研究室主催者(Principal investigator; PI)の大学教授や准教授が博士課程の大学院生を指導することが当然かどうかということに関して言うなら、それは大学教員の責任として当然に決まっていると自分は思います。しかしながら、現実はどうかというと、指導をしてもらえず放置された大学院生が途方に暮れるということが全く珍しくありません。
研究が進まずに大学院を途中でやめることになったり、多少のデータは出せて大学に提出する博士論文はなんとかまとめたけれども肝心の論文が出せずじまいになったり、適切な指導を受けられずに研究から離れていく大学院生は少なくないと思います。
教授の考えと学生の期待が一致しなくて不幸な状況が生じることが、残念ながら少なからずあるのです。どこまで指導するか、どこまで指導されたいかという両者の思惑がかみ合わないのです。
目次
大学指導教員と博士課程大学院生との考えの乖離
ショレムは、アダマールが誰かから論文のテーマと指導を求められて激怒しているのを目撃したことがあると話していた。「とんでもない男だ。自分でテーマを見つけられないやつが、よくも博士号をとろうなどとかんがえられたものだな!」
引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 242ページ
博士課程で!?
指導教官が!?
何かを!?
教えてくれる!?!!?!?ちょっと良く分かりませんね...
— 電子計算機の沼 (@Hishinuma_t) September 14, 2021
博士課程に限らず人生のほとんどはこれだよな。 pic.twitter.com/4Fip13cgeG
— ひろさわ (@hirosawa1230) June 18, 2023
大学院生は博士研究のテーマを教授からもらえるものなのかどうかは学問分野にもよると思います。ラボの研究が一定の方向に向かっている場合には、必然的に生まれるテーマを大学院生に割り当てられることはよくあります。
しかし、PIが提案した研究テーマがそのまま簡単に結果に結びついた例を自分は見たことがありません。大抵、教授に貰ったテーマはうまくいかず、試行錯誤する過程で自分なりのテーマを見出すことが多いように思います。
関連記事 ⇒ 研究テーマの選び方 22のポイント
博士における「指導」の話題,考えてみると結構難しいな.「論文を書いてきたのでチェックしてください」を無視するのはNGだと思うけど「何を研究していいかさっぱりわかりません」に対してテーマを与えるのは過保護だと思うしなぁ.
— M. Morise (忍者系研究者) (@m_morise) September 16, 2021
指導する・しない問題の存在
博士課程で指導教員から教わる・教わらない問題・・・僕は学部生の時からほぼ何も教わらなかったし、研究室のメインストリームではない研究やってたから、予算の支援もなかった。最初の論文以外は全部コレスポ取ってきたけど、論文の書き方も申請書の書き方も教えてもらえずに辛かった・・・
— uiroooo (@uiroooo) September 18, 2021
博士課程で指導教官に何か教えてもらえると期待するのがおかしいみたいなの前に話題になったけど、教員側としては放置ほど楽な指導はないから教員がそれを言うのは(良し悪しは別として)分かるんだけど、学生がそれを言っているとしたら興味深い。
— Tomoki Ozawa (@oz_tomoki) September 18, 2021
博士課程の学生は指導教官に教えられることを期待するべきか?という話題が流れてきたので、私見を。長いです。
うちの学科の指導体制は徹底していて、ものすごい率の研究費獲得成功率を誇り、若手PI(Assistant Prof.)で赴任してきた人も数年で皆R01を取ってるし、R01複数がデフォという強い学科です→— 山田かおり PhD (@KaoriYamada01) September 18, 2021
指導する・しない問題は言葉のあや?
指導ってなんか手取り足取りみたいなイメージが大部分を締めてるのが、なんとなく「教授は指導しないのが当たり前」みたいな(それもどうかと思うが)話になってるのでは….
— Kemtaro (@oxt23) September 15, 2021
大学院博士課程で学べること
(博士課程で指導教官から教わるのは研究者としての所作であって、それ以外を期待しても無駄だよ。)
— MATLAB’zのLIVE Editorにようこそ (@nonlinopt) January 7, 2021
博士課程で指導教官が云々のやつを見かけたけど、
研究分野どんぴしゃな指導教授がいなかったのもあって、勝手に研究して、今こんななんですーって報告して、研究の方向の軌道修正と別分野で史料あったよとここがもう少し…っていう助言だったな。
私は修士止まりだけど、学部もそんなだった気がする。— 紫織 (@jh_siori) September 18, 2021
博士課程で指導教員から研究テーマを諦めるタイミングとか、対外アピールの仕方とか色々教わったけどなぁ
— こばしり (@cobaetal) September 15, 2021
大学院博士課程における研究とは
農学的に喩えると、博士って「自分で原野を開墾して作物を育てる能力があります」と言ってるようなものですね。誰かの作った畑で、栽培方法まで指導して貰えるという期待はしない方が良いです。
— Bernardo Domorno✨ (@Dominique_Domon) October 2, 2013
いま「D論の引用文献の網羅性については当然指導教員のチェックは入ってますよね」と言うような内容がTLに流れてきたんだけど、博士論文ってのは形式はさておき、コンテンツとしては指導教員の能力で包含できるところからは逸脱しているはずなので、そこまで指導教員には期待できないと思います。
— 篠原 康 (@yasu_shinohara) March 12, 2014
大学院というところ
放置ラボ(放牧ラボ)にいた後輩は、院生の時指導をほとんどされず、最初の論文を自力で書いて、査読でボロカスに言われたという。
その後輩は試行錯誤を繰り返して教授になっているが、自主性の名の下に指導が乏しい研究室は、這い上がってきたものだけが生き残れる死屍累々の場所となる…。
— 榎木英介 フリー病理医 (@enodon) September 13, 2021
自分の記憶が正しければ、博士課程のとき指導教官と研究に関する会話をしたのはたった1回しかない。最終学年の夏に、今あるデータ全部持ってこいと言われて、教授室で見せたら、「これじゃ博士取るの無理だろ」という有難いダメ出しだった。それでも、率直な物言いを有難いと受け止めた。 https://t.co/qw5bGvw1BX
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) September 15, 2021
自分の大学院生時代はというと、大きなラボで中ボス(助教)が実際の指導にあたっていたので、教授と研究の議論をする機会はほとんど全くありませんでした。
アメリカに留学したときの大学院は、大学院生の進捗状況をチェックする仕組みが制度的にあったようです。まず5年間の博士研究の研究計画をしっかり立てて提出したり、毎年(?)学部内の発表会で研究進捗状況・成果を発表させられていました。今では日本でもそういう仕組みを取り入れている大学はあるようです。
大学教員からの指導がどのくらい受けられるかは教授の性格・方針次第
大学院教育がどのようなものになるかは、指導教員(教授や准教授)の性格や教育哲学によりけりです。学生を徹底的に鍛えようとする意欲に満ち満ちた人もいれば、教育に対する責任はあるけれども学生の個性をみながらリラックスした雰囲気で学生に接する人もいたり、あるいは、学生に対し全く何の興味も示さない人もいますし、国際学会の招待講演で飛び回っていてそもそもラボにほとんどいない人もいます。一方、毎週ミーティングを開いて学生に実験ノートを持ってこさせて濃密な研究の議論をする人もいます。毎日学生の実験結果をチェックする指導教員もいるかもしれません。
教員と院生(修士)のマッチングアプリとか作ったら面白そう。専攻、研究中のテーマ、論文本数、発表済みの研究、今まで担当してきた院生、研究へのスタイル(スパルタ型、のんびり型、放置型、手取り足取り型等)を見たうえで、ライク♡を送ってメッセージやりとり。これで博士での教員探しが楽に…..?
— よねこんちゅ(猫人) (@rarapipin_rara) September 3, 2021
ほぼ毎日夜10時ころ沼先生が研究室へおりてこられ,
「きょうの実験は如何でしたか?」
と質問され,わたしがデータを説明すると,
「では明日はどこそこまで進みますね。」,
なにかミスがあると,
「なぜすぐやり直さないのですか。」
といった調子でした。 (医 化 学 教 室 と 私)
博士課程の大学院生にお勧めしたい日頃の態度
博士課程中に指導教員から指導受けなかったというアピは様々な人から聞いてきたが、周りのポスドクや教員と議論を重ねて結果出してきた人ばかりだったので、別に指導教員からの指導が必須というより適切な人と議論できたかどうかが博士課程に重要なんだろな(指導がゲシュタルト崩壊しそう)
— リジェクトくん (@reject114514) September 18, 2021
「困ったら誰かに聞けばいい、誰に聞けばいいかを見極める」っていうこと自体、習得しなきゃいけない知恵だよなぁ。それに気づくまではキツいかな。困ってなかったら自主的に動いていい、でも困ったらすぐ聞く。
博士課程の学生さんなんてまだまだ出来上がってないからもちろん指導は必要だし、→
— 山田かおり PhD (@KaoriYamada01) September 18, 2021
大学院教育における大学教員の責任と役割
研究室の指導教官は学生がどの状況にいるかで、どこまで与えるかを考える
学士 ゴールとプロセスを与えて実行させる
修士 ゴールを与えてプロセスは考えさせる
博士 ゴールも考えさせるこれを守らないとお互いに期待値がずれてしまい消耗が激しい https://t.co/T9vqTt6Z7Z
— Suzuki Akihiro (@jinseiamatou) February 15, 2020
時代とともに変わる大学教員の役割
博士課程では指導教員が何かを教えてくれなくても当たり前というのが(私を含め)前世紀感を漂わす。そして「指導教官」と言ってしまうところがさらに前世紀感(現在文部教官はごくわずか)。 >RT
— 荷方邦夫 (@nikata920) September 15, 2021
「大学の学校化」はだいぶ前から言われていて、今では「大学院の学校化」も進んでる感じです。
「博士課程で指導教員に「教える」ことを求めるな」「教えないなら教育機関を名乗るな」というやりとりが起こるのもその現れかと。
あと院生対象のアンケートに「生徒」という言葉が出てきますし。
— あ(つはな)つくて辛い神戸まんそう! (@manzoukoube) September 17, 2021
世界の博士事情
もう5万回くらいここで書いてた「論文読んでやるだけでもありがたいと思え」と指導教員に言われた話、前段として「ドイツだと指導なんてしないのが当たり前」て言われたんだけど、ドイツで博士取った知り合いが、日本でもドイツでも指導受けられなかった、と言ってて業界的に地獄ぽい
— スーパー猫かわいい人材 (@takayutsch) September 18, 2021
大学教授は助教の指導もすべきか
大学教授は助教の指導もすべきかといえば、それは助教の能力しだいだと思います。教授としては論文を出してもらわないと困るので、足りていない部分があれば手助けをするのは当然でしょう。ラボから論文が出なくても気にしない教授がもしいたら、指導することはないかもしれません。
蛇足だけど、研究スキル売買の話の時に出た、教授が助教に論文執筆の指導をしない話。助教になるなら論文かけるようになってるだろうというのはそうなんだけど、なってなかった場合は指導するだろう普通。なんのための教授だ、なんのための講座制だ、と思ったよ。私見。 https://t.co/wZUbrirNvF
— 山田かおり PhD (@KaoriYamada01) September 18, 2021
参考
博士課程の学生さんの作業で出てきた研究成果を「うちの大学の成果です」というなら、その対価を払わないとおかしい。
— 伊藤 肇 (Hajime Ito) (@HajimeIto_1) September 14, 2021