大学院に進学するということ
ネットで出くわしたショッキングな言葉。
「東大で大学院に入るのは自殺行為、それ以外の大学で大学院に入れるのは殺人。」 (c)飯田泰之
過激ですが、共感するところもあります。自分も大学卒業時にはどんな会社からでも歓迎されそうな状況でしたが、大学院に進学した結果、世の中の誰からも必要とされず(任期切れ、公募100連敗)、いい年して家族もろとも路頭に迷うという恐ろしい状況に陥ってしまいました。研究しているのか職探ししているのかわからないような人生をずっと歩んできて、死んだ方が楽かなという気分を何回も味わいました。「大学院に入るのは自殺行為」というのは、研究者社会の現実の一側面を言い当てた言葉でしょう。もう15年前の言葉のようですが、令和の時代が始まる今になっても、状況は悪化こそすれ何ら改善していないようです。
自分は生命科学の業界しかわかりませんが、業績があってもパーマネント職に就けていない人があまりに多いです。これが現状なのに、漠然と大学院に進学して将来研究者になりたいと言う学部学生を見ると、大丈夫?と思ってしまいます。そういう(地方大学の)学生が、優秀であるがゆえに先生に可愛がられてそのまま同じ大学院に進み、そこで人並みの論文を書いて博士号を取得したところで何者にもなれないでしょう。それをわかっていて大学院進学を勧める先生がいるのだとしたら、上で紹介した言葉は過激ですが、その通りだと思います。
自分の考えをいうなら、生命科学の場合ですが、
「大学院に進学して、小さな論文にしかならないような研究テーマを選んで5年間実験に勤しむのは自殺行為」
となります。なぜなら、そんな論文を出したところで職は獲れないから。ここで小さな論文というのは、インパクトファクターが10も無いような雑誌に掲載される論文という意味です。論文の真に科学的な価値は度外視した話です。そして、将来研究者になりたいという希望を持っている大学院生に対して教授がそのような研究テーマを強制するのだとしたら、それは非常に無責任な行為だと思います。大学教授の地位の保全には十分な論文業績であっても、大学院生がアカデミアで生き残るには不十分でしょう。大学院時代に限らず、ポスドクに関しても同じことが言えます。
「一流誌には届かなかったけれど、とりあえず論文がやっと出せて良かった。」と教授と一緒に喜んでいるようでは、あなたに研究者としての未来はないのです。(若者は現状を見切り無謀な挑戦の回避を)
ただし、段ケーキの上にひょいと持ち上げてもらえる人間になれれば、その限りではありません。
- 大学院進学はまちがいなく自殺行為である(2004-11-29 思考錯誤)
- 大学院進学は自殺行為だ。そして、明治時代も、そうだった (2015-02-01 shibaok.net)
文系と理系とでは就職の厳しさがまた全然異なるのかもしれませんが、程度の差を別にすれば、これらの言葉がそのまま理系の世界にも当てはまりそう。
研究職に就かんとする者に必要な心構えについて。まずは諦めましょう。世間的成功、お金が欲しい人には向かない。また、学問と研究は違うのであり、文系の場合は特に就職口がなく、あったとしても自分がやりたいこととぜんぜん違う分野を求められることもしばしば。職業と云う点から言えば学問的才能は関係ない。むしろ職業的習熟、人付き合い、プレゼン能力などが求められる。これを研究したい、などと云うのは結局はゴールのようなところであり、それまでのプロセスではやはり話は別で、現実的世渡りが必要。(イベント報告 京都大学 総合人間学部 大学院人間・環境研究科 同窓会)*太字強調は当サイト
参考となるデータ
これ、学振DC含めて給料データもっと出して、国が直で優秀な人期限付きで雇うとか、制度欲しいな。
今の科研費から人件費出すなんて、無理すぎる!
金額足らん!【クローズアップ科学】「博士号を取得した結果が餓死では無益だ」 博士たちの悲痛な叫び https://t.co/UdiHFDqlBY @Sankei_newsより
— Hiroshi Yamada (@Hiroshi12337131) February 27, 2022
生きる力を与える言葉
すでに大学院に進学してしまった人にとって、最初に紹介した言葉は凶器にしかなりませんが、さんまさんの言葉が力になります。自分はこの10年間、この言葉を拠り所に生きてきました。
「生きているだけで丸もうけ。」(明石家さんま)
- 人間、明石家さんま。「座右の銘」の話(YOUTUBE)
研究の世界は段ケーキ
昔、芸能人の誰かがネット記事の中で言っていたことですが、芸能界は結婚式に登場するあの「段ケーキ」と同じで、どれほど努力して前に進んでも、自分が今いる段から上には上がれないそうです。上に行くには、上にすでにいる人に引っ張り上げてもらう以外ない。
この記事を読んだとき、研究の世界も同じだなぁと思いました。どれだけ努力して論文業績を積み上げても、誰かが自分のことを気に入ってくれて引き上げてくれない限り、どうにもならない。段ケーキの上では、前に進む努力をいくら続けても無駄であって、上の段から自分に手を差し伸べてくれる人を得ることが必要なのです。
関連記事 ⇒ まだアカデミアで消耗してるの?【博士の転職】
参考
- 大学院に行って人生を棒にふる方法 (2018/05/21 06:12 katsu1110)
- これから人文系大学院へ進む人のために (2004-12-10 15mode ver.cpot)
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