Category Archives: 研究者のキャリアパス

【研究者の適性】自分が研究に向いている人かを知る30の質問

研究に向いている人ってどんな人なのかは、研究者という職業に興味がある学生が知りたいことだろうと思います。

ノーベル賞取った人の半生記の話を聞いたり読んだりして、「よし、俺も!」と思える人は向いていると思います。自分は一生かけてこれを究明したいと思えるものがすでにある人も向いているでしょう。ただ、研究テーマは、実際に研究を始めてみてだんだん絞れていくものかもしれません。利根川博士の話を聴くと、分子生物学という武器を手に入れてその武器を最大限生かせる面白い領域(免疫学、ついで、脳科学)に飛び込んでいったように見えます。

  1. 利根川進博士のぶっちゃけ話:研究者として成功できた理由および成功戦略

研究者の適性がない人が博士課程に進学してしまうと大変です。しかし、適性があっても指導教官に恵まれないと、やはり大変なことになります。逆に良い指導教官に恵まれると、自分で思った以上に伸びるもいることでしょう。大学院生と教授との相性の問題、コミュニケーションスキルの問題というものは常に存在します。本人の能力や性向だけでなく、そういったことも含めて、一体、プロの研究者になるために必要な素養とは、どんなものなのかを考えていきたいと思います。

研究の適性と学校の勉強とが無関係な理由

高校や大学時代の学業成績の良し悪しと、研究者としての向き不向きとはあまり関係がありません。なぜなら、学校のテストでは、必ず正解がある問題他人から与えられ、数十分間のうちに自分の頭だけを使ってそれを解いて解答用紙に書き記すことができるかどうかが試されるのに対して、研究においては、正解があるかどうかすらわからない問題自分で考えついて、数か月から数年間にもわたる他の研究者と協同した取り組みによりそれを明らかにし、さらに論文として発表する能力が求められるからです。両者では、頭の使い方が全く違うため、学校の勉強ができた人が研究もできるとは限らないのです。もちろん、ある程度の基礎学力があることは前提となります。専門分野の知識に加えて、論文を書くための英語運用能力も必要です。

大学時代の成績は本当に悪かった」という。当時、落第点をつけた旧制高校の物理学の教授が「小柴は大学で物理に行かないことだけは確かだろう」と話すのを聞き、発奮した。(引用元:小柴昌俊さん死去 科学発展の名伯楽 会員限定有料記事 2020年11月14日 東京朝刊 毎日新聞

東大の物理学科はビリに近い成績で出ました。… ただし留学した米ロチェスター大学では研究漬けの生活を送り、1年8カ月で博士号が取れました。(東洋経済)

  • 1944年3月 神奈川県立横須賀中学校(現・横須賀高等学校)卒業
  • 1945年4月 旧制第一高等学校(現・東京大学教養学部)入学
  • 1948年4月 東京大学理学部物理学科入学 1951年3月 同卒業
  • 1951年4月 東京大学大学院理学系研究科入学(修士)
  • 1953年9月 米国ロチェスター大留学1955年6月Ph.D.

(参考:小柴昌俊 ウィキペディア

  1. たった11個の「ニュートリノ」で人類は宇宙に近づいた 村山斉 幻冬舎plus
  2. 小柴 昌俊『物理屋になりたかったんだよ―ノーベル物理学賞への軌跡』 (朝日選書)  2002/12/1  (朝日新聞出版)

自分は大学院に進むべきか?

学部学生が大学院に進学すべきか否かを悩んでいる場合には、下の動画が参考になります。大学院進学に関して、かなり基本的な部分を語っています。博士課程進学というテーマの動画ですが、学部学生が修士課程にいくべきか悩んでいる場合にも参考になるでしょう。修士号や博士号の取りやすさは、行く大学院の規定や研究室の教授の考え方によってかなり大きな開きがあることも念頭に入れる必要があります。

博士に向かない人の特徴3選 もろぴー有機化学・研究ちゃんねる

上の動画でも解説されていましたが、「修士号は努力賞」という言い方を聞くことがあります。これはネガティブデータしか出なくて論文発表できなくても、大学院に提出する修士論文が書けさえすれば修士号は出しましょうという意味です。博士号に関しては、ピアレビューの学術誌への英文論文掲載が要求されるのが普通です。ただし、和文論文を認めるか、論文掲載が学位論文提出より遅れることを認めるかなどは、大学院、学部によってルールが異なります。上の動画の3つ目の話(3:45-)は、「そういう考え方の人が世の中にいるのか?」と自分が思ってもみなかった新鮮な話題でした。

大学院での挫折感

  1. 研究の才能がないと悩む理系学生を一刀両断! もろぴー有機化学・研究ちゃんねる チャンネル登録者数 3.85万人

上の動画では、周りが優秀すぎて自分はダメかもと思う大学院生に対するアドバイスがありました。上を目指してよりレベルの高い(より優秀の人が集まる)場所に行けばいくほど、自分のできなさに気づく(気づける)可能性があります。

  1. コンプレックスの克服法、劣等感の塊をなくす方法

 

キャリアアップ戦略

「鶏口と為るも、牛後と為る無かれ」という言葉がありますが、研究のキャリア形成の時期に関していえば逆で、鶏口になることは選ばず、牛後となることがまず第一で、そこで努力して牛口になって、さらにステップアップして次のステージで「牛後」になってそこでまた「牛口」を目指すということを繰り返すのがいいのではないかと思います。「牛後と為りて、牛口と為る」ステップを繰り返すわけです。

  • ノーベル賞を受賞する確率は10の7乗分の1だが、これを1、000万分の1ということではなく、10分の1を7回掛けた数と考えてはどうだろう。
  • 小学校のクラスで2、3番になったとする。30-40人、あるいは40-50人のうちの2、3番ならその段階で10分の1だ。
  • 湘南高校に入った。今は知らないが、当時は成績のよい生徒が集まる高校だった。ちょっと入るときに苦労したが(笑い)。そこでもう1桁バーをクリアしたと考えてもいいかもしれない。
  • 大学に入ったら、またバーを1つクリアできた、と。
  • フルブライト全額支給生の競争率は50-100倍。‥ そのバーをくぐり抜け、米国に行った。これは私の人生で非常に大きな、本当に大きな転換期になったと思う。その段階でノーベル賞受賞の確率も、10の何乗分の1かに上がっただろうか。
  • ペンシルベニア大学に行った。そこで私は大学院レベルの、あるいはプロとして必要な化学を有機化学も含め基礎からそっくり教えてもらった。‥ 本当に真剣になってやった。8回すべて連続してexcellent(優秀)というマークをとることができた。
  • これなら自分ももうちょっとこの分野にのめり込んでいいのではないか。企業から学問、学界の方に少し進路を変えてみよう」。そんな気持ちになった。
  • ブラウン先生の門をたたいて、ブラウン先生に受け入れてもらえた段階で、恐らくノーベル賞受賞の確率は100分の1か1,000分1ぐらいのところまで上って来ていたのではないかと思う。
  • 雲の上、あるいはET(地球外生物)のような存在と思われたノーベル賞受賞者が、ひょこひょこと次々にペンシルベニア大学に来るわけで、自分も努力をしたらひょっとして、という程度の夢は持ち始めた。
  • その夢を追い、幾つかゲートをくぐり、階段を上っていった先に今の私がある
  • まず自分が好きなことは何なのか、その次にその好きなことを自分はよくできるかどうか、自分の資質をある程度客観的に見てみることだ。その2つがクリアできれば、とことんそこにのめり込んでいく大きな夢を持つことも大事だ。夢は大きければ大きいほどいい。高ければ高いほどいい。そしてその夢を追い続けること。

夢を追い続けて 第1回「フルブライト留学が大きな転機」(根岸英一 氏 / パデュー大学 特別教授、2010年ノーベル化学賞受賞者) 2010.12.03 根岸英一 氏 / パデュー大学 特別教授、2010年ノーベル化学賞受賞者 Science Portal)

  1. 湘南高等学校 全日制 > 進路  確かな進路実現 ほぼ100%の生徒が、大学へ進学します。詳しい進路状況(PDF)

さて、博士課程まで進学してそのあとアカデミックキャリアを目指さないという生き方ももちろんあるわけですが、ここでは、博士号を取得して、研究者として生きる人生について考えてみたいと思います。プロの研究者になるために絶対に必要な素養とは、何でしょうか?どういう人が研究者として生き残るのでしょうか?進路を迷っている人向けの、ネット上の参考になりそうなアドバイスをまとめて、条件全30項目チェックリストを独断と偏見によりつくりました。

研究に基礎学力や才能が必要なのは当然だと思います。しかし、それだけだと足りない。

あなたは研究者として生き残れるか:研究者の適性診断30項目

1.運がいいか?

大学教員のキャリアというのは非常に強く運に左右されます.そもそもポストが空いていないところには着任しようがないわけで,「私講師や研究所助手が他日正教授や研究所幹部となるためには,ただ僥倖を待つほかはない(中略)これほど偶然によって左右される職歴はほかにないであろう.」とマックス・ウェーバーが述べたとおりです. https://mond.how/topics/u104fw6pkr27nco

成功した理由を聞かれたとき、「自分は運が良かった」と多くの人が言います。

松下幸之助氏は社員面接の最後に必ず「あなたは運がいいですか?」と質問したという。

そこで「運が悪いです」と答えた人は、どれだけ学歴や面接結果が良くても不採用にした  (運が良い人、悪い人~松下幸之助が問いかけた「運」の意味  10mtv.jp)

「運」というと、なんともとらえどころがないもののように思えますが、桜井章一『ツキの正体 運を引き寄せる技術』(幻冬舎)という本に、運に関する解説があり、なるほどと思ったので少し紹介します。

  • には大別して3種類あります。
  • 天から授かる「天運」。これは、何の理由もなく、降って湧いたように訪れる運です。
  • 同じように人を選ばないのが「地運」であり、これは場所につく運です。
  • 天運、地運という、いわば「自然」から与えられる運に対して、人が作り出す運があり、これが3つ目のの運、「人運」です。
  • つくかつかないかは、実は人運によるところが大きいのです。
  • ついていないと嘆いている人の周りにも、よく見ればツキは漂っているのです。問題は、それを感じられるかどうか、そして、きっちり摑まえることができるかどうか。

(桜井章一『ツキの正体 運を引き寄せる技術』幻冬舎新書 2010年5月30日 15~18ページ)

運を3つに分ける考え方はしっくりきました。宝くじに当たったり、交通事故にあったり、病気になったりするのは「天運」であり、自分にはどうしようもないことなので、それよりも「人運」を上げることを心がけたほうがいいのでしょう。地運というのは、よく言う”in the right place at the right time”でしょうか。

 

研究者のキャリアにおける運と言った場合、自分を引っ張り上げてくれる人に恵まれる運の良さと、偶然何か大きな発見をするという運の良さと、2種類あるのではないかと思います。

人との繋がりにおける運

「運」と聞いてがっかりした人が多かったかもしれませんが、「運を上げる方法」は、↓下の ブログでも解説されていました。非常に興味深い内容だと思います。運という捉えどころのないものの本質が何なのかが理解できます。自分は運が悪いと思っている人にお勧め。

同じようにやっても大学教員に成れる場合もあれば、なれない場合もあります。結局、決定的な要因は運なのです。…

運が巡ってくる確率を上げる方法はあります(どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室 ブログ)

運は人から与えてもらう以外、得る方法はない。ー アイン・ランド(マーク・マイヤーズ『運をつかむ人 16の習慣』三笠書房)

Talent alone is helpless today. Any success requires both talent and luck. And the “luck” has to be helped along and provided by someone. (Ayn Rand)

(quotefancy.com)

あなたがとことん追求した結果が、 単に独りよがりではなく、時空を越えて、誰かに共感され、評価され、貢献をすること。

もうだめだと思った時に、「こいつを埋もれさせるのは惜しい」と思う誰かに救われること。

この人生の賭に勝ち抜き、生き残ること。こうなれば、あなたは学者――教授と限らない――になれるのである。 (エッセイ あなたは学者に向いているかPDF 東京大学 松田研究室)

生まれつきの大天才は別として、ほとんどの人は偶然や運やめぐり合いによって、人生が大きく展開していく。

私たちは、無意識のうちにさまざまな選択をしながら日々行動しているわけだが、その選択・行動パターンによって、運や偶然をつかむ人とそうでない人がいる。

その人が磨いてきた能力に加えて「正しいときに正しい場所にいる」ことが重要で、それは突き詰めて言えば、誰かの心に印象を残し、大切なときにその誰かから誘われる力なのである。 (梅田望夫 著『ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか』/ 「正しいときに正しい場所にいる」幸運にめぐりあう答えは現場にあり!技術屋日記)

科学研究において発見をするための運

研究者として生き残るためには、研究においてそれなりの発見をしたり、何かを成し遂げる必要があります。それが出世作の論文となり安定したポジションを得られるというのが1つの典型的な生き残り方法です。

le hasard ne favorise que les esprits préparés ー Louis Pasteur (引用元:ウィキペディア

chance favors only prepared minds (グーグル翻訳)

幸運は、準備していた者にしか訪れない ー ルイ・パスツール

It was a matter of good luck to have been in the right place at the right time, trying to do the right thing, first alone, and then with the right students and collaborators. (クルト・ヴュートリッヒ 2002年ノーベル化学賞受賞  peerj.com)

Everybody in science works very, very hard, and everyone makes important contributions, and you’ve got to be lucky to make a contribution that also has a medical or clinical impact.

In some sense that’s the skill of choosing, and in another sense that’s the luck of being at the right place at the right time. I’ve always felt that I’ve been at the right place at the right time. (Arnold Levine がん抑制遺伝子p53の発見者 rockefeller.edu

17万光年離れたところに存在する銀河、大マゼラン星雲の中で起きた超新星爆発により発生したニュートリノを検出したことにより2002年ノーベル物理学賞を受賞した小柴博士は、運がよかっただけではという言われ方をされたときには、こう言い返したそうです。

あのニュートリノは地球上の60億の人たちみんなに降り注いだんだ。それを見つけられたのはちゃんとその準備をしていたからだ(小柴 昌俊)(引用元:NIPPON STEEL MONTHLY 2007

大谷選手も夢を達成するための「運」の必要性を高校時代に認識していたようです。

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2.褒められるのが嬉しいからという理由で道を選ぼうとしてはいないか?

子供の頃からもともと勉強が得意で、しかも親や周りが褒めてくれるのが嬉しかったからという理由で研究者への道に進もうとしている人は、一度立ち止まって自分自身に問い直したほうが良いでしょう。

勉強を頑張ると親とか先生に褒めてもらえたり、同級生から「すごいねー」と認めてもらえたりするので、中学・高校の時は嬉々として勉強していました。もう、テストで点数を取るのが楽しくて仕方がありませんでした。大学に合格してからも、最初の学期はせっせと出席して、真面目にレポートを書き、AやAAを集めていました。ところが、良い成績をとっても、もう誰も褒めてくれる人がいないことに気づきます。(承認欲求は強すぎると自分も周りも疲れる。|承認欲求との付き合い方 2019年6月21日 UTENA BLOG)

Q:承認欲求が研究の第一のモチベーションになっていないか? MESSAGE→他人からどう思われるかではなく、自分が自分の研究をどう思うかが大切。(『なぜあなたの研究は進まないのか』 佐藤雅昭 著 メディカルレビュー社

価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない。その表現の仕方が研究だろうと、スピーチだろうと、絵画だろうと、価値の判断基準は常に自分の内部にあり、その基準に基づいて自分の考えや思いを外に問うのが表現だ。 …

君がもし表現者になりたいのだとしたら、精神的な背骨を手に入れる必要がある。それはどんなものでも良い。私が君をどう思うかではなく、君が君をどう思うかそれが重要だ。(価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない  発声練習)

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3.大学までの勉強と、大学院における研究との違いを理解できているか?

教科書から学ぶ立場だったのが、教科書に新たな1行を書き足す立場にまわるのだという自覚が、まず必要です。

下の動画は、必見です!研究に向く人向かない人が、とてもわかりやすくまとめられています。

須藤 靖「科学の役割と物理学的世界観」(2017年度学術俯瞰講義「物質のはじまりとはたらき ―フェムト、ナノ、エクサの世界」第1回) 2020/04/14  OCW UTokyo

難しいのは、勉強の出来る優等生への指導ですね。彼らは勉強と研究を混同してしまいがちなので。知識が豊富なせいか、新奇性の高い研究には後ろ向きになってしまうようです。

「今の研究テーマをデータベースで検索したら、ほとんどヒットしませんでした」と不安そうに訴えてくることも。ほとんどジョークのような話なのですが、本人は至って真剣。先人達が切り開いた道をなぞるのが「勉強」で、新しい道を切り開くのが「研究」だと言ってもすぐにはピンときてくれない。(【特別鼎談】博士後期課程から社会へ -三者の歩んだ奇跡ー Part 2 博士の選択

優秀な学生でも、しっかり訓練されたサルと変わらないやつがあまりに多すぎる。教わったことはなんでも知っている。ーーーだがそれだけなのだ。(数学者ショレム・マンデルブロ Szolem Mandelbrojt 1899~1983 ベノワ・B・マンデルブロの叔父)

(引用元:参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 239ページ)

どんな真理も、ひとたび発見されてしまえば理解するのは簡単だ。問題は、発見できるかどうかである。(ガリレオ・ガリレイ)

All truths are easy to understand once they are discovered; the point is to discover them. Galileo Galilei

Tutte le verità sono facili da capire una volta che sono state rivelate. Il difficile è scoprirle. Galileo Galilei

長い間学校教育を受けていると、すべてのことに、正解があるのだというような錯覚におちいるのは、収斂能力だけを磨かれているからである。そういう頭で、満点の答えのない問題に立ち向かうと、手も足も出なくなってしまう。自分の考えを打ち出すことはできないが、教えてもらった知識を、必要に応じて整理するのは巧みであるという学習者が優等生として尊重される。グライダー人間である。(外山滋比古『思考の生理学』ちくま文庫1986年 p207 拡散と収斂)

「研究をする」ということは,どういうことだか知っていますか? 今までやってきた(使ってきた)「勉強する」とは,どこが違うのでしょう。

大学院は,主に研究をする場所ですので,これに対して答えられないのならば進学はやめておいたほうが無難です。なぜなら,入学した早々から,「私は何をすればいいの」というドツボにはまってしまう可能性が高いからです

(大学院のことなど 院希望者,院生へのお説教 nanzan-u.ac.jp/~urakami

3年生までの学生実験は、テキストがあり、そのテキスト通りに実験をすれば、事前に確かめてある実験結果が得られる訳ですが、研究室での実験は全く異なります。

うまく行くか、どうかわからない実験をするのです。むしろ、大半が失敗する実験です。研究を進める上での目標があり、その目標に向かって試行錯誤するのですから、失敗して当然(目標が達成できないことが、ほとんど)であり、どれだけ手を動かして、どうすれば目標を達成するのか考え抜いていくのです。

実験が失敗に終わってショックを受けている学生に言いたいことといえば、ショックに浸っている暇はないこと、次の考え抜いた実験がうまくいくと信じきれる事、それを失敗しても、次から次へとアイデアを生み出すこと、こんな環境が、理系の研究室だと思います。(日本大学文理学部物理学科研究室 十代研究室ウェブページ

自分は過去の天才たちが考えた過程をトレースするのが好きなだけで 誰も知らないことを追求するのには向いていないんだと思う。 (僕は中学受験の頃から算数が好きだった  はてな匿名ダイアリー)

論文や資料を見て、他にも同じような製品の研究をしている奴がいたといって安心しているようではダメなのだ。他にもいるということは、とりもなおさず独創性にかけるということなのである。それよりもむしろ、誰もとりかかっている者がいない、自分一人がやっているようだという認識に立った時、むしろそれを誇りに思うべきなのだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 p26)

勉強は「既にわかっていることを勉強する」ことで,一方,研究は「まだわかっていないことを研究する」ことです.このことは何を意味するかというと,勉強ができない,嫌いだからと言って研究者になる道を諦める必要はなく,逆に,勉強ができるからと言って優秀な研究者になれるとは限らない,ということです.(勉強と研究 似て非なるもの 境有紀のホームページ)

数学オリンピックで金メダルを獲得しても、数学の研究における成功が約束されているわけではないと、先述したハーバード大学のマクマレンは言う。「こうしたコンテストでは、すでに誰かが巧妙な解決法をもっている問題を入念につくりあげている。だが、研究においては、問題に対して解が存在するとは限らない」。(とびきりの想像力が、女性初のフィールズ賞数学者を生んだ:マリアム・ミルザハニ WIRED)

研究者からみれば、学部生までは勉強にすぎなくて、大学院ではじめて研究に触れるー未解決問題の問題解決能力をトレーニングするーのだということがあまり知られていないですね。だからこそ博士の教育はすごく大事で、一般的価値があるのだという認識も広まってほしいです。@masahirono

実際にアカデミアで成功する人は”下克上を生き残る戦国武将” or ”金儲けの達人”といった過酷な競争を生き残れる能力者です。つまり、どこに研究の種があり、どのタイミングで飛びつくかを虎視眈々と狙っている感じ。…この才能には学歴はほとんど関係ありません。例えば、成功した起業家に学歴を問うのはナンセンスなのと同じです。(研究者としての適性  ぽろっ all or something)

「問題解決力」という言葉からは、「問題はどこかから・誰かから与えられる、それを解決する」というような意識を感じます。おそらく、大学受験、大学院受験までは、そういう能力を鍛えるように訓練されているのだと思います。でも、大学院以降は、一流の研究者になるためにも、博士号取得者として違うキャリアパスを目指す場合も、「<問い>を立てる力」つまり「問題発掘力」や「問題設定力」が重要なように思います。(価値ある博士号取得者に必要なのは「問題解決力」以上  大隅典子の仙台通信)

研究者としては、実際に計算したりする能力よりも、新しい問題を見つけ出す能力、つまり企画力が重要になることが多いのです。素粒子論研究室に興味がある人の為の良くある質問集 hokudai.ac.jp

一般的な意味では優秀と呼ばれるような人たちが研究生活をドロップアウトしていく理由…

それは、こうした人々が「答えのない問い」に対して非常にアレルギーというか、苦手意識をもっているのではないかということです。…

答えのない世界というのは例えば、いま自分が解こうとしている問いにそもそも適切な答えがないかもしれないという可能性を排除できないまま、何年にもわたって実験を繰り返していくということだったりするのですね。…

本来科学者とは、こうしたことに対してむしろワクワク感とか知的な興奮を味わう種類の人種であって、はなっからやり方がわかっているようなことなどには見向きもしないという性質をもっている人たちなのです。…

答えのない問いに対して魅力を感じるかどうかというのが、研究の向き不向きを決めるリトマス紙になるというのが私の考えです。(研究に向く人と向かない人を見分けるためのたった一つの質問  ポスドク転職物語)

卒論と修論で先生の言うとおりにしかできない人なら、研究者としての能力は無いと判断できます。先生に言われなくても研究をどんどん進められる、或いは言われたこと以上の成果を出せる、というような能力が無ければ研究者としてはやって行けません。(研究者の向き不向き 発言小町)

博士課程はもともと『教育制度』ではありません。ここにはいれば指導教授にしかるべき教育を受け、『卒論として博士論文を書き、これがパスして博士の学位をもらえる』という『教育の仕上げ』ではもはやありません。 ここでは基本的に自分で研究して(当たり前!)、独創性豊かな研究成果を上げるのです。(2015-07-12 大槻義彦の叫び

研究者の能力は、1つの研究テーマをまとめて論文にしてはじめて評価できます。1つ2つ実験をしてうまくできる、できないは研究者の能力とは言えません。本当に研究者としての能力を見たいなら、最低自分で論文を書くところまでして考えましょう。(九州大学 釣本先生の進路相談室)

どのような方法で解答にたどり着くことが出来るのか,そもそも解答は存在するのかさえも分からない問題にアタックするのが「研究」です。だから,「先生はきっと解答を知っているのだろうから,困ったときは先生に相談して,教えてもらおう」というメンタリティーでは,研究者には絶対になれません。 (小川研究室のアドミッションポリシー)

学生実験は「上手くいくのが普通」、研究は「上手くいかないのが普通」。つまり、毎日毎日、朝から晩まで、失敗を重ね続けることになる。当然、失敗を糧に して改良・改善をするけどね、そう簡単にはいかない。マジで精神的に参ってしまうのでは、と思ってしまう。このプロセスに馴染めない学生は、研究をやるのに向いていない。(成績は優秀だが「研究に向いていない」学生のタイプ  JCAST 会社ウォッチ

博士に必要なことは未解決の課題に挑戦して、失敗を重ねるうちにこうすれば良いという解決方法を見つけることです。それを論文にして発表させる、というのが私の教育法でした。博士は失敗の連続に耐えられる強さを持っていないといけません。研究は失敗するのが当たり前だからです。 (「大学はもっと元気を 政府に言うべきことはきちんと」第2回「博士の育成・就職は教授の責任」元総合科学技術会議議員、元東北大学総長 阿部博之 氏 JST Science Portalインタビュー )

他人の数学がよくわかるという能力と、自分の数学が創れるという能力は、あまり相関が大きくないようである。 …

学校で教わった流儀ではどうしてもわからなかったので、自分流にわかるように務めたら、このような仕事ができたといわれる大数学者は少なくない。(小松彦三郎 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 139ページ)

臨床のお医者さんは、ある程度知識が揃っていないとダメなんですが、研究者というのは必ずしも全部の知識が必要ではない。生化学者だって、生化学の教科書を全部知っている人は何人もいないでしょ。1ページか2ページ知っていればそれでいい。(早石 修 第10研究室 研究者の向き/不向き われら六稜人【第26回】科学を志す人のために )

たとえば半導体の開発をしている時、物理畑の人から見ればとても迂遠なやり方をしていると思われたとしても、それを何とも思わなかったということだ。かえって専門知識がない方がうまくいく場合だってあるのだ。 … 

普通なら専門家に馬鹿にされるようなことでも、私は平気でやれた。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 pp31-32)

幸いなことに私には常識などというものがなかった。だから、別に量子力学など学ばなくても、半導体は理解できると考えていたのである。それはどういうことかというと、要は、量子力学に代わる別の「言語」でもって物の性質を理解してやればいいということだ。

では、別の「言語」とはいったい何なのか。私にとってそれは、実験結果以外の何者でもなかった。実験結果を深く深く考えること。これが私にとってのものを理解する道具だったのだ。(同 p76)

 

理論物理に向く人向かない人

ざっくり言えば、基礎方程式を出発点にしてそこから生み出される多様性に興味を持つ人が工学系向き、一方で、その基礎方程式は一体どこから来たのか、あるいはほかの別な基礎方程式と何か関連はあるのか、もしやそれら2つをいっぺんに導けるようなもっと基礎的な法則があるのではないか、と疑問に持つのが理学系向きと言えます。

ひとつの問題をじっくり考えること、あれを思い出せは解けるはずと思ったら、それを思い出すために自分がわかるところまで戻り、ひとつひとつ導いて思い出す、そういったプロセスが重要になってきます。それと同じくらい大事になるのが、疑問からあれこれ考える一連のプロセスが好きか嫌いかです。

また物理の中でも理論物理学を専門にしようとするならば、量子力学を学んだ時の印象が一つの基準になります。量子力学は古典力学で培った物理的直感は違った概念を与えます。その議論を正確に展開するために、線形代数や複素関数などの数学をフルに使います。これまでにない新しい概念、あるいは原理から出発して数学的な整合性を利用して計算を行い、物理現象の予言を行う、そういったプロセスがしっくりくるかこないかは、理論物理向きかどうかの判断の材料になると思います。(hep.s.kanazawa-u.ac.jp

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4.良いメンター(師匠)を見つけられるか?

本人の能力がどれほどあったとしても、それを発揮し、伸ばす環境に恵まれないと研究者としての成功はおぼつきません。「良いメンターを見つける」は、「指導者がいる研究室に大学院生として入る」と、ほとんど同義だと思います。大学院がいまひとつだった場合には、おくればせながら、「良いメンターを見つける=良い研究室でファーストポスドクをする」ということになろうかと思います。しかし、外から見たそのラボの教授と、中に入ってみた場所から見えるそのラボの教授の人物像が大きくかけ離れていることもあるため、ラボ選びは博打的な要素があって大変難しいものです。人間と人間なので相性の問題もあり、特に人間的にクセのある教授(ボス)だった場合は、他人にとっていいボスが、自分にとってもいいボスとは必ずしもいえません。もちろん人柄的に、誰にとってもとても良いボスという人もいます。

 

指導教官は、論文を僕に書かせる必要性を感じていなかったようだし、いろいろな申請書の添削のときも僕の科学的思考の欠陥を指摘せずに優しく?してくれたし、とにかく毎日実験室で実験することを僕に最優先させ、‥  (せっかくの博士課程が無駄になった気がする 2023年4月15日 18:23 塩  note.com)

「師に仰ぐならノーベル賞級の人の下に就け。研究者としての君の将来は、全く違ってくるはずだ」(元 東大総長 有馬朗人 氏の言葉 / 林周二 著「研究者という職業」)

研究というのはノウハウです.あなたがいかに優秀であっても質の低い研究室に入ったらよい研究はできません.(学生時代をどう過ごすか –  京都大学 物理 篠本 滋

ただ一つ確信的に言えるのは、大学院は、「どこの大学、どこの研究科」に入るかよりも、「誰のところで、何をするか」に尽きるということである。だから、大学院選を選ぶときには、事前に、自分が何をやりたいのかをよく考え、師事したい先生と直接会って考えを聞くことが必須である。(大学院で何を学ぶか、何を教えるか、、と言う話  こんどうしげるの 生命科学の明日はどっちだ!?

残念ながら、研究者として成功するための十分条件を明確に規定することはできません。しかし、その必要条件は明らかです。それは大学院生時代を過ごすラボは、一流のラボに行け、ということです。大学院生のときの教育がその人の科学者としての基盤を形成することは明らかです。 (「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』 九州大学 教授 中山 敬一)

優れた(自然科学系の)研究者になるにはどうしたらよいか? … 結局は,かの久保田競先生が10年以上前に書いた次の一文に全てが集約されている(久保田競編 『脳の謎を解く』(朝日文庫,1995)より抜粋)。 よい指導者の大学院へ進んで院生になり,研究の訓練,指導を受けて,よい学位論文を書いて発表することです。これがよい脳研究者になる一番の近道です。しかも,唯一の道といってもよいほどで,他の道は限られています。よい指導者ではない脳研究者の大学院生となって指導を受けて,よい研究者になれる確率はほとんどありません。 … この文章は「優れた脳研究者になるには?」というタイトルの文章中の一節だが,脳研究者に限らず,自然科学系研究者に広く通じるものである。 (優れた研究者になるには 脳科学者はかく稽ふ)

私が受けていた彼の講義の最後に口述試験があり、彼はAをくれてこう告げた。「君は私のもとで博士課程に進むべきではないと思う。私への尊敬の念がたりないから」。(パコ・アクセル・ラゲルストロム(1915-89)が博士指導教官を探していたベノワ・マンデルブロに言った言葉)

引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 210ページ

若い研究者にとって、何よりも大切なのは、メンターの選択です。研究経験が豊富で、面談、資金の提供、研究者の紹介の労を厭わず、創造性や独立性を尊重し、学会発表、論文、研究費申請で若い研究者を立ててくれるような指導者を見つけられるかどうかが研究者としての将来を決定すると言っても過言ではありません。

引用元:Hulley, Cummings, Browner, Grady, Newman. Designing Clinical Research. 4th Edition. 医学的研究のデザイン 第4版 木原&木原 訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2014 25ページ

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5.人一倍強い好奇心があるか?

(動画12:29~)  科学研究で成功するために必要となる条件は何でしょうか?

スティーブン・チュー:一番大切なことは、興味を持つということです。心からの興味を持っていることが必要です。好奇心がなければなりません。

Steven Chu: Well, I think the first thing is they have to be interested in it. They have to be genuinely interested. They have to have some curiostiy.

Steven Chu – Conversations with History (Uiversity of California Television (UCTV) YOUTUBE 57:14)

研究者になるということにおいて一番重要なのは、やはり、何か知りたい、不思議だなという心を大切すること。それから、教科書に書いてあることを信じないこと。常に疑いを持って、本当はどうなってるんだ?という心を大切にする。つまり自分の目でものを見る、そして納得する。そこまで諦めないこと。(参考:本庶佑 京都大学名誉教授・特別教授のノーベル賞受賞記者会見【動画&書き起こし】)

やはり第一条件は好奇心旺盛だということでしょう。あとは根詰めて考える力や簡単にはあきらめない粘り強さが必要。それは、普段まじめに勉強することである程度身に付くと思います。

あとは、コミュニケーションの能力もかなり必要ですね。問題はそこからうまく閃いてくれるかどうかという所なのだけれども、そこはコミュニケーションをたくさん積み重ねることで出てくるものだと思います。資質というよりは訓練して身につけるという感じがありますね。 (野本 憲一 教授 天文学専攻 専門:宇宙化学進化論 学生必見!! 東大教授の素顔に迫る!)

「これを研究したい。卒論のテーマにしたい」と思ったけれど、何をどうしたらいいのか、全く分かりません。そこで、学科内の先生方に相談して回ったんです。すると先生は全員がこう言いました。「無理、無理。マナティーなんて日本にいないし、希少動物はそう簡単に手を出して研究できるものじゃない」。

 「いやいや、あなたには無理でも私には無理じゃない」と、私は思っていました。だって、無理とおっしゃる先生方は、やったことがないんですから。(周囲に「無理、やめろ」と言われ続けた36歳の研究者 2018年7月12日 wol.nikkeibp.co.jp)

私が研究者に必要だと考える資質はたったひとつです。それは、「まだこの世界のだれも知らないことを、自分の手で明らかにしたい」という欲求です。これを備えた学生であれば、研究室に入りたての時に多少論文読むのが下手くそでも、当初与えられたテーマをぜんぜん自分のものにできていなくても、指導者の力次第で、「研究によって新たな発見をし、それを発表する」ことを自力でできるレベルまで持っていけると考えています。 (自分は研究者に向いていない? 〜研究者に必要な資質とは〜  つなぽんのブログ)

今の学生は設備がないと研究できないと言うけれど、そんなものなくてもできるんですよ。要はアイデア。そして、本当にやろうと思う熱情ですね。情熱を超えた熱情です。

情熱があれば一定のところまで行けるけれども、物事を成し遂げるためには、どうしても自分でやってみたいという心の底から湧き上がってくる熱情が必要です。

僕が取り組んだ問題も、60年以上も多くの研究者が取り組んでうまくいかなかったテーマですから、情熱だけじゃ足りません。うなされるような取り組みが必要ですよ。(変わらない熱情で、中胚葉へと変わる過程を見る 浅島 誠 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

いろんな資質が必要かもしれませんが、私自身が一番大事かなと思ってるのは好奇心じゃないかと思いますね。…研究ではやっぱり「何をやるか」が一番大事じゃないかと思うんですね。…

この「何をやるか」。それがまず分かれ目じゃないかと思います。…

「How」の前にやっぱり「What」が一番大事じゃないかと思います。そこが分かれ道。これをそこの前の青色LEDっていうのは一番最初に言いましたが好奇心がそこに来るということではないかと思います。 だから好奇心が一番大事な資質かなという気がします。実際には、「What」が大事で、その次に「How」が来る。そういう具合に考えるんです。(赤﨑勇氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー 

私も好奇心というのが非常に大切で。私の最初の実験のお話をしましたが、本当に簡単な実験で、どうでもいいような実験なんですけれども、血圧を上げると思っていた薬が逆に思いきり下げた。

そのときにやっぱり人間のタイプが2つに分かれると思うんですね。どっちもいいと思うんですが、「予想どおり血圧が上がったら非常にハッピー な人」つまり、予想が外れたらがっかりしてしまうタイプと、そうじゃなくて、予想どおりだったら「まあこんなもんか」と思って、逆のことが起こったときに ものすごい興奮するタイプ。こっちが僕なんですけど、この2つに大きく分かれると思うんですね。 …

でも僕は明らかに後者だったんですね。 そのときに自分は研究者、研究をやっていこうと思いましたから。だからやっぱり、好奇心だと思うんです。「なんでこんな予想が外れたんだろう?」という好奇心が、自分でも予想以上にあったので、そのあとずっと研究してきましたから。 やっぱり研究者というのは向き不向きがあると思います。そういう意外な結果に興奮するかどうかというのが、1つのものさしじゃないかなと思います。(山中伸弥氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー 

医者は決められたことをものすごく正確に確実にやるのが仕事で、突飛なアイデアがあったとしても、すぐには試してはいけない。研究者はその逆で、ちょっと変だろうが自分の閃きから新しいことを生み出すのが仕事です。(未知なる「オートファジー」を解明する~臨床医から転身した異色の研究者~基礎医学研究者・水島昇さん SEKAI INTERVIEW 23

優秀な研究者の最も顕著な特徴は、特定の学問に執着する熱意です。人一倍の熱意があれば、どんなに業績が少なくても、後に大化けする可能性があります。「この分野を極めたい」と強く思い続けられることは、それ自体が貴重な能力なのです。 逆に、特定の分野への執着がないという人は、たとえ優秀で何でもそつなくこなせたとしても、あまり大成しません。(College Cafe by NIKKEI 研究者という職業(2)どんな人が向いているの? 「マニア」ではダメな理由 authored by 中田亨 産業技術総合研究所主任研究員)

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6.自分の頭を使ってものを考えているか?

指導教員の言うことをなんでもかんでも聞いているようでは、はっきり言って研究者じゃないよ。そりゃ成果も出ないでしょうね。この部分は正直、指導教員のタイプによるところもあるけど、指導教員があるていど暇で手取り足取り逐一指導してくるタイプじゃない限り、必ず行き詰まる。だって自分で考えてないもの。(勉強」しかできない優等生は研究に向いてない。2017年6月20日 リケジョゆうきの活動記録)

実験や研究のことが何もわからない初心者の学生の場合、かつ、指導者が本当の意味で非常に教育的な場合は、指導者の言うことを何でもよく聞いて、それが多少不合理な内容を含んでいたとしても言われた通りに実行するということが最も望ましいという段階があります。

「素直」であることと「自分の頭を使う」ということが一見相反するように思える場面もあるのですが、両方とも大切なことです。

自分自身でモノを考える力 これさえあれば後に述べる資質は全て時間の経過と共に身につきます。修士と博士を分ける境界はここにしかないと考えています。この力がないと、どこかで研究者として行き詰まります。 (大学の研究者になりたい人たちへ  暮標)

最後に一つだけ伝えたいことを選ぶとするなら、「自分の頭で考えて欲しい」ということです。最悪なのは何も考えず、言われたままに流されていく生き方です。(春から研究室に配属される理系新四年生のための心得  ミームの死骸を待ちながら)

「本に書いてあるから正しい」「先生が言ってるから正しい」という受け身の姿勢を「自分の頭で考えて自分が正しいと判断したから正しい」という自立の姿勢に切り替えその判断の根拠をきちんと言葉にして他者の下に開く (セミナーの意義 数学書の読み方について  竹山美宏)

「論文のとおりやったのに、できません」でおしまいなのである。それで平気な顔をしているのだ。さも、自分はきちんと言われたとおりやったのに、できないのは論文が悪いのだと言わんばかりだったのだ。

これに対して、地方大学の落ちこぼれは、私が論文など読む必要がないと言うと、その通り読まなかった。そして、私と適当に会話しながらp型半導体を作り上げてしまったのある。しかも、論文などに書いてはいないような方法で完成させてしまった。

私はすでにその作り方を想像していたわけだが、彼は私の発想を会話の隅々で直感することによって、つまり勘を働かせてp型半導体の作り方を学んでしまったのだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 p213)

真実を捜し求める者というのは、古い書物から学ぶ際に、書かれていることを性格的に信頼してしまうような人間ではなく、むしろ、自分が書物を信じてしまうことに疑いを持ち、書物から集めた事柄に問いかけるような人間である。

論拠や実演には従うが、あらゆる種類の不完全さや欠陥でいっぱいの人間の言葉には従わないような人間である。このように、科学者の書いたものを吟味する人間の義務というのは、もし真実を学ぶことが目的なのであれば、読んだこと全てを敵にまわすこと、書かれた内容の中核および周辺に注意を向けながら、あらゆる側面からその書物に挑むことである。

また、読んだ内容を批判的に吟味する際には、自分自身を信用しないようにしなければならない。そうすることにより、偏見や甘さに陥ることを避けることができよう。(イブン・アル=ハイサム, 965-1040 訳:当サイト)

The seeker after the truth is not one who studies the writings of the ancients and, following his natural disposition, puts his trust in them, but rather the one who suspects his faith in them and questions what he gathers from them, the one who submits to argument and demonstration, and not to the sayings of a human being whose nature is fraught with all kinds of imperfection and deficiency. Thus the duty of the man who investigates the writings of scientists, if learning the truth is his goal, is to make himself an enemy of all that he reads, and, applying his mind to the core and margins of its content, attack it from every side. He should also suspect himself as he performs his critical examination of it, so that he may avoid falling into either prejudice or leniency. (イブン・アル=ハイサム, 965-1040. https://en.wikiquote.org/wiki/Alhazen)

「君、何でもちょっとずつよう知ってるね」と言われ、ものすごく傷つきました。それを契機に、自分でアイディアを考えることが重要だと気づきそれに専念する事にしたのです。(常に問いを立て続けて—免疫・嗅覚・そして次は 坂野 仁 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

いざ研究をやめる事にしようと思ったとたん、悔いの残る研究生活だったということに気がつきました。それまで自分で主体的に研究について考え、なにかアイデアを思いついてそれを展開させるというようなスタイルでは研究活動を行ってきていませんでした。

「どうせ研究生活をやめるのであれば、その前に一度自分の思うとおりに実験してみよう。それでだめなら、それまでよ」そんな開き直った、なかばやけっぱちな気持ちで、何かを自分で考えて研究することにしました。…

こうした論文をさかのぼる作業によって、ある種の興奮状態にある私は、ふと「もしも今の自分がその時代に存在していたら・・・」と夢想を始めたのです。…

実験の詳しい手法や過程は述べません。結果としていくつかの新しい発見をすることができました。(自分で考えればおもしろくなる 広島大学  古本 強 研究者への軌跡)

わからないことに挑み、新しい原理を見つけていくのがサイエンス。そのためには、現状を知って、突き詰めてものを考ていく。そうすると、案外パーンとあれっと思うようなことが出てくる。それには相当考えなければだめ。考えることに尽きます。

新しい側面が少しずつ解明されて、ある時ようやく全貌がわかってくるのであって、それまでは雲の中です。だから、見つけた現象を自分のもっている知識全部で説明できるかどうか。説明できないとすると、どこに問いがあるのか。それを一つ一つ明らかにすることが基本ですね。そうやって全然予期せぬことが見つかった時は、本当に興奮します。それを一度経験したらやめられない。(自分の頭で考える ~ウイルス研究からがん遺伝子の発見へ~ 花房 秀三郎  JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

そのような苦境下で、ふと気付いたのが自分の素朴な考えを大切にし、自分独自に考えるということでした。おもしろいことにそれを契機にして、自分なりの研究の組み立てや、結果の考察が楽になり、優れた学問とはいかなるものかが徐々にわかるようになりました。

そして、自分の個性的な考えを日毎にレベルアップし、万人が認めるまでに高めることができれば、それは立派なサイエンスであることと、自分と他人の考えを明確に区別し、決して追従しない誇りがサイエンスには大切であることを悟りました。(半田 宏先生からのメッセージ 半田 宏 東京工業大学 生命理工学部 生命科学科、生命工学科 「東日本大震災」復興と学び応援プロジェクト 今こそ、学問の話をしよう あらゆる学問分野で活躍する大学の先生たちから、中高生へのメッセージ わくわくキャッチ河合塾)

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7.コミュニケーションの大切さを理解しているか? 人と関わることの重要性を認識し、実践できるか?

一人前の研究者になるために必須、と考えるのはディスカッションの力だ。人とディスカッションをすることで、自分の論理は正しいのか、どんな修正が必要なのかを明らかにできる。(研究は情熱と覚悟でできている 国立遺伝学研究所 教員インタビュー 荒木 弘之 教授)

他人と関わるには動かねばなりません。学会や研究会、勉強会など人が集まる場にコミットする必要があります。研究室に居るだけでは、あなたを知るのはあなただけです。

「コミットする」とは、参加だけを意味しません。討論で質問したり、懇親会で話をしたりを含みます。そこであなたの存在は他人の記憶に刷り込まれます。他人に認知されて初めてあなたは何者かに成るのです。(どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室 ブログ)

研究は独力で進展するものではありません。実験研究や製品の開発研究では共同研究者たちと一緒に研究したり、チームを作ってシステマティックに進めたりし ます。

ひとり黙々と頭の中で考える理論研究でさえ、他の研究者と多面的な議論をすることは研究を深化させるのに役立ちます。理論家と実験家のコラボがとて も重要で、その成果の論文が高く評価されます。

どんな種類の研究でも、指導者、助言者、先輩、同僚、共同研究者、後輩、部下、学生、ときには競争相手などとの付き合いは不可欠です。その良否が研究の成否を決めると言っても過言ではありません。(研究者としてうまくやっていくには 長谷川修司 ブルーバックス )

いまから考えると、まことに赤面のいたりだが、教養部時代のある日、アポイントメントもなしに、木原先生の研究室のドアを突然たたいた。…

「私は遺伝学にたいへん興味をもっているが、率直な感想を申し上げますと、私は遺伝学はもうすることがないんじゃないかと思います」と一席ぶったのだ。…

木原先生は机に向いたまま、黙って私の言葉に耳を傾けていたように見えた。ややあって、ふっと顔を上げると、「君、なんていったっけ?志村くんか。そんなことはないよ。遺伝学は終わりじゃないんだ。むしろこれから出発するんだよ」と答えてくれたのだ。

訳のわからないことをほざいた私のような学生に向かって、木原先生のような高名な先生がよくまともに応対してくれたものだと思う。先生はさらにこう付け加えてくれた。

「これからの遺伝学は、物質のレベルで遺伝子の正体とか働き方というものを解いていくことになっていくと思う。そういう遺伝学はまだ全然なされていないから、君はその方向に進んでみたらどうかね」(私のサイエンス・スタイル「直感的創造力」志村 令郎 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー)

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8.競争に勝つマインド(心構え)があるか?

サイエンスというのは、最初に発見した者だけが勝利者なんです。発見というのは、一回だけしか起こらない。同じものをもう一度見つけても、発見とはいわな いんです。

一ヶ月のちがいでも、一週間のちがいでも、早い方だけが発見なんです。サイエンスでは二度目の発見なんて、意味がない。ゼロです。だから競争は熾烈です。(精神と物質 立花隆 x 利根川進)

1954年5~6月頃楊振寧、ロバート・ミルズとは別に一般ゲージ理論の研究を完成させ、京大基礎物理学研究所で開催された小さな研究会で口頭発表していたが、1954年10月の楊(ノーベル物理学賞受賞者)とミルズの論文に対して発表が遅れたためにプライオリティは得られなかった (内山龍雄 ウィキペディア)

研究の現状は、フロンティアめざして進む西部開拓者のようなものである。所有権のない土地を誰よりも先に見つけ、発見したあとは他人に侵されないよう垣根を作り、侵略者がいれば実力でもって追い出さなければならない。どれ一つとして気弱ではつとまらない仕事である。(小松彦三郎 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 139-140ページ)

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9.頑張ってしまわないか?

強い意思を持って困難に当たるというような力の入ったことでは、遅かれ早かれいずれ力尽きる。むしろ、なによりも研究が好きで、客観的には大変な困難な道を歩いているように見えても、本人はそれを困難だと感じないというぐらいでなければ続かない。(研究者になるには  Taka Matsubara, Nagoya Univ.)

グロタンディエクの数学に賭ける執念、バイタリティーはすさまじいものだった。 … 

人から見ると血と汗のしたたるような苦労をしても、一度として彼は、苦労を苦労として感じたことはなかったのではないか。 … 

人は、何かに夢中になっている時は、たとえ苦労であっても、苦労を苦労と思わないのだ。(広中平祐『生きること 学ぶこと』 集英社文庫 1984年)

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10.周りで何が起きようとも研究に没入し、解決すべき問題に集中し続けることができるか?

 

If I have ever made any valuable discoveries, it has been owing more to patient attention, than to any other talent. (Isaac Newton)

やっぱり研究には、朝から晩まで時間をとられるんで、両立は無理だね。特に能力のない者はね、時間で稼ぐしかないんで。(戸塚洋二先生の「二十歳の頃」)

「朝起きた時に,きょうも一日数学をやるぞと思ってるようでは,とてもものにならない。数学を考えながら,いつのまにか眠り,朝,目が覚めたときは既に数学の世界に入っていなければならない。」(佐藤幹夫)数学は体力だ!木村 達雄

起きている時間は、ほとんど全部、科学のことを考えています。九時から五時までの職業とは違いますから。科学者として成功するためには、本当に、時間のある限り考えぬいて、眠っているときにさえ、無意識のうちに問題に挑み続けていることを願わなくてはなりません。

答えが出るまで、まるで獲物に食いついて放さないテリアのようなものです。これは、人を完全に没頭させる、一日二四時間の職業です。 (マイケル・バーリッジ (細胞生物学者) の言葉『科学者の熱い心―その知られざる素顔』[pp.276-277] より 「気ままに創薬化学」

The only thing that kept me going was that I loved what I did. – Steve Jobs (Stanford commencement speech 2005)

私が知っている「幸せで成功している人」というのは、好きなことを仕事にしているだけではなく、自分の仕事に心を奪われているんです。 …

犬とテニスボールで遊んだことはありますか? テニスボールを手に持って見せただけで彼らはものすごく興奮します。そして投げた瞬間興奮して走り出し、ボールに向かって一直線、リードが持っていかれたりしますよね? そう、これが幸せに成功している人々の姿です。皆さんもこんな気分になれるものを見つけて欲しいと思います。(「人生のコツはたったの3つ」Dropbox創業者ドリュー・ヒューストンの卒業スピーチが感動的  logmi.jp)

日本では我慢とか忍耐の重要性が強調されますが、我慢して何かをしてもそれは良い人生にはつながらないと思います。我慢しなければ一生懸命実験できないようなら、それは単に自分が研究には向いてないという事だと思います。夜遅くまで実験するのは「楽しいから」であって、「いつかはこんなつらい状況を抜け出すため」ではありません。…

そして自分が好きなこと(それに伴うつらいことが苦にならないくらい好きなこと)を見つけられれば、その結果成功しなくても気にならないし、でも、好きなのでどんどん努力するため成功の確率は上がると思います。(“Don’t be trapped by dogma”〜人生とは、生きる価値とは〜 山下 由起子 University of Michigan  全世界日本人研究者ネットワーク 留学体験記)

自分はこれに賭けたいという研究テーマを自ら見つけて、それにのめり込むことが重要です。この「自ら」というのが大事です。自ら決めることで、頑張れるのです。何とかして次の扉をこじ開けたい、と昼も夜も考え、悩む中からブレイクスルーが生まれるのです。九州大学 今井研究室 教授挨拶

働くことをエンジョイできるか否かは自分次第だ。自分のアイデアで仕事をしていけば、仕事もエンジョイすることができる。また、そういう人間は苦痛もエンジョイすることができる。(本田宗一郎)(『本田宗一郎の人の心を買う術』)

もう頭の中は四六時中、青色のことばかりになっていたのだ。… 改造しても改造しても窒化ガリウムの膜ができないのはなぜなのか。私は、くる日もくる日もそのことについて考えた。この時の状態を妻に言わせると、まさしく何かに取り憑かれたようだったという。

しかし、だからといって徹夜までして研究に没頭するなどということはしなかった。夜の八時には家に帰り、家族とともに食事をした。研究に熱中するあまり不規則な生活を送っても、結果が出ないことを知っていたからだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 pp151-152)

 

生きていれば人生においてはいろいろなことが起こります。自分の周囲や社会でも様々なことが起きます。しかし、周りで何が起きてもそれに気を取られることなくやるべきことに没頭し続けることが大事なんだと思います。

本当に職業として研究者を続けいけるかどうかは、能力ではなく、性質によると思う。それは、世間で何が起こっていようと、寝ても覚めても1つのこと(自分の研究)を脇目もふらず考え続けることが出来るような性質である。‥‥ 

寝ても覚めても1つのことだけを考え、研究に集中出来ない限り、どんなに能力があってもトップになることは難しい。論文を書いている時、実験をしている時、テーマを練っている時。あなたはそのことだけに思いっきりワクワクして、本気でのめり込んでいるだろうか? それとも他のことに思いを巡らしてしまっていないか?‥‥ 

必須の原動力は研究そのものである。(研究者に向いている人・向いていない人 Nori

1945年3月9日夜半から10日未明、あの東京大空襲の日、被災者百万、その内十万もの人が一夜で亡くなりました。私はあの時、東大の赤門から50m離れたところにあるアパートに住んでいた。なんとか持っているものを取り出すことはできたんです。本とかなんとか…。そして、その夜が明けて10日の朝8時、当時の物理実験第一という講義を受け持っていた田中務先生はいつもと変わらず授業を行い、われわれは戦禍を忘れ、物理学の世界に没頭し、必死になってノートをとりました。田中先生は何にも言わずいつも通り授業をなさったのです。何があっても学ぶことに第一の価値を置けと教わったのです。江崎玲於奈氏に聞く 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点)

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『精神と物質』は書籍タイトルが内容を表していません。中身は利根川博士の研究人生です。ノーベル賞授賞対象となった研究成果がどのようにして得られたのか、研究者として成功するためには何が必要なのかなど、研究を志す人間にとってはバイブルとなるようなことが書かれています。自分が研究に向いているかどうか悩んでいる人は、一読してみると答えが得られるかもしれません。

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11.職業選択に迷いはないか?

悩む人はもうそれだけで「向いていません」。米国の指揮者・作曲家の故レナード・バーンスタインがおっしゃっていました。わたしはよく 「私は音楽家になれるでしょうか?」と聞かれます。私の答えはいつも誰に対しても即座に「駄目です」です。… 

音楽家は好きや嫌い、なれるかなれないかに悩むものではありません。他になるものがあるなどということを考えつかない者がなるものです。芸術家はみんなそういうものですが、研究者も芸術家と同じです。 (研究者に向いている?向いていない? 教えて!goo)

研究者になりたいのですがどうしたらいいでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

と聞く人は実は研究者には向いていません.(大学院新入生のための数学学習の手引 宇澤 達)

本当に何かが好きで成功する人って、周りが何と言おうとやっているんですよね。「好きなものを見極めよう」と思っている時点で、実はもう向いていないんですよ。

引用元:【独占】ひろゆきが語る「“天才”と“狂気”を分けるもの」 ひろゆきの仕事哲学【前編】 2019年07月18日 05時00分 霜田明寛,ITmedia

結局は、好きで仕方がない、勉強・研究するなと言われてもどうしてもしてしまうというような人が生き残る世界なのではないかと思う。(河東 泰之 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 65ページ)

ひとつは(能力や実力以前に)研究が好きだということです。言い換えるなら(ちょっとネガティブな言い方になりますが)それ以外は向かない、できない、ともいえます。他人と比べて向いている、向いていないという意味ではありません。あくまでも自分自身の中での話です。仮に研究能力が高くても、いろいろなことに興味や能力がある人なら、別の道へ進んでいることも多いと思います。(もし、研究を続けたいと思ってるなら  卒業生からのメッセージ)

僕: 今回の僕の相談はズバリ、このままバイオ系の分野の研究者になっていのか、ってことなんです。


教授: バイオ系研究者になりたければなればいいし、なりたいと思わなければならなきゃいいじゃないか。
教授と僕の研究人生相談所(1)

研究者に向いているという問題でなく、研究者になるつもりがどれくらいあるかの問題です。釣本先生の進路相談室

研究者という仕事は、研究そのものに強くやりがいを感じている人間でないと続けていくことは難しいと思います。研究者というものは、要求される能力が高い割に待遇はあまり良くありません。研究そのものが楽しいのでない限り、辞めて他の職に就いた方がきっと幸せになれます。(私が研究者を辞めた理由 2015-02-20 塞翁失馬、焉知非福

職業ではない、生き方だ

It’s not just a job, it’s a way of life.

The London Story – River Thames Visit London チャンネル登録者数 3.31万人

研究者は職業ではない、生き方だ@piyota0

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12.正念場で頑張れるだけの体力、気力、忍耐力、意志の強さはあるか?

明日カラ、夕食後モ学校ニ居ルコト九月中庭球絶対ニヤラヌ」(湯川 秀樹)(No.58 2021.07.28 ザッツ・京大

僕たち数学者の研究は、まず問題を見つけるところから始まるのが普通です。‥ 自分が解こうとする問題を選んで、その問題に2年から5年くらいをかけて研究するのが一般的です。‥ まず良い問題を選ぶことが大切で、数学者としての素質にもかかわるところです。‥ 解くのに2年も5年もかかる問題に取り組む姿は一見、長距離ランナーのようにうつるでしょうが、数学者は、問題を選ぶスタートから、解決のゴールまでをゆっくりとした同じペースで進むのではありません。‥ 考えている途中でヤマ場にさしかかると、全力をあげて検討することが必要なのです。‥ 研究の過程には必ずこんなヤマ場がいくつもあるものです。こんなときは、もう夢中で、興奮して寝付けないものですが、少しも苦になりません。(広中平祐の数学教室 昭和55年6月10日 サンケイ出版 120~121ページ 思考法の秘訣)

 

ひとつの問題を検証するのに昔はわずかなことを確認すれば良かったのが、今は膨大な情報の中からあらゆる可能性をさぐり、テストしなければ論文にならなくなった。1報の論文を書くのに以前と比べて10倍くらいの時間を使わないといけないんです。

しかも、電子化によってサプリメンタルデータを付けなければならなくなり、論文全体としてより高い 完璧性が要求されます。技術が進歩して昔できなかったこともできるので、やれることはすべてやりなさいというわけですね。

論文を書き上げた後も、レビュワーから1論文に対して5-6ページくらいの追加実験リストが送られてくることが珍しくない。難しいジャーナルほどそのリクエストが多く、全部こなすにはまさに飲まず食わずで実験しないといけません。

ですから、論文1つ出版するのにもの凄いエネルギーがいるんです。頑張れる人だけが達成できる。頭脳だけではどうしようもなく肉体労働ですね。 (細胞のメカニズム解明から医療へ。発生・再生科学の今  理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター センター長 竹市雅俊氏 トムソン・ロイター 研究者インタビュー )

Reviewer(査読者)からの追加実験要求が近年とても厳しくなってきたことが研究者を苦しめている。「追加実験の内容だけで、10年前なら一つの論文が書けてしまうデータ量になる」というようなことが珍しくなく、また、一つの論文を発表するための追加実験だけに1年以上かかるということも今では普通のことになってしまった。

しかも、このような傾向は今後も続くことが予想されるため、自らの研究成果を多くの人に知ってもらうための研究発表に要する時間と労力は、今後も増加し続けるであろう。(バイオの研究者を目指す学生が知っておくべき7つの項目 2017年2月6日更新 BioMedサーカス.com

細かい議論を長々とするには、実は忍耐だけでは不十分です。一番大切なそして難しいことの一つは、このルーチンワークのような議論の積み重ねをすれば、必要なことができると見抜くことです。さらに、単に見抜いただけでは不十分で、その「見抜いた」ことが正しいことを確証するために、実際に長いルーチンワークに耐え、最後まで手をぬかずやり抜かねばなりません。

議論が面倒であればあるほど、自分の見抜いたことに対する確信とそれを貫く意志が必要になります。忍耐を支えるのは、自分のこうやればできるはずだという感性に対して築きあげた自信なのです。(深谷賢治 小平邦彦 編 『新・数学の学び方』)

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13.素直さがあるか?

人が成功するために一つだけ資質が必要だとするとそれは「素直さ」(松下幸之助)(小宮一慶 著 社長のための「お客さま第一」の会社のつくり方: 明日から職場を変える行動プログラム)

(Q. どういう人に来てほしいですか?) 私たちが重視する素質は、素直なことです。周りから愛され、伸びていくことでしょう。熊本大学 寺沢 研究室

研究者は常に自らバージョンアップを繰り返していく必要があります。そのためには、人の意見や研究に素直に耳を傾ける謙虚さが必要となります。(大学院入学希望者へ  広島大学 町田 研究室)

創薬研究に携わる者には、好奇心・探求心が旺盛であることや、実験が好きでロジカルに解析できることなどは当然求められる資質です。その上で更に大切なことは、データを、先入観を持たずに素直に見る姿勢です。サイエンスは決して嘘をつきません。思いもよらぬ結果がでた時、それをダメと思うか、それとも、面白いと思えるか。つまり細胞や動物が何かしらのメッセージを発信している時、それを素直に感じ取ることができる感性を持った研究者が必要なのです。 JT医薬総合研究所・大川滋紀所長に訊く

大切なのは、特に自然科学は実験結果を透明な眼鏡で見るといいますか、色眼鏡で見ないということですね。どうしても自分の仮説があったら、その仮説どおりになってほしいという希望があったりして、真っ白な心で見れないので。 そうすると真実を誤認しますから、いかに自分の目を透明にするか、真っ白な心で結果を見れるかということが非常に大切だと思います。(山中伸弥氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー

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14.野心はあるか?

新シキ時代ノ代表者トナレ(湯川 秀樹)(No.58 2021.07.28 ザッツ・京大

私は学者として生きている限り、見知らぬ土地の遍歴者であり、荒野の開拓者でありたいという希望は、昔も今も持っている。(湯川秀樹『旅人』5ページ 角川文庫)

研究の世界に限らず、どこの世界でも、ある業界で一人前の人間として大成するためには、向上心や野心が必要です。 研究とは、まだ誰もやっていないことをやるものであり、常に失敗するリスクをはらんでいます。 そうした不安や孤独に耐えて地道に努力を続けられる、タフさも重要です。 また、研究の価値で重要視されるのは独創性、新規性です。単に教科書を読んで勉強して、それで満足しているような人は研究者には向きません。 何か新しいことをやってやろう、世界を驚かせてやろう、そういう野心や山っ気も大切です。(大学院進学希望の方へ 東京大学 戸谷 友則 教授

四十歳より内は、知恵分別を除け、強み過ぐる程がよし。人により、身の程により、四十過ぎても、強みなければ響きなきものなり。(『葉隠れ』) (中略)

研究者は、知識を増しすぎてチャレンジ精神がなくなるよりも、知識を減らしてでも障壁に果敢に立ち向かっていく気迫が大事である。

(吉田善一『企業研究者のキャリア・パス: 物づくりのリーダーへの道』 冨山房インターナショナル 2008年 pp142-143)

ただ運がいいだけでも、懸命に研究しているだけでもダメなのです。野心も重要です。…

ノーベル賞は、不可能だと思われていたことを成し遂げたことに対して贈られます。

例えば、私がまだ学生だった頃、皆DNA塩基配列決定法など達成できないと言っていました。でも、フレッド・サンガー(Fred Sanger)はそれを成し遂げました。

もう一つ例を挙げるなら、リボソームです。複雑すぎて、結晶化することがないため、リボソームの構造を完全に解き明かすことは不可能だと教えられました。たとえ結晶化したとしても、データが多過ぎて解読できないと言われていました。大変手ごわい問題でしたが、人々はそれに取り組みました。現在、我々はリボソームがどんな形で、どのような仕組みなのかを見ることがほぼ可能となっています!

ですから、ある程度の野心は必要です。不可能と言われていることに取り組んでもいいのです。でも、中に入り込んでいくためのとっかかりとなる隙間が見つかるまで待ちましょう。 (ノーベル賞受賞者でも掲載拒否を受けることはある ティム・ハント博士/ノーベル賞受賞者  editage Insights)

 

ほかの人には無秩序な混乱としか映らないような、具象的で現実の領域に、一定の秩序を見出す最初の人間になるという興奮を味わってみたい。数世紀前にケプラーは合理的な数学的構造という要素を物理学の世界に持ち込んだが、私もそのような構造をどこか別の領域に持ち込む、という興奮を。

引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 196ページ

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15.緻密な論理的思考能力があるか

生命科学者に求められる第一の資質は、意外に思われるかも知れませんが、「論理性」なのです。つまり、突飛なアイデアではなくて、A→B、B→C、故にA→Cというような、確実で緻密な思考能力が要求されます。「幻の原稿」始末 九州大学 生体防御医学研究所 分子医科学分野 教授 中山 敬一 )

論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確でかつ緻密な頭脳を要する。紛糾した可能性の岐路に立ったときに、取るべき道を誤らないためには前途を見透す内察と直観の力を持たなければならない。すなわちこの意味ではたしかに科学者は「あたま」がよくなくてはならないのである。

 しかしまた、普通にいわゆる常識的にわかりきったと思われることで、そうして、普通の意味でいわゆるあたまの悪い人にでも容易にわかったと思われるような尋常茶飯事の中に、何かしら不可解な疑点を認めそうしてその闡明に苦吟するということが、単なる科学教育者にはとにかく、科学的研究に従事する者にはさらにいっそう重要必須なことである。この点で科学者は、普通の頭の悪い人よりも、もっともっと物わかりの悪いのみ込みの悪い田舎者であり朴念仁でなければならない。… つまり、頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである。 (科学者とあたま 寺田寅彦  aozora.gr.jp)

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16.楽天的か?

これから学問を志す人に老婆心ながら述べたいことがあります。 それは次の性格条件を満たしていることです。… 

  1. 知的好奇心が強烈。
  2. 野心(ambitious)が強烈。
  3. 執拗な性格。
  4. 楽観的な性格。

1.はどうしてなのかと、問題についていろいろと発想を工夫する性格。 2.は良い意味でも悪い意味でも他人に抜きんでたい性格。 3.は飽きることなく追求する性格、たとえば誰が最初にこの仕事をしたのか論文を追跡して調べるなど。 4.は直感的に解ける問題を見分けて時間を費やす。 解けない問題は結局時間の浪費に終わるからである。 どんな難しい問題でも、これは解けるという直感があれば、必ず解けるという信念を持つことです。集団遺伝学 第1回 自己紹介

「果てしない楽観」も現在の研究者に求められる資質であると私は思います。確率・統計的に考えれば、「研究者を目指す人たちの中で、成功する(ラボ主宰者PIとなって独立的に研究できる)期待値はかなり低い」ことが自明なのに、自分がそれに当たると考えている人が多いです。(研究者の資質2bioresearcher.net

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17.孤独に耐えて、自分の価値を信じ切れるか?

四面楚歌、奮起せよ(湯川 秀樹の日記より)(No.58 2021.07.28 ザッツ・京大

研究者は孤独です。実験の種類にもよりますが、ひとりで離れ小部屋にこもって一日誰とも会わずにひたすら測定に明け暮れることはめずらしくありません。自分の研究の意義は指導教官にすら理解してもらえないかもしれません。論文を学術誌に投稿して、差読者やエディターからいろよいコメントをもらえた時点でようやくラボ内が色めきたつということもあります。

ボス知らず 差読者が知る 我が思い (詠み人知らず ラボ川柳)

さらに、PIになったらなったで、あらゆる重要な決定を1人で行わなければなりません。また、時代を先取りした研究は、評価されるまでに数年~数十年を要するかもしれません。

ハーバードビジネスレビューが最近公表した孤独感に関する職場調査の結果では、研究者・科学者とエンジニアが最も孤独な労働者ランキングの最上位を占めた。

The Harvard Business Review recently published the results of a workplace survey on loneliness, and research scientists and engineers topped the list of most lonely employees (falling only behind lawyers as the loneliest profession). (biospace.com)

私も、ラボで誰かに会うことも話すこともなく1日が過ぎるような日々を送りました。

I, too, have spent entire days in lab without seeing or talking to a single person. (Lab loneliness: Coping with science research isolation MARCH 21, 2017 BY MELISSA GALINATO QUARTZY)

教育やキャリアの構造は個人が達成したことが中心となっている。博士号は、グループで努力した結果に対して授与されるわけではない。科学の専門分野における個人的な貢献に対して授与されるのである。

The entire educational and career structure is very centered on individual achievement. You don’t get a doctorate for a group effort; it represents an individual’s unique contribution to the scientific discipline. (20 May 2010 Are scientists lonely?)

「自分の人生にはある種の目的がある」と思うことができれば、我々は孤独感を持たないで生きていくことができるのである。(wakuwaku-lotus.com)

孤独は天才が通う学校である (actionplanet.tv)

あなたが自分の人生における友達だと思っていたほとんどの人は、最終的には赤の他人以外の何者でもなくなるであろう。

Most of the people that you have ever considered friends in life will eventually be nothing but strangers to you. (newtohr.com )

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18.人間力があるか?

大学院生活をはじめてとして、研究者としてのキャリアを歩む過程には何かと不条理に感じることが多いものです。そんなときでも自分の目的を見失わずに、当初は敵かと思えた人間すら味方に変えて、自分のクレジットを確保しつつ研究プロジェクトを達成することが必要となります。

このような「人間力」が最初から備わっている人は少ないでしょうが、さまざまなことを経験する中で自然と身につけていくことが、研究者になるためには必要でしょう。

上のツイートは企業の人だと思いますが、合理性を追求しているはずの研究者においても、実は真理ではないかと思います。学会などで若い人が大御所に対して真っ当な意見を言っても許されるのが研究社会のいいところといった言われ方をするかもしれませんが、それは半分は本当でも半分は違っていると思います。科学者でも誰でも人前で恥をかかされて気分がいい人は多くないのです。 研究室という閉じた空間での議論も同様です。ラボミーティングで大学院生や若いポスドクが教授を論破しても、いい結果が待っているとは限りません。こいつは優秀だと評価してくれるボスかどうかは、ボスの人間性次第。逆に疎まれてアカハラの標的にもなりかねません。

教授から与えられた研究テーマが気に入らない学生はどうすべきか … 

上から言われるままに受身的な「歯車」として働くのではなく、プロジェクト全体のなかでの自分のミッションの位置づけを認識し、そのなかで全体にベストフィットするための創意工夫をしながら能動的に回る「歯車」として働くことで個人的にも成長できる … 

周りを巻き込みながら、方向性を持って他人の力を結集して研究なり仕事なりを進める力、いわば人間力と呼ばれている力が研究者にも重要です。 (研究者は「研究以外」のビジネス感覚がないと一流になれない! 研究室という「組織」でうまく生き抜く 長谷川修司 2016.01.07 gendai.ismedia.jp 太字強調は当サイト)

今の二十代を見ていて感じるのは「人間力」が弱くなっているということ。あとは好奇心が弱い。私が言う人間力とは、東大総長も言われていることですけれども、生きていくための力。人とのコミュニケーション力や壁にぶち当たったときに自分の気持ちをコントロールできるといった、勉強以外の人間としての力です。 ( 「人間力のある若者を育てたい」 紫綬褒章を受賞して 生田幸士先生に聞く  東京大学 先端研ニュース 2010/12/20)

サイエンスは実力主義で結果がすべての世界なので、どんなにコミュニケーションが苦手でも、立派な仕事をすれば勝てます。しかし、プロジェクトの運営は、そうはいきません。研究者といえども、人間力、コミュニケーション能力を磨かなければ。スキル(技術)だけで人を納得させることはできないのです。

僕の考える「人間力」の重要な要素として、2つ挙げる事ができます。

ひとつは、「この人は自分にないものをもっている」と意識しながら相手を見ること。自分にはない、飛び抜けた能力やプロフェッショナリティに対して敬意を払うことが、相手を信頼することにつながっていきます。

もうひとつ僕が心がけているのは、「誰に対しても裏表が無く、フェアに接する」こと。(物事を究極に成し遂げたいなら、他人をいいわけにするな  高井 研 WIRED 2013.01.17 THU 15:17)

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19.一生スキルアップが必要と心得ているか

研究者になるために必要なスキルは、日常的な鍛錬を自分に課して獲得する必要があります。また、常に新しい技術が開発されそれをいち早く自分の研究に取り入れることは、研究者として生き残るために必要なことです。

勉強を続けていると,かつて分かりっこないと思っていたものが分かるようになり,やがて腹に落ち,ついには誰も知らない研究の領域にまで至ります。大切なのは続けることです。

研究の現場は日々,勉強です。毎日のように新しい技術が登場する機械学習の最先端では,誰にも分からないことがたくさんあります。しかし,勉強を続けていれば,フッと道が拓ける時があります。(園田 翔 受講者へのメッセージ SkillUp AI

基礎学力

尾崎教授が心掛けているのは、「研究室は教育室であれ」ということ。1989年の研究室開設以来、基礎学力、人間力、研究力の三つの柱を大切にしてきた。スポーツ選手が試合に勝つために基礎練習を欠かさないように、研究者にとっては物理・化学・英語など基礎学力が重要だという。

また、人間力や国際性を高めるために積極的に留学生を受け入れてきた。(研究室で人間性を育み28年─分子分光学の世界的拠点を目指して 尾崎幸洋研究室 関西学院大学 広報室 2017年4月26日)

語学力

語学力は、あらゆる作業の出発点になります。できる限り早く、自己鍛錬を開始することをお薦めします。英語が不得意な学生の一部は、日本語の表現力が劣っていることが原因です。日本語を鍛えることにより、語学力全体が向上します。(http://ocw.kyushu-u.ac.jp/menu/faculty/20/6/1.pdf

論理的思考能力

「トレーニングをしていない社会人」は「トレーニングをしている生徒・学生」に負けることがあります。… ロジカルシンキングは「学歴」には、あまり関係がありません。高学歴でも、アンロジカルなオッサンは腐るほどいます。

要するに「やっているか、やっていないか」「フィードバックを受けてきたか、こなかったか」だけの話です。

なるべく早い段階から、ロジカルに考える習慣や癖を持ちたいものです。(http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7823

人間力

総合的な「人間力」(抽象的でわかりづらいですが、例えばコミュニケーション能力とか、発想力とか、忍耐力とか、そういうものをすべてひっくるめたものです)も高める必要があります。 (総合的な「人間力」を! 加藤 真悟 さん 生命科学部7期生 大学院博士課程修了 (細胞機能研究室、現・極限環境生物研究室) 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (JAMSTEC) 特任研究員 東京薬科大学 卒業生メッセージ)

新たな知見

勉強,勉強などと大声で言わずとも,勉強は,(研究者であるならば誰もが)当たり前のように,自発的に,死ぬまで,毎日行っていることです。(小川研究室のアドミッションポリシー)

新技術

目標を達成するためには他の研究分野の手法を取り入れることを臆さないことです。http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ohmiken/Lab%E3%83%A1%E3%83%A2/memo%203.html

 『細胞分子生物学』から25年の間に生命科学は成熟し,研究の対象も細胞から動物個体,そしてヒトへと広がってきた。それを支えたのが遺伝子組み換え技術をはじめとするバイオテクノロジーである。PCR (ポリメラーゼ連鎖反応) 法の発明(1985年),自動DNAシークエンサーの発売(1987年),特定の遺伝子だけを人工的に破壊したノックアウトマウスの作製技術(1989年)など,この25年間に導入された革新的な技術を抜きにして,先端的な実験生命科学は存在し得なかった。http://www.nikkei-science.com/page/sci_book/bessatsu/51177-maegaki.html

ビッグデータ時代にはこれまでの科学技術におけるデータに対する考え方を変える
必要があります。http://www.lifesci-found.com/docs/doukou-tyousa27.pdf

大学院における教育 専門教育の充実を十分に図るべきである。その基本となる DNA の扱い、特に遺伝子組換え技術、急速に発達した顕微鏡を中心としたバイオイメージング技術、コンピュータによる情報科学などを十分に教えるべきであり、その教員の補充や教育プログラムの充実を図る必要がある。http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-h-2-1.pdf

21世紀の生物学ではヒトゲノムプロジェクトによって2つの大きな変革がもたらされました。まず、第一に、ヒトおよびマウス、ハエ、酵母等モデル生物のゲノム塩基配列が全て明らかになり、生命を構成する因子が少なくとも有限なものとなりました。第二に、全ゲノムレベルでタンパク、DNA、RNA、代謝物、さらにそれらの相互作用を解析するための網羅的計測技術が開発されました。

これらの技術は日進月歩の進歩を遂げており、さらなる先進的な測定技術の登場やデータベースの充実化へとつながっています。そして、現在の生命科学では、こういった膨大かつ多様なデータを統合的に解釈し、多角的に丸ごと生命現象を捉えモデル化するデータ駆動型の研究を行うことが可能となりました。http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/

異分野との融合研究を展開する力

それまで予想もしなかった方向に研究が発展することがあり、また、複数の専門分野(しかも類似の専門分野とは限らない)の研究が高いレベルで融合することによってはじめて新たなブレイクスルーが生まれることが多くなるであろう。

こうした状況において、個々の研究者に特に求められるのは、自らの専門分野にいたずらに閉じこもるような蛸壺的な専門性ではなく、周辺の専門分野や全く異なる専門分野を含む多様なものに関心を有し、既存の専門の枠にとらわれないものの見方をしながら自らの研究を行っていく能力であろう。 (世界トップレベルの研究者の養成を目指して -科学技術・学術審議会人材委員会 第一次提言- 平成14年7月 文部科学省)

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20. 百人百様の中に潜む共通項:単純さ、純粋さがあるか?

長々と紹介してきましたが、これらは必要条件というわけでも十分条件というわけでもありません。個人の能力や個性に合わせた、多種多様な研究スタイルというものが存在します。

K:研究者に必要な資質は、どのようなものとお考えですか?
橋本先生:ある意味では、人は誰でも研究者じゃないですか。だから、それぞれの方がそれぞれの資質を生かせるように研究をすれば、それでよろしいと私は思います。…

今、皆さんいろいろとうまくいっているわけですね。そうしたら自分の資質はどのようなものかを考えて、それを伸ばしていければいいのではないでしょうか。(教授に聞く 橋本祐一教授 分生研ニュース2006.9 PDF

ケンブリッジで育ったので、ノーベル賞受賞者は数多く知っていますが、最も強く感じているのは、受賞者は多種多様だということです。才気あふれた人もいればそうでない人もいる、謙虚な人もいれば傲慢な人もいる。彼らは、多種多様なことを多種多様な方法で研究してきました。

皆の人柄の奥深いところを見てみると、何か単純さと言えるようなものがある、ということが唯一の共通点です。 (ノーベル賞受賞者でも掲載拒否を受けることはある ティム・ハント博士/ノーベル賞受賞者  editage Insights)

実験科学のこれらの偉大な仕事は、がまん強い人、頑固な人、直感力に富む人、創意ゆたかな人、精力的な人、不精な人、幸運な人、偏狭な人、器用な人など、さまざまなタイプの人々によって成しとげられた。(バークレー物理学コース1 力学 上 2ページ 今井 功 監訳 丸善株式会社)

多様な成功者の中に共通するものとして、単純さ、純粋さがあることが指摘されています。

 

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21.結果が出るまで努力を続けられるか

実験をしていると、ほとんどの目論見は外れます。作業仮説を立ててそれを検証する実験をし、期待通りいかなかったときに、新たに作業仮説を立ててまた検証する、そんな繰り返しでもめげずに頑張れるかどうか。

目的とする物質の探索や、方法論の開発なども、忍耐が強いられます。宝物を見つける一歩手前でやめてしまうのか、見つけきることができるのか。

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22.論文という形にするところまで持って行けるか?

どんなに面白い現象を発見したとしても、それを論文として発表しない限り、何もやらずにサボっていた人となんら変わりありません。論文の形にして世に出すというところまでやり切れることは、とても重要な資質です。

研究というのは、それをまとめて論文として発表しない限りただの自己満足です。素晴らしいデータがあっても、それを論文にできない人は数多といます。それは時間の無駄遣いでもあり、税金の無駄遣いでもあります。研究者としての第一の評価は論文です。

(引用元:国立・東京医科歯科大学AIシステム医科学 【Shimizu Lab】

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23.人の言うことが気にならないか

長々と書いてきましたが、これらを読んでも暗い気持ちにならず、むしろわくわくしてきたとか、なんとも感じなかったとか、何言ってんの?くらいに流したなどという人は、研究に向いてなくはないでしょう。

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24.なりたいか やりたいか

研究者に限らず、どんな職業であれ、なりたい人間が勝手になるのです。能力があるからとか、資格があるからとか、ふさわしいから、ではありません。

小学校に訪問した時に、まずきちんと勉強をしようと伝えた後に「サッカー選手になりたい人~?」って手を挙げさせるんですが、その後に「全員なれないよ」って言います。そんなに甘くないよって(笑)。… それで諦めるようなら、仕方がないです。「あ~、なんか内田言ってるな~」くらいの気持ちじゃないと、プロサッカー選手にはなれない。(内田篤人 REALSPORTS 2020/4/14(火) 12:10 YAHOO!JAPAN)

理論物理学の中でも素粒子物理学は特に潰しのきかない学問領域のようですが、普通の職業からみた研究職というアナロジーで言えば、職業選択に関しては同じ原則が成り立つと思います。

よく僕の所に相談に来る学生が「将来素粒子やりたいんですけども就職のことこう考えて」とかって言うんだけども、その段階で君向かないからやめた方がいいよって言う訳。 先輩見てもDoctorとって就職できない人がたくさんいて優秀な人もたくさんいる訳。それ見てたら自分がそれと比べていいか悪いか普通は考えちゃう訳だ。 そういう人は来ない訳よ。やっぱり面白いから、俺はやりたいから来る。それだけなんだよね 。(柏太郎助教授2001年度ニュートン祭パンフレットより転載。higgs.phys.kyushu-u.ac.jp

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25.研究の世界の厳しさを理解しているか

最後に、覚悟しておくべきことは、研究の世界で生き残ることの難しさ、苛酷さです。優秀で才能のある人達同士での生き残り競争に勝てるかどうか。パーマネント職に就けるまでは、研究者は非常に経済的に不安定な状態に置かれます。家族はたまったものではありません。家族の理解は必須でしょう。

学者の夢は一流大学で終身在職権を獲得することだ。私は最終的にこの夢を実現したが、タイミングはぎりぎりでーーー私は75歳になった 

参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 452ページ

どんな人間ならば研究者として雇われるのか、募集要項を見てみて、自分がそこにフィットする人間かどうか考えるのも一つの方法です。もちろん、人間は成長するので、自分が成長していくさまが想像できるか、という問題です。

【募集職種】
職  種:研究員

【応募資格】
博士号取得者または着任までに取得見込みの方で、協調性、積極性、冒険心、高い向学心、幅広い好奇心、柔軟な思考、明朗な性格、鋭い洞察力、爆発的な瞬発力、驚異的な持久力、信念宿る強靭な肉体、不屈の精神、そして散り際の潔さ、これら全てを兼ね備えている方、またはこれらの項目の内、幾つかを有している方。

【待  遇】

単年度契約の任期制職員で、評価により採用日から7年を迎えた年度末を上限として再契約可能。‥ 平成25年(2013年)4月1日以降、当研究所との有期雇用の通算契約期間が10年を超えることはありません。

(web.archive.org)(内容の一部のみ転載。太字・下線強調は当サイト)

いかがでしょうか?こんなスーパーマンのような完璧な人間であっても、限られた期間内に結果が出せなければ、それでお終いです。寺田寅彦が『科学者とあたま』で、「科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であり、血の川のほとりに咲いた花園である。」と述べていますが、まさにそういう場所です。さて、こんな世界に飛び込んでみたいと思いましたか?

 

68 :名無しさん@おーぷん :2015/04/25(土)18:06:05 ID:Tbi ×
研究に向いている人ってどんな人?

70 :名無しさん@おーぷん :2015/04/25(土)18:07:33 ID:Qy1
>>68
ムラがなくてコンスタントに努力ができて、無理しすぎない人かな
そして真面目によく勉強して信念がある人

(研究者だけど質問ある? open2ch.net)

 

現在の日本における研究者の生き残りレースがどれほど熾烈かを十分理解しておくことも必要です。

学者の道を選択することには、大変なリスクがある。「高学歴の罠」に陥り、常勤職につけないことなど珍しいことではない。 … そもそも大学院に進学しても、それに見合った経済的な結果はついてこない。(あなたは学者に向いているか?

 

偏差値50の地方国立大にいようが、旧帝大にいようが、東大京大だろうが、海外のラボだろうが、多少の(=IF~10程度)成果が上がろうが上がらなかろうが、報われない(=定職に就けない)ことには変わりないのが、いまの生命科学の業界だと思います。CNSに出して研究辞めた人も多い。トップ2報は必要か。

— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2018年5月19日

トップジャーナル(C,N,Sのすぐ下の姉妹紙)に論文を出してるような研究者でも任期付きの職から脱出できず、”人たるに値する生活”を得るのに苦労している現状は、異常としか言いようがない。労基法1「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」

— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2018年4月2日

アカデミックの世界は本当に不安定です。企業は企業でやはり不確定要素があります。三菱化学生命科学研究所は、アカデミックキャリアを追求する研究者にとって非常に魅力的な場所に思えましたが、廃止されてしまいました。大坂バイオサイエンス研究所は、日本のスーパースターが集まる研究所でしたが、大阪市が財政的な支援を打ち切ったため廃止されました。せっかくPI職に就いたとしても、勤め先の研究所が無くなってしまうということが起きるのは恐ろしい話です。

IBMは大学のように身分の終身保障はしてくれないという事実を、私はしばらく考えずにいた。しかし、自転車で転ばないためには十分な速度で走る必要があるということは、一瞬たりとも忘れなかった。気取った言い方をすれば、私は身分保障が与えてくれたはずの静的安定と、IBMや外部世界で起きる変化に絶えず影響される思いがけない一次的な動的安定とを見誤りはしなかったということだ。(引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 352~353ページ)

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26.配偶者の理解が得られるか

研究の世界の苛酷さは普通の人にはそうそう理解されません。研究者としてのキャリア形成の困難さに理解を示してくれる配偶者に恵まれたらラッキーなことだと思います。

結婚前、私は未来の妻に打ち明けた。自分にはとても口うるさい愛人がいるが、彼女と別れるつもりはないと。アリエットはかまわないと言った。その愛人というのは、実は学問だった。… どんなときでも、妻は並外れて協力的だった。私が自分の人生をーーーそして妻と子どもたちの人生をーーー賭けにさらすことを彼女が喜んで許してくれなければ、私の一風変わったキャリアは想像さえできなかっただろう。(ベノワ・マンデルブロ)

引用元:参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 303ページ

日常的に科学の基礎研究をするのはとても難しく、たいていの場合は報われない仕事なのだ。職場では自分のやりたいことをする時間などとうてい足りず、土曜日の朝に子どもを野球に連れていかないで一人で研究室に行ったりすれば妻に文句を言われる。(IBM初代リサーチディレクター エマヌエル・ピオレ 1908-2000)

引用元:参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 328ページ

関連記事 ⇒ 研究者の結婚、研究者との結婚

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27.研究したいことがあるか

自然に対する強い興味は、研究者になるために重要な要素だと思いますが、漠然とした興味をある程度具体的なところにまで落とし込んで考えられることが必要だと思います。

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28.押し出しがあるか

研究者として職を獲るのは、生き残りをかけた戦いなわけですが、戦いで勝つためにはこれが必要だったのかと思えたのが、斎藤ひとりさん関連の本で出てきた「押し出し」でした。

大学教員の職を得た人をみていると、研究者の能力や業績とは必ずしも比例していないように思えることもあります。なるほど、そういう人には必ず押し出しがあったなあと思いあたります。

  1. 斎藤一人誰でも成功できる押し出しの法則』(KKロングセラーズ)

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29.それは研究への憧れ・研究者への憧れではないか

研究職への「憧れ」の気持ちで研究職を目指すのは、自分はあまり勧めません。小学校のころに憧れるのならいざ知らず、大学生や大学院性になってまだ研究職に憧れていては、あまりに心もとないと思います。どんな職業もそうですが、なると決めてなるものです。

全てに通ずると思いますが、手に入れたいものに対して憧れてちゃだめです。

(大谷翔平)「僕からは1個だけ。憧れるのを、やめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センターみたらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか。野球やっていれば誰しもが聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、今日一日だけは、やっぱ憧れてしまったら超えられないんで。今日、超えるために、トップになるために来たんで。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、行こう!!」(「僕からは1個だけ…」声出しは大谷翔平!!「憧れるのを、やめましょう」さあ世界一へ [ 2023年3月22日 08:47 ] スポニチアネックス)

30.研究者を目指す自分に酔っていないか

「研究するってかっこいい」、「研究者ってかっこいい」、「研究している自分ってかっこいい」、「憧れの職業を目指して本気で頑張っている自分って凄い、かっこいい」といった、自己陶酔の感覚も、研究者になるうえでは全く不必要なものです。研究してもなかなか思い通りの結果が得られないときに、格好悪い自分になってしまい、簡単にくじけてしまうのではないでしょうか。実験して何か新しい知見を得ること自体に面白味を感じられるかどうかが大事だと思います。

 

参考

  1. 「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』 Q4. 科学者としての素質って何ですか。A4. 科学者の素質は論理性です。  Q5. 学歴と科学者とのしての能力に相関はありますか?A5. かなりありますが、絶対ではありません。 
  2. 「ある著名な音楽家についてのエピソードなんですが、彼のもとへ若者が “自分は音楽家に向いているだろうか” といった相談に来ることがある。そんな時、彼は必ず “ノー” と答える。というのも、本当に音楽家になりたいという熱意があれば、実は向き不向きなど関係がない。自分のところに相談に来るという時点で、そこまでの強い熱意はない、と彼はみなすのだそうです。この話は、研究職を目指す自分にとっても当てはまるな、と感心しました」(東郷雄二 文科系必修研究生活術 ちくま学芸文庫 / 東大生が選んだ一冊: 教科書では教えてくれないことを学んだ本 PHP研究所)
  3. 研究に向いてない学生には全力で就職活動をさせたほうがいいと思うよマジで (はてな匿名ダイアリー)
  4. 修士論文の代わりに退学願を提出してきた (riywo.com Feb 27, 2009):”ということで,さようなら東京大学.”

更新履歴: 20210706 桜井章一『ツキの正体』の中の説明を紹介 20190601 外山滋比古『思考の生理学』の言葉を紹介 20190422 園田翔氏の言葉を紹介  20190312 吉田弘幸氏のツイートを紹介 20190216 塞翁失馬、焉知非福の記事紹介 20190126 一覧から各項目へリンク 20181226 Steven Chuのインタビュー動画を追加 20181107 補足としていた「単純さ、純粋さ」を、20項目めに格上げ 20181006 本庶佑博士のノーベル賞受賞記者会見からの言葉を紹介 20180823 hep.s.kanazawa-u.ac.jpの中の言葉を追加 nanzan-u.ac.jp/~urakamiの中の言葉を追加 リケジョゆうきの活動記録の言葉を追加 20180820 この記事に対するツイッター嬢のコメントを紹介 20180815 「孤独に耐えて、自分の価値を信じ切れるか?」、「人間力があるか?」、「一生スキルアップが必要と心得ているか?」を追加 20180810 ナンバリングがー2から13だったのを1~16に変更 20180605 緻密な論理的思考力と楽天的性格を追加 20180516 College Cafe by NIKKEI 中田亨氏の記事を紹介 20180409 バークレー物理学コース物理(上)の言葉を追加 20180327 小柴教授の言葉を紹介したツイートを追加 20180209 宇澤 達 氏の言葉を紹介 20180127 募集要項を追加  20171118 湯川秀樹『旅人』の中の言葉を追加 20171118 BioMedサーカス.comの記事中の文章を紹介 20171027 九大今井研究室教授挨拶を追加 20171015 イブン・アル=ハイサムの言葉を追加 20170917 SEKAI INTERVIEW 23 水島昇教授の言葉を追加  20170716 WIREDの記事を追加 教授と僕の研究人生相談所の言葉を追加 20170710 東野圭吾『ガリレオの苦悩』の言葉を追加 20170623 広中平祐『生きること 学ぶこと』の言葉を引用 20170406 竹山美宏 数学書の読み方について の言葉を紹介 20170320 言葉遣いを一部修正 20170319 古本 強 研究者への軌跡の言葉、松田康博研究室の言葉、釣本先生の進路相談室の言葉を紹介 0170318 大隅典子の仙台通信の言葉を紹介 20170317 いくつか追加 20170315 長束・鈴木研究室 ブログの言葉を紹介 20170226「発声練習」、「ミームの死骸を待ちながら」の言葉を紹介 20170225 『なぜあなたの研究は進まないのか』の言葉を紹介 20170219 はてな匿名ダイアリーを紹介 20160418 初稿を投稿

 

参考(ツイート)

この記事に対するコメントを多数の方々がツイートしてくださっていますが、その中でも特に自分が共感したものや記事を補完し読者の参考になると思われるものを紹介します。

 

「運」にも関係することですが、今の日本では、研究者としての適性がある人であっても、研究者として生き残れる人はごくわずかしかいないという現実を直視したほうがよいので、お勧めの関連記事も紹介しておきます。

  1. 若者は現状を見切り無謀な挑戦の回避を
  2. アカデミア研究者雇用状況の過酷な現実
  3. 任期が切れた助教はどこへ行くのか?
  4. 職を獲れる研究者になるための20のポイント
  5. アカデミックポジションの倍率
  6. 大学院やポスドク先の研究室の選び方

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アカデミア研究者雇用状況の過酷な現実

研究者・科学者という職業を選択する際には、研究者としての自分の興味や能力を見極めるだけでなく、アカデミックの世界における厳しい就職状況を予め知っておく必要があります。

先日、或る京大教授と話す機会があったのですが、京大理学部の博士号があればアカポスに就ける確率はどれくらいかと聞くと、
「理学部に限らず、医学部でも薬学部でも農学部でも、博士号だけでは、全国どこであれ、研究員や講師になれる確率は0.01%。プラスアルファの能力がなければ」といっていました。( 2006/03/22(水) 20:54:50 kyoto-u.com

アカデミアにおける就職の困難さは10年以上変わっていないのではないかと思います。ただ、博士課程への進学率が近年は激減しているので、これ以上は悪くならないのかもしれませんが。

働けど なお働けど 職遠し
職探し 10年経っても 職探し (詠み人知らず ラボ川柳)

以下、研究者の道に進むことの勧め、安易な進学を戒めるアドバイス、研究者を取り巻く厳しい状況を分析したサイトなどを、内容の一部を引用して紹介します(太文字、下線による強調は当サイト)。全文はリンク先でお読み下さい。情報、工学、バイオ、化学、物理、人文社会など、分野によって事情の異なる部分があります。

 

博士課程進学率の低下

近年では博士課程への新卒での進学者が著しく減少している。博士号を取得した後のキャリアパスの不透明さによって,素養のある優秀な若者に「研究する人生」を選択することを躊躇させているのである11)。実際,世界を相手に最先端の競争を繰り広げている科学者にとって,研究成果が広く社会に認められることが最大のモティベーションであろうが,研究成果がより良い処遇に結びつくという実態に伴う期待感なくしては,研究者という職業を選択することは出来ないだろう。博士号を取得してアカデミアの研究者という進路を選択した場合に,高い確率で任期制雇用が続く一方で,民間企業などでは今なお新卒一括採用と年功序列制度が主流であり,一定の年齢でキャリアチェンジをしようとしても,採用は狭き門となっているのが現実である。(特集●研究者のキャリアと処遇 若手研究者の任期制雇用の現状 小林 淑恵
文部科学省 科学技術・学術政策研究所 上席研究官 日本労働研究雑誌 No.660/July 2015 14ページPDF)

 

大学院(博士課程)進学の勧め、もしくは進学しないことの勧め

私にしても1つの研究を成功させるために、100のテーマを考え、その9割はうまくいかず、残り1割も早い者勝ちで、先に目を付けた課題で仮説と検証を繰り返してきました。それによって培われるのは、問題発見能力と問題解決能力にほかなりません。こうしたトレーニングを5年、10年と続けてきた結果が博士号取得につながります。しかも、これらは汎用的な能力ですから、ビジネスの場でも間違いなく使えるはずです。そして、それが自分の市場価値です。(高学歴ワーキングプア「ポスドク問題」は解決できたか!?   PRESIDENT Online 2017.2.17)

末は博士かホームレスか もしもあなたが日本の大学院の博士課程に進学すれば、周囲からこうささやかれるだろう。なぜならば、たとえ博士号を取得できたとしても、ホームレスにしかなれないぐらいに、今後、余剰博士の問題は深刻になるからだ。(永井俊哉ドットコム 2005年5月21日)

世界中博士課程進学は就職に不利どころか、むしろ有利だよ。僕の研究室の学生は博士課程を修了してから7割程度企業に就職するんだけど、ほとんど彼ら、彼女らの希望通り。東大工学部の場合は博士の就職が悪いというのは、ないね。  (研究と教育〜博士課程のススメ〜 UT-Life  工学部長インタビュー 11-06-05

博士後期課程に進学したからといって、博士号が取得できるわけではない すごくお金がかかる (BLOGOS pucotan 2012年11月21日)

図10大学院生活の懸念(大学院生活の懸念(複数回答可)全国大学院生協議会 2015年度大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査報告書の概要 図10より)

研究室を決めるとき、就職なみに真剣に考えるべき、適当に絶対決め手はいけない。研究室を決める点としては、研究の成果(論文を年間どれくらいだしている か、論文のレベル)、コアタイム、コネから考えるべき。別にブラックでも構わないけど、ブラックのくせに結果が出ない研究みたいなところもあるから (http://iitokoronet.com/2015/12/05/post-4995/)

博士課程とは? 徹底した自己責任,自己管理の世界 … 博士課程と云う教育サービスは不均一極まりないサービスです.  (博士のススメ 京都大学工学研究科機械理工学専攻機械システム創成学研究室 谷口忠大

テーマが良くなかったら、優秀な人でも結果は出せない。テーマの問題で結果が出なくても、責められるのはテーマを設定したボスではなくて、結果を出せない大学院生である。… どこかで日本人研究者が華々しい結果を出したら、政府関係者や多くの国民はそれを褒め称えるだろう。その裏には何人もの大学院生やポスドクの屍が転がってるかもしれないが、そんなところ誰も見てはいない。(■そろそろ大学院生が「日本死ね」エントリを書いてもいい頃合い はてな匿名ダイアリー 2016-03-19)

大学院生が急増して、行き場がなくなっている。大学院(博士)ワーキングプアについて最近はよく知られるようになった。京都大学では、判明分のオーバードクター(博士の学位をもつか博士課程の単位取得者で定職のない者)だけで1,000人を超えている。だから最近の大学教員の公募では、1名採用のポストに50人の応募者はざら。100人を超えるのも珍しくない。大概の応募者は不採用になるから、非常勤講師をたくさんやって、生活するしかない。ところが非常勤講師手当は週1コマの授業で2万5,000円前後(月収)といったところが相場。7コマ以上やってやっと食いつないでいるという話もよくきく。その非常勤ポストも1年契約だから不安定極まりない。かりに運よくアカデミックポストを得ても数年の任期制で、任期が終わればまた元の木阿弥になってしまう。派遣切りの大学教員版である。(竹内洋 第一回 高学歴ワーキングプア教養難民の系譜(1))

IT企業や電機メーカーは他の業界と比べても例外的なくらい博士後期課程学生の採用に積極的であると言えます。(博士後期課程進学に興味をもつ伊藤研関係者の皆さんへ

博士号取得者が大学の教員にも企業の社員にもなれない。ひと昔前なら、首をかしげたくなるようなことが現実に起こっている。いわゆる「ポスドク問題」だが、ポスドク1万6000人のなかで、戦力化していない人材が相当数いるという。ポスドクとは、Postdoctoral Fellow、つまり博士号を持つ研究員である。現場での戦力として、数年間続く研究プロジェクトの間、有期雇用されるという立場だ。年収は350~400万円程度。多くて600~700万円。しかも、約1割は職にさえ就けないという。(高学歴ワーキングプア「ポスドク問題」は本当に解消できるのか!? PRESIDENT Online スペシャル 2015年12月15日 岡村繁雄)

日本学生支援機構は、奨学金と表記するのをやめて、正直に学生ローンと書いて欲しい。(全院協アンケートに寄せられた声の一部 editor 月刊誌『KOKKO』編集者・井上伸のブログ 2015/11/6)

「奨学金が返せず自己破産」。こんな話は今どき珍しいことではない。学生時代に借りた奨学金の返済で苦しむ若者が増えている。(奨学金 やがて悲しき高学歴 返済でワーキングプア地獄 毎日新聞/サンデー毎日 mainichi.jp 2016年2月14日

博士号をとっても就職できませんよ。研究員や大学教員になれるのは一部のごく限られた人のみ。
非正規職員になったところで、奨学金の返済さえできませんよ。(博士課程に進学するか悩んでいます。 発言小町 2011年11月8日)

名だたる大学院を出ても非正規雇用、あるいは無職となってしまう者たちが続々と生まれている。(高学歴プア 東大院卒就職率56%、京大院卒はゴミ収集バイト NEWSポストセブン 2013.01.10

とにかく、なぜか”博士課程の定員を満たすこと”が至上命令らしいのだ。一方、先のことを考えられる学生ほど博士課程に進学しない(ご存知のとおり博士号 とることがむしろデメリットになるから)。結果的に、サイエンスに一生を捧げようというものすごい熱意のある良質の学生と、周りから言われるままに流され 自主的に考えることのできない良質ではない学生が博士号をとる。(夢の島アメリカ アメリカポスドクの歩き方 在米高齢ポスドクが歩む二流研究者へのいばらの道 2012/10/07)

「入院」させれば予算が増える このお達しによって、旧帝大から地方国公立大、有名私大、はては弱小私大までが、定員の確保、募集枠の拡大、大学院の設置といった形で、大学院生増産に飛びついた。その過程で起きたのが、非自発的な大学院進学者の急増だ。すなわち「もともと大学院に進学する“つもりのなかった”人や、若年労働市場の異常な 縮小により、“就職難で困っていた人”が、ずるずると大学院生になっていたということが起こり始めたのだ」。定員を確保するために、指導教官が学部生を一 本釣りするようなケースも少なくなかった、とか。なんとも阿漕な話だ。文部省の目論見は、ズバリ的中。1985年に約7万人だった大学院生は、2006年時で約26万人。少子化で経営難にあえぐ大学にとっても、大学院生たちは格好の金づるとなった。(NBO新書レビュー収15万円の博士たち~『高学歴ワーキングプア』 水月昭道著日経ビジネスONLINE 評:後藤次美 )

博士課程へ進学しようとしている方々へ 悪いことは言わない。絶対にやめておけ。人生を棒に振る確率は極めて高い。(http://www.asahi-net.or.jp/~wk2t-oosw/hakase.html)

もし、博士課程まで進学して研究職に就職できなかったらどうなるか。 博士課程が修了する時には、もう30歳近くになってる。 もはやまともな民間企業での就職はできない。 そのときに就職できるのは、塾講師、警備員、タクシー運転手といった業種だけだ。  … 30歳ぐらいになって、大学のときの同級生は係長ぐらいになって部下が何人もいてそろそろ年収1000万というような人も出てくるというのに、自分は塾講師をやって年収200万行くかどうかの社会の最下層生活。 さらに、そこに奨学金の返済がのしかかってくる。(2chに学ぶ大学院博士課程進学者の憂鬱 世の中のことは2chに聞け!!!

彼女は、ハローワークに行き、求職相談をして派遣会社に登録。求職活動に励んだ。しかし、まったく仕事はなかった。「博士さまを、社員として雇う会社はない」というのが断られる理由だ。…アルバイト募集をみて履歴書を出すと、「こんな高学歴なのに、うちでバイトしたいというのか? ふざけているのか?」と、怒鳴られた。<ふざけるもなにも、私は仕事をして収入を得たい、という当たり前のことを考え、当たり前に職を求めているだけなのですが、私に仕事はありません。アルバイトもできません。(一度レールを外れるとバイトにすら就けない!高学歴ワーキングプアの抜け出せない苦しい現実 DIAMOND.JP 池上正樹)

城: でも僕の知っている、おつきあいのあるベンチャーさんなんかだと、中卒の人と大学院出た人というのが同じでお給料いただいていますよ、1年目で。
ひろゆき: 某ドワンゴ社とかもそうですけれども、中卒と東大の院卒が同じところで働いていますけれども。
城: それでいいと思いますよ。それで成果を出したやつにお給料をボンと払えばいいんであって。
(デキると勘違いしてる大学院卒は「超使いづらい」 ひろゆき氏が語る、”高学歴ワーキングプア”が増えてるワケ logmi.jp/39124)

博士というのは世界で初めて誰も到達してない場所まで登り、そこから新たな景色を見せることができた人に与えられる称号だと思っている。博士課程で行う研究なんて、そうたいしたものではないけれども、でもどんな小さなことであれ、世界で一番になる経験というのはなかなかできるもんじゃない。だから、もし学部や修士課程で研究を面白いと感じているなら、その先の山まで登ってみることは悪い経験にはならないと思う。…博士進学および研究は人生を賭けた博打であり、勝つためには運が多大に必要である。しかし、単に運だけで決まるわけではない。そこそこ得たいものを得て降りることは可能である。研究の過程を楽しく思えてかつ優秀な人には博士進学を勧める。(■退職エントリ(博士進学を考えるあなたに送る、進路に関するあれこれ はてな匿名ダイアリー 2016-12-08)

 

ポスドクの勧め、もしくはポスドクをやらないことの勧め

「今アカデミアにいる奴、それに、それを目指そうとしている学生らは、ある意味で洗脳されているんだ。小中高と学校のお勉強で良い成績を取り、東大や京大なんかの有名大学に進んで、そのままアカデミアで助教、准教授、教授とステップアップして行くというのが成功パターンだと思わされている。」 (アカデミアに未練のある奴の言動はまるでストーカー行為だ 教授と僕の研究人生相談所 第24回 2014年6月30日 BioMedサーカス.com)

2012年度ポスドクの平均年齢は34.6歳(男性34.4歳、女性35.3歳)。2009年度は33.8歳(男性33.6歳、女性34.4歳) でした ので、男女ともに平均年齢は上昇しています。正規の仕事に就けずにポスドクのまま年齢を重ねていく「高齢ポスドク」の存在が、データからも明らかになって います。(一度なってしまうと抜け出せない?!  今も深刻な「ポスドク問題」 転職HACKS 2016.02.08)

40過ぎてポスドクだろうと死ぬまでポスドクだろうと負け組みだろうとなんだとうとそういう頑張る彼でいて欲しいと思っているのです。… 彼は、そんな惨めな思いをして研究はしたくない。海外に行く人間もいるけれどこの歳で海外でポスドクなんてもう将来はない。そこまでして研究を続けたくないと言います。(研究者の夫を持つ方 発言小町 2009年2月3日)

彼は理系のポスドクだったのですが、仕事が順調にいかず、自分自身の悩みや将来への不安が大きくなってしまい、余計なことを考えたくない、一人になりたい、とのこと。また、私との関係についても、「このまま一緒にいても結婚はできないだろうし、迷いながら付き合い続けて私を不安なままにさせておくわけにもいかないので、今のうちに別れた方がいいと思う」と言われてしまい、結局は別れることになりました。 (研究職の彼と別れました 発言小町 2006年6月18日)

24. ホルトノキ 2009/01/20(火) 21:42:35 雑誌「生物物理」の最新号を何気なく手にとって読んだら、「私は42(41だったかも)までPDをした。同僚もそんなものだった。」みたいなこと書かれててビビッた。そして現在は当時より問題が深刻だと書かれていてさらにビビッた。日本オワタ\(^o^)/ (30過ぎても「院生」・「研究員」って…人生オワタ kyoto-u.com 京大生のためのコミュニティサイト 談話室>雑談

2年半ほど付き合った一年程遠距離をしている31歳の彼氏がいます。彼は研究員(ポスドク)をしておりまだ仕事は不安定な状況です。「結婚をいつするのか考えてほしい。」と言い、先日回答をもらったのですが答えは「もし今すぐ結婚したいというなら別れるしかない。今は結婚したくないしあと3年後にしたいかということは保証できない。今ならまだ30歳なので私が他の人をまだ見つけることができる。」と言われました。 (2年半付き合った彼(31歳)との結婚について OKWave 2010-11-10)

ポスドクの懐事情は千差万別である。… 下手な准教授並みに貰っているエリートPDもいれば、いわゆる「無給PD」と呼ばれる収入がゼロのPDも存在する。…多くのPDは年収500万円以下であり、PD内で見れば20%ほどは年収が300万円を割り込むし、100万円を割り込む極貧PDも確かに存在する。(ポスドクのお給料 Pentaroの日記 2015-07-20)

彼はポスドクで、最近「就職に失敗したから別の道を探る」というメールをもらいました。… 私としては、仕事で失敗しても彼への気持ちは変らないと思っていました。しかしながら、最近、毎週お仕事でご一緒している方から、熱烈なアプローチをいただいていて、私の気持ちが揺らいでいます。(ポスドクの彼との結婚は… 発言小町 2008年3月6日)

【鎮魂】やめろ博士進学26【ピペド隊】
1 :名無しゲノムのクローンさん:2014/03/05(水) 09:35:26.16 .net
・給与年合計240万円(ボーナス無し!諸手当て無し!昇給無し!居場所も無し!)
・1年任期で更新禁止!(引っ越し貧乏!減給当然!人間扱い一切無し!奴隷奴婢!)
・失業保険なし。無職でも博士様だろ?優秀なんだから自分でなんとかできるだろうが!
・待遇と身分は中卒土方以下。
・博士課程はお笑い芸人養成学校よりも将来も世間的評価も知名度もない。
・ポスドクの生活は売れないお笑い芸人の付き人の見習いの手下以下。
・民間への就職はブラックベンチャーかブラック企業。
・研究者としての死亡率99%、まさに九九式棺桶。
・東大京大卒は進学を忌避、医学部に学士入学して王侯貴族の生活。
・業績出しても仲良し内輪公募の前にバンザイ突撃特攻自爆散華。
・ポスドクに好きな研究をしてもらう?笑わせんなこのアカデミック(笑)奴隷が。
・それどころか任期制で足をすくわれ、ボスのストーリーに合うデータを創造することは基本です。
・フォトショップ駆使の技能は必須。
・科学者の良心に基づいてボスに対して意見を述べると公開銃殺刑にされます。
・そして最初からいなかったことにされます。
・セイフティネット? なんですかそれ?
・自殺行方不明者、8%? 桁が一つ違ってなくね? (http://ai.2ch.sc/test/read.cgi/life/1393979726/)

【修正版】 創作童話 博士が100人いる村

博士進学することを決めた時期にわたしが教えてもらったのが「博士が100人いる村」でした。これは博士号を取得した人の進む道の割合を、村人に例えて示 したものです(上のリンク&動画参照)。最後の方は統計的にデータが取れなかった、ということだと思いますが、博士号取得するのも、した後も、そう簡単で はないのだな、と考えさせられるきっかけになりました。([連載:五十嵐悠紀⑩] 博士号取得者の約1/5が進む道! 知られざる「ポスドク」の正体 エンジニアTYPE 2012/01/06)

13 : sqrt@hatena 2013/11/11 23:19:18 確かに元ネタはデータを恣意的に解釈した与太話ではあるんだけど、科学のプロであるはずの博士連中がそのネタに乗ってくるのは、それが 圧倒的にリアルだから、つまり卒業後の消息が不明な同期が事実一杯いるからでは
26 : white_rose@hatena 2013/11/12 08:04:16 行方不明ってそういう意味だと思ってたし、別にデマとは言わないと思う。それに連絡を絶つってあんまり良い状況じゃない場合が多い
38 : wideangle@hatena 2013/11/12 20:56:44 こういうデータでの”不詳”、あんまりろくでもない状態のことが多いから回答を返さなかったりになるのも多いであろうからデマってほどでもない気もしてくるので困る。 (博士課程修了者の多くが行方不明・死亡したと称するデマについて ねとなび

 

海外ポスドクの勧め、もしくは海外ポスドクをやらないことの勧め

海外のLabで自分が研究すれば2年ほどでCellやNature、Scienceに論文が出るものだと思っていた。(無題 執筆者:-  研究者の声:オピニオン BioMedサーカス.com 2012年6月21日更新)

海外武者修行のモチベーションは世界トップレベルの研究者になる!である(はずです).であれば目指すのは関連分野のトップの研究室です.ここではトップであるだけでなく,そこでなければできないオンリーワンの技術やノウハウを持つ研究室を選ぶべきです.(引きこもるな若者!―海外武者修行のススメ― 三浦 篤志 生物工学 第91巻

極端にいえば、海外に行くか迷ってる時点であなたは平凡な研究者の可能性が高いのだ。だから、迷ってる若者には海外にいくなとアドバイスする。… CNSなんか考えずにそこそこの雑誌を目標にして研究をするならば、上に上げたメリットは一つも必要がないのだ。ところが、デメリットは平凡な研究者にこそ重くのしかかるのだ。(若者が海外にでないほうがいい理由 アメリカポスドクの歩き方 在米高齢ポスドクが歩む二流研究者へのいばらの道 2011/09/18)

「研究留学術」によれば、日本人研究留学者の海外ポスドク開始時の平均年齢は32歳らしい。27歳と32歳じゃあまり違わないような気がするかもしれない が、全然違う。例えば27歳でアメリカでポスドクに来たとすると、例えば3年くらいノーペーパーでもまだ30歳。もうワンチャンスある。ボスとうまくいかなくても、すぐにラボを移って気分一新もできる。これが32歳でアメリカでポスドクに来て3年ノーペーパーだったら35歳。もうあとちょっと、という見込みのあるデータが出ていればいいかもしれないが、泥沼にはまっていたらかなりやばい。… 私は個人的にはポスドクの次はPIになるのが目標なのだから、32歳の時点でまとまった業績があったら、わざわざ留学せずに日本でいいポジションを探すか、留学してもいい話があればすぐに乗るほうが賢いと思う。(27歳、海外ポスドクのススメ Research Abroad)

非MDの人にとっては、ポスドク1万人計画のおかげで、有期のポジションが増えた反面、常勤のポジションの競争が激烈になり、海外に渡って長期的に業績をあげて、よいポジションを狙うより、日本に残ってコネを大切にした方がよいと判断する人が増えた。(研究留学ネット管理人のブログ  2010年10月20日)

ポスドクの生活は、ラボでの研究が9割以上を占めるのが普通です。従って、そのラボのボスの人格・研究能力・経済力によって、自分の将来までもが左右されることを頭に入れておいてください。(アメリカ研究サバイバル(前)良いポスドク先を見つける方法 kagakusha.net

夫はアメリカの大学で職を得ると言っておりますが、どうにも難しそうです。彼のボスからも「英語力が足りない」と指摘を受けています。夫の言い分としては「今、日本に戻っても研究者としての職がない」の一点張り… (夫ポスドクin海外、今後の生活はどうなるんだろう。教えて!goo 2008/01/12)

論文はそれなりにあるとは思うのですが、うちの夫に日本での明るい未来はあると思いますか?  … 生物系だと、NSC(Nature, Cell, Science)に筆頭著者として論文があることが最低条件でしょう。私はこの条件をクリアしていますが、日本ではPI職に就けませんでした。つまりその 程度の業績のポスドクは、はいて捨てるほどいるのです。今では、任期制のPI職が終わったあと、行く先がない、ポスドクに逆戻り、という話も珍しくないご 時世です。(ポスドクの夫の将来が不安です。 発言小町 2007年8月10日)

 

任期付き大学教員のキャリアパス

特任助教をやめて学振研究員になるか? (特任助教をやめて学振研究員になるか? 2015年4月6日)

特任の付かない教員=専任教員(運営交付金による)
特任の付く教員=特定有期雇用教員(寄付金等の特定の経費による)
というように区別される。(特任教員(特任教授、特任准教授, 特任講師, 特任助教)とは何か?)

准教授になれなかった助教は、その後どういう人生を歩むのでしょうか?
はっきり言って30代後半では手遅れです。普通は上に行けなそうと判断した時点で、大体30代前半でさっさと民間に就職します。民間企業の博士に対する採用意欲はそれなりに高いですよ。これが30代後半に入ってからは全くありません。(YAHOO!知恵袋 2015/5/10)

アカデミック人材の育成における問題点(若手研究者支援・研究支援人材活用を通じた日本の科学技術を高めていく方法論の提案より)

ポスドク・任期付助教が研究人材の巨大なプールを形成しているが、その出口は限定されているため、プール内での循環、高齢化が進行中である。特任ポスト、任期付き助教からポスドクへの逆戻りは珍しくない。(若手研究者支援・研究支援人材活用を通じた日本の科学技術を高めていく方法論の提案 日本学術会議若手アカデミー委員会 (有志))

「もし、この面接で失敗したら、僕の人生は終わる・・・」両親や彼女の顔が浮かびました。(任期付き大学助教です。アカデミックポストを諦め、民間企業に転職しました。任期付助教の転職 2012年12月20日

現在、任期付き職員(大学の助教)との結婚を考えているものです。私はできれば結婚して家庭に入りたい(子供も欲しい)と思っているので、彼には任期がない職を考えてほしいと伝えたところ、大学には任期のない職があまりないので難しいと言われました。(任期付き職員との結婚 発言小町 2011年1月12日)

僕「ところで相談者は、お付き合いしている男性が自分が任期がある職についているから結婚に躊躇しているのでは、と推察していますが、どうなんでしょう?」
教授「俺は超能力者じゃない」 …「… 相談者は自分の気持ちを正直に伝えるだけでいい。で、それでも彼氏が躊躇するならば、静かに身を引いて次を探せばいい。躊躇するということは、彼氏にとって相談者がなんとしても一緒にいたいと思える相手ではなかったということだ。…」 (教授と僕の研究人生相談所 第63回(更新日:2016年3月28日))

 

研究の世界の厳しさについて

研究者として生き残っていくのが至難の技であることは歴然たる事実である。強いモチベーションを持ち、才能に恵まれた者が研究者としての生き残り を賭けて不断の努力をし、その上で運にも恵まれたほんの一握りの者がようやく研究職を得られるというのが現状である。… ずばぬけて才能ある学生ですら、運に恵まれないために消えていってしまうという例はまったくめずらしくない。研究者を目指す学生は、このような厳しい道を歩んで行く世界に身をおいていることをしっかりと認識し、決して受け身の研究をせず、自分の心の底から沸き上がってくる研究への欲求を糧にして、どのような困難な道にも立ち向かっていき、結果的に研究者になれなくても後悔しないと思いきって突き進まなければならない。… 血のにじむような努力によって運よく才能が開花すれば研究者への道が開けるかもしれないし、たとえできる限りの努力をしたからといっても研究者になれるとは限らない、そして、なれない場合の方が圧倒的に多いという現実をしっかり受け止めている必要がある。誰でも努力さえすれば 研究者になれるというような甘い世界ではない。(太字強調は当サイト。研究者になるにはTaka Matsubara, Nagoya Univ.

 

参考

  1. 生物科学学会連合 生科連からの<重要なお願い> (PDF) 生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い 今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください。平成27 年4 月(第二版) 生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会
  2. 学校基本調査-平成27年度(確定値)結果の概要- 調査結果の概要(高等教育機関)
  3. 高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)(水月 昭道 2007年 光文社) ”非常勤講師とコンビニのバイトで月収15万円。正規雇用の可能性ほぼゼロ。”
  4. 月収15万円の博士たち~『高学歴ワーキングプア』 水月昭道著(日経ビジネスONLINE NBO新書レビュー 評:後藤次美):”本書は、「高学歴ワーキングプア」が、ある政策の犠牲者たちであることを明らかにしている。その悪名高き政策こそ、文部省(当時)が90年代初頭に旗を振った「大学院重点化」だ。大義名分は「世界的水準の教育研究の推進」。国際的に見ると貧弱だった大学院を強化し、優秀な研究者や高度な専門性をもつ職業人を育成することを目的としていた。”
  5. 厳しい現実、ブルースに 大学で歌う授業を展開 痛み共有する力伝える (47news.jp 2013.06.25):”幸い、授業の評判も良い。終了後、学生が寄ってくる。「先生、面白い。話がしたい。いつもはどこにいますか?」 「最初はつらかった」と佐藤は言う。所属する大学がない非常勤講師に、自分の研究室はないからだ。毎年、同じ質問を受け続けるうち、04年ごろに言葉が口をついて出た。「目の前にいるよ」。「非常勤ブルース」はこうして生まれた。…1コマ90分の報酬は7000円程度。月4回で約2万8千円。にもかかわらず講義準備や提出物の採点といった関連仕事は数多く発生する。12年度は、明治学院大、大正大、母校の立教大などで計8コマを担当、首都圏に点在するキャンパスの間を走り回った。研究時間をひねり出すのも大変な忙しさだが、非常勤講師としての年収は200万円台前半にとどまる。”
  6. 日本の科学研究の問題点~ブラック企業のような構造と研究者が抱える雇用不安~
  7. ポスドクからポストポスドクへ(<シリーズ>”ポスドク”問題 その12) PD2PPD(Network Pages for Professional Development of Physicists) 円城 塔 Enjoe Toh (日本物理学会誌63(7)2008年)

 

更新 20170312 生科連からの<重要なお願い>平成27年4月(第二版)のリンクを追加、PRESIDENT Online 2017.2.17を追加 20170218 はてな匿名ダイアリーを紹介 20170207 教授と僕の研究人生相談所を引用

大学教員公募が必ずしも公募でない理由

 

100通の お祈り手紙に 心折れ (詠み人知らず ラボ川柳)

父親からのアドバイス⇒【世間の常識】募集が出たときには採用される人は既に決まっている


応募する側から見ると、大学の人事は実に不可解ですが‥

 いいかベイベーきいてくれ。人事の数だけモノサシがあるんだよ。大学教員公募戦線仏恥義理シェキナベイベー

下のウェブ記事にも教員人事の本質、オファーを勝ち取るための具体的な戦略に関するアドバイスがあり、落ち続けている人にとっては認識を改める助けになる内容だと思います。

公募に落ちた時「なんで自分が」と思うということは、自分の業績に自信があるのでしょう。それは素晴らしいことだと思います。しかし、それが人に評価されるかどうかはまた別の話です。ここでいう評価とは、「その研究が素晴らしい」ということより、「この人を採用したいと思うか」という点が重要です。どんなに優秀でも、その公募で必要とする人材にマッチしなけれは採用されません。(研究者として生きていくコツ gist.github.com/kaityo256

 

大学教員になるための熾烈な競争

博士号を取得した人の多くは研究者として生きることを望みますが、アカデミアで常勤職を得るのが非常に困難な状況は依然として続いています。

かなりの数(数十~数百のオーダー)の応募書類を書き,ほぼ全ての大学から不採用を告げられ,いくつかの大学から面接に呼ばれ,そのうちの一つの大学からオファーをもらえば,例えその大学が何処のどのような大学であろうと御の字と考えなければならないのが現状である.【大学教員への道】有益な書籍・サイト akt37 2013年9月7日

関連記事 ⇒ アカデミックポジションの倍率はどれくらい?

大学教員”公募”の実態

日本の研究力を強化するには、優秀な研究者が公正な競争の結果PI (Principal Investigator)の職に就けて、さらに自分の研究を発展させられるような体制を整備することが必要です。しかしながら、現実はというと、大学の教員募集要項で「公募」と称しておきながら実際には公募でないことが多いという強い不満の声が聞かれます。

大学教員の採用については、形式的には公募制がとられていても、その情報の流通が十分でないために、結果として閉鎖的な人事が行われている場合もあると言われている。大学における教育研究の活性化のために 文部科学省

公募の偽装を公に認める大学はないでしょうが、まずは現実を直視するところから始めないことには、対応策が見出せないでしょう。以下では、公募出来レースの真相、問題点、応募者への現実的なアドバイスなどを議論している、インターネット上の有益な記事を紹介します。

さらに頭に来るのは、「公募」と称して自分も参加したポスト獲得競争において、明らかに自分よりも業績や能力に劣ると思われる候補者が選ばれることをしばしば経験することでしょう。そのたびに、この国にはフェアな競争がないと絶望的な気持ちになることは想像に難くありません。
ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日

このブログ記事では興味深い議論がなされており、論文業績の格差にも関わらずなぜ内部昇進が行われるのかの内情を説明するコメントが紹介されています。

多くの教員は業績があって採用されて、その後成果を上げられなくなっていっています。特に最近は。なぜか?まず週に講義を5-6コマ担当し、入試・教務・学生委員会など委員に選ばれれば必ず出る必要のあるさぼれない委員会や会議が週平均1.5回くらいあります。校費は昔は100万以上あったのが今は10-40万です。大手の大学と違って、卒業研究の指導も教授自ら真剣に手取り足取りやる必要があります。そのうちちょっとデキの良い学生は大手の大学の大学院に行ってしまい、自分のところには誰も来ないか、来ても2年間バイトにあけくれるモラトリアム組です。そして、論文も急速に出なくなり、着任当時は当たっていた科研費も次第に当たらなくなります。 ここで公募で(場合によっては所属ラボのお陰もあって)すばらしい業績をもつポスドクと競っても、地方で苦労して教育と運営をしている教員は負けるでしょう。しかし、そのポスドクも慣れない教育と運営に四苦八苦しているうちに結局は前任者と同じ運命をたどるでしょう。 そこで現場で行われているのは、公募条件を厳しくして当該内部候補しか当てはまらないような募集をするのです。ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日

地方大学ならではの悩みがあるようで、実際に公募要項にもその理解を求めるような記述をしている大学もあります。

応募資格(3)地方大学の現状を理解して教育・研究および大学運営に対応できる者
岩手大学は男女共同参画を推進しています(http://www.iwate-u.ac.jp/gender/)。 …
(https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D115080098&ln_jor=0)

公正な審査をすっ飛ばした結果、最悪の事態を迎えたのが、あのSTAP細胞事件でした。小保方氏がリクルートされたときの状況が詳細に報道され、公募の実態の一端が一般の人の目にも明らかになった珍しい事例です。

2)運営における不誠実なヤラセ行為を止めよ
私は、STAP問題にあった背景の本質の1つは、「人事」であったと思っています。ところが、メディアなどでは、これを真正面から取り上げた記事を見たことがありません。1つは、小保方氏をCDBのユニットリーダーに採用した「出来レース」。これは、理研CDBの関係者は「出来レースではない」と言い張るが、本当でしょうか。幹細胞の分野のPIを募集するという「公募」の英文を書いたのは、一体誰だったのでしょうか?昨今の科学研究体制への苦情と提言 わがまま科学者 2014年12月29日

RIKENですらこうなのですから、偽装公募の問題は地方大学に限ったものではなさそうです。公募だったはずの人事が、フタを開けてみたら内部昇進させていただけだったという例は、首都圏にある日本有数の研究大学でも見受けられます。学生を優れた研究者に育て上げることが期待される研究大学であれば、PIの任用にあたっては極めて高い研究能力(=研究業績)が要求されて然るべきなのですが。

自分が教官となって自覚させられることは、研究成果を挙げていない人間が大学院の学生を指導できるわけがないということの一語につきる。
新大職組新聞1996年3月29日【検証・大学改革④】「同情するなら職をくれ!」その後ー研究妨害とはこのことだ 露崎史朗(元大学院自然科学研究科)

業績欄のレベルについては、今の日本の助教(40歳前後)はおろか、准教授(45歳前後)でも今のポスドクよりも業績欄が寂しいことは珍しくないように思います。… 結局、現在のバイオ業界は、ポスドクが次のステップに行くための業績の最低ラインだけを著しく上げている(Nature/Cell /Scienceクラスの論文が必須)にも関わらず、いったん助教や准教授となった人たちは過剰なまでに守るという図式になっていて、これこそが、今のポ スドク就職難の原因なのではないかと思います。(BioMedサーカス.com 研究者の声:オピニオン 2013年12月15日更新 執筆者:ポスドク@関東地方)

下のツイートのように助教→講師→准教授と上がっていく人がいるときに、もしそのポジションが公募で出ていても既に当確の人がいるわけですから、業績で上回るポスドクが応募したとしてもチャンスは無いでしょう。フタを開けてみたら「内部昇進かよ!」という例は私大に限らず国立でも見たことがあります(首都圏の超有名な研究大学)。

 

みせかけの公募はいつの時代にもあるようです。

また,ある地方に県立大学が開設されることになり,学会誌の求人欄にて,その教授や助教授の募集の公示が出 ておりました。それには,ちょうど私の専門分野に関係する部門のポストがありました。 当時の私は,一応の論文数もあったので,教授職に応募するべく自信 を持って書類を作成し,大学開設準備室へ送付しました。 しかし,締め切り後,面接の通知もなく,一ヶ月ほどして紙切れ一枚の不採用の通知。なぜ不採用な のか自分でも疑問に思えてなりませんでした。
ところが,翌年に開設されたその大学の教員リストを見ると,なんと,全部,地元の旧帝大のOBであることを知り,唖然とし,腹立たしさも覚えまし た。 しかも,私が応募した部門の採用者の業績はそれほど多くはありませんでした。 結局,その採用者以外の応募者ははじめから「当て馬」であり,利用さ れただけでした。
公募には,「候補者が決まっているが,公募で採用を決めたという形式にする」ためのものと,文字通り「広く門戸を開いた完全に平等な人材募集」の2種類があることを,そして,いずれの場合でも,複数の著名な方々からの推薦書が絶大な効果をもたらすことを,私は学びました。大学院博士課程のあなたへ、たやすく研究者の道、諦めないで! 大槻義彦の叫び  2015-07-12

こうなると公募に応募書類を出す意味がどれだけあるのか、ということになりますが。

公募の体裁を取っていながら、実際は出来公募だったり、教員選考委員にコネを持った他の応募者がいるので、面接に呼ばれてもコネがなければ採用に至るのは難しく連敗を重ねてしまうことが多いようだ。しかし、デキ公募でも選考委員全員の意見が「デキ公募」で完全に一致していることは稀である。即ち、公平に選考しよう(したい)と考えている選考委員は少数だが存在する。
(私の公募に対する心構えメモ http://www.geocities.jp/ryannmaryu16/point.html

運、縁、コネの重要性

就職において人間関係が重要というのは普遍の真理です。

しかしほとんどの場合、多人数の横並び状態です。私やあなた程度の研究者はたくさんいるのです。ドングリの背比べの中で採用の確率を上げるプラスアルファが縁なのです。
 縁は作ることができます。方法は単純で、真摯に他人と関われば良いのです。ただし他人と関わるだけでは、縁は作れません。真摯な態度が必要です。真摯と言っても、何か高度なことではありません。裏切らない、見下さない、見捨てない、卑屈にならないなど普通のことを実践すれば良いだけです。
 一方、他人と関わるには動かねばなりません。学会や研究会、勉強会など人が集まる場にコミットする必要があります。研究室に居るだけでは、あなたを知るのはあなただけです。「コミットする」とは、参加だけを意味しません。討論で質問したり、懇親会で話をしたりを含みます。そこであなたの存在は他人の記憶に刷り込まれます。他人に認知されて初めてあなたは何者かに成るのです。
 科学者を志す人の多くにとって、そういうのが億劫なのは良く分かります。しかし、研究内容は第一に論文、第二に学会発表で知らせることができますが、その他の属性については直接関わって知ってもらうしかありません。温和な性格、鋭い頭脳、辛抱強さ、責任感の強さなどの良い属性を書類で伝えるのは難しいでしょう。ところが教員採用の場合、研究業績がコンパラブルであれば、案外そういう部分が大事な要因なのです。その部分がまさにプラスアルファです。(どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室ブログ 2016年07月12日)

Q. やっぱりコネ?
A. はい.私も大学人になってから身に染みて感じていることなのですが,“採用する側として” も,やっぱりコネが必要です.というのも,僅か1名の教員を採用するのに,どこの馬の骨とも知れない人を引っぱってくるよりも,「私が保証しますから」という内部の推しがあったほうが採る側としては安心なのです.
大学教員になる方法3 Deus ex machinaな日々 2011年9月27日

今回の公募もコネ公募ではなく、JREC-IN を見て応募したガチ公募でした。しかし、応募してからわかったことでしたが、受け入れ先の教授の先生は、私と深いつながりのある先生と、かつて同じ研究室にいたことがあったそうです。常にシンポジウムで顔を合わすような先生ならたいてい知っているわけですが、現在の互いの研究がそこまで似ているとは限らず、意外な接点というのは把握しきれません。今回はその深いつながりの先生の名前を「所見がもとめられる研究者」として挙げたわけではなかったのですが、ちゃんとその先生にも調査が入っていました。なので、応募した私としては完全なガチ公募ではあったのですが、採用側や上のほうの先生たちの間で様々な思惑 (コネ的な側面) が本当になかったのかと言えば、どうなのかなあ、という印象は持っています。… 「コネも実力のうち」と言われることもありますが、本当にそれに近い話で、さらに「コネも運のうち」とも言えるんじゃないかなと思いました。というのは、コネというのは自分で把握できるようなものだけではないからです。自分のコネだけでなく周囲の人間のコネも大いに関係あります。雇う側として、身元が確かな人のほうが安心するのは自明です。
教員公募、内定をもらって思うこと  研究者って自称ギタリストと何が違うの? 2015-01 19

Q:コネなしでアカデミックポストに就くことなんてできるんですか? (YAHOO!JAPAN 知恵袋 jackruccelさん 2008/4/2702:14:30)

A:公募でよい人が応募してくるとは限らないので、あらかじめ選考側からよさそうな人を探して、公募に出さないかと勧誘することも多いです。自分たちだけでわからないときは、周りの大御所に誰かいないかと聞きます。どちらにせよ、大事なのは名前が思い浮かぶような存在であることです。… コネは厳然として重要です。… 偉い人の頭の中に浮かぶような存在感が必要なのです。共同研究や学会活動を通じてよく知られている、好感持たれているというのも含めての「コネ」です。(YAHOO!JAPAN 知恵袋  tecnical_errorさん 2008/4/2708:49:46)

 

公募により教員を採用していることを明言している大学もあります。

また、オホーツクキャンパスでは公募制に切り替えてから、採用目的に合致するか期待以上の研究能力と教育者としての資質をもつ人材が得られるようになってきた。その結果、当該学科・研究室の研究レベルや教育レベルが向上しつつあり、全体が活性化し始めている。さらにこれらの人材は現在進行中の学部・学科再編のキーパーソンになりつつある。今のところ、公募制の長所だけが目立ち、短所は表面化していない。教員選考手続における公募制の導入状況とその運用の適切性 東京農業大学 自己点検評価書

 

大学側のニーズを汲み取ることの重要性

公募が本当に公募なのか、公募でどんな人材が求められているのかは、ひとえに採用する大学側の都合であり、応募する側には知りえないことです。

公募広告が出ていても実は候補者がいたり、内部昇進を形式上カムフラージュするために公募したりと、ようするに「デキレース」とか「見せかけ公募」ってえのがあるのわ確かだ。でもなベイベーきいてくれ、デキレースかどうかなんて、応募するおいらたちにはわからねえのよ。だから、あれこれと余計なことを考えている暇があったら、応募すりゃいいじゃねえか!デキがいいとか良くないとかいった制度批判もすぐに過熱する傾向があるぜ。気をつけるんだな、そうゆう議論に時間を奪われちゃあいけねえぜ。そいつは貴重な公募応募活動時間の浪費だ。目をさますんだシェキナベイベー!! デキレースかどうかなんてかんがえるんじゃねえぜ! 大学教員公募戦線仏恥義理シェキナベイベー

一流の研究実績を持つ人物を求めている人事だったら研究実績だけ見て教歴は考慮されないかもしれないし、教育指導に優れた人物を求めている人事だったら研究実績はそんなに重視されないかもしれない。それだけのことサ。学位をとってから民間企業の研究所だとか公的機関だとかで研究に専念してきた研究者が大学教員になる例は珍しくない。助手の経験もなく、講義の経験もなく、大学独特の教室運営に関する経験も無い彼らに求められているのは教歴かい?それとも研究能力かい?
いいかベイベーきいてくれ。人事の数だけモノサシがあるんだよ。人事の数だけものさしがある 大学教員公募戦線仏恥義理シェキナベイベー

大学の都合は別として、採用する側から見た理想的な候補者像はというと。

採りたいと思う候補者には、共通点があることに気づきました。その共通点は複数あるのですが、まず挙げたい点は、採用された場合、自分にどのような役割が期待されているのかをしっかりと自覚しているということです。これは、単に担当する科目がわかっているというようなレベルではありません。所属することになる学科やセンターの教員構成やバランス、学生数等を把握し、自分の専門性や年齢等を勘案して、求められるポジションや役割を自ら見出しているというようなものです。そして、そのビジョンが、こちらの要求と合致している、あるいはそれ以上のものであるという共通点です。
(大学教員公募の面接(実施側の立場) 大学の教員生活 2012年11月16日)

一方でポスドクを経て次のテニュアトラックに臨む場合、求められる像は異なる。基本的に学科・学部のスタッフの一員としての職を担うことになるからだ。多少のばらつきはあるにせよ、研究だけではなく、プログラムの運営など範囲の広い貢献が期待される。数年間のポスドクを経ても、そういった全てを担える経験 が備わっている事はほぼなく、それは面接する側も理解している。だから面接ではこれら全てを担えるか、その素養を計られる(国立研究機関などであればまた変わってくるとは思うが)。要は研究グループへの貢献だけではなく組織への貢献の期待。恐らくはこの点がポスドクの面接とテニュアを得るための面接の大きな相違点と思う。テニュアを得る際の面接では、この違いを明確に理解して、自分に何が欠けていてそれを補う意欲、補わなくては話にならないという理解を明示する。
アカデミア永久職獲得まで(3) 勢い余って話し過ぎないこと Kagakusah.net 2014年5月11日

募集側にいる大学教員との感覚のズレ(温度差)を埋めるためには,日頃大学という場所で,どのようなことが問題になっているかを知ることは有益であると僕は考えている.例えば,次のような言葉の意味を簡潔に説明できるであろうか.●高大接続 ●リメディアル教育 ●FD(Faculty Development) ●SD(Staff Development) ● JABEE ●ティーチングポートフォリオ ●アドミッションポリシー ●カリキュラムポリシー ●ディプロマポリシー ●AO入試   ●大学設置基準 ●教養部 ●リベラルアーツ ●グローバル化 ●全入時代 ●割愛採用 ●マル合教員  ● ....知らない言葉がある公募戦士には,大学教育や大学改革に関する本を何でもいいから一冊読むことをお勧めする.【大学教員への道】有益な書籍・サイト akt37 2013年9月7日

 

職には呼ばれるもの

コレ―ジュ(コレ―ジュ・ド・フランス)で君のやった講演はすごく印象がよかったし、その印象はずっと続いている。フランソワ・ペルーが退職して、そのポストが空いた。候補者はたくさんいんるのだが、いずれもぱっとしない。われわれの中で、君を推す者が何人かいる。君がぜひやりたいと言えば選ばれるはずだ」(ベノワ・B・マンデルブロがアンドレ・リシュネロヴィチから受けた電話)

引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 397ページ

公募といっても採用側は事前にめぼしい人に目をつけて応募を促したり、それこそコネを駆使して良さげな候補を事前に探すようなので、その段階で声がかからない人にはほとんどチャンスがないのではないかと個人的には思います。

それは、2017年1月のことでした。私は、東京大学教養学部統合自然科学科・学科長、大学院総合文化研究科・広域科学専攻生命環境科学系・教授及び同研究科人事委員会・委員長を務められている先生より、お電話で、私の教授としての採用が決定したことと、着任が6月初旬となる見込みであることを告げ、「来て下さいますね?」というお言葉をいただきました。 …  この公募に応募しないか、と人事委員の中の先生よりお声がけいただいた当初より、私が応募する場合は兼任が必須である旨をお伝えしてありました。(東大から「内定取り消し」を受けた大学教授がどうしても伝えたいこと 2019.03.01 現代ビジネス)*太字強調は当サイト

逆に言えば、公募に出し続けて玉砕を繰り返すよりも、公募が出る前に事前に声がかかるような人間になるにはどうすればよいかに注力したほうが、職を得る早道かもしれません。

 

関連記事 ⇒ まだアカデミアで消耗してるの?【博士の転職】

 

【世間の常識】募集が出たときには採用される人は既に決まっている

世間の表面に出てきたときには、全て終わっているんだよ。体裁を整えるために募集をかけて試験をやっているだけなんだから。だから、声がかかるように普段からそういう活動をしておかないとだめ。試験で優秀な人間が採用されるわけではない。」大学教員の職探しが熾烈なことを父親に話したときに、父親はそう言いました。「それが世間の常識なのに、お前は何を今頃寝ぼけたことを言っているんだ」と呆れられました。父親は学校を卒業するとき商社や銀行を受けたらしいのですが、採用された人間はみな親戚などが事前にその会社の上層部に根回ししていた人だけだったとのこと。その体験によって世間の常識を学び、それ以降はその常識に従ってこれまで生きてきたので、職探しで困ったことはないそうです。これは、民間の話ですが。職が得られなくて苦しんでいるのは、研究ばかりやってきて、こういった世間の常識をわきまえていない研究者だけなのかもしれません。

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参考

  1. 人事の数だけものさしがある 大学教員公募戦線仏恥義理シェキナベイベー
  2. 大学教員公募についてのメモ 私(52連敗)が大学教員公募で内定ゲットするまでの履歴やメモ
  3. どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室ブログ 2016年07月12日
  4. 教員公募、内定をもらって思うこと (研究者って自称ギタリストと何が違うの?クソ田舎助教から、政令指定都市に逃亡しました 2015-01 19)
  5.  JREC-IN利用者座談会開催報告2012年3月24日@JST東京本部
  6. 【大学教員への道】有益な書籍・サイト akt37 2013年9月7日
  7. 大学教員公募の面接(実施側の立場) 大学の教員生活 2012年11月16日

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ブラック企業の構造と研究者の雇用不安

先日、京大の山中伸弥教授が、「京大iPS細胞研究所は、これが民間企業ならすごいブラック企業」という表現をしたそうです(記事)。しかし、これは決して京都大学のiPS細胞研究所に限った話ではありません。研究者の雇用不安は、現在の日本の科学研究全体を覆う非常に深刻な問題です。

ブラック企業とは、定義にもよりますが、労働者を劣悪な労働条件で酷使し、峻烈な選別を行い、非情に使い捨て、組織だけが成長するような会社のことです(参照:コトバンク)、これはそっくりそのまま今の研究の世界にも当てはます。

研究室では、任期付きの研究者は少しでも早く成果を出さないといけないので必然的に長時間労働を強いられます。ポスドクの報酬は年齢や学歴からは一般の人が想像できないくらいに低く、時給換算したら国が法で定める最低賃金並みになります。ポストの数があまりにも少ないため、ある程度の成果を挙げたとして もそう簡単に定職は見つかりません。任期が切れたり財源が途切れれば、ボスが温情を施したくても研究者はラボを去らざるをえません。しかし買い手市場のおかげで研究室はまた新たな労働力を調達して存続し発展できます。現在の日本の科学研究において、研究室というのは構造的にブラック企業そのものなのです。

ブラック企業の場合は経営者の人格や経営姿勢が問われるところですが、研究室の場合は教授の人柄が良く部下思いであったとしても、現在の研究制度が抱えるこの構造的問題をどうすることもできません。

日本の科学技術政策に関する提言の中では、「至高の科学力で世界に先んじる」とか、 「世界的な卓越した教育研究拠点の形成」などと非常に耳当たりの良いフレーズが飛び交っていますが、人生設計もままならずに不安に苛まされているポスドクや任期付き教員ばかりという暗澹たる研究の現場で、そのような崇高な目標が本当に実現し得るのでしょうか?

”ポスドク等の約40%の年収は400 万円以下である。また半数以上が退職金や住宅手当の支給を受けられない。”

”任期制であることが結婚、子どもを持つこと、住宅購入などに影響すると考えている人の割合は70%もしくはそれ以上”

“1週間の労働時間は平均54.8 時間、40%以上が60 時間を超え、100 時間を超える人もいる”

”13%程度が自身もしくは配偶者の実家から経済的援助をうけている。年齢別では41 歳以上の人、また子どもの有無別では子どもがいる人が実家から援助を受けている率が高く、…”

“給与の財源は文部科学省研究費助成金( 26% )、その他の競争的資金(22%)、戦略的創造研究推進事業とグローバルCOE プログラム(それぞれ8%)が多く、上司の研究費による雇用が中心である”

“78%の人が次の職を探している。…大学や研究所での求人が少ないこと、公募していても形式的で内部昇格が多いことを危惧している。” (引用元:生命系における博士研究員(ポスドク)ならびに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題 平成23年 日本学術会議題)

「世界最高水準の卓越した研究」の担い手の多くが、1年契約で年収が300万円台のポスドク(博士研究員)や時給1000円程度のラボテクニシャン(技術員) だったりするのが実際のところです(人件費の財源や機関にもよる)。しかも、彼らは成果を挙げても、どれほど優れた実験技術を持っていても、何歳になっても報酬は増えず生活の保証もありませ ん。せめて、能力や成果に応じてパーマネントの職を得る機会や、昇給の機会を与えるような人事制度へ早急に変えない限り、日本の科学研究は国際的な競争力を失っていくでしょう。

“ポスドクを複数回繰り返す35 才以上のポスドク(シニアポスドク)が2012 年の調査で全体の37.1%に達しています” (引用元:生科連からの<重要なお願い> 生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会

「酷使」や「使い捨て」というのは認識の問題もありますが、日夜研究に勤しんで、(少なくともボスがその地位に安泰で居られる程度の)論文成果(インパクトファクター5~10)を挙げ、ラボに対してもサイエンスにおいても貢献した研究者が、研究を辞めて教育職や研究事務に転向したり、研究や教育とは全く無関係な職に転じたり、最悪の場合完全に失業するしかないというのが、日本の科学研究の現状です。成果が出ない人間を切り捨てるブラック企業。成果が出ている人間をも切り捨てる研究所。現在の日本の研究社会は、ある意味、ブラック企業よりも更にブラックかもしれません。

”「お前が研究者をやめてくれて心底ほっとした」
母親もそんな言葉で大卒初任給ほどの待遇で居場所を探してきた息子の転身を心から喜んでくれ、…”
ポスドクからポスドクへ 円城塔 日本物理学会誌 Vol.263, No.7, 2008  PDF

 

 

参考

  1. 提言 生命系における博士研究員(ポスドク)ならびに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題 平成23年(2011年)9月29日 日本学術会議 基礎医学委員会 (PDF55ページ)
  2. 生科連からの<重要なお願い> 生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください。平成27 年4 月(第二版)生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会(PDF16ページ)
  3. 理研の松本理事長、人事制度の一本化・英語の公用語化などの改革案を発表 – 「他の研究機関の手本となるようなモデルを構築したい」(マイナビニュース 2015/05/25):”2つ目の柱は「至高の科学力で世界に先んじて新たな研究開発成果を創出する」となっている。”
  4. 地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省):平成26年度東京都最低賃金時間額888円
  5. 平成19 年度文部科学省科学技術振興調整費 女性研究者支援モデル育成事業「研究者養成のための男女平等プラン」成果 2007-1 研究者養成のための男女平等プランに関する調査(3)若手研究者の現状と支援ニーズ調査報告書(聞き取り調査編)(PDF194ページ):”具体的な数字を挙げてくれた例によれば、手取りで毎月18 万円程度ということであった(J 助手・20 代・男)。なお規程上は、早稲田大学全学共通で、助手には年間3 ヶ月分の賞与が与えられているとのことである。したがってJ さんの年間所得は270 万円前後と推定される。”
  6. アカデミックの世界は理不尽か? (Chem-Station)
  7. 作家の読書道 第101回:円城塔さん (インタビュー記事):”大学の状況って2000年を過ぎたあたりからものすごく変わって、これからどうなるかも全然わからない。下手をすると、各地を転々としながら、だいたい2年から5年任期の中で最後の1年は次の行き先を探さなくちゃいけない。定年が60歳だとすると、あと30年間くらい数年刻みで転々とする生活をやっていくのはさすがに無理だと思ったんです。”
  8. ポスドクからポスドクへ 円城塔 (日本物理学会誌 Vol.263, No.7, 2008  PDF)
  9. すごいことになってる  (アメリカポスドクの歩き方 2012/04/23): “十分な業績と能力があって人柄もよいポスドクが特任助教という名のポスドクへ平行移動していたり、同じように十分な業績と能力と人柄のよい任期付助教がそのまま任期付助教として平行移動している。最近多い。これはびっくりした。本当にびっくりと同時に本当に日本の科学の停滞がはじまってることを実感した。…Nature級の論文をもつ助教が任期切れで他へうつるのにほとんど論文のない准教授はそのままそのラボに残る。”
  10. STAP問題が照らし出した日本の医学生物学研究の構造的問題(小野昌弘のブログ Masahiro Ono’s blog 2014年04月02日):”彼らには土日なし、夜11時まで、というのが標準的な長時間労働が強制されるが、研究者という名目だけで、自分の研究を教授の許可なしには自由に発表できない。そして老いた教授たちがいつまでも職に居座っているから、若者が大学・研究機関で定職に就ける見込みは殆ど無い。彼らはいつまでも下働きとしてこき使われている。そして彼ら若者を「指導」している教授たち自身がどれだけ最新科学を理解しているかは疑問なのだから、当然その下についている大学院生・研究員たちは、「ピペド」以上の存在にはなれない。しかも定職がない・学位がかかっているといった弱みにつけこまれて日常的に教授から理不尽な圧力をかけられる。こうした異常な事態が普通に見られる。”

 

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CiRA これが民間企業ならすごいブラック企業

2015年5月23日に橿原ロイヤルホテル(奈良県橿原市)で奈良県立医科大学開学70周年記念式典が執り行われ、京都大の山中伸弥教授が記念講演を行いました。その中で所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA)について、CiRAの約300人の教職員のうち9割が不安定な有期雇用であることから、「これが民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないといけない」と、研究者の雇用不安にも言及したそうです。

 

参考

  1. iPS細胞研究所の9割有期雇用 山中教授「民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないと」 奈良で講演産経WEST 2015.5.24):”一方で、所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA)については、約300人の教職員のうち9割が不安定な有期雇用であることから、「これが民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないといけない」と指摘。”
  2. 開学70周年記念式典を挙行しました(奈良県立医科大学 2015年5月27日):”記念講演 細井理事長・学長と古家理事(附属病院長)が座長となり、山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長・教授を講師にお迎えし、iPS細胞が移植治療だけでなく難病治療薬の開発にも重要な役割を果たし始めている等「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」について、ご講演いただきました。”

 

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10年間で論文20報届かず富山大教授解雇

富山大学は2005年に10年の任期で登用した教授が基準となる20報の論文を出さなかったとして、この研究者を2014年末に解雇したそうです。解雇された元教授は論文数でのみ評価するのは不当だとして2015年1月9日に富山地方裁判所に提訴しています。

 

追記:2017年11月21日

2017年11月21日の報道(m3.com/共同通信)によれば、最高裁が、元教授の上告を受理しない決定(2017年11月17日付)をしたことにより、富山大元教授が敗訴した二審判決が確定しました。 二審の名古屋高裁金沢支部は、一審の富山地裁判決を支持していました。

 

参考

  1. 富山大元教授の敗訴確定 地位確認求める (m3.com/共同通信 2017年11月21日 閲覧は要登録):” 富山大大学院元教授が、論文数が少ないことを理由に再任されなかったのは不当として、富山大に地位確認などを求めた訴訟は、元教授敗訴の二審判決が確定した。”
  2. 再任訴訟で元教授敗訴 「基準は明らか」富山地裁 (共同通信 2016年6月30日):”富山大大学院元教授が、論文数が少ないことを理由に 再任されなかったのは不当として、富山大に地位確認などを求めた訴訟の判決で、富山地裁は 29日、原告の訴えを棄却した。広田泰士(ひろた・やすお)裁判長は判決理由で「大学は再任に必要な基準を任期中の論文数と 明示していた」と指摘。”
  3. 元教授、解雇不当と提訴 「論文数で評価は偏り」 (m3.com/共同通信 2015年2月12日):”富山大大学院元教授が、論文数が少ないことを理由に雇用を打ち切られたのは不当だとして、富山大に雇用継続と未払い賃金支払いなどを求め富山地裁に提訴したことが10日分かった。”

 

 

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記事更新 20240804 個人情報を削除 20171121 最高裁の判断を追記 20161224 地裁判決結果を追記。Dr黒木のがんばれ生活習慣病の予防 から一部を転載させていただきました。