日本の科学研究におけるロスジェネ

      2019/08/14




日本のロスト・ジェネレーション(ロスジェネ)世代とは、1991年のバブル崩壊後の就職氷河期に大学を卒業し、長期の経済不況(「失われた10年」)と日本の新卒採用制度のために、雇用の機会を奪われ、就職難民と化して派遣や契約社員などの不安定な働き方を余儀なくされた人が多いということで特徴付けられる世代です(参考:コトバンク)。だいたい1970年から1982年生まれの人(2018年現在38~48歳)に相当します。

ロスジェネと 世に棄てられて 博士捨つ (詠み人知らず  ラボ川柳)

 

団塊ジュニアも含まれ、日本の科学政策であるポスドク一万人計画(1996~2000年度)の影響もあり、このあたりの世代は大量の博士号取得者が職にあぶれて生活に困窮する状態が継続しているのが現在の日本の科学研究業界の状況です。

今後、若手研究者を対象とした制度が、より一層拡充されることが望まれる。これまで、大きな成果を上げた研究者がしばしば若手であるということは、ノーベル賞受賞者がどの年齢で受賞業績を上げているかを調べたデータから理解できる(第1-1-30図)。この資料は、1987年から2006年までの自然科学系3賞(物理学賞、化学賞、医学・生理学賞)を受賞した合計137名に対して調査したものである。この図から、ノーベル賞を受賞するような優れた業績は各分野とも30代から40代前半に集中していることが分かる。(平成19年版 科学技術白書 第1部 第1章 第4節 1 科学技術関係人材の育成・確保の重要性 文部科学省

文科省はノーベル賞研究が生まれるのは30代に集中ということを常々強調しており、30代の若手にチャンスを与えるという政策を打ち出すため、それより上のの世代は完全に捨て置かれています。高いレベルでの教育を受け、現在、科学研究に貢献しているにもかかわらず、定職にすら就くことができず人間として最低限の生活の保障すらないまま人生を彷徨い、現在の日本の科学行政から見棄てられた状態にあり、まさに「ロスト・ジェネレーション」になっています。科学を作り上げているのは、何もノーベル賞級の研究だけではありません。裾野の部分があってはじめてその上に高さが築かれるのです。文科省や政府は、科学研究の本質を全く理解していないようです。

2004年ごろからの国⽴⼤学の法⼈化と⼤学⼈や研究職の⼈事の流動化は、「研究成果がすぐ⾦になるかどうか」というものさしの流⾏を⽣み、少ない任期付ポストの取り合いばかり横⾏する事態を⽣みました。基礎研究の研究成果は即物的な基準では判断できないのにもかかわらず、無理⽮理切り捨てに遭って 久しい状況です。関係者の皆様には、⼤学や研究所の研究教育活動は、すぐにお⾦になるかどうかという価値観では測ることができない、という点によくよく留意して政策⽴案にあたっていただきたく、強く強くお願いいたします。さきに述べたような誤った政策が取られてすでに10年以上も経っており、もはやわたしより若い世代は、就職に苦労することがわかっている⼤学や研究所のキャリアを選ばなくなっています。⼤学や研究所への予算の復活と、任期なしのポストを増やすこ と。これらをぜひお願いいたします。(男性研究者 41歳 第5期科学技術基本計画答申素案へのパブリックコメントより)

日本の無責任な科学政策やその後の「無策」によって生じたこのロスに対処する責任が、文科省や政府の科学行政を司る人たちにはあるのではないでしょうか?

 

ロスジェネの労働参画の推進と生産性の高い働き方の実現が、この国の経済・産業の成長・発展のカギを握る可能性が出てきている。しかも、労働市場の中で主要層であるロスジェネの所得が拡大すれば、国内消費にも好影響を及ぼすだろう。(女性や老人よりロスジェネに予算をまわせ 忘れられた「巨大集団」の秘めた力 三菱総合研究所主任研究員 奥村 隆一 PRESIDENT Online 2018.3.29)

 

教授「そういえば、(ピー)省のお偉いさんは、ポスドク問題があるということは把握してるけど、今はそれをどうこうするより、どうやって日本の研究業界を発展させるかに重点を置きたいって言ってたぞ」

僕「マジですか!?」

(ポスドク問題はオワコン 教授と僕の研究人生相談所 第79回 BioMedサーカス.com 2018年3月13日

 

BioMedバイオサーカス.comのシリーズ「報われないロスジェネ研究者たち」で、サイエンス・ライター樋口恭介氏の取材に応じたロスジェネ研究者たちが心情を吐露しています。

  • 馬場敦彦(仮名)・47歳 同僚が良い雑誌に論文を出した、Job Huntingのインタビューに呼ばれた、なんてのを聞いた日は夜眠れなかったよ。でもね、42歳か43歳くらいで、そういう気持ちは自然と薄れてきちゃったんだよね。
  • 大久拓也(仮名)・45歳 たまたまそこには僕と彼女しかいなくて、しかも二人とも実験の待ち時間中だったんで、おしゃべりしてたんです。どうやら、それが教授の逆鱗に触れたみたいで、
  • 梶野相太(仮名)・42歳 彼の凄さを再確認し、改めて自分みたいな普通な人間は研究者の道になんか進んじゃいけなかったんだということを実感しました。
  • 姫木由里子(仮名)・42歳 先ほども言いましたけど、米国では年齢・性別・人種は就職に影響しないっていうのは表向きの話ですから。
  • 香川明子(仮名)・37歳 彼がよく言ってたんです。『自分の経歴や業績があれば、少し前なら簡単に独立できた。今は時代が悪い。』って。
  • 久木鉄平(仮名)・45歳 最終的に久木を待っていたのは、任期満了に伴う研究者引退だった。
  • 副島明美(仮名)・43歳 新しい教授は目新しい内容に見境なくとびつき、多少怪しいデータでも論文としてすぐにまとめていった。研究室からの論文の量は激増した。だが副島は、その大半は再現性も取れない捏造まがいの論文だと、今でも思っている。
  • 佐伯徹(仮名)・40歳 修士号の社員が3年働くと、その人は博士号持ち社員と研究者という点では同格とみなされるようになるんです。
  • 田野中宏(仮名)・45歳 今の時代、こういった社会的にまともであるとされている職に就けてるだけで十分なんです。
  • 相沢勉(仮名)・39歳 失敗を恐れずに挑戦しないといけない、なんてのは成功したから言えるんセリフなんですよ。

 

参考

  1. 2011 日本学術会議 提言 PDF
  2. 2016 新小1の“なりたい職業”、「研究者」が上昇し過去最高位に https://www.oricon.co.jp/news/2069664/full/
  3. ベビーブーム(ウィキペディア)(第一次)ベビーブームが起きた1947年から1949年に生まれた世代、いわゆる「団塊の世代」が親になったとき、第二次ベビーブーム(1971年~1974年)があり、この時期に生まれた世代は、「団塊ジュニア」と呼ばれることがある。
  4. 若手研究者「任期つき雇用」増加で「才能の無駄遣いを強いられている」(渡辺豪 AERA dot. 2018.2.23 11:30)
  5. 30歳以上でも大丈夫。ノーベル賞受賞者のキャリアから見えた「成功の秘訣」 Carolyn Gregoire The Huffington Post  2017年02月06日 17時05分 JST | 更新 2017年02月13日 15時48分 JST 科学誌『サイエンス』の2016年11月4日号に掲載されたビッグデータ分析を紹介しよう。 … 分析対象は、物理学者約3000人の1893年以降の文献だ。 … 研究結果によると、科学者の最大の成功、つまり科学界に最も大きな影響を与えた論文は、若さと関連付けられるわけではなかった。
  6. 7.  若手研究者に対する処遇の改善平成13年科学技術白書 文科省)大きな成果をあげた研究者がしばしば若手であるということは,ノーベル賞受賞者がどの年齢で受賞業績を上げているかを調べたデータから理解できる( 第1-2-19図 )。この資料は1981年から2000年までの自然科学系3賞(物理学賞,化学賞,医学・生理学賞)を受賞した合計127名のうち,業績を上げた年齢がはっきりとしている111名に対して調査したものである。この図から,ノーベル賞を受賞するような優れた業績は各分野とも30代後半に集中しており,少数の例外はあるが,40代後半になると成果を上げた例は非常に少ないことがわかる。 なお,日本人のノーベル賞受賞者は 第1-2-20表 のとおりであり,業績を上げた年齢の最も若い湯川秀樹博士では28歳,最も遅い白川英樹博士でも41歳と,いずれの成果もやはり40代前半までに上げられている。

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