2017年12月10日(日)午後9時00分~9時49分に、NHKスペシャル 追跡 東大研究不正 ~ゆらぐ科学立国ニッポン~ が放送されました。NHKの番組説明を読むと、研究不正問題の背景となる日本の科学政策の問題点に関して批判的なメッセージを伝えることが一番の狙いのようです。
激化する国際競争の中で変容してきた科学研究費の配分を巡って、翻弄される科学者の姿。そして、科学技術立国を掲げ、研究成果を国の発展につなげようという施策が、皮肉にも、科学を停滞させかねないという現実。(NHKスペシャル 追跡 東大研究不正 ~ゆらぐ科学立国ニッポン~)
視聴者は、この番組をどのように見て、メッセージをどのように受け取ったのでしょうか?番組に関するツイートをいくつか紹介します。
Contents
激化する研究費獲得競争が研究不正の要因なのか?
流し見での感想だけど、
1.民間では競争は余りにも普通で、大きな受注を逃して待遇が悪化したり、無能力等を理由とした解雇もあり得るのに、何故、研究者は競争をしない方が良い結果が得られると確信しているのか?nhk 追跡 東大研究不正~ゆらぐ科学立国ニッポン~ https://t.co/oH9DG0Lrpd
— a.o.kitty 🐾 (@anger_of_kitty) 2017年12月10日
研究費獲得が競争的になったから研究不正が起こったというNHKスペシャルの内容だけど、それまで競争が少なくて国からお金もらえたというのがおかしくて、競争があって当然でしょう。世間では知られてないだけで、教授は資金集めが最も重要な仕事。
— 肥和野 佳子 (@lalahearttwit) 2017年12月11日
研究費がなくても不正をしない研究者は大勢いる。というか、それが大多数。ここで不正を報じられたり、これまでに不正をしたと世間で知られた研究者は殆どが数億単位の研究費を持っていた極めて特殊な研究者です。研究費獲得競争の激化にだけ不正の原因を求めるのはどうにも得心しない。#東大研究不正
— Koichi Kawakami (@koichi_kawakami) 2017年12月10日
研究費獲得のために不正するなら、他の多くのラボでも不正が見つかるだろ?でもそうじゃないってことは、仮定が間違ってるんだよ。不正するやつはするし、しないやつはしない
— takanzai (@takanzai) 2017年12月10日
昨夜のNHKスペシャルを見て、指導教員が常々言っていた「不正をするやつは辞めろ」を思い出した(実際はもっと過激なワードですが)。私は綺麗事をそのまま受け入れていられる修士の段階で止めておいて幸せだったのかもしれない。(悠)#東大研究不正
— 勁草書房編集部 (@keisoshoboedit) 2017年12月11日
研究不正というのは、生産性や品質を高く見せる行為です。すなわち成果の偽装。ですから求められる成果がその研究者が生み出せる成果を越えた時に研究不正の動機は生まれます。研究費が足りないから不正が起きるのではなくて足りないのは成果に見合う能力です。#東大研究不正
— バイクくん(本体) (@Micheletto_D) 2017年12月11日
NHKスペシャルの番組予告では、「優秀なはずの科学者たちがなぜ不正を?」というフレーズが使われていました。また、番組内では、研究費獲得競争の激化を要因の一つとしてかなり強調していました。その主張を根拠として、番組内では東大の若手PIの言葉を通じて、ラボの運営がいかにお金のかかることかを説明していました。
しかし、東大で新たにPIに採用されるような人は、業績もあり競争的研究資金の獲得能力があると認められた人たちです。また、競争に負けて予算が全く取れなかった人が、実験できないのでデータを捏造するというものでもありません。研究不正で話題になるのは、多くの場合、普通の研究者よりも桁違いの研究予算を取っている人たちです。
優秀な科学者がなぜ捏造するのか?数億円の研究予算を獲得している研究者がなぜ捏造するのか?パーマネント職が欲しい若手研究者がなぜ捏造するのか?これらの疑問を統一的に説明できるのが、上のツイートの『研究費が足りないから不正が起きるのではなくて足りないのは成果に見合う能力です。』という分析ではないかと思います。「研究費の額=その研究費で期待される成果の大きさ」に見合う能力が足りないときに、その人は研究不正を働いて帳尻を合わせようとすると考えると、とてもしっくりきます。だとすれば、研究不正を防止するひとつの方法として、いくら優秀な科学者であっても、その人の能力以上に研究予算をあげないことが考えられます。
インパクトファクター至上主義の是非
専門化が進みすぎて、近い領域であっても評価が難しくなりつつある。そのような状況の中で雑誌のインパクトファクターなしで評価せよ、と言われても、極めて困難としか言いようがない。
#東大研究不正— なかのとおる (@handainakano) 2017年12月10日
昨日のNHKスペシャルの件。インパクトファクター信仰は学歴(学校名)信仰と根は同じなのだろう。「これまで」を評価する指標としてはある程度正確だが、「今後」を量るには違う視点も必要で、その労力・コストは桁違い。現状、それだけの審査が可能な体制にはなっていないのである。
— Akira Matsuura (@AkiraMatsuura) 2017年12月11日
昨日NHK研究不正番組が5年前に採択されたDORA宣言(研究評価について宣言)を取り上げなかったが、この宣言は掲載雑誌のインパクトファクター(JIF)を評価基準として使うべきではない、と推奨した。しかし、知っている限り、文科省はまだJIFに重み置いている。https://t.co/DnJbXJMbHB
— Robert Geller (@rjgeller) 2017年12月11日
録画した研究不正のNスペ見た。影響力が高い雑誌に載せることの本来の意味の説明がなかったので、雑誌を選んで投稿することが打算的かのように捉えられかねない語り口だったのが少し誤解を招きそうだった。
— Leyla ling@産休中 (@rikayam111) 2017年12月11日
番組内では、教授が高インパクトファクターの国際誌に論文を掲載しようとしたことがあたかも悪いことと受け取られかねない説明だったと思います。分生研加藤研の不正調査報告書にも同じような論調がありました。しかし、良い研究をして良いとされる雑誌に論文を掲載されるように努力することは研究者として当然のことであり、そのこと自体は何も悪くありません。部下の能力や意志を無視してそれを強要したり、不正を働いてまでするから問題なのです。上で紹介した分析『足りないのは成果に見合う能力』は、ここでも当てはまります。
業績欄にセル、サイエンス、ネイチャーがないと(あっても?)なかなかパーマネントの職が取れないようなご時世なのですから、部下の将来を考えて、これらのいわゆる一流誌に論文を出させようと叱咤激励してくれるボスは、本来なら、むしろ良いボスでしょう。
アカデミックにおけるパーマネントなポストの不足に関して
妻は任期なし教員(現職)に就くまで計4回の任期切れを経験しているそうなんだが,昨晩Nスペを見た後「任期切れの数か月前から鬱々としてしまい研究のパフォーマンスも極端に低下する」という話をしていた.そりゃそうだわな.
— こもりまさし(こもりん) (@masashikomori) 2017年12月11日
研究不正を働く人ってどんな人?
大隅先生「研究不正をする人は、実際に研究を楽しめていないと思う」
— 元えふわら (@efuwara) 2017年12月10日
番組が東大医学部捏造論文疑惑に触れなかったことに関して
NHK、医学部の問題には全く触れないのですね。#東大研究不正
— Takehiko YOKOMIZO (@yokomizo_t) 2017年12月10日
医学部の問題に触れなかったのは仕方ないだろう。大学が「不正なし」としたのだから、あの番組タイトル「東大研究不正」で突っ込むのはかなり大変(続編を期待)。
— 縞うさぎ/詫摩雅子 (@shima_usa96) 2017年12月10日
捏造論文を出すラボは、何度でも捏造論文を繰り返し出す不思議な現象が見られます。これもまた、以下の不等式
期待される成果の大きさ > 本人の能力 + 本人のモラル
が成立する限り、捏造が繰り返されると考えれば合点がいきます。
参考
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NHKスペシャル「追跡 東大研究不正~ゆらぐ科学立国ニッポン~」 2017年12月10日 171210 http://www.dailymotion.com/video/x6bgb75
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捏造、不正論文 総合スレネオ 42 (5ちゃんねる *閲覧注意)
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