「国際卓越研究大学」東北大学のテニュアトラック偽装の衝撃

東北大学は東大や京大を押しのけて、ただ一校初めての「国際卓越研究大学」に採択(正確には認定候補に選定)され世間を驚かせたばかりです。ところが、国際卓越研究大学採択の重要な評価基準であった若手研究者の安定雇用推進に関して、東北大学が行ってきたテニュアトラック制度は、とてもテニュアトラック制度とは呼べない代物であったことが報道され、再度世間を驚かせています。

何とか細胞でネイチャーに二報の論文を同時に出して世間を驚かせ、全てが捏造だったことで再度世間を驚かせたあの事件から受けた衝撃に近いものを自分は感じます。


自分には、東北大学が若手研究者を欺き、世間を欺き、国を欺いて10兆円ファンドを手にいれたようにしか見えません。「東北大学テニュアトラック制度は、一般的なテニュアトラック制度ではない」(by東北大)って、一体どういう日本語ですか?それ、文科省にもちゃんと説明していました?

これとは直接関係ないけど、以前東北大学の別の副学長が、「優秀な若手男性がポストに恵まれないことは周囲を見ていて無いと思います。」とほざいたことをまた思い出してしまいました。

  1. 東北大学の女性限定教授公募の波紋「教授って合コンサークルか何かなのか?」

テニュアを餌に優秀な若手研究者を東北大学に誘き寄せて、東北大学の論文業績を上げるのに利用しておきながら、テニュア審査の機会すら与えずに使い捨てるということを続けてきた大学の執行部の中の人が、「優秀な若手男性がポストに恵まれないことは周囲を見ていて無いと思います。」と発言していたのかと思うと、また別の種類の衝撃が来ますね。研究者として生き残るために命がけで生きている若い人が、こういう大学や文科省の作り出す不条理な状況に翻弄されて消耗してしまうのであれば、やはり学部学生に対してむやみに大学院進学を勧めていいものではないなと改めて思います。

  • 採用された職員のうちテニュアになれているのはほんのわずかで「10人に1人くらい」「1割もいない」
  • そもそもテニュアのいすを用意せずに職員を公募
  • 若手研究者がどれだけ頑張っても、テニュアにはなれないことが初めから決まっている
  • テニュア審査を受けるためにポストの照会をしてもらったが、(受け入れ先となる工学部や理学部などの)部局にポストの空きがないので却下され、そこで終わった

(卓越大内定の東北大学が「名ばかりテニュアトラック」、「若手研究者の安定雇用推進」の看板倒れ 9/22(金) 5:32 東洋経済オンライン)

東北大の言い訳

小谷元子 理事・副学長(研究担当)「テニュアトラックとして公募しているのではなく、学際科学フロンティア研究所の教員として公募している。テニュアトラック職として採用するとは一度も言っていないので、テニュア審査(があるかどうか)については説明をする必要がない

(卓越大内定の東北大学が「名ばかりテニュアトラック」、「若手研究者の安定雇用推進」の看板倒れ 9/22(金) 5:32 東洋経済オンライン)

東北大学テニュアトラック制度は、一般的なテニュアトラック制度ではない

(小谷元子 理事・副学長(研究担当))(卓越大内定の東北大学が「名ばかりテニュアトラック」、「若手研究者の安定雇用推進」の看板倒れ 9/22(金) 5:32 東洋経済オンライン)

おいおいウソつくのもいい加減にせーやと言いたくなりますね。プレスリリースではっきりとテニュアトラックという言葉の説明をしています。

これはどう考えても研究者にとっての通常のテニュアトラック制度ですよね。「東北大学テニュアトラック制度は、一般的なテニュアトラック制度ではない」という言い訳も凄い。日本語がまともに使われていなくて、もうお話にならない。募ったけど募集していないとか言っていた政治家と同じ語法を、科学者までもが使うような国に堕ちてしまったんでしょうか、日本は。

  1. 小谷元子 理事・副学長 略歴 氏 名:小谷 元子(こたに もとこ) 学 歴: 昭和58年3月 東京大学理学部数学科卒業 令和 2年4月 東北大学理事・副学長 専門分野:数学、微分幾何学、離散幾何解析学 mofa.go.jp

東北大学のプレスリリースにおけるテニュアトラック制度の説明

東北大学テニュアトラック制度は、一般的なテニュアトラック制度ではない」し「テニュアトラック職として採用するとは一度も言っていない」という弁明が成り立たないのは、下で紹介するプレスリリースを読めば明らかでしょう。

世界の若手研究者の活躍機会創出のため50名規模の東北大学テニュアトラック制度を創設

【発表のポイント】

本学では、世界から優秀な若手研究者を集め、その中からさらに優秀な若手研究者に安定かつ独立した研究環境を提供する全国に先駆けた全学的テニュアトラック制度を創設します。

今回、本制度の創設を踏まえ、本日付けで学際科学フロンティア研究所の教員公募を開始します。

【概要】

本学では、他大学に先駆けた独自財源の取組として、平成25年4月に設置した学際科学フロンティア研究所において、学際研究を推進する優秀な若手研究者を国際公募により採用し、独立した研究環境の下で研究を実施、任期満了後(最長5年)は、学内外に国際的トップレベル研究者として輩出してきました。

これまでの本学における若手研究者養成の実績を踏まえ、特に優秀な若手研究者の本学への定着とさらなる活躍機会を創出するため、「学際科学フロンティア研究所を活用した東北大学テニュアトラック制度」を創設することとしました。

本制度の創設により、本学の研究力の更なる向上を目指します。

【学際科学フロンティア研究所 教員公募URL】

http://www.fris.tohoku.ac.jp/recruit/invitation/detail—id-498.html

【テニュアトラック制度とは】

公正で透明性の高い選考により採用された若手研究者が、任期付の雇用形態で自立した研究者として経験を積み、審査を経てより安定的な職(テニュアポスト)を得ることができる仕組みをいいます。

上のプレスリリースでは、テニュアトラック制度の説明をとして、明らかに、一般的なテニュアトラック制度の意味で説明しています。そしてそのプレスリリースの中で教員公募URLを貼って「平成31年度採用 新領域創成研究部 助教公募(10名)」の募集をかけているわけです。そしてその募集の要項には、「任期は採用日より3年。(再任審査後最長2年の更新あり)また、東北大学のテニュアトラック推進に関する方針により、任期終了時点で極めて顕著な業績を挙げ優秀と判定された場合で、かつ学内の研究科・研究所等の採用計画と合致した場合は、審査により当該研究科・研究所等の准教授として採用することがあります。」と書いたので、東北大学は「テニュアトラック職として採用するとは一度も言っていない」などというガキの言い訳みたいなことを後から言って逃げ切ろうとしているということのようです。表向きにテニュアトラックと明言している以上、「テニュアトラック職として採用するとは一度も言っていない」などという言い逃れが通用するはずがありません。

  1. 東北大学テニュアトラック普及・定着事業
  2. 東北大学学際科学フロンティア研究所テニュアトラック制度に関する内規
  3. 学際研テニュアトラック制度概要 本プログラムで採用された助教は、テニュアトラック教員として採用後3年目から5年目の間にテニュア審査を受けます。テニュア審査合格者は、テニュアを付与した助教になります。

東北大学はテニュアトラック制度に関するウェブサイトをつくって、テニュアトラックがどういう制度か説明していますが、説明を読むといたって通常のテニュアトラックです。

テニュアトラック制度とは公正で透明性の高い選考により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付の雇用形態で自立した研究者として経験を積むことができる仕組みをいいます。東北大学テニュアトラック普及・定着事業

東北大学テニュアトラック教員募集要項の逃げ

報道によれば、応募時の文言は、「東北大学のテニュアトラック推進に関する方針により、任期終了時点で極めて顕著な業績を挙げ優秀と判定された場合で、かつ学内の研究科・研究所等の採用計画と合致した場合は、審査により当該研究科・研究所等の准教授として採用することがある」と書いてあるとのことです。世界の若手研究者の活躍機会創出のため50名規模の東北大学テニュアトラック制度を創設などとプレスリリースしてはでにぶち上げておきながら、募集要項では巧妙に逃げ道を作っていたというわけです。世間(文科省)に対するアピールと、実際の採用とのギャップが酷いものです。

東北大学 学際科学フロンティア研究所 教員公募 公募人員 助教14名

着任時期 2020 年1月1日以降のなるべく早い時期 または 2020 年4月1日 (応相談)

任期は採用日より3年。(再任審査後最長2年の更新あり)また、東北大学のテニュアトラック推進に関する方針により、任期終了時点で学内の研究科・研究所等の採用計画と合致した場合は、審査により当該研究科・研究所等の准教授として採用することがあります。

https://www.fris.tohoku.ac.jp/media/files/_u/topic/file1/2019j_recruiting_assistantprof.pdf

確かにそういう文言を使っている公募もありますね。

令和3年新規採用 新領域創成研究部 助教公募(6名)

応募締切:2020年7月28日 17時

任期は採用日より5年。(再任は不可)また、東北大学のテニュアトラック推進に関する方針により、任期終了時点で学内の研究科・研究所等の採用計画と合致した場合は、審査により当該研究科・研究所等の准教授として採用することがあります。

https://www.fris.tohoku.ac.jp/recruit/invitation/detail—id-773.html

 

令和2年度 新規採用 新領域創成研究部 助教公募(14名)

応募締切:2019年8月1日

公募人員 助教 14名

着任時期 2020年1月1日以降のなるべく早い時期 または 2020年4月1日 (応相談)

任期は採用日より3年。(再任審査後最長2年の更新あり)また、東北大学のテニュアトラック推進に関する方針により、任期終了時点で学内の研究科・研究所等の採用計画と合致した場合は、審査により当該研究科・研究所等の准教授として採用することがあります。

https://www.fris.tohoku.ac.jp/recruit/invitation/detail—id-604.html

平成31年度採用 新領域創成研究部 助教公募(10名) 応募締切:平成31年4月1日

着任時期 平成31年 4月 1日

任期は採用日より3年。(再任審査後最長2年の更新あり)また、東北大学のテニュアトラック推進に関する方針により、任期終了時点で極めて顕著な業績を挙げ優秀と判定された場合で、かつ学内の研究科・研究所等の採用計画と合致した場合は、審査により当該研究科・研究所等の准教授として採用することがあります。

https://www.fris.tohoku.ac.jp/recruit/invitation/detail—id-498.html

 

新領域創成研究部は、東北大学 学際科学フロンティア研究所の中の組織のようですし、学際科学フロンティア研究所テニュアトラック制度というウェブサイトにテニュアトラックの説明がありますので、通常のテニュアトラック制度ではないと言われても困りますね。

東北大の当局と部局のやっていることのチグハグさ

この文言を含まないごく普通のテニュアトラック公募もあるようです。学科ごとにテニュアトラック制度を運用しているということなのでしょうか。

東北大学大学院理学研究科 数学専攻 テニュアトラック教員公募

職名及び募集人員:テニュアトラック助教 1名

採用予定時期:2023 年 9 月 1 日以降.具体的な着任日は応相談

テニュア付与に係る審査:採用から 3 年目終了時までに中間評価に係る審査を実施し,任期満了の1年 前までにテニュア付与に係る審査を行う.テニュア付与に係る審査に合格した場合にはテニュアを付与 する.また,特に優秀と認められたときには,助教よりも上位の職に昇任させる場合がある.

http://www.math.tohoku.ac.jp/koubo/2023/20230411.pdf

 

東北大学大学院理学研究科 物理学専攻 テニュアトラック教員公募(9/30締切)

テニュアトラック助教1名 (ただしテニュア付与に係る審査に合格した場合は准教授)

採用から3年目終了時までに中間評価に係る審査を実施し,任期満了の1年前までにテニュア付与に係る審査を行う.テニュア付与に係る審査に合格した場合にはテニュアを付与するとともに量子ダイナミクス研究室の准教授として昇任させる.

応募締切 2023年9月30日(土)必着

https://www.sci.tohoku.ac.jp/recruit/post-20230930-2.html

 

東北大学加齢医学研究所教員公募 テニュアトラック准教授

勤務形態 常勤(テニュアトラック) 5年以内にテニュア資格審査委員会による審査をへて、任期の定めのない教員として嘱任することがある。

募集期間 令和5年9月30日(日本時間)までhttps://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/recruit/17416/

 

東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻 テニュアトラック教員公募

職名及び募集人員:テニュアトラック助教 1名

採用予定時期:2023 年 10 月 1 日以降.具体的な着任日は応相談

テニュア付与に係る審査:採用から 3 年目終了時までに中間評価に係る審査を実施し,任期満了の1年 前までにテニュア付与に係る審査を行う.テニュア付与に係る審査に合格した場合にはテニュアを付与 する.また,特に優秀と認められたときには,助教よりも上位の職に昇任させる場合がある.

https://www.gp.tohoku.ac.jp/information/images/tenure-track.pdf

東北大のやり口を解説してみせたツイートを紹介。なるほどです。部局を運営する人たちは通常のテニュアトラック制度を実施しており、それとは別に大学当局が「東北大学テニュアトラック制度」で大量の若手研究者を雇用して文科省に対する点数稼ぎをしていたようです。

 

東北大のやっていることは詐欺ではないの?

 

東北大が「東北大学テニュアトラック制度」は一般的な「テニュアトラック制度」ではないと言って逃げるのは詐欺じゃないかと自分は思います。応募する研究者を欺いていること、文科省を欺いていることの2つの点で非常に悪質なのではないでしょうか。東北大が国際卓越大学に応募したときの書類にどう書いていたのか、テニュアトラックの補助金を受けていたのか(もしそうならどうアピールしていたのか)はかなり大事な話で、もしそこで一般的なテニュアトラックだという説明をしていたのであれば、虚偽の申告で補助金を得ているわけですから、本当の意味で詐欺なんじゃないかと思います。

若手研究者を使い捨てる東北大学

東北大のいい加減さと文科省の無責任さ

東北大のインチキテニュアトラック制度を真に受けて国際卓越大学に選定した文科省にも大きな責任があると思います。応募書類にはどのように書かれていたのでしょうか?文科省の審査では、見逃したのでしょうか。

実際のところ、国際卓越大学に応募するときに東北大学が提示したKPIは現実味がないものだったようです。若手研究者育成で「東北大テニュア」なるものをでっちあげるくらいですから、他のKPIも推して知るべしでしょうか。非現実的な目標値を文科省に提示し、研究者の人生を粗末に扱うような東北大独自の制度を導入して辻褄を合わせようとしているように自分には見えますね。

文科省が作る日本の研究業界の未来

本質的な問題点

東北大学の日本語は一般的な日本語ではないことについて

東北大学が選ばれたのは、あくまで「東北大学の国際卓越研究大学」であって一般の国際卓越研究大学ではないのかもしらん。

東北大構文の確立とその影響

他大学のやり方と東北大学のやり方との比較

うちの大学のテニュアトラック制度は一般的な意味でのテニュアトラック制度ですとツイートしてくださっている他大学の先生も何人かおられました。しかし、東北大学も部局(学科)でのテニュアトラック教員の公募に関しては、普通のテニュアトラック制度のように見えます。つまり、大学の運営のやり方というよりも、その学科の運営のやり方次第ということなのかもしれません。東邦大学の執行部のやり方が、研究者の良識から外れているのだと感じます。

東北大学の運営・大学運営について

 

一部では以前から問題視されていた東北大テニュアトラック制度

大丈夫か東北大学

研究業界の闇

  • 企業にとって人を採用すれことは一生面倒を見る覚悟をするということであり、それは莫大な額の先行投資である。
  • テニュアトラックの制度を見ると、10人を採用して3人分のテニュアポストしか用意しないという現象が起こるが、部外者から見れば、一旦採用しても都合が悪ければ放り出してしまうという無責任な姿にしか見えない。一時言われた流動化を口実に無責任が横行しているのではないか。
  • 同様のことが博士課程の学生にも起こっていると見るべき。多くの教員が修士の学生に対しドクターに進学するよう働きかけるが、学位取得者の就職に関して十分なケアをしない場合が多い。大学としてケアをする仕組みもないのが実情だろう。大学側の都合によって進学を勧めたのならそのケアをしないのは無責任のそしりを免れない。

(鳥井委員 審議課題2(知識基盤社会の多様な場で活躍する人材の養成方策) 資料5 第42回、第43回人材委員会の課題設定と方策について(案) 文部科学省)

先々のポストを用意していないのにテニュアトラック教員の募集をかけるということは、東北大学に限らず以前からあったという声がSNS上で多数聞かれました。今回は国際卓越大学に全国でただ一大学選ばれたため大きな注目を浴びたからこそ非難も大きいのでしょうか。ここまで露骨に大々的に他の大学もやっていたのでしょうか。

テニュアに関する豆知識

  1. tenure vocabulary.com Tenure from the Latin tenere means “to hold” and refers to the period of time a person works at a particular job or in an office.

 

報道

  • 東北大、「名ばかりテニュアトラック」への言い分。直撃に副学長は「独自の制度であり問題ない」 9/22(金) 5:32 YAOO!JAPAN 奥田 貫 : 東洋経済 記者 2023/09/22 5:31 東洋経済オンライン
  • 卓越大内定・東北大が「名ばかりテニュアトラック」 「若手研究者の安定雇用推進」の看板倒れ  YAHOO!JAPAN 奥田 貫 : 東洋経済 記者  2023/09/22 5:30 東洋経済オンライン