平成30年(2018年) 雇い止めが日本の科学研究を崩壊させるのか

平成25年(2013年)4月の労働契約法改正から5年というリミットの最終年度となった今、大学や研究機関では、研究支援を行ってきた有期雇用事務職員、研究室秘書、研究補佐員(ラボテクニシャン)の雇止め問題が深刻化しています。 今起きている問題は全て2013年の時点で予想されていたことですが、残念ながら、有効な手が打たれないまま今に至ってしまいました。下記の榎木英介氏の記事(2013年)では、この法律が日本の科学研究に及ぼす影響に関して、議論されています。 労働契約法改正は科学者コミュニティにどのような影響をあたえるか … 一つは、たとえ望んだとしても、常勤雇用の研究者や研究補助者を増やせないという現状がある。… 二つ目は、この法改正の解釈が専門家間で異なっていることである。… 三点目にあげたいのが、「無期契約」の意味である。…  (労働契約法改正は朗報か BioMedサーカス.com 2013年11月7日更新 近畿大学医学部講師 サイエンス・サポート・アソシエーション代表 榎木英介)   教授から厚い信頼を寄せられ、大学院生にも慕われて、専門的な職務を遂行する高い能力を持った人たちの雇用が継続できない、現在の日本の研究システムは本当に矛盾しています。 今までの大学の説明会で、これだけの人が出席したことがあっただろうかという、物凄い大盛況の会場の模様で、空いた席も無い状況だった。… 研究室秘書さんからは、怒涛のごとく質問が飛び交い、中には泣き出してしまう人もいた位で、とても可哀想だった。そもそも、改正労働契約法の趣旨が、雇用期間が5年を超えて働き続ける場合、無期転換しなくてはならないという、雇用の安定を図る制度のはずが、むしろ雇い止めを助長する制度になってしまったという皮肉な結果になっているのが問題なのだ。 (無期支援員(仮称)制度についての説明会が突然に開催されました 国立大学職員の趣味日記 2017年02月18日22:17) 有期雇用といってもひとそれぞれ雇用形態や職種が多様ですし、大学や研究機関によっても対応にばらつきがあるため、この法律の影響を受ける有期雇用職員本人であっても非常にわかりにくいケースが多いようです。なお、無期転換申込権発生までの期間は原則5年ですが、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については特例としてそれが10年になっています。 大学等及び研究開発法人の研究者、教員等に対する労働契約法の特例について 研究開発能力の強化及び教育研究の活性化等の観点から「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間(原則)5年を10年とする特例が設けられました(平成26年4月1日から施行)。(労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~ 厚生労働省)   労働契約法改正により、平成25年4月から「有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる」ことになりました。… 【誤解1】 5年のカウント時期 … 通算契約期間のカウントは、平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約からが対象です。平成25年3月31日以前に開始した有期労働契約は通算契約期間に含めません。 … 【誤解2】 5年直前の雇止め  … 【誤解3】 無期契約=正社員 最後は、無期契約化=正社員という誤解です。 … あくまで有期契約が無期契約になるだけです。… (労政時報の人事ポータル jin-Jour  2015.09.01 『無期雇用化』の誤解と対応策 山口 俊一) 多くの大学では、非常勤職員や非常勤講師を5年で雇い止めにする方針を撤回し始めている。象徴的なのは、早稲田大学だ。 早大は東北大と同じように、雇い止めをするための就業規則改正を行う際に、過半数代表選挙を正しい形で行わなかったため、非常勤講師らに刑事告訴されて大騒動になった。 その結果、早大当局は当初の方針を撤回し、膨大な数の職員が実質的にクビになりそうだったところが、18年には約3000人の非常勤講師らが、希望すれば無期契約に転換できることになった。 この“早稲田ショック”は全国に波及し、日本大学、法政大学、中央大学、千葉大学などが、次々に雇用期間5年上限を撤回していった。また、早大の問題解決に先立って、全国大学高専教職員組合の取り組みにより、信州大学、徳島大学、国立高等専門学校(51校)などで、非正規職員の無期転換が約束されている。(Buisiness Journal 2016.12.27 東北大、3200人を一斉「雇い止め」に職員が反対運動…大学側が一方的に規則変更 林克明) 文部科学省 雇止めについては、個々の事案において、その必要性等について、各国立大学法人に説明責任が生じてくるところかと思いますので、都道府県労働局と相談の上、適切にご対応いただきますよう、よろしくお願いいたします。(貴学における無期転換ルールへの対応の検討に関する再周知のお願い及び無期転換ルールへの対応状況に関する調査について(御礼)2016/12/21 / 無期雇用の道の検討を –新年のあいさつにかえて– 2017.1 教職員組合委員長 水 谷 孝 男 電気通信大学教職員組合) 貴学における無期転換ルールへの対応の検討に関する再周知のお願い 及び無期転換ルールへの対応状況に関する調査について(依頼) 2016/12/09 ( 文科省 各大学に国立大非常勤職員の雇い止め「法の趣旨に反する」と事務連絡 エルムの森だより 北海道大学教職員組合執行委員会ブログ2017-01-23) 文部科学省が昨年12月、有期労働者が5年の継続雇用で無期雇用に転換できるルールについて、無期転換を避けるために雇い止めをすることは労働契約法の趣旨に反するとの事務連絡を国立大学に出していたことが、11日までに分かりました。(国立大非常勤職員の雇い止め 文科省「法の趣旨に反する」各大学に事務連絡 田村議員に報告 しんぶん赤旗 日本共産党 2017年1月12日)   理化学研究所 対応状況(平成28年調査) 職種によって異なる対応を行う 【事務職】契約更新に通算5年以内の上限を設けるが、別途の無期転換制度を整備した。 【研究職】契約更新に原則として通算5年以内の上限を設けるが、一定の要件(研究開発力強化法による無期転換ルールの特例に該当)を満たした場合に、通算5年を超える更新を認める(通算10年まで)。その他、別途の無期転換制度を整備した。(出典:各独立行政法人における無期転換ルールへの対応状況に関する調査 […]

理研が研究者の無期雇用枠を拡大へ

読売新聞が報じたところに拠れば、理化学研究所は任期付き研究者を無期雇用に転換する制度を4月から導入することを決めました。PIだけでなく一般の研究者にも適用されるようです。 報道 理研、終身雇用を4割に…「任期付き」から選抜 (YOMIURI ONLINE 2017年01月08日):”日本最大級の研究機関・理化学研究所(理研)は、60歳の定年まで働ける長期雇用の研究者を、将来的に全体の4割に増やす方針を決めた。” ネット上の反応 これは大変化ですね。准主任研究員(113番元素の森田さんとか)は任期付研究員しか雇えないとか、プロジェクト型の研究センターは全員任期付だったのに。 / 理研、終身雇用を4割に…「任期付き」から選抜 : 読売新聞 https://t.co/CD3HJuaHgo — Dr. Roy Ich-Meyer (@ichimiyar) 2017年1月8日 そもそもがなんのために任期付の研究者を増やしたのか、そしてなぜその方針を修正するのか、それらが語られなければ「定見に欠く」との批判が不可避であろうぞ。 / 理研、終身雇用を4割に…「任期付き」から選抜(読売新聞) https://t.co/UR2FU33WQz — 念波 (@nennpa) 2017年1月8日 研究者の受け皿は社会的にあまり無いことが明らかになってしまいましたからね。厳しくしすぎると志す人がいなくなる? >理研、終身雇用を4割に…「任期付き」から選抜(読売新聞) https://t.co/1CZanprmrO #Yahooニュース — net2ml (@net2ml) 2017年1月8日 理研、終身雇用を4割に…「任期付き」から選抜(読売新聞) – Yahoo!ニュース https://t.co/R4eKP0TfAM #Yahooニュース 任期無しが増えるのは良い一方,不良債権化する研究者が出るのも事実なんで,クビ切るためのルールもセットのほうが良いかな. — M. Morise (忍者系研究者) (@m_morise) 2017年1月8日 理研 終身雇用を4割に拡大へ | 2017/1/8(日) – Yahoo!ニュース https://t.co/jwT14G7omG #Yahooニュース […]

大学の教員公募が実際には公募になっていないことがある理由

大学教員になるための熾烈な競争 博士号を取得した人の多くは研究者として生きることを望みますが、アカデミアで常勤職を得るのが非常に困難な状況は依然として続いています。 かなりの数(数十~数百のオーダー)の応募書類を書き,ほぼ全ての大学から不採用を告げられ,いくつかの大学から面接に呼ばれ,そのうちの一つの大学からオファーをもらえば,例えその大学が何処のどのような大学であろうと御の字と考えなければならないのが現状である.(【大学教員への道】有益な書籍・サイト akt37 2013年9月7日) 大学教員”公募”の実態 日本の研究力を強化するには、優秀な研究者が公正な競争の結果PI (Principal Investigator)の職に就けて、さらに自分の研究を発展させられるような体制を整備することが必要です。しかしながら、現実はというと、大学の教員募集要項で「公募」と称しておきながら実際には公募でないことが多いという強い不満の声が聞かれます。 大学教員の採用については、形式的には公募制がとられていても、その情報の流通が十分でないために、結果として閉鎖的な人事が行われている場合もあると言われている。(大学における教育研究の活性化のために 文部科学省) 公募の偽装を公に認める大学はないでしょうが、まずは現実を直視するところから始めないことには、改善策が見出せないでしょう。以下では、公募出来レースの真相、問題点、応募者への現実的なアドバイスなどを議論している、インターネット上の有益な記事を紹介します。 さらに頭に来るのは、「公募」と称して自分も参加したポスト獲得競争において、明らかに自分よりも業績や能力に劣ると思われる候補者が選ばれることをしばしば経験することでしょう。そのたびに、この国にはフェアな競争がないと絶望的な気持ちになることは想像に難くありません。 (ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日) このブログ記事では興味深い議論がなされており、論文業績の格差にも関わらずなぜ内部昇進が行われるのかの内情を説明するコメントが紹介されています。 多くの教員は業績があって採用されて、その後成果を上げられなくなっていっています。特に最近は。なぜか?まず週に講義を5-6コマ担当し、入試・教務・学生委員会など委員に選ばれれば必ず出る必要のあるさぼれない委員会や会議が週平均1.5回くらいあります。校費は昔は100万以上あったのが今は10-40万です。大手の大学と違って、卒業研究の指導も教授自ら真剣に手取り足取りやる必要があります。そのうちちょっとデキの良い学生は大手の大学の大学院に行ってしまい、自分のところには誰も来ないか、来ても2年間バイトにあけくれるモラトリアム組です。そして、論文も急速に出なくなり、着任当時は当たっていた科研費も次第に当たらなくなります。 ここで公募で(場合によっては所属ラボのお陰もあって)すばらしい業績をもつポスドクと競っても、地方で苦労して教育と運営をしている教員は負けるでしょう。しかし、そのポスドクも慣れない教育と運営に四苦八苦しているうちに結局は前任者と同じ運命をたどるでしょう。 そこで現場で行われているのは、公募条件を厳しくして当該内部候補しか当てはまらないような募集をするのです。(ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日) 地方大学ならではの悩みがあるようで、実際に公募要項にもその理解を求めるような記述をしている大学もあります。 応募資格…(3)地方大学の現状を理解して教育・研究および大学運営に対応できる者 岩手大学は男女共同参画を推進しています(http://www.iwate-u.ac.jp/gender/)。 … (https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D115080098&ln_jor=0) 公正な審査をすっ飛ばした結果、最悪の事態を迎えたのが、あのSTAP細胞事件でした。小保方氏がリクルートされたときの状況が詳細に報道され、公募の実態の一端が一般の人の目にも明らかになった珍しい事例です。 2)運営における不誠実なヤラセ行為を止めよ 私は、STAP問題にあった背景の本質の1つは、「人事」であったと思っています。ところが、メディアなどでは、これを真正面から取り上げた記事を見たことがありません。1つは、小保方氏をCDBのユニットリーダーに採用した「出来レース」。これは、理研CDBの関係者は「出来レースではない」と言い張るが、本当でしょうか。幹細胞の分野のPIを募集するという「公募」の英文を書いたのは、一体誰だったのでしょうか?(昨今の科学研究体制への苦情と提言 わがまま科学者 2014年12月29日) RIKENですらこうなのですから、偽装公募の問題は地方大学に限ったものではなさそうです。公募だったはずの人事が、フタを開けてみたら内部昇進させていただけだったという例は、首都圏にある日本有数の研究大学でも見受けられます。学生を優れた研究者に育て上げることが期待される研究大学であれば、PIの任用にあたっては極めて高い研究能力(=研究業績)が要求されて然るべきなのですが。 自分が教官となって自覚させられることは、研究成果を挙げていない人間が大学院の学生を指導できるわけがないということの一語につきる。 (新大職組新聞1996年3月29日【検証・大学改革④】「同情するなら職をくれ!」その後ー研究妨害とはこのことだ 露崎史朗(元大学院自然科学研究科))   業績欄のレベルについては、今の日本の助教(40歳前後)はおろか、准教授(45歳前後)でも今のポスドクよりも業績欄が寂しいことは珍しくないように思います。… 結局、現在のバイオ業界は、ポスドクが次のステップに行くための業績の最低ラインだけを著しく上げている(Nature/Cell /Scienceクラスの論文が必須)にも関わらず、いったん助教や准教授となった人たちは過剰なまでに守るという図式になっていて、これこそが、今のポ スドク就職難の原因なのではないかと思います。(BioMedサーカス.com 研究者の声:オピニオン 2013年12月15日更新 執筆者:ポスドク@関東地方) みせかけの公募はいつの時代にもあるようです。 また,ある地方に県立大学が開設されることになり,学会誌の求人欄にて,その教授や助教授の募集の公示が出 ておりました。それには,ちょうど私の専門分野に関係する部門のポストがありました。 当時の私は,一応の論文数もあったので,教授職に応募するべく自信 を持って書類を作成し,大学開設準備室へ送付しました。 しかし,締め切り後,面接の通知もなく,一ヶ月ほどして紙切れ一枚の不採用の通知。なぜ不採用な のか自分でも疑問に思えてなりませんでした。 ところが,翌年に開設されたその大学の教員リストを見ると,なんと,全部,地元の旧帝大のOBであることを知り,唖然とし,腹立たしさも覚えまし た。 しかも,私が応募した部門の採用者の業績はそれほど多くはありませんでした。 結局,その採用者以外の応募者ははじめから「当て馬」であり,利用さ れただけでした。 公募には,「候補者が決まっているが,公募で採用を決めたという形式にする」ためのものと,文字通り「広く門戸を開いた完全に平等な人材募集」の2種類があることを,そして,いずれの場合でも,複数の著名な方々からの推薦書が絶大な効果をもたらすことを,私は学びました。(大学院博士課程のあなたへ、たやすく研究者の道、諦めないで! 大槻義彦の叫び  2015-07-12) こうなると公募に応募書類を出す意味がどれだけあるのか、ということになりますが。 公募の体裁を取っていながら、実際は出来公募だったり、教員選考委員にコネを持った他の応募者がいるので、面接に呼ばれてもコネがなければ採用に至るのは難しく連敗を重ねてしまうことが多いようだ。しかし、デキ公募でも選考委員全員の意見が「デキ公募」で完全に一致していることは稀である。即ち、公平に選考しよう(したい)と考えている選考委員は少数だが存在する。 (私の公募に対する心構えメモ http://www.geocities.jp/ryannmaryu16/point.html) 運、縁、コネの重要性 就職において人間関係が重要というのは普遍の真理です。 しかしほとんどの場合、多人数の横並び状態です。私やあなた程度の研究者はたくさんいるのです。ドングリの背比べの中で採用の確率を上げるプラスアルファが縁なのです。  縁は作ることができます。方法は単純で、真摯に他人と関われば良いのです。ただし他人と関わるだけでは、縁は作れません。真摯な態度が必要です。真摯と言っても、何か高度なことではありません。裏切らない、見下さない、見捨てない、卑屈にならないなど普通のことを実践すれば良いだけです。  一方、他人と関わるには動かねばなりません。学会や研究会、勉強会など人が集まる場にコミットする必要があります。研究室に居るだけでは、あなたを知るのはあなただけです。「コミットする」とは、参加だけを意味しません。討論で質問したり、懇親会で話をしたりを含みます。そこであなたの存在は他人の記憶に刷り込まれます。他人に認知されて初めてあなたは何者かに成るのです。 […]