研究ばかりやってきて授業を受け持ったことがない人がいきなり大学の教員公募で模擬授業をやらされるのは、かなりハードルが高いと思います。自分も、あまりピンとこないまま準備して一方通行の講義をしてしまい、終了後の手応えゼロであっさり撃沈した経験があります。公募を勝ち抜くような人がどのような模擬授業をやっているのかというと、聞いたところでは、どんどん”学生”(選考委員を務める教授たち!)に当てて答えさせたりして、もっともっと双方向の面白い授業をしてみせていたようです。あの場所でそんな度胸は自分には無かったなあと反省しましたが後の祭りです。
高等学校の教育でも新指導要領に移行しますし、今後よりいっそう、先生が一方的に話す授業ではなく、アクティブラーニングといった生徒主体の授業形態が望まれるようになります。そんな中で、学生を巻き込む面白い授業を模擬授業の場で実践してみせることができれば、かなりポイントが高いはずです。
模擬授業をどうやればいいのか?ネットを見渡しても情報が少ないのですが、文系理系問わず役立ちそうなウェブサイトを紹介します。
目次
模擬授業とは?どうやるの?
もち時間は20分です。この場合,1回の授業内容を20分にコンパクトに縮めてしまって,20分たったら「今日はこれで終わります」と言って,自分で授業を終えるものでしょうか。それとも,本来の授業時間を想定して講義していき,進行の方が「はい,20分たちました,やめ」といって終了させるのでしょうか。 (短大教員採用試験の模擬試験 2012/12/2110:10:51 ヤフージャパン知恵袋)
発表時間が一部を切り取った20分であっても、授業時間が90分なのであれば90分間分の授業内容の準備をしておくのが良いと思います。同じ20分であっても、その場で湧き出てくるものが自ずと違ってくるでしょう。90分間のスライドのハンドアウトを人数分用意して配布したりすれば、全ての授業の準備していることが伝わって良いのではないかと思います。自分は過去の面接ではそうしました(落ちましたけど)。
模擬授業の重要性
書類審査を突破したら、次に行われる面接と模擬講義ですべてが決まると言っても過言ではない。特に、模擬講義は重要である。… 学生が飽きないように、学生との質疑応答の時間を少し入れて、工夫した。模擬講義の練習を事前に3回行い、後輩に聞いてもらった。わかりにくい部分を指摘してもらい、時間配分を調整した。繰り返し練習したため、当日は余裕をもって、臨むことができた。(「面接と模擬授業」恵泉女学園大学専任講師:李泳采)
模擬授業の重要性は、その大学の教育と研究とのバランスにもよるかと思います。そもそも国立の理系の研究大学の場合、模擬授業を課していないことも多いですし。しかし、その場合でも、研究セミナーのうまさ、わかりやすさ等で教育能力は測られているはずです。
模擬授業は演技・パフォーマンスと心得るべし
テーマが先方から指定されることが多いが、学会発表などと混同してはいけない。扱われている内容について、先生たちを相手にしているのではなく、はじめてそれを学ぶ学生に向かって授業しているように「演技」することが必要。(模擬授業について 2017年1月30日月曜日 文系大学教員公募)
普段から学会発表でボソボソとしゃべっているだけだと、いざというときに非常に困ります。いきなりやれと言われると大変ですので、普段の学会発表やセミナーでも聴衆に理解させる意識をかなり高く持って臨む必要があるでしょう。
模擬授業は、原稿を読み上げるだけのものにしてはいけません。面接担当者は観客だと思って、相手を魅了するような「演技」をしなければなりません。当日、面接担当者は複数の候補者の模擬授業を受けます。当然、疲れます。ならば、その疲れを忘れさせるような、退屈させない授業にしなければなりません。そのためには、学術的に適正でありながらも、面白さをあちこちに潜ませる必要があるでしょう。(面接時の模擬授業について(2) 2015年01月12日16:30 それでも人文系大学院にいくんですか?)
模擬授業の準備、練習、慣れの重要性
『これが物理学だ!』の著者であるウォルター・ルーウィン元マサチューセッツ工科大学 (MIT) 教授は白熱授業で有名ですが、彼のような授業の名人ですら(?)毎回入念に授業のリハーサルを複数回行ってから本番の授業に臨んでいたそうです。ましてや人生で初めて授業を行う場合、それも自分の人生を決定づける重要な面接試験で行う場合には、それなりの準備が必要なことは言うまでもありません。
模擬授業はだいたい20分で教科書を指定してくることが多かった。学部の授業で習った以来の復習だったので、苦労した。やはり博士論文を作りながら準備をしていたので、準備不足となることが多かった。少なくとも1周間は練習を見て、模擬授業の模擬授業を3回程度やるとだいぶ慣れてきました。(■新卒博士のアカポス公募記録 2017-03-12 はてな匿名ダイアリー)
模擬授業が課される理由
近年の大学での新任教員の公募では、模擬授業を課すところが多くなっている。これは、採用後、授業担当能力がどの程度あるのかを審査しておきたいという採用側の事情の変化が大きい。多様な学生を受け入れる側からいえば、授業が大きな比重を占めつつあることも事実。現場から大学教育が変わるのかも。
— 山田和人 (@kazuhityamada) 2013年3月10日
模擬授業では授業を行うこと
さて,問題の模擬授業の内容だが,物理教員としての採用だったので,理工学の一般教養として教える機会の多い「力学」の中からトピックが5つほど与えられ,そのうち一つを選択し「もしそのトピックを中心として90分の授業を行うなら,どのように授業を組み立てるか」を20分で話すというものだった.(そういう意味では「授業の内容を説明する」というもので,本来の意味での模擬授業とは違う性格のものだ.)(【大学教員への道】 模擬授業 2014年10月13日月曜日 akt37)
上の公募では授業のやり方を説明することが要求されていたようですが、募集要項で模擬授業をやれと言われている場合には、本当に面接の場で面接官を相手に、「授業」をやらないと零点になると思います。念のため。
参考
- 大学教員の採用人事を知る3―面接・模擬授業編 (2016/06/29 03:04 ダイガク享受):有料ノート。心構え等、参考になることがいろいろと書いてある。内容からして著者は文系の教員みたい。
- 私の公募に対する心構えメモ (geocities.jp/ryannmaryu16)
- 教員公募について考える 2016-08-08 大学教員として生きる道
- 大学教員への道2 採用試験 2006.05.17 児玉昌己研究室