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東京大学が医学部研究不正疑惑論文に関する調査報告書を国民に開示しないのは違法(総務省審査会第4部会の判断)

続報:日本における研究倫理の存在の耐え難い軽さ(というか、存在しない)

東京大学が医学部研究不正疑惑論文に関する調査報告書を国民に開示しないのは妥当(総務省審査会第5部会の判断)


東大における研究倫理の存在の耐え難い軽さ(というか、存在しない)

2016年の8月にOrdinary_Researchersが告発した東大の論文不正疑惑では、エラーバーを棒グラフの内部に押し込むなど同じような手口が、医学系、理学系のラボからの論文で見られました。

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グラフが手作業で適当にでっちあげられているのを見て、自分はゾッとしました。見てはいけない犯行現場を目撃してしまったような嫌な気分にさせられたのです。これ以上の不正の証拠はないだろうと思いました。

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ところが非常に驚いたことに、理学系では研究不正が認定されラボがお取り潰しになったのに対して、医学系に関しては不正無しの一言で片づけられてしまいました。それどころか、このような論文作成作法が「通常」だと東大がのたまったのです(22報論文調査報告 17~21ページ)。それが本当なら、東大医学部から出る論文は誰からも信用されなくなりますから、東大執行部によるこのようなステートメントは、東大の評判を落とし、東大の名誉を著しく傷つけると思います。

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東大医学部の不正疑惑論文に関しては、本当にすべての図に関して実験がなされていたのでしょうか?エラーバーを棒グラフの裏に手作業で押し込んでいた論文の図に該当する生データで、有意差は出るのでしょうか?東大にはそれを納税者や研究コミュニティに対して説明する義務があります。もちろん、すべての図に関して個別に!

分生研の不正だけやけに詳細に報告し、医学部のほうは情報がほぼなかったので医学部のほうは調査すらしなかったのかなと当初思いました。しかし、答申にある文書名から察する限り、医学部でも調査は行われていたようです。外部の研究者が調査委員として加わり、科学者としての良心と常識に基づいて調査したのでしょうから、第三者が研究不正の有無を判断する上で十分な情報量が調査資料にあるのではないかと思われます。

「22報論文に関する調査報告書」および、医学部保有の「調査班会議資料」、「部局調査結果報告書」、「個別の論文説明資料(1214頁)」、「ヒアリング反訳資料(291頁)」を公表して、科学コミュニティの判断を仰ぐのは東大執行部の責務でしょう。そもそも国民の知る権利は法的に保障されており、公開しない理由がないのです。

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東大では生データと発表データが食い違うのがほとんどらしいので(22報論文報告書 14ページ)、調査の生データともいうべき「個別の論文説明資料(1214頁)」と「ヒアリング反訳資料(291頁)」を吟味する必要がありそうです。みなさん、是非、東大に資料の開示請求をしてみてください。

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さて、東大がなぜ調査内容を国民や研究者コミュニティに対して公開できないのかが謎なのですが、東京大学理事の中には科学者だけでなく弁護士もいますから、調査報告書を隠すことの違法性を承知しているはずです。法を犯してまで隠さなければいけないことって一体何なのでしょう?まさかとは思いますが、デタラメな論文業績(註:東大の報告書いわく、ほとんどの場合において、オリジナルデータすなわち実験で得られた測定値≠論文のグラフが表す数値)に基づいてAMEDや文科省から何十億円もの研究助成を受け取っている現状を現東大理事たちが積極的に守ろうとしているのだとすれば、かなりたちが悪いと言わざるを得ません。文科省やAMED、厚労省がこれを黙認しているのも、国民に対する裏切り行為だと思います。

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アメリカでは研究不正を隠蔽した大学が訴えられたというケースもあります。

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医学部の研究室では棒グラフのエラーバーを手でいじるのが「通常」だとしたら、そんな環境にあって、まともに実験して結果を出そうと努力している多くの研究者や大学院生がハラスメントの被害に合う危険が大きいのではないですか?

情報を隠蔽することにより、研究や教育に極めて不適切な環境を積極的に維持しようと努めている(ように自分には見える)現東大執行部の責任は重大だと考えます。

 

Ordinary_Researchersの告発文を今読み返すと、非常に切迫感があります。

常習性、頻度、公正性、論文の与える影響の深刻さ等を鑑みれば、もはや看過すべきではないという結論に至った。ここで告発するのは、発見したもののごく一部に過ぎないことも申し添えておく。 … あらぬ疑いをかけられている研究室の潔白を証明する良い機会になるか、それとも膿を出すことになるか、どちらにしても東京大学にとってのみならず、日本の生命科学研究にとって良い方向へと進むきっかけになるはずである。(2016年8月14日 Ordinary_researchers 告発文1PDF

しかし、Ordinary_researchersの思惑とは裏腹に、期待されたどちらにもならず、東大が臭いものにフタをしてしまっただけでした。東大のこの行動によって、日本の研究倫理を高める努力が大きくくじかれたのではないでしょうか。

 

日本では、相変わらず研究力の低下が叫ばれる状態が続いており、日本の生命医科学研究は何一つ良い方向へ向かっていないように思います。

研究倫理や研究不正に関する概念は徹底的に破壊され、自分の頭の中の辞書は書き換えを余儀なくされました。

【え】

エラーバー【error bar】平均値を表す棒グラフなどにおいて、標準誤差や標準偏差などを示した線分のこと。通常は、統計処理ソフトで自動的に計算・描画が行なわれる。例外的に、東京大学医学部においてはエラーバーの作成は手作業で行なわれるのが通常である。

【お】

オリジナルデータ【original data】論文の図表のもととなる、観察や測定によって得られた数値や、画像などの生データ。通常は論文の数値と一致するが、東大医においてはほとんど一致しない。

【け】

けんきゅうふせい【研究不正】①実験ノートが存在しないこと、または、実験ノートが提出できないこと。〔東大・医〕定義されない。

【つ】

つうじょう【通常】①普通のことが行なわれているさま。〔東大〕異常なことが行なわれているさま。

【と】

とうだいいがくぶ【東大医学部】(東大の発表に基づき)以下に述べる5個の性質を持つ実体を「東大医学部」と定義する。
1)研究室から発表された論文の図に示されるデータと、オリジナルデータ(実験で得られる生データ)とはほとんど一致しないこと。(そのような論文を出すラボが組織内に存在すること)
2)論文の図作成にあたり、数値データをグラフにする際に、まずマイクロソフトエクセルを用いてグラフを描くこと。
3)エクセルで描いたグラフは、必ずコピペによりマイクロソフトパワーポイント(パワポ)やアドビイラストレーター(イラレ)など別のアプリケーション上に移し変えること。
4)パワポやイラレ上に移されたグラフはそのまま論文の図に使用することはせず、かならず、X軸、Y軸、棒グラフ、エラーバーを手作業でなぞる(トレース)ことにより、手書きのグラフとすること。このとき、オリジナルデータとの一致を消失せしめること。
5)論文の図で示された値がオリジナルデータとどれほど一致していなくても、不正調査委員会、大学執行部、研究資金配分機関、監督省庁からは研究不正と認定されないこと。

【ふ】

ふせいこういはない【不正行為はない】不正行為がない場合には、不正疑惑に関する調査報告を公表しなくてよいという時代錯誤な規則を逆手にとって、不正行為を揉み消したい大学が使う言葉。「調査結果の概要(医学系研究科関係)(結論)申立のあった5名について不正行為はない」

(『現代ラボ用語の基礎知識』より)

 

WORDS WITHOUT DEEDS

東京大学の科学研究における行動規範

1 科学研究は、人類の幸福と社会の発展のために欠くべからざる活動である。科学研究の成果は公開されることにより研究者相互の厳密な評価と批判にさらされ、それに耐え抜いた知識が人類共有の財産として蓄積され活用される。科学研究に携わる者は、この仕組みのもとで人類社会に貢献する責務を負っており、またそれを誇りとしている。この科学者コミュニティの一員として、研究活動について透明性と説明性を自律的に保証することに、高い倫理観をもって努めることは当然である。
2 科学研究における不正行為は、こうした研究者の基本的な行動規準に真っ向から反するものである。のみならず、研究者の活動の場である大学に対する社会の信頼をいちじるしく損ない、ひいては科学の発展を阻害する危険をもたらす。それは、科学研究の本質そのものを否定し、その基盤を脅かす、人類に対する重大な背信行為である。それゆえ、科学研究を行うにあたっては、捏造、改ざん、盗用を行わないことはもとより、広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために、その科学的根拠を透明にしなければならない。科学研究に携わる者は、実験・観測等の実施者、共同研究者、研究グループの責任者など立場のいかんを問わず、説明責任を果たすための具体的な措置をとらなければならない。
3 科学研究に携わる者の責任は、負託された研究費の適正使用の観点からも重要である。大学における科学研究を有形無形に支える無数の人々に思いをいたし、十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは、研究活動の当然の前提であり、それなしには研究の自由はあり得ない。その責任を果たすことによってこそ、東京大学において科学研究に携わる者としての基本的な資格を備えることができる。

行動規範及び規則制定にあたっての総長声明

科学研究は、人類が未踏の領域に挑戦して知の拡大をはかり、その成果を人類全体が共有して社会に還元することを目的とする活動である。科学研究において研究者は、科学的手法を用いた研究によって得られた知識を学術論文として公知のものとし、人類共有の資産として蓄積していく。それらの知識は、客観性や実証性に裏付けられたものであり、同時代もしくは後代の研究者による追試や評価を可能とするものであるがゆえに、その科学的根拠を科学者コミュニティが自ら保証するものである。近代科学の歴史の中で人類が築いて来たこの科学研究の作法にしたがって行動することは、研究者の活動の自明の前提であり、現代においても研究者の基本的な行動規準である。また、今日のように、科学研究が細分化し専門化する状況の中においては、研究者がこうした行動規準を確実に遵守していることを、より積極的に社会に説明することが求められる。東京大学は大学憲章において研究の説明責任の重要さを掲げており、東京大学において科学研究に携わる者はそれを当然の原理としてきている。しかしながら近時、この自明のはずの研究作法が遵守されていないのではないかという疑いをよぶ事態が生じていることは、まことに遺憾であると言わなければならない。大学は、科学研究を行うとともにそれを次世代に伝えるという教育機関としての責務を負っており、研究にあたっての行動規準は学問の自由と一体のものとして、きわめて厳格に遵守されなければならない。この規準に対する違反は大学の存立の根幹を脅かす重大な行為であり、大学がそうした違反を防止するための自律的な取組みを責任をもって行うことは、大学の自治の一部である。そこで、このたび、東京大学として、科学研究の基本的な作法を行動規範として再確認するとともに、この行動規範を大学が自ら担保するための委員会制度を規則として定めることとした。こうした行動規範は、東京大学で科学研究に携わる者すべてが当然に血肉化しているはずのものであるが、万一の違反行為に対していっそう厳正かつ確実な対応が行われるようにすることが、あえてここに明文化することの目的である。今後、研究費の獲得をめぐる競争が激しくなる中でも、科学研究の原点に対する意識をたえず喚起し、研究者が相互に忌憚なく論じ合える風通しのよい研究環境を整えることによって、東京大学における科学研究の質をさらに高めていくことに努めたいと考えている。

(引用元:PDF 東京大学)*太字強調は当サイト

上の東大の声明は平成18年3月のもので、非常に力強い言葉です。残念ながらこの決意を今の東大執行部が反故にしてしまったようです。行動が伴わない言葉に、どれほどの意味があるというのでしょうか?

 

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

東京大学が医学部研究不正疑惑論文に関する調査報告書を国民に開示しないのは違法

法律の専門家ら(総務省の審査部会)によれば、東大現執行部が不正調査資料の公開を拒んでいるのは理由に正当性がなく違法だとのことです。結論の部分だけ先に紹介。

22報論文に関する調査報告書」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。((独情)056 総務省 PDF

別紙に掲げる4文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。
別紙(本件対象文書)
文書1 調査班会議資料
文書2 部局調査結果報告書
文書3 個別の論文説明資料
文書4 ヒアリング反訳資料
((独情)059 総務省 PDF

平成28年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。((独情)057 総務省 PDF)

平成29年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。((独情)058 総務省 PDF)

以下、総務省のウェブサイトで公開されている答申(PDF)の内容を転載します。それぞれの大見出しは当サイトがつけたものです。なお、文書内の「一部開示」というのは言葉が紛らわしいですが、大部分を墨塗りにしてどうでもいい部分だけを部分的に開示したり、複数の資料があった中のどうでもよい資料のごく一部だけを開示したりしていることであり、実質的には全面的な不開示の様相です。

 

東京大学が公文書『医学部研究不正疑惑に関する「22報論文に関する調査報告書」』を国民に開示しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第37号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第56号)
事件名:22報論文に関する調査報告書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

「22報論文に関する調査報告書」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

(1)不開示とした理由には根拠や正当性がない

過去の会議の日時を公開することは,会議の開催頻度を公開することになり事業遂行に支障があるというが,会議の開催頻度は目的やそのときどきの状況により異なるのが通常であろうから,今回の不正調査の会議の日時を公開したからといって,それが今後の不正調査等の会議開催頻度においてなんらかの縛りを与えるものにはならず,支障があるとは考えられない。

調査委員会の構成員名を公にすると,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるというが,これは理屈が全く逆である。意思決定の中立性を保証するためには,構成員名を公にすべきである。支障をきたす場合があるとすれば,それは委員の構成に中立性がなかった場合のみであるから,この部分を開示できないというのは,そのような疑念を生じさせる。この疑念を払拭させるためには,開示する必要がある。

審議,検討又は協議に関する情報を開示すると,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある,というのも論理が逆になっていて,不開示の根拠にならない。調査書の目的の一つは,調査が公正に行われたことを示すことである。第三者の研究者からみてデータ捏造としか考えられないような多数の図表がなぜ不正と認定されなかったのか,どのような審議,検討がなされた結果そうなったのかを明らかにしない限り,不正なしという意思決定が中立性のもとに下されたかどうかの疑念が払拭されない。

内容確認に係る事務に関する情報を開示すると,当該事務及び事業の適正な遂行に支障があるおそれ,という理由も理由になっていない。内容確認の意味が不明であるが,これが研究不正を疑われた論文著者らの釈明や実験データの存在の有無などの内容を指すのであれば,むしろ開示することにより,内容確認が適正に遂行されたかどうかを明らかにできるはずである。

研究に関する情報を開示するとその公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるという理由は,まったくもってナンセンスである。研究者が論文発表を行う場合には,どのようにして実験データが得られて,どのようなデータ処理によって論文の図表を作成したかの記述は論文の中に含めるのが通常である。研究者が不正に手を染めずにまっとうに研究をしているかぎり,論文作成にいたるプロセスの全てを公開することになんの支障もないのが,普通の研究者の感覚である。論文著者が実験ノートの片隅に殴り書きしたようなその場限りの思いつきといったものならいざしらず,このような大学の公式な最終報告書に記載された研究に関する情報が開示できない理由はない。

(2)不開示の決定は東大の行動規範に反する

「東京大学の科学研究における行動規範」には研究者の責務として,「研究活動について透明性と説明性を自律的に保証する」,「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために,その科学的根拠を透明にしなければならない」,「十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは,研究活動の当然の前提」といった文言が並んでいるが,不正の疑いが研究者の目からみて非常に濃いにもかかわらず調査報告書を不開示とするのは,科学者コミュニティによる評価や批判を不可能にしており,不正であるとする科学的根拠が不透明なものになっている。

不正の疑義がなぜ晴れるのかの説明を公表しないということは,これらの疑惑論文の研究成果の客観性が保証されていないということである。そのような疑惑に満ちた論文業績に基づいてこれらの論文著者らが数億円規模の研究費(=税金)を獲得しているのは,到底許容されない。

(3)不開示の決定は文科省のガイドラインに反する

論文の図に疑問がある場合に,論文読者が論文筆者に質問したり,議論したりすることは,科学者,研究者の間ではごく普通のことであり,疑義を呈された図に関してどのような過程で図が作成されたのかを説明することは,著者や研究機関の誰にとっても,何の不利益も生じ得ない。わざわざ隠す理由などどこにもない。

科学コミュニケーションを著しく阻害する東大執行部の行為は,東大自身の規範及び文科省が示す「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」の文言「研究者間相互の吟味・批判によって成り立つチェックシステムが不可欠である。」という精神に真っ向から対立するものであり,到底許されざることである。

(4)理学系と医学系における研究倫理にダブルスタンダードを持ち込んでいる

分生研の論文も同時に告発されているが,告発内容は同程度もしくは量,質においてそれ以上の悪質性があると見受けられる。それにもかかわらず,分生研の論文のみに不正を認め,医学系論文にはまったく不正行為がなかったという判断は,信じがたく,もし東大がそう主張したいのであれば,通常の研究者に対して信じるに足る説明を行う責任がある。そうでなければ,東大執行部が医学部の不正隠蔽を目的に,不開示の権限を乱用しているとしか考えられない。

(5)納税者への説明責任をまったく果たしていない

東大は,年間1000億円近い研究費,交付金を得ており,この巨額な資金が東大の研究者によって適正に使われていることを納税者に対する説明責任がある。研究不正の疑義に関する調査報告書を公開しないということは,この説明責任を放棄する行為である。

(6)発表論文は公開されており報告書で非公開とする理由がない

学術誌に掲載された論文は,著者名や所属が明記されており,これらは公開されている以上,個人情報の保護対象にする理由がない。不正疑惑を指摘された論文リスト及び告発内容も,特定ニュースの複数の記事のリンクから閲覧可能であり,事実上,公開されている。よって,論文リストや告発内容の部分を不開示とする理由もない。研究者コミュニティにおいては,実験結果や実験方法に関して読者が疑問を持てば,論文著者らに対して気軽に質問し回答を得るという文化が定着している。このような研究者間のコミュニケーションの常識に照らせば,不正が疑われるような図表の作成がどのように行われたのかの調査結果を公開することは,研究者コミュニティ内の通常の活動の範疇でしかなく,なんら著者や所属機関に不利益をもたらすものではない。仮に不利益が生じるとすれば,それは不開示により隠蔽されていたデータ捏造が露呈する場合のみであろう。

(7)不開示は公共の利益を著しく損なう

このような調査報告書の不開示がまかりとおるなら,東大医学部においてはデータ捏造がやり放題であり,それで特定雑誌等の一流誌に論文を掲載して,その業績により何億円もの研究費を獲得するということがまかり通ることになってしまう。このような行為は,日本の科学研究の進展を著しく阻害するものであり,また,特に医学部でこのような不正活動が放任されるのであれば,本来は病気や患者のための医科学研究であるべきであるのに,患者の期待に対する重大な裏切り行為でもある。

東大が公開されて当然の最終報告書を不公開にしたこと,論文著者らが告発後,反論も訂正も論文撤回もせずに1年以上沈黙していることなどを考えれば,これらが単なる図表の取扱いミスであったと考える合理性はほとんどなく,これらの状況に対するもっとも合理的な説明(仮説)は,重大な不正行為があったとするものである。東大はこの仮説を反証する証拠(今回不開示とされたすべての資料)を公開して,私の仮説が間違っていたことを証明していただきたい。研究不正を隠蔽する工作自体も,新たな研究不正であることから,不開示を認めてしまうと組織的な不正を阻止する手段が完全に失われてしまうことになり,反社会的で公益に反するこのような隠蔽行為を認める訳にはいかない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,「22報論文に関する調査報告書」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,22報論文に関する調査報告書については,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該委員会の開催日時については,本学として当該委員会をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)当該委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。
これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「肝心な部分が全部黒塗りでは,実質的に全面的な不開示と変わらない。全面的な開示,最低でも研究(疑惑の論文の図の説明)に関する記述は全て公開すべきである。」と主張し,「今回の不正調査の会議の日時を公開したからといって,それが今後の不正調査等の会議開催頻度においてなんらかの縛りを与えるものにはならず,支障があるとは考えられない。調査委員会構成員を公表できないというのは,それは委員の構成に中立性がなかった場合のみであり,この疑念を払拭させるには開示する必要がある。審議,検討に関する情報は,どのような審議,検討がなされた結果そうなったのかを明らかにしない限り,不正なしという意思決定が中立性のもとに下されたかどうかの疑念が払拭されない。内容確認に係る事務についても,むしろ開示することにより内容確認が適正に遂行されたかどうか明らかにできるはずである。研究に関する情報についても,大学として公式な最終報告書に記載された研究に関する情報が開示できない理由はない。」不開示の決定は,東大の科学研究における行動規範に反している,不開示の決定は文科省のガイドラインに反する,理学系と医学系における研究倫理にダブルスタンダードを持ち込んでいる,納税者への説明責任をまったく果たしていない,発表論文は公開されており,報告書で非公開とする理由がない,不開示は公共の利益を著しく損なう。」等と主張している。

しかしながら,22報論文に関する調査報告書は,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日や当該委員会委員長・部局内調査班班長以外の委員名・構成員についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施されなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識としている。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものである。処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条3号並びに4号柱書き,
ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示として十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該調査委員会の開催日時については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②当該調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班
班長以外の構成員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障をおよぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するとして不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし③の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」に該当するものと抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のどのような審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該各不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。そして,当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。また,上記(2)①の理由で不開示とした部分は,不開示とされた情報の内容が「当該委員会の開催日時」と具体的に示されており,一部推測できる部分もあるが,具体的な不開示部分の特定がされていないことから,上記(2)①又は③のいずれの不開示部分に該当するのか正確に把握できない部分もあり,必ずしも明らかにされているとはいえない。なお,上記(2)②の理由で不開示とした部分は,「当該委員会委員長名及び部局内調査班班長以外の構成員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容
及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(4)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部等には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(5)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

 

東京大学が公文書「医学部の部局調査結果報告書等」を国民に公開しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第40号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第59号)
事件名:大学院医学系研究科・医学部が保有する部局調査結果報告書等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

別紙に掲げる4文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58号の4号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

研究に関する情報を不開示にする理由として,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるとしているが,これには根拠がない。なぜなら,論文のデータに疑問が生じたときに,論文読者である研究者が論文著者に連絡をとって質問し,回答を得るという行為は通常研究者コミュニティにおいて当たり前のように行われている行為であって,何らかの支障を生じる恐れは全くないからである。

今回の研究不正告発により,一般の研究者の常識からは理解できないような不適切な論文図表の数々が指摘されたわけであるから,著者からの聞き取り調査の資料を全面的に公開するのは,通常行われている科学コミュニケーションの範疇でしかなく,不開示とする理由にはなり得ない。科学者同士のコミュニケーションを阻害する不開示は,「東京大学の科学研究における行動規範」にある文言,「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために,その科学的根拠を透明にしなければならない」にも反している。このような言行不一致は断じて許されない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,医学系研究科の「調査班会議資料」,「部局調査結果報告書」,「個別の論文説明資料」及び「ヒアリング反訳資料」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,本件対象文書は,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該会議の開催日時・回数・場所については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)当該会議資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

(4)個別の論文説明資料,ヒアリング反訳資料については,上述と同様な理由により不開示とする。

(5)調査結果報告書のうち,上述に該当する部分については同様な理由により不開示とする。

(6)個人名その他個人を識別できる情報であって,法第5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「一連の法人文書開示を求める最大の理由は,理学系論文と医学系論文が別々の調査委員会によって調査され,研究者の目からすれば同じような悪質なデータ捏造の疑いがあるにもかかわらず,理学系論文が厳格に不正認定されたのに対して,医学系論文の不正が一切認定されなかったいきさつを明らかにするためである。医学系論文に関して個別の説明がなく,告発された図の不適切さをパターンごとに整理して,個別には不正の度合いを明らかでなくしている。「部局調査報告書」にある「Ⅱ.各論文に対する部局内調査の結果」というセクションの開示は絶対に必要である。また,同様の理由により「個別の論文説明資料」及び「ヒアリング反訳資料」の中の,研究に関する一切の部分の開示も求める。研究に関する情報を不開示にする理由として,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるとしているが,論文のデータに疑問が生じたときに,論文読者である研究者が論文著者に連絡をとって質問し,回答を得るという行為は通常研究者コミュニティにおいて当たり前であり,何らかの支障が生じる恐れは全くないからである。著者からの聞き取り調査資料を全面的に公開するのは,通常行われている科学コミュニティの範疇でしかなく,不開示とする理由にはなり得ない。「東京大学の科学研究における行動規範」にある「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするためには,その科学的根拠を透明にしなければならない」にも反しており,このような言行不一致は断じて許されない」等と主張している。

しかしながら,部局調査班会議資料については,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日時や当該委員会委員長以外の委員名についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。また,「個別の論文説明資料」については,研究者一個人の研究ノートや生データの根拠を記載した私的メモであり,研究者の公正かつ能率的な研究の遂行を不当に阻害するおそれがあるとともに,本資料は研究不正の調査のために本学が提供を受けて大学として保有しているものであり,この種の資料を開示すると今後の調査に支障を及ぼすため,開示することはできない。ヒアリング反訳資料については,プライバシー遵守を前提に,今回の調査の目的のみにヒアリングを実施しており,ヒアリング内容が公開されてしまうと今後同種の調査において関係者が申告を拒んだり,真実を申告することを回避する等の事態を誘発するおそれがあるとともに,かかる情報の開示は,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれもあるため開示できない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施しなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。

以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考えている。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれかに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示としては十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該会議の開催日時・回数・場所については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③当該会議資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

④個別の論文説明資料(1214枚1214頁),ヒアリング反訳資料(291枚291頁)については,上述と同様な理由により不開示とする。

⑤調査結果報告書のうち,上述に該当する部分については同様な意
見により不開示とする。

⑥個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし⑥の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,当該会議資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に係る事務に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」と抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。

また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のいかなる審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。

例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該各不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。

(4)次に,上記(2)④の理由については,文書3及び文書4の名称が記載されているものの,不開示部分の理由が「上述と同様な理由」としか記載されておらず,どのような情報が,どの理由で不開示とされたのか何ら説明されておらず,文書3及び文書4の全てが上記(2)①ないし③の理由全てに該当するのか,一部がいずれかの理由に該当し,結果として全部が不開示となったのかも不明である。

(5)さらに,上記(2)⑤の理由で不開示とした部分は,調査結果報告書のうち,「上述に該当する部分」としか記載されておらず,不開示とされた部分も,そこに記載された情報の内容も,上記(2)の①ないし③のいずれの理由に該当するのかも説明されていない。

(6)そして,上記(2)⑥の理由で不開示とした部分は,具体的な不開示部分の特定はされておらず,頁単位での特定もされていない上,「個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないもの」としか記載されておらず,本件対象文書にどのような情報が記載されているか不明である。

(7)当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③ないし⑥の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③ないし⑥の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。なお,上記(2)①及び②の理由で不開示とした部分は,「当該会議の開催日時・回数・場所」,「調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③ないし⑤に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(8)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(9)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

別紙(本件対象文書)

文書1 調査班会議資料
文書2 部局調査結果報告書
文書3 個別の論文説明資料
文書4 ヒアリング反訳資料

 

東京大学が公文書「平成28年度科学研究行動規範委員会資料」を国民に開示しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第38号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第57号)
事件名:平成28年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

「平成28年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58の2号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

22報論文の研究不正を告発した申立書は,東大が不正調査を適切に行ったかどうかを判断する上で重要である。発表論文には著者名や図表作成の方法などが公開されており,論文データに関する疑問は特定ウェブサイトや学術誌の論文掲載ウェブページなどインターネット上で活発に議論されることが普通である。告発内容を公表したからといって,研究の遂行が阻害されることはないし,その他,理由として挙げられたどの項目にも当てはまるものではない。告発内容は,特定ニュースなどの複数の記事で詳細に解説されており,リンクをたどれば告発文書そのものも閲覧できる状態にある。このようにほとんど公開されている告発内容を不開示にしないと業務に支障をきたすということは考えにくく,不開示の理由にならない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,「平成28年度 科学研究行動規範委員会資料」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,当該委員会資料は,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該委員会の開催日時については,本学として当該委員会をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「22報論文の研究不正を申告した申立書は,東大が不正調査を適切に行ったかどうかを判断する上で重要である。発表論文には著者名や図表作成の方法などが公開されており,論文データに関する疑問は特定ウェブサイトや学術誌の論文掲載ウェブページなどインターネット上で活発に議論されることが普通である。告発内容を公表したからといって,研究の遂行が阻害されることはないし,その他,理由として挙げられたどの項目にも当てはまるものではない。告発内容は,特定ニュースなどの複数の記事で詳細に解説されており,リンクをたどれば告発文書そのものも閲覧できる状態にある。このようにほとんど公開されている告発内容を不開示にしないと業務に支障をきたすということは考えにくく,不開示
の理由にはならない。」等と主張している。

しかしながら,告発内容のわかる文書を本学として公表していることはなく,その内容についても,関係部局や研究者等に確認するためにも最初の科学研究行動規範委員会の資料としていたところである。告発文書並び予備調査結果文書については,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その構成かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日時や当該委員会委員長以外の委員名についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施しなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。

以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものである。処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条3号並びに4号柱書き,
ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対し,審査請求人は原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれかに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示としては十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該委員会の開催日時については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし③の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に係る事務に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」と抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のどのような審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。

例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該各不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。そして,当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。なお,上記(2)①及び②の理由で不開示とした部分は,「当該委員会の開催日時」,「当該委員会委員長以外の委員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(4)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(5)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

 

東京大学が公文書「平成29年度科学研究行動規範委員会資料」を国民に開示しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第39号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第58号)
事件名:平成29年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

「平成29年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58号の3号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

「22報論文に関する調査報告書」において裁定が導かれる過程は,論理的に矛盾している。論文の図のデータは実験で得られた数値とはほとんど異なります。でも不正ではありません。という非倫理的な裁定がどのような経緯で下されたのかを知るためには,この資料の開示が不可欠である。年間数百億円もの科学研究助成を受けている東京大学が,このような支離滅裂な物言いで不正なしの結論だけを発表するのは,あまりにも無責任すぎる。納税者や他の研究者が納得できる公正な議論が行われた証拠として,この文書を開示すべきである。不開示の理由として,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとしているが,これは,全く逆の話であり,このような支離滅裂な裁定を何の説明もなしに公表したということは,意思決定の中立性が危ぶまれる状況なのであり,不開示の理由として適切ではない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,「平成29年度 科学研究行動規範委員会資料」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,当該委員会資料は,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該委員会の開催日時については,本学として当該委員会をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

(4)個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「文書には,研究不正の有無を裁定したときの資料が含まれているが,医学系研究科の不正疑惑論文に関して,「22報論文に関する調査報告書」の黒塗りされていない部分によれば,論文の図のデータと実験の生データ(オリジナルデータ)はほとんど一致しなかったにもかかわらず,不正なしという裁定が下された。これは研究者の常識に反する,極めて奇異な裁定であって,東京大学執行部が医学系研究科の研究不正を隠蔽しようとしているのではないかという疑念を生じさせるものである。この疑念を晴らすためには,どのようにしてこのような裁定が下されたのか,そのいきさつを東大が公開する責任がある。不開示の理由として,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとしているが,これは全く逆の話であり,このような支離滅裂な裁定を何の説明もなしに公表したということは,意思決定の中立性が危ぶまれる状況なので,不開示の理由として適切ではない。」等と主張している。

しかしながら,裁定については,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日時や当該委員会委員長以外の委員名についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施しなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。

以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれかに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示としては十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該委員会の開催日時については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれ
るおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

④個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし④の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に係る事務に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」と抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のどのような審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。

例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。

そして,当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。また,上記(2)④の理由で不開示とした部分は,「個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないもの」としか記載されておらず,本件対象文書にどのような情報が記載されているか不明であり,また,具体的な不開示部分の特定がされていないことから,上記(2)③又は④のいずれの不開示部分に該当するのか明らかではない。なお,上記(2)①及び②の理由で不開示とした部分は,「当該委員会の開催日時」,「当該委員会委員長以外の委員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(4)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(5)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

 

参考

  1. 事件名:22報論文に関する調査報告書の一部開示決定に関する件
  2. 事件名:大学院医学系研究科・医学部が保有する部局調査結果報告書等の一部開示決定に関する件
  3. 事件名:平成28年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件
  4. 事件名:平成29年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件
  5. 情報公開(独立行政法人等)令和元年度答申 051~(総務省)
  6. 22報論文に関する調査報告書」(一部不開示)
  7. 総務省 情報公開・個人情報保護審査会 委員名簿

 

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東大H26行動規範委員会資料不開示問題の答申

匿名A氏が指摘した類似画像を含む84報のうち東大の医学系研究者が著者であった12報に関して東大が予備調査の結果不正無しと結論したことに関して情報の開示請求がありましたが、東大が一部不開示の決定をしたため、それを不服とする開示請求者が審査請求を行い、それを受けて審査会が審査を行い、その結果を答申として公開していました。以下、その内容です。東大が不開示としたのは違法であると結論しています。

以下、http://www.soumu.go.jp/main_content/000506048.pdf の内容の転載。太字強調は当サイト。


 

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成29年6月8日(平成29年(独情)諮問第31号)
答申日:平成29年9月6日(平成29年度(独情)答申第24号)
事件名:平成26年度科学研究行動規範委員会資料等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論
別紙に掲げる文書1ないし文書5(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,理由の提示に不備がある
違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成29年2月8日付け第2
016-45号により国立大学法人東京大学(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,原処分を取り消し,出席者を除く不開示部分(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求める。

2 審査請求の理由

(1)審査請求書
不開示とされた各議事などについて,調査・事案処理の方法・方針,委員の発言内容に係る記載は,調査委員会での審議が適切に行われたか知る上で必要な情報である。開示された各議事はほぼ全てが黒塗りされており,ひとつひとつの論文について十分に審議されたか否かが,現状の開示資料では推測することすら困難である。これでは審議内容が適切か否かを判断することができず,かえって疑念を抱かせる原因となる。「東京大学の科学研究における行動規範」にあるように研究不正は,「科学研究の本質そのものを否定し,その基盤を脅かす,人類に対する重大な背信行為」である。奇しくも ,現在,同じ研究者に対する研究不正の告発が行われており,過去の調査が適切に行われたかどうかを示すことは,研究不正に貴大学がどのような姿勢で臨んできたのかを示すことにもつながる。同じ行動規範には,「科学者コミュニティの一員として,研究活動について透明性と説明性を自律的に保証することに,高い倫理観をもって努めることは当然である」と明記され,それに続く総長声明では「この行動規範を大学自ら担保するための委員会制度を規則として定めることにした」と委員会の位置づけを説明している。こうした規範や総長声明の理念を守り,調査の審議過程及び内容の適切さを担保するためにも,貴大学には当該資料を開示して調査が適正に行われたことを示す責務がある。
発言者の特定をしなければ,審議内容を情報開示することにより,特定の者に不当に利益を与え,または不利益を及ぼすとは到底考えられない。また,個人が特定されなければ,人事に支障を及ぼすおそれもない。仮に,社会の公器としての貴大学が,原則として開示すべき資料を,例外的に不開示とするためにこのような主張を行うならば,具体的な根拠を示して主張する必要がある。そうでなければ,この主張自体が極めて不合理であり,世間から疑惑の目で見られることを,自ら容認することになろう。そのような姿勢は上記行動規範に反するものである。貴大学として,発言者が特定されないとしても,将来予定される審議において委員の意見等が公表されることを前提にすると,委員が部外の評価等を意識して素直な意見を述べることを控えるなど,意思決定の中立性や独立性が不当に損なわれるおそれがあると主張されるかもしれない。しかし,発言者が特定されないのであれば,委員の意見等が公表されたとしても素直な意見を控えるとは到底考えられない。もし意思決定の中立性や独立性が不当に損なわれるなどと主張するのであれば,発言者が特定されないにもかかわらず,素直な意見を述べることができないような調査委員を選任することを前提としており,専門家としての各調査委員を愚弄するのみならず,調査委員会の適正さそのものに疑義を生じさせる主張と言わざるを得ない。一連の資料の開示を拒むことは,研究不正を真摯に取り扱おうとする姿勢に真っ向から反するものである。さらに審議が終わった研究不正調査に関する議事の公開は,将来他の研究不正事案を審議する場合の参考となりうるものであり,貴大学の対応は,社会的に評価されるものではあれ,非難されることはありえない。なお,調査対象者については対象となった論文が公開されていることから,少なくとも責任著者と筆頭著者については対象となることが明らかなため,ヒアリングなどの議事録を含め公開すべきと考える。その他の調査対象者について個人名などは不開示でも構わない。
既に審議が終わり調査の結論は貴大学のホームページでも公開されている。そのため,議事内容が公開されることで本件の事務や事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはない。また,同じ理由から,たとえ,審議のある時点で生じた,未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報を公にしたとしても,その後,結論に至った過程を合わせて公開すれば新たに混乱を生じさせるおそれもない。加えて,結論が「不正なし」というものであるため,公開することで当該研究者の今後の研究活動にも影響を与えるおそれもない
将来に行われる類似の審議・検討・協議に係る意思決定に不当に影響を与えるおそれについては,研究不正事案というものは,事案ごとにその内容や性質が異なるものである。それぞれ個別に審議されるものであり,その都度適切に審議されることで問題は生じない。これは,本件と同じ研究者が対象となり,現在行われている研究不正調査への影響についても同様である。また,審議,検討の内容を公にすることにより,調査にあたっての考え方,主張等が明らかになり,今後の同種の調査にあたり,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は不当な行為を容易にするおそれがあるという主張についても,同様に事案ごとに内容や性質が異なるため懸念は当たらない。逆に「何が不正に当たるのか」といった考え方などはむしろ公開することで不正の防止につながる情報で,これらを不開示の理由とすることは調査の正当性に疑念を抱かせるだけでなく,研究機関として不正に真撃に対応できているのか,その姿勢を問われかねない事態にもつながると考える。
独立行政法人は,原則として保有する情報を公開しなければならず,不開示はあくまで例外規定である。個別具体的な事情なく漫然と不開示とするのであれば,世間に対し,情報公開をする気がない大学であることを表明するに等しい。また,調査方針・手法自体は,調査委員会の判断の公正さを担保するために開示は必須であると考えられるのみならず,開示を拒むことは,逆に調査委員会の判断に対する疑義を生じさせるものであり,不開示とすることによりあたかも不正があったかのように流布されるおそれもある。現実に,一部マスコミ報道やインターネット上では本件論文の研究者に対する記事が多数掲載されており,研究者個人のみならず大学にとっても不利益が生じる事態につながっている。なお,調査過程の開示は,例えば貴大学の「分子細胞生物学研究所・旧特定研究室における論文不正に関する調査報告書(第一次)」の資料「不正な図の例」においても行われている。特定URL調査が適正に行われていることが示されており,こうした開示によって他の不正調査に悪影響が出る問題も生じていない
貴大学として,不正がなかったと認定されたにもかかわらず,議事内容が公表されることで,再び,当該調査事案が注目され,公表された一部の情報だけをもって新たに誹誘中傷が行われる可能性があるとの主張を行う可能性もある。しかしながら,そもそも本件調査事案は,同じ研究者が新たに告発を受けたことで ,現在,非常に注目されており,過去の調査内容が公表されたからといって「再び」注目されるという状況にはない。加えて,新たに誹誘中傷が繰り広げられるというのも,憶測の域を出ず,研究不正を厳に取り締まる立場にある貴大学が,法的に公表が原則となっている情報を不開示にする理由としては著しく正義に反するものである。
以上,アからカで述べた通り,貴大学が示した見解は,いずれも資料の中の個人名以外を不開示とする理由には該当しない。各議事は不正行為か否かの判定が適切に行われたかどうかを知る上で必要な情報である。議事などの資料を公開して当該委員会が研究不正事案に真摯に取り組んだ事を示し,結論に対する信頼を得ることは,上記行動規範や規則を制定した貴大学の責務である。発言者の個人が特定できる氏名等は伏せて,資料を公開すべきである。

(2)意見書
審査請求人から平成29年7月10日付け(同月11日受付)で意見書が当審査会宛てに提出された(諮問庁の閲覧に供することは適当でない旨の意見が提出されており,その内容は記載しない。)。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について
本件対象文書は「「インターネット上で指摘のあった論文の画像データに係る調査結果について」として調査結果が平成27年7月31日付けで公表されている,研究行動規範委員会の調査に関わる資料の一切。具体的には,調査にかかる会議に提出された資料,会議の議事次第,調査委員が示された資料,会議の議事録,調査報告書とその案,調査対象者から提出された実験データなどの資料,その他調査に使われた資料,調査で行われた関係者のヒアリングの記録,外部機関に調査や分析を行っていればその報告書。加えて,調査にかかった費用とその使途がわかる資料(外部調査委員への支払なども含む)」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,請求にかかる文書は以下の5つの理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。
① 個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。
② 審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意志決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるものについては,法5条3号に該当するため不開示とする。
③ 公にすることにより,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものについては,法5条4号柱書きに該当するため不開示
とする。
④ 公にすることにより,正確な事実の把握を困難にするおそれ,若しくはその発見を困難にするおそれがあるものについては,法5条4号ハに該当するため不開示とする。
⑤ 公にすることにより,人事管理に係る事務に関し,その公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある部分については,法5条4号
ヘに該当するため不開示とする。よって,本件対象文書を平成26年度~27年度科学研究行動規範委員会資料並びに支給調書として,部分開示決定を行ったものである。これについて,審査請求人は,平成29年4月4日受付の審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について
審査請求人は「開示された各議事がほぼ全て黒塗りされており,ひとつひとつの論文について十分に審議されたか否かが現状の資料では推測することすら困難であり,これでは審議内容が適切か否かを判断することができず,かえって疑念を抱かせる原因となる。調査委員会の適正さそのものに疑念を生じさせると言わざるを得ない。対象となった論文が公開されていることから,少なくとも責任著者については対象となることが明らかなため,ヒアリングなどの議事録を含め公開すべきと考えるし,結論が「不正なし」というものであれば公開することで当該研究者の今後の研究活動にも影響を与えるおそれもない。いずれの資料の中の個人名以外を不開示とする理由には該当しない。発言者の個人が特定できる氏名等は伏せて,資料を公開すべきである。」等と主張している。しかしながら,研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,かかる調査については,限りなく公平中立なものとして実施されなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成29年6月8日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月20日 審議
④ 同年7月11日 審査請求人から意見書及び資料を収受
⑤ 同月31日 本件対象文書の見分及び審議
⑥ 同年9月4日 審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件開示請求について
本件開示請求は,「「インターネット上で指摘のあった論文の画像データに係る調査結果について」として調査結果が平成27年7月31日付け
で公表されている,研究行動規範委員会の調査に関わる資料の一切。具体的には,調査にかかる会議に提出された資料,会議の議事次第,調査委員が示された資料,会議の議事録,調査報告書とその案,調査対象者から提出された実験データなどの資料,その他調査に使われた資料,調査で行われた関係者のヒアリングの記録,外部機関に調査や分析を行っていればその報告書。加えて,調査にかかった費用とその使途がわかる資料(外部調査委員への支払なども含む)」の開示を求めるものであり,処分庁は,法11条に規定する開示決定等の期限の特例を適用し,先行開示文書(平成28年11月9日付け第2016-45号により特定され,開示された文書)及び文書1ないし文書5(本件対象文書)を特定し,先行開示文書については全部開示したが,本件対象文書については,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ及びへに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対し,審査請求人は,上記の不開示部分のうち,出席者などの個人名の特定につながる情報以外の部分(本件不開示部分)の開示を求めているが,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,原処分の妥当性について検討する。

2 理由の提示について
(1)開示請求に係る法人文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には,行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示事由のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならない。上記の理由の提示として,不開示事由が複数あるときに,具体的な不開示部分を特定していない場合には,各不開示事由と不開示とされた部分との対応関係が明確であり,当該行政文書の種類,性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合を除き,通常,求められる理由の提示として十分とはいえない。
(2)そこで,まず,原処分における理由の提示の妥当性について検討すると,当審査会において,諮問書に添付された原処分に係る法人文書開示決定通知書を確認したところ,原処分においては,本件対象文書(総ページ数553ページ)のうちの不開示部分とその理由について,「個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。」,「審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるものについては,法5条3号に該当するため不開示とする。」,「公にすることにより,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものについては,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。」,「公にすることにより,正確な事実の把握を困難にするおそれ,若しくはその発見を困難にするおそれがあるものについては,法5条4号ハに該当するため不開示とする。」及び「公にすることにより,人事管理に係る事務に関し,その公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある部分については,法5条4号ヘに該当するため不開示とする。」とされているだけで,どの不開示部分が上記の不開示事由のいずれに該当するのか不明であるばかりか,不開示事由についても,各不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎず,当該不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとはいえない。なお,各開示実施文書を見てみると,不開示部分がある各ページの上部には不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。
(3)以上を踏まえると,確かに,原処分においては,不開示の理由として,法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ及びヘは示されているものの,本件対象文書のどの部分が,どのような根拠により,これら不開示事由のいずれに該当するのかが開示請求者において了知し得るものになっているとはいえないから,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条1項及び2項の趣旨並びに行政手続法8条に照らして違法であるの
で,原処分は取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,その理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第1部会)
委員 岡田雄一,委員 池田陽子,委員 下井康史

別紙(本件対象文書)
文書1 平成26年度科学研究行動規範委員会資料(67枚67頁)
文書2 平成27年度科学研究行動規範委員会資料(216枚216頁)
文書3 平成27年度科学研究行動規範委員会資料(128枚128頁)
文書4 平成27年度科学研究行動規範委員会資料(132枚132頁)
文書5 支給調書(8枚10頁)

 


 

参考

  1. 情報公開(独立行政法人等平成29年度答申 001~050 平成29年度(独情)024
  2. 答申状況<情報公開・個人情報保護審査会<総務省
  3. 情報公開・個人情報保護関係 答申データベース検索 (総務省)【 行情:10308件、独情:1123件、行個:1987件、独個:627件 (平成30年4月20日00:26現在) 】
  4. 情報公開・個人情報保護関係 判決データベース検索(総務省)

現代ラボ用語の基礎知識

ラボでは当たり前に使われている言葉でも、一般の人には新鮮に響くことがあるようです。そんな、ラボ特有の言い回しをまとめてみました。(生物系のラボ。随時追加、変更あり)

  1. アクセプト【accept】投稿した論文が受理(掲載許可)されること。「リバイスに1年もかかったけど、やっとアクセプトされたよ!」「おめでとう!」
  2. アクティビティ【activity】いい論文をコンスタントに出している状態。「あのラボはアクティビティが高いね。」
  3. あてうま【当て馬】採用される人が予め決まっている公募の面接に呼ばれる他の候補者のこと。「東○大に面接に呼ばれたんだって?」「どうせ当て馬だと思うけど、しっかり準備して行くよ。」
  4. あとがない【後が無い】①研究職の任期が切れる寸前だが、次の職がまだ決まっていない状態。「この論文、絶対通ってくれないと。俺、後が無いから。」 ②出すジャーナルを下げすぎて、もうこれ以上下げられない状態。 「サイレポにも蹴られて、もう後が無いよ。」「大丈夫、ジャーナルなんて、ほかにいくらでもあるから。」「いや、俺もう、後がないから。」
  5. あれ、どうなった?【あれ、どうなった?】何も考えていないボスが、学生に進捗状況を聞くときに使う、いい加減な言葉。「おい、あれ、どうなった?」「今、実験している最中です。」「おお、そうか!」 「あれ、どうなった?」「あれってなんですか?」「あれだよ、あれ、ほら、その‥。」

  1. いいしごと【いい仕事】雑誌のインパクトファクターが、その雑誌の個々の論文の価値を示すものではないという批判は常に存在するが、現実的なこととして、インパクトファクターの高いジャーナルに出た論文や人を高く評価する傾向が多くの人に見られる。そのため、「いい仕事=いい論文」と、同義語のように用いられることが多い。「これはきっといい仕事になると思うよ。」「彼は凄くいい仕事をしていてね。」
  2. いいとこねらう【いいとこ狙う】トップジャーナルへの掲載を目指すこと。「これなら、いいとこ狙えるんじゃない?」
  3. イエローチップ【yellow tip】ピペットマンで200マイクロリットルまでを測りとるためのチップ。もともと純正のものは黄色だったことから。他社製品であろうと、色が何色であろうと、イエローチップと言えばこのサイズのチップのことを意味する。「昔は、貧乏なラボでは、イエローチップを洗って再利用していたんだぞ。」「昔は、ラボに新しく入って最初の仕事は、イエローチップを(ラックに)詰めることだったんだよ。」「いつの時代だよ?」
  4. いきのこる【生き残る】アカデミアにおいて大学教員などのパーマネントの研究職を得ること。あるいは、任期付きであっても順調に次の職を得るか任期更新が行われ、コンスタントに仕事ができている状態。サバイブする、と同義。「なんとか生き残ることができた。」 「もう自分は生き残れないと思う。」 「今の時代、生き残るだけでも大変だね。」
  5. いちゃもん【イチャモン】投稿論文に対する差読者のコメントの中で、差読者が、実行不可能な実験などを著者に要求してくること。「(査読コメントに目を通した後、)こんなの、イチャモンだよ!(怒)」
  6. いっぱつアクセプト【一発アクセプト】リバイスを経ることなく速やかに投稿論文が受理されること。「ジャーナル下げたら、一発アクセプトだった。」
  7. いわれたことだけ【言われたことだけ】①最近の若者が、言われたことだけしかやらないこと。論文投稿中の研究者が、リバイスの際に、差読者に言われたことだけしかやらないこと。「原稿の修正や追加実験は、言われたことだけにしといたほうがいいよ。」
  8. インパクトファクター【impact factor】雑誌のランキングを決める数値指標で毎年算出される。「PLOS ONEのインパクトファクターって今いくつくらいだっけ?」

  1. うえから【上から】少しでもインパクトファクターの高いジャーナルに論文を出すことを目的として、駄目もとでトップジャーナルからから順番に投稿を試みること。最初にネイチャーやセル、サイエンスのどれかに投稿し、リジェクトされた場合には、同じ出版社の姉妹紙でもう少し通りやすいところや、あるいはインパクトファクターなどを考慮して他の出版社の学術誌に、ランキングを下げながら順にトライしていくこと。 「(この仕事、)どこに出すの?」「上からトライしてみようかな、と。」
  2. うつくしい【美しい】研究者が用いる場合には、美しい女性でも、美しい絵画でもなく、美しい「ストーリー」を持った研究成果を指すことが多い。「今週のネイチャーのあの論文、美しいストーリーだね。」”Beautiful work! Congratulations!”
  3. うぷす【Oops!】オッと。アメリカ帰りの研究者が、何かちょっとした失敗をしたときに思わず発してしまう言葉。英語がさほどしゃべれるようになっていなくても、感情を表す言葉だけは、なぜか口をついて出てくる。ただし、発音は日本語化している。「うっぷす。(試薬を)入れる量、間違えた!」

  1. えいぶんこうせい【英文校正】論文原稿の中に、ネイティブに意味が取れない箇所がないかチェックすること。「違う意味に直されちゃったよ。」「誤解される表現だったんじゃない?」
  2. エディターキック【editor kick】査読にまわされずに、編集者や編集部の判断で蹴られること。「だめもとでネイチャーに出したら、あっさりエディターキックを食らった。」
  3. エネルギー【energy】研究を行なうために必要な情熱やエネルギーのこと。「ボスと話をすると、エネルギーを吸い取られちゃうなあ。」
  4. エラーバー【error bar】平均値を表す棒グラフなどにおいて、標準誤差や標準偏差などを示した線分のこと。通常は、統計処理ソフトで自動的に計算・描画が行なわれる。例外的に、東京大学医学部においてはエラーバーの作成は手作業で行なわれるのが通常である(出典)。「エラーバー、もっと短くならないの?」
  5. えぬ【n】実験サンプルの例数。「nを増やせば、有意差出るかも。」
  6. エタチン【エタ沈】エタノール沈殿の略。DNAの精製過程で、塩とエタノールの混合液中でDNAを沈殿させるステップ。「行こうよ。エタ沈で止めておけばいいじゃん。」
  7. エッペン【Eppendorf tube】エッペンドルフチューブの略。生物系のラボで最も多用される1.5mlチューブのこと。本来はエッペンドルフ社の製品を指すが、高価なため安価な他社製品を使うラボが多い。しかし、どの会社の製品であっても1.5mlチューブのことをエッペンと呼ぶことが通常になっている。「エッペンちょっと分けてもらっていい?」「エッペンなくなりかけているから、次、注文しておいて。」「このラボ、エッペン、エッペンドルフのを使ってるんだ?金持ちだね。」

  1. おかね【お金】研究費のこと。「あのラボはお金がないから、(そこに進学するのは)やめといたほうがいいよ。」 「今年はお金があまりない。」 「金持ちのラボ」
  2. おけしょう【お化粧】一般的な意味は、女性(最近は男性も)が粉末や液体など様々な化学物質を顔などの皮膚表面に付着させることにより、強調すべき顔のパーツを強調し、強調したくない部分を目立たなくするなど、自分の見栄えを良くする行為のことである。そこから転じて、画像データなどでストーリーに合わない部分を隠したり、目立たなくさせたり、また、見せたい部分だけを強調するなどして論文の図を作成する行為。「あれはほんのお化粧の範疇であり、データ捏造にはあたらない。」
  3. おしこむ【押し込む】権威のある研究者が、出来の悪い(=論文業績が足りない)部下の研究者を、無理やりどこかの大学のパーマネント職に就けてしまうこと。「最近は状況が厳しすぎて、昔みたいにどこかに押し込むこともできなくなった。」(想像)
  4. おちる【落ちる】①大学教員公募に落ちること。「今回もまた落ちた。」 申請していた研究費が審査の結果、不採択になること。「今年もまた落ちた。」
  5. オーディナリーリサーチャーズ【Ordinary_researchers】「普通の研究者たち」。東京大学医学部および東京大学分子細胞生物学研究所の研究不正疑惑を2016年8月に告発した研究者たちが、匿名で告発を行なう際に名乗ったニックネーム。
  6. おとす【落とす】投稿するジャーナルのランクを下げること。「これ以上落としたくない。」
  7. オネストエラー【honest error】うっかりミス。または、データ捏造を誤魔化すための見え透いた言い訳。「指摘された論文の図に関してですが、すべてオネストエラーであり、雑誌編集部に修正を依頼しております。」
  8. おもいつく【思い付く】何か新しいアイデアが自分の頭の中に浮かぶこと。または、部下からの提案を却下してしばらく経ったあとで、そのアイデアがボスの頭の中で想起されること。
  9. オリジナルデータ【original data】論文の図表のもととなる、観察や測定によって得られた数値や、画像などの生データ。通常は論文の数値と一致するが、東大医においてはほとんど一致しない。

  1. カウントする【countする】論文業績として評価する数に入れること。「ファーストじゃないとカウントされないよ。」 「理研BSIでは、NEURON以上じゃないとカウントされないって聞いたけど、ホント?」
  2. かえってくる【返ってくる】投稿していた論文が、査読を終えて雑誌編集部から返されてくること。「論文どうだった?」「まだ返ってこない。」「遅いね。」
  3. かえる【帰る】留学先から帰国して日本で職を得ること。または、海外でPIの職についていた人が、日本にポジションを得て帰国すること。「日本に帰りたいけど、職がない。」 「ハーバードの●●先生、日本に帰ってたんだ?知らなかった。」
  4. かきました【書きました】論文草稿や研究費の申請書を書けたと思っている学生が返事に使う言葉。日本語の文章であっても、主部と述部の対応がなっていなかったり、英語の場合には中学生レベルの文法の間違いやスペルミスのオンパレードであったりと、想像を絶するレベルで、全く書けていないことが多い。本人の言葉を鵜呑みにせず、一刻も早く見せてもらってチェックすることが重要である。「書いた?」「書きました!」
  5. がくせい【学生】通常の日本語では大学生のことを指す言葉だが、学部学生がいない研究環境においては、大学院生のことを指す。 「最近の学生は研究一辺倒じゃなくて、プライベートな時間もしっかり確保する人が多いんだね。」
  6. がくちょうのけんげん【学長の権限】研究不正を告発した教員を逆に解雇したり、気に入らない教員の雇用延長を取り消す力。また、白日の下に晒され、誰がどう見ても明らかとしか言いようのない研究不正を揉み消す力。「最近あちこちの大学で起きていることをみれば、学長の権限強化が非常に危険なことは明らかだと思う。」
  7. かけんひ【科研費】科学研究費補助金の略称。「科研費の締め切りっていつだっけ?」「そろそろ科研費、書き始めないと。」「今年、科研費が一つも獲れなかった。」
  8. かせつ【仮説】研究の対象としている自然現象に関して、最も合理的と思われる説明を”仮”に設定したもの。多くの科学研究においては、この仮説の正しさを検証することを目的として、実験が行なわれる。いわば、研究の芯となる部分。本来、大学院生を含めた研究者一人一人が、自分が現在行なっている研究に関する仮説を持っていて然るべきであるが、実際には、仮説なしに研究生活を送っている人が相当数存在する。仮説不在の研究は、研究目的が曖昧になり、しばしば迷走し、何年経っても論文としてまとまらない恐れがある。また、労働集約型ラボにおいては、そもそも研究室全体に仮説不在のことがある。現実的には、執筆の段階になってから、論文をうまく構成する都合上、実験結果に合わせて仮説が立てられることもある。仮説検証型ではないタイプの科学研究も存在するが、そのような場合でも、「仮説」の意味を広く捉えれば、何らかの意味でそこに仮説が存在している(と、個人的には考えている)。「TESTABLEでないものは、仮説とは呼ばないよ。」
  9. ガチ【ガチ】大学教員公募において、候補者が予め決まっておらず、応募者の中での真剣勝負になること。「この公募ってガチかなぁ?」「ガチ公募なんて、そうそうないよ。」
  10. がんばんなきゃだめだよ【頑張んなきゃ駄目だよ】ボスが大学院生を叱咤激励するときに使う言葉。何をどう頑張れば良い実験結果を出せるのかがわからず途方に暮れている大学院生にとっては、このような励まされ方はあまりうれしくない。「頑張んなきゃ駄目だよ!」「はぁ。」
  11. かく【書く】①論文の原稿を書くこと。「データもたまってきたし、そろそろ書き始めよっかな。」  論文を出すこと。「最近、書いてないのでやばい。」

  1. キムワイプ【Kimwipe】ラボ内で最も普通に使われている「ちり紙」みたいなもの。拭いたり、吸ったり、あらゆる実験用途に使われる。もちろん、家庭で使われるちり紙よりもずっと高価。「こら、キムワイプで鼻かむな!」
  2. きょうはきげんがいい【今日は機嫌がいい】ボスの機嫌が良い日であること。感情の振れが激しく、独裁者として振舞うボスの下で働く者にとって、日々変化するボスの機嫌の状態を把握しておくことは、仕事のストレスを最小化するうえで大変重要である。そのため、ボスの機嫌の状態に関して、ラボ内で緊密に情報交換が行なわれるのが常である。「ボス、今、鼻歌うたってなかった?」「うん。今日は、かなり機嫌がいいよね。」「頼みごとを切り出すなら今だよ。」
  3. ギルソン【Gilson】ギルソン社のピペットマンのこと。ピペットマン(←商品名)のシェアが余りにも大きいため、どの会社の製品であってもマイクロピペットのことはピペットマンと呼ばれる。そこで、「ギルソンのピペットマン」であることを明示するために使われる言葉。「このラボ、(ピペットマンが)全部ギルソンなんだ?金持ちだね。」「ギルソンは堅いから、自分はこっち(Finnpipette)のほうが好きなんだよね。」

  1. グレー【gray(米) grey(英)】研究不正を「クロ」、不正のない実験・研究を「シロ」としたときに、好ましくないが不正とまではいえないような行為をグレーと呼ぶことがある。また、新聞などのメディアは断定的な表現を避ける意図で、限りなくクロに近いものであっても、単にグレーと呼ぶことがある。実際には、グレーゾーンに、万人が納得するようなシロクロの境界を引くことは難しい。「研究って、どうしてもグレーな部分ってあるよね。」「あの論文は、ちょっとグレーじゃない?」
  2. クレジット【credit】その人がその研究をしたという評価、仕事に対する貢献度を認めること。研究成果を論文発表するときには、複数の著者場合の並び順や、コレスポンディングオーサーになるかどうかにより、クレジットの度合いが表される。また、論文執筆において他人の研究成果を正しく引用することは、その人の貢献を認めて正統なクレジットを与えているということになる。「共同研究の場合、クレジットをどう分け合うかが難しい。」「共同研究者にクレジットを全部持っていかれた。」「共同研究は歓迎だけど、クレジットはちゃんと欲しい。」

  1. けられる【蹴られる】論文がリジェクトされること。「ネイチャーに蹴られた。」
  2. けんきゅうをやめる【研究を辞める】アカデミアの研究職を辞めること。民間などで研究以外の職に就いたり、アカデミアの中でもURAなど事務系の研究支援職に転ずることが多い。「彼、研究辞めちゃったんだって?」 「君が研究を辞めるなんて、もったいないよ。」
  3. けんきゅうふせい【研究不正】①わかりやすく言えば、実験ノートが存在しないこと、または、実験ノートが提出できないこと。捏造(fabrication)、改竄(falsification)、盗用(plagiarism)の3つをまとめて、研究不正(research misconduct)とする定義が一般的(参照:文科省)。実験はしたが期待した有意差が出なかったときにエラーバーを短く見せかけて有意差があったかのようにする行為は、文科省の定義では、「改竄」になるが、有意差をでっちあげているわけだから一般的な言葉遣いでの”捏造”であり、「捏造」と「改竄」を厳密に分けることには意味がない。「実験ノートを出さない人は、研究不正をしていると見なします。」(参考)「やっぱり科学における犯罪ですよね、不正は。」(2008年分生シンポ記録PDF) ②〔東大・医〕定義されない。存在しない。「不正行為はない」(参考

  1. コネ【connection】大学教員になるときに(しばしば)必要とされる、研究者(採用側)と研究者(応募者)との間の人間的な強い繋がり。「公募に出しても、呼ばれもしないんです。」「コネがないとねぇ。」
  2. コピペ【copy & paste】コピーアンドペーストを縮めた言い方。一つのアプリケーションで対象物をコピーし、別のあるいは同一のアプリケーションでそれを貼り付ける行為。例えば、ウェブブラウザ上でNIHのウェブサイトの文章をコピーし、マイクロソフトワード上で書きかけのD論に貼り付けるなどすれば、非常に効率よく博士論文をでっちあげることができる。別の使い方として、図1のゲルの写真のバンドの一部をコピーし、図2や図3、図4のゲルの写真にペーストすれば、簡単に複数データを作り出すことができるため、実験をせずに論文を作成できる。東京大学分子細胞生物学研究所の一部のラボでは論文量産にあたってこのテクニックが多用されていた。コピペの応用範囲は思ったよりも広く、棒グラフのエラーバーのコピペもまた実験データ量産に有効で、東京大学医学部の研究者らがそれを実践していたことが2016年8月に明らかとなり、世間を驚嘆させた(詳細)。「コピペは駄目だぞ!」「コピペは文化だという大学もあるらしいw。」「エラーバーまでコピペしちゃうという発想は、普通の研究者の頭じゃ絶対に出てこないよね。」
  3. ごりおし【ゴリ押し】大御所の研究者が、ペーペーのエディターに、権威をもってして論文を通させること。雑誌社に雇用されている編集者は多少の研究経験の後すぐに編集者になっている場合もあり、このような力関係のアンバランスが生じる恐れがある(と個人的に想像している)。「なぜこれがネイチャー?」「ゴリ押ししたんじゃないの?」
  4. コレスポ【Corresponding author】コレスポンディングオーサー(責任著者)を短く縮めた言い方。文字通りの意味は編集部とやりとりをする著者のことだが、通常は研究代表者で、研究の全責任を負う人になる。「この仕事は全部自分の研究費でやったし、論文も全部自分で書いたのだから、コレスポ取らせてほしいよね。」
  5. こんせぷちゅあるあどばんす【conceptual advance】研究成果が、既成の概念の変更を迫るくらいに革新的であること。トップジャーナルには必須とされ、これがないとリジェクトされる理由になる。「コンセプチュアル・アドバンスがないと、ネイチャーなんて通りっこないよ。」”The paper does not provide the conceptual advance needed for publication in Science.” “Manuscripts may be rejected because they represent a relatively small conceptual advance on our present state of knowledge.” “A referee has raised major conceptual concerns about the advance your findings represent.”
  6. コンタミ【Contamination】細胞を培養しているときに、酵母やカビ、雑菌がシャーレの中に混入して繁殖してしまうこと。または、生きものや試薬に関して、本来あるべきでないものが、混じってきてしまうこと。「コンタミさせないように、注意しろよ。」 「コンタミで、培養細胞を駄目にした。」  「きっと、RNaseがコンタミしてたんじゃないの?」
  7. コントロール【control】対照実験のこと。ネガティブコントロールやポジティブコントロールのこと。「コントロールが甘いと論文にならないよ。」

  1. さ【差】実験群と対照群の間でみられる有意差のこと。「なかなか差が出せなくて苦労してる。」 「ところであの実験、差は出たの?」 「残念、差が出なかった。」
  2. サイエンス【Science】①アメリカの学術誌でネイチャーと並んで最も権威があるジャーナルとされる。研究者が考える理想的な科学研究の在り方。「そんなの、サイエンスじゃないよ。」
  3. さいげんされた【再現された】データ捏造などの論文不正を疑われた著者が、実験をやり直して論文の主張どおりの実験結果を見せることにより、不正行為があったかどうかをウヤムヤにするときに使う常套句。当たり前のことだが、仮に実験結果が再現されたとしても、それは最初の実験に不正行為がなかったことの証明にはならない。「指摘のあった論文の図に関しては、残念ながら実験ノートの存在を確認できませんでした。しかしながら、実験をやり直したところ論文と同様の結果が得られましたので、不正行為はなかったものと考えております。」

  4. さいげんできない【再現できない】トップラボに留学した日本人ポスドクがしばしば陥る罠。そのラボでセル、サイエンス、ネイチャーなどのトップジャーナルに論文を出したポスドクのあとを引き継ぐ研究テーマを任されたにも拘らず、その論文のメインデータが自分の手では再現できないこと。「実はあの論文、再現できないんだよね‥。」

  5. サイレポ【Scientific Reports】サイエンティフィックリポーツは、ネイチャーを出版しているのと同じ出版社によるオープンアクセスジャーナルで、掲載に係る審査において研究意義の大きさを問わないという特色がある。また、掲載料(ライセンス料)が比較的高額なため、お金を出せば誰でも掲載できる雑誌でしょ?という誤解をする人がたまにいる。ネイチャーの姉妹紙の中で最も掲載が容易であることは間違いない。 「研究費いっぱい貰っているくせに、サイレポにばかり論文出してるラボってどうなの?」
  6. さちる【飽和る】saturateするという英語から。蛍光画像取得時などにおいて、シグナル強度が強い部分では、測定された値との直線性が失われ、値の伸びが飽和状態にあること。「GFPの発現が強すぎて、この部分、さちってるね。」  「8ビットじゃなくて16ビットで画像取得しないと、さちっちゃうよ。」
  7. さんい【3位】3位とは、大阪大学のことである。(編注) マグロでなら日本一の大学と豪語する近畿大学の広告戦略を是非見習ってほしい。「3位じゃダメなんです。」(阪大)「マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?」(近畿大学
  8. さんかげつ【三ヶ月】投稿論文がREVISIONとなった場合に著者に与えられる期間は3ヶ月(90日)であることが多い。

  1. シーエヌエス【CNS】セル(Cell)、ネイチャー(Nature)、サイエンス(Science)という生命科学分野のトップジャーナル3つをまとめた呼称。「CNSに論文があっても、職をとるのは難しい。」
  2. じだいがよかった【時代が良かった】古き良き時代に、あまり論文業績がなくても大学教員(パーマネント)になれた人が、現在の暗澹たるジョブマーケットの状態を目にして口にする安堵の言葉。「いやぁ、自分はラッキーだった。まだ、時代が良かったから。今だったら、絶対に生き残れていない。」
  3. じっけんノート【実験ノート】研究者が実験を行なう際に実験内容すなわち、実験日、実験目的、実験条件、実験手順、実験結果、考察などを逐次記録したノートのこと。〔東大・医〕定義されない。
  4. じぶんもそれをかんがえていた【自分もそれを考えていた】上の立場の人間が、研究のクレジットを奪取しようとして意図的に、あるいは無意識に発する言葉。「先輩、こんな実験やってみたら結構面白いことになるんじゃないかと思ったんですけど?」「あ、それ自分も考えていたんだよね。どう?やってみない?」「‥‥(誰の研究だと思ってやがんでぃ。。)」
  5. しめきり【締め切り】原稿を書き上げて、編集者に送ることが期待されている最終的なタイミング。または、原稿を書き始めるきっかけとなる最初のタイミング。「ねえ、原稿を依頼されているのがあるんだけど、僕は忙しいから、君、書かない?」「締め切りはいつですか?」「一応、昨日までなんだけど。」「‥‥。」
  6. しょく【職】パーマネントの職。またはテニュアトラックの職。ジョブ。 「職が見つからない。」
  7. しょくさがし【職探し】パーマネントの職、またはテニュアトラックの職を探すこと。 「職探し、うまくいってる?」 「いやぁ、なかなか、難しいです。」
  8. ジャーナル【journal】①学術誌のこと。「今の仕事は、どこのジャーナルに出すの?」 ジャーナルクラブ(学術雑誌に掲載された論文をひとつ選んで、ラボのみんなで読む会合)のこと。「今日ってジャーナルの日だっけ?」「今週のジャーナル、俺当たってるんだけど、論文何にしよう?」
  9. ジョブ【job】職に同じ。
  10. しょくをとる【職をとる】パーマネントの職やテニュアトラックの職、すなわちPIの職に就くこと。「彼は職が取れなかったので、研究を辞めた。」

  1. スクープ【scoop】良い実験結果に関する情報を競合する研究者が手に入れて、先にその実験結果に関する論文を出すこと。「プレプリントサーバーに出して、スクープされたりしないの?」
  2. ストーリー【story】論文において、実験データに基づき、論理的に一貫性があるように構成された一連の主張のこと。「ストーリーありきの論文。」「あのラボは、ストーリーに合わないデータを出しても教授が絶対に認めないから、不正が起きたんだよ。」「今やってる実験の結果次第でストーリーが変わってしまうので、結果を知るのが恐い。」「なかなかいいストーリーにならなくて、苦労している。」
  3. すぺーすがない【スペースがない】エディターが論文をリジェクトするときの定番の表現。電子ジャーナル全盛の時代になって、あまり見かけなくなったような気がする。デートに誘ったときに返ってくる言葉、「忙しくて時間がないの。ゴメンね。」と同じようなもの(だと個人的には思う)。
  4. すべてはつながってくる【全ては繋がってくる】①世の中における真理の一つ。“You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.” (Steve Jobs)  ラボのメインの仕事ではない研究テーマや、メインストーリーから外れる実験を学生に無理強いするときにボスが使う言葉。「全ては繋がって来るんだよ!」「‥」

  1. そうじ【掃除】研究費申請書や論文が書けなくて煮詰まっているボスが突然始める生産的な作業。「先生が急に教授室の中のそうじ始めたよ。」「だいぶ煮詰まってんだね。」

  1. たからくじみたい【宝くじみたい】大学教員公募で一つのポジションに数百人の応募者が殺到して、ほとんど当たる可能性がない状態。実際には、一つの当たりくじが特定の人に既に配布済みである(ことが多い)点で、宝くじとは異なる(自分の個人的な見解)。「最近の若い人(=研究者)は本当に可哀想だと思うよ。大学のポジションが少なすぎて、(ほとんど当たることのない)宝くじみたいな状態になっているから。」
  2. だす【出す】①論文を投稿すること。「(今書いている論文は)どこに出すの?」「もうどこかに出したの?」 ②論文発表すること。 「最近、出してないなあ。」 大学教員公募に応募すること。「君は今、どこか、出してる?」「とりあえず、出し続けるしかないですかねぇ。」
  3. たたかう【戦う】研究者が戦う相手といえば、それはエディターやレビューアーのことである。戦いは、リジェクトのメールを受け取った瞬間から始まる。エディターキックの場合には、査読に回すようエディターにアピールする。良いレビューが得られずにリジェクトされた場合には、レビューアーのコメントに対して反論する。反論のやりかたは、コメントが誤解に基づく場合にはそれを指摘し、また、反駁するために追加実験が必要な場合にはそれを行ない、その実験結果を根拠に反論したりする。「論文どうなった?」「蹴られたよ。」「戦わないんだ?」「もう、(学位の締め切りに間に合わせるためには、査読や論文受理までのプロセスが)速いジャーナルに出すしかないと思うんだよね。」
  4. たんじゅんか【単純化】(ストーリーに合わない実験データを無視することにより)ストーリーをシンプルにして差読者が理解しやすい論文構成にし、トップジャーナルに通る可能性を高める行為。個人的にはどうかと思う。「ちょっと単純化しすぎじゃない?」

  1. つうじょう【通常】①普通のことが行なわれているさま。 〔東大〕異常なことが行なわれているさま。注)Ordinary_Researchersの告発に答えて、東京大学は、エラーバーを手作業でいじって出鱈目な図を作成することが医・生命科学の研究分野においては「通常」という見解を出した。しかしながら、(東大医学部に足を踏み入れたことがない自分が知る限り、)エラーバーを手作業でいじる操作は、論文作成において決して一般的ではない。よって、東大のいう「通常」は、一般的な日本語での「異常」に対応すると考えられる。
  2. つかいすて【使い捨て】①ピペットマンのチップ、エッペン、PCRチューブ、細胞培養用のディッシュやプレート、コーニング、ファルコン、スライドガラス、カバーガラス、保護手袋など、ディスポーザブルな器具や製品のこと。「それは使い捨てだから、プラスチックのほう(のゴミ箱)に捨ててくれる?」
    任期付きポジションで働く研究者・大学教員の大部分のこと。「日本の研究力が急速に落ちてきてるんだって!」「これだけ研究者を使い捨てにしているんだから、当然じゃないの?」[参考] 「成果と連動しない任期制度は人の使い捨てにほかならない。」[参考] 「ポスドクが使い捨てにされる現状は、どう考えても異常。」[参考] 「プロジェクト研究のような期限付き資金で大学に雇用された研究者は、プロジェクトの終了とともに使い捨てられる。」[参考] 「研究を支えている若手研究者が使い捨てにされる一方、その成果を享受する立場の教授だけは研究の世界を末永く生き続ける。」[参考]
    (特に、雇い止めを強行する大学に勤務する)事務職員、研究補助職員(ラボ・テクニシャン)のこと。
    (特に、雇い止めを強行する大学に勤務する)非常勤講師のこと。「日本の大学は非常勤講師を使い捨てるブラック大学」 [参考]

  1. でぃすくりぷてぃぶ【descriptive】自然現象を観察し記載しただけで、その現象を作り出しているメカニズムに迫れていない研究。それ自体は決して悪いことではないが、トップジャーナルに投稿した論文が却下されるときの理由としては、しばしば使われる表現。descriptiveに対する言葉として、mechanisticがある。「今のところまだディスクリプティブだからなあ(メカニスティックなところまで踏み込めていないので、現状だといいジャーナルを狙うのが難しい)。」
  2. でぃーろん【D論】博士論文のこと。「D論、書いてる?」「D論、間に合わない。。」
  3. でき【出来】大学教員公募における出来レースのこと。「ねえ、JREC-INに東工大の准教授の募集が出てたよ!」「どうせ出来だよ。」
  4. できました【出来ました】出来たと思っている学生が返事に使う言葉。実際にはまったく出来ていないことが多い。本人の言葉で判断せず、実験結果や生データをチェックすることが非常に重要である。「出来た?」「出来ました!」
  5. てにゅあとらっくせいど【テニュアトラック制度】①若手研究者がまず任期付の雇用形態で自立した研究者として採用され、数年後に審査により終身もしくは定年制の職(テニュアポスト)を得る仕組み。②一般的なテニュアトラック制度ではない東北大学テニュアトラック制度のこと。(参照記事
  6. でる【出る】論文が受理されること。学術誌に論文が掲載されること。「学会でしゃべってた仕事、どこに出たの?」「あの研究室は論文出てるよね。」

  1. とうだいいがくぶ【東大医学部】(東大の発表に基づき)以下に述べる5個の性質を持つ実体を「東大医学部」と定義する。
    1)研究室から発表された論文の図に示されるデータと、オリジナルデータ(実験で得られる生データ)とはほとんど一致しないこと。(そのような論文を出すラボが組織内に存在すること)
    2)論文の図作成にあたり、数値データをグラフにする際に、まずマイクロソフトエクセルを用いてグラフを描くこと。
    3)エクセルで描いたグラフは、必ずコピペによりマイクロソフトパワーポイント(パワポ)やアドビイラストレーター(イラレ)など別のアプリケーション上に移し変えること。
    4)パワポやイラレ上に移されたグラフはそのまま論文の図に使用することはせず、かならず、X軸、Y軸、棒グラフ、エラーバーを手作業でなぞる(トレース)ことにより、手書きのグラフとすること。このとき、オリジナルデータとの一致を消失せしめること。
    5)論文の図で示された値がオリジナルデータとどれほど一致していなくても、不正調査委員会、大学執行部、研究資金配分機関、監督省庁からは研究不正と認定されないこと。
  2. とおる【通る】論文が受理されること。「ネイチャー通ったんだ、おめでとう!」
  3. どうてい【同定】ある働きを持つ物質を特定すること。 「アルツハイマー病の原因遺伝子のひとつが同定された。」
  4. とうほくだいこうぶん【東北大構文】①AはAではないという構文のこと。政治家・小泉進次郎氏の進次郎構文”AはAである”と対比されることが多い。「東北大学テニュアトラック制度は、一般的なテニュアトラック制度ではない」(東北大学理事・副学長)(参考
  5. どう?【どう?】ボスが大学院生に、良い実験結果が出たかどうかを聞くときに使うことば。「最近、どう?」「いやーっ、なかなか難しくて。」
  6. とくめいエー【匿名A】画像類似論文88報(他での指摘も含めれば111報)をインターネット上で匿名で指摘した人物のこと。(参考
  7. どこ?【何処?】普段まったく実験しない教授が何を思いついたのか急に実験を始めたときに、試薬の場所がわからないため、近くの研究員に保管場所を尋ねるときに使われる言葉。「ねえ、コンピテントセルって何処だっけ?」
  8. どりょくしょう【努力賞】卒業論文(学士号)や修士号は、ネガティブデータしか出なくても、すなわち、学術誌への論文発表ができなくても、取れるという意味。「修士までは努力賞だけど、博士は違うぞ。」

  1. なぜこれがねいちゃー?【何故これがNature?】自分はいい研究をしていると自惚れている、思い込みの激しい研究者が、毎週木曜日に発する、負け惜しみの言葉。ちなみに木曜日は週刊誌Natureの発売(刊行)日である。ネイチャーに掲載される論文は、話題性があったり、ほんとうにいい研究成果であったり、一見凡庸な実験データであっても新しい視点から解釈されていてストーリーのまとめ方やライティングがうまかったり(要するに、見せ方、売り方がうまい)、何かしらアクセプトされるだけの理由がある(と個人的には思っている)。「なぜ、この論文がネイチャーなんだろう?」「うちの論文なんて、レビューにすら回らなかったのに。」「(著者が)エディターとお友達なんじゃないの?」「大御所のところからは出やすくて、いいよね。」
  2. なぜやっていない?【何故、やっていない?】論文をまとめる段階になって、ストーリーを構成する上で必要な実験データが足りないことがわかったときにボスが発する言葉。「こんなの、必要になることがわかりきっていた実験なのに、なぜ、やっていないんだ?」「‥‥(そんな実験やるだけ無駄だから止めろと言ったのはボスなんだけどなぁ。。)」
  3. ななえた【7エタ】ラボで滅菌を目的として多用される、70%エタノールのことらしい。自分は使ったことも、周りで使っているのを聞いたこともないが。「7エタで ラベルが消えた 君の名は?」(研究者川柳「川柳 in the ラボ2017」より)

  1. ネイチャー【Nature】①最高の権威があるとされる学術雑誌の一つ。ちょっと良さげな実験結果を出した学生をおだててるために、お調子者のボスが使う言葉。「おー、すごいねー。ネイチャーいけるよ!」「これ、ネイチャーだよ、ネイチャー!」
  2. ネガコン【negative control】シグナルが出ないことが期待されるように実験条件を設定した、対照実験のこと。「しまった、ネガコン置くの忘れた。」
  3. ねつぞう【捏造】実験していない(実験ノートがない、実験ノートに記述がない)のに、実験データを存在せしめること。「今の大学院は研究するところではない 捏造するところだ こうなるはずだ』『こう応用できるはずだ』『役に立たないことはするな』とボスから言われる場所、それが今の大学 例えば、捏造の追試だとしてもこれがお前の仕事だ。誇りを持てよ。誇りをもてないお前は不純だ』と私は言われた。誇りを持ち私は頑張った。スクリーニングで使えたはずの系がなぜシングルクローンで上手くいかないのか?プライマーがなぜ2つともセンス鎖なのか? 同じ形の図の縦軸がなぜ概念的に全く違うのか? 疑問は沢山あったが頑張った 数年後、大型予算が切り替わり、私は捨てられた 『君はネガティブだ。もう手に負えない。勝手にしろ』 ネガティブなのは前任者のデータだろ。その後、共に苦しんだ同僚が一人自殺した。」(匿名A)
  4. ねばる【粘る】投稿論文に対する差読者からの否定的な評価を覆し、アクセプトを勝取るために、反論を試みたり、忍耐強く何度ものリバイスを繰り返すこと。「リジェクトされてすぐに諦めたけど、もうちょっと粘ってみればよかった。」

  1. ノンスペ【non-specific】非特異的な効果による実験結果。「この一番濃いバンドは、ノンスペじゃないの?」
  2. のーととらなくてだいじょうぶ?【ノート取らなくて大丈夫?】学生に実験の手順を教えているときに、メモを取らないでも全部頭に入るんだ、すごい、この学生はかなり優秀に違いないと思いながら説明し終えたところ、いざ学生にやってもらおうとすると一人では何もできず、説明したことをもう一度全部聞かれて脱力させられることがあるため、メモを取らずに聞こうとする学生に対しては、予め一言声をかけておいたほうがよいと思われるフレーズ。

  1. はかせ【博士】博士号のこと。「このままだと、博士とれそうにない。」
  2. ばかやろう!【馬鹿野郎!】かつて、ボスが学生を励ますために用いられた言葉。現在では、アカデミックハラスメントになる恐れがあるため、この言葉の使用は推奨されない。
  3. パブリケーション【publication】論文業績のこと。「彼は、パブリケーションがいい。」

  1. ぴーあい【PI】Principal Investigator 研究室の主宰者、研究代表者。教授や准教授。テニュアトラック助教がPIになることもある。PI染色と言う場合のPIはpropidium iodideという、核酸を染める色素のこと。 「金沢大でテニュア・トラック助教を募集してたね。」「それって、PI?」
  2. ピーせん【P-1000】ギルソン社のピペットマンのシリーズで1000マイクロリットルまでの容量を扱うためのモデル。または、他社製品の同様のモデル。「P-1000借してもらっていい?」
  3. ひっかかる【引っ掛かる】ランクを下げたジャーナルに論文を投稿した結果、その雑誌に掲載を受理されること。「サイレポに何とか引っ掛かって良かった。」
  4. ひっかける【引っ掛ける】よそのラボに先を越されないうちに、論文を投稿しておくこと。同じジャーナルであれば、よそのグループからの同じ内容の論文が掲載されたとしても、それ以前に投稿していた場合には「同時」とみなしてもらえることが多いことから。「どこか(のジャーナル)にひっかけておかないと。よそに出されたらお終いだからな。」
  5. ひとのことにかまっているばあいではない【人のことにかまっている場合ではない】任期つきの教員が、自分が生き残ることに精一杯で、大学院生の研究の指導を行うだけの精神的な余裕、時間的な余裕がないこと。「もともと、指導していた学生の仕事だったのに、結果が出はじめたとたん、助教の先生がテーマを自分のものにしちゃって、ファーストで論文を書いて出しちゃったらしいよ。」「任期付きだから、人のことにかまっている場合ではないんじゃない?」「あの助教の先生、いつも自分の実験で忙しそうにしていて、ちょっと、学生の面倒見が悪くない?」「任期付きだから、人のことにかまっている場合ではないんじゃない?」
  6. ピーにじゅう【P-20】ギルソン社のピペットマンのシリーズで20マイクロリットルまでの容量を扱うためのモデル。または、他社製品の同様のモデル。P-20,P-200,P-1000の3モデルがラボで最もよく使われ、実験を遂行するための必須アイテムといえる。ピペットマンは高価なため、P-2やP-10が無い場合には、1マイクロリットルであってもP-20で代用することが多い。「P-20ちょっと借りていい?」「P-2が必要なんだけど、ボスが買ってくれない。」「P-10も、あると便利なんだけどなぁ。」
  7. ピーにひゃく【P-200】ギルソン社のピペットマンのシリーズで200マイクロリットルまでの容量を扱うためのモデル。または、他社製品の同様のモデル。「P-200借りるね。」
  8. ピペットマン【Pipetman】ギルソン社のマイクロピペット(溶液をマイクロリットル吸入、排出できる精巧なピペット)の商品名。あまりにも普及しているため、他社製品であっても、マイクロピペットのことはピペットマンと呼ばれることが多い。「ちょっと、ピペットマン借りていい?」「液吸いすぎて、ピペットマンの中に入っちゃった。」「今度からフィルター付きのチップを使ったら?」
  9. ひょうしだけ【表紙だけ】時代錯誤も甚だしい教授が、科研費申請書や博士論文の所内締め切り日に、とりあえず表紙だけ出しておけばいいと考えている場合に、発せられる言葉。「そんなの、表紙だけ出しとけばいいんだよ。」「‥‥」
  10. ひょうじゅんごさ【標準誤差】棒グラフにエラーバーをつけるときに使う短いほうのやつ。「標準偏差だとエラーバーが大きくなるから、標準誤差にしとけよ。」

  1. ファースト【first】共著者による連名の論文において、著者名の順番が一番最初にくる人、すなわち第一著者(first author)のこと。第一著者が論文のほとんどの仕事を行なったとみなされることが多いため(仮にそうでなかったとしても)、複数の研究者がかかわった仕事でファーストオーサーになることは、研究者にとって非常に重要である。「ファースト何報持ってる?」「ファーストで書かなきゃね。」
  2. フェノクロ【phenol-chroloform extraction】フェノール=クロロフォルム抽出。DNAの精製過程における一ステップ。「フェノクロやるの面倒臭い。」
  3. ふせいこういはない【不正行為はない】不正行為がない場合には、不正疑惑に関する調査報告を公表しなくてよいという時代錯誤な規則を逆手にとって、不正行為を揉み消したい大学が使う言葉。「調査結果の概要(医学系研究科関係)(結論)申立のあった5名について不正行為はない」
  4. I am/We are pleased【be pleased】 ”喜んで‥” 論文投稿後にエディターから送られて来るdecisionメールを読み始めた研究者が、一番期待して探し求める言葉。論文が受理されたことを伝えるときに必ず含まれている語句。”I am pleased to inform you that your manuscript has been accepted for publication in XXXX (ジャーナル名). ”  “We are pleased to inform you that your manuscript ‘XXXXXX(論文タイトル)’ has been provisionally accepted for publication in XXXX (ジャーナル名).”
  5. ブルーチップ【blue tip】ピペットマンで1000マイクロリットルまでを測りとるためのチップ。もともと純正のものは青色だったことから。他社製品であろうと、色が何色であろうと、ブルーチップと言えばこのサイズのチップのことを意味する。「ブルーチップの先を切って使えば?」
  6. プロナス【Proceedings of the National Academy of Science】中堅どころの学術誌のひとつ。 ピーエヌエーエス(PNAS)とも呼ばれる。ピーナスと呼ぶ日本人も結構な数いるが、penis(ペニス)の英語の発音と同じに聞こえるため、控えたほうがいいと個人的には思う。
  7. プログレス【progress】プログレスミーティング、研究の進捗状況をボスに報告するために研究室内で定期的に開かれるミーティングのこと。ラボミーティングとも呼ばれる。「今週プログレスが当たってるんだけど、しゃべることない。どうしよう?」

  1. ほうりつがない【法律が無い】セクハラ行為を働いて相手の精神を破壊したり、アカハラにより学生や部下の人生を滅茶苦茶にしたり、データを捏造して論文を出したり、明らかな研究不正を揉み消したり、研究不正が常態化したラボに巨額の研究費を配分し続けるような行為は、いずれも「犯罪(的)」だ(と自分は思う)が、そのような行為を裁く法律が現時点で存在しないこと。「人が亡くなっているのに誰も裁かれないなんておかしいよね。」「法律がないんだよね。」
  2. ポスドク【postdoc】ポストドクトラルフェロー(postdoctoral fellow)のこと。「卒業したあともポスドクで残るの?さっさと(今のラボから)出たほうがいいよ。」 「彼は学生時代の業績が凄くて、ポスドクをやらずにいきなりPIになった。」
  3. ポジコン【positive control】必ずうまくいくはずの対照実験。「何がポジコンになるかなぁ。」
  4. ボス【boss】研究室の主宰者である教授や准教授のこと。「こないだ駅でボスに会っちゃった。」
  5. ボスめし【ボス飯】お昼ごはんや夕食で、学生やボスドクがボスと一緒に食事をすること、またはその食事。「ボス飯になっちゃったよ。」
  6. ボスカッション【boss-cussion】ボスとディスカッションをすること。

  1. まける【負ける】自分がやっているのと同じ研究内容の論文を、競合するよその研究グループに先に出されてしまうこと。「頑張んないと、負けちゃうよ!」
  2. まつ【待つ】論文を投稿したあと、査読されて編集部から返事が来るのを待っていること。「もう投稿したの?」「うん、今(返事を)待っているところ。」

  1. めし、いく【飯、行く】大学院生や研究者がみんなでそろって学食などでお昼ご飯を食べるラボで、お互いを誘うために掛ける言葉。「メシ、行く?」「俺、ゲル流してる最中だから、後にするわ。」「ご飯、行きますか?」「先に行っててくれる?反応かけてから、行くから。」

  1. もってる【持っている】(ある特定のトップジャーナルに)論文を掲載されている業績がある。「彼はネイチャーを持っているのに、なかなか職が取れない。」
  2. もどる【戻る】学外の場所にいる大学院生が、再びラボに行くこと。全ての時間を研究に捧げている大学院生にとって、ラボは「行く」場所ではない。ラボがホームポジションであり、「戻る」と表現される。(研究室の飲み会が終わって)「(家に)帰る?、(それともラボに)戻る?」
  3. ものとり【モノ取り】 特定の働きを持つ未知の遺伝子を同定する仕事。「ゲノムが全部解読されて、ものとりで論文が書ける時代は終わった。」

  1. やられる【やられる】他のグループに同じ内容の論文を先に出されること。「やられちゃったよ。どうしよう?」「ジャーナル下げるしかないんじゃない?」
  2. やりました【やりました】実験等をちゃんとやれたと思っている学生が返事に使う言葉。実際にはまったくやれていないことが多いので、本人の言葉で判断せず、実験結果や生データをチェックすることが非常に重要である。「やった?」「やりました!」

  1. よばれる【呼ばれる】①大学教員に応募した人が、書類選考を通過し、面接試験に呼ばれること。「全然、呼ばれないの?」「何箇所かに呼ばれてはいるんだけど。」 大型の研究費の申請において、書類選考を通過し、面接試験に呼ばれること。「毎年呼ばれるんだけど、なかなか通らない。」

  1. ラスト【last】ラストオーサー(last author)のこと。ラストオーサーの人は通常、研究代表者とみなされる。「職が取れたので、この論文のラストをもらった。」「ラストをくれるなんて、いい教授だね。」
  2. ラボ【lab】大学の研究室(laboratory)のこと。「晩御飯のあと、またラボに戻らなきゃ。」 「えーっ、そうなの?(悲)」
  3. ラボミーティング【lab meeting】大学院生や研究員が進捗状況をボスに報告するためにラボ内で定期的に開かれるミーティングのこと。「来週ラボミーティング当たっているから、気が重い。」

  1. I/We regret 【regret】 ”残念ながら‥” 論文投稿後にエディターから送られて来るdecisionメールの中で、研究者が一番目にしたくない言葉。悪い知らせを伝える文に必ず含まれている語句  “I regret to inform you that we cannot publish your manuscript in XXXX (ジャーナル名).” “I regret that we are unable to publish it in XXXX (ジャーナル名).”  “We regret to say that we will not be able to accept this manuscript for publication in XXXX (ジャーナル名)”
  2. リジェクト【reject】投稿論文の却下。英語で名詞形だとrejectionだが、日本語では名詞としても使われる。「ネイチャーに出したけど、速攻でリジェクトされた。」「PNASにリジェクトを食らった。」
  3. リトラ【re-transformation】もともと精製してあるDNAの量を増やすために、大腸菌に再度トランスフォーメーションすること。「(DNAの)量が少ないから、リトラしてから使ってね。」
  4. リバイス【revise】投稿論文の改訂。英語で名詞形だとrevisionだが、日本語の中では名詞としても使われる。「論文のリバイス中なので忙しい。」「論文が返ってきた。リバイスだった。ラッキー。」
  5. りゅうがくする【留学する】博士課程を終えた人間が、海外でポスドクをすること。「最近は留学する人が減ったね。」「留学しても、帰る場所がないからね。」

  1. るいじ【類似】似ているように見えて異なること。または、似ているように見えて、実際に、同一である(疑いが強い)こと。「匿名Aを名乗る人物が、類似画像を含む論文を多数指摘した。」

  1. ろんぶんがある【論文がある】(ある特定の学術誌に)論文が掲載された業績がある。「論文はあるんだけど、なかなか職が見つからない。」「彼はネイチャーに論文がある。」
  2. ろんぶんがない【論文がない】年齢相応の論文業績がないこと。論文業績が不足していること。「彼は論文がないからなぁ。」
  3. ろんぶんのけつろんはかわらない【論文の結論は変わらない】「論文データ捏造発覚→オネストエラーであったと主張→論文訂正→論文の結論は変わらない→不正はなかった」という、不正逃れのフローを構成する、常套句。実際のところ、論文の結論が変わろうが変わるまいが、研究不正の疑わしさも変わらないことに注意。

  1.          【       】①朝研究室に入るときや、夜帰るときに、研究室の誰にも声をかけないで出入りしている状態。無言でラボに入ったりラボから帰る大学院生やポスドクが、結構多い。ただし、これはラボに長くいて馴染んでいる人の場合の話で、新しくラボに入ったばかりであったり、よそのラボにお邪魔する場合には、「お早うございます。」「お先に失礼します。」と、普通に挨拶するのが一般的。もちろん、毎回常に声に出してほがらかに挨拶をする人も存在する。教官や技術補佐職員などのスタッフは、声に出して挨拶する人が多いように思う。また、挨拶の動作が最小化された結果、アイコンタクトやかすかな会釈など、当事者同士のみで意志の疎通が行なわれていることもある。 大学院生がいつのまにか来なくなっても、誰も話題にしない状態。もちろん、望ましいことではない。「●●って最近見ないね。」「大学院辞めて、田舎に帰ったらしいよ。」 アメリカで日本人ポスドクが、アメリカ人らとの会話の中で言葉をはさむタイミングが見つからなくてずっと黙っていると、いつまでも、存在しないものとして扱われる、その状態。”●×△, △■□◇◆.” “△●×△◆◇?” “△●■□◆×△×◇”. “△●!” “△×◇!” “△, ◆×●■□◆◆×△■□◆×□×◇.” “■□◆.”

編注

阪大の広告に関して

  • さんい【3位】3位とは、大阪大学のことである。

「3位じゃダメなんです」という広告には、いろいろ考えさせられた。

まず、ダメーっ!と恐い顔をしている阪大学長さんの顔をみると、子供が学年3番の好成績を取って帰ってきたのに、「なぜ1番が取れないの!」と怒り出す親を思い出した(空想)。ダントツで学年トップの生徒は、勉強が好きでやっているだけで順位なんてそもそも気にもしていない。成績が2位や3位、それ以下の生徒は順位を気にしながら、親から競争心を煽られて勉強していたりする。

この広告はまた、「ピンクの象を想像 しないでください」という、心理系自己啓発本にありがちな教訓を思い起こさせる。自分で自分にこんな「万年3位」という暗示をかけてしまっていいのだろうか。また、学内外の皆の脳裏に焼きついた「3位」という言葉を完全に消去するためには、この先いったいいくら広告料を使えばいいのだろうか?

さらに、阪大といえば、世界一の研究成果を挙げている先生がたくさんいるのに、たった一つのモノサシで測っただけの3位という自虐的なイメージを、莫大な広告料を払って全世界にアピールするのってどうなんだろう?

そもそも、順位というのは結果であって、目的ではない。順位を上げようという意識で努力する人間は、なかなかトップにはなれないと思うし、一時的になったとしても、すぐにその座から転落するのがオチである。だいたい、何処の誰かわからない人たちが勝手につくった大学ランキングを気にするのは、受験産業が作り出した偏差値を信仰して歪んだ感覚になっている受験生と大差ないのではないか。「うちは日本で3番の大学なんです」という大学に行きたいと思う学年成績トップの高校生が、はたして、いるだろうか?自分を測るモノサシなんて、自分でつくればええやんか!

いろいろ書いてきて、あらためてこの広告を見てみたら、キャッチコピーの後にはゴニャゴニャと良いことも書かれていた。しかし、そんなものはほとんど読まれないので(自分は読んでなかったか、読んでもすぐ忘れてた)、メインのフレーズの中に一番伝えたいメッセージが込められていない広告は、効果がないか、今回のように逆効果だと思う。

どうもこの広告は中身は研究者、業界の人に向けられたもののように感じるが、新聞広告を打った以上、一般の人を対象にしたかったのであろう。しかし、一般の人は阪大が3位なんてことを誰も意識していないと思う。大阪の人にとって阪大は1番だし、東京の人からみれば一地方大学でしかない。つまり、阪大関係者以外の誰も、阪大が3番と意識していない。そんなわけで、広告の内容と広告の訴求対象がマッチしていないように思う。

いずれにせよ、催眠心理学が教えるところによれば、人間はイメージした通りのものになるというから、ネガティブなメッセージを伝えたいわけでもない限り、ネガティブなイメージを広告の前面に出すやり方はやめたほうがいいと思う。

以上、広告って難しい!という感想でした。

 

 

参考

  1. クレジット【credit】「科学者の研究への貢献を認めることをクレジット(credit)といいます。」(科学の健全な発展のために -誠実な科学者の心得ー 日本学術振興会 PDF14ページ). Caudri et al., Doing science: how to get credit for your scientific work. Breathe (Sheff). 2015 Jun; 11(2): 153–155. (PubMed)
  2. じぶんもそれをかんがえていた【自分もそれを考えていた】今、ちょうどそれを云おうと思ってたんだ。 何も考えていないボスが、下から出て来た自分が思い付きもしなかった良いアイディアを聞いて、恰も自分も同じことを考えていたかの様に取り繕う際の常套句。@Xenopus007
  3. たたかう【戦う】最後に「受理」という甘美な果実を手にするためには、投稿誌の編集者や査読者という強敵と戦い抜くだけの知力と忍耐力、そして決断力が必要である。(ポール・J・シルヴィア著『できる研究者の論文作成メソッド』 推薦の言葉 三中信宏 より)
  4. でぃすくりぷてぃぶ【descriptive】「この研究は基本的にしっかりした内容であるが、記載的過ぎる難がある。」(The ‘Descriptive’ Curse). Arturo Casadevall. Mechanistic Science. Infect Immun. 2009 Sep; 77(9): 3517–3519.(PubMed)

参考(その他)

  1. あなたの大学でしか通用しない「用語」(マイナビ 2015/04/18)

 

研究生活カテゴリーの記事一覧

東大医学部の疑惑論文等を画像ソフトで確認

対立する主張

ネットには真偽不明な情報が氾濫しています。正反対の主張を目にしたとき、どちらを信じればよいのでしょうか?

Ordinary_researchersの主張

東京大学は、この夏に2回にわたって届いた研究不正の告発書を受けて、規程に従って予備調査を行い、正式に調査に入ると9月20日に発表した。医学部を中心とした6つの研究室から出ている合計22本の論文で、不自然な点があるという。6つの研究室の主宰者は、いずれもその分野では名前の知れた大物教授ばかりだ。国から受けている研究費の額も大きい。 (ヤフーニュース 2016/10/15)

告発された東大教授らの一人の反論

“This is a totally groundless and false accusation by a faceless complainant,” Kadowaki told ScienceInsider in an email. “We have absolute confidence in all of our data,” he wrote. (University of Tokyo to investigate data manipulation charges against six prominent research groups.  Science News ScienceInsider By Dennis Normile Sep. 20, 2016)

 

自分達の実験データに絶対的な自信があるというのであれば、実験ノートを見せて実験が行われていた事実を示し、生データを全て開示して、エラーバーをいじった棒グラフに関してp値を計算して有意差が確かにあることをみせてほしいものです。

 

Ordinary_researchersの告発文書 Documents of accusation by Ordinary_researchers

Ordinary_researchersは告発文書には、論文の図のおかしさが言葉と図で説明されています。

  1. http://ow.ly/d/5cvq (12ページPDF はじめに~ 2016年8月14日)(PDF コピー
  2. 告発文1 5cvq.pdf )
  3.   http://ow.ly/d/5cvr (5ページPDF 研究資金リスト 2016年8月14日)(PDF コピー 告発文2 5cvr.pdf
  4. http://toudai20168.up.seesaa.net/image/E5918AE799BAE69687EFBC93.pdf(52ページPDF  不自然なデータの指摘 2016年8月14日) (PDF コピー 告発文3.pdf  )
  5. 追加の告発文 http://toudai20168.up.seesaa.net/image/E69DB1E5A4A7E5918AE799BAE7ACACE4BA8CE5BCBE20-20E382B3E38394E383BC.pdf (2016年8月29日)(PDFコピー

 

報道でも、不正が疑われる図の解析手法について、説明があります。

ベクトルデータの図は、Adobe Illustratorなどの作図ソフトで開くと、誌面上では1枚に見えるグラフが、X軸、数字、棒グラフのデータの棒の枠、塗りつぶしにするための黒い長方形、エラーバーを構成する横棒と縦棒など、いくつもの構成要素(オブジェクト)から成り立っていることがわかる。そして、個々のオブジェクトをずらしたり、消したりできるのだ。告発の対象になった論文で、棒グラフのデータ本体の棒を横にずらしたり削除したりすると、エラーバーがデータの下に埋め込まれていた例が多数あった。また、本来であれば1枚の図であるはずなのに複数のパーツからできていたり、あるパーツを90度回転させると、別の図でのパーツに酷似していたりする。(論文不正の告発を受けた東京大学(2) その解析方法の衝撃 ヤフーニュース 2016/10/15

 

DIY: Exposing hidden error bars in Nature papers

ところで、一次情報である論文にアクセスできる場合には、真偽のほどを自分で判断することが可能です。しかし、告発された論文の図をウェブサイトで確認してみると、JPEG形式になっており、自分も最初そうでしたしたが、どうしてあのような解析ができたのかがわからない人もいるようです(897)。そこで、告発文書で指摘されている疑惑のごく一部ではありますが、「棒グラフの背後に隠されたエラーバー」、および「使いまわされた同一のエラーバー」を実際に確認してみたいと思います。高価なアドビイラストレーターがなくても、フリーウェアで事足ります。どちらの主張が本当にgroundless(事実無根)なのか、是非ご自分の目で確かめてみてください。

 See which claim is groundless and make your own judgement

用意するもの What you need

  1. インターネットがつながるパソコン A PC with an Internet connection
  2. ベクター形式の図を取り扱える画像編集ソフト。Inkscape(インクスケープ)(無料)やアドビイラストレーター(有料)など。Vector graphics software
  3. 疑惑論文PDFへのアクセス権 Access to the paper PDF of your interest

 

手順 Step-by-step instructions to reveal hand-written error bars

ベクター形式の図を含む論文PDFの入手 Get the full paper in PDF format, not each JPEG image

不正が疑われている論文のPDFを入手します。図単体のJPEGファイルは、ベクター形式でないため解析できません。必ず論文のPDFを入手してください。もちろんPDF中の画像がベクター形式でないような論文の場合、この解析は適用できません。

一つめの例として、告発文書で指摘された東大医学部の論文の一つ、Adiponectin and AdipoR1 regulate PGC-1α and mitochondria by Ca2+ and AMPK/SIRT1をみてみます。まずは、PDFをダウンロードします。


Fig. 1, On the website, the bar graphs seem to show significant differences. 例として用いた論文の図。解析のためには、このような図単体の画像ファイルではなく、論文全体のPDFに含まれる図を対象とする必要がある。

 

画像編集ソフトで論文PDFを開く  Open the PDF in Inkscape and “un-group” the objects in the PDF

この論文PDFをInkscapeで開きます。これで、図の個々のオブジェクトを編集できる状態になります。ただし、論文によっては図を構成するオブジェクトがグループ化されている場合もあるので、その場合は個々のオブジェクトがばらばらになるまで「グループを解除」する必要があります。

それではいよいよ、バーグラフを構成するオブジェクトのうち、白色や黒色に塗られた部分に相当するオブジェクトを脇にどけてみます。今回の例では、棒グラフの枠の部分のオブジェクトと、内部のオブジェクトが重なって配置されていましたが、クリックを繰り返すことにより選択するオブジェクトを変更できました。

Fig.1a, bの白塗り、あるいは黒塗りのオブジェクトを上の方に全部ずらしてみると、告発文書の説明通り、エラーバーが棒グラフの中に深く埋もれている様子が露わになりました(下図)。


Fig. 1, If you open the paper PDF in Inkscape or Adobe Illustrator, and put aside some objects on the bar graphs, the hidden parts of the error bars come into sight. You can find similar inappropriate data presentation all over this paper, as Ordinary_researchers pointed out in the documents.

この論文のほかの棒グラフも同様に処理してみると、驚いたことに全てのグラフでこのようになっています。

 

2つめの例として、東大医学部の別のラボから出たこの論文HIF-1α-PDK1 axis-induced active glycolysis plays an essential role in macrophage migratory capacityを見てみましょう。

 

告発文書によれば、この論文の図4のバーグラフでは、なんとエラーバーの長さが複数のグラフに対して2種類しかないそうです。先ほどと同様に論文のPDFファイルInkscapeで開きます。不自然な箇所の指摘は多数ありますが、とりあえず、Figure 4a i のグラフに絞ってみてみます。ここには9個の棒グラフおよびエラーバーがありますが、エラーバー以外を全て取り去り、「グループ解除」「グループ化」「整列」「配置」などを使って、エラーバーの高さがわかりやすいように整列させてみました(下図)。告発文書の指摘通り、9つのエラーバー(標準偏差)なのに、大きさが2種類しかありません。


Fig.4a i, When aligned, it becomes obvious that some error bars are identical to each other. You can find similar inappropriate data presentation in other graphs in this paper, as pointed out by Ordinary_researchers in the documents. Semba et al., 2016 Nat Commun Fig.4a iで用いられていた9つのエラーバーを整列させたところ、高さが2種類しかない

 

2022年12月25日追記:余談ですが、大文字のTをエラーバーに使ってましたっていう論文がリトラクションウォッチに紹介されてました(下のツイート)。この撤回論文はもうジョークでしかないですが、上の東大医学部の論文も、この撤回論文とやっていることが大差ないように自分には思えます。しかし、東大は何の理由も述べずにこれらの疑惑論文に不正は認められないと主張しました。そのため、上の論文は撤回されることもなく、今(2022年12月現在)でも生きています。つまり、東大の研究業績として、東大に公的補助金が流れ込むのに貢献しているというわけです。ジョークとして笑いとばすことは全くできません。実験値を表さないような棒グラフを適当に手で描いたり、エラーバーを手作業でいじるのは研究不正には該当しないとか、統計ソフトを使えば手作業を入れる余地がないにもかかわらず、手作業を挟むのが通常の論文作成の作法だなどとのたまうような大学が、10兆円ファンドの対象となる国際卓越研究大学に選ばれるのって、何かの悪い冗談ですか?って内心思います。

 

 

3つめの例として、東京大学分子細胞生物学研究所(分生研)からの論文Condensin association with histone H2A shapes mitotic chromosomes Fig.3dをみてみます。棒グラフの黒い部分を脇にどけてみると、おかしなエラーバーが現れます。図の説明によれば、Error bars represent s.e.m. (n=15 cells). ***,P<0.001. エラーバーはSEMだそうですが、やはり中に押し込んで短く見せかけています。

それだけでなく、上図3つのエラーバーを拡大して整列させてみると、大きさが同一で、しかもなぜかほんのわずか傾いていることがわかります。告発文書が指摘している通りでした。


(Fig.3d, When aligned, it becomes obvious that the error bars in Fig.3d are identical. For more detailed information, see the Ordinary_researchers’ documents.)

 

考察 Some thoughts

1番めの例のように、片側表示しているエラーバーが棒グラフの内側に入り込むなどということは、通常の論文図作成過程ではあり得ません。念のため、他の不正の疑いがない論文PDF中の棒グラフも試しましたが、このようなおかしなことは生じませんでした。この論文にはここで示した以外にも多数の棒グラフが含まれますが、ほぼ全てでエラーバーの陥没が認められました。エラーバーを短くして有意差があったかのように見せかける意図が伺われます。論文の主張を裏付けるはずの多数の実験データが、実はどれも”有意差無し”だったのだとしたら、実に衝撃的です。操作された図の多さからすると、「この実験で有意差が出てくれないと困る!」という切羽詰った動機によるものではなく、このような”作業”が常態化していることが伺われます。

2番目や3番目の例のように実験群のエラーバーがこんなふうに同一になることはあり得ません。標準偏差や標準誤差の計算すら端折って、コピペで同じエラーバーを使いまわしていることから、このような”作業”が常態化していることが伺われます。統計ソフトを使うと数値データからグラフを描くのはソフトが自動的にやってくれますので、エラーバーの位置や長さに関して手作業が介入する余地はありません。標準偏差や標準誤差の計算をはしょったどころか、計算に使うべき数値データがそもそも存在していなかった可能性すら考えられます。

 

結論 Concluding remarks

実験データを統計処理してグラフを描いた経験がある人であれば、これぞまさしくデータ捏造の動かぬ証拠と考えるのが普通でしょう。これがデータ捏造ではないというのであれば、東京大学の調査委員会や論文著者は、実験ノートを開示して実験が本当に行なわれていたことを示し、実験ノートに記載され図作成に用いられた全ての数値から有意差があることを計算してみせ、何の意図でどのような操作をすればこんなデタラメな図が作成できるのかを、研究者コミュニティおよび国民に対して早急に説明する必要があります。仮に、そういった情報の開示なしに「不正はありませんでした」と言われたところで、そんな根拠のない主張を受け入れる人はあまりいないでしょう。

 

(20170807追記) m3.comに調査書本文の一部と思われる部分が記載されていたので、転載しコメントを追加します。

【医学系研究科5教授の論文の調査結果の概要】
 調査においては、実験ノート、オリジナルデータの確認を行い、これらの全部または一部失われた場合は、関連する実験ノート、その他のデータ・記録の存在および内容を確認した。その結果、全ての論文について、実験は実施されたものと認められ、本件においては捏造はないと判断した。
 他方で、雑誌に掲載された論文の図および再現データ(出版社のWebサイト上の論文の図等から得られる「ベクトルデータ」から再現された数値データ)を確認したところ、ほとんどの図で、申立者の指摘するような、再現データとオリジナルデータは一致していないという事実が確認された。
 そのため、さらにその原因を調査し、不一致が改ざんによるものか否かの確認、検討を行ったが、いずれも改ざんによって生じたものとは認められなかった。(引用元:東大・分生研教授ら、5報の論文で不正行為 調査結果を公表、医学系研究科5教授は不正なし m3.com 2017年8月2日)

実に興味深いことに、東大の不正調査委員会は、「ほとんどの図で、申立者の指摘するような、再現データとオリジナルデータは一致していない」とOrdinary_researchersの指摘を認めました。生データが図に一致しない論文を出すのは、研究不正の定義そのものですから、事実上研究不正を認めた文言と受け取れます(少なくとも自分には)。

改ざん:データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。文科省

それにもかかわらず、東京大学は何の根拠も示さずに、図とオリジナルデータの不一致は改ざんではないと主張しています。改竄ではないと判断するならその根拠を説明すべきです。改竄ではないので調査内容は公開しないという主張は、論理が破綻しています。

 

 

このような不適切なデータを含む論文が、2016年8月14日付けの告発以来長期にわたって著者からの何の釈明もなく、訂正も撤回もされないまま現在に至るまで放置されています。何も知らない世界中の研究者らは今日もこの論文を読み、引用し続けていることが、論文のArticle metricsから伺えます。

 

追記(6月20日)

T大糖○△内科の論文著者の一人が「手作業でエクセル変換したらズレただけ」と釈明したというツイートを見かけました。仮にこの発言が真実だとすれば、この著者はズレる前のエラーバーの長さとズレた後のエラーバーの長さを見ていたということになります。研究者であれば実験結果のエラーバーの大きさは非常に気になることなので、これほど長さが変われば、気付かないはずがありません。仮に、気付かなかったという言い訳が出たとしても、質や量を考えればこれは「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる捏造」(文科省ガイドラインPDF)に該当すると思います。また、エラーバーがズレたのかどうかは別にしても、実験ノートに記録されているデータに対して正しい検定方法を適用した場合に有意差があること、さらに、このエラーバーの長さも再現されることを示す責任が論文著者にはあります。また、そのような調査を行ったかどうかを国民に報告する責任が、東京大学の調査委員会にはあります。

関連記事 ⇒ 医学系論文に関する報告がまだ済んでいない東大

 

参考

  1. 22報論文に関する調査報告書
  2. 東京大学病院糖尿病・代謝内科(科長 門脇 孝 教授)
  3. 東京大学医学部附属病院 循環器内科(小室 一成 教授)
  4. 東京大学分子細胞生物学研究所 染色体動態研究分野 渡邊 嘉典 研究室

 

論文不正疑惑のラボで起きていたもっと恐ろしい出来事

研究をやってきた人間としては、トップジャーナルの論文の図の棒グラフやエラーバーが全部デタラメという様を見せつけられるのは、一般の人が人殺しの現場を見せられるくらいのおぞましさじゃないかと思います。ところが、上で紹介した臨床系のラボが関わった東大病院の手術でトンデモないことが起きていたという報道がありました。手術で患者さんが亡くなったのですが、その経過を読んだら、基礎研究の論文におけるデータ捏造のおぞましさが吹っ飛ぶくらいの衝撃を受けました。

  1. シリーズ「検証東大病院 封印した死」(TANSA (旧称:ワセダクロニクル))

 

更新:20180221 誤字訂正 20170814 記事タイトルを短く「東大医・分生研論文疑惑を画像ソフトで確認」と変更していたのですが、旧タイトル「不正疑惑渦中の東大医学部論文および東大分生研論文の告発内容を画像編集フリーソフトで確認する方法」に戻しました。ヤフー解説記事に旧タイトルでリンクしていただいたため。 20170807 m3.comの資料を転載 20170702 簡潔な英語の注釈を付記 20170621 解析例を2つ追加

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Ordinary_researchersの告発2通め11論文

東大の論文不正を告発する文書が2016年8月に2回に分けて東大などの関係各所へ送付されました。1つめの告発文書の論文は以前紹介しましたので(記事)、2016年8月29日の2つめの告発文書に記載された論文を紹介します。

小室一成氏の研究室より出された論文

Nature Communications 7, Article number: 11635 (2016) doi:10.1038/ncomms11635 Published online:18 May 2016. HIF-1α-PDK1 axis-induced active glycolysis plays an essential role in macrophage migratory capacity. Hiroaki Semba, Norihiko Takeda, Takayuki Isagawa, Yuki Sugiura, Kurara Honda, Masaki Wake, Hidenobu Miyazawa, Yoshifumi Yamaguchi, Masayuki Miura, Dana M. R. Jenkins, Hyunsung Choi, Jung-whan Kim, Masataka Asagiri, Andrew S. Cowburn, Hajime Abe, Katsura Soma, Katsuhiro Koyama, Manami Katoh, Keimon Sayama, Nobuhito Goda, Randall S. Johnson, Ichiro Manabe, Ryozo Nagai & Issei Komuro 問題点:エラーバーの長さが2種類のみの図

International Heart Journal Vol. 57 (2016) No. 2 p. 198-203. http://doi.org/10.1536/ihj.15-332. Shorter Heart Failure Duration Is a Predictor of Left Ventricular Reverse Remodeling During Adaptive Servo-Ventilator Treatment in Patients With Advanced Heart Failure.Teruhiko Imamura1), Koichiro Kinugawa1), Daisuke Nitta1), Issei Komuro2) 1) Department of Therapeutic Strategy for Heart Failure, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo 2) Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo. Released on J-STAGE 20160322   [Advance Publication] Released 20160311. 問題点:奇妙なまでに一致する平均値とSD PubPeer.comでの議論https://pubpeer.com/publications/26973264

Scientific Reports 5, Article number: 14453 (2015) doi:10.1038/srep14453. Published online: 25 September 2015. Angiotensin II receptor blockade promotes repair of skeletal muscle through down-regulation of aging-promoting C1q expression. Chizuru Yabumoto, Hiroshi Akazawa, Rie Yamamoto, Masamichi Yano, Yoko Kudo-Sakamoto, Tomokazu Sumida, Takehiro Kamo, Hiroki Yagi, Yu Shimizu, Akiko Saga-Kamo, Atsuhiko T. Naito, Toru Oka, Jong-Kook Lee, Jun-ichi Suzuki, Yasushi Sakata, Etsuko Uejima & Issei Komuro 問題点:Fig.7 完全に一致するエラーバーの長さ PubPeer.comでの議論https://pubpeer.com/publications/26571361

Scientific Reports 6, Article number: 25009 (2016) doi:10.1038/srep25009. Published online:05 May 2016. Activation of endothelial β-catenin signaling induces heart failure. Akito Nakagawa, Atsuhiko T. Naito, Tomokazu Sumida, Seitaro Nomura, Masato Shibamoto, Tomoaki Higo, Katsuki Okada, Taku Sakai, Akihito Hashimoto, Yuki Kuramoto, Toru Oka, Jong-Kook Lee, Mutsuo Harada, Kazutaka Ueda, Ichiro Shiojima, Florian P. Limbourg, Ralf H. Adams, Tetsuo Noda, Yasushi Sakata, Hiroshi Akazawa & Issei Komuro 問題点:繰り返される数字;均一化された背景

 

渡邊嘉典氏の研究室より出された論文

Cell  123(5):803–817; 2 December 2005.DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2005.09.013 The Kinetochore Protein Moa1 Enables Cohesion-Mediated Monopolar Attachment at Meiosis I. Shihori Yokobayashi ,Yoshinori Watanabe 問題点:異なる実験なのに非常に良く似た画像;不自然に揃うネガティブデータと縦軸が違うのに揃う高さ PubPeer.comでの著者らの回答:https://pubpeer.com/publications/16325576

Nature 455, 251-255 (11 September 2008) | doi:10.1038/nature07217; Received 8 April 2008; Accepted 27 June 2008; Published online 17 August 2008. Heterochromatin links to centromeric protection by recruiting shugoshin. Yuya Yamagishi, Takeshi Sakuno, Mari Shimura & Yoshinori Watanabe 問題点:異なるSDを持つ同一データ;背景が均一なウェスタンブロット画像;背景が均一化された蛍光顕微鏡画像;グラフのデータは実在するのか?;切り貼りされ、縁の奇妙な酵母培養ディッシュ

Science 08 Oct 2010:Vol. 330, Issue 6001, pp. 239-243 DOI: 10.1126/science.1194498. Two Histone Marks Establish the Inner Centromere and Chromosome Bi-Orientation. Yuya Yamagishi, Takashi Honda, Yuji Tanno, Yoshinori Watanabe 問題点:数学的にあり得ないSD

Nature Cell Biology 12, 500 – 506 (2010)  Published online: 11 April 2010 | doi:10.1038/ncb2052 Shugoshin–PP2A counteracts casein-kinase-1-dependent cleavage of Rec8 by separase. Tadashi Ishiguro, Koichi Tanaka, Takeshi Sakuno & Yoshinori Watanabe 問題点:部分的に諧調を変更した培養ディッシュ;粗雑なグラフ PubPeer.comでの著者らの回答https://pubpeer.com/publications/20383139

Nature 2011 Jun 1;474(7352):477-83. doi: 10.1038/nature10179. Condensin association with histone H2A shapes mitotic chromosomes. Kenji Tada,Hiroaki Susumu,Takeshi Sakuno & Yoshinori Watanabe 問題点:エラーバーが調節された可能性;ノイズが消失した背景;その他グラフについて

EMBO Reports 2011 Oct 28;12(11):1189-95. doi: 10.1038/embor.2011.188. Acetylation regulates monopolar attachment at multiple levels during meiosis I in fission yeast. Ayano Kagami, Takeshi Sakuno, Yuya Yamagishi, Tadashi Ishiguro, Tatsuya Tsukahara, Katsuhiko Shirahige, Koichi Tanaka, Yoshinori Watanabe 問題点:背景が均一なウェスタン画像

Science 2015 Sep 11;349(6253):1237-40. doi: 10.1126/science.aaa2655. The inner centromere-shugoshin network prevents chromosomal instability. Yuji Tanno,Hiroaki Susumu,Miyuki Kawamura,Haruhiko Sugimura,Takashi Honda, Yoshinori Watanabe 問題点:SDも含めて高さの同じデータ;データの10%に揃うSEM;背景が白紙の画像

 

Ordinary_researchersは、告発文書を東京大学、文部科学省、厚生労働省、JST, JSPS, AMED, 内閣府、掲載誌の編集部、マスコミ各社に送付したそうですが、私の知る限り、一般には公開しませんでした。誰がアップロードしたものかはわかりませんが、2つめの告発文書PDFへのリンクが2chで紹介されているのをたまたま見かけたので、ここに転載します。

注意:この文書で指摘された問題の一部に関しては、PubPeer.com上で議論されており、著者らが回答しているものもあります。そちらも合わせてご覧ください。

東京大学医学部および東京大学分子生物学研究所(以下,分生研)の研究者らが発表した論文について,8月15日に投函した告発に続き,ここに新たに追加の告発を行う.… 2016年8月29日 Ordinary_researchers (http://toudai20168.up.seesaa.net/image/E69DB1E5A4A7E5918AE799BAE7ACACE4BA8CE5BCBE20-20E382B3E38394E383BC.pdf

 

 

ベクター画像とは?

ベクトルデータの図は、Adobe Illustratorなどの作図ソフトで開くと、誌面上では1枚に見えるグラフが、X軸、数字、棒グラフのデータの棒の枠、塗りつぶしにするための黒い長方形、エラーバーを構成する横棒と縦棒など、いくつもの構成要素(オブジェクト)から成り立っていることがわかる。そして、個々のオブジェクトをずらしたり、消したりできるのだ。  (論文不正の告発を受けた東京大学(2) その解析方法の衝撃YAHOO!JAPANニュース)

エラーバーの長さをチェックする方法

資料

  1. 告発文1 5cvq.pdf (12ページPDF はじめに~ 2016年8月14日)
  2. 告発文2 5cvr.pdf (5ページPDF 研究資金リスト 2016年8月14日)
  3. 告発文3.pdf (52ページPDF  不自然なデータの指摘 2016年8月14日)
  4. 追加の告発文 http://toudai20168.up.seesaa.net/image/E69DB1E5A4A7E5918AE799BAE7ACACE4BA8CE5BCBE20-20E382B3E38394E383BC.pdf (2016年8月29日)

 

参考

  1. 東京大学医学部付属病院 循環器内科(小室一成教授)
  2. KAKEN科学研究費助成事業データベース
  3. 渡邊研究室 東京大学分子細胞生物学研究所 染色体動態研究分野
  4. KAKEN科学研究費助成事業データベース
  5. 捏造、不正論文 総合スレネオ 34 :0159名無しゲノムのクローンさん2017/02/18(土) 16:47:18.74
  6. 論文不正の告発を受けた東京大学(1) どこまで調査をするのか? (YAHOO!JAPANニュース詫摩雅子  | 科学ライター&科学編集者 2016/10/15(土) 16:00):”9月1日までに東京大学は2通目の告発書を受け取る。今度は2人の教授、11本の論文が挙げられていた。・医学部のE教授研究室から出ている2015年の3本と2016年の1本の合計4本・分子細胞生物学研究所(分生研)のF教授研究室から2005年から2015年に出された7本 ネットにはその前から流れていたようだが、大手メディアがこの件を報じたのは9月1日からだ。 “
  7. 論文不正の告発を受けた東京大学(2) その解析方法の衝撃 (YAHOO!JAPANニュース 詫摩雅子  | 科学ライター&科学編集者 2016/10/15(土) 22:00)
  8.  

 

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西塚泰美先生曰く「すべての論文は 嘘だと思って読みなさい」

本庶佑博士がSTAP問題についてコメントした「新潮45」の記事(全文PDF)の中で、他人の書いた論文を読むときの心得が説かれています。これから研究者を目指す人、大学院生にとっては必読の教育的な内容です。

子供の頃から、教科書や本の内容、新聞記事など、印刷されて世に出回っているものは「真実」であると信じて、疑うことを知らずに育って大人になってしまった人は、学術論文も当然真実だけが書かれていると思い込んでいるかもしれません。そのような素直で正直な性格の人は、要注意です。

中世イスラムの科学者イブン・アル=ハイサムも、過去の科学者が書いた書物を鵜呑みにするなと戒めています。

真実を捜し求める者というのは、古い書物から学ぶ際に、書かれていることを性格的に信頼してしまうような人間ではなく、むしろ、自分が書物を信じてしまうことに疑いを持ち、書物から集めた事柄に問いかけるような人間である。

論拠や実演には従うが、あらゆる種類の不完全さや欠陥でいっぱいの人間の言葉には従わないような人間である。このように、科学者の書いたものを吟味する人間の義務というのは、もし真実を学ぶことが目的なのであれば、読んだこと全てを敵にまわすこと、書かれた内容の中核および周辺に注意を向けながら、あらゆる側面からその書物に挑むことである。

また、読んだ内容を批判的に吟味する際には、自分自身を信用しないようにしなければならない。そうすることにより、偏見や甘さに陥ることを避けることができよう。(イブン・アル=ハイサム, 965-1040 訳:当サイト)

The seeker after the truth is not one who studies the writings of the ancients and, following his natural disposition, puts his trust in them, but rather the one who suspects his faith in them and questions what he gathers from them, the one who submits to argument and demonstration, and not to the sayings of a human being whose nature is fraught with all kinds of imperfection and deficiency. Thus the duty of the man who investigates the writings of scientists, if learning the truth is his goal, is to make himself an enemy of all that he reads, and, applying his mind to the core and margins of its content, attack it from every side. He should also suspect himself as he performs his critical examination of it, so that he may avoid falling into either prejudice or leniency.(イブン・アル=ハイサム, 965-1040.https://en.wikiquote.org/wiki/Alhazen)

 

本庶先生いわく、

”しばしば秀才が陥る罠ですが論文に書いてあることがすべて正しいと思い一生懸命知識の吸収に励むあまり、真の科学的批判精神を失うという若者が少なくありません”

では一体どのような態度で他人の論文に接するべきなのでしょうか?

”重要なことは雑誌に公表された論文をそのまま信じてはいけないと言うことです。私は大学院の指導教官であった西塚泰美先生(元神戸大学長)から「すべての論文は嘘だと思って読みなさい」と教えられました。まず、疑ってかかることが科学の出発点です。教科書を書きかえなければ科学の進歩はありません。”

なぜ他人の論文を疑ってかからないといけないのか?それは論文を書いた科学者も所詮は人間のため、自分の思い込みによってデータを取捨選択してしまったり、データの解釈を誤ってしまう可能性があるからです。

”データの加工ということは多くの論文である意味で避けられないところがあります。例えば、顕微鏡下で見た写真の中で自分の考え方に合うと思われる一部分の場所を拡大したり、その部分を集めてくるという作業は意識的・無意識的に係わらず多くの研究者たちが行うことだと思います。通常はそれが意図的な変更でないことを別の方法で検証したデータをつけます。読む方としては当然そういうことも計算に入れて論文を読む必要があります。”

実際のところ、世に出回っている論文のうち、どれくらいの割合で間違いが存在するのでしょうか?

”私の大雑把な感覚では論文が公表されて1年以内に再現性に問題があるとか、実験は正しいけれども、解釈が違うとか、実験そのものに誤りがあるとか言った理由で誰も読まなくなる論文が半分はあります。2 番目のカテゴリーとしては、数年ぐらいはいろいろ議論がされ、まともに話題になりますが、やがてこの論文が先と同様に様々な観点から問題があり、やはり消えていくもの30%ぐらいはあるでしょう。論文が出版されてから20 年以上も生き残る論文というのはいわゆる古典的な論文として多くの人が事実と信じるようになる論文で、まず20%以下だと考えております。中には最初誰も注目しなかったのに5~10年と次第に評価が上がる論文もあります。”

以前、「医学生物学論文の70%以上が、再現できない!」というネイチャーの記事が話題になりましたが、ウソや間違いが論文発表されている割合は思いのほか高いようです。

STAP細胞はまだ詳細な調査報告結果が発表されましたが、不正の疑義が呈されても、「研究不正はなかった」の一言で誤魔化して、実験が正しく行われていた証拠を一切見せない大学もあります。そんな論文を信じていいいのかどうか、ご自分でご判断ください。

関連記事 ⇒ 東大医学部疑惑論文をフリーソフトで確認

 

参考

  1. STAP 論文問題私はこう考える 分子生物学会ウェブサイト内 PDFリンク 本庶 佑 元役員 2014年7月9日 新潮社「新潮45」July 2014 p28~p33より転載)
  2. NIH mulls rules for validating key results (31 July 2013):”…In a 2011 internal survey, pharmaceutical firm Bayer HealthCare of Leverkusen, Germany, was unable to validate the relevant preclinical research for almost two-thirds of 67 in-house projects. Then, in 2012, scientists at Amgen, a drug company based in Thousand Oaks, California, reported their failure to replicate 89% of the findings from 53 landmark cancer papers….
  3. ”白楽は、大学院生の頃から、論文を吟味しながら読む習慣がある。というか、まともな研究者は全部そうだろう。論文をハナから信じることはない。むしろ、間違っている点はどこか、不備な点・足りない点はどこかと思って読む。そうでなければ、その論文を越える研究ができない。他の研究者の研究成果は、まず、吟味する。しつこく、徹底的に吟味する。イヤラシイほど吟味する。そして、ほとんどの場合、間違っている点・不備な点・足りない点を見つけてしまう。” (研究倫理 白楽ロックビルのバイオ政治学 研究界の不祥事の全体像