Category Archives: ディオバン臨床研究不正事件

ディオバン臨床試験、統計解析丸投げのウソ

ディオバン(一般名バルサルタン)臨床試験のデータ不正問題で、研究者が「統計解析の知識が無かったので専門家に丸投げしていた」という主旨の釈明をしていました。しかしどうやらそれもウソだったようです。

主任研究者である東京慈恵会医科大学循環器内科の望月正武教授(現・客員教授)に対し、共同主任研究者のスウェーデン・イェーテボリ大学准教授の Bjorn Dahlof氏が、「統計学者とも綿密に打ち合わせて、ぜひ、有意差が出る地点まで試験を継続させてください」と指示していたことが分かった。両氏はま た、中間解析の時点から、薬剤の有効性をはかる主要評価項目(プライマリーエンドポイント)の結果を熟知していたことも明らかになった。https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/45008/Default.aspx

むしろ有意差を出すために積極的に介入していたというのが真相のようです。

 

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Diovan臨床研究の滋賀医科大SMARTでも不正か

ノバルティスの降圧剤「ディオバン(一般名=バルサルタン)」 の臨床研究を行ったのは、

  1. 京都府立医科大学(KYOTO Heart Study)
  2. 東京慈恵会医科大学(JIKEI Heart Study)
  3. 滋賀医科大学(SMART; ShigaMicroalbuminuria Reduction Trial)
  4. 千葉大学 (VART; Valsartan Amlodipine Randomized Trial)
  5. 名古屋大学(NAGOYA Heart Study)

の5つ。いづれも研究を主導した研究室に多額の寄付金が供与され、ノバルティス社にとって都合の良い実験結果が得られていました。京都府立医科大学(KYOTO Heart Study)と東京慈恵会医科大学(JIKEI Heart Study)に関しては学内の調査結果が発表されており、データ操作に問題があったと結論付けています。滋賀医科大学でも論文に記載されたデータと元の資カルテの数値が一致しない部分が多数あり、データ改竄(かいざん)、データ捏造(ねつぞう)が疑われています。

千葉大学と名古屋大学はまだ論文不正調査の結果を発表しておらず、公表が待たれます。

参考

  1. ディオバン、滋賀医大もデータ不一致 学内調査、月内に公表(産経ニュース2013.10.14 09:23
  2. ノバルティス ディオバン(バルサルタン)臨床研究データ捏造疑惑 (http://diovan-novartis.blogspot.jp/
  3. 降圧剤「ディオバン」捏造臨床論文 滋賀医科大やっと認める 往生際悪い名大 (http://n-seikei.jp/)

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バルサルタン(製品名:ディオバン)臨床研究にノバルティスファーマは会社ぐるみで関与していたのか?

ノバ社は改めて会社組織としての臨床研究への関与を否定(medical.nikkeibp 2013. 9. 3 )と報道されていますが、実際のところノバルティスファーマ社は組織ぐるみで関与していたのでしょうか?

ノバルティスファーマ社は第三者に委託して今回の問題を調査し、その結果を「バルサルタンを用いた5つの医師主導臨床研究におけるノバルティスファーマ株式会社の関与に関する報告書」として自社ウェブサイト上で公開しています。その中のまとめの一部を転載すると(強調のため一部太文字下線にしました)、

  1. ノバルティスファーマの社員は一般的に、当該元社員による研究への関与は、当該元社員がノバルティスファーマの社員としてではなく大阪市立大学の非常勤講師として研究に参加していたため、許されると思い込んでいました。
  2. 当該元社員らのノバルティスファーマのアドレスを送信元として受信されたEメールおよび様々な文書や関係者の証言から窺える状況によると、5つの医師主導臨床研究の研究者は、当該元社員らがノバルティスファーマの社員であることを認識していた、ないしは認識して然るべきであったといえます。
  3. 当該元社員らの上司とノバルティスファーマの経営陣の一部の者は、当該元社員の研究への関与の程度について認識していた、ないしは認識して然るべきであったといえます。一方、経営陣のうちの上層部の者は当該元社員の日々の業務については把握していなかったと考えられます。
  4. これら5つの研究は、ノバルティスファーマの奨学寄附金による支援を受けていました。これらの奨学寄附金は、名目上は使途を特定していませんが、ノバルティスファーマは奨学寄附金が当該研究の支援に用いられることを意図及び期待し、また奨学寄附金を受け取る側も、奨学寄附金が研究の支援を意図していることを認識していました。

とのことです。ご覧の通り、この報告書はかなり踏み込んだ表現をしています。会社が多額のお金を大学の研究者に渡し、自分たちにとって有益な研究結果を期待していたと結論付けているのです。これは、会社が組織として関与していたことを強く示唆しています。

 

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Jikei Heart Study論文をLANCETが撤回

東京慈恵会医科大学で実施された降圧剤バルサルタンに関する臨床研究の論文が、掲載されていたジャーナルLANCET自身によってついに撤回されました。この撤回は、東京慈恵会医科大学Jikei Heart Study調査委員会(委員長 橋本和弘)の報告を受けて、LANCET編集部により取られた措置です。

LANCET編集部のコメント

The Lancet published the Jikei Heart Study in April, 2007. 1 On July 31, 2013, we were informed by Professor Kazuhiro Hashimoto (Jikei University) that there had been a press conference on July 30 reporting an interim conclusion from an internal investigation into this research. The report considered that “The data on blood pressure are not reliable…”. Given this finding, we now wish to retract the Jikei Heart Study on the grounds that we no longer have confidence in the published results.

この論文の内容はどのようなものだったのでしょうか?

論文発表時のノバルティスファーマのプレスリリース(2007年4月27日)によると、

  1. 高血圧治療薬ディオバン® (一般名:バルサルタン) に関する日本で初めての大規模臨床試験
  2. 従来の降圧治療に選択的AT1受容体ブロッカー(ARB)のディオバンを追加投与した群(ディオバン群)で、主要評価項目である複合心血管イベントが39%と有意に減少
  3. Jikei Heart Studyは、東京慈恵会医科大学の施設を中心として実施された試験で、降圧薬治療を受けている高血圧、冠動脈疾患、心不全を有する日本人患者3,000 例以上を対象としたもの
  4. 従来治療強化群と従来治療にディオバンを追加投与するディオバン群で、血圧値をどちらの群も130/80 mmHgを目標として下げた場合の、脳卒中を含む複合心血管イベントに及ぼす影響が比較検討された
  5. Jikei Heart Studyは、独立的な運営委員会によって企画・設計・実施された医師主導の臨床試験。運営委員会は、東京慈恵会医科大学および臨床試験に参加し た病院の代表メンバーから成る。統括責任者は東京慈恵会医科大学循環器内科の望月正武 教授。スウェーデンのサールグレンスカ大学病院のビヨン・ダーロフ教授が共同統括責任者を務めた。
  6. 本試験は、ディオバン群で明確なメリットが示されたことにより、データ安全性モニタリング委員会の勧告によって早期に終了した。
  7. ディオバンは、血圧の上昇に関与しているアンジオテンシンIIのタイプ1受容体(AT1)を選択的にブロックする薬剤 (ARB:AngiotensinII Type1 Receptor Blocker)で、高血圧治療の第一選択薬として世界約100カ国で承認。日本では、2000年に発売。

「独立的な運営委員会によって企画・設計・実施された医師主導の臨床試験」というのが真っ赤なウソで、実はディオバンを開発し販売しているノバルティスファーマ社の社員がこの臨床試験データの解析を行い、しかもそれだけではなく、欲しい結果が得られるようにデータを改竄(かいざん)し、身分を隠して論文発表に加わっていたわけですから、これほど悪質なことはありません。ノバルティス社は薬の臨床研究を行った5つの大学に対し、総額およそ11億3千万円もの寄付を行っていたそうです(2013年9月3日TBS)。組織的には関与していないという主張はただの言い逃れに過ぎず、全く説得力がありません。

データ捏造は論外としても、ノバルティス社(または事件に関与した社員)が悪者で大学の医師たちが騙されたという構図では全くありません。厚生労働省が公表している第1回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会議事録によると、

森下委員:「最後までノバルティス社の方ということを研究グループが全員知らなかったのか、途中から気づく機会があったのか、用は最後の論文のところの所属・氏名の書きぶりのことでお聞かせ願いたいと思います。
橋本参考人:「主な研究担当者は、最初に紹介されたときは大阪市立大学の非常勤講師の統計の方だという認識でした。ただ、全部で122名の医師が参加した計画ですので、その人によって大分温度差はあるのですが、主に運営委員会等に出てくるような方々は、数ヶ月後ないしは1年後ぐらいには彼がノバルティス社員だということは知っていました。つまり、最終的に論文を書く時点では主な人たちはみんな知っていた。全員ではありません。主な人たちは知っていたということです。

大学関係者はノバルティスから多額の寄付金を受け取っており、ノバルティスが販売する薬の効果に関して当のノバルティス社の社員がデータ解析しているという事実も知りながら、論文中にはそのようなことはないというウソの記載をしていたのですから、著者として名を連ねている大学関係者の責任も大きいと言えます。

 

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製薬会社ノバルティス社の降圧剤ディオバン(バルサルタン)臨床研究データは捏造

京都府立医科大学が2013年7月11日に出した調査結果によると、松原弘明教授(2月に退職)が実施した日本人の高血圧患者約三千人のデータに基づく臨床研究で、「ディオバンがほかの降圧剤より脳卒中や狭心症を減らせる」と結論づけたことに関して、「この結論には誤りがあった可能性が高い」ということです。

「誤り」という言葉は曖昧です。要するに、捏造、でっち上げということです。ディオバンは年間の売り上げが約一千億円以上にもなるノバルティス社の看板商品。京都府立医科大学の学長は記者会見で、刑事告発なども視野に協議していると話したそうです。

この臨床研究にはノバルティス社の社員が参加していたこと、松原教授の研究室にはノバルティス社から一億円を超えるお金が寄付されていたことなどから、これは誰か一人の犯罪というよりも、組織ぐるみのより大きな枠組みの中で起きた事件といえそうです。

 

参考

  1. 降圧剤問題 臨床データ操作判明 京都府立医大「論文、誤り濃厚」(東京新聞2013年7月12日 朝刊
  2. 京都府立医科大学によるバルサルタン医師主導臨床研究に係る調査報告発表に対するノバルティス ファーマの見解(ノバルティス ファーマ ウェブサイト
  3. ノバルティス ディオバン(バルサルタン)臨床研究データ捏造疑惑 追求ブログ:  ノバルティスファーマ社員の白橋伸雄氏が身分を隠して多数の降圧剤バルサルタンの臨床研究(臨床試験)の統計解析に関与していことが判明。果たして、データ捏造への関与はあるのか?会社ぐるみの詐欺的販売促進活動か?(http://diovan-novartis.blogspot.jp/

 

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