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Jikei Heart Study論文をLANCETが撤回

東京慈恵会医科大学で実施された降圧剤バルサルタンに関する臨床研究の論文が、掲載されていたジャーナルLANCET自身によってついに撤回されました。この撤回は、東京慈恵会医科大学Jikei Heart Study調査委員会(委員長 橋本和弘)の報告を受けて、LANCET編集部により取られた措置です。

LANCET編集部のコメント

The Lancet published the Jikei Heart Study in April, 2007. 1 On July 31, 2013, we were informed by Professor Kazuhiro Hashimoto (Jikei University) that there had been a press conference on July 30 reporting an interim conclusion from an internal investigation into this research. The report considered that “The data on blood pressure are not reliable…”. Given this finding, we now wish to retract the Jikei Heart Study on the grounds that we no longer have confidence in the published results.

この論文の内容はどのようなものだったのでしょうか?

論文発表時のノバルティスファーマのプレスリリース(2007年4月27日)によると、

  1. 高血圧治療薬ディオバン® (一般名:バルサルタン) に関する日本で初めての大規模臨床試験
  2. 従来の降圧治療に選択的AT1受容体ブロッカー(ARB)のディオバンを追加投与した群(ディオバン群)で、主要評価項目である複合心血管イベントが39%と有意に減少
  3. Jikei Heart Studyは、東京慈恵会医科大学の施設を中心として実施された試験で、降圧薬治療を受けている高血圧、冠動脈疾患、心不全を有する日本人患者3,000 例以上を対象としたもの
  4. 従来治療強化群と従来治療にディオバンを追加投与するディオバン群で、血圧値をどちらの群も130/80 mmHgを目標として下げた場合の、脳卒中を含む複合心血管イベントに及ぼす影響が比較検討された
  5. Jikei Heart Studyは、独立的な運営委員会によって企画・設計・実施された医師主導の臨床試験。運営委員会は、東京慈恵会医科大学および臨床試験に参加し た病院の代表メンバーから成る。統括責任者は東京慈恵会医科大学循環器内科の望月正武 教授。スウェーデンのサールグレンスカ大学病院のビヨン・ダーロフ教授が共同統括責任者を務めた。
  6. 本試験は、ディオバン群で明確なメリットが示されたことにより、データ安全性モニタリング委員会の勧告によって早期に終了した。
  7. ディオバンは、血圧の上昇に関与しているアンジオテンシンIIのタイプ1受容体(AT1)を選択的にブロックする薬剤 (ARB:AngiotensinII Type1 Receptor Blocker)で、高血圧治療の第一選択薬として世界約100カ国で承認。日本では、2000年に発売。

「独立的な運営委員会によって企画・設計・実施された医師主導の臨床試験」というのが真っ赤なウソで、実はディオバンを開発し販売しているノバルティスファーマ社の社員がこの臨床試験データの解析を行い、しかもそれだけではなく、欲しい結果が得られるようにデータを改竄(かいざん)し、身分を隠して論文発表に加わっていたわけですから、これほど悪質なことはありません。ノバルティス社は薬の臨床研究を行った5つの大学に対し、総額およそ11億3千万円もの寄付を行っていたそうです(2013年9月3日TBS)。組織的には関与していないという主張はただの言い逃れに過ぎず、全く説得力がありません。

データ捏造は論外としても、ノバルティス社(または事件に関与した社員)が悪者で大学の医師たちが騙されたという構図では全くありません。厚生労働省が公表している第1回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会議事録によると、

森下委員:「最後までノバルティス社の方ということを研究グループが全員知らなかったのか、途中から気づく機会があったのか、用は最後の論文のところの所属・氏名の書きぶりのことでお聞かせ願いたいと思います。
橋本参考人:「主な研究担当者は、最初に紹介されたときは大阪市立大学の非常勤講師の統計の方だという認識でした。ただ、全部で122名の医師が参加した計画ですので、その人によって大分温度差はあるのですが、主に運営委員会等に出てくるような方々は、数ヶ月後ないしは1年後ぐらいには彼がノバルティス社員だということは知っていました。つまり、最終的に論文を書く時点では主な人たちはみんな知っていた。全員ではありません。主な人たちは知っていたということです。

大学関係者はノバルティスから多額の寄付金を受け取っており、ノバルティスが販売する薬の効果に関して当のノバルティス社の社員がデータ解析しているという事実も知りながら、論文中にはそのようなことはないというウソの記載をしていたのですから、著者として名を連ねている大学関係者の責任も大きいと言えます。

 

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