すべての論文は 嘘だと思って読みなさい

      2018/06/12




本庶佑氏がSTAP問題についてコメントした「新潮45」の記事(全文PDF)の中で、他人の書いた論文を読むときの心得が説かれています。これから研究者を目指す人、大学院生にとっては必読の教育的な内容です。

子供の頃から、教科書や本の内容、新聞記事など、印刷されて世に出回っているものは「真実」であると信じて、疑うことを知らずに育って大人になってしまった人は、学術論文も当然真実だけが書かれていると思い込んでいるかもしれません。そのような素直で正直な性格の人は、要注意です。

”しばしば秀才が陥る罠ですが論文に書いてあることがすべて正しいと思い一生懸命知識の吸収に励むあまり、真の科学的批判精神を失うという若者が少なくありません”

では一体どのような態度で他人の論文に接するべきなのでしょうか?

”重要なことは雑誌に公表された論文をそのまま信じてはいけないと言うことです。私は大学院の指導教官であった西塚泰美先生(元神戸大学長)から「すべての論文は嘘だと思って読みなさい」と教えられました。まず、疑ってかかることが科学の出発点です。教科書を書きかえなければ科学の進歩はありません。”

なぜ他人の論文を疑ってかからないといけないのか?それは論文を書いた科学者も所詮は人間のため、自分の思い込みによってデータを取捨選択してしまったり、データの解釈を誤ってしまう可能性があるからです。

”データの加工ということは多くの論文である意味で避けられないところがあります。例えば、顕微鏡下で見た写真の中で自分の考え方に合うと思われる一部分の場所を拡大したり、その部分を集めてくるという作業は意識的・無意識的に係わらず多くの研究者たちが行うことだと思います。通常はそれが意図的な変更でないことを別の方法で検証したデータをつけます。読む方としては当然そういうことも計算に入れて論文を読む必要があります。”

実際のところ、世に出回っている論文のうち、どれくらいの割合で間違いが存在するのでしょうか?

”私の大雑把な感覚では論文が公表されて1年以内に再現性に問題があるとか、実験は正しいけれども、解釈が違うとか、実験そのものに誤りがあるとか言った理由で誰も読まなくなる論文が半分はあります。2 番目のカテゴリーとしては、数年ぐらいはいろいろ議論がされ、まともに話題になりますが、やがてこの論文が先と同様に様々な観点から問題があり、やはり消えていくもの30%ぐらいはあるでしょう。論文が出版されてから20 年以上も生き残る論文というのはいわゆる古典的な論文として多くの人が事実と信じるようになる論文で、まず20%以下だと考えております。中には最初誰も注目しなかったのに5~10年と次第に評価が上がる論文もあります。”

以前、「医学生物学論文の70%以上が、再現できない!」というネイチャーの記事が話題になりましたが、ウソや間違いが論文発表されている割合は思いのほか高いようです。

参考

  1. STAP 論文問題私はこう考える 分子生物学会ウェブサイト内 PDFリンク 本庶 佑 元役員 2014年7月9日 新潮社「新潮45」July 2014 p28~p33より転載)
  2. NIH mulls rules for validating key results (31 July 2013):”…In a 2011 internal survey, pharmaceutical firm Bayer HealthCare of Leverkusen, Germany, was unable to validate the relevant preclinical research for almost two-thirds of 67 in-house projects. Then, in 2012, scientists at Amgen, a drug company based in Thousand Oaks, California, reported their failure to replicate 89% of the findings from 53 landmark cancer papers….
  3. ”白楽は、大学院生の頃から、論文を吟味しながら読む習慣がある。というか、まともな研究者は全部そうだろう。論文をハナから信じることはない。むしろ、間違っている点はどこか、不備な点・足りない点はどこかと思って読む。そうでなければ、その論文を越える研究ができない。他の研究者の研究成果は、まず、吟味する。しつこく、徹底的に吟味する。イヤラシイほど吟味する。そして、ほとんどの場合、間違っている点・不備な点・足りない点を見つけてしまう。” (研究倫理 白楽ロックビルのバイオ政治学 研究界の不祥事の全体像

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