ラボ報告会で発表するデータがない時

ラボでは定期的にラボミーティング(プログレス、報告会)が行われ、大学院生やポスドクは研究の進捗状況をボスや他のラボメンバーの前で発表するのが一般的です。さて、このラボミーティングですが、いいデータを見せられれば良いのですが、実験なんて大抵の場合期待はずれの結果にしかならないことが多いわけです。そんなときに、どのようにプレゼンを行えばよいのでしょうか?また、研究の原動力、推進力となるようなラボミーティングとはどのようなものであるべきなのでしょうか?

 

ボスからの期待

 

ラボミーティングは誰だって気が重い

ラボミーティングのプレッシャーで大変な思いをしているのは、自分だけではないんだと知るだけでも、少しは気が楽になります。

あぁ、もうまた月曜だ、ラボミーティングで見せるデータが全然無い‥ Ahh another monday, another lab meeting with very little data to show… @Genyi1681 4:52 – 2010年1月11日

 

ラボミーティングで見せるデータがほとんど無い=ツライ時間 lab meeting with very little data = bad times @MattDParker 6:50 – 2010年6月7日

 

私:「来週のラボミーティングは自分の番なんですが、データがないんですけど。」
ボス:「それはあなたの問題ね。」
Me: “I’m supposed to present at lab meeting next week, but I have no data.”
Advisor: “That’s your problem.” @sianbehr 14:48 – 2014年2月21日

 

大学院で最初のラボミーティングだけどデータが無いから休日の写真を1時間見せていよう First lab meeting presentation today as a PhD, no data, just going to show my holiday photos for an hour @Sarah_Bethy_ 0:22 – 2016年2月26日

 

 

データがないときにどうやってラボミーティングを切り抜けるか

そのものずばりのタイトル「新しいデータ無しでどうやってラボミーティングの発表をするか」という記事があったので、項目だけかいつまんで紹介します。

1. 失敗の過程を話して、ラボからの助言を仰ぐ
2.古いデータを見直してみる 定量的な解析を行うことにより、新しい見方ができるかも
3.解析ソフトウェアを使いこなす バイオインフォマティクスツールなどの利用で新しい発見があるかも
(4.論文紹介の時間にする)
5. 新しいモデル、模式図をつくってみる 手持ちのデータや文献からの知見をあわせて新たなモデルがつくれるかも
6.備えあれば憂いなし  日頃からサ イドプロジェクトを走らせておいて、何もニューデータがないという状態をつくらないようにする (How to present during lab meeting without new data May 25, 2017 BY Brittany Carson)

やった実験データをラボミーティングのときに全部見せずに、一部は将来のラボミーティングにとっておくというのも手かも。

 

ラボミーティングをストレスに感じるか、楽しめるかは、研究能力というよりも、ラボミーティングのあり方に対する当人の考え方次第です。

失敗を話そう

試薬と時間を無駄にするだけの馬鹿げた実験の失敗はおいておくとして、現在の技術ではどうにもうまくいかないという種類の失敗は、ラボ内で共有したほうが良いと思います。こういうやり方ではうまくいかないということは貴重な情報になるからです。

「私は1万回失敗したのではない。1度も失敗してはいない。私は、これらの1万通りの方法がうまくいかない、ということを示すのに成功したのだ。うまくいかないやり方を全部つぶしたとき、私はうまく行くやり方を見つけるであろう。」(トーマス・エジソン)

“I have not failed 10,000 times. I have not failed once. I have succeeded in proving that those 10,000 ways will not work. When I have eliminated the ways that will not work, I will find the way that will work.” (Thomas Edison) (How Failure Taught Edison to Repeatedly Innovate. By Nathan Furr, forbes.com Jun 9, 2011)

生データを見せよう

本人はうまくいかなかったと思い込んでいるデータでも、第三者がみると案外悪くないと感じることがあります。逆に、本人がうまく行ったと思っているデータであっても、客観的にみるとアーチファクトの可能性が高いことがあります。あるいは、生データをみれば、当初は予想していなかったような、新しい見方ができることに気付くかもしれません。

平均値を計算して見せるだけだと、データの分布の情報が失われます。同様に、画像データ等から特定のパラメータのみを抽出して発表に用いると、他の情報は全て捨てていることになります。違う人が同じデータを見ると、違う発見に繋がる可能性があるので、生データを見せ合う習慣は非常に大切だと思います。

論文発表に際しても、棒グラフで平均値とエラーバーを見せるだけでなく、データポイント全てのプロットを要求するジャーナルが増えています。生データのチェックをラボとして徹底していれば、巷を騒がせている研究不正、データ捏造の大部分は未然に防げたはずで、生データをチェックしようとしないボスがいるとしたら、それは無責任というものです。

 

ネガティブデータはネガティブではない

自分が見た中で印象的だったラボミーティングは、説明したい現象に関して仮説を提示してはその仮説が否定されるような実験結果を提示し、また新たな仮説を出してはそれが否定され、とかなり長期にわたりネガティブデータが積み上げられたのですが、そうやって可能性を絞っていくことにより最後は一番うまく現象を説明する仮説に到達してそれを支持する実験結果とともにトップジャーナルへの論文掲載となったもの。ネガティブデータでがっかりする必要はまったくないということがよくわかりました。

私の最初の実験のお話をしましたが、本当に簡単な実験で、どうでもいいような実験なんですけれども、血圧を上げると思っていた薬が逆に思いきり下げた。 そのときにやっぱり人間のタイプが2つに分かれると思うんですね。どっちもいいと思うんですが、「予想どおり血圧が上がったら非常にハッピー な人」つまり、予想が外れたらがっかりしてしまうタイプと、そうじゃなくて、予想どおりだったら「まあこんなもんか」と思って、逆のことが起こったときに ものすごい興奮するタイプ。こっちが僕なんですけど、この2つに大きく分かれると思うんですね。(山中伸弥氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー 

 

 

ラボミーティングを楽しみに

長い研究人生を送るなら、研究生活の全てを楽しめたほうがが良いわけで、ラボミーティングも自分の番が待ち遠しくなるようにしたいものです。

 

ラボミーティングにおけるPIの役割と責任

ネガティブな結果にダメ出ししたり、ポジティブな結果の先を考えたりすることなら、誰にでもできます。学生や部下の研究が思い通りに進んでいない状況にどう対処するかで、PIの資質、能力が問われるのではないでしょうか?このような状況に対してPIがどのような態度で臨むかは、ラボ全体の士気に多大な影響を与えます。

また、ラボミーティングが、ボスが描いたストーリーに合う実験結果以外は発表できない場だと、ラボの雰囲気は非常に悪くなります。研究員や大学院生にかかる極度のストレスのため、研究不正を誘発しかねません。そのようなラボでデータ捏造に走る研究者が出たとしたら、ボスにも相応の責任があるといえるでしょう。

アクティビティの高いラボのボスは、人間に対しても、実験データに対しても、受容的な態度ができているように思います。ボスが常に研究員とともに真剣に考えるという態度を取るので、その態度は他のラボメンバーにも共有され、個人が精神的に孤立することなく、ラボ全体にencouragingな雰囲気が醸成されます。

 

効果的なラボミーティングとは

私がこれまで見たラボミーティングでうまいプレゼンだなあと思ったのは、回を重ねるごとにストーリーに必要なデータが付け加わっていって、最後はきっちり論文になったというもの。論文が形作られていくさまが、その人のラボミーティングの度にはっきりとわかって、素晴らしいものでした。論文というゴールが常に明確でブレることなく、まさにプログレスリポートと呼ぶに相応しいものでした。常にこうありたいものです。研究者にとって、形にする、論文にするということは最重要なことですから。

常に新しいデータを見たがるボスもいるかもしれませんが、毎回新しい実験をして新しい結果を得られたとしても、一つのストーリー、論文にまとまらないのであれば、あまり建設的ではありません。常にゴールへの道筋からずれないようにするのはボスの役割でしょう。

同じ実験データであっても、そこから思い描くストーリーが、実験した当人とボスとの間で食い違っていることがあります。その場合は、二人で論文を執筆するときにチグハグな直し合いで時間を浪費しかねません。論文出版に向けての考え方の摺り合わせは、日頃のラボミーティングの意義の一つでもあります。

ラボミーティングでは、前回の自分の発表以降に出た新しい実験データだけをいきなり話し始める人も多いようです。しかし、ラボ内のメンバー全員が前回までの内容を細かく覚えているわけでもなく、その実験の意義や目的を即座に理解できるわけではありません。年齢にもよりますが、意外と、ボスがこれまで話した内容を忘れていたりもします。そんなわけなので、研究のゴール、描いているストーリーや仮説、実験目的、これまで得られた実験データがストーリーにどうフィットするのかなどを含めたプレゼンテーションにするほうが、論文というゴールへ向かう姿勢がラボ内で共有できて建設的です。

 

参考

  1. How to survive your first lab meeting (abcam.com)
  2. Meeting in the Aisle 28th February 2017 By quantixed
  3. What to do at lab meetings? Posted on January 15, 2014 by Meghan Duffy
  4. Lab Meeting Presentations Done Right by David Bourdon – 03/29/12
  5. How to hold an effective (lab) meeting. Posted on September 19, 2006 by Bill Hooker
  6. http://www.mpiovesan.com/lab-meeting
  7. Lab meeting What do you do in lab meetings? Small Pond Science
  8. Lab meetings: Pros and cons of various styles May 01, 2017 BY Melissa Galinato
  9. Badali, M. (2002). The lost art of lab meetings. Psynopsis: Canada’s Psychology Newspaper, 24(4), 14. (PDF)
  10. How to run a successful lab meeting © 2007 Lena H. Ting (PDF)
  11. Tips for Talks. Help for giving a talk or lab meeting (PDF)

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