以前も紹介しましたが、2008年12月 日本分子生物学会 若手教育シンポジウム 記録全文『今こそ示そう科学者の良心2008 -みんなで考える科学的不正問題-』(PDF)の中の、夏目徹氏による分析を再び紹介したいと思います。現場を知る研究者にしかわからない、データ捏造の心理メカニズムを理解する一助になります。
不正論文が告発され調査委員会が不正の有無を認定し報告書をまとめる際、単に個々のデータに関して不正の状況を明らかにしてお終い、では誰も納得しません。研究組織を改編したところで、中にいる人間の中身が変わらない限り同じことが起きます。ここに示されたような徹底的な心理分析を行ってその結果を公表しないと、真に効果的な再発防止策は生まれてこないでしょう。
(以下、本文部分は議事録中の夏目氏の発言の一部を転載したもの。見出しは当サイトによる)
データ捏造の心理メカニズム
捏造が生まれる瞬間、捏造の温床、それから、まさに捏造が発覚する瞬間というのをですね、まあ幸か不幸か、自慢にも何にもならないんですが、結構な数を見てしまいました。それを見てしまってですね、その後、何が見えてきたかということなんですけども、だいたい私の見るところによると、捏造というのは4つのパターンに分類されます。
捏造レベル1
基本的には、まずボトムアップ型というのが非常に基本的ですね。ボトムアップ出来心。あなたが実験をやったとします。「ここに、バンドが出ればなぁ…」、「この濃淡がひっくり返ってくれたらなぁ…」なんて思いながらですね、ついデータをいじってまった。これは全く遊びでやったんですけども、やってるうちに何か妙に熱中してくるんですね。「この濃淡、意外に自然じゃないか」とかですね。悪いことにですね、それをボスに見つかっちゃうんですよ。「お、A君、やったな、とってもいいじゃないか」、「いや、先生これは…」、「よくやったな。君はいつかやってくれると思ってたんだ」、なーんてやってるうちにデータが一人歩きしてですね、言い出せなくなってしまう。で、それがパブリッシュされる。それがたまたま某プレミアムジャーナルで、記者会見までしてしまって・・・。最悪のパターン。これはボトムアップ出来心型という、一番レベルの低い捏造です。
捏造レベル2
レベル2というのはですね、ボトムアップ確信犯型というやつですね。レビューアーから「確かめの実験をしなさい。ここの再現性をもう少し見なさい」、あるいは「このデータは数値が少し差が少ない。もう一回確認しなさい」。これはもう何回やったって同じだと。でもしょうがないからやろう。やろうと思ったんですが、それをやるにはですね、抗体が要るんですが、「あっ、抗体が切れてる。ストックが尽きた。しょうがない、ハイブリドーマを起こさなきゃいけないな」。そしたらですね、もう正月休みだったんですね。正月返上で、レビューアーが、「リバイズしなさい」。誰もいない正月の研究室で、ストックを開けてみたらですね、液体窒素が切れてるんですよ。(笑)ハイブリドーマ全滅。どうしようと途方に暮れてる時に除夜の鐘がボ~ンなんて鳴ってね。僕がやったんじゃないですよ。そこで、ですよ。ところが、それで仕方ないと途方に暮れてエクセルに向かってですね、カシャカシャ…。そこに立ち話をしにボスが来たっていうのも知らないのに、やってしまった。というのもあるんですね。これがボトムアップ確信犯型です。どうせバレない。これは非常にたち悪いです。最近ハイテク化したので、こういうのをほぼ生業としているプロの方もいらっしゃって、皆さん「えっ?!」と思うような、ものすごい手口があるんです。それはなかなか見破られません。
捏造レベル3
それから、次のレベル3は、もっとたち悪いですね。ボトムアップがあるということは、当然トップダウンもあるんですね。トップダウン恫喝型というのがありますけれども。これはですね、ボスが非常に思い込みの激しい情熱家だったりする場合が多いんですけども、このストーリーの実験でこういうデータが出るまで絶対許さない。データを出さない限りは家にも帰っちゃだめ。全くコントロールと差のないデータを先生に出しても、「心の目で見てみろ」とすごいことを言われて… 泣く泣く捏造に近いことを、なかば強制される。恫喝される。これをトップダウン恫喝型って言うんですね。で、これはレベル3です。
捏造レベル4
レベル4はどういうやつだと思いますか? トップダウン洗脳型というやつです。これはですね、これは私、見て本当に驚いたんですけども「捏造は悪ではない」。こんなのやったってやんなくても変わらないようなものはやる必要はない。それによってコストと人件費を大幅に節約できるのだと。「だからバレそうもない捏造は大いにやりなさい」というようなことを激励するような人を、私はたった1人ですが、見たことがあります。(笑)
研究不正を防ぐためにPI(研究室主宰者)ができること
実はボトムアップというのも、出来心っていうのもですね、これは、実はボスの責任ですね。PIの責任ですね。そんなうかつにいいデータが出たのを喜んじゃいけないんです。きちんとしたモラルがあれば、こういう捏造というのは未然に防がれるはずです。それからですね、先ほど非常にたち悪いと言いました確信犯型ですね。ボトムアップ確信犯型。もう全然最初からモラル、ある一種の精神異常者に近いと言われてますけど、犯罪が嬉しいんですよね。で、そういう人たちというのも、実はですね、ボスの目から、PIの目からは見えないんですけども、そういうことをやる人間ってやっぱり、何となく雰囲気がおかしいので、周りの人間には何となく伝わってるんです。ということは、ボスがですね、周りの人間によく話を聞いて、データが出た時、ビッグデータが出た時、それをいろんな人間に意見を聞いて検証すれば、これも実は未然に防げるんです。
私の意見としては、鉄則としてはですね、若手の方に「モラルを持って良心を示せ」というPRをもっとしっかりしなきゃいけない。それからですね、先ほども議論があったと思うんですけども、恫喝型の捏造をやむなくしなかった人というのは、ものすごい苦しかったと思うんですね。やっぱり告白する場所がないというのが非常に大変で、ましてや洗脳されなんかしたりすると、悪い宗教に引っかかっちゃったようなもので、抜け出すの大変ですよ。ということは、4つのタイプの捏造も、実際はそのミックスのタイプなんですけども、だいたいの原因、捏造を生む温床というものは、まあ我々自身、研究所のスタッフがつくっている。というふうに私は思ってですね、全然趣旨のない、関係のない話をしました、どうもすみませんでした。
引用元:http://www.mbsj.jp/admins/ethics_and_edu/doc/081209_wakate_sympo_all_final.pdf
同じカテゴリーの記事一覧
- 科研費応募を予定する研究者に課せられた研究倫理講習動画視聴義務
- 次期(第31代)東大総長は藤井輝夫理事・副学長(財務、社会連携・産学官協創担当)~予備選挙トップ候補者が第2次候補リストから消えていた謎~
- 東北大学元総長らに「研究不正は無かった」調査委員会報告の懐疑点
- NHK土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』第1話、第2話 研究不正告発のもみ消し #ここぼく
- STAP細胞事件の真相 論文著者の頭の中にあったもの
- 間違った医学論文・捏造論文で取得した博士号を徳島大学が取り消し
- 東大H26行動規範委員会資料不開示問題の答申
- 現代ラボ用語の基礎知識
- 岡大教授自宅待機の無効確認を岡山地裁が棄却
- データ捏造論文が生まれる瞬間 実況説明
- 東大分生研渡邊教授が論文不正疑惑を説明
- 東大医学部の疑惑論文等を画像ソフトで確認
- Ordinary_researchersの告発2通め11論文
- 岡山大不正告発解雇無効仮処分を高裁が取消し
- Nスペ「STAP細胞不正の深層」で名誉毀損
- 黄博士 崩れたところにレンガを改めて積む心情
- 匿名A氏のリスト:類似画像を含む論文 111報
- データ捏造で研究費2億ドル 損害賠償請求訴訟
- 小保方晴子研究員らによる2014年の理研STAP現象検証実験の結果が論文として公表
- 地裁 岡山大学学長は解雇権乱用
- バイオ論文20621報中782報で画像使い回し
- Haruko Obokata氏が”ホープページ”を開設
- 東京女子医大が細胞シート論文を撤回
- 学長権限強化が学問の自由を脅かす危険性
- 早稲田大学が小保方氏のD論に関する記者会見
- STAP細胞の存在を否定するNATURE2論文
- STAP細胞論文研究不正の後始末にかかった費用
- 小保方晴子氏の「STAP細胞」にES細胞が混入していた件で、何者かがES細胞を若山研から盗んだとする告発状を兵庫県警が受理 捜査へ
- 加藤研の博士号取得者3人の学位を取り消し
- 熊本大と大阪市立大が光山研10論文を不正認定
- 画像類似論文の告発 東大、阪大などが確認へ
- 酷似する画像を含む生命科学論文が インターネット上で大量に指摘される
- 分生研・加藤研に関する論文不正調査報告書 を東京大学が発表
- 小保方氏のSTAP細胞はES細胞 調査委員会報告
- STAP細胞検証結果に関して記者会見 理化学研究所研究不正再発防止改革推進本部検証実験チーム【FULL動画】
- 小保方晴子氏のSTAP細胞再現実験結果報告記者会見を理研が開催(12月19日(金)午前10時30分 ニコニコ動画生中継)
- 小保方氏の早大博士号取り消しに1年間の猶予
- 理研 遠藤氏がSTAP細胞解析データを説明
- STAP細胞論文の疑惑を指摘した遺伝子発現解析結果が、論文として日本分子生物学会誌Genes to Cellsに掲載
- STAP細胞論文のScience, Nature査読公開
- 理研がようやくSTAP細胞論文の本調査へ
- ヤン・ヘンドリック・シェーンの研究不正
- STAP CELLS ON YOUTUBE
- 理研の再生アクションプランおよびSTAP細胞検証実験の中間報告に対して批判が相次ぐ
- 理研CDB丹羽氏らがSTAP細胞検証の中間報告
- 東大分生研教授が実験ノート捏造を指示と結論
- STAP細胞の懐疑点
- 西塚泰美先生曰く「すべての論文は 嘘だと思って読みなさい」
- STAP検証実験の無意味さを阪大教授が解説
- 小保方氏の再現実験即時停止を分生が要求