大学での物理の勉強法、物理学の教科書の読み方、おすすめの標準的な教科書と演習書

高大接続は高等教育(大学での教育)における重要事項です。高校の勉強と大学の勉強とでは、科目名が同じでも内容や学び方に大きな違いがあります。大学の講義の進度は非常に速いので、自学自習をしない限りついていくことは難しいでしょう。その際に、どんな教科書でどんなふうに勉強すればいいのでしょうか。数学に関しては以前書いたので、

関連記事 ⇒ 数学の教科書・数学書の読み方、大学の数学の勉強法

今度は物理について考えてみたいと思います。自分が学生だった頃は、学生が初めて学ぶことを意識して書かれた数学や物理の教科書がほとんどなかったように思います。大学の先生が、自分の講義録をまとめて出版したようなものばかりでした。その際、ページ数に限りがあるせいか、あるいは、無駄をそぎ落として理論的な構築の美しさを追求したせいたか、初学者がつまづきそうなポイントをとくに先回りして解説してくれるような親切な本は見当たりませんでした。

大きな本屋さんに行って、外国の大学の先生が書いた教科書の邦訳書を見てみたら、非常に親切な口調で書かれているものが多くて、国産の教科書のわかりにくさと欧米の教科書のわかりやすさとの違いに愕然としたものです。時代が変わり、最近では学生思いの、何がなんでも理解させようという熱意が溢れた教科書が増えてきたように思います。しかしそのような教科書であっても、「行間」が全くない本というのは存在しないでしょう。読者の予備知識の量に差がある以上、それは仕方がありません。

大学の講義は、講義時間が90分だとしたら、予習に90分、復習に90分、合計270分もの時間、学生が勉強することが前提として組まれているのだそうです。講義をただ聴いているだけで物理の新しい概念を習得することはできません。大学生は自宅でどうやって物理を学習すればいいのでしょうか。教科書を書いた人間にとっては常識的なことだけれども、読者である大学生にしてみれば「そんなの、聞いてないよ」という、暗黙の了解となっている事柄を紹介したいと思います。

 

大学の教科書がどう書かれているかを知る

行間の存在を知る

読んでいるだけでは式変形を追うことができないものも非常に多いです。非常に難解な変形でも省略されることが多いからです。このせいで、行の間の式変形、行間と呼ばれるものが生まれます。これも専門書を分かりにくくする原因の一つです。(理系大学生なら身につけたい専門書を読むときの3つのポイント Interesting Study Method)*太字強調は当サイト

自明である”という表現は、簡単だとか些細な事柄であるいう意味よりは、(勿論そのままの意味で使われることもありますが)「書くのが面倒なのでサボる」とかいった意味に使われていることが多いように思います。”よく知られている”とか”示すことができる”とかも同様です。(Book Guide: IndexMasahito Yamazaki, a physicist/mathematician)*太字強調は当サイト

自分が知る限り、行間がない唯一の参考書・問題集は、マセマのシリーズだと思います。高校で数学や物理を学んだ人なら高校までの勉強と同じノリで大学の勉強ができる稀有な教科書でしょう。

  1. マセマ出版社https://www.mathema.jp/)”東大生が一番読んでいる参考書” ”日本で高大一貫教育はマセマだけ!?”

マセマ出版社は、キャッチフレーズでアピールしている通り、実際に高大接続を本気で実現させていると自分は思います。マセマは自分も何冊か持っていますが、何しろ大学で学ぶ内容が、高校生向けの大学受験参考書のようなノリで説明されているので、自分に理解できないはずはないという安心感を持って読み進めることができます。大学の”普通”の教科書で挫折し脱落する人は、マセマに助けてもらったほうがいいと思います。行間を自分で埋める作業の実際がわかってから”通常の”教科書に取り組んだほうが、挫折を避けられます。

 

目で読まない

数式を目で追ってはいけない 数式は、かならず手で追う、つまり自分の手で納得ゆくまで実際に計算する(はじめに 山本義隆 新・物理入門 駿台文庫)

 

自分に合った教科書を選ぶ

教科書を選ぶ際には、自分の理解力や実力にあっているかどうかを見極める必要があります。その教科書の著者はどこの誰を読者対象として想定しているのか、それに自分がマッチしているのか。

解らない人がそれで勉強して解るようになるために教科書が在るはずなのに、解らない人が読むと解らず、解る人が読むと解る、そんな教科書に存在意義があるのでしょうか。実は、初めて読んで解る教科書って僅かですがあるんですよ。それは、そこに書いてあることを見つけたその本人が書いた教科書です。(教科書の読み方 2013-05-28 00:25:31 texas-no-kumagusuのブログ)*太字強調は当サイト

 

定評のある教科書を通読する

基礎学力をつけるのにもっともよい方法は、演習問題を解くことだけでなく、しっかり書かれた教科書を通読することです。これは、大学を出てからも、新しい分野を身につける必要に迫られるたびに行うことです。(物理学科教員からの推薦図書を紹介します。東京理科大学)

 

一度でわかろうとしないこと

全体として何がやりたいのか、どういう問題を解きたいのか、そのためには何をしたらいいのか、ということ重点にして読んだ後で実際、手を動かして計算していくことが大事だと思います。そして最後は必ず、演習問題を解く。解くことによって、理解の確認にもなります。実際いろんな問題を解くことによって、よくわからなかったところでも、こういうことだったのか、とわかることがたくさんあります。(教科書(物理)の読み方 投稿者: 中央ゼミナール | 2010 年 2 月 5 日 *太字協調は当サイト)

 

物理的意味を考える

物理学における数学は,自然現象を記述するための言語であり,全ての数式は物理の文脈で意味を持っています.数式の意味を理解しようとせずに本を読めば,なんとなく計算が出来た,と言うだけで終わってしまうでしょう.(物理学の学び方教科書の読み方 如何にして物理学を学ぶか Jul 31, 2019 • 優曇華院)

 

物理の勉強はそもそも大変だということを覚悟する

東大物理学科のYOUTUBERさんが物理の勉強の大変さを語っていました。物理を勉強するには顔中血みどろになる覚悟が必要だそうです。

東大物理学科に絶対に入った方がいい理由をお話しします。たむらかえ2 チャンネル登録者数 8.85万人

 

自学自習・復習の時間を確保する

問題を解く

大学の受験勉強では数学にしろ物理にしろ、ひたすら問題を解いていたことを考えると、大学の勉強で急に問題を解く量が極端に減ってしまって、そんなんで理解が深まるわけもなかったのでした。やっぱり演習問題に取り組むことが一番大事みたいです。

  • 教科書でひと通り”基礎”を勉強した後は、ひたすら(コツコツ)”練習(トレーニング)”が必要
  • 1つ物理法則を学んだら、必ずそれに関連した練習問題を解くという学習方法が、最も物理を理解する近道
  • 良い演習問題を毎日コツコツ解くこと、それが物理の学習のスタンダード
  • このことを実行することによって、驚くほど物理の理解が深まる

刊行の言葉 フロー式物理演習シリーズ 須藤彰三・岡真 監修 共立出版

名著・定番・標準的な大学の物理学の教科書・副読本・初学者向け教科書など

物理学全般・シリーズもの

  1. R. Shankar Fundamentals of Physics I: Mechanics, Relativity, and Thermodynamics; Fundamentals of Physics II: Electromagnetism, Optics, and Quantum Mechanics (The Open Yale Courses Series) Fundamentals of Physics II: Electromagnetism, Optics, and Quantum Mechanics (The Open Yale Courses Series)
  2. ファインマン The Feynman Lectures on Physics
  3. バークレー物理学コース 力学 波動 実験物理 丸善
  4. Richard Courant, David Hilbert 数理物理学の方法 上 (数学クラシックス) 2013/2/1 丸善出版 (ドイツ語初版1924年)

物理数学

  1. 田崎 晴明 物理を学び楽しむために XXXX/XX/XX
  2. Mary L. Boas Mathematical Methods in the Physical Sciences 2004/2/1
  3.  George B. Arfken, Hans J. Weber, Frank E. Harris  Mathematical Methods for Physicists: A Comprehensive Guide (English Edition) 7th edition 2012/1/31
  4. 寺沢 寛一 自然科学者のための数学概論 増訂版 1983/5/18 岩波書店
  5. ‎後藤憲一 現代科学における数学概説 1981/3/1 共立出版
  6. Erwin Kreyszig Advanced Engineering Mathematics 2011/5/3

力学・解析力学

  1. ジョン・テイラー 古典力学 2019/6/11 プレアデス出版
  2. 原島 鮮 力学〔三訂版〕 1985/11/25 裳華房
  3. ゴールドスタイン(Herbert Goldstein), John Safko, Charles Poole 古典力学〈上〉 (物理学叢書) 原著第3版 2006/7/1 吉岡書店; Classical Mechanics: Pearson New International Edition 2013/8/5
  4. エリ・ランダウ, イェ・エム・リフシッツ 力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程 1986/4/1 東京図書
  5. V.I.アーノルド 古典力学の数学的方法 第10版 2003/5/28 岩波書店

熱力学

  1. 由井 宏治 見える! 使える! 化学熱力学入門 2013/8/24 オーム社
  2. 田崎 晴明 熱力学―現代的な視点から 2000/4/1 培風館
  3. エンリコ・フェルミ フェルミ熱力学 1973/3/15 三省堂

統計力学

  1. 村上 雅人 なるほど統計力学 2017/1/30 海鳴社
  2. 久保 亮五 統計力学 新装版 2003/6/23 共立出版
  3. 田崎 晴明 統計力学〈1〉統計力学〈2〉2008/12/1  培風館
  4. 久保 亮五 大学演習 熱学・統計力学〔修訂版〕1998/9/10  裳華房

電磁気学

  1. D.J. グリフィス 電磁気学 I 2019/12/11 丸善出版
  2. J.D.ジャクソン 電磁気学 上 2002/7/1  吉岡書店;John David Jackson Classical Electrodynamics 1998/8/14
  3. 高橋 秀俊 電磁気学 1959/5/25  裳華房
  4. 砂川 重信 理論電磁気学 第3版 1999/9/1 紀伊國屋書店

量子力学

  1. David J. Griffiths, Darrell F. Schroeter  Introduction to Quantum Mechanics 3rd Edition 2018/8/16
  2. R. Shankar Principles of Quantum Mechanics 2nd edition 1994/8/31
  3. ライナス・ポーリング, E. ブライト・ウィルソン 量子力学入門:化学の土台 2016/10/23 丸善出版;Linus Pauling, E.B. Wilson Introduction to Quantum Mechanics with Applications to Chemistry 1985/3/1
  4. ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版 2017/11/8 岩波書店
  5. 朝永 振一郎 量子力学 I 第2版 1969/12/20 みすず書房
  6. シッフ 量子力学
  7. 清水 明 量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために 2004/4/1 サイエンス社
  8. J.J. サクライ, J. ナポリターノ 現代の量子力学(上) 第2版 2014/4/10
  9. 竹内 外史 線形代数と量子力学 1981/3/30 裳華房

固体物理学

  1. キッテル(Charles Kittel) 固体物理学入門 第8版〈上〉 2005/12/1

物理化学

  1. Donald A. McQuarrie, John D. Simon Physical Chemistry: A Molecular Approach 1997/8/20;D.A. マッカーリ , J.D. サイモン 物理化学―分子論的アプローチ〈上〉 1999/12/10 東京化学同人

 

参考

  1. 理工系学生のためのSOS冊子先輩のおすすめ参考書WEB版 名古屋大学生協Booksフロンテ
  2. 高橋先生の薦める・物理学の本!関西学院大学
  3. 谷村のおススメ本 名古屋大学