるはずです。ところが、なぜか「論文」でなく「人」に関する記述にすり替わっています。医学部の論文について不正があったのかどうかの断定的な記述を避けたのでしょう。東大は個々の論文の図に関して不正行為があったのかどうかを報告すべきです。

 

Ordinary_researchersのコメント

(2017年8月6日追記)今回の告発者であるOrdinary_researchersのコメントがサイエンスのウェブサイトに掲載されていたので紹介します。分子細胞生物学研究所の不正疑惑に関する調査には一定の評価を与えていますが、医学部関連論文の疑惑解消に十分な調査が行われていないと指摘しています。さらに、疑惑論文を掲載した雑誌社が曖昧な態度でいることは科学研究の信頼性を損なうことになるとコメントしています。

In an email to ScienceInsider, Ordinary_researchers praised investigators for their work on the Watanabe papers but said the examination of other publications “was not sufficient to dispel doubts” about questionable data. Ordinary_researchers also criticized the journals for a lax attitude toward suspected fraud that is “undermining the credibility of scientific research.” The group is hoping the incident “will deepen future discussions on the prevention of fraud.” (University of Tokyo probe says chromosome team doctored images By Dennis Normile, Science News Aug. 1, 2017 , 12:00 PM;Update, 2 August, 10:47 a.m.)

(2017年8月8日追記) Ordinary_researchersは今回の東大の報告を受け、報道機関にコメントを送付したようです。

「どのような検証が行われたのかが具体的にはほとんど公表されておらず、科学コミュニティの第三者が疑義について検証することができない」

「学会、研究資金の配分機関、掲載誌、著者などの反応については、少なくとも現時点までに十分なとるべき対応がなされたとは思っていない。東京大学からの正式な報告がなされたことをきっかけに不正防止に向けて今後、議論が深まっていくことを期待している」

「問題を黙殺あるいは矮小化する研究機関・研究者が得をし、問題に誠実に向き合う者が損をする現状がある。東京大学は我が国の最高学府として、研究不正の問題に勇気を持って向き合い、この現状を率先して是正していく重責を担っている」 (引用元:告発された東京大学研究不正 NHK NEWS WEB WEB特集 8月8日 21時00分)

 

報道 (学術誌・科学系一般誌)

  1. Investigation Finds Cell Biologist Guilty of Misconduct Yoshinori Watanabe of the University of Tokyo was found to have tampered with images in five prominent publications.(By Aggie Mika | TheScientist, August 2, 2017
  2. University says prominent Japanese cell biologist committed misconduct University of Tokyo investigated anonymous allegations of manipulated images in papers by Yoshinori Watanabe (by David Cyranoski, Nature News 01 August 2017 Corrected:03 August 2017)
  3. University of Tokyo probe says chromosome team doctored images (By Dennis Normile, Science News Aug. 1, 2017 , 12:00 PM;Update, 2 August, 10:47 a.m.):”The panel cleared five other research groups of wrongdoing. …The committee, headed by Hiroaki Aihara, a physicist and University of Tokyo vice president, recommended holding off on disciplinary measures pending a review of additional published papers. … In a 49-page report released at a press conference today, the investigative committee, which includes experts from outside institutions, found “minor inconsistencies” among images found in the papers of five research groups, but “no indications of falsification.” All of the exonerated groups are affiliated with the school of medicine.”

 

分析・解説記事

  1. 論文不正の告発を受けた東京大学(3) 告発通りに図版の誤りはあったが…… (詫摩雅子 | 科学ライター&科学編集者 YAHOO!JAPANニュース 8/14(月) 0:01)
  2. 東大研究不正調査、医学部教授おとがめなしのカラクリ (榎木英介 | 病理専門医かつ科学・技術政策ウォッチャー YAHOO!JAPAN ニュース 8/2(水) 7:44)

 

報道(新聞・テレビ)

  1. 東大・分生研教授ら、5報の論文で不正行為 調査結果を公表、医学系研究科5教授は不正なし ( 2017年8月2日 橋本佳子 m3.com編集長)
  2. 東大教授の論文、大学が不正と認定 本人が反論「国際基準では不正に当たらぬ」 (HUFFPOST / 朝日新聞デジタル | 執筆者: 朝日新聞デジタル 投稿日: 2017年08月02日 10時47分 JST) 写真:記者会見する東京大学の福田裕穂副学長(右)と境田正樹理事=8月1日午後、東京都文京区
  3. 東大、教授ら2人の不正認定 論文5本で捏造や改ざん (日本経済新聞 朝刊 2017/8/2付);”福田裕穂副学長は記者会見で「再び不正が発生したことは学術の信頼を揺るがす事態で、誠に遺憾だ」”
  4. Todai professors accused of falsifying research data (by Mizuho Aoki, The Japan Times, Aug 1, 2017):”The probe, which ended on May 31, found no misconduct in the papers by the five professors at its medical school.”
  5. 東大教授論文不正】「不適切な加工が常態化」 “スター科学者”の実像に揺れる学界 (産経ニュース 2017.8.1 23:09更新):”報告書によると渡辺氏は研究室のメンバーに対し、実験の裏付けとなるはずの画像を「積極的に加工しなければならない」などと指導。メンバーはこうした方針に違和感を覚えながらも従い、あるいは疑問すら抱けないのが実態だった。不正を認定された元助教の丹野悠司氏は「犠牲者の側面もある」とした。”
  6. 東大でまた論文“ねつ造” 不正が16件見つかる (テレ朝 news 2017/08/01 18:45)
  7. ネイチャーなどに発表の論文5本で不正確認、東大が公表 (TBS NEWS)
  8. 東大教授らの論文5本不正認定…実験せずグラフ (読売新聞 YOJIURI ONLINE 2017年08月01日 18時39分):”別の医学系研究科の教授ら5人が関係した15本の論文についても告発があったが、不正はなかったとしている。”
  9. データねつ造など…東大教授らが研究不正 (日テレ NEWS 24 2017年8月1日 18:28)
  10. 東大教授の論文 大学がねつ造と改ざんの不正認定 (NHK NEWS WEB 8月1日 17時04分):”大学はこうした不正行為は渡邊教授と当時の助教の合わせて2人が行ったと認定しました。 … 一方、同時に匿名で告発されていた東京大学医学部の5人の教授について、大学は不正はなかったとしています。”
  11. 東大教授の論文に不正 実験結果など捏造、大学が公表 英ネイチャーなどに掲載 (2017.8.1 15:30更新)
  12. 東大、渡辺教授らの論文不正を認定 グラフ捏造な (朝日新聞 DIGITAL 2017年8月1日13時43分):”調査委は今年に入り、渡辺教授らの論文を不正と判断。ほかの5研究室の告発については、不正はないと結論づけた。”
  13. 東大 論文不正を認定 分子生物研、5本で図表捏造 午後発表 (会員限定有料記事 毎日新聞 2017年8月1日 東京夕刊):”1日午後に記者会見して発表する。 “

 

参考

  1. 記者会見 「22報論文の研究不正の申立てに関する調査報告」の実施について 平成29年8月1日 東京大学 日 時: 平成29年8月1日(火)14:00~15:30 場 所: 東京大学医学部図書館3階会議室 東京大学医学系研究科5教授及び分子細胞生物学研究所1教授の論文22報において、データの捏造・改ざんの疑いがあるとの匿名の申立て(平成28年8月、9月)があった件について、東京大学科学研究行動規範委員会の調査結果を公表した。 資料(8/3掲載) 22報論文に関する調査報告(骨子)  分子細胞生物学研究所データ解析結果  今後の取組等について

 

MY TWEETS

記事更新記録 20170808 Ordinary_researchersのコメント(NHK記事)を追加 20170805 東大が22報論文に関する調査報告(骨子)と称する文書を発表したのを受けて記事を追加 20170804 m3.comに掲載されていた東大不正調査報告書の医学部関連部分を転載し文章を追加および一部削除。

 

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