2016年ノーベル医学生理学賞 大隅良典氏のキャリアパス

毛利秀雄名誉教授が書かれた「隣のおじさん-大隅良典君(ノーベル生理学・医学賞の受賞を祝して)」の前半部分では、大隅良典氏の初期のキャリアについて触れられています。今でこそ巨額の研究費が投入されているオートファジー研究ですが、その源流は、ラボの構成員が自分自身だけという小さなラボでの仕事でした(1992年 Journal of Cell Biology 119, 301-311)。後に豊かな実りをもたらすことになる、研究の種をまいた仕事も、この小さな研究室で生まれました(1993年 FEBS Letters 333, 169-174)。 以下、研究者のキャリアパスという観点でこの文章の一部を紹介します。 学部生時代 私が東京大学教養学部の助教授になりたての頃、同じフロアーで生化学の権威であった今堀和友先生の研究室に入ったばかりの卒研生が、バランスのとり方が悪くて生物学教室の冷却遠心機のローターを飛ばしました。それが大器晩成の人、ノーベル賞受賞者・大隅良典君との最初の出会いです。彼は教養学部の理科系のシニア学科として、数学から地学まで幅広いバックグラウンドをもった人物を育てることを目的とした基礎科学科の第二期生で、同学科の神代時代の秀才の一人です。 大学院時代・ポスドク時代 大学院時代、ポスドク時代は離れていたのでよく知りません。ロックフェラー大学で抗体の構造でノーベル賞をとったエーデルマンのところに行ったようです。理学博士にはなっていますが、突出した仕事はやっていなかったように思います。 アカデミック・ポストへの就職 大腸菌の膜輸送の研究で有名な安楽泰広先生に拾われて助手、講師となり、酵母に手を出すようになります。彼はその頃から論文を書かないので有名でした。 独立ポストへの就職 十年ほどして教養学部の生物学教室で助教授のポストが空き、彼が迎えられます。基礎科学科出身ということもあったかもしれません。 独立後の仕事 初めてもった自分の研究室には顕微鏡と培養器だけといった有様です。でもここで後の研究につながる、酵母の液胞でのオートファジーを光学顕微鏡で見るという快挙が1988年になされるのです。43 歳の時でした。論文が出るのにはさらに4年ばかりかかかりました。 東大教養学部における去就 私が東大を去った後、彼にふさわしい教授ポストが空いていたかどうか定かではありません。しかしともかく論文が無いことが問題のようで、心配して訊いたこともありましたが、「大丈夫です」と落ち着いていました。 教授就任 私は1995 年に基礎生物学研究所の所長として岡崎に赴任します。当時多くの教授ポストが空席のままで、私はそれらを埋めることに努力を注ぎました。そのうちの一人が大隅君です。すでに51歳になっていました。上述のように彼とは以前からいささか関係があったものの、この人事に私は一切関わっていません。実は彼の仕事は論文になる前から海外で評判になっており、人事選考委員の先生方の先見の明によって彼の採用が決まったのです。   参考 隣のおじさん-大隅良典君(ノーベル生理学・医学賞の受賞を祝して)(元基礎生物学研究所長・元岡崎国立共同研究機構長 毛利秀雄名誉教授の寄稿) 時に沿って 十八年振りの駒場で 大隅 良典(生物学)教養学部報第337号(1989年1月20日):”当時設立された基礎科学科の理念は魅力的に思えて進学したが、そこで様々のタイプの友人に恵まれた。その頃から次第に分子生物学に興味を持つようになり、大学院は今堀和友先生の研究室を選んだ。六〇年代は分子生物学の最盛期であり、大腸菌を用いて遺伝暗号が次々と解明される様を、当事者のような気分で論文を読んだことを鮮明に記憶している。教授が農学部に転任したのを期に博士課程の最後の二年間は京大のこれも設立されたばかりの生物物理教室で過ごした。東大とは違った雰囲気と、意欲的な仲間に出合えたのは幸いだったと思う。その後東大農芸化学の研究生をした後にニューヨークのロックフェラー大学・エーデルマン(IgGの構造解析でノーベル賞を受賞)研に留学した。成果の挙がらない三年間であったが、細胞生物学のメッカであるこの小さな大学での経験はその後の自分の研究に大きな影響を与えた。その後東大理学部植物学教室に十年余りお世話になった。自由でかつ開放的な学科であり、そこで酵母の細胞生物学的な研究を続けることが出来た。そしてこの四月から大学院生の沢山いる大きな研究室を離れ、生物教室に最小単位の研究室を持つことになった。” 大隅氏「東大なら、研究広がらなかった」(日本経済新聞 電子版 2016/10/4 2:00 有料会員限定記事):”大隅良典氏は3日夜、日本経済新聞社の単独インタビューに応じ「東京大学に残っていたら、ここまで研究は広がらなかった」と話した。大隅氏は1996年に東大助教授から岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所(当時)に移籍した。「東大が悪かったわけではないが、本当に全てのことをひとりでやらないといけなかった」と苦労を語った。” オートファジーの集学的研究:分子基盤から疾患まで(Multidisciplinary research on autophagy: from molecular mechanisms to disease states) 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)平成25年度~平成29年度 私の研究は科研費に支えられた−総額18億円の支援が大隅氏のノーベル賞受賞に結実 | 日刊工業新聞 電子版 https://t.co/kcTrkHSipI pic.twitter.com/hNk3xLbUld — 山形方人(nihonGO) (@yamagatm3) […]

研究者・科学者を目指すことの勧め、もしくは目指さないことの勧め:アカデミアにおける研究者のキャリアパスと雇用状況の過酷な現実

研究者・科学者という職業を選択する際には、研究者としての自分の興味や能力を見極めるだけでなく、アカデミックの世界における厳しい就職状況を予め知っておく必要があります。以下、研究者の道に進むことの勧め、安易な進学を戒めるアドバイス、研究者を取り巻く厳しい状況を分析したサイトなどを、内容の一部を引用して紹介します(太文字、下線による強調は当サイト)。全文はリンク先でお読み下さい。情報、工学、バイオ、化学、物理、人文社会など、分野によって事情の異なる部分があります。 大学院(博士課程)進学の勧め、もしくは進学しないことの勧め 末は博士かホームレスか もしもあなたが日本の大学院の博士課程に進学すれば、周囲からこうささやかれるだろう。なぜならば、たとえ博士号を取得できたとしても、ホームレスにしかなれないぐらいに、今後、余剰博士の問題は深刻になるからだ。(永井俊哉ドットコム 2005年5月21日) 世界中博士課程進学は就職に不利どころか、むしろ有利だよ。僕の研究室の学生は博士課程を修了してから7割程度企業に就職するんだけど、ほとんど彼ら、彼女らの希望通り。東大工学部の場合は博士の就職が悪いというのは、ないね。  (研究と教育〜博士課程のススメ〜 UT-Life  工学部長インタビュー 11-06-05) 博士後期課程に進学したからといって、博士号が取得できるわけではない すごくお金がかかる (BLOGOS pucotan 2012年11月21日) (大学院生活の懸念(複数回答可) 全国大学院生協議会 2015年度大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査報告書の概要 図10より) 研究室を決めるとき、就職なみに真剣に考えるべき、適当に絶対決め手はいけない。研究室を決める点としては、研究の成果(論文を年間どれくらいだしている か、論文のレベル)、コアタイム、コネから考えるべき。別にブラックでも構わないけど、ブラックのくせに結果が出ない研究みたいなところもあるから (http://iitokoronet.com/2015/12/05/post-4995/) 博士課程とは? 徹底した自己責任,自己管理の世界 … 博士課程と云う教育サービスは不均一極まりないサービスです.  (博士のススメ 京都大学工学研究科機械理工学専攻機械システム創成学研究室 谷口忠大) テーマが良くなかったら、優秀な人でも結果は出せない。テーマの問題で結果が出なくても、責められるのはテーマを設定したボスではなくて、結果を出せない大学院生である。… どこかで日本人研究者が華々しい結果を出したら、政府関係者や多くの国民はそれを褒め称えるだろう。その裏には何人もの大学院生やポスドクの屍が転がってるかもしれないが、そんなところ誰も見てはいない。 (■そろそろ大学院生が「日本死ね」エントリを書いてもいい頃合い はてな匿名ダイアリー 2016-03-19) 大学院生が急増して、行き場がなくなっている。大学院(博士)ワーキングプアについて最近はよく知られるようになった。京都大学では、判明分のオーバードクター(博士の学位をもつか博士課程の単位取得者で定職のない者)だけで1,000人を超えている。だから最近の大学教員の公募では、1名採用のポストに50人の応募者はざら。100人を超えるのも珍しくない。大概の応募者は不採用になるから、非常勤講師をたくさんやって、生活するしかない。ところが非常勤講師手当は週1コマの授業で2万5,000円前後(月収)といったところが相場。7コマ以上やってやっと食いつないでいるという話もよくきく。その非常勤ポストも1年契約だから不安定極まりない。かりに運よくアカデミックポストを得ても数年の任期制で、任期が終わればまた元の木阿弥になってしまう。派遣切りの大学教員版である。(竹内洋 第一回 高学歴ワーキングプア教養難民の系譜(1)) IT企業や電機メーカーは他の業界と比べても例外的なくらい博士後期課程学生の採用に積極的であると言えます。(博士後期課程進学に興味をもつ伊藤研関係者の皆さんへ) 博士号取得者が大学の教員にも企業の社員にもなれない。ひと昔前なら、首をかしげたくなるようなことが現実に起こっている。いわゆる「ポスドク問題」だが、ポスドク1万6000人のなかで、戦力化していない人材が相当数いるという。ポスドクとは、Postdoctoral Fellow、つまり博士号を持つ研究員である。現場での戦力として、数年間続く研究プロジェクトの間、有期雇用されるという立場だ。年収は350~400万円程度。多くて600~700万円。しかも、約1割は職にさえ就けないという。(高学歴ワーキングプア「ポスドク問題」は本当に解消できるのか!? PRESIDENT Online スペシャル 2015年12月15日 岡村繁雄) 日本学生支援機構は、奨学金と表記するのをやめて、正直に学生ローンと書いて欲しい。(全院協アンケートに寄せられた声の一部 editor 月刊誌『KOKKO』編集者・井上伸のブログ 2015/11/6) 「奨学金が返せず自己破産」。こんな話は今どき珍しいことではない。学生時代に借りた奨学金の返済で苦しむ若者が増えている。(奨学金 やがて悲しき高学歴 返済でワーキングプア地獄 毎日新聞/サンデー毎日 mainichi.jp 2016年2月14日) 博士号をとっても就職できませんよ。研究員や大学教員になれるのは一部のごく限られた人のみ。 非正規職員になったところで、奨学金の返済さえできませんよ。(博士課程に進学するか悩んでいます。 発言小町 2011年11月8日) 名だたる大学院を出ても非正規雇用、あるいは無職となってしまう者たちが続々と生まれている。(高学歴プア 東大院卒就職率56%、京大院卒はゴミ収集バイト NEWSポストセブン 2013.01.10) とにかく、なぜか”博士課程の定員を満たすこと”が至上命令らしいのだ。一方、先のことを考えられる学生ほど博士課程に進学しない(ご存知のとおり博士号 とることがむしろデメリットになるから)。結果的に、サイエンスに一生を捧げようというものすごい熱意のある良質の学生と、周りから言われるままに流され 自主的に考えることのできない良質ではない学生が博士号をとる。(夢の島アメリカ アメリカポスドクの歩き方 在米高齢ポスドクが歩む二流研究者へのいばらの道 2012/10/07) 「入院」させれば予算が増える このお達しによって、旧帝大から地方国公立大、有名私大、はては弱小私大までが、定員の確保、募集枠の拡大、大学院の設置といった形で、大学院生増産に飛びついた。その過程で起きたのが、非自発的な大学院進学者の急増だ。すなわち「もともと大学院に進学する“つもりのなかった”人や、若年労働市場の異常な 縮小により、“就職難で困っていた人”が、ずるずると大学院生になっていたということが起こり始めたのだ」。定員を確保するために、指導教官が学部生を一 […]

大学の教員公募が実際には公募になっていないことがある理由

博士号を取得した人の多くは研究者として生きることを望みますが、アカデミアで常勤職を得るのが非常に困難な状況は依然として続いています。 かなりの数(数十~数百のオーダー)の応募書類を書き,ほぼ全ての大学から不採用を告げられ,いくつかの大学から面接に呼ばれ,そのうちの一つの大学からオファーをもらえば,例えその大学が何処のどのような大学であろうと御の字と考えなければならないのが現状である.(【大学教員への道】有益な書籍・サイト akt37 2013年9月7日) 日本の研究力を強化するには、優秀な研究者が公正な競争の結果PI (Principal Investigator)の職に就けて、さらに自分の研究を発展させられるような体制を整備することが必要です。しかしながら、現実はというと、大学の教員募集要項で「公募」と称しておきながら実際には公募でないことが多いという強い不満の声が聞かれます。 大学教員の採用については、形式的には公募制がとられていても、その情報の流通が十分でないために、結果として閉鎖的な人事が行われている場合もあると言われている。(大学における教育研究の活性化のために 文部科学省) 公募の偽装を公に認める大学はないでしょうが、まずは現実を直視するところから始めないことには、改善策が見出せないでしょう。以下では、公募出来レースの真相、問題点、応募者への現実的なアドバイスなどを議論している、インターネット上の有益な記事を紹介します。 さらに頭に来るのは、「公募」と称して自分も参加したポスト獲得競争において、明らかに自分よりも業績や能力に劣ると思われる候補者が選ばれることをしばしば経験することでしょう。そのたびに、この国にはフェアな競争がないと絶望的な気持ちになることは想像に難くありません。 (ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日) このブログ記事では興味深い議論がなされており、論文業績の格差にも関わらずなぜ内部昇進が行われるのかの内情を説明するコメントが紹介されています。 多くの教員は業績があって採用されて、その後成果を上げられなくなっていっています。特に最近は。なぜか?まず週に講義を5-6コマ担当し、入試・教務・学生委員会など委員に選ばれれば必ず出る必要のあるさぼれない委員会や会議が週平均1.5回くらいあります。校費は昔は100万以上あったのが今は10-40万です。大手の大学と違って、卒業研究の指導も教授自ら真剣に手取り足取りやる必要があります。そのうちちょっとデキの良い学生は大手の大学の大学院に行ってしまい、自分のところには誰も来ないか、来ても2年間バイトにあけくれるモラトリアム組です。  そして、論文も急速に出なくなり、着任当時は当たっていた科研費も次第に当たらなくなります。  ここで公募で(場合によっては所属ラボのお陰もあって)すばらしい業績をもつポスドクと競っても、地方で苦労して教育と運営をしている教員は負けるでしょう。しかし、そのポスドクも慣れない教育と運営に四苦八苦しているうちに結局は前任者と同じ運命をたどるでしょう。  そこで現場で行われているのは、公募条件を厳しくして当該内部候補しか当てはまらないような募集をするのです。 (ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日) 地方大学ならではの悩みがあるようで、実際に公募要項にもその理解を求めるような記述をしている大学もあります。 応募資格…(3)地方大学の現状を理解して教育・研究および大学運営に対応できる者 岩手大学は男女共同参画を推進しています(http://www.iwate-u.ac.jp/gender/)。 … (https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D115080098&ln_jor=0)  公正な審査をすっ飛ばした結果、最悪の事態を迎えたのが、あのSTAP細胞事件でした。小保方氏がリクルートされたときの状況が詳細に報道され、公募の実態の一端が一般の人の目にも明らかになった珍しい事例です。 2)運営における不誠実なヤラセ行為を止めよ 私は、STAP問題にあった背景の本質の1つは、「人事」であったと思っています。ところが、メディアなどでは、これを真正面から取り上げた記事を見たことがありません。1つは、小保方氏をCDBのユニットリーダーに採用した「出来レース」。これは、理研CDBの関係者は「出来レースではない」と言い張るが、本当でしょうか。幹細胞の分野のPIを募集するという「公募」の英文を書いたのは、一体誰だったのでしょうか?(昨今の科学研究体制への苦情と提言 わがまま科学者 2014年12月29日) RIKENですらこうなのですから、偽装公募の問題は地方大学に限ったものではなさそうです。公募だったはずの人事が、フタを開けてみたら内部昇進させていただけだったという例は、首都圏にある日本有数の研究大学でも見受けられます。学生を優れた研究者に育て上げることが期待される研究大学であれば、PIの任用にあたっては極めて高い研究能力(=研究業績)が要求されて然るべきなのですが。 自分が教官となって自覚させられることは、研究成果を挙げていない人間が大学院の学生を指導できるわけがないということの一語につきる。 (新大職組新聞1996年3月29日【検証・大学改革④】「同情するなら職をくれ!」その後ー研究妨害とはこのことだ 露崎史朗(元大学院自然科学研究科)) 業績欄のレベルについては、今の日本の助教(40歳前後)はおろか、准教授(45歳前後)でも今のポスドクよりも業績欄が寂しいことは珍しくないように思います。 … 結局、現在のバイオ業界は、ポスドクが次のステップに行くための業績の最低ラインだけを著しく上げている(Nature/Cell /Scienceクラスの論文が必須)にも関わらず、いったん助教や准教授となった人たちは過剰なまでに守るという図式になっていて、これこそが、今のポ スドク就職難の原因なのではないかと思います。(BioMedサーカス.com 研究者の声:オピニオン 2013年12月15日更新 執筆者:ポスドク@関東地方)  みせかけの公募はいつの時代にもあるようです。 また,ある地方に県立大学が開設されることになり,学会誌の求人欄にて,その教授や助教授の募集の公示が出 ておりました。それには,ちょうど私の専門分野に関係する部門のポストがありました。 当時の私は,一応の論文数もあったので,教授職に応募するべく自信 を持って書類を作成し,大学開設準備室へ送付しました。 しかし,締め切り後,面接の通知もなく,一ヶ月ほどして紙切れ一枚の不採用の通知。なぜ不採用な のか自分でも疑問に思えてなりませんでした。 ところが,翌年に開設されたその大学の教員リストを見ると,なんと,全部,地元の旧帝大のOBであることを知り,唖然とし,腹立たしさも覚えまし た。 しかも,私が応募した部門の採用者の業績はそれほど多くはありませんでした。 結局,その採用者以外の応募者ははじめから「当て馬」であり,利用さ れただけでした。 公募には,「候補者が決まっているが,公募で採用を決めたという形式にする」ためのものと,文字通り「広く門戸を開いた完全に平等な人材募集」の2種類があることを,そして,いずれの場合でも,複数の著名な方々からの推薦書が絶大な効果をもたらすことを,私は学びました。(大学院博士課程のあなたへ、たやすく研究者の道、諦めないで! 大槻義彦の叫び  2015-07-12)   こうなると公募に応募書類を出す意味がどれだけあるのか、ということになりますが。 公募の体裁を取っていながら、実際は出来公募だったり、教員選考委員にコネを持った他の応募者がいるので、面接に呼ばれてもコネがなければ採用に至るのは難しく連敗を重ねてしまうことが多いようだ。しかし、デキ公募でも選考委員全員の意見が「デキ公募」で完全に一致していることは稀である。即ち、公平に選考しよう(したい)と考えている選考委員は少数だが存在する。 (私の公募に対する心構えメモ http://www.geocities.jp/ryannmaryu16/point.html) 就職において人間関係が重要というのは普遍の真理です。 Q. […]

日本の科学研究の問題点~ブラック企業のような構造と研究者が抱える雇用不安~

先日、京大の山中伸弥教授が、「京大iPS細胞研究所は、これが民間企業ならすごいブラック企業」という表現をしたそうです(記事)。しかし、これは決して京都大学のiPS細胞研究所に限った話ではありません。研究者の雇用不安は、現在の日本の科学研究全体を覆う非常に深刻な問題です。 ブラック企業とは、定義にもよりますが、労働者を劣悪な労働条件で酷使し、峻烈な選別を行い、非情に使い捨て、組織だけが成長するような会社のことです(参照:コトバンク)、これはそっくりそのまま今の研究の世界にも当てはます。 研究室では、任期付きの研究者は少しでも早く成果を出さないといけないので必然的に長時間労働を強いられます。ポスドクの報酬は年齢や学歴からは一般の人が想像できないくらいに低く、時給換算したら国が法で定める最低賃金並みになります。ポストの数があまりにも少ないため、ある程度の成果を挙げたとして もそう簡単に定職は見つかりません。任期が切れたり財源が途切れれば、ボスが温情を施したくても研究者はラボを去らざるをえません。しかし買い手市場のおかげで研究室はまた新たな労働力を調達して存続し発展できます。現在の日本の科学研究において、研究室というのは構造的にブラック企業そのものなのです。 ブラック企業の場合は経営者の人格や経営姿勢が問われるところですが、研究室の場合は教授の人柄が良く部下思いであったとしても、現在の研究制度が抱えるこの構造的問題をどうすることもできません。 日本の科学技術政策に関する提言の中では、「至高の科学力で世界に先んじる」とか、 「世界的な卓越した教育研究拠点の形成」などと非常に耳当たりの良いフレーズが飛び交っていますが、人生設計もままならずに不安に苛まされているポスドクや任期付き教員ばかりという暗澹たる研究の現場で、そのような崇高な目標が本当に実現し得るのでしょうか? ”ポスドク等の約40%の年収は400 万円以下である。また半数以上が退職金や住宅手当の支給を受けられない。” ”任期制であることが結婚、子どもを持つこと、住宅購入などに影響すると考えている人の割合は70%もしくはそれ以上” “1週間の労働時間は平均54.8 時間、40%以上が60 時間を超え、100 時間を超える人もいる” ”13%程度が自身もしくは配偶者の実家から経済的援助をうけている。年齢別では41 歳以上の人、また子どもの有無別では子どもがいる人が実家から援助を受けている率が高く、…” “給与の財源は文部科学省研究費助成金( 26% )、その他の競争的資金(22%)、戦略的創造研究推進事業とグローバルCOE プログラム(それぞれ8%)が多く、上司の研究費による雇用が中心である” “78%の人が次の職を探している。…大学や研究所での求人が少ないこと、公募していても形式的で内部昇格が多いことを危惧している。” (引用元:生命系における博士研究員(ポスドク)ならびに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題 平成23年 日本学術会議題) 「世界最高水準の卓越した研究」の担い手の多くが、1年契約で年収が300万円台のポスドク(博士研究員)や時給1000円程度のラボテクニシャン(技術員) だったりするのが実際のところです(人件費の財源や機関にもよる)。しかも、彼らは成果を挙げても、どれほど優れた実験技術を持っていても、何歳になっても報酬は増えず生活の保証もありませ ん。せめて、能力や成果に応じてパーマネントの職を得る機会や、昇給の機会を与えるような人事制度へ早急に変えない限り、日本の科学研究は国際的な競争力を失っていくでしょう。 “ポスドクを複数回繰り返す35 才以上のポスドク(シニアポスドク)が2012 年の調査で全体の37.1%に達しています” (引用元:生科連からの<重要なお願い> 生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会) 「酷使」や「使い捨て」というのは認識の問題もありますが、日夜研究に勤しんで、(少なくともボスがその地位に安泰で居られる程度の)論文成果(インパクトファクター5~10)を挙げ、ラボに対してもサイエンスにおいても貢献した研究者が、研究を辞めて教育職や研究事務に転向したり、研究や教育とは全く無関係な職に転じたり、最悪の場合完全に失業するしかないというのが、日本の科学研究の現状です。成果が出ない人間を切り捨てるブラック企業。成果が出ている人間をも切り捨てる研究所。現在の日本の研究社会は、ある意味、ブラック企業よりも更にブラックかもしれません。 ”「お前が研究者をやめてくれて心底ほっとした」 母親もそんな言葉で大卒初任給ほどの待遇で居場所を探してきた息子の転身を心から喜んでくれ、…” (ポスドクからポスドクへ 円城塔 日本物理学会誌 Vol.263, No.7, 2008  PDF) 参考 提言 生命系における博士研究員(ポスドク)ならびに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題 平成23年(2011年)9月29日 日本学術会議 基礎医学委員会 (PDF55ページ) 生科連からの<重要なお願い> 生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください。平成27 年4 月(第二版)生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会(PDF16ページ) 理研の松本理事長、人事制度の一本化・英語の公用語化などの改革案を発表 – 「他の研究機関の手本となるようなモデルを構築したい」(マイナビニュース 2015/05/25):”2つ目の柱は「至高の科学力で世界に先んじて新たな研究開発成果を創出する」となっている。” 地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省):平成26年度東京都最低賃金時間額888円 平成19 年度文部科学省科学技術振興調整費 女性研究者支援モデル育成事業「研究者養成のための男女平等プラン」成果 2007-1 研究者養成のための男女平等プランに関する調査(3)若手研究者の現状と支援ニーズ調査報告書(聞き取り調査編)(PDF194ページ):”具体的な数字を挙げてくれた例によれば、手取りで毎月18 万円程度ということであった(J 助手・20 代・男)。なお規程上は、早稲田大学全学共通で、助手には年間3 ヶ月分の賞与が与えられているとのことである。したがってJ さんの年間所得は270 […]

京大iPS細胞研究所は、これが民間企業ならすごいブラック企業~京都大の山中伸弥教授が研究者の雇用不安に言及

2015年5月23日に橿原ロイヤルホテル(奈良県橿原市)で奈良県立医科大学開学70周年記念式典が執り行われ、京都大の山中伸弥教授が記念講演を行いました。その中で所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA)について、CiRAの約300人の教職員のうち9割が不安定な有期雇用であることから、「これが民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないといけない」と、研究者の雇用不安にも言及したそうです。 参考 iPS細胞研究所の9割有期雇用 山中教授「民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないと」 奈良で講演(産経WEST 2015.5.24):”一方で、所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA)については、約300人の教職員のうち9割が不安定な有期雇用であることから、「これが民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないといけない」と指摘。” 開学70周年記念式典を挙行しました(奈良県立医科大学 2015年5月27日):”記念講演 細井理事長・学長と古家理事(附属病院長)が座長となり、山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長・教授を講師にお迎えし、iPS細胞が移植治療だけでなく難病治療薬の開発にも重要な役割を果たし始めている等「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」について、ご講演いただきました。” 日本の科学研究が抱える問題点~ブラック企業のような構造と研究者が抱える雇用不安~