匿名A氏が指摘した類似画像を含む84報のうち東大の医学系研究者が著者であった12報に関して東大が予備調査の結果不正無しと結論したことに関して情報の開示請求がありましたが、東大が一部不開示の決定をしたため、それを不服とする開示請求者が審査請求を行い、それを受けて審査会が審査を行い、その結果を答申として公開していました。以下、その内容です。東大が不開示としたのは違法であると結論しています。
以下、http://www.soumu.go.jp/main_content/000506048.pdf の内容の転載。太字強調は当サイト。
諮問庁:国立大学法人東京大学
諮問日:平成29年6月8日(平成29年(独情)諮問第31号)
答申日:平成29年9月6日(平成29年度(独情)答申第24号)
事件名:平成26年度科学研究行動規範委員会資料等の一部開示決定に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
別紙に掲げる文書1ないし文書5(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,理由の提示に不備がある
違法なものであり,取り消すべきである。
第2 審査請求人の主張の要旨
1 審査請求の趣旨
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成29年2月8日付け第2
016-45号により国立大学法人東京大学(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,原処分を取り消し,出席者を除く不開示部分(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求める。
2 審査請求の理由
(1)審査請求書
ア 不開示とされた各議事などについて,調査・事案処理の方法・方針,委員の発言内容に係る記載は,調査委員会での審議が適切に行われたか知る上で必要な情報である。開示された各議事はほぼ全てが黒塗りされており,ひとつひとつの論文について十分に審議されたか否かが,現状の開示資料では推測することすら困難である。これでは審議内容が適切か否かを判断することができず,かえって疑念を抱かせる原因となる。「東京大学の科学研究における行動規範」にあるように研究不正は,「科学研究の本質そのものを否定し,その基盤を脅かす,人類に対する重大な背信行為」である。奇しくも ,現在,同じ研究者に対する研究不正の告発が行われており,過去の調査が適切に行われたかどうかを示すことは,研究不正に貴大学がどのような姿勢で臨んできたのかを示すことにもつながる。同じ行動規範には,「科学者コミュニティの一員として,研究活動について透明性と説明性を自律的に保証することに,高い倫理観をもって努めることは当然である」と明記され,それに続く総長声明では「この行動規範を大学自ら担保するための委員会制度を規則として定めることにした」と委員会の位置づけを説明している。こうした規範や総長声明の理念を守り,調査の審議過程及び内容の適切さを担保するためにも,貴大学には当該資料を開示して調査が適正に行われたことを示す責務がある。
イ 発言者の特定をしなければ,審議内容を情報開示することにより,特定の者に不当に利益を与え,または不利益を及ぼすとは到底考えられない。また,個人が特定されなければ,人事に支障を及ぼすおそれもない。仮に,社会の公器としての貴大学が,原則として開示すべき資料を,例外的に不開示とするためにこのような主張を行うならば,具体的な根拠を示して主張する必要がある。そうでなければ,この主張自体が極めて不合理であり,世間から疑惑の目で見られることを,自ら容認することになろう。そのような姿勢は上記行動規範に反するものである。貴大学として,発言者が特定されないとしても,将来予定される審議において委員の意見等が公表されることを前提にすると,委員が部外の評価等を意識して素直な意見を述べることを控えるなど,意思決定の中立性や独立性が不当に損なわれるおそれがあると主張されるかもしれない。しかし,発言者が特定されないのであれば,委員の意見等が公表されたとしても素直な意見を控えるとは到底考えられない。もし意思決定の中立性や独立性が不当に損なわれるなどと主張するのであれば,発言者が特定されないにもかかわらず,素直な意見を述べることができないような調査委員を選任することを前提としており,専門家としての各調査委員を愚弄するのみならず,調査委員会の適正さそのものに疑義を生じさせる主張と言わざるを得ない。一連の資料の開示を拒むことは,研究不正を真摯に取り扱おうとする姿勢に真っ向から反するものである。さらに審議が終わった研究不正調査に関する議事の公開は,将来他の研究不正事案を審議する場合の参考となりうるものであり,貴大学の対応は,社会的に評価されるものではあれ,非難されることはありえない。なお,調査対象者については対象となった論文が公開されていることから,少なくとも責任著者と筆頭著者については対象となることが明らかなため,ヒアリングなどの議事録を含め公開すべきと考える。その他の調査対象者について個人名などは不開示でも構わない。
ウ 既に審議が終わり調査の結論は貴大学のホームページでも公開されている。そのため,議事内容が公開されることで本件の事務や事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはない。また,同じ理由から,たとえ,審議のある時点で生じた,未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報を公にしたとしても,その後,結論に至った過程を合わせて公開すれば新たに混乱を生じさせるおそれもない。加えて,結論が「不正なし」というものであるため,公開することで当該研究者の今後の研究活動にも影響を与えるおそれもない。
エ 将来に行われる類似の審議・検討・協議に係る意思決定に不当に影響を与えるおそれについては,研究不正事案というものは,事案ごとにその内容や性質が異なるものである。それぞれ個別に審議されるものであり,その都度適切に審議されることで問題は生じない。これは,本件と同じ研究者が対象となり,現在行われている研究不正調査への影響についても同様である。また,審議,検討の内容を公にすることにより,調査にあたっての考え方,主張等が明らかになり,今後の同種の調査にあたり,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は不当な行為を容易にするおそれがあるという主張についても,同様に事案ごとに内容や性質が異なるため懸念は当たらない。逆に「何が不正に当たるのか」といった考え方などはむしろ公開することで不正の防止につながる情報で,これらを不開示の理由とすることは調査の正当性に疑念を抱かせるだけでなく,研究機関として不正に真撃に対応できているのか,その姿勢を問われかねない事態にもつながると考える。
オ 独立行政法人は,原則として保有する情報を公開しなければならず,不開示はあくまで例外規定である。個別具体的な事情なく漫然と不開示とするのであれば,世間に対し,情報公開をする気がない大学であることを表明するに等しい。また,調査方針・手法自体は,調査委員会の判断の公正さを担保するために開示は必須であると考えられるのみならず,開示を拒むことは,逆に調査委員会の判断に対する疑義を生じさせるものであり,不開示とすることによりあたかも不正があったかのように流布されるおそれもある。現実に,一部マスコミ報道やインターネット上では本件論文の研究者に対する記事が多数掲載されており,研究者個人のみならず大学にとっても不利益が生じる事態につながっている。なお,調査過程の開示は,例えば貴大学の「分子細胞生物学研究所・旧特定研究室における論文不正に関する調査報告書(第一次)」の資料「不正な図の例」においても行われている。特定URL調査が適正に行われていることが示されており,こうした開示によって他の不正調査に悪影響が出る問題も生じていない。
カ 貴大学として,不正がなかったと認定されたにもかかわらず,議事内容が公表されることで,再び,当該調査事案が注目され,公表された一部の情報だけをもって新たに誹誘中傷が行われる可能性があるとの主張を行う可能性もある。しかしながら,そもそも本件調査事案は,同じ研究者が新たに告発を受けたことで ,現在,非常に注目されており,過去の調査内容が公表されたからといって「再び」注目されるという状況にはない。加えて,新たに誹誘中傷が繰り広げられるというのも,憶測の域を出ず,研究不正を厳に取り締まる立場にある貴大学が,法的に公表が原則となっている情報を不開示にする理由としては著しく正義に反するものである。
キ 以上,アからカで述べた通り,貴大学が示した見解は,いずれも資料の中の個人名以外を不開示とする理由には該当しない。各議事は不正行為か否かの判定が適切に行われたかどうかを知る上で必要な情報である。議事などの資料を公開して当該委員会が研究不正事案に真摯に取り組んだ事を示し,結論に対する信頼を得ることは,上記行動規範や規則を制定した貴大学の責務である。発言者の個人が特定できる氏名等は伏せて,資料を公開すべきである。
(2)意見書
審査請求人から平成29年7月10日付け(同月11日受付)で意見書が当審査会宛てに提出された(諮問庁の閲覧に供することは適当でない旨の意見が提出されており,その内容は記載しない。)。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 本件対象文書について不開示とした理由について
本件対象文書は「「インターネット上で指摘のあった論文の画像データに係る調査結果について」として調査結果が平成27年7月31日付けで公表されている,研究行動規範委員会の調査に関わる資料の一切。具体的には,調査にかかる会議に提出された資料,会議の議事次第,調査委員が示された資料,会議の議事録,調査報告書とその案,調査対象者から提出された実験データなどの資料,その他調査に使われた資料,調査で行われた関係者のヒアリングの記録,外部機関に調査や分析を行っていればその報告書。加えて,調査にかかった費用とその使途がわかる資料(外部調査委員への支払なども含む)」である。本学では,研究不正の事案については,科学研究行動規範委員会において調査を行っているが,請求にかかる文書は以下の5つの理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。
① 個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。
② 審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意志決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるものについては,法5条3号に該当するため不開示とする。
③ 公にすることにより,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものについては,法5条4号柱書きに該当するため不開示
とする。
④ 公にすることにより,正確な事実の把握を困難にするおそれ,若しくはその発見を困難にするおそれがあるものについては,法5条4号ハに該当するため不開示とする。
⑤ 公にすることにより,人事管理に係る事務に関し,その公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある部分については,法5条4号
ヘに該当するため不開示とする。よって,本件対象文書を平成26年度~27年度科学研究行動規範委員会資料並びに支給調書として,部分開示決定を行ったものである。これについて,審査請求人は,平成29年4月4日受付の審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。
2 審査請求人の主張について
審査請求人は「開示された各議事がほぼ全て黒塗りされており,ひとつひとつの論文について十分に審議されたか否かが現状の資料では推測することすら困難であり,これでは審議内容が適切か否かを判断することができず,かえって疑念を抱かせる原因となる。調査委員会の適正さそのものに疑念を生じさせると言わざるを得ない。対象となった論文が公開されていることから,少なくとも責任著者については対象となることが明らかなため,ヒアリングなどの議事録を含め公開すべきと考えるし,結論が「不正なし」というものであれば公開することで当該研究者の今後の研究活動にも影響を与えるおそれもない。いずれの資料の中の個人名以外を不開示とする理由には該当しない。発言者の個人が特定できる氏名等は伏せて,資料を公開すべきである。」等と主張している。しかしながら,研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,かかる調査については,限りなく公平中立なものとして実施されなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。また,「不正なし」と認定した場合には,これらの要請に加えて,不正行為の認定がなされなかった被申立者への配慮も当然考慮すべき事項となってくる。そのため,今回開示した内容については,上記の理由から必要かつ十分なものであると認識している。したがって,本学の決定は妥当なものであると判断する。以上のことから,諮問庁は,本件について原処分維持が妥当と考える。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成29年6月8日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月20日 審議
④ 同年7月11日 審査請求人から意見書及び資料を収受
⑤ 同月31日 本件対象文書の見分及び審議
⑥ 同年9月4日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件開示請求について
本件開示請求は,「「インターネット上で指摘のあった論文の画像データに係る調査結果について」として調査結果が平成27年7月31日付け
で公表されている,研究行動規範委員会の調査に関わる資料の一切。具体的には,調査にかかる会議に提出された資料,会議の議事次第,調査委員が示された資料,会議の議事録,調査報告書とその案,調査対象者から提出された実験データなどの資料,その他調査に使われた資料,調査で行われた関係者のヒアリングの記録,外部機関に調査や分析を行っていればその報告書。加えて,調査にかかった費用とその使途がわかる資料(外部調査委員への支払なども含む)」の開示を求めるものであり,処分庁は,法11条に規定する開示決定等の期限の特例を適用し,先行開示文書(平成28年11月9日付け第2016-45号により特定され,開示された文書)及び文書1ないし文書5(本件対象文書)を特定し,先行開示文書については全部開示したが,本件対象文書については,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ及びへに該当するとして不開示とする原処分を行った。これに対し,審査請求人は,上記の不開示部分のうち,出席者などの個人名の特定につながる情報以外の部分(本件不開示部分)の開示を求めているが,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,原処分の妥当性について検討する。
2 理由の提示について
(1)開示請求に係る法人文書の一部又は全部を開示しないときには,法9条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には,行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。かかる趣旨に照らせば,この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法5条各号の不開示事由のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならない。上記の理由の提示として,不開示事由が複数あるときに,具体的な不開示部分を特定していない場合には,各不開示事由と不開示とされた部分との対応関係が明確であり,当該行政文書の種類,性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合を除き,通常,求められる理由の提示として十分とはいえない。
(2)そこで,まず,原処分における理由の提示の妥当性について検討すると,当審査会において,諮問書に添付された原処分に係る法人文書開示決定通知書を確認したところ,原処分においては,本件対象文書(総ページ数553ページ)のうちの不開示部分とその理由について,「個人名その他個人を識別できる情報であって法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないものが記されている部分を不開示とする。」,「審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるものについては,法5条3号に該当するため不開示とする。」,「公にすることにより,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものについては,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。」,「公にすることにより,正確な事実の把握を困難にするおそれ,若しくはその発見を困難にするおそれがあるものについては,法5条4号ハに該当するため不開示とする。」及び「公にすることにより,人事管理に係る事務に関し,その公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある部分については,法5条4号ヘに該当するため不開示とする。」とされているだけで,どの不開示部分が上記の不開示事由のいずれに該当するのか不明であるばかりか,不開示事由についても,各不開示条項の規定をほぼそのまま引用したに等しい内容が書かれているにすぎず,当該不開示事由に該当すると判断した理由を具体的に示しているとはいえない。なお,各開示実施文書を見てみると,不開示部分がある各ページの上部には不開示条項が付記されているが,これを理由の提示又はそれを補うものと見ることはできない。
(3)以上を踏まえると,確かに,原処分においては,不開示の理由として,法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ及びヘは示されているものの,本件対象文書のどの部分が,どのような根拠により,これら不開示事由のいずれに該当するのかが開示請求者において了知し得るものになっているとはいえないから,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法9条1項及び2項の趣旨並びに行政手続法8条に照らして違法であるの
で,原処分は取り消すべきである。
3 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,3号並びに4号柱書き,ハ及びヘに該当するとして不開示とした決定については,その理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきであると判断した。
(第1部会)
委員 岡田雄一,委員 池田陽子,委員 下井康史
別紙(本件対象文書)
文書1 平成26年度科学研究行動規範委員会資料(67枚67頁)
文書2 平成27年度科学研究行動規範委員会資料(216枚216頁)
文書3 平成27年度科学研究行動規範委員会資料(128枚128頁)
文書4 平成27年度科学研究行動規範委員会資料(132枚132頁)
文書5 支給調書(8枚10頁)
参考
- 情報公開(独立行政法人等)平成29年度答申 001~050 平成29年度(独情)024
- 答申状況<情報公開・個人情報保護審査会<総務省
- 情報公開・個人情報保護関係 答申データベース検索 (総務省)【 行情:10308件、独情:1123件、行個:1987件、独個:627件 (平成30年4月20日00:26現在) 】
- 情報公開・個人情報保護関係 判決データベース検索(総務省)