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生命医科学論文20,621報のうち782報(3.8%)で、同一データ画像を論文中の他の実験の図にも使用していることが判明
同一画像を不適切に使用した生命医科学論文の蔓延ぶりを、スタンフォード大学の研究者らが2016年4月20日にbioRxivにて報告しました。
この報告の内容の一部をまとめると、
- 1995年から2014年の間に40の学術誌(14の出版社)に掲載された、ウエスタンブロットの実験を含む20,621報の論文をピックアップし、論文中の画像データを目視により調べた。
- 調査対象とした20,621報のうち、782報(3.8%)の論文が、同一の画像データを論文中の別の実験の図においても使用していた。
- 同一画像データ重複使用論文のファーストオーサーおよびラストオーサーの他の論文を調べたところ、やはり同一画像データの重複使用を行っている割合が有意に高かった。
- カテゴリーI:単純な重複使用。典型的な例は、ローディングコントロールとして用いたβアクチンの画像の使いまわし。ケアレスミスの可能性もあるが、実験をせずにデータを捏造した可能性がある。(下図参照)
- カテゴリーII:位置をずらしての再利用。位置をずらしたり、回転させたり、反転させたりして利用。意図的な行為と考えられるため、研究不正の可能性が高い。(下図参照)
- カテゴリーIII:画像データに変更を加えて再利用。意図的な行為と考えられるため、研究不正の可能性が高い。(下図参照)
- 782報の”問題あり”論文のうち、230報(29.4%)がカテゴリーIの単純な重複を含んでいた。356報(45.5%)がカテゴリーII,196報(25.1%)がカテゴリーIIIの問題を含んでいた。
論文:The Prevalence of Inappropriate Image Duplication in Biomedical Research Publications.
カテゴリーI(単純な再利用)の例
(引用元: )
カテゴリーII(画像の位置をずらして再利用)の例
(引用元:
)カテゴリーIII(画像に変更を加えて再利用)の例
(引用元:
)調査した論文数および、同定された画像再利用論文数の雑誌別まとめ
Journal Title | Publisher | Impact Factor 2013 | Screened | Papers with ID | % ID |
PLOS ONE | PLOS | 3.53 | 8138 | 348 | 4.28 |
PLOS Pathogens | PLOS | 8.06 | 406 | 9 | 2.22 |
PLOS Genetics | PLOS | 8.17 | 362 | 4 | 1.10 |
PLOS Biology | PLOS | 11.77 | 233 | 6 | 2.58 |
PLOS NTD | PLOS | 4.49 | 317 | 17 | 5.36 |
Journal of Clinical Microbiology | ASM | 4.23 | 595 | 11 | 1.85 |
Applied and Environmental Microbiology | ASM | 3.95 | 292 | 8 | 2.74 |
mBio | ASM | 6.88 | 175 | 3 | 1.71 |
Infection and Immunity | ASM | 4.16 | 1070 | 30 | 2.80 |
Journal of Virology | ASM | 4.65 | 421 | 11 | 2.61 |
International journal of cancer | Wiley | 5.01 | 226 | 10 | 4.42 |
Clinical Microbiology and Infection | Wiley | 5.20 | 199 | 1 | 0.50 |
Journal of Applied Microbiology | Wiley | 2.39 | 200 | 3 | 1.50 |
Environmental Microbiology | Wiley | 6.24 | 189 | 5 | 2.65 |
Microbiology and Immunology | Wiley | 1.31 | 358 | 3 | 0.84 |
Letters in Applied Microbiology | Wiley | 1.75 | 123 | 2 | 1.63 |
BioMed Research International | Hindawi | 2.71 | 77 | 8 | 10.39 |
Evid Based Compl Alternat Med | Hindawi | 2.18 | 96 | 10 | 10.42 |
BMC Microbiology | BMC | 2.98 | 340 | 23 | 6.76 |
Genome Biology | BMC | 10.47 | 105 | 1 | 0.95 |
Breast Cancer Research | BMC | 5.88 | 403 | 20 | 4.96 |
BMC Cancer | BMC | 3.32 | 145 | 8 | 5.52 |
Diagn Microbiol Infect Dis | Elsevier | 2.57 | 115 | 3 | 2.61 |
Lung Cancer | Elsevier | 3.74 | 317 | 11 | 3.47 |
Cytokine | Elsevier | 2.87 | 464 | 28 | 6.03 |
Journal of Autoimmunity | Elsevier | 7.02 | 150 | 6 | 4.00 |
Appl Microbiol Biotechnol | Springer | 3.81 | 230 | 8 | 3.48 |
Breast Cancer Res Treatment | Springer | 4.20 | 206 | 12 | 5.83 |
Cancer Chemotherapy and Pharmacology | Springer | 2.57 | 542 | 29 | 5.35 |
Molecular and Cellular Biochemistry | Springer | 2.39 | 800 | 43 | 5.38 |
Growth Factors | Informa | 3.09 | 166 | 10 | 6.02 |
Cancer Investigation | Informa | 2.06 | 220 | 13 | 5.91 |
Leukemia & Lymphoma | Informa | 2.61 | 404 | 13 | 3.22 |
International Journal of Oncology | Spandidos | 2.77 | 89 | 11 | 12.36 |
Science | AAAS | 31.48 | 681 | 9 | 1.32 |
Nature | Nature | 42.35 | 750 | 12 | 1.60 |
Nature Oncogene | Nature | 8.46 | 150 | 7 | 4.67 |
Cancer Cell | Cell Press | 23.89 | 188 | 6 | 3.19 |
Journal of Cell Biology | RU Press | 9.79 | 329 | 1 | 0.30 |
PNAS | NAS | 9.81 | 350 | 19 | 5.43 |
合計20621 | 合計782 | % ID 3.79 |
(引用元:
)上の表を見ると、特定の出版社のジャーナルで同一画像データの再利用頻度が極端に高いことが見て取れます。
日本人の論文が占める割合が気になりますが、PLOS ONEの論文に限った解析が国別にまとめられています。青い線より上に来ているのは、”問題あり”論文の割合が普通以上に多い国。日本は論文数でイギリスやドイツと同程度ですが、同一画像の再利用の頻度は少ないほうでした。中国、インドが突出しており、日本やオーストラリアはまだましなほうです。
(引用元:
)”同一画像の不適切な使用”という表現は、一般の人にはわかりにくいかもしれません。わかりやすい言葉に言いかえれば、”データ捏造という犯罪的な行為”です。ただし、 本当にうっかりミスによって、違う写真を図に用いてしまった可能性もあります。その場合には、本当に該当する実験が行なわれていたのかを当人が実験ノートや生デー タを呈示することによって証明するまでは、意図的なデータ捏造であった可能性が拭えません。
研究室では、ウェスタンブロットやRT-PCRの アクチンコントロールの写真を他の写真と差し替える事が頻繁に行われていきました。教授は、「ベータアクチンはやらなくてよい。大学院生のCさんがきれい な写真を何枚も持っているのでそれをレーンの数を合わせて使うように。1サンプルあたり500円もかかるので何度も失敗していては金がかかりすぎる」と指示し、全員にその写真が配られました。B教授からは、アクチンは何度やっても同じように出るので、見栄えのよいものを使えばいいと言われていました。 (ある大学で起きた研究不正についての実例 warbler’s diary 2013-12-07)
「実験ノートがない=研究不正」という常識がすべての研究者、研究機関で共有されない限り、実験が行なわれた証拠が提出されなかったので研究不正とはみなさない、などというおかしな裁定がいつまでも繰り返されることでしょう。
「サイエンスの世界には、サイエンスに関してウソをつくような人間に居場所はない。」(There is no place in science for people who lie about science.) (ヴィッキー・ヴァンス(Vicki Vance)博士)
参考
- Our image duplication project on bioRxiv (Posted on April 22, 2016 by eliesbik Microbiome Digest – Bik’s Picks A daily digest of scientific microbiome papers, by your Microbe Manager Elisabeth Bik, laboratory of David Relman, Stanford University – Twitter: @microbiomdigest)
- One in 25 papers contains inappropriately duplicated images, screen finds (Retraction Watch)
- Problematic images found in 4% of biomedical papers – Giant survey suggests journals should pay more attention to detecting inappropriate duplications. (Nature News by Monya Baker 22 April 2016 Corrected:25 April 2016)
- 匿名AdipoR0 • あまり話題になっていませんが、私とほぼ同じのマニュアルな手法で800報の酷似画像を見つけたという論文報告がスタンフォード大学から数日前になされ、NatureやRetraction Watchで紹介されています。(捏造問題にもっと怒りを http://scienceinjapan.org コメント欄)
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- 投票アーカイブ インターネット上で指摘されていた類似画像論文に関する予備調査結果を東大が2015年7月31日に公表し、不正行為が存在する疑いはないと結論付けました。この調査内容や判断は妥当だと思いますか?
- 投票アーカイブ 画像データの類似性をネット上で指摘された論文著者・大学は、生データ・実験ノートを開示する等説明責任を果たして欲しいと