大学院生活は、結果が順調に出ていればいいのですが、期待した実験結果が得られない日々が続くと精神的にどんどん追い込まれていき、大変な思いをします。
大学院で精神を病まない方法は、大学院に行かないことです。大学院は非常に特殊な場所であって、科学に対する強い興味を持ち、能力があり覚悟があり努力が継続できる人しか向いていません。
また、大学院生に学位をとらせることに対して強い責任感を持っている教授もいれば、学位研究の成功は本人の自己責任と考える教授もいて、教授の教育に対する考え方は両極端にまで広がるスペクトラムになっています。自分が志望する大学院の研究室の教授の考え方が、自分が期待する教授からの指導形態と一致することはとても大事です。
参考記事 ⇒ 自分が研究に向いているかを知る28の質問
目次
大学院は病むところ
少年院、病院、大学院は病んだ人しかいない。めっちゃ名言だ
— ぶりっつ (@f0lgore) September 29, 2015
学部生3人と院生1人潰れました。
現場からは異常です。— lくou (@BBB_EMC2) September 18, 2021
大学院に行くと多くの人は病むので進学はオススメか?と聞かれると、「分からない」としか言えません。
ぼくは大学院生になる前まで鬱とかなったこともなかったし、なる訳ねーよwwwと思ってたけど実際は鬱になったので、大学院は思ってるよりスーパー超絶ハードのイバラ道です。
進学は慎重にね。— やく有機化学 (@yaku1123) March 12, 2020
大学院で病む人が多いから「入学」ってより「入院」って皮肉を聞いたけれど、正しくはそこで治療するってより悪化させる場所なんだよなぁと思わなくもない。
— Izumi@J-Supe! (@saki_C_cho) June 21, 2020
大学院は『病んでる人達と病む1歩手前の人達の詰まった隔離病棟』だった
— 七原しえ@イラストレーター_Shie Nanahara (@nanaharasie) May 2, 2018
多くの大学院生は精神的に病んでいる傾向にあることが判明(2018年04月02日 GigaZine)
大学院は病まない人のいるところ
大学院でメンタルを病んだ時に、教員に言われたのは「それで、いつ治るんだ。そんな状態でいられると研究室にとって迷惑だ」。
常に健康で全力を投入できることが前提で、そうでない状態=「使えない」人間の居場所は無い、という感があった。 https://t.co/mcGtozAMet— シシリー_Sicilienne (@shishirii) September 12, 2020
大学院生が病む理由:指導教員の人格
大学院は心が病みやすい場所です。そうでなくても研究で結果を出すのは大変なのですが、指導教官がいろいろな意味で「毒親」気質だったりするとなおさらです。テーマの選択や実験の進め方に関して自主性が認められず研究の自由がなく縛られたような状態でも、大きなストレスになります。
研究者としての優秀さと、人間としての徳の両方を兼ね備えた教授は非常に少ないと思います。ましてや、学生がそんな人を見極めるのは至難の業。
教授ってその分野では飛び抜けとるけど他は全然な変人が多いから、やばい教授の研究室に入るといじめられ続ける事もある。
(大学院生がうつ病になる7つの理由と、ならないためのポイント #理系大学院生活2017.08.23 ぴかちゃうりょうの音楽日記)
発表の途中で先生からこんなことを言われました。「まだこんなことやってるんですか。5月の進捗ですよ!」「うちの研究室の恥です。」
(【第一話】ある理系大学生がうつになった理由 2020年7月14日 20:07 マツキと申す者)
教授と呼ばれる人種には、正論で人の心を傷つける心の殺人鬼みたいなやつが一定数存在します。『修論が書けないのはあなたの能力・努力不足だ』といった純度100%の正論であなたの心を痛めつけることでしょう。
(【ダメ学生専用】修論がどうしても書けない場合の対処法【ゴミ論文でも提出する勇気が大事】 2021.04.03 2020.11.17大学生活のすべてが学べるブログ)
大学院生が病む理由:実験がうまくいかない
多くの実験は当てが外れてうまくいかないものです。そこで実験が期待通りにならなかった原因を考えて、修正していく能力がつまりは研究能力なのですが、研究のなんたるかがわかっていないうちは、当てが外れると精神的にダメージを受けます。
もしも「自分の考えていた実験手法と、その手法によって得られるであろう特定の実験結果」が根本的に間違っていたとすると、‥
(大学院生が高確率で精神的に病む、4つの理由 2019.11.12 エリアブルー )
実験が上手くいかない理由として、選んだ実験手法がそもそも目的を達成するのに不適切だったということもありますが、もっと低レベルな話として、実験が下手くそで実験そのものが失敗しているだけということもあります、もしくはその両方の可能性があるのだけれども、ポジコンをうまく置いていないために、そのどちらなのかの判断がつけられないという失敗もよく見られます。
大学院生が病む理由:物事に対する本人の考え方
人生に対する考え方、研究に対する考え方、人間に対する考え方が、病みやすい思考パターンに陥っていると、病み易くなります。
実験系の研究なんて上手く行かないことのほうが多いものです。実験失敗の理由を上司や同僚と議論しては何とか改善して繰り返した末にようやく結果が得られるものですが、何がいけなかったかという議論を自分への人格攻撃と取ってしまう人、繰り返し挑戦するエネルギーがない人、上手くいくかどうかわからない不安に負けてしまう人、というのは意外に多いものです。(poi********さん)
(心を病む大学院生が多いのは、同年代の社会人よりも厳しい環境にいるからですか?2017/10/29 YAHOO!JAPAN知恵袋)
大学院生が病む理由:やりたいことが見つからない
大学院に進学してラボで生活するということは、アカデミックな環境で研究者のトレーニングを受けるということなのですが、やりたいこととやれることが一致していなかったり、そもそも自分は何がやりたいのか明確でなかったりすると、様々なストレスに対処しきれなくなる恐れがあります。
- 大学院入試には受かっていたためそのまま大学院に進学し、修士の研究でもテーマが見つからないという問題に直面
- 毎週のミーティングで先生に報告できるような進捗を作らなければという重圧
- 修論発表の期日までに成果を出せないかもしれないという漠然とした不安と戦う毎日
- 心から休める時間は1秒たりともありませんでした
(研究と鬱と休学の話 2018-12-02 開拓馬の厩 Haena Blog)
自分の大学院時代を振り返ると、修士の時はラボの研究体制やテーマが既に決まっておりそこに組み込まれたため、博士課程の学生の研究の手伝いで二年があっという間に過ぎてしまいました。しかも当時はゲノム計画よりもずっと前の時代でモノ取り全盛期だったため、今思えばいわゆる「ピペド」状態でした。精神的にも肉体的にもクタクタになりましたが、頭を使うトレーニングが不十分で、本来一番やる気に満ちていたはずの時期に、研究者としての基本的な態度が学べなかったかなと思います。
博士課程では、今度こそ自分でテーマを見つけてやりたいことをやろうと必死にもがきましたが、固定された体制からなかなか抜け出せず、精神的な自由を得ることが困難で、フラストレーションがたまる生活でした。仮説を立ててそれを検証するための実験をあれこれやりましたが、なかなか思った結果が得られず、時間ばかりが過ぎていきました。
修士課程のときは、やることは一本道だったのですが、うまくいって当たり前の実験でどつぼにはまり精神的にかなり追い込まれました。博士課程のときは、うまくいって欲しい実験が期待通りにならずpublishableな結果が得られなくて、精神的に辛い思いをしました。博士の最終学年の夏になっても絶望的な状態で、論文が出せると思えるポジティブな結果が出たのは秋になってからでした。
大学院時代の自分は精神的にかなり参っていたなあと思います。
自分の研究人生で失敗だったなと思うのは、博士研究で結果が出るのが遅くて、博士号を取得しても論文が出ていなくて、同じラボでそのままずるずるとポスドクを続けてしまったことです。順調に論文が出ていれば、博士号を取得すると同時に、ポスドクを他所のラボでやってもっといろいろな経験が積めたのにと思います。遅ればせながらアメリカに行って驚いたのは、ポスドクの期間は、ポストドクトラルトレーニングと呼ばれていて、まだトレーニングの時期(PIになるための)と見なされていたことです。基本、放置型のラボ出身の自分としては、アメリカという国はなんて教育的な国なんだろうと思いました。
大学院生が博士研究の成果をネイチャーやサイエンスやセル、あるいはそれらのトップ姉妹紙に出すのが割と普通なラボがゴロゴロある環境を、海外留学して初めて知り、もっと早くこういう場所に自分も身を置くべきだったと思いました。受ける刺激が全然違いました。確かに、日本にもトップジャーナルに論文が出るラボがありましたが、当時の自分のいた環境は、重要な分子の同定(cDNAクローニング)で一報、その遺伝子をノックアウトして興味深い(期待された)表現型が出れば一報、という時代でした。幸運にも面白い遺伝子・タンパク質を自分のものにできれば、という運の要素が大きい研究の進め方でした。自分がアメリカ留学で知ったのは、分子ありきではなく、現象ありきでメカニズムに関して作業仮説を持ち、論理的に実験を進めることによりその仮説を検証して、その結果をトップジャーナルに出すというスタイルでした。分子ありきではないため、実験結果をみながら逐次ストーリーを考え直すという必要があり、常に頭を使い続けることが自然な生活を大学院生が送っていたように思います。中心となる注目する分子があっても、もはやcDNAクローニングだけでいい論文が出る時代は終わっていたので、毎日頭を使う生活を皆がしていたのではないかと思います。そういう、科学研究における物事の運び方は、セミナーなどを聞いてもプレゼンのスタイルに現れていて、知的刺激が多い場所だと思いました。
自分が学生だった当時の日本だと修士課程の学生は博士課程の学生と組まされて、その下請け仕事をやるかわりに実験手技を学ばせてもらうというシステムでしたが、アメリカでは、大学院に入るまえにラボテクニシャンを1~2年やって、すでに実験手技を身に付けてから博士課程に進学する人が多くて、最初から自分で独立したテーマで研究を始めていました。若いPIのラボの場合、そのPIがテニュアを取るためにはトップジャーナルの論文業績が求められるので、結果的に、そのPIのもとで博士研究をした大学院生は、順調にいけば自分の仕事がトップジャーナルに載ることになります。面白いと思ったのは、そのようなレベルの高い場所でありながら、別に悲壮感もなく、みんな結構リラックスした状態で仕事をしていたように見えたことです。
日本にいたときは自分は朝の8時半から夜中12時近くまでラボにいて実験するのが普通だったのですが、アメリカで自分が体験したそのラボは、大学院生は9時か10時くらいから仕事を始めて、夜の7時か8時には皆いなくなり、一番働きものの学生でも夜9時には帰宅していました。それ以降、夜遅くまでラボにいるのは日本人のポスドクだけという状況でした。アメリカの町は物騒で夜中まで仕事すると帰りが危険なので、自分も遅くても夜の10時には帰宅していました。
参考
- 大学院生がうつ病になる7つの理由と、ならないためのポイント #理系大学院生活2017.08.23 ぴかちゃうりょうの音楽日記
- 研究室で病む人たち 2015-08-07 駆け出し研究者の雑記帳 Hatena Blog
- 理系の大学院で病んだ話 2021.09.19 ぼんや理系な寝言