若者は現状を見切り無謀な挑戦の回避を

アカデミアの現実(学部学生の皆さんへ)

実験科学の場合ですが、大学の先生は研究のための「戦力」が必要なので、学生が自分たちの大学院に進学してくれることを望みます。しかし、(多くの先生方の)ホンネを暴露すれば、それはその先生自身のため(=自分の研究を推進するため)が第一義的な理由であって、学生のため(=学生の人生にとって良かれという気持ち)では必ずしもありません。実際、優秀だと見込んでいた学生が就職したり他大学の院に進学してしまい、がっかりしたという先生の声を聞くことがめずらしくありません。

 

この状況を見事に表現しているツイートを紹介。

 

 

大学院に進学した中のごく、ごく、ごく一部は研究者としてアカデミアの世界で生き残ることでしょう。それ以外の人は、自分で自分の人生を勝手に見つけるしかありません。そんなことは当たり前じゃないかという外野の声が聞こえてきそうですが、漠然と「研究者になれたらいいなあ。」と思っている学生と、「とりあえず、大学院生が入ってきてくれないと困る。」という先生との間のあやふやな期待感の膨らみが、キャリアパスに関する冷静な分析の必要性をウヤムヤにする恐れがあります。


 

あなたが博士号を取得してさらに独立した研究室主宰者のポジションを得るときに要求される研究業績のレベルは、既にパーマネントの職にいる教授が研究室を維持するために要求されるレベルとは、全く異なり、そのハードルははるかに高いのです。つまり、「一流誌には届かなかったけれど、とりあえず論文がやっと出せて良かった。」と教授と一緒に喜んでいるようでは、あなたに研究者としての未来はないのです。今後、日本の科学研究の制度が変わるかもしれませんが(改善してほしいと思いますが)、現実を冷静に見たうえで自分が納得できる選択、後で後悔しない選択をする必要があります。

そういったところの教育を見ていると、博士の1年目の最初に「この中でプロフェッサーになれるのは3%。残りの97%はなれない。ではなれなかったときに、どういうキャリアを描くのか」ということについて、1週間合宿して議論させるんです。 (人口減少時代のウソ/ホント 大学と人材を腐らす「19世紀式」を脱せよ 検証・大学教育改革 with 田中弥生(4) 森田 朗 日経ビジネスONLINE 2015年9月29日)

  

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平成30年科学技術白書が公表される

2018年6月14日の日刊工業新聞の社説には、文部科学省が12日に発表した科学技術白書を受けて、オピニオンが掲載されていました。その後半部分を引用します。

00年になってからノーベル賞自然科学系3賞を受賞した日本人(外国籍含む)は17人になる。だが、日本の科学研究の現状が白書の記した通りだとすると、果たして将来にわたってノーベル賞受賞者が出るのかどうか心配になる。

人間は一定程度、豊かになると、がむしゃらさがなくなるのかもしれない。だが、天然資源小国の日本にとって最大の資源は「知」である。「知」が衰退すれば、国全体の活力も失われることは火を見るよりも明らかだ。

白書は「イノベーションの根幹を担う人材の力、多様で卓越した知を生み出す学術研究や基礎研究を支える研究資金といった基盤的な力の強化が必要」と記す。もちろん研究資金が豊富な方がよいのは当たり前だが、それだけではない。若者に現状に甘んじることなく、研究に限らず、何事にも世界にチャレンジする意識を植え付けることが重要ではないだろうか。

引用元:https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00477378

この社説の主張があまりにも今の研究の現場の感覚から乖離しているため、若者たちが勘違いしないように、この社説に対するツイートをまとめておきます。

 

科学白書の提言も、実態に合った適切なものとは言い難い部分がある思います。科学研究の主戦力は大学院生やポスドク、助教などの任期付き教員であって、会議で時間を取られる教授たちではありません。若者が研究成果を挙げてもその先に定職が存在していない今の状況では、腰を据えて研究に専念できるはずがないのです。研究費不足も原因としてすぐに挙げられますが、私の見方ですが、その研究分野で良いとされる(インパクトファクター5~10程度)学術誌にコンスタントに論文を出しているような人ならば、一番小額の科研費程度ならポスドクの身分であっても取れており、お金がないことが一番の原因だとは思いません。

 

白書は大学に対し、会議を減らして教員らが研究に割ける時間を確保することなどを提言。政府には研究への十分な投資や、若手研究者が腰をすえて研究に取り組める「環境の整備」などを求めた。(日本の科学技術「力が急激に弱まった」 白書を閣議決定 小宮山亮磨 朝日新聞DIGITAL 2018年6月13日06時29分)

 

安倍政権の科学政策

政府は14日、首相官邸で総合科学技術・イノベーション会議を開き、分野を横断して科学技術の革新を目指す「統合イノベーション戦略」を決めた。斬新な発想をもつ若手研究者を育てるため、研究費を若手に重点配分するなどの大学改革を盛り込んだ。 (大学研究費、若手に重点配分 政府が科学革新戦略 日本経済新聞 2018/6/14 21:02)

 

 

科学研究の本質

打ち出される施策を見ると、科学行政に携わる官僚や政治家は、科学やイノベーションの本質を理解していないのではないかという疑念が湧きます。

 

記事更新記録 20180616 ツイートを入れ替え(申し訳ありません)、「統合イノベーション戦略」の記事とツイートを追加

 

関連記事 ⇒ まだアカデミアで消耗してるの?【博士の転職】

 

参考

  1. 依然厳しい若手研究者の雇用環境 雇用促進の誘導策や新たな具体的制度設計を (Science Portal編集長・共同通信社客員論説委員 内城喜貴 2018年3月16日) 「博士号を取得した後に複数の大学の理学部で『ポスドク』を経験。40歳代になり、子供も成長して出費がかさむようになった。このため、収入の安定を目指して民間企業の開発部門目指して就職活動を続けている」。今回の調査では若い研究者個々の状況は分からないが、こうした研究者のケースを頻繁に聞く。
  2.  キャリア築く気概が必要 元「ポスドク」で作家の円城塔氏 働けない 若者の危機 第4部 氷河期世代(4)インタビュー 日本経済新聞 2013/1/16 2:00  電子版 (閲覧は要登録)「… 最近、科学者と一般社会をつなぐサイエンスコミュニケーションが注目されているが、つなげないといけないのは、科学や研究の現場と政策決定の現場。事情をきちんと知った上でかじとりできる人がいないのが大きな問題だ」
  3. アカデミアから抜け出せないのは博士の能力がないから (実験的WEB追想録 2008年 03月 06日) 真の博士の能力というのは、それは大学の外でも活きる、普遍的な研究能力のはずで、生きる力とも言えるものだということです。極論すれば、博士はすべからくマッチョであるべきなのです。大学の外に出れないのは、博士の能力が身に付いていないからです。

 

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