実験におけるポジコン、ネガコンの重要性【研究の基本的な作法】

一生懸命実験しているのに、研究が先に進まないことがあります。その理由として、実験のデザインがそもそも賢くない、”ぬけている”という可能性があります。そんな非効率な実験をしてしまわないための、非常に教育的なツイートやウェブの記事を紹介します。ラボできちんとした教育を受けられない学生でも、いまどきSNSから情報を拾うことができれば救われるかも。

 

研究するにあたって無駄な実験をしてしまわないための基本的な考え方

「急がば回れ」ということわざが研究においても真理ですね。次のラボミーティングは自分が発表する番なので、それまでに結果を出したいと思って焦って、当たればラッキー的な実験デザインを組んでしまうと、一歩進むつもりが二歩下がるだけです。

複数ステップを踏む実験の場合、各ステップごとに結果を確かめる、各ステップごとにポジコン・ネガコンを置くということが重要です。複数のステップを途中のチェックなしに一気にやってしまうと、うまくいかなかった場合には、結局、一番手前まで戻ってやり直すハメになります。

コントロール実験がうまくいく実験系を立ち上げることができれば、とりあえずそれだけでもラボ内では十分な成果でしょう。

ポジティブ・コントロールがない場合、実験自体がうまく行ってなかった場合でもうまく行かなかったことが分かりません。例えば、温度制御が設定と異なっていた、停電があって、きちんと温度が保持できなかった、試薬を添加したつもりが添加していなかった、試薬自体が不良品だった、というような場合には、実験自体が成り立ってなくて正しい結果が得られません。うまく行かなかったとしても、それは実験系自体の問題であって、アイデアが間違っていたとは限りません。

また、何もしてないネガティブ・コントロールでも、実験の条件によっては一見効果が出る場合もあり得ます。だとすれば、ネガティブ・コントロール無しでできた、と思っても、実際にはできていませんから、実験のアーティファクトで、再現性の無い実験になってしまいます。(コントロール(対照試験)の無い実験に基づく発明の特許性 2013/04/14 2017/02/01 大平国際特許事務所

条件はそれでよいのか、ネガコン、ポジコンは正しく置かれているか (はじめての実験ノート: 書くべき必要事項 九州大学付属図書館

つまりは、適切なポジコンやネガコンを置いた実験をしなさいということです。

 

PCRにおける対照実験は何か

  • ネガティブコントロールのチューブに滅菌蒸留水を 5μL 加えふたをする。
  • 必ずポジティブコントロール、ネガティブコントロールを用意し、反応を行う。これにより、毎回の PCR の評価を行うことができ、コンタミネーションやその他の異常に気が付き、時間や費用のロスを少なくすることができる。(PCR 実験の手引き TaKaRa

 

ELISAにおける対照実験は何か

抗体を用いた実験においては、コントロールを置くことが必要です。ELISA においても、得られたシグナルを偽陽性から区別するために、また得られなかったシグナルを偽陰性と区別するために、ポジティブ・コントロールとネガティブ・コントロールを置くべきです。またそのアッセイがうまく行かなかった時にコントロールがあれば、トラブルシューティングが容易になります。ここでは ELISA で使用するさまざまなタイプのコントールについて説明します。 参照 ⇒ ELISA において必要なコントロール Abcam

 

免疫染色における対照実験は何か

免疫染色(IHC)実験では、陽性(ポジティブ)コントロールと陰性(ネガティブ)コントロールを同時に使用することが非常に重要です。人為的なミスがなかったかどうか、あるいは、得られた染色結果が正確かつ妥当であるかどうかを検証することができる、とても有益な情報源です。現在、免疫染色の特異性決定に役立つ免疫染色(IHC)コントロールが6種確立されています。 参照 ⇒ コスモバイオ

 

PCRやELISA、免疫組織化学のよう定番の実験の場合には何がポジコンで何がネガコンになるのかはわかりやすいと思います。しかし、一般的にポジコン、ネガコンと言った場合、何か一つ決まったものがあるわけではありません。特に、自分で考えた新しい実験であれば、何がポジコンになるのか、何がネガコンになるのかまで自分で考えて、実験を組む必要があります。その辺りの突き詰め方が甘いまま実験をしてしまうと、労多くして得るものが無いという残念なことになります。

実験系を真似することにやっ気になると、何がポジコンかわからなくなりますが、実験系を作るつもりで考えると、おのづと必要なポジコンが出てくるのではないでしょうか?(ポジティブコントロールとは? No.675-TOPIC – 2008/02/13 (水) 22:10:13 Bio Technicalフォーラム

 

もっと恐ろしいシナリオとして、面白い結果が得られたと喜んだあとで、ネガコンの実験をやってみたら同じ結果が出てしまったということもあり得ます。


GFP陽性が出たと喜んだら、実は自家蛍光に過ぎなかったというのもこのパターン。

 

対照実験(コントロール実験)の重要性

j自分は大学院に入ってすぐの頃、先輩たちがやたら、「ネガコン」、「ポジコン」という言葉を発していて、「何ソレ?」と思った記憶があります。研究の世界に入って初めて聞く、耳慣れない言葉でした。しかし、ラボ内では日常的に飛び交う当たりまえの言葉です。

修士課程・5、6年生の目標

3. ポジティブコントロール、ネガティブコントロールの意味を理解し、各実験のステップにおいてポジティブ・ネガティブコントロールをおくことができる。(分子細胞生化学分野 pharm.tohoku.ac.jp

分子生物学的研究の基礎を学ぶ際にまずたたき込まれたのは、結果が「正しい」と言えるための厳密さ、すなわちネガティブコントロール(ネガコン)とポジティブコントロール(ポジコン)の重要性です。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で想定されるバンドが出た場合、ポジコンでバンドあり、ネガコンがバンドなしがそろって初めて正しい実験だと言えるということです。バンドがない=結果が陰性、と言えないわけで、特にポジコンの概念は新鮮でした。(自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その30 同窓会報第84号(2018年7月1日発行))

しかし複雑な組み合わせでサンプル数も多いとつい面倒になりエイとやってしまう。実験そのものがうまくいかなかったり、得られた結果が予想と反した場合、コントロールがないとその結果の解釈が難しく一からやり直しというはめになる。またコントロールはデータの信頼性を増し、人を納得させるためにも必ず必要だ。(実験の3原則(2012-4-7) Yoshimura Lab