東京大学が医学部研究不正疑惑論文に関する調査報告書を国民に開示しないのは違法

      2020/04/28




2016年の8月にOrdinary_Researchersが告発した東大の論文不正疑惑では、エラーバーを棒グラフの内部に押し込むなど同じような手口が、医学系、理学系のラボからの論文で見られました。

関連記事 ⇒ Ordinary_researchersの告発2通め11論文

グラフが手作業で適当にでっちあげられているのを見て、自分はゾッとしました。見てはいけない犯行現場を目撃してしまったような嫌な気分にさせられたのです。これ以上の不正の証拠はないだろうと思いました。

関連記事 ⇒ 告発内容を画像編集フリーソフトで確認する方法

ところが非常に驚いたことに、理学系では研究不正が認定されラボがお取り潰しになったのに対して、医学系に関しては不正無しの一言で片づけられてしまいました。それどころか、このような論文作成作法が「通常」だと東大がのたまったのです(22報論文調査報告 17~21ページ)。それが本当なら、東大医学部から出る論文は誰からも信用されなくなりますから、東大執行部によるこのようなステートメントは、東大の評判を落とし、東大の名誉を著しく傷つけると思います。

関連記事 ⇒ 医学系論文に関する報告がまだ済んでいない東大

 

東大医学部の不正疑惑論文に関しては、本当にすべての図に関して実験がなされていたのでしょうか?エラーバーを棒グラフの裏に手作業で押し込んでいた論文の図に該当する生データで、有意差は出るのでしょうか?東大にはそれを納税者や研究コミュニティに対して説明する義務があります。もちろん、すべての図に関して個別に!

分生研の不正だけやけに詳細に報告し、医学部のほうは情報がほぼなかったので医学部のほうは調査すらしなかったのかなと当初思いました。しかし、答申にある文書名から察する限り、医学部でも調査は行われていたようです。外部の研究者が調査委員として加わり、科学者としての良心と常識に基づいて調査したのでしょうから、第三者が研究不正の有無を判断する上で十分な情報量が調査資料にあるのではないかと思われます。

「22報論文に関する調査報告書」および、医学部保有の「調査班会議資料」、「部局調査結果報告書」、「個別の論文説明資料(1214頁)」、「ヒアリング反訳資料(291頁)」を公表して、科学コミュニティの判断を仰ぐのは東大執行部の責務でしょう。そもそも国民の知る権利は法的に保障されており、公開しない理由がないのです。

関連記事 ⇒ 東大医論文疑惑 知る権利を蹂躙する東大

東大では生データと発表データが食い違うのがほとんどらしいので(22報論文報告書 14ページ)、調査の生データともいうべき「個別の論文説明資料(1214頁)」と「ヒアリング反訳資料(291頁)」を吟味する必要がありそうです。みなさん、是非、東大に資料の開示請求をしてみてください。

外部リンク ⇒ 法人文書の情報公開について(東京大学)

 

さて、東大がなぜ調査内容を国民や研究者コミュニティに対して公開できないのかが謎なのですが、東京大学理事の中には科学者だけでなく弁護士もいますから、調査報告書を隠すことの違法性を承知しているはずです。法を犯してまで隠さなければいけないことって一体何なのでしょう?まさかとは思いますが、デタラメな論文業績(註:東大の報告書いわく、ほとんどの場合において、オリジナルデータすなわち実験で得られた測定値≠論文のグラフが表す数値)に基づいてAMEDや文科省から何十億円もの研究助成を受け取っている現状を現東大理事たちが積極的に守ろうとしているのだとすれば、かなりたちが悪いと言わざるを得ません。文科省やAMED、厚労省がこれを黙認しているのも、国民に対する裏切り行為だと思います。

関連記事 ⇒ 東大医 異常な論文図表作成でも不正なし

アメリカでは研究不正を隠蔽した大学が訴えられたというケースもあります。

関連記事 ⇒ デューク大学、研究不正隠しで損害賠償請求訴訟

医学部の研究室では棒グラフのエラーバーを手でいじるのが「通常」だとしたら、そんな環境にあって、まともに実験して結果を出そうと努力している多くの研究者や大学院生がハラスメントの被害に合う危険が大きいのではないですか?

情報を隠蔽することにより、研究や教育に極めて不適切な環境を積極的に維持しようと努めている(ように自分には見える)現東大執行部の責任は重大だと考えます。

 

Ordinary_Researchersの告発文を今読み返すと、非常に切迫感があります。

常習性、頻度、公正性、論文の与える影響の深刻さ等を鑑みれば、もはや看過すべきではないという結論に至った。ここで告発するのは、発見したもののごく一部に過ぎないことも申し添えておく。 … あらぬ疑いをかけられている研究室の潔白を証明する良い機会になるか、それとも膿を出すことになるか、どちらにしても東京大学にとってのみならず、日本の生命科学研究にとって良い方向へと進むきっかけになるはずである。(2016年8月14日 Ordinary_researchers 告発文1PDF

しかし、Ordinary_researchersの思惑とは裏腹に、期待されたどちらにもならず、東大が臭いものにフタをしてしまっただけでした。東大のこの行動によって、日本の研究倫理を高める努力が大きくくじかれたのではないでしょうか。

 

日本では、相変わらず研究力の低下が叫ばれる状態が続いており、日本の生命医科学研究は何一つ良い方向へ向かっていないように思います。

研究倫理や研究不正に関する概念は徹底的に破壊され、自分の頭の中の辞書は書き換えを余儀なくされました。

【え】

エラーバー【error bar】平均値を表す棒グラフなどにおいて、標準誤差や標準偏差などを示した線分のこと。通常は、統計処理ソフトで自動的に計算・描画が行なわれる。例外的に、東京大学医学部においてはエラーバーの作成は手作業で行なわれるのが通常である。

【お】

オリジナルデータ【original data】論文の図表のもととなる、観察や測定によって得られた数値や、画像などの生データ。通常は論文の数値と一致するが、東大医においてはほとんど一致しない。

【け】

けんきゅうふせい【研究不正】①実験ノートが存在しないこと、または、実験ノートが提出できないこと。〔東大・医〕定義されない。

【つ】

つうじょう【通常】①普通のことが行なわれているさま。〔東大〕異常なことが行なわれているさま。

【と】

とうだいいがくぶ【東大医学部】(東大の発表に基づき)以下に述べる5個の性質を持つ実体を「東大医学部」と定義する。
1)研究室から発表された論文の図に示されるデータと、オリジナルデータ(実験で得られる生データ)とはほとんど一致しないこと。(そのような論文を出すラボが組織内に存在すること)
2)論文の図作成にあたり、数値データをグラフにする際に、まずマイクロソフトエクセルを用いてグラフを描くこと。
3)エクセルで描いたグラフは、必ずコピペによりマイクロソフトパワーポイント(パワポ)やアドビイラストレーター(イラレ)など別のアプリケーション上に移し変えること。
4)パワポやイラレ上に移されたグラフはそのまま論文の図に使用することはせず、かならず、X軸、Y軸、棒グラフ、エラーバーを手作業でなぞる(トレース)ことにより、手書きのグラフとすること。このとき、オリジナルデータとの一致を消失せしめること。
5)論文の図で示された値がオリジナルデータとどれほど一致していなくても、不正調査委員会、大学執行部、研究資金配分機関、監督省庁からは研究不正と認定されないこと。

【ふ】

ふせいこういはない【不正行為はない】不正行為がない場合には、不正疑惑に関する調査報告を公表しなくてよいという時代錯誤な規則を逆手にとって、不正行為を揉み消したい大学が使う言葉。「調査結果の概要(医学系研究科関係)(結論)申立のあった5名について不正行為はない」

(『現代ラボ用語の基礎知識』より)

 

WORDS WITHOUT DEEDS

東京大学の科学研究における行動規範

1 科学研究は、人類の幸福と社会の発展のために欠くべからざる活動である。科学研究の成果は公開されることにより研究者相互の厳密な評価と批判にさらされ、それに耐え抜いた知識が人類共有の財産として蓄積され活用される。科学研究に携わる者は、この仕組みのもとで人類社会に貢献する責務を負っており、またそれを誇りとしている。この科学者コミュニティの一員として、研究活動について透明性と説明性を自律的に保証することに、高い倫理観をもって努めることは当然である。
2 科学研究における不正行為は、こうした研究者の基本的な行動規準に真っ向から反するものである。のみならず、研究者の活動の場である大学に対する社会の信頼をいちじるしく損ない、ひいては科学の発展を阻害する危険をもたらす。それは、科学研究の本質そのものを否定し、その基盤を脅かす、人類に対する重大な背信行為である。それゆえ、科学研究を行うにあたっては、捏造、改ざん、盗用を行わないことはもとより、広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために、その科学的根拠を透明にしなければならない。科学研究に携わる者は、実験・観測等の実施者、共同研究者、研究グループの責任者など立場のいかんを問わず、説明責任を果たすための具体的な措置をとらなければならない。
3 科学研究に携わる者の責任は、負託された研究費の適正使用の観点からも重要である。大学における科学研究を有形無形に支える無数の人々に思いをいたし、十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは、研究活動の当然の前提であり、それなしには研究の自由はあり得ない。その責任を果たすことによってこそ、東京大学において科学研究に携わる者としての基本的な資格を備えることができる。

行動規範及び規則制定にあたっての総長声明

科学研究は、人類が未踏の領域に挑戦して知の拡大をはかり、その成果を人類全体が共有して社会に還元することを目的とする活動である。科学研究において研究者は、科学的手法を用いた研究によって得られた知識を学術論文として公知のものとし、人類共有の資産として蓄積していく。それらの知識は、客観性や実証性に裏付けられたものであり、同時代もしくは後代の研究者による追試や評価を可能とするものであるがゆえに、その科学的根拠を科学者コミュニティが自ら保証するものである。近代科学の歴史の中で人類が築いて来たこの科学研究の作法にしたがって行動することは、研究者の活動の自明の前提であり、現代においても研究者の基本的な行動規準である。また、今日のように、科学研究が細分化し専門化する状況の中においては、研究者がこうした行動規準を確実に遵守していることを、より積極的に社会に説明することが求められる。東京大学は大学憲章において研究の説明責任の重要さを掲げており、東京大学において科学研究に携わる者はそれを当然の原理としてきている。しかしながら近時、この自明のはずの研究作法が遵守されていないのではないかという疑いをよぶ事態が生じていることは、まことに遺憾であると言わなければならない。大学は、科学研究を行うとともにそれを次世代に伝えるという教育機関としての責務を負っており、研究にあたっての行動規準は学問の自由と一体のものとして、きわめて厳格に遵守されなければならない。この規準に対する違反は大学の存立の根幹を脅かす重大な行為であり、大学がそうした違反を防止するための自律的な取組みを責任をもって行うことは、大学の自治の一部である。そこで、このたび、東京大学として、科学研究の基本的な作法を行動規範として再確認するとともに、この行動規範を大学が自ら担保するための委員会制度を規則として定めることとした。こうした行動規範は、東京大学で科学研究に携わる者すべてが当然に血肉化しているはずのものであるが、万一の違反行為に対していっそう厳正かつ確実な対応が行われるようにすることが、あえてここに明文化することの目的である。今後、研究費の獲得をめぐる競争が激しくなる中でも、科学研究の原点に対する意識をたえず喚起し、研究者が相互に忌憚なく論じ合える風通しのよい研究環境を整えることによって、東京大学における科学研究の質をさらに高めていくことに努めたいと考えている。

(引用元:PDF 東京大学)*太字強調は当サイト

上の東大の声明は平成18年3月のもので、非常に力強い言葉です。残念ながらこの決意を今の東大執行部が反故にしてしまったようです。行動が伴わない言葉に、どれほどの意味があるというのでしょうか?

 

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

東京大学が医学部研究不正疑惑論文に関する調査報告書を国民に開示しないのは違法

法律の専門家ら(総務省の審査部会)によれば、東大現執行部が不正調査資料の公開を拒んでいるのは理由に正当性がなく違法だとのことです。結論の部分だけ先に紹介。

22報論文に関する調査報告書」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。((独情)056 総務省 PDF

別紙に掲げる4文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。
別紙(本件対象文書)
文書1 調査班会議資料
文書2 部局調査結果報告書
文書3 個別の論文説明資料
文書4 ヒアリング反訳資料
((独情)059 総務省 PDF

平成28年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。((独情)057 総務省 PDF)

平成29年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。((独情)058 総務省 PDF)

以下、総務省のウェブサイトで公開されている答申(PDF)の内容を転載します。それぞれの大見出しは当サイトがつけたものです。なお、文書内の「一部開示」というのは言葉が紛らわしいですが、大部分を墨塗りにしてどうでもいい部分だけを部分的に開示したり、複数の資料があった中のどうでもよい資料のごく一部だけを開示したりしていることであり、実質的には全面的な不開示の様相です。

 

Contents

東京大学が公文書『医学部研究不正疑惑に関する「22報論文に関する調査報告書」』を国民に開示しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第37号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第56号)
事件名:22報論文に関する調査報告書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

「22報論文に関する調査報告書」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

(1)不開示とした理由には根拠や正当性がない

過去の会議の日時を公開することは,会議の開催頻度を公開することになり事業遂行に支障があるというが,会議の開催頻度は目的やそのときどきの状況により異なるのが通常であろうから,今回の不正調査の会議の日時を公開したからといって,それが今後の不正調査等の会議開催頻度においてなんらかの縛りを与えるものにはならず,支障があるとは考えられない。

調査委員会の構成員名を公にすると,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるというが,これは理屈が全く逆である。意思決定の中立性を保証するためには,構成員名を公にすべきである。支障をきたす場合があるとすれば,それは委員の構成に中立性がなかった場合のみであるから,この部分を開示できないというのは,そのような疑念を生じさせる。この疑念を払拭させるためには,開示する必要がある。

審議,検討又は協議に関する情報を開示すると,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある,というのも論理が逆になっていて,不開示の根拠にならない。調査書の目的の一つは,調査が公正に行われたことを示すことである。第三者の研究者からみてデータ捏造としか考えられないような多数の図表がなぜ不正と認定されなかったのか,どのような審議,検討がなされた結果そうなったのかを明らかにしない限り,不正なしという意思決定が中立性のもとに下されたかどうかの疑念が払拭されない。

内容確認に係る事務に関する情報を開示すると,当該事務及び事業の適正な遂行に支障があるおそれ,という理由も理由になっていない。内容確認の意味が不明であるが,これが研究不正を疑われた論文著者らの釈明や実験データの存在の有無などの内容を指すのであれば,むしろ開示することにより,内容確認が適正に遂行されたかどうかを明らかにできるはずである。

研究に関する情報を開示するとその公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるという理由は,まったくもってナンセンスである。研究者が論文発表を行う場合には,どのようにして実験データが得られて,どのようなデータ処理によって論文の図表を作成したかの記述は論文の中に含めるのが通常である。研究者が不正に手を染めずにまっとうに研究をしているかぎり,論文作成にいたるプロセスの全てを公開することになんの支障もないのが,普通の研究者の感覚である。論文著者が実験ノートの片隅に殴り書きしたようなその場限りの思いつきといったものならいざしらず,このような大学の公式な最終報告書に記載された研究に関する情報が開示できない理由はない。

(2)不開示の決定は東大の行動規範に反する

「東京大学の科学研究における行動規範」には研究者の責務として,「研究活動について透明性と説明性を自律的に保証する」,「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために,その科学的根拠を透明にしなければならない」,「十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは,研究活動の当然の前提」といった文言が並んでいるが,不正の疑いが研究者の目からみて非常に濃いにもかかわらず調査報告書を不開示とするのは,科学者コミュニティによる評価や批判を不可能にしており,不正であるとする科学的根拠が不透明なものになっている。

不正の疑義がなぜ晴れるのかの説明を公表しないということは,これらの疑惑論文の研究成果の客観性が保証されていないということである。そのような疑惑に満ちた論文業績に基づいてこれらの論文著者らが数億円規模の研究費(=税金)を獲得しているのは,到底許容されない。

(3)不開示の決定は文科省のガイドラインに反する

論文の図に疑問がある場合に,論文読者が論文筆者に質問したり,議論したりすることは,科学者,研究者の間ではごく普通のことであり,疑義を呈された図に関してどのような過程で図が作成されたのかを説明することは,著者や研究機関の誰にとっても,何の不利益も生じ得ない。わざわざ隠す理由などどこにもない。

科学コミュニケーションを著しく阻害する東大執行部の行為は,東大自身の規範及び文科省が示す「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」の文言「研究者間相互の吟味・批判によって成り立つチェックシステムが不可欠である。」という精神に真っ向から対立するものであり,到底許されざることである。

(4)理学系と医学系における研究倫理にダブルスタンダードを持ち込んでいる

分生研の論文も同時に告発されているが,告発内容は同程度もしくは量,質においてそれ以上の悪質性があると見受けられる。それにもかかわらず,分生研の論文のみに不正を認め,医学系論文にはまったく不正行為がなかったという判断は,信じがたく,もし東大がそう主張したいのであれば,通常の研究者に対して信じるに足る説明を行う責任がある。そうでなければ,東大執行部が医学部の不正隠蔽を目的に,不開示の権限を乱用しているとしか考えられない。

(5)納税者への説明責任をまったく果たしていない

東大は,年間1000億円近い研究費,交付金を得ており,この巨額な資金が東大の研究者によって適正に使われていることを納税者に対する説明責任がある。研究不正の疑義に関する調査報告書を公開しないということは,この説明責任を放棄する行為である。

(6)発表論文は公開されており報告書で非公開とする理由がない

学術誌に掲載された論文は,著者名や所属が明記されており,これらは公開されている以上,個人情報の保護対象にする理由がない。不正疑惑を指摘された論文リスト及び告発内容も,特定ニュースの複数の記事のリンクから閲覧可能であり,事実上,公開されている。よって,論文リストや告発内容の部分を不開示とする理由もない。研究者コミュニティにおいては,実験結果や実験方法に関して読者が疑問を持てば,論文著者らに対して気軽に質問し回答を得るという文化が定着している。このような研究者間のコミュニケーションの常識に照らせば,不正が疑われるような図表の作成がどのように行われたのかの調査結果を公開することは,研究者コミュニティ内の通常の活動の範疇でしかなく,なんら著者や所属機関に不利益をもたらすものではない。仮に不利益が生じるとすれば,それは不開示により隠蔽されていたデータ捏造が露呈する場合のみであろう。

(7)不開示は公共の利益を著しく損なう

このような調査報告書の不開示がまかりとおるなら,東大医学部においてはデータ捏造がやり放題であり,それで特定雑誌等の一流誌に論文を掲載して,その業績により何億円もの研究費を獲得するということがまかり通ることになってしまう。このような行為は,日本の科学研究の進展を著しく阻害するものであり,また,特に医学部でこのような不正活動が放任されるのであれば,本来は病気や患者のための医科学研究であるべきであるのに,患者の期待に対する重大な裏切り行為でもある。

東大が公開されて当然の最終報告書を不公開にしたこと,論文著者らが告発後,反論も訂正も論文撤回もせずに1年以上沈黙していることなどを考えれば,これらが単なる図表の取扱いミスであったと考える合理性はほとんどなく,これらの状況に対するもっとも合理的な説明(仮説)は,重大な不正行為があったとするものである。東大はこの仮説を反証する証拠(今回不開示とされたすべての資料)を公開して,私の仮説が間違っていたことを証明していただきたい。研究不正を隠蔽する工作自体も,新たな研究不正であることから,不開示を認めてしまうと組織的な不正を阻止する手段が完全に失われてしまうことになり,反社会的で公益に反するこのような隠蔽行為を認める訳にはいかない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,「22報論文に関する調査報告書」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,22報論文に関する調査報告書については,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該委員会の開催日時については,本学として当該委員会をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)当該委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。
これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「肝心な部分が全部黒塗りでは,実質的に全面的な不開示と変わらない。全面的な開示,最低でも研究(疑惑の論文の図の説明)に関する記述は全て公開すべきである。」と主張し,「今回の不正調査の会議の日時を公開したからといって,それが今後の不正調査等の会議開催頻度においてなんらかの縛りを与えるものにはならず,支障があるとは考えられない。調査委員会構成員を公表できないというのは,それは委員の構成に中立性がなかった場合のみであり,この疑念を払拭させるには開示する必要がある。審議,検討に関する情報は,どのような審議,検討がなされた結果そうなったのかを明らかにしない限り,不正なしという意思決定が中立性のもとに下されたかどうかの疑念が払拭されない。内容確認に係る事務についても,むしろ開示することにより内容確認が適正に遂行されたかどうか明らかにできるはずである。研究に関する情報についても,大学として公式な最終報告書に記載された研究に関する情報が開示できない理由はない。」不開示の決定は,東大の科学研究における行動規範に反している,不開示の決定は文科省のガイドラインに反する,理学系と医学系における研究倫理にダブルスタンダードを持ち込んでいる,納税者への説明責任をまったく果たしていない,発表論文は公開されており,報告書で非公開とする理由がない,不開示は公共の利益を著しく損なう。」等と主張している。

しかしながら,22報論文に関する調査報告書は,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日や当該委員会委員長・部局内調査班班長以外の委員名・構成員についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施されなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識としている。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものである。処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条3号並びに4号柱書き,
ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示として十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該調査委員会の開催日時については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②当該調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班
班長以外の構成員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障をおよぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するとして不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし③の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」に該当するものと抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のどのような審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該各不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。そして,当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。また,上記(2)①の理由で不開示とした部分は,不開示とされた情報の内容が「当該委員会の開催日時」と具体的に示されており,一部推測できる部分もあるが,具体的な不開示部分の特定がされていないことから,上記(2)①又は③のいずれの不開示部分に該当するのか正確に把握できない部分もあり,必ずしも明らかにされているとはいえない。なお,上記(2)②の理由で不開示とした部分は,「当該委員会委員長名及び部局内調査班班長以外の構成員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容
及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(4)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部等には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(5)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

 

東京大学が公文書「医学部の部局調査結果報告書等」を国民に公開しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第40号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第59号)
事件名:大学院医学系研究科・医学部が保有する部局調査結果報告書等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

別紙に掲げる4文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58号の4号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

研究に関する情報を不開示にする理由として,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるとしているが,これには根拠がない。なぜなら,論文のデータに疑問が生じたときに,論文読者である研究者が論文著者に連絡をとって質問し,回答を得るという行為は通常研究者コミュニティにおいて当たり前のように行われている行為であって,何らかの支障を生じる恐れは全くないからである。

今回の研究不正告発により,一般の研究者の常識からは理解できないような不適切な論文図表の数々が指摘されたわけであるから,著者からの聞き取り調査の資料を全面的に公開するのは,通常行われている科学コミュニケーションの範疇でしかなく,不開示とする理由にはなり得ない。科学者同士のコミュニケーションを阻害する不開示は,「東京大学の科学研究における行動規範」にある文言,「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために,その科学的根拠を透明にしなければならない」にも反している。このような言行不一致は断じて許されない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,医学系研究科の「調査班会議資料」,「部局調査結果報告書」,「個別の論文説明資料」及び「ヒアリング反訳資料」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,本件対象文書は,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該会議の開催日時・回数・場所については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)当該会議資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

(4)個別の論文説明資料,ヒアリング反訳資料については,上述と同様な理由により不開示とする。

(5)調査結果報告書のうち,上述に該当する部分については同様な理由により不開示とする。

(6)個人名その他個人を識別できる情報であって,法第5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「一連の法人文書開示を求める最大の理由は,理学系論文と医学系論文が別々の調査委員会によって調査され,研究者の目からすれば同じような悪質なデータ捏造の疑いがあるにもかかわらず,理学系論文が厳格に不正認定されたのに対して,医学系論文の不正が一切認定されなかったいきさつを明らかにするためである。医学系論文に関して個別の説明がなく,告発された図の不適切さをパターンごとに整理して,個別には不正の度合いを明らかでなくしている。「部局調査報告書」にある「Ⅱ.各論文に対する部局内調査の結果」というセクションの開示は絶対に必要である。また,同様の理由により「個別の論文説明資料」及び「ヒアリング反訳資料」の中の,研究に関する一切の部分の開示も求める。研究に関する情報を不開示にする理由として,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるとしているが,論文のデータに疑問が生じたときに,論文読者である研究者が論文著者に連絡をとって質問し,回答を得るという行為は通常研究者コミュニティにおいて当たり前であり,何らかの支障が生じる恐れは全くないからである。著者からの聞き取り調査資料を全面的に公開するのは,通常行われている科学コミュニティの範疇でしかなく,不開示とする理由にはなり得ない。「東京大学の科学研究における行動規範」にある「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするためには,その科学的根拠を透明にしなければならない」にも反しており,このような言行不一致は断じて許されない」等と主張している。

しかしながら,部局調査班会議資料については,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日時や当該委員会委員長以外の委員名についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。また,「個別の論文説明資料」については,研究者一個人の研究ノートや生データの根拠を記載した私的メモであり,研究者の公正かつ能率的な研究の遂行を不当に阻害するおそれがあるとともに,本資料は研究不正の調査のために本学が提供を受けて大学として保有しているものであり,この種の資料を開示すると今後の調査に支障を及ぼすため,開示することはできない。ヒアリング反訳資料については,プライバシー遵守を前提に,今回の調査の目的のみにヒアリングを実施しており,ヒアリング内容が公開されてしまうと今後同種の調査において関係者が申告を拒んだり,真実を申告することを回避する等の事態を誘発するおそれがあるとともに,かかる情報の開示は,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれもあるため開示できない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施しなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。

以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考えている。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれかに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示としては十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該会議の開催日時・回数・場所については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③当該会議資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

④個別の論文説明資料(1214枚1214頁),ヒアリング反訳資料(291枚291頁)については,上述と同様な理由により不開示とする。

⑤調査結果報告書のうち,上述に該当する部分については同様な意
見により不開示とする。

⑥個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし⑥の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,当該会議資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に係る事務に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」と抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。

また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のいかなる審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。

例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該各不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。

(4)次に,上記(2)④の理由については,文書3及び文書4の名称が記載されているものの,不開示部分の理由が「上述と同様な理由」としか記載されておらず,どのような情報が,どの理由で不開示とされたのか何ら説明されておらず,文書3及び文書4の全てが上記(2)①ないし③の理由全てに該当するのか,一部がいずれかの理由に該当し,結果として全部が不開示となったのかも不明である。

(5)さらに,上記(2)⑤の理由で不開示とした部分は,調査結果報告書のうち,「上述に該当する部分」としか記載されておらず,不開示とされた部分も,そこに記載された情報の内容も,上記(2)の①ないし③のいずれの理由に該当するのかも説明されていない。

(6)そして,上記(2)⑥の理由で不開示とした部分は,具体的な不開示部分の特定はされておらず,頁単位での特定もされていない上,「個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないもの」としか記載されておらず,本件対象文書にどのような情報が記載されているか不明である。

(7)当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③ないし⑥の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③ないし⑥の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。なお,上記(2)①及び②の理由で不開示とした部分は,「当該会議の開催日時・回数・場所」,「調査委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③ないし⑤に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(8)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(9)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

別紙(本件対象文書)

文書1 調査班会議資料
文書2 部局調査結果報告書
文書3 個別の論文説明資料
文書4 ヒアリング反訳資料

 

東京大学が公文書「平成28年度科学研究行動規範委員会資料」を国民に開示しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第38号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第57号)
事件名:平成28年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

「平成28年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58の2号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

22報論文の研究不正を告発した申立書は,東大が不正調査を適切に行ったかどうかを判断する上で重要である。発表論文には著者名や図表作成の方法などが公開されており,論文データに関する疑問は特定ウェブサイトや学術誌の論文掲載ウェブページなどインターネット上で活発に議論されることが普通である。告発内容を公表したからといって,研究の遂行が阻害されることはないし,その他,理由として挙げられたどの項目にも当てはまるものではない。告発内容は,特定ニュースなどの複数の記事で詳細に解説されており,リンクをたどれば告発文書そのものも閲覧できる状態にある。このようにほとんど公開されている告発内容を不開示にしないと業務に支障をきたすということは考えにくく,不開示の理由にならない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,「平成28年度 科学研究行動規範委員会資料」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,当該委員会資料は,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該委員会の開催日時については,本学として当該委員会をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「22報論文の研究不正を申告した申立書は,東大が不正調査を適切に行ったかどうかを判断する上で重要である。発表論文には著者名や図表作成の方法などが公開されており,論文データに関する疑問は特定ウェブサイトや学術誌の論文掲載ウェブページなどインターネット上で活発に議論されることが普通である。告発内容を公表したからといって,研究の遂行が阻害されることはないし,その他,理由として挙げられたどの項目にも当てはまるものではない。告発内容は,特定ニュースなどの複数の記事で詳細に解説されており,リンクをたどれば告発文書そのものも閲覧できる状態にある。このようにほとんど公開されている告発内容を不開示にしないと業務に支障をきたすということは考えにくく,不開示
の理由にはならない。」等と主張している。

しかしながら,告発内容のわかる文書を本学として公表していることはなく,その内容についても,関係部局や研究者等に確認するためにも最初の科学研究行動規範委員会の資料としていたところである。告発文書並び予備調査結果文書については,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その構成かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日時や当該委員会委員長以外の委員名についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施しなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。

以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものである。処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条3号並びに4号柱書き,
ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対し,審査請求人は原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれかに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示としては十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該委員会の開催日時については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし③の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に係る事務に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」と抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のどのような審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。

例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該各不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。そして,当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。なお,上記(2)①及び②の理由で不開示とした部分は,「当該委員会の開催日時」,「当該委員会委員長以外の委員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(4)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(5)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

 

東京大学が公文書「平成29年度科学研究行動規範委員会資料」を国民に開示しないのは違法

諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成30年6月14日(平成30年(独情)諮問第39号)
答申日:令和元年12月2日(令和元年度(独情)答申第58号)
事件名:平成29年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1 審査会の結論

「平成29年度 科学研究行動規範委員会資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年2月9日付け第2017-58号の3号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

「22報論文に関する調査報告書」において裁定が導かれる過程は,論理的に矛盾している。論文の図のデータは実験で得られた数値とはほとんど異なります。でも不正ではありません。という非倫理的な裁定がどのような経緯で下されたのかを知るためには,この資料の開示が不可欠である。年間数百億円もの科学研究助成を受けている東京大学が,このような支離滅裂な物言いで不正なしの結論だけを発表するのは,あまりにも無責任すぎる。納税者や他の研究者が納得できる公正な議論が行われた証拠として,この文書を開示すべきである。不開示の理由として,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとしているが,これは,全く逆の話であり,このような支離滅裂な裁定を何の説明もなしに公表したということは,意思決定の中立性が危ぶまれる状況なのであり,不開示の理由として適切ではない。

第3 諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示とした理由について

本件対象文書は,「平成29年度 科学研究行動規範委員会資料」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,当該委員会資料は,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)当該委員会の開催日時については,本学として当該委員会をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

(2)当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

(3)当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

(4)個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。これについて,審査請求人は,平成30年4月16日受付けの審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。

2 審査請求人の主張について

審査請求人は,「文書には,研究不正の有無を裁定したときの資料が含まれているが,医学系研究科の不正疑惑論文に関して,「22報論文に関する調査報告書」の黒塗りされていない部分によれば,論文の図のデータと実験の生データ(オリジナルデータ)はほとんど一致しなかったにもかかわらず,不正なしという裁定が下された。これは研究者の常識に反する,極めて奇異な裁定であって,東京大学執行部が医学系研究科の研究不正を隠蔽しようとしているのではないかという疑念を生じさせるものである。この疑念を晴らすためには,どのようにしてこのような裁定が下されたのか,そのいきさつを東大が公開する責任がある。不開示の理由として,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとしているが,これは全く逆の話であり,このような支離滅裂な裁定を何の説明もなしに公表したということは,意思決定の中立性が危ぶまれる状況なので,不開示の理由として適切ではない。」等と主張している。

しかしながら,裁定については,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障がでるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため開示することはできない。

また,当該委員会開催日時や当該委員会委員長以外の委員名についても上記1にある不開示理由により開示することはできない。研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,係る調査については,限りなく公平中立なものとして実施しなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。

以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。

第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年6月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月28日 審議
④ 令和元年9月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年10月17日 審議
⑥ 同年11月7日 審議
⑦ 同月28日 審議

第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

2 理由の提示について

(1)開示請求に係る行政文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示理由のいずれかに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならず,当該法人文書及び不開示箇所を特定できる記載がなければ,開示請求者に,その種類,性質等が分からず,通常,求められる理由の提示としては十分とはいえない。

(2)当審査会において原処分の法人文書開示決定通知書(以下「通知書」という。)を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,以下のとおり記載されている。

「①当該委員会の開催日時については,本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

②当該委員会委員長以外の委員名については,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれ
るおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。

③当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,審議,検討又は協議に関する情報であって,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,本学の事務及び事業に関する情報であって,当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ,内容確認に係る事務に関する情報であって,正確な事実の把握を困難にするおそれ,研究に関する情報であって,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ,及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については,法5条3号,法5条4号柱書き,法5条4号ハ,法5条4号ホ及び法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

④個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。」

(3)上記(2)①ないし④の理由で不開示とした部分のうち,③の理由で不開示とした部分は,当該委員会資料の調査の経緯,調査の概要,調査結果等に関する文書のうち,「審議,検討又は協議に関する情報」,「本学の事務及び事業に関する情報」,「内容確認に係る事務に関する情報」,「研究に関する情報」及び「人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報」と抽象的な記載にとどまり,具体的な不開示部分が特定されておらず,頁単位での特定もされていない。また,不開示とされた部分に記載された「審議,検討又は協議に関する情報」や「本学の事務及び事業に関する情報」が,研究不正に係る調査委員会のどのような審議や検討等に関するものか,東京大学のいかなる事務や事業に関するものかといったことも全く不明である上,不開示事由についても,複数の不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎない。

例えば,不開示部分を公にすることによって,法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとする場合には,何に関する情報を公にすることにより,どのような者から誰に対していかなる圧力や干渉等が加えられることが考えられるのかといったことを示す必要があるところ,通知書では,これらが何も示されておらず,当該不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとは認められない。

そして,当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし頁単位で不開示とされていることが認められ,この見分結果及び上記(2)③の不開示理由の記載を踏まえると,上記(2)③の理由で不開示とされた部分は,本件対象文書の不開示部分のどの箇所であるのかを正確に把握できない。また,上記(2)④の理由で不開示とした部分は,「個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないもの」としか記載されておらず,本件対象文書にどのような情報が記載されているか不明であり,また,具体的な不開示部分の特定がされていないことから,上記(2)③又は④のいずれの不開示部分に該当するのか明らかではない。なお,上記(2)①及び②の理由で不開示とした部分は,「当該委員会の開催日時」,「当該委員会委員長以外の委員名」と記載されており,具体的な不開示部分の特定はされていないものの,不開示とされた情報の内容及び理由は示されていることから,直ちに理由の提示に不備があるとはいえないと思われるが,文書を全体としてみた場合,上記(2)③に該当する部分がほとんどであり,本件一部開示決定は,全体として理由の提示に不備があるといわざるを得ない。

(4)また,本件開示実施文書を確認したところ,不開示部分がある各頁の上部には,不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。

(5)したがって,原処分は,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条2項の趣旨及び行政手続法8条1項に照らして違法であり,取り消すべきである。

3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子

 

スポンサーリンク

参考

  1. 事件名:22報論文に関する調査報告書の一部開示決定に関する件
  2. 事件名:大学院医学系研究科・医学部が保有する部局調査結果報告書等の一部開示決定に関する件
  3. 事件名:平成28年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件
  4. 事件名:平成29年度科学研究行動規範委員会資料の一部開示決定に関する件
  5. 情報公開(独立行政法人等)令和元年度答申 051~(総務省)
  6. 22報論文に関する調査報告書」(一部不開示)
  7. 総務省 情報公開・個人情報保護審査会 委員名簿

 

同じカテゴリーの記事一覧


 - 科学者の不正行為, 論文データ捏造, 東大医学部論文不正疑惑