Category Archives: 科学者

マイケル・ファラデー(1791-1867)

マイケル・ファラデー(Michael Faraday 1791.9.22-1867.8.25)は、高校の物理で勉強する「ファラデーの電磁誘導の法則」や高校の化学で勉強する「ファラデーの電気分解の法則」でおなじみの科学者です。

 

【物理】電磁気【第23講】ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則 2021/09/24 「ただよび」ベーシック理系

 

スタディサプリ高校講座 【化学】90秒でわかる!特別講義 坂田講師 2016/02/29 スタディサプリ

 

ファラデーが発見した電磁誘導は、電気回路のそばで磁石を動かすと、その回路に電流が発生するというもので、力学的なエネルギーが電気エネルギーに変換できるということを示した大発見です。つまりこれは発電所で電気が作られている原理そのものであり、今私たちが自由に電気を使えているのはファラデーの発見のおかげというわけです。

  1. エネルギー偉人館 偉人 File – No.7 マイケル・ファラデー 電気がある暮らしを可能にした ファラデーの発見「電磁誘導の法則」(マイ大阪ガス)

ファラデーは、普通の科学者なら一生かかってこれ一つ発見できれば十分、偉大な科学者の仲間入りというような大きな発見を一人でいくつも成し遂げとげているのが凄いところですが、科学者としてのキャリアパスはかなり異色です。

ファラデーのキャリアパス

貧しい鍛冶屋の4人の子供のうちの一人であったマイケルは小学校までしか行っておらず、14歳のときから製本所で働き始めました。製本所で科学関係の本を読み、科学に興味を持ち独学したようです。21歳のときにイギリス王立研究所の化学者ハンフリー・デービーの市民向け講演を聴いて科学者を志し、22歳になってようやく念願かなってデービーの実験助手・雑用係になったのが科学研究の道に入るきっかけで、その後、才覚を表して科学的な偉業を次々と成し遂げていったのです。このように中等教育、高等教育を受けることなく独学し、高名な化学者に手紙を書いて弟子入りし、研究の世界に飛び込んで数々の業績を挙げたその生き方は、強烈だと思います。

ファラデーの実験ノート

彼は実験ノート(実験日誌)を非常にきちんとつけていて、それが全部残っており本として出版されて誰でも読めるようになっているのも素晴らしいことです。この日記のおかげで、電流が磁場を発生するというエルステッドの発見の追試を始めたのが1821年9月3日で、逆に電気回路(コイル)を貫く磁場の変化が電流を発生させるという電磁誘導の現象を見つけたのが1831年8月29日だったということまでわかるそうです(参照:アマゾンレビュー)。ファラデーが苦労して電磁誘導の法則に辿り着くまでの10年間の思考錯誤を読者が追体験できるは素晴らしいことだと思います。

 

ろうそくの科学

ファラデーの名前は「ろうそくの科学」の著者としても広く知られていますが、一般市民向けに科学の真髄をわかりやすく伝える活動をしていたほか、科学者として社会に貢献する活動をそれ以外にも数多く行っていました。

  1. ノーベル化学賞受賞者・吉野彰、出版界に『ロウソクの科学』ブームを起こすきっかけを作った著者がその魅力を語りつくす。NHK出版 2020年10月12日 12時30分 PRTIMES 彼の生きている時代にノーベル賞があったなら、都合6回は受賞していただろうと言われるほどの19世紀を代表する化学者・物理学者です。最先端の研究を生涯続けただけでなく、科学を一般の人たち、とくに子どもたちに広く理解してもらうことに尽力した人物でもあります。‥ 吉野彰氏が『ロウソクの科学』に出合ったのは、小学校4年生の時。「子どもに対して科学のおもしろさを伝えようとしたファラデーの思惑は、私に対しては見事に成功したわけだ」と本書『読書の学校』で語っています。

 

ファラデーが1831年に発見した電磁誘導の法則は、その後、1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell、1831-1879)がまとめた電磁気学の根本原理マクスウェルの方程式(4つの式のセット)の一つを成しています。

ファラデーが科学者として成功した秘訣

ファラデーは、科学者としての成功の秘訣を質問されたときに、

Work, Finish, Publish.

と答えたそうです。「仕事をし、仕事を完結させ、論文発表しなさい」というわけです。

参考

  1. マイケル・ファラデー (ウィキペディア)
  2. ファラデーの電磁誘導の法則(ウィキペディア)

宇宙際タイヒミュラー理論の誕生、論争、浸透

宇宙際タイヒミュラー理論(Inter-universal Teichmüller Theory)とは何でしょうか?宇宙際の読み方は、国際(こくさい inter-national)のさいと同じで宇宙際(うちゅうさい inter-universal)なのだそうです。国際は「国と国との間の」の意味なので、同様に宇宙際は「宇宙と宇宙の間の」ということ。ここでいう宇宙とは、「数学の世界」ということだそう。

常識的には「数学」の世界は一つだと思うのですが、銀河団みたいに、数学がいくつもあるその「数学」と別の「数学」との間を行き来するという意味での「宇宙際」ということなのでしょうか。

Credit:NASA, ESA, and J. Lotz, M. Mountain, A. Koekemoer, and the HFF Team https://hubblesite.org/contents/media/images/2014/01/3277-Image.html

*上の写真はイメージ図です。

タイヒミュラーという名前は、もともとあったタイヒミュラー理論から来ており、望月氏はこれを発展させたp進タイヒミュラー理論なるものを過去に作りあげていました。これらからアイデアを得ているため、新しい理論の名前が宇宙際タイヒミュラー理論となったようです。

宇宙際タイヒミュラー理論(Inter-universal Teichmüller Theory; TUT Theory)のNスぺ放映で、ラボでも話題に挙がったところが多かったのではないでしょうか。自分もこれを機に、加藤文元 著『宇宙と宇宙をつなぐ数学』を読んでみました。宇宙際タイヒミュラー理論が白紙の上で唐突に生まれたわけではなく、いろいろなアイデアに基づいたアナロジーなどを手掛かりに構築されてきたらしいということはわかりました。新しい理論がどうやって構築されてきたのかということに関する数学以外の部分は、数学とは無縁の他の研究分野にもinspirationを与えるものだと思います。

 

望月氏自身による比喩的な説明

逃げ恥」では、少なくともみくり平匡の場合の「マクロ対ミクロ落差」問題に対する「突破口」として浮上するのは「契約結婚」という形の対応であり、このような「突破口」を採用することによって発生する様々な結果への対処が正にドラマのストーリー展開の基本ともいえます。このように、難しい問題に対して、最初から完璧な「模範解答=満額回答」を求めずに、寧ろ、一種の「仮想的な満額回答」を勝手に宣言し設定した上で、その「仮想的な満額回答」によって生じる「歪み・不具合・誤差」を計算するという筋書きは正にIUTeichにおける「Θリンク」(=「仮想的な満額回答」)と、そのΘリンクによって生じる「歪み・不具合・誤差」を、アルゴリズムによる明示的記述を用いることによって計算するという展開とそっくり(!)です。つまり、標語的なレベルで整理すると、

  「契約結婚」=「仮想的満額回答の設定」
        =「Θリンク」
といった寸法になります。

関連記事 ⇒ TBS火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』

宇宙際タイヒミュラー理論は、ABC予想と呼ばれる数学の超難問を証明してしまうものであるため、その公開は数学者に大きな衝撃を与えました。ところが、この理論がほとんどの数学者に理解されなかったため、いまだに(2022年現在)、宇宙際タイヒミュラー理論の論文には重大な欠陥があるため、ABC予想は証明されていないままであるという主張が著名な数学者によってなされているそうです。日本ではテレビや書籍で一般市民向けに啓蒙活動がなされていますが、「宇宙際タイヒミュラー理論」が世界で受け入れられているといえる状況にはないと思います。

実験科学とは異なり、正しいか間違っているかの議論が誰にでも参加可能な数学という学問分野において、このように論文公開から何年経ってもいまだに論争に決着がついていないというのは大変不思議なことです。

 

宇宙際タイヒミュラー理論の誕生

宇宙際タイヒミュラー理論を誕生させた望月新一氏は昭和44年3月に東京で誕生。5歳のときに父親の仕事の都合で渡米、1985年にフィリップス・エクセター・アカデミー(高校)を卒業しプリンストン大学に入学。1988年にプリンストン大学を卒業し同大大学院に進学。学位指導教官はゲルト・ファルティングス教授。モーデル予想(Mordell conjecture)の証明によりフィールズ賞を受賞したばかりであったファルティングス教授が望月氏に与えた研究テーマは、実効版モーデル予想(effective Mordell conjecture)。ちなみに実効版モーデル予想とABC予想は同値だそうなので、宇宙際タイヒミュラー理論へ向かう道は、学位研究のときから始まっていたともいえそうです。1992年に同大学院を卒業し(23歳)、京都大学数理解析研究所の助手、助教授(1986年、27歳)を経て、2002年に同研究所教授(32歳)となり現在に至る。宇宙際タイヒミュラー理論の構築は2000年頃には着手していた。2005年7月12日から2011年2月15日まで、加藤文元氏と2人でのセミナーを開催(月数回~1回のペース、望月氏が話し手で、加藤氏が聞き手)。このセミナーは望月氏が宇宙際タイヒミュラー理論の構築の進捗状況を加藤氏に講義するというスタイル。ちなみに、2009年7月20日のセミナーはABC予想の証明。加藤氏が京大を離れることになったことでこのセミナーは終了したが、この時期に宇宙際タイヒミュラー理論がほぼ固まった。

参考 加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(角川書店)

 

宇宙際タイヒミュラー理論の発表

2010年 望月新一氏が宇宙際タイヒミュラー理論の概要を口演で発表

2010年10月25日~30日に開催されたJoint MSJ RIMS Conference:The 3rd Seasonal Institute of the Mathematical Society of Japan. “Development of Galois Teichmuller Theory and Anabelian Geometry””において、10月29日10時~11時の1時間の講演で、望月新一氏が宇宙際タイヒミュラー理論の概要を発表しました。

October 29 Friday 10:0011:00

S. Mochizuki:

Inter-universal Teichmüller Theory: A Progress Report

Abstract: The analogy between number fields and function fields of curves (e.g., hyperbolic curves) over finite fields is quite classical. In the present talk, we survey work in progress concerning a theory developed by the lecturer during the last decade — in the spirit of this analogy — whose goal is to construct an analogue for number fields “equipped with an elliptic curve” of the p-adic Teichmüller theory developed by the lecturer during the early 1990’s for hyperbolic curves over a finite field “equipped with a nilpotent ordinary indigenous bundle”. From an even more classical point of view, one may think of this theory as a sort of analogue for number fields of classical complex Teichmüller theory, in which canonical deformations of the holomorphic structure of a hyperbolic Riemann surface of finite type are constructed by dilating one of the two underlying real dimensions of the Riemann surface, while leaving the other dimension fixed (i.e., “undeformed”). In the case of number fields equipped with an elliptic curve, one thinks of the ring structure of the number field as a sort of “arithmetic holomorphic structure”. One then constructs canonical deformations of this arithmetic holomorphic structure — i.e., analogues of the canonical liftings of p-adic Teichmüller theory — by applying the general theory of Frobenioids, as well as the theory of the Frobenioid-theoretic theta function (developed in earlier papers by the lecturer). At a more concrete level, if one thinks of the ring structure (i.e., “arithmetic holomorphic structure”) of the given number field as consisting of “two underlying combinatorial dimensions” corresponding to addition and multiplication, then working with Frobenioids corresponds, roughly speaking, to performing operations with the multiplicative monoids involved (i.e., multiplicative portions of the rings involved) — in a fashion motivated by the theory of log structures; in particular, such operations are not necessarily compatible with the additive portions of the ring structures involved. Alternatively, if one thinks of the ring structure (i.e., “arithmetic holomorphic structure”) of the various local fields that arise as localizations of the given number field as consisting of “two underlying combinatorial dimensions” corresponding to the group of units and the value group, then one may think of these canonical deformations of the arithmetic holomorphic structure as deformations in which the value groups are (canonically!) dilated — by means of the theta function — while the units are left undeformed. Since such “arithmetic Teichmüller dilations” are manifestly incompatible with the ring structure of the given number field, it follows that they are not compatible, in general, with various classical scheme-theoretic constructions performed over the number field which depend on this ring structure. In particular, these arithmetic Teichmüller dilations fail to be compatible with the various basepoints of arithmetic fundamental groups involved (e.g., Galois groups) which are defined by considering scheme-theoretic geometric points. The resulting incompatibility of (conventional scheme-theoretic) basepoints on either side of the “arithmetic Teichmüller dilation” gives rise to numerous indeterminacies; these indeterminacies lead naturally to the introduction of tools from anabelian geometry. It is this fundamental aspect of the theory that is referred to by the term “inter-universal”. The (expected) main theorem of inter-universal Teichmüller theory consists of a fairly explicit computation, up to certain relatively mild indetermacies, of the “arithmetic Teichmüller deformations of a number field equipped with an elliptic curve” discussed above by applying various results obtained in previous papers by the lecturer concerning local and global absolute anabelian geometry, tempered anabelian geometry, and the étale theta function. This passage from the Frobenioid-theoretic definition of the arithmetic deformations involved to a more explicit Galois-theoretic description may be thought of as a sort of global arithmetic analogue of the classical computation of the Gaussian integral (i.e., R ∞ −∞ e −x 2 dx) by means of the passage from cartesian to polar coordinates. Inequalities of interest in diophantine geometry may then be obtained as (expected) corollaries of this (expected) main theorem.

転載元:http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~nakamura/GTAG2010/JointMSJ-RIMSbooklet.pdf

2012年 宇宙際タイヒミュラー理論の論文のプレプリントが公開される

望月新一氏は2012年8月30日に宇宙際タイヒミュラー理論の論文のプレプリントを自身が所属する京都大学数理解析研究所のプレプリントサーバーに投稿しました。

  1. Shinichi MOCHIZUKI INTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY I: CONSTRUCTION OF HODGE THEATERS August 2012(PDF)(RIMS-1756 京都大学数理解析研究所プレプリント
  2. Shinichi MOCHIZUKI INTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY II: HODGE-ARAKELOV-THEORETIC EVALUATION August 2012 (PDF)(RIMS-1757 京都大学数理解析研究所プレプリント
  3. Shinichi MOCHIZUKIINTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY III: CANONICAL SPLITTINGS OF THE LOG-THETA-LATTICE August 2012 (PDF)(RIMS-1758 京都大学数理解析研究所プレプリント
  4. Shinichi MOCHIZUKI INTER-UNIVERSAL TEICHMLLER THEORY IV: LOG-VOLUME COMPUTATIONS AND SET-THEORETIC FOUNDATIONSAugust , 2012(PDF)(RIMS-1759 京都大学数理解析研究所プレプリント

報道

  1. A Possible Breakthrough in Explaining a Mathematical Riddle By Kenneth Chang Sept. 17, 2012 The New York Times
  2. 数学の難問「ABC予想」、京大教授が解明か 2012年9月18日 22:02 日本経済新聞 現代の数学に未解明のまま残された問題のうち、「最も重要」ともいわれる整数の理論「ABC予想」を証明する論文を、望月新一京都大教授(43)が18日までにインターネット上で公開した。整数論の代表的難問であり、解決に約350年かかった「フェルマーの最終定理」も、この予想を使えば一気に証明できてしまう。欧米のメディアも「驚異的な偉業になるだろう」と伝えている。
  3. 21世紀数学史上最大の偉業!?:「ABC予想」を日本の数学者が証明 2012.09.24 WIRED 数学コミュニティは、望月教授の研究に大きな関心を寄せている。「もし正しければ、多くのディオファントス問題が一瞬のうちに解決されるだろう。21世紀における数学で最も驚くべき結果のひとつだろう」と、ニューヨーク、コロンビア大学のドリアン・ゴールドフェルドは保証する。

熱狂から諦め、困惑、懐疑、不信へ

  • 論文が発表されて数か月もすると、若手から老練な大学教授にいたるまで多くの数学者が、望月教授の論文を読んで理解するのを諦め始めたのです。(32ページ)
  • 数学者たちの多くは、しだいに彼の理論から一定の距離を置くようになっていったと思います。(33ページ)
  • ときおりIUT理論のその後について話題になることもありましたが、話す彼らの論調は苛立ち、諦め、不信感といった内容になることが常でした。(33ページ)

(引用元:加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』2019年4月25日 角川書店)*太字強調は当サイト

2015年オクスフォード大学でのカンファレンス

  1. 「異世界からきた」論文を巡って: 望月新一による「ABC予想」の証明と、数学界の戦い 2016.07.06 WIRED 2015年12月初旬、3年間にわたって注目を集めていた「ミステリー」の新たな進展を目当てに、オックスフォード大学に数学界の目が向けられた。京都大学の著名な数学者・望月新一教授の研究に関するカンファレンスが行われたのだ。

2017年10月 MATH POWER 2017 加藤文元氏による一般向け講演

加藤文元による宇宙際タイヒミュラー理論(英語字幕付き)[PROPER]

2018年3月 京都でのカンファレンス

  1. REPORT ON DISCUSSIONS, HELD DURING THE PERIOD MARCH 15 – 20, 2018, CONCERNING INTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY (IUTCH) Shinichi Mochizuki February 2019

2018年 ショルツェ氏とスティック氏が望月氏の理論に誤りがあると主張する論文を発表

  1. PETER SCHOLZE AND JAKOB STIX Why abc is still a conjecture(PDF) Date: August 23, 2018.
  2. Titans of Mathematics Clash Over Epic Proof of ABC Conjecture Two mathematicians have found what they say is a hole at the heart of a proof that has convulsed the mathematics community for nearly six years. Erica Klarreich Contributing Correspondent September 20, 2018 quantamagazine.org
  3. Scholze and Stix on the Mochizuki Proof September 20, 2018 Not Even Wrong (math.columbia.edu/~woit/)

2018年 望月氏がショルツェ氏とスティック氏の論文に反論

  1. COMMENTS ON THE MANUSCRIPT BY SCHOLZE-STIX CONCERNING INTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY (IUTCH) Shinichi Mochizuki  July 2018  (kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/)

2019年4月 加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(角川書店)

加藤文元氏による一般向け講演が2017年10月にMATH POWER 2017のイベントで行われましたが、その講演内容が書籍化されました。宇宙際タイヒミュラー理論とは、自然数の足し算と掛け算からなる「環」と呼ばれる構造の数学的対象に対して、本来強固な関係にある足し算と掛け算という2つの自由度を引き離して解体し、両者の定性的な性質を緩い不定性を許して復元するものだそうです。

  1. 独占! 初公開! 『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』の幻の3ページとは? カドブン

『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』には、宇宙際タイヒミュラー理論に深く関連する数学の分野の紹介があります。下の説明は伝言ゲームじゃないですが自分が書きまとめたことで不正確な要素が入ってきていると思いますので、元の書籍をお読みください。

タイヒミュラー理論:複素構造(縦と横、あるいは長さと角度といった固く結びついた2つの次元を持つ図形)の固い結び付き(正則構造(holomorphic structure))を、一つの次元を固定して他方の次元を伸び縮みさせるような変形(タイヒミュラー変形)をさせて、変形された図形がもつあらたな正則構造もとの正則構造の差異によって図形の変形を定量化する理論。

p進タイヒミュラー理論:従来のタイヒミュラー理論が複素数による構造について行っていたことをp進数という数体系に置き換えた状況で遂行する理論

宇宙際タイヒミュラー理論:2つの次元(「足し算」と「掛け算」)が一蓮托生に絡み合っている状況を正則構造として、タイヒミュラー理論と同様のことを考える理論。複数の宇宙(数学の舞台)を用意して、足し算と掛け算の正則構造という絡み合いをほぐす。異なる”宇宙”間の通信には、遠アーベル幾何学を利用する。通信ー復元で生じる不完全さ(ひずみ、不定性)は、定量的に測定する。

遠アーベル幾何学:アーベル的(=可換)な性質を持つ群は構造が簡単になる傾向があるが、それとは逆(「遠」)に十分複雑な群によって「図形」を復元する理論。異なる”宇宙”にモノ(図形)そのものを送ることはできないが、そのモノに関する情報(対称性)を送ることができるので、その対称性という情報に基づいて、受けた側でそのモノを(完全に同じではないが)復元することができる。

ホッジ・アラケロフ理論:「楕円曲線」と呼ばれるものが持つ構造を明らかにした理論。望月教授はホッジ=アラケロフ理論のある側面を数体上で大域的に実現できればABC予想が解けると考えた。

宇宙際タイヒミュラー理論の要諦:

テータリンクは、掛け算系のモノイドと、抽象的な群としての局所的なガロア群だけで構成し、その「モノイド+群」というデータから「足し算」を《復元》すること、つまり、復元しようとしたときどれくらいのひずみが発生するかを計算することが、理論のポイント」(43~44ページ)

*太字強調は当サイト

第8章(最終章)がクライマックスで、その前はそこに至るまでの準備といった印象でした。

参考 加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(角川書店)

 

2020年1月 望月氏が論文受理の遅さに対して怒りを表明

  • 未だにときどき、ネット等で、「理論の正しさはまだ確認されていない」といったような主旨の主張を目にすることがありますが、多数の研究者による、この7年半に及ぶ膨大な時間や労力による壮大な規模の検証活動の中身や重みを鑑みるに、これは甚だしい事実誤認としか言いようがありません。
  • IUTeichの論文が未だに正式に出版されていないことは大変不思議で不自然・不可解・不条理なことであり‥
  • 2012年8月、IUTeichの連続論文4編を某数学雑誌に投稿
  • 査読報告書は一回(=2016年5月=ちょうど論文の投稿から3年8ヶ月程経過した時点)しか受け取っていません。その査読報告書(英語・約5頁)は(公開するつもりはありませんが)IUTeichの連続論文を絶賛した上で、「論文の出版を非常に強く薦める」内容
  • 2017年9月に雑誌から論文の完成版(=つまり、ニュアンスとしては、「本番の出版用の最終版」)の提出を求める連絡があり、その後暫くして論文の完成版を提出しました。
  • どのような理由によって論文が事実上放置される状況が発生しているのでしょうか。
  • 誤解の数学的に出鱈目な内容に端を発した、海外の数学界のとある勢力による、私の研究に対する「激しい敵意」については、恐れを成してしまっている(=平たくいうと、「ビビってしまっている」)のでしょうか
  • 雑誌の関係者の独自の判断によるものなのか、海外の有力者の(何等かの人脈を介した)直接的な圧力によるものなのか、海外の「激しい敵意」に対して文科省官僚や大学の行政関係者が「忖度」をして雑誌に掛けた圧力によるものなのか、無数の可能性が頭が浮かびます

(転載元: 宇宙際タイヒミューラー理論(IUTeich)の論文を巡る現状報告: 「数学界に出現している悲惨なブラックホールの物語」2020.01.05 新一の「心の一票」)*太字強調は当サイト

2020年1月 望月氏が宇宙際タイヒミュラー理論の論文が誤解されているポイントを解説

上と同じブログ記事(2020.01.05)では、誤解の元凶についても解説がありました。

2019年の夏頃までは個別の誤解への対応が済んでいても、それらの誤解の発生の仕組みはまだ謎のままでした。2019年の夏頃になって誤解学上の大きな決定的な進展として、数々の個別の誤解=「症状」を発生する大元の「ウィルス・病原菌」のような誤解 を特定することができました。この「大元誤解の特定」は私のこれまでの誤解学の研究の中でも非常に決定的な、大きな進歩になりました。 さて、以下では、この大元誤解の内容について詳しく解説してみたいと思います。

(転載元: 宇宙際タイヒミューラー理論(IUTeich)の論文を巡る現状報告: 「数学界に出現している悲惨なブラックホールの物語」2020.01.05 新一の「心の一票」)*太字強調は当サイト

2020年4月 宇宙際タイヒミュラー理論の論文がアクセプトされる

望月新一氏の宇宙際タイヒミュラー理論に関する論文は、自身が所属する京都大学数理解析研究所が発行していて、自分自身がチーフエディターを務めている「Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences (RIMS)」というジャーナルに受理されました。

  1. Inter-universal Teichmuller Theory I: Construction of Hodge Theaters. PDF 
  2. Inter-universal Teichmuller Theory II: Hodge-Arakelov-theoretic Evaluation. PDF
  3. Inter-universal Teichmuller Theory III: Canonical Splittings of the Log-theta-lattice. PDF
  4. Inter-universal Teichmuller Theory IV: Log-volume Computations and Set-theoretic Foundations. PDF

自分がチーフエディターをやっているジャーナルが審査して公正さが保証されるのかという疑問が生じます。そのため、この論文の査読過程には望月新一氏は一切関与していないということを雑誌側がわざわざ説明しているそうです。

難問ABC予想 京大教授が証明|04月03日 京都府のニュース 2020/04/09 我不是台獨貓嗎?あむばるわりあAmbarvalia

  1. Mathematical proof that rocked number theory will be published But some experts say author Shinichi Mochizuki failed to fix fatal flaw in solution of major arithmetic problem. Davide Castelvecchi nature.com 03 April 2020

査読に8年

2012年にプレプリントが公開されているので、その時点で投稿したのだと思いますが、雑誌に受理されて公開されたのが2020年なので、なんと査読に8年もかかったことになります。

  1. 未解明だった数学の超難問「ABC予想」を証明 京大の望月教授 斬新・難解で査読に8年  毎日新聞 2020/4/3 未解明だった数学の超難問「ABC予想」を証明したとする望月新一・京都大数理解析研究所教授(51)の論文が、同所が編集する数学専門誌に掲載されることが決まった。3日、京大が発表した。ABC予想は、素因数分解と足し算・かけ算との関係性を示す命題のこと。4編計646ページからなる論文は、斬新さと難解さから査読(論文の内容チェック)に8年かかったが、その正しさが認められることになった。

受理された論文への批判・懐疑

重要な論文が望月氏に近い雑誌で審査されたのは驚きだ」(ABC予想を提唱したジョゼフ・オステルレ仏ソルボンヌ大名誉教授)

証明の疑問点は明らかなのに出版された論文でも解消できていない。納得できる説明をしてほしい」(フィールズ賞受賞者のピーター・ショルツ独ボン大教授)

ABC予想「証明に疑問点」指摘も 出版後も割れる評価 2021年7月27日 石倉徹也 朝日新聞 有料会員記事)

((もし読んだのであれば、)あなた方が特に問題だとしていた論文の「系 3.12」についての議論は、改善されていましたか?)

No. (いいえ。)

(引用元:Peter Scholze さんからのコメント 2021/03/08 月 21:01  tar0log.tumblr.com)

2022年3月 望月氏が宇宙際タイヒミュラー理論論文の読み方を解説

この論文において望月氏は、宇宙際タイヒミュラー理論が間違っていると主張する人々は単純化しすぎていると注意しています。

Unfortunately, it has been brought to my attention that, despite the developments discussed in §1.1, fundamental misunderstandings concerning the mathematical content of inter-universal Teichmuller theory persist in certain sectors of the mathematical community. These misunderstandings center around a certain oversimplification — which is patently flawed, i.e., leads to an immediate contradiction — of inter-universal Teichmuller theory. This oversimplified version of interuniversal Teichmuller theory is based on assertions of redundancy concerning various multiple copies of certain mathematical objects that appear in interuniversal Teichmuller theory.

(引用元:Shinichi Mochizuki March 2022)

  1. ON THE ESSENTIAL LOGICAL STRUCTURE OF INTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY IN TERMS OF LOGICAL AND “∧”/LOGICAL OR “∨” RELATIONS: REPORT ON THE OCCASION OF THE PUBLICATION OF THE FOUR MAIN PAPERS ON INTER-UNIVERSAL TEICHMULLER THEORY Shinichi Mochizuki March 2022

2022年4月10日  NHKスぺシャル放映

  1. 数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語(前編)
  2. 数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語(後編)

下のブログ(Peter Woit氏のNot Even Wrong)では、望月氏の論文に関してはPeter Scholze氏とJacob Stix氏が欠陥を指摘しており、それに対して適切な説明が望月氏からも論文を掲載したジャーナルエディターからもなされていないので、「ABC予想は証明されていない」というのが現在の数学界の認識であると説明しています。

  • In case the documentary doesn’t make this clear, the current consensus of experts in the field is that there is no proof. Peter Scholze and Jacob Stix identified a problem with Mochizuki’s proof in 2018 (discussed in detail by Scholze and othershere), and Mochizuki has not provided a convincing answer to their objections. No one else (including the journal editors who published the proof in PRIMS) has been able to provide a clear explanation of the problematic part of the proof.
  • Taylor Dupuy is stillmaking implausible claimsthat Scholze’s criticism of the proof is invalid. To judge for yourself, seeherea long detailed discussion of the issue between them involving several other experts.

(引用元:ABC on NHK Posted on April 9, 2022 by woit)太字強調は当サイト

 

インターネット掲示板での望月氏の成果に関する議論

mathoverflow.net

  1. Philosophy behind Mochizuki’s work on the ABC conjecture

math.stackexchange.com/

  1. ABC conjecture Proof “Why is Shinichi Mochizuki’s proof on the conjecture still not accepted? It has been 6 years, surely there must be some approval or disapproval regarding his proof?”

reddit

  1. What is the status on Shinichi Mochizukis abc conjecture proof?

5ちゃんねる(旧称 2ちゃんねる)

  1. Inter-universal geometry と ABC予想 (応援スレ) 65 343コメント229KB 2月12日〜4月17日

 

参考

  1. 新一の「心の一票」
  2. 望月新一の論文(kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/)
  3. 宇宙際タイヒミューラー理論の拡がり(kurims.kyoto-u.ac.jp/~motizuki/)
  4. 京都大学数理解析研究所
  5. IVAN FESENKO https://ivanfesenko.org/

2020年ノーベル化学賞は誰に?

2020年10月5日にノーベル医学生理学賞、6日にノーベル物理学賞が発表されました。7日にはノーベル化学賞が発表されます。

2020年ノーベル化学賞受賞者予想サイト

ケムステさんが化学の各領域ごとに候補者を挙げています。かなり網羅的で、自分は化学のことはまったくわからないのですが、CRISPR/Cas9に関して化学でノーベル賞が出てもおかしくないかなと思いました。しかし3人に絞るのはかなり難しそう。どの3人を選んでも批判を浴びそうです。

ゲノム編集技術CRISPR/Cas9の開発: Jennifer A. Doudna(ジェニファー・ダウドナ)、 Emmanuel Charpentier(エマニュエル・シャルパンティエ)、Feng Zhang(フェン・チャン)、Yoshizumi Ishino(石野 良純)、George M. Church (ジョージ・チャーチ)、Virginijus Šikšnys(ヴィルジニュス・シクシュニス)

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2020年版】2020/9/30 より

特許論争の行方はともかくとして、ノーベル賞はやはり最初の発見者が栄誉に浴すべきだと思います。

関連記事:ゲノム編集技術CRISPR/Cas9の原理とその発見から応用までの歴史

  1. クラリベイトがノーベル賞有力候補24名を発表、日本からは2名が選出 2020/09/23 18:08 著者:小林行雄 マイナビニュース 藤田誠氏 自然界に学ぶ自己組織化物質創成と超分子化学への貢献に対して

早石修 (1920年1月8日-2015年12月17日)

目の前にあるのに見えていない…でもそれが何かの拍子に見える。一回見え出すと、どんどん見えてくる。そういうもんなんですね。研究というものは。いろんな事が発見される時、それまで誰もが見てたんですが、見とって見えていない…ボヤっと見ているからね。事実はそこにチャントあるんですが、ボヤっと 見とると解らない。だけど、ちゃんと焦点を当ててみると初めて見えてくるし、それが如何に大事なものかが解って、それにまつわるいろんな事が見えてくる。見えてたけれど認識できてなかった。それに気がつくということが研究ですから、実際「鈍」じゃないとアカンのです。あんまり賢いと…何でも自分で解った気になってしまうからね。教科書読んで納得してしまったら、それで終いでしょ。何ら新しい発見に繋がらない。研究の本質 早石修)

参考

  1. われら六稜人【第26回】科学を志す人のために 早石 修 INDEX 第1研究室:    恩師に学んだ教育の姿勢 第2研究室:    大学の選び方… 第3研究室:    握り飯より柿の種? 第4研究室:    焼跡で始めた生涯の研究 第5研究室:    WHATではなくてHOW 第6研究室:    ランチセミナールの効用 第7研究室:    研究は探偵小説?! 第8研究室:    睡眠に賭けた第二の人生 第9研究室:    研究の本質 第10研究室:    研究者の向き/不向き
  2. Osamu Hayaishi: Pioneer First of the Oxygenases, then the Molecular Basis of Sleep and Throughout a Great Statesman of Science (Arthur Kornberg IUBMB Life, 58(5-6):253, May-June 2006)
  3. Osamu Hayaishi—from the discovery of oxygenases in soil microorganisms to unraveling the enigma of sleep in mammals (Michael Lazarusa, Zhi-Li Huangb & Yoshihiro Uradea. Temperature Volume 2, Issue 3, 2015  DOI:10.1080/23328940.2015.1072658)
  4. Pioneering the Field of Oxygenases through the Study of Tryptophan Metabolism: the Work of Osamu Hayaishi. Studies on Oxygenases. Enzymatic Formation of Kynurenine from Tryptophan (Hayaishi, O., Rothberg, S., Mehler, A. H., and Saito, Y. (1957) J. Biol. Chem.229,889–896)
  5. 睡眠の謎に挑む 早石修先生インタビュー 2012年
  6. 京大名誉教授の早石修さん死去 「酸素添加酵素」を発見 (朝日新聞DIGITAL 2015年12月19日):”体の中で重要な働きをしている「酸素添加酵素」の発見などで世界的に知られる京都大名誉教授で、文化勲章受章者の早石修(はやいし・おさむ)さんが17日、死去した。95歳だった。”
  7. 早石教授時代[昭和33(1958)年3月22日~昭和 58(1983)年4月1日]:”昭和33(1958)年3月に,早石 修は9年余の滞米研究生活ののちに,酸素添加酵素の発見という輝かしい研究業績を携えて,京都大学医学部医化学講座の教授として帰国した。”

【追悼】笹井芳樹博士(1962- 2014)

笹井芳樹氏の業績や人柄を偲ぶ追悼文がNature, Development, Cell Stem Cellなどの学術誌に寄稿されています。

“.. Yoshiki struck me as a happy scientist. He spoke softly and with a unique smile as he described Japanese traditions or revealed his astonishing findings. .. Sasai was a master at deciphering the code by which cells learn their place in a developing embryo. .. Yoshiki Sasai (1962–2014):Stem-cell biologist who decoded signals in embryos. Arturo Alvarez-Buylla. Nature 513,34 (04 September 2014) doi:10.1038/513034a

“.. Yoshiki had an unmatched ability to decipher the embryo—specifically, to uncover how this developmental marvel generates the extraordinary diversity of cell types that become organized into unique structures, like the pituitary gland, the brain, or the eye. .. “ Obituary Yoshiki Sasai (1962–2014). Arnold R. Kriegsteinemail DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2014.08.007 Cell Stem Cell Volume 15, Issue 3, p265–266, 4 September 2014

“.. Yoshiki had a unique ability to see things clearly while others
were left wandering in the dark. .. “ OBITUARY Yoshiki Sasai: stem cell Sensei
Stefano Piccolo Development (2014) 141, 1-2 doi:10.1242/dev.116509

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)も笹井氏の業績を詳細に解説した追悼サイトを公開しました。

芳樹博士を偲んで (http://www.cdb.riken.jp/jp/10_otr/1001_index.html)