日本の科学研究史上最悪の研究不正
サイエンス記事では、弘前大の研究不正事件を史上最大級の一つとしていますが、私は個人的には東京大学医学部のデータ捏造論文(=オリジナルデータと論文データがことごとく異なる)を東大の現執行部が隠蔽(=本調査の報告書すら非公表)していることも、日本の科学研究の歴史における最大最悪の不正の一つだと思っています。
なにしろ、「論文のグラフが手描きで作られていて(=つまり、デタラメ)、オリジナルデータと論文データがことごとく異なるもの(=つまり、全部がデタラメ)」を、日本でトップの研究大学である東京大学の総長や理事ら現執行部が「研究不正とはみなさない」と公式に宣言したのです。これにより、日本の科学研究の世界において「研究倫理」という言葉は、その意味を完全に失ったように感じます。
Ordinary_Researchersが同時に告発した理学系論文の方はクロをクロとして厳正に対処した一方で、医学系論文に関してはクロをクロと呼ばずにシロと呼ぶことにして、シロなのでハイおしまい、こんな屁理屈で重大な論文不正疑惑にフタをしようとする東大の破廉恥ぶりには驚き呆れます。
私はOrdinary_Researchersの告発文書を見て、いくらなんでもここまでデータ捏造の証拠を突きつけられたら誰も言い逃れはできないだろうと思っていました。
東大医学部の疑惑論文、エラーバーすら使い回しって。。これで不正と認定されない可能性って0.0何パーセントくらいあるんだろうか? https://t.co/bhYH3q0wbr pic.twitter.com/I5vNyFNHD9
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2017年6月21日
なので、まさか、科学者や弁護士という立派な経歴を持つ東大執行部の大人たちが、こんな幼稚なことを真顔で言って医学部の不正疑惑の幕引きを謀ろうとするなどとは、自分は夢にも思いませんでした。
背中にナイフが刺さった状態でうつ伏せに倒れて路上で死んでいる人を誰かが見つけて通報したところ、それは自然死なので事件性はないと現在の日本の警察が発表したくらいの計り知れない衝撃を感じたニュース 東大が医学系5研究室に不正はないと結論 https://t.co/q7qzJ4PhSf
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2017年8月1日
医学系論文の一部に関してはオネストエラーあるいは雑誌社編集過程でのミスだったと説明されましたが、説明が一切なされなかった論文に関しては、デタラメな論文(=論文の図のどのグラフも実験値を表していない)にもかかわらず不正認定を免れて立派な”研究業績”として生きているため、現在も、国民の税金が原資である科学研究費が何億円という規模でこれらの”研究者”のもとに流れ込んでいます。
もしもデータ捏造の事実があり、東大理事や監督省庁(文科省)、研究資金配分機関(文科省、厚生省、経産省、AMED)の官僚らがそれを知りつつ隠蔽しているのだとしたら、彼らのやっていることは公金の横領となんら変わらない重大な犯罪行為だと思う。https://t.co/ceD9nWEu17
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2018年2月20日
日本の科学研究において、そして、東大において、一刻も早く正義が回復することを願ってやみません。マスメディアも、東大が不正なしと発表したから「不正なし」と報道するのではなく、「東大が不正なしとした」ことの意味を報道し、ジャーナリストとしての使命を果たすべきです。
東大医学部といえば、日本全国から最高の学力を備えた高校生たちが入ってきて、トップでないと気がすまない子供たちがさぞ夢と期待を抱いて学んでいるはずなんだが、その行き着く先が捏造が常態化した研究室になるとしたら、シュールすぎる。と書いたてみたがホラー映画より恐ろしい現実に気が滅入る。
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2017年8月2日
昨今、日本の研究力が低下したことを危惧する論説が増えていますが、研究不正を研究大学のトップが公認しているという異常さに異議を唱えずに、他の原因ばかり考えるのはおかしいと思います。研究不正の蔓延が、研究力低下の大きな要因の一つであることは論をまたないでしょう。
22報論文に関する調査報告の骨子で露わな自己矛盾
東大は「22報論文に関する調査報告」の本体を非公表、「骨子」のみ東京大学ウェブサイト上で公開しており、そこには医学部系に関しはわずか19文字からなる一文しかありません。ところが、この19文字だけでもすでに大きなゴマカシがあることに気付きます。Ordinary_Researchersが告発したのは、あくまでも、図が怪しい「論文について」でした。この調査報告書もタイトルが示すとおり、「論文に関する」報告です。分子細胞生物学研究所関係の結論も、
論文(図) 5報(16図)について不正行為があったと認められた
と記述されており、「論文に関して」不正があったかなかったかの結論を述べています。ところが、非常におかしなことに、医学系研究科関係に関しては、
(結論)申立のあった5名について不正行為はない
としか言っておらず、実は、論文に関する報告をしていないのです。5名の医学系教授に不正があったかどうかの話にすり替えています。Ordinary_Researchersの告発文書を読めば明らかですが、誰も医学系教授5名を告発などしていません。告発の対象はあくまで、これらの教授の研究室から出た数々の論文です。いずれも複数の著者からなる論文であり、研究不正を働いた人間が著者の中の誰なのかは、告発者にはわからないわけですから、当然のことです。医学部の論文に関して、「(結論)申立のあった○○報(□□図)について不正行為はなかった」と書けなかった理由は何でしょうか?調査委員らも東大執行部も研究不正の自覚が十分にあり、「論文について不正行為はなかった」と言い切ることにはさすがに心理的な抵抗があったために、こんな誤魔化した日本語になったのだろうと私は想像しています。開示された調査書本体の墨塗りでない部分を読むだけでもこのような痛々しいゴマカシがさらに数多く見つかりますから、調査報告書本体を東大がウェブ公開できない心情はよく理解できますが、許されることではありません。
実際、東大が報告書や調査資料の公開を正当な理由なく拒否するのは違法であるという判断が、総務省の審査部会によって出されています。
関連記事 ⇒ 調査報告書を国民に開示しないのは違法
医学系論文に関する報告がまだ済んでいない東大
東大は医学系論文に関して不正行為があったかなかったかという報告をまだきちんと国民に対してしていません。「22報論文に関する調査報告」全文を速やかに全国民に対して公開し、調査報告書の結論を導く根拠となる、個々の論文の個々の図の実験事実を証明する調査資料の全ても合わせて開示すべきです。東大医学部における研究不正の有無を判断するのは、日本の研究者コミュニティが担うべき役割であり、東大はそれに必要な全ての資料を開示する責任があります。一部の人間による情報不開示の判断は、日本の研究の公正さ(Research Integrity)や東大の名誉を貶める所業と言わざるをえません。
ひょっとしたら、情報を開示しない東大総長や副学長や理事らは「東京大学の科学研究における行動規範」を読んでいないのかもしれないので、念のため重要なポイントを再び紹介しておきます。
- 研究活動について透明性と説明性を自律的に保証することに、高い倫理観をもって努めることは当然である。
- 広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために、その科学的根拠を透明にしなければならない
- 十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは、研究活動の当然の前提であり … その責任を果たすことによってこそ、東京大学において科学研究に携わる者としての基本的な資格を備えることができる。
(出典:「東京大学の科学研究における行動規範」PDF)
上の東大の行動規範の言葉を借りて言うなら、十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは、研究活動の当然の前提であり、その責任を果たすことができないのであれば、東京大学において科学研究に携わる者としての基本的な資格を備えていないので、東大はただちに研究をやめるべきです。
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