Category Archives: 研究力強化

平成31年度科研費採択を目指し計画書を書く(ง •̀_•́)ง‼

さて今年も科研費申請の季節がやってきました。まずは、平成31年度公募要領・計画調書要領・研究計画調書等のダウンロードページに行って、平成31年度科学研究費助成事業「科研費」公募要領(PDF)を読みます。今年は去年までと違って何がどう変更されたのか、PDF4ページめからの<平成31年度公募における主な変更点等>は要チェックです。話題に上っていましたが、研究業績のリストを書く欄がなくなったというのはかなり大きな変更ですね。

(1)科研費の研究計画調書について、「研究代表者及び研究分担者の研究業績」欄を「応募者の研究遂行能力及び研究環境」欄に変更する等、様式の見直しを行いました。(31頁参照)研究計画調書の作成に当たっては、公募要領別冊「応募書類の様式・記入要領」を十分確認してください。

(4)審査の際に審査委員が、researchmap 及び科学研究費助成事業データベース(KAKEN)の掲載情報を必要に応じて参照することとしまし
た(93頁参照)

PDF 4ページ)

業績リストを書く欄がなくなったことに対応してか、リサーチマップを参考にしますよという注意書きが添えられています。リサーチマップの業績欄をしっかりと作っておく必要がありそうです。

さて、どの種目の出すかを決める必要がありますが、種目ごとに研究期間と金額が異なりますので身の丈にあった(=研究計画に見合った)種目を選ぶ必要があります。

 

種目の選択

新学術領域研究 (研究領域提案型)多様な研究者グループにより提案された、我が国の学術水準の向上・強化につながる新たな研究領域について、共同研究や研究人材の育成、設備の共用化等の取組を通じて発展させる(期間5年、1領域単年度当たり 1,000万円~3億円程度を原則とする)

基盤研究 (S)1人又は比較的少人数の研究者が行う独創的・先駆的な研究(期間 原則5年、1課題 5,000万円以上 2億円以下)
(A)(B)(C)1人又は複数の研究者が共同して行う独創的・先駆的な研究
(A) 3~5年間 2,000万円以上 5,000万円以下
(B) 3~5年間 500万円以上 2,000万円以下
(C) 3~5年間 500万円以下 ※応募総額によりA・B・Cに区分

挑戦的萌芽研究【平成28年度公募分まで】1人又は複数の研究者で組織する研究計画であって、独創的な発想に基づく、挑戦的で高い目標設定を掲げた芽生え期の研究(期間1~3年、1課題 500万円以下)
挑戦的研究 (開拓)(萌芽)1人又は複数の研究者で組織する研究計画であって、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを志向し、飛躍的に発展する潜在性を有する研究 なお、(萌芽)については、探索的性質の強い、あるいは芽生え期の研究も対象とする
(開拓) 3~6年間 500万円以上 2,000万円以下
(萌芽) 2~3年間 500万円以下

若手研究 【平成29年度公募分まで】
(A)(B)39歳以下の研究者が1人で行う研究
(A) 2~4年間 500万円以上 3,000万円以下
(B) 2~4年間 500万円以下 ※応募総額によりA・Bに区分
【平成30年度公募以降】博士の学位取得後8年未満の研究者(※)が一人で行う研究 なお、経過措置として39歳以下の博士の学位を未取得の研究者が1人で行う研究も対象(※)博士の学位を取得見込みの者及び博士の学位を取得後に取得した産前・産後の休暇、育児休業の期間を除くと博士の学位取得後8年未満となる者を含む (期間2~4年、1課題 500万円以下)

PDF 9ページ)

そういえば研究計画調書って「枠」がなくなってたんですね、これは以前ネットでも話題になっていましたが、なんだか枠がないのは落ち着きません。

 

重複制限

府省共通研究開発管理システム(以下、「e-Rad」という。)を活用し、「不合理な重複又は過度の
集中」(5頁注参照)の排除を行うために必要な範囲で、応募内容の一部に関する情報を、他府省を含む他の競争的資金担当課(独立行政法人等である配分機関を含む。)間で共有することとしています。そのため、複数の競争的資金に応募する場合(科研費における複数の研究種目に応募する場合を含む。)等には、研究課題名についても不合理な重複に該当しないことがわかるように記入するなど、研究計画調書の作成に当たっては十分留意してください。(PDF 12ページ)

国が不合理な重複又は過度の集中の排除を謳うわりには、富める研究者がますます富み、貧富の差が拡大しているように思います。地方大学の教授でも基盤研究費が雀の涙ほどの額(10万円台)でしかなく、しかも競争的外部資金が取れなくて苦労しているという新聞記事がある一方で、中央のメジャーな研究機関や大学では莫大な研究費に恵まれて湯水のごとき使い方をしている印象があったりもします。理研のPIが科研費ももらっているのを見ると、この不公平感は何だろうとモヤモヤします。

この指針において「過度の集中」とは、同一の研究者又は研究グループ(以下「研究者等」という。)に当該年度に配分される研究費全体が、効果的、効率的に使用できる限度を超え、その研究期間内で使い切れないほどの状態であって、次のいずれかに該当する場合をいう。
○研究者等の能力や研究方法等に照らして、過大な研究費が配分されている場合
○当該研究課題に配分されるエフォート(研究者の全仕事時間に対する当該研究の実施に必要とする時間の配分割合(%))に比べ、過大な研究費が配分されている場合
○不必要に高額な研究設備の購入等を行う場合
○その他これらに準ずる場合

 (PDF 13ページ)

募集要項には研究費の不正使用に関する注意事項も述べられています。研究不正疑惑がもみ消されて、訂正もされずに宙ぶらりんになっている論文でも、グラントの審査において業績として認めらてしまってよいのでしょうか?審査委員は常識的な判断に基づいて厳正に審査してもらいたいものです。愚痴はそれくらいにして、申請時の重複制限に関する早見表PDF30ページから掲載されています。受給制限の理解も大事です。

 

科研費申請の締切日

締め切りを知らないと計画書を書くペースがつかめません。締めきりは、PDF10ページに11月7日(水)
午後4時30分提出期限(厳守)とあります。もちろん各大学で「所内締め切り」それよりずっと早い日時に設定されているので、所内提出日は研究者の所属機関にによりまちまちです。

 

審査区分

PDF47ページから、審査区分の説明があります。どの区分に出すかによって誰に審査されるかが決まるわけですから、この審査区分の選定は非常に重要だと思います。自分や自分の研究を高く評価してくれる人たちがたくさんいる分野に出すほうが、科研費採択の可能性が高まるはずです。

 

最終年度前年度応募

下手に少額の研究費を数年間にわたってもらってしまって、重複制限によって新たな申請が出せなくなるのは困るわけですが、最終年度前年度応募という制度が用意されている種目もあります。

継続中の研究課題で、当初の研究期間が4年以上の特別推進研究、基盤研究(基盤研究(B・C)応募区分「特設分野研究」を除く。)又は若手研究の研究課題のうち研究期間が3年以上のものである場合には、研究計画最終年度前年度に新たな研究課題の応募ができます。(応募全般についての質問【Q2108】 現在、来年度も継続する研究課題がありますが、この研究をより発展させるために、別の研究課題を新たに応募したいと考えていますが可能でしょうか。【A】文科省) 太字強調は当サイト

 

学術振興会と文科省との関係

科研費の申請の準備をしていると、検索結果で学術振興会のウェブサイトに行ったり、文科省のウェブサイトに飛ばされたり、一体どっちが何なのかわけがわかりませんが、募集要領に説明がありました。これで気持ちすっきり。

 

新学術領域公募

ところで今年は、新学術領域はどのプロジェクトが公募を行っているのでしょうか?文科省のサイト、

平成31年度科学研究費助成事業‐科研費‐(新学術領域研究・特別研究促進費)の公募 公募要領・計画調書のダウンロード

のPDF(全158ページ)、

平成31年度科学研究費助成事業-科研費-公募要領(新学術領域研究・特別研究促進費)  (PDF:4439KB) 

の24ページ~に公募を行う学術領域の一覧があります。以下、領域名、領域設定期間、公募期間を抜粋しました。

別表1  新学術領域研究(研究領域提案型)のうち「公募研究」を募集する研究領域一覧(39研究
領域)

注)各研究領域の概要については、「別表5 新学術領域研究(研究領域提案型)の研究概要」(54頁~73頁)を確認してください。

  1. グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立
    グローバル関係学 平成28年度~平成32年度2年間
  2. パレオアジア文化史学ーアジア新人文化形成プロセスの総合的研究 パレオアジア 平成28年度~平成32年度2年間
  3. 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 西アジア都市 平成30年度~平成34年度2年間
  4. 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス 特異構造の科学 平成28年度~平成32年度2年間
  5. 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 配位アシンメトリ 平成28年度~平成32年度2年間
  6. ヒッグス粒子発見後の素粒子物理学の新展開~LHCによる真空と時空構造の解明~ 真空と時空 平成28年度~平成32年度2年間
  7. スロー地震学 スロー地震学 平成28年度~平成32年度2年間
  8. 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 生合成リデザイン 平成28年度~平成32年度2年間30 300万円以内
  9. 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 光圧ナノ物質操作 平成28年度~平成32年度2年間
  10. 複合アニオン化合物の創製と新機能 複合アニオン 平成28年度~平成32年度2年間
  11. ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 ハイドロジェノム 平成30年度~平成34年度2年間
  12. 新しい星形成論によるパラダイムシフト:銀河系におけるハビタブル惑星系の開拓史解明 星惑星形成 平成30年度~平成34年度2年間
  13. ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 ニュートリノ 平成30年度~平成34年度2年間
  14. ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- MFS材料科学 平成30年度~平成34年度2年間
  15. 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 クラスター階層 平成30年度~平成34年度2年間
  16. ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 ハイエントロピー 平成30年度~平成34年度2年間
  17. 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 量子ビーム応用 平成30年度~平成34年度2年間
  18. 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 新光合成 平成28年度~平成32年度2年間
  19. スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 スクラップビルド 平成28年度~平成32年度2年間
  20. 脳構築における発生時計と場の連携 脳構築の時計と場 平成28年度~平成32年度2年間
  21. ネオ・セルフの生成・機能・構造 ネオ・セルフ 平成28年度~平成32年度2年間
  22. ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ ネオウイルス学 平成28年度~平成32年度2年間
  23. 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― 植物新種誕生原理 平成28年度~平成32年度2年間
  24. マルチスケール精神病態の構成的理解 マルチスケール脳 平成30年度~平成34年度2年間
  25. 配偶子インテグリティの構築 配偶子構築 平成30年度~平成34年度2年間
  26. 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル クロマチン潜在能 平成30年度~平成34年度2年間
  27. 脳・生活・人生の統合的理解にもとづく思春期からの主体価値発展学 思春期主体価値平成 28年度~平成32年度2年間
  28. 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解「個性」 創発脳 平成28年度~平成32年度2年間
  29. 生物ナビゲーションのシステム科学 生物移動情報学 平成28年度~平成32年度2年間
  30. 解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 数理シグナル 平成28年度~平成32年度2年間
  31. 人工知能と脳科学の対照と融合 人工知能と脳科学 平成28年度~平成32年度2年間
  32. 意志動力学(ウィルダイナミクス)の創成と推進 意志動力学 平成28年度~平成32年度2年間
  33. ケモテクノロジーが拓くユビキチンニューフロンティア ケモユビキチン 平成30年度~平成34年度2年間
  34. 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み 時間生成学 平成30年度~平成34年度2年間
  35. ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 ロボット学 平成30年度~平成34年度2年間
  36. ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明 ヤポネシアゲノム 平成30年度~平成34年度2年間
  37. 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 植物構造オプト 平成30年度~平成34年度2年間
  38. 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 発動分子科学 平成30年度~平成34年度2年間
  39. シンギュラリティ生物学 シンギュラリティ 平成30年度~平成34年度2年間

参照:PDF24~25ページ

 


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児島 将康『科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版』 2020.8.20 羊土社
科研費 採択される3要素 第2版
いかにして研究費を獲得するか


 

 

参考サイト

  1. 平成31年度公募要領・計画調書 公募要領・研究計画調書等のダウンロードページ 平成31年度科学研究費助成事業 特別推進研究、基盤研究(S・A・B・C)、挑戦的研究(開拓・萌芽)、若手研究(日本学術振興会
  2. 平成31年度科学研究費助成事業‐科研費‐(新学術領域研究・特別研究促進費)の公募 公募要領・計画調書のダウンロードページ文科省
  3. 「平成31年度科学研究費助成事業公募要領等説明会」資料及び動画文科省

Research Statementの書き方

リサーチステートメントの書き方

How to Write a Research Statement  (Stony Brook University 2012/09/21 に公開 YOUTUBE Michael Hadjiargyrou  How to Write a Research Statement  April 11, 2012)

参考

  1. https://postdocs.cornell.edu/research-statement
  2. https://www.cmu.edu/gcc/handouts/research-statement-pdf
  3. https://career.ucsf.edu/sites/career.ucsf.edu/files/PDF/ResearcherResearchStatementTips.pdf
  4. https://www.psychologicalscience.org/observer/how-to-write-a-research-statement
  5. https://en.wikipedia.org/wiki/Research_statement
  6. https://career.uci.edu/students/graduate/academic-careers/writing-a-research-statement/
  7. https://scholar.harvard.edu/files/annika_m_mueller/files/research_statement_annika_mueller.pdf

 

論文執筆時の注意点:曖昧さの排除

科学論文を書くときに気を付けるべきことは、自分の書いた英文に曖昧さがなく、どんな読者に対しても確実に一通りの意味、解釈しか許さない英語の文にすることです。そんなことは当たり前だと思われるかもしれませんが、いざ書いてみると、これが案外難しいのです。曖昧さがどのようにして生じるのか、その原因をいくつか考えてみたいと思います。

 

曖昧さが生じるmore

Women like chocolate more than men.
.

「女性は男性よりもチョコレートを好む。」と書いてしまうと、「女性は、男性のことを好むよりももっとチョコレートのほうを好む」という意味にも、「女性と男性とで比較すると、女性のほうがチョコレートをより好む」という意味にとれます。日本語でも英語でも、二通りの解釈が有り得るため、曖昧さが生じます。

論文においては、文脈から明らかだから問題ないと思うかもしれませんが、それまでに書いてきた部分の文脈がすでに読者にとって明らかでなくなっているかもしれません。また、英語が堪能でない読者には不親切な態度です。

moreの使用が、文法的に2つの意味を生じさせる文例をもうひとつ、および意味を一意に確定させる書き方を紹介します。

‘… the starch yielded more glucose than maltose

 

say either
‘… than did maltose
or
‘… starch produced a greater yield of glucose than of maltose’.

(出典:Vernon Booth. Writing a Scientific Paper.Biochem. Soc. Trans. 3 (1) 1-26 (1975))

 

曖昧さが生じるalso

論文ではalso(~も)という言葉が多用されますが、これもかなり曲者です。なぜなら、「ナニナニも」の「ナニナニ」にあたる部分が主語を指す場合と、述語の部分を指す場合との二通りが文法的には有り得るからです。文脈で意味が一つに定まります。

He also went to China.「彼”も”中国に行った」または、「彼は中国に”も”行った」 (https://oshiete.goo.ne.jp/qa/1657213.html)

下の例文では、述部が共通なので、alsoで対比されるものが主語だとがわかります。

Contestant Amanda Hammer Harris tells the judges that her father was Jack Hammer, who wrote “Great Balls of Fire.” Growing up, she didn’t know him, but they made up just before he died. Contestant Amalia Watty also didn’t know her dad; she moved from Anguilla to New York to be near him, but that didn’t work out, so she uses the pain to motivate her singing. (https://www.thestar.com/entertainment/television/opinion/2018/03/21/is-american-idol-a-singing-competition-or-a-group-therapy-session.html)

下の例文では、主語が共通なので、alsoで対比されるものが述部だとわかります。

Bacon notes that studies can be enjoyable, and they can also be useful (whether for developing critical thinking skills or learning something for one’s profession). But he also notes that if done too much, studying could lead to “sloth”— laziness (in other words, if all you do is study, you won’t make the time to apply what you’ve learned and use your knowledge in a positive way). Bacon also believed that certain subjects could enhance different abilities— for example, mathematics can improve concentration, poetry can enhance one’s “wit” (what we today would call a sense of humor), and studying history can expand one’s wisdom.

 

通常は文脈で意味が確定しますが、執筆者には明かなことでも、読者にとっては明らかでない可能性があります。「共通する要素」を指すのに異なる単語を用いてしまうと、曖昧さを呼びこむ恐れが出てきます。

 

同じものを違う言葉で言い換えるのは要注意

英語を書くときは、同じ言葉を繰り返すことを避けなさいと習った人がいるかもしれません。しかし、言い換えが読者にとって明らかでない場合には、曖昧さが生じるため読者は混乱します。常に同じ言葉を使うか、違う語句が同じものを指すことを明示しておく必要があります。

use different terms for the same thing, for example, building, construction, obstacle and bluff body for one and the same study object. Yes, in high school you were probably taught to avoid repeating the same words, and to use comparisons and metaphors, etc. Forget that. (https://www.elsevier.com/authors-update/story/publishing-tips/10-tips-for-writing-a-truly-terrible-journal-article ダメな論文を書くための10のコツ)

 

代名詞が何を指すのかが読者に自明とは限らない

代名詞のthisやitは、すぐ前の名詞を指す可能性が高いのですが、文脈によっては一番近い名詞ではなく少し離れた名詞を指すこともあります。その場合、どの名詞を指すかは意味によって定まるので、文脈が曖昧な文章の場合に、読みにくくなります。

対処方法としては、this単独で使わずに、this observation,やthis resultのように意味をさらに限定すれば、読みやすくなるでしょう。また、代名詞を使うことを避けて、繰り返しをいとわずに同じ名詞をもう一度使えば曖昧さが生じません。

 

 

論文はcrystal clearに書けとよく言われます。通常の読者だけでなく、そそっかしい読者、英語が苦手な外国人、英語のスタイルが若干異なる英語圏の国の老若男女、英語のスタイルやイディオムの意味が多少変化しているかもしれない100年後の読者、その研究内容に関する知識が無い人などなど、どんな人が読んでも意味が一意にしか定まらないような英文を書くことが大切です。

 

参考(英語の書き方)

  1. Single words and phrases that we see and often have to correct (Astronomy & Astrophysics) よくある英語の語法の間違いと、正しい使い方 一覧

 

参考(論文の書き方)

  1. Liumbruno et al., How to write a scientific manuscript for publication. Blood Transfus. 2013 Apr; 11(2): 217–226. doi: 10.2450/2012.0247-12 PMCID: PMC3626472
  2. Tips for Academic Writing and Other Formal Writing Write what you mean, mean what you write For instance, we often speak informally of “going the extra mile”, “at the end of the day”, “hard facts”, things being “crystal clear”  …  if there was no crystal, do not write about its clarity.

論文数世界ランキングで日本は6位に後退

全米科学財団(National Science Foundation, NSF)が、世界の科学技術の動向をまとめた報告書Science and Engineering Indicators 2018を発表しました。2016年の論文数世界ランキングで、日本は6位。論文総数が減少傾向にある国は日本だけで、その凋落ぶりが際立ちます。

論文数ランキング1位は中国 、以下、2.アメリカ、3.インド、4.ドイツ、5.イギリス、6.日本。7.フランス、8.イタリア、9.韓国、10.ロシア、11.カナダ、12.ブラジルの順。

(出典:Science and Engineering Indicators 2018)

中国の台頭は、総論文数だけでなく被引用数ランキングトップ1%論文のランキングで見ても、著しいものがあります。

(出典:Science and Engineering Indicators 2018)

 

ちなみに前回の報告書Science and Engineering Indicators 2016では、日本は3位でした。Science and Engineering Indicators 2018のレポートでは、ドイツ、イギリス、インドに抜かれて6位に転落したということになります。

(出典:Science and Engineering Indicators 2016)

 

10年前の報告書

日本が論文数2位という時代が、かつてありました。

(出典:Science and Engineering Indicators 2008)

 

報道

  1. 科学論文数、日本6位に低下…米抜き中国トップ (読売新聞 YOMIURI ONLINE2018年01月25日 15時13分):”【ワシントン=三井誠】科学技術の研究論文数で中国が初めて米国を抜いて世界トップになったとする報告書を、全米科学財団(NSF)がまとめた。 … 報告書は各国の科学技術力を分析するため、科学分野への助成を担当するNSFが2年ごとにまとめている。2016年に発表された中国の論文数は約43万本で、約41万本だった米国を抜いた。日本は15年にインドに抜かれ、16年は中米印、ドイツ、英国に続く6位。”
  2. 科学・工学分野の論文数、中国が初の首位 米国抜く 日本6位 米財団調査産経ニュース 2018.1.25 18:07更新)【ワシントン=塩原永久】各国の科学技術力の分析に当たる全米科学財団(NSF)がこのほどまとめた報告書で、科学技術の論文数で中国が初めて米国を上回り世界首位となったことが分かった。日本は6位となり、新興国ではインドにも追い抜かれており、科学技術立国としての基盤低下が懸念されそうだ。

 

Science and Engineering Indicators

  1. Science and Engineering Indicators
  2. Science and Engineering Indicators 2018 Chapter 5 Academic Research and Development > Outputs of S&E Research: Publications
  3. Science and Engineering Indicators 2016
  4. Science and Engineering Indicators 2014
  5. Science and Engineering Indicators 2012 (PDF, 592 pages)
  6. Science and Engineering Indicators 2010 (PDF, 566 pages)
  7. Science and Engineering Indicators 2008 DigestDigest PDF (36 pages)
  8. Science and Engineering Indicators 2006
  9. Science and Engineering Indicators 2004 (Archived page)
  10. Science and Engineering Indicators 2002 (Archived page)
  11. Science and Engineering Indicators 2000 (Archived page)
  12. Science and Engineering Indicators 1998 (Archived page)
  13. Science and Engineering Indicators 1996 (Archived page)
  14. Science and Engineering Indicators 1993 (Archived page)

 

参考

  1. 研究力向上 論点 平成29年11月 内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)(PDF 41 pages)
  2. 論文の引用動向による日本の研究機関ランキング(Clarivate Analytics)本分析は、後続の研究に大きな影響を与えている論文(高被引用論文)数をもとに、世界の中で日本が大きなインパクトを与えている分野における国内で存在感のある研究機関を把握しようという試みです。 研究機関や研究者個人が特定の集合の中でどのくらいの位置にいるのかを分析する指標として、高被引用論文などの相対的な指標による分析に注目が集まっています。
  3. 国立大学協会政策研究所所長自主研究 運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究~国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として~ 平成27年5月鈴鹿医療科学大学学長 豊田長康(PDF 148 pages)
  4. 論文数で日本は世界2位から4位に 複数国への特許出願数は1位維持 (Science Portal News 2017年8月17日):”科学技術・学術政策研究所が日本を含めた世界主要国の科学技術活動を体系的に分析した「科学技術指標2017」をまとめ、このほど公表した。そのうち論文については「科学研究のベンチマーキング2017」としてより詳細に分析した。公表資料によると、2013~15年の3年間に日本が出した論文数は、10年前の米国に次ぐ世界2位から4位に下がり、中国、ドイツに抜かれた。日本の科学研究力の低下傾向があらためて浮き彫りになったが、一方で特許出願に着目すると現時点ではまだ世界有数の技術力を維持していることがうかがえる。「科学技術指標2017」によると、2013~15年の年平均の論文数の世界一は20年前、10年前と変わらず米国がトップ。日本は64,013件で、03~05年の67,888件から減少している。これに対し13~15年の中国は219,608件。03~05年の51,930件と比べて約4倍も増えた。10年前より論文数が増えて13~15年の数が64,747件になったドイツにも抜かれて日本は世界4位に落ちた。日本の研究者数は2016年時点で66.2万人。中国、米国について3位で、論文数順位は研究者数順位を下回った。”
  5. 調査資料 – 262  科学研究のベンチマーキング 2017 -論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況- 2017年 8月 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究室  村上 昭義 伊神 正貫 DOI: http://doi.org/10.15108/rm262(PDF 230 pages
  6. 科学技術・学術政策研究所 科学技術指標・科学計量学 » 科学技術指標 » 科学技術指標2016(目次) » 4.1.2研究活動の国別比較
  7. NISTEP科学技術・学術政策ブックレット Ver 2 日本の大学における研究力の現状と課題 科学技術政策研究所
    平成25年4月 (PDF 36 pages)
  8. 調査資料– 239  科学研究のベンチマーキング2015  -論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況-  2015年8月 文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術・学術基盤調査研究室 阪彩香 伊神正貫(PDF 199 pages)
  9. 論文データにみる日本の化学、アジアの化学 日本化学会春季年会2013年3月24日(日)トムソン・ロイター学術情報ソリューション棚橋佳子(PDF 33 pages)
  10. 科学技術政策研究レビュー 第3巻 研究レビュ- 3-1 研究活動の国際化 ~世界の変化を見る~ 研究レビュ- 3-1-1 OECD主要国中心の活動状況 ~論文生産における日本の位置の把握 国際共著論文にみる日本の位置の把握~ 科学技術基盤調査研究室 阪 彩香  研究レビュ- 3-1-2 論文の分析から見る開発途上国の研究活動と日本との国際共著 第1調査研究グループ 加藤 真紀  研究レビュ- 3-1-3 研究者国際流動性の論文著者情報に基づく定量分析 ~ロボティクス、コンピュータビジョン及び電子デバイス領域を対象として~ 科学技術動向研究センター 古川 貴雄 (PDF118ページ)
  11. 平成23年度研究開発評価シンポジウム~研究開発機関の現状分析に基づく研究戦略の在り方について~日本および世界の論文投稿状況の分析ー これからの方向性を探る ー東京大学評価支援室インスティテューショナル・リサーチ担当船守美穂2012年3月6日(PDF
  12. 平成22年(2010年)版科学技術白書  解説 論文成果に見る我が国の状況 国・地域別論文発表数(上位25か国・地域)1988年(昭和63年)ー1998年(平成10年)ー2008年(平成20年)
  13. 日本の「数学」研究の脆弱さ、露呈。 論文数の世界シェア、中国に抜かれ第6位! 旺文社 教育情報センター 18 年 6 月 文部科学省科学技術政策研究所(NISTEP; NationalInstituteofScienceand TechnologyPolicy)は先ごろ、諸科学の礎となる数学研究について、日本と主要国の現状及び他分野研究者の数学に対する認識などを分析、『忘れられた科学-数学』(POLICYSTUDYNo.12/2006 年 5 月)にまとめた。 (PDF 8 pages)

 

過去の報道

  1. 無残な科学技術立国、人口当たり論文数37位転落 (団藤保晴 | ネットジャーナリスト、元新聞記者 YAHOO!JAPANニュース 2015/5/10(日) 6:06):”科学技術立国を唱えてきた日本の無残な実情が見えました。人口当たり論文数を指標にすると東欧の小国にも抜かれて世界で37位に転落です。国立大学法人化で始まった論文総数の減少傾向が根深い意味を持つと知れます。国際的に例が無い、先進国での論文長期減少の異常を最初に指摘して反響を呼んだ元三重大学長、豊田長康氏が新たに作成したグラフを《いったい日本の論文数の国際ランキングはどこまで下がるのか!!》から引用します。 “
  2. India ranked fifth in region in paper publication (K. S. Jayaraman nature INDIA Published online 13 April 2015 doi:10.1038/nindia.2015.47):”Indian scientists published far less science papers than China in 2014 and trailed behind Japan, South Korea and Australia, according to an analysis of scientific output from countries in the Asia-pacific region1. “

大きな差を生む小さな習慣:実験ノートの効果的な書き方

日々実験を行っている大学院生やポスドクなどの研究者は、毎日必ず実験ノートを付けているわけですが、当たり前のように毎日やっているそのやり方の僅かな差が、数年後には大きな差となって、もしかしたらそれが研究者として成功できるかどうかを決める違いとなってしまうかもしれません。そこで、実験ノートの書き方に関するアドバイスをいくつか紹介します(詳細は、引用元の記事をご覧ください)。

 

世の中にはトンデモナイ人間も存在するので、一応、当たり前のことの確認から。

実験ノートは実験者が実際にその実験を行ったことを示す唯一の物的証拠

実験したのであれば、実験ノートが存在する。実験ノートが存在しないのであれば、実験していなかったとみなされる。普通の研究者にとって、何の問題もないことです。

実験ノートは実験者が実際にその実験を行ったことを示す唯一の物的証拠実験ノートには何を記録するのか? Life + Chemistry 2017-04-29)

実験ノートとは、あなたがその実験を実際に行ったことを示す唯一の物的証拠です(信州大学図書館 PDF

(ノートを)出さない人は不正をしているとみなします」(国会で山中教授「ノートのチェック徹底を」14/04/04)

 

では、実験ノートのつけ方に関するアドバイスの記事を2つ紹介(太字強調は当サイト)。独立した2つの記事ですが、これを見ると、成功するノウハウというものは、一つの形に収斂するようです。

 

ノートは、毎日論文を書いているようなもの

ノートの構成は論文と同じようになっていて、「タイトル」、「日付」、「目的」、「方法」、「結果」、「考察」などの事項が箇条書きで示されています。‥‥ 目的に加え、研究の「背景」や「基礎情報」も書いてありますので、自分がどうしてこの実験をしなければならないのかをすぐにつかむことができます。さらには、「操作成功の基準」、「実験成功の基準」、「実験成功の場合の次の実験」、「結果の予想と対策」といった一般的なノートには見慣れない事項も記録されています。「ノートには実験の条件やサンプルのロットなど細かい情報を記録しますが、さらに実験の基準や対照を詳細に書く点が特徴です。記録する事項が非常に多くて大変だし、時間がかかると思われるかもしれません。でも、ノートを書くことでデータを得るために必要な条件が絞られるので、結果的には無駄な実験をしなくてすみます。実験のトータルの時間は変わりませんよ」と木村先生は話します。‥‥ ノートは実験を記録するのではなく、考えることと結び付けられるようになっていて、研究力に不可欠な科学的な思考の訓練や論文の書き方の練習になります。ノートには実験記録と研究力の向上というふたつの目的があります。(研究ノートの意義を考える① 総合研究大学院大学額融合推進センター

 

ノートを”プチ論文”化

実験ノートを「プチ論文」にするのです。必要な構成は次のとおり。(1)タイトル(2)日付(3)実験目的(4)材料・方法(5)実際におこなった手技(6)結果(7)考察 ほとんどの学生は指導しないと、ノートには(5)実際におこなった手技、だけをちょこっとメモ程度に書くだけしかしません。しかし大切だけど意外に難しいのは、(1)タイトルと、(3)実験目的ですね。(中略)実験ノートをプチ論文化すると、日々の実験が楽しくなってきます。 目的を明らかにして、しっかりと結果を記載し、それに対していろいろと考察をしてみる。これは論理性や科学的思考の訓練になるだけでなく、実際に論文を執筆するときにとても役に立つはずです。(小保方リーダー&若手研究者必読!今さら人に聞けない「正しい実験ノート」の書き方 中山敬一 [日本分子生物学会副理事長、九州大学教授] DIAMOND ONLINE 2014.4.23

 

論文を効率良く書けるかは実験ノートのつけ方次第

Good note-book discipline is enormously helpful. When you have finished an experiment, try to record your conclusion in words on the same page with your findings. Make tables. Draw graphs and stick them into the book. Keep a separate book in which to record summaries of results from many experiments and group them by subject. Some experiments will provide results for several summaries. Not only are well-ordered note-books useful when you write a paper, but the prompt recording of summaries compels you to give critical thought to each experiment at the best time, and may move you to repeat a control test while you still have the materials.

(Vernon Booth. Writing a Scientific Paper. Biochem. Soc. Trans. 3 (1) 1-26 (1975) 太字強調は当サイト)

 

マイケル・ファラデーに学ぶ論文化のための効率的な実験ノートのつけ方

  • 生データのままにしておかずに,毎日,文章にして定稿化
  • 実験上の不備,失敗についても事実の記録として避けずに記し
  • 通常の実験ノートにあるような実験方法実験結果のみならず,研究方針研究計画参考文献なども記し
  • 研究ノートはすでに論文の下原稿

(転載元:ファラデーの電気分解の法則 —原論文を読み解く—(前編) 金児 紘征(秋田大学名誉教授) Electrochemistry, 83(11))

 

ノートの付け方以前の話として、ノートの中身となる部分、つまり実験をそもそもどうやるかということも重要です。

「3ない実験」をするな

僕らの研究スタイルというブログで紹介されていたのですが、この「山中教授の『3ない実験』の戒め」は、耳が痛い人も多いはず!

「3つのことが抜けてる実験をしたら俺は叱るぞ」(by 山中教授)

①目的がない実験
目的のはっきりしない実験。実験することそのものが目的となっているような実験。
②コントロールがない実験
実験をしている人なら説明不要ですね。例えば細胞に薬品Aを与えて、その10時間後の変化を見るといった実験の際は、コントロールとして何も与えていないグループを作成し、比較対象とします。 ‥‥ 意外とパイロット実験でコントロールを行なってない人がいたりしますね。
③後片付けがない
実験ノートの記録なども含め、実験器具など後片付けのない実験。‥‥ また最近の試みとして、実験結果をこまめにFigure化しています。これで後片付けのない実験を防いでいます。(引用元:山中教授に学ぶ3ないルール 僕らの研究スタイル;出典:「賢く生きるより辛抱強いバカになれ」山中教授・稲盛和夫 共著)

研究者にとって実験ノートとは

研究者にとって、日々の実験結果や思考の過程を記している実験ノートは、「人生そのもの」だと思います。この感覚は、研究者であれば皆が共有しているものでしょう。

世界でただ一つのデータが書かれているラボノートは、命の次に大事なものだよ(伏見先生 研究ノートの意義を考える③

研究者にとって実験ノートは「命の次に大事なもの」(若山教授 弁護士ドットコムNEWS 2014年06月16日)

生命科学研究者にとって、実験ノートは「命」(実験ノートの基本:日付と生データは必須、実験室外持ち出し禁止

WEB RONZA 2014年04月07日)

 

実験ノートの所有権について

実験ノートは誰のものでしょうか?現実としては、大学院生やポスドクがラボを出るときに、実験ノートも持って出ることが多いと思います。

しかし、実験のノートの所有権は個人に帰属せず、研究機関のものであるという理解が、現在では一般的です。

ノートは研究室の共有財産であるから、誰が見ても判るように心がけて記載すること。(新入生へのアドバイス

実験ノート等の資料は当該研究者個人に帰属せず、研究チームひいては研究機関に帰属することを、研究者等は理解しなければならない。実験ノート等資料の管理責任は管理責任者が負う。(熊本大学発生医学研究所

「記録」がない実験は、行われなかった実験に等しい。無駄である。
実験ノートは研究室の財産である(機関所有が原則)。(実験ノート(ラボノート)の記載について 兵庫医療大学・薬学部・生体防御学 PDF

研究ノートは研究者個人のものであり,私的領域に属するものだと長く考えられてきた。皆が横並びで研究ノートを導入し,利用していたわけではなかった。研究ノートを使用すべきだと,大学で言われるようになったのは,2000年前後に産学連携や特許取得が関心を集めた頃からである。知的財産の保護の観点から研究ノートの導入が求められた。2004年の国立大学法人化により,知的財産権が大学帰属になり,研究ノートは研究者個人の問題というよりは機関の問題へと変質した。研究ノートは公共的領域に属するものだと理解され始めたのである。(研究不正と研究データガバナンス 小林 信一 PDF

 

実験ノートの開示請求

データ捏造論文が発覚したのに研究機関がその不正をウヤムヤにしようとするのを見れば、誰だって、「本当に実験したというのなら、実験ノートを出せ!」と言いたくなります。実験ノートの開示に関して、これまでの事例を紹介したブログやネットの記事を紹介します。

1 不開示決定した法人文書の名称

①小保方氏の実験ノート(計179枚)
②「研究論文に関する調査委員会」資料のうち、旧CDB若山照彦研究室のSTAP細胞研究に関する実験ノート部分(計534枚)
2 不開示とした理由
本件法人文書は、「研究論文に関する調査委員会」における調査に使用されたものであり、これを公にすることにより以後の同種の調査に支障をきたすおそれがあることから、「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」第5条第3号の不開示情報に該当し、その全部を不開示とする。 (理研が開示を拒否した理由。DORAのブログ 2017/8/24)

 

下に紹介する答申書の中では、実験ノートがいかなる性格もつものかに関する議論がなされています。

各研究者が実験ノートの開示に関して大きな問題としているのは、「実験ノートが、研究のきわめて正直な具体的記録であり、研究上のアイデアのみならず、自己批判的な記述も多々含まれることになることから、自然科学者にとって、これを第三者に閲覧されることはきわめて耐え難いことである」(農研機構研究者の意見)という点である。(答申書55~56ページ  諮問番号:平成20年(独情)諮問第100号 事件名:平成17年度プロジェクト研究「ゲノム育種による効率的品種育成技術の開発」委託事業実績報告書等の一部開示決定に関する件 PDF

 

参考

  1. 僕は論文をこう書いてきた  ラボノートから論文を生みだす 理学研究科化学専攻 金森 主祥 (PDF
  2. 誰も教えてくれなかった 実験ノートの書き方 (研究を成功させるための秘訣)(Chem-Station 化学書籍レビュー 2017/8/18)
  3. 特集:研究倫理 研究不正と研究データガバナンス 小林 信一(PDF):”本当のことを言えば,多くの研究者たち,特に年長の研究者が研究不正問題に不熱心なのである。(中略)「研究ノートを出せと言われても,昔はみんな研究ノートをまともに作っていなかったし,保管もしていない」「いまさら研究ノートがないのは間違いだと,とやかく言われるのはいやだ」と言う先生もいた。”
  4. 実験ノートは誰の所有物か?Life + Chemistry 2017-06-17)
  5. 「実験ノート」なるもの-第3回 「実験ノートの書き方」の理想と現実カガクDe暮らす 2015年7月29日)
  6. 学生時代の実験ノート(穐田宗隆)(1)
  7. 研究ノートの書き方(エナゴ学術英語アカデミー
  8. Vernon Booth. Writing a Scientific Paper. Biochem. Soc. Trans. 3 (1) 1-26 (1975)

 

研究生活カテゴリーの記事一覧

手段はusingかby usingかbyかwithか?

論文を書いていると、「手段」を表すときの英単語として、using とby usingのどちらを使うべきかでよく迷います。withやbyという選択肢もありますので、さらに迷います。

using? by using? with? by? 何を使えば良いのか、参考になりそうなウェブサイト、書籍、および、論文中の例を紹介します。

‥‥ 「by using」と「using」はいずれも可能ですが、どちらにするかによって文意が微妙に異なります。「by using」によっては、Aを得るのに coupled cluster method だけで十分だというニュアンスが含まれます。(by, using, by using の使い分けについて エナゴ学術英語アカデミー)

 

(ある行為を描写している文の)動詞が受身形である場合には、byの目的語になりうるのはその行為を行う行為者を表す語のみだということである。つまり、その行為者が利用する道具、手段などがbyの目的語になることはありえない。(科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 29 147ページ)

能動態の場合でも、by の替わりに、(by) using、with、(by) employing、through、in terms of、by applying、(by) utilizing、(by) making use of、through use of、by means of、with the help of、with the aid of、from のような、意味がよりはっきり限定された表現を使用した方が望ましい。(科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 29 147ページ)

 

語句の選択にあたっては、文法的に正しいか、語法が正しいか、保守的・厳格か、内容的に意味をなすか、著者が意図してそのニュアンスを出したいのか、事実を正確に表すか、語呂的によいか、どちらでもいいのか、などの観点から考える必要があると思います。

出版された論文の英文が必ず全て正しい、最善であるという保証がないので、参考としてグーグルスカラーのヒット件数と合わせて紹介します。Ludwigという論文執筆者向けの英文検索サービスも、無料版だと検索回数が限られますが、使い勝手が良いです。

 

~の装置を用いて観察した

byを用いた文例

  1. The cells were examined by fluorescent microscopy using a Leica SP2 confocal microscope (Leica, Wetzlar, Germany). (doi: 10.1186/1471-2202-13-48 PMC3407521) [Google Scholar “examined by * microscopy” 約 151,000 件]
  2. Cells were examined by confocal microscopy following MitoTracker staining. (10.1371/journal.pone.0015901) [Google Scholar “examined by * microscopy” 約 151,000 件]
  3. These images were obtained by ceiling mounted X-ray sources and corresponding floor mounted amorphous silicon image detectors. (10.3389/fonc.2012.00063) [Google Scholar “obtained by * detector” 約 2,050 件] :

withを用いた文例

  1. MOR distribution was examined with a Zeiss confocal microscope using a 63× oil immersion objective. (10.1371/journal.pone.0019372) [Google Scholar “examined with * microscope” 約 7,180 件]

usingを用いた文例

  1. All images were acquired using a Zeiss confocal microscope (LSM 510 META DuoScan) (10.1371/journal.pone.0009465)[Google Scholar “acquired using * microscope” 約 1,020 件]

by usingを用いた文例

  1. Living and fixed cells were imaged by using widefield microscopy as previously described. (10.1371/journal.pone.0009898) [Google Scholar “imaged by using * microscopy” 約 140 件 ]

 

~の手法を用いて調整した

usingを用いた文例

  1. Multiple comparisons were controlled for using the Bonferroni correction (P<0.0005). (10.1038/sj.bjc.6604935) [Google Scholar ” controlled for using” 約 5,890 件]

by usingを用いた文例

  1. Day of the week effects, holidays, and epidemics were controlled for by using dummy variables. (10.1289/ehp.7387)[Google Scholar “controlled for by using” 約 2,770 件 ]

 

~によって制御した;~によって(実験条件を)制御した

by usingを用いた文例

  1. Our findings underscore the importance of considering HER3 behavior in the context of its molecular environment, which we were able to control by using a cell line that does not endogenously express HER receptors. ( 10.1073/pnas.1617994114) [Google Scholar “by using a cell line” 約 404 件]

 

(実験材料)を用いて実験した

usingを用いた文例

  1. To separate the effects of cell cycle perturbation from changes in viral gene expression, we conducted experiments using a cell line that is relatively resistant to profound growth arrest with rapamycin treatment. (10.1371/journal.pone.0014535) [Google Scholar “experiments using a cell line” 約 72 件 ]

 

『科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現』のChapter 29では、13ページにわたって、日本人が犯しやすいbyの誤用に関する詳細な説明があります。その中の、29.1[行為]+by+[道具]のような表現 29.1.3「道具」が手段、過程、方法、などである場合 というセクションから一つだけ例を紹介します。

誤:This integral was performed by the Newman method.

正:This integral was performed /with/using/ the Newman method.

 

(~の手法を用いて)計算した

byを用いた文例

  1. The intervertebral rotation calculated by our method during an
    extension movement was comparable to the rotation calculated by the manual method for the C2/C3 to C6/C7 segments. (Image Analysis: 20th Scandinavian Conference, SCIA 2017) [Google Scholar “calculated by * method” 約 92,700 件]

usingを用いた文例

  1. The normalized mean number of division that cells have undergone was calculated using method of De Boer and Perelson, where Xn(t)  =  the number of cells undergone n divisions by time t [51]. (10.1371/journal.pone.0015154) [Google Scholar “calculated using * method” 約 44,500 件]

withを用いた文例

  1. Intraclass correlation coefficients were calculated with the method described by Snijders and Bosker. (10.1136/bmj.b5479) [Google Scholar “calculated with * method” 約 16,600 件]

 

~の手法で解析した

usingを用いた文例

  1. The level of βGeo expression was analyzed using two methods. (10.1186/1471-2202-11-62)[Google Scholar “was analyzed using * method” 約 5,180 件] [Ludwigh “was analyzed using * method 30 ]

withを用いた文例

  1. Data was analyzed with Prism 5 (GraphPad software). (10.1186/s12915-015-0167-8) [Google Scholar “data was analyzed with” 約 17,500 件]

byを用いた文例

  1. Data was analyzed by custom Matlab scripts. (10.7554/eLife.08688) [Google Scholar “data was analyzed by” 約 19,000 件]
  2. Data was analyzed by ∆-∆CT method using 18S ribosomal transcript as endogenous control. (10.1038/s41598-017-12940-0) [Google Scholar “was analyzed by * method” 約 13,300 件] [Ludwig “was analyzed by * method” 2 件]

 

参考

  1. オンライン言語検索サービスのLudwigで英文をブラッシュアップ (TechCrunch Japan 2016年8月07日) 2016年2月に公開されたLudwigは、正しい英語の文章を書くサポートをする言語検索エンジンだ。(1日15回検索まで無料。それ以上のヘビーユーザーには有料コースあり)
  2. Ludwich (ludwig.guru): We built a gigantic database with millions of correct English sentences and an algorithm specialized in language so that you can compare any of your English phrases with a set of similar correct and contextualized ones.(1日15回検索まで無料。それ以上のヘビーユーザーには有料コースあり)
  3. エナゴ学術英語アカデミー パケット道場~初級アカデミック英語講座~
  4. 科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現 グレン・パケット 著 京都大学学術出版会

 

科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現
科学論文の英語用法百科 第2編 冠詞用法

 

あなたが論文を書けない理由がわかる40の質問


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なぜあなたの研究は進まないのか?
なぜあなたは論文が書けないのか?
なぜあなたの発表は伝わらないのか?


 

実験を頑張って良い結果を得ることと、それらのデータに基づいて論文原稿をまとめることは、頭や体の使い方がまったく異なる別の作業です。事実、実験は楽しくてそれだけで満足感が得られるが、その後、論文を書くのは苦痛という大学院生やポスドク研究者は相当数います。さらに、論文原稿を書き上げてから、実際にどこかの学術誌にアクセプトされるまでがまた遠い道のりです。

Work, Finish, Publish. (Michael Faraday) 「はたらき、まとめ、出版せよ」(科学者として成功した秘訣をたずねられたときのマイケル・ファラデーの答え) (参考:学術論文作成の基本 2012エルゼビア ランチョンセミナー PDF

論文掲載に至る途上には、研究者の気持ちをくじく障壁はたくさんあるわけですが、それを全てクリアしてめでたく論文アクセプトに持っていく底力が、研究者には要求されます。この力は論文を実際に出すことによってしか身につきません。ただし、その際、見通しが良くなるような指針があるとその苦労は軽減されます。

 

「なぜあなたは論文が書けないのか?」という、多くの研究者をギクッとさせるタイトルの本があります(メディカルレビュー社 2016年)。自分が責められているような気分になる人がいるかもしれませんが、ご安心を。副題は、「理由がわかれば見えてくる,論文を書ききるための処方箋」となっており、論文を書くという行動に心のブレーキをかけている研究者の心強い味方となる本です。

本書のプロローグのQ3では、まず、論文が書けない人、出せない人のパターンを4つに分けて分析しています。あなたの今の状況も、以下の4つの症状のどれかに当てはまるのではないでしょうか?

症状1:論文を書こうとパソコンに向かいはするが、どうも効率が悪い。いつまでたっても仕上がらない。

症状2:論文を書きたい、あるいは書かなければならないとは思っている。しかしどこから手をつけたらいいのかわからず、堂々巡りを繰り返している気がする。

症状3:論文を書いていはいるが、クオリティが低い気がする。それぞれのパートをどのように仕上げていったらいいかわからず、しっくりこない。

症状4:論文を一度は書き上げたもののpublicationに結びついていない。どこかの段階で止まってしまっている。

(Q3 論文作成のどこが律速段階になっているか─論文欠乏症の具体的症状を考えてみたか? より)

本書では、各々の症状に対する処方箋が章仕立てになっているので、解決策がすぐに見つかります。

 

IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)の解説本は多数ありますが、本当に論文をアクセプトにまで持っていくための心の持ち方、時間の遣い方や生活態度、論文の各セクションの書き方のポイントをここまで実践的に教えてくれる本は、他に例がありません。論文を書くときに一番悩ましいのがディスカッションのセクションだと思いますが、これに関しても、その必要性、目的、盛り込むべき内容、典型的な書き方のパターンなど、具体的かつ実際的な解説があります。

また、せっかく論文の原稿を書き上げたのにボスが読んでくれずに放置されているという悩みを大学院生やポスドクがしばしば口にします。この問題はQ38で取り上げられており、問題点の分析および対処法が述べられています。

 

論文を書かなきゃいけないのに億劫がっている人には、本書の目次だけでもかなり参考になるので、以下、目次を紹介します。

プロローグ

Q1 何のためにあなたは論文を書くのか,明確な答えがあるか?
Q2 論文を書くことはあなたの人生にとって無駄ではないと言い切れるか?
Q3 論文作成のどこが律速段階になっているか─論文欠乏症の具体的症状を考えてみたか?

CHAPTER 1 あなたが論文を書けないのには理由がある 執筆スタイルから取り組む論文作成術

Q4 学会発表は結構しているのに論文が書けていない,ということはないか?
Q5 論文をイッキに書き上げようとしていないか?
Q6 論文作成の大部分は「単純作業」だと認識しているか?
Q7 目標と同時に「持ち時間」も小分けにしているか?
Q8 「まとまった時間がないから書けない」を言い訳にしていないか?
Q9 論文作成はあなたにとって「差し迫った」問題か?
Q10 論文作成中,ついネットやメールをしていないか?
Q11 論文作成に必要な「知的作業」のために,まとまった時間を確保しているか?
Q12 論文作成中にデータが不十分だと感じて筆を止めていないか?
Q13 書きかけの論文が複数ないか?
Q14 英文を書くことに意識過剰になっていないか?

CHAPTER 2 すべての物事は2度作られる いよいよ論文執筆? その前にやっておくべきこと=第一の創造

Q15 論文の核になるデータがあるか?
Q16 データさえ揃えば論文はすぐに書けると思っていないか?
Q17 ストーリーは描けているか?
Q18 論文の構想(第一の創造)を相談できる相手がいるか?
Q19 論文のテーマに関連した文献を30 以上集めて目を通したか?
Q20 モデルとなる論文が3 本程度見つかったか?
Q21 論文作成のためのWord 文書を作成したか?

CHAPTER 3 なんとなく書いていないか? メリハリをつけるパート別論文執筆のコツ

Q22 まずはここから:論文の結論を1 ~ 2 行で簡潔に書ききれるか?
Q23 Introduction 1 明確な研究の「目的」または「仮説」を書いているか?
Q24 Introduction 2 知識のギャップを中心にした3 段論法を展開できているか?
Q25 Introduction 3 味付けはサラッとしているか?
Q26 Materials and Methods 1 なぜ何を書くかを頭の中で整理できているか?
Q27 Materials and Methods 2 Reviewer・読者にわかりやすく簡潔にまとまっているか?
Q28 Result 1 Figure の紙芝居で組み立てたストーリーに沿って書き進めているか?
Q29 Result 2 建て前と本音を区別して読者を誘導できているか?
Q30 Result 3 Result とDiscussion の棲み分けができているか?
Q31 Discussion 1 なぜ論文にDiscussion が必要かを理解しているか?
Q32 Discussion 2 書き出しのパターンを押さえているか?
Q33 Discussion 3 ポイントとなる結果と過去の文献を使って結論を支持しているか?
Q34 Discussion 4 研究の限界(limitation)を述べているか?
Q35 すべてのパートが同じベクトルを持って書かれているか?

CHAPTER 4 書いただけで終わっていないか? ここからが本当に大事なツメの作業

Q36 目標Journal の投稿規定に目を通したか?
Q37 倫理規定は守れているか?
Q38 書き上げたはずの論文が放置されていないか?
Q39 Reject されて心が折れていないか?
Q40 Reviewer の質問に,前向きかつポジティブに答えられているか?

 

以上40個の質問に対する答えが自分の頭の中で明確に整理できていない人には、本書の内容が非常に深い示唆を与えてくれるでしょう。やるべきことが明らかになれば、論文を書くモチベーションが高まり、アクセプトまでの道のりがたとえ長くても、そのモチベーションを維持することができるはずです。

 

参考

  1. なぜあなたは論文が書けないのか?(メディカルレビュー社 書籍詳細ページ )

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なぜあなたの研究は進まないのか?
なぜあなたは論文が書けないのか?
なぜあなたの発表は伝わらないのか?


中学理科の教科書が教える仮説駆動型研究

研究目的が曖昧なまま実験を続ける大学院生、仮説をもたずに研究している研究者、実験結果を得ていないのにグラフを作成してしまうトンデモナイ人、考察が書けずに悩む人、次の研究テーマが思い浮かばない人など、研究の現場にはさまざまな悩みや問題を抱えた人たちがいます。いまいちど、中学校の理科の教科書に立ち戻って、研究の進め方に関する基本事項を再確認してみるというのはいかがでしょう?

以下、中学校1年生の理科の教科書(教育出版)の最初の数ページから、一部を抜粋して引用・紹介します。

理科学習の進め方

進め方1 疑問を持つ
はじめに、不思議に思ったことや疑問に思ったこと、知りたいことなどをはっきりさせておきましょう。

進め方2 課題を設定する
知りたいことや調べたいことがはっきりしたら、これから取り組む課題を設定しましょう。

進め方3 仮説をもち、計画をたてる
課題がきまったら、自分はその課題に対してどのような考えかたをもっているか、どのようにしたら自分の考えが正しいかどうかわかるのかを話し合いましょう。 自分の考えは仮説としてノートに書いておき、調べたあとで振り返ることができるようにしておきましょう。

進め方4 観察や実験を行い、結果を得る
自分で立てた計画に沿って、実際に観察や実験を行い、得られた結果は、あとで考察しやすいように表などにまとめましょう。また、結果をグラフに表すと、知りたいことがわかりやすくなる場合があります。

進め方5 得られた結果をもとに考察する
観察や実験が終わったら、得られた結果からどのようなことがわかるか、そして、自分の立てた仮説は正しいといえるか、考察し、自分の考えを発表しあいましょう。

進め方6 新たな疑問から、さらなる課題へ
みんなの考えがまとまり、設定した課題が解決したら、観察や実験を行ってわかったことが、次にどのように役に立つのか考えましょう。また、調べてみて、新たな疑問が生じたら、次の課題を設定して、さらに調べていきましょう。
中学校理科1 教育出版 文部科学省検定済教科書 中学校理科用 17教出 理科731 平成28年度 2~6ページ)

日本の中等教育の教科書は科学的な態度を育むように書かれています。高校の教科書にも、研究の進め方が解説されています。以下、啓林館の「生物基礎」から一部を抜粋して紹介。

●私たちの探求活動●

仮説を立てずに観察・実験する方法もありますが、ここでは仮説を設定する方法で考えます。

<課題の発見>

最初は自然現象をよく観察することです。疑問を生み出す方法を紹介します。まず比較という方法があります。.. 5W1Hを活用する方法もあります。「何が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」のパターンで疑問をつくってみます。 .. この課題でやろうと思ったら、同じテーマですでに研究されているかどうかを調べてみます。

<仮説の設定>

仮説を設定します。考えつく限りの仮説をあげていましょう。仮説が立ったら、その仮説は、どのような観察や実験を行えば証明できるのかを考えて実験・観察を計画します。実験・観察から得られる結果から、立てた仮説が論理的に導かれるように計画する必要があります。

<観察・実験>

観察・実験で大切なことは「再現性」です。 .. 因果関係を調べるときには「対照実験」の設定も必要です。対照実験とは、比較のために対象とする条件以外を同じにして行う実験のことです。 ..

<結果の記録と処理>

結果の記録は正確に行うように心がけます。 ..

<考察>

実験などの結果かが仮説の正しさを証明したかを考察します。結果が仮説と矛盾しないかを考えます。ひとつの仮説を検証すると、そこから新しい疑問や課題が生じてくるものです。また明らかになった知見が、これまでに知られていることとどう関係するかも考える必要があります。 ..

<報告書の作成と発表>

研究したことは報告にまとめて、発表するようにしましょう。 ..

(引用元:啓林館 平成30年度 生物基礎 改訂版 本川達雄 谷本英一 編 (10~11ページ) 61啓林館 生基315 文部科学省検定済教科書 高等学校理科用)

中等教育(中学、高校)でも、高等教育である大学でも、サイエンスの基本はまったく同じです。たとえば、放送大学「自然科学はじめの一歩」の授業内容の説明には、

実際の科学研究は分野によらず、問いを立て、仮説を設定して検証し、結論を導き出すという一連の作業を通して進行する。さらに文献調査、論文執筆といった作業が伴う。放送大学「自然科学はじめの一歩」第15回 自然科学の展望:さらなる一歩へ向けて

とあります。放送大学の放送の中では、子供の自由研究と科学者が行う研究との違いは何でしょうか?実はやっていることはどちらも変わらないんです。ただし、プロの研究者は、自然界に関する新しい知識を作り出してそれを人類で共有するために論文発表をする、それが唯一の違いですと解説されていました(主任講師: 岸根 順一郎 2017年7月22日放送 第15回 自然科学の展望:さらなる一歩へ向けて)。

このように日本の理科教育では、研究がいかにして進められるかに関してしっかりと教えるようになっています。ところが、肝心の、プロの研究者を育てる場であるはずの大学院においては、仮説に基づいて実験するという当たり前の態度がなぜかないがしろにされている研究室が散見します。中学や高校での理科教育で強調されてきたことは、研究の現場である大学院でも実践されて然るべきでしょう。

論文査読レポートで使える英語表現

関連記事:誰も教えてくれなかった査読(ピアレビュー)のやり方、査読レポートの書き方

レビューアーとしてレポートを書くときに使えそうな典型的な英語表現を、実例から拾ってまとめました。査読レポートの頻出単語、頻出表現を押さえておけば、自分で書くときにかなり書きやすくなります。

公開されている査読レポートから、英語表現をばらばらにして取り出して、項目ごとにまとめています。論理的に流れるレポートを自分で書くには、実際の査読レポートを通して読むことも必要です。

査読レポートと著者からの反論(リバッタル レター;Rebuttal letter)を公開しているジャーナル

注:差読者が公開を望まなかった場合は非公開

  1. eLife: 論文のウェブページにある右横のリストのDecision Letterを選択。
  2. EMBO Journal: 論文のウェブページで、Transparent Processのタブを選び、Review Process Fileをクリック。PDFで閲覧
  3. Nature Communications : 2016年1月以降に投稿された論文で、Supplementary information の欄に、Peer Review Fileがある場合には、査読レポートが公開されている。しかし、割合はあまり多くないようです。

 

査読レポートの書き方は、基本的には自由だと思いますが、最初のパラグラフで研究内容を要約し、次のパラグラフで講評を述べ(General comments)、その後、具体的な箇所に関して(Specific comments)重要性の高いもの(Major comments;Major issues;Major points;Major criticisms)、重要性の低いもの(Minor comments;Minor issues;Minor points;Minor criticisms)を列挙するということが多いようです。

研究内容の要約

冒頭部分

In “論文タイトル”, (筆頭著者)and colleagues define the molecular mechanism by which (注目した分子の生理的役割). [embj.201696127 #3]

In “論文タイトル,” (筆頭著者) and colleagues describe a mechanism for (現象). [embj.201695861 #2]

In this paper, the authors study the (研究内容), focusing on the roles of (分子名) as possible mechanisms that (メカニズムが働く対象). Introducing an improvement in the (アッセイの名称)assay, they provide the first evidence that (発見した内容). [eLife.20832 #1]

The manuscript “論文タイトル” by (筆頭著者名) and colleagues presents a breakthrough in our current understanding of (現象).  [eLife.24125 #1]

The manuscript has two distinct parts, the first to study the (現象), the second to present (タンパク質複合体の構造). [eLife.20832 #2]

In this manuscript, by combination of (測定手段), (測定手段) and mathematical modeling, the authors show that (現象とそのメカニズムに関する主張). [eLife.24125 #3]

In this study, (筆頭著者) and colleagues examined (観察対象). They found that (実験結果). (実験結果). (実験結果). The authors further found that (発見内容). The authors conclude that (結論). [eLife.21895 #3]

This paper presents a study of the (事象). [ncomms14881 #1]

 

好意的な書き方

This manuscript presented for the first time a detailed mechanistic study on (タンパク質名), (そのタンパク質に関するこれまでの研究の経緯). [embj.201696127 #2]

In this very complete and carefully-prepared manuscript, (筆頭著者) et al. report that (結果), thus providing the first example of (意義). [embj.201696127 #1]

The authors present a study of (研究トピック), in which they convincingly demonstrate (実験から得られた結論). [ncomms14881 #2]

 

論文の内容の説明

The authors demonstrate that (実験結果). [embj.201695861 #2]

The authors show that (実験結果), thus demonstrating that (結論).[eLife.21895 #1]

The authors also show that (実験結果) and, very interestingly, (実験結果). [eLife.21895 #1]

Additionally, the authors found that (現象). [eLife.24125 #1]

Additionally, they also show that (現象、メカニズム). [eLife.24125 #3]

Furthermore, they indicate that (観察した事象), whereas (観察した事象), suggesting that (解釈、機能、役割). [eLife.24125 #3]

The authors further conducted experiments examining the (事象), a process that has been suggested to play roles in (事象). [eLife.21895 #1]

Thus, in this study, authors reveal that (研究対象) act as central players in (事象), which will adds to the regulatory mechanism of (事象). [eLife.24125 #3]

Given the (前提となる条件), the most likely explanation is that (メカニズムに関する推察). [eLife.21895 #2]

While (観察結果), they found that (観察結果・発見), and that (観察結果・発見). [embj.201695861 #2]

 

好意的な書き方

Interestingly, (観察された実験結果), suggesting (結論). [embj.201695861 #2]

They use (方法) methods to reveal the (示された内容). They also demonstrate that (結論). To further define the role of (タンパク質名), they perform (実験手法) to identify its targets. (実験結果). (解析手法) are used to define the (事項). Finally, the authors examine the functional role of (タンパク質名), showing that (そのタンパク質の役割). Notably, while (実験で得られた観察事実), the authors convincingly show that (結論).[embj.201696127 #3]

 

研究が厳密、厳格に行われたかどうか

好意的な書き方

In this manuscript the authors provide a wealth of elegant experimental data to help define the process of (現象). [eLife.24125 #2]

In this report, the authors presented series of well done experiments both in vivo and in vitro and showed the following data:(結果を箇条書き)[embj.201696127 #2]

By combining (測定手法) and (測定用のプローブ) the authors convincingly define the (現象). [eLife.24125 #2]

The experiments are well designed and well conducted in large. [eLife.21895 #1]

For the most part, the data presented is clear and of high quality. [eLife.21895 #2]

The experiments were carried out in a logical fashion and the data quality is high. The evidence clearly establishes that (結論、主張). The data support current model of (トピック) and reveal the involvement of (要素) in the process. [eLife.21895 #3]

例数・実験回数・サンプル数

I am a little concerned that the data on protein movement is only from 3 proteins, one of which, GFP, is freely mobile, and another, SEOR, is involved in making aggregates, and the third is a foreign protein (aequeorin). There are plenty of native plant fusions available, how would they behave? [eLife.24125 #3]

How did the authors quantify protein levels assessed by western blot? How many experiments have been carried out to confirm the findings? Please indicate. [embj.201695642 #2]

Although some conclusions are validated by a quantitative analysis of phenotype (i.e., Fig. 4D, Fig. 7 E) there is, often an overreliance on a single microscopic images to support an important conclusion (especially Fig. 3F). We have absolutely no idea what the variation is, from plant to plant, let alone from treatment to treatment, in the number of dead cells. (データへの言及). These nonquantitative experiments don’t justify the page of text devoted to their discussion. [embj.201694571 #1]

図・データの不明瞭さ

How was the quantification done here? Also, what does Figure 2D tried to show? Is it the response to the (刺激)? (データの表現方法) may not be appropriate. [eLife.21895 #1]

The (著者が見せたい事象、現象) is not clear to me, and only shown for GFP in video 3. [eLife.24125 #3]

 

Throughout the text and figure legends, please be more clear about whether (実験条件) or (実験条件). [embj.201695861 #2]

In general, the authors provide many graphs to support their conclusions, but not enough representative images of these data. To feel confident in their conclusions, representative images for the following experiments should be displayed. If space limitations are a problem, some of the images could be included as supplemental figures. (以下、該当する図を列挙) [embj.201695861 #2]

– please provide more information in Table S1 (e.g. p-values, primers used for all genes) and in the methods regarding their qPCR conditions, standardizations and results, which should follow MIQE guidelines (PMID 19246619) [embj.201695861 #2]

The Western blot data showing FcR in figure 1 protein levels is not very compelling. The reported changes are in expression are small, and interpretation of the data is complicated by high background levels. Are these changes consistent? As this change in expression is a major focus of the paper, the authors should provide additional more compelling data. The authors should graph the average change in protein abundance from at least three experiments, and include appropriate statistical analysis to demonstrate significant change. [embj.201695642 #3]

The issue with non-specific antibody binding similarly complicates the flow cytometry analysis in Figure 1C. [embj.201695642 #3]

統計処理、データ処理

Whenever presenting data, please include +/- SD or SEM. [embj.201695861 #2]

Data significance appears overestimated in some of the graph shown (e.g. Fig.1e, Fig.2b,e,Fig.3c,e…), based on the visual inspection of the images. However, it is very difficult to make a proper evaluation because no information is provided on the number of (被験者の数) or of experiment replicates performed (in case of 実験条件), nor it is indicated whether data shown represent mean or median of different experiments and whether SD or SE was used. In Fig.3a-e, data from single donors are presented, but the graphs still show SD or SE. Do they represent different replicates of a single experiment or different experiments performed at different times with (サンプル) isolated from the same donor? These information should be provided. Furthermore, the use of the unpaired t test, in place of the more appropriate paired t test, should be justified. It is possible that this is the reason why data significance seems overestimated. A paragraph reporting the statistical analyses used to determine data significance is missing and should be included in the Materials and Methods section. [embj.201695642 #2]

Because (解析条件), the (数値データ) may skew the actual (真の値). The (数値データ) should be normalized against (正規化するための対照), to show (知りたい数値). [eLife.21895 #3]

実験方法の不備、実験結果の曖昧さ、図の中に見出された矛盾点

For the PICT results, it’s sometimes not clear how the individual cell panels illustrate the numbers shown in the bar graphs. For example, in Figure 1, why is the δ 43 heterozygote nearly WT on the bar graph, while the homozygote is zero? The pictures make it look like it should be the other way around. Please clarify exactly what the bar graphs are showing: simple overlap of peaks in two dimensions, or some 3D measurement? Perhaps more pictures would help.[eLife.20832 #3]

Figure (XX) – The estimates of (数) seem surprisingly high based on the (図に示された内容) shown in the figure. Providing quantitation of these data might strengthen the case. Can the authors check the quantification or tell us how they arrived at their conclusions? [embj.201696127 #3]

Already from Figure 1 I found it very difficult convince myself that there was (結果) and hence (結論). [eLife.20832 #2]

Why (実験の結果) is not discussed, and since (実験の不備) it is also very unclear what is being observed. [eLife.20832 #2]

Given this, not only is the quantification of the (シグナル) highly questionable, but it would be essential to demonstrate the degree to which the (シグナルのレベル、信頼性). [eLife.20832 #2]

The same problems occur in Figure 2, and again here the lack of (測定) suggest yet a further complication that each image represents (著者が想定しない事象). [eLife.20832 #2]

The images shown in Figures 1 and 2 do not convince me that it is possible to estimate in any reliable way the degree of (定量・測定したい項目) and in Figure 2A even the authors’ quantitations for (定量する対象) are well within the estimated errors. [eLife.20832 #2]

But the images do not convincingly show a (事象), and here again the (実験の不備) makes quantitation very uncertain. [eLife.20832 #2]

The time course data in Figure 4 is potentially interesting, but again is based on a techniques and quantitation regime that are wholly inadequate. [eLife.20832 #2]

However, because (事実), it’s a little surprising that (論文に示されたデータの内容). Perhaps due to the particular image that was selected? It would be nice if confocal images were provided for some additional key experiments throughout the paper. [embj.201695861 #3]

対照実験の不備

Also, the authors provide no quantitation of (効果), nor a control to demonstrate that (著者が生じていないと主張する現象) in their experiment as they claim. [eLife.20832 #2]

Why did the authors use βactin for protein data normalization in Fig.4f and 5c instead of Lamp-1 that was used in the other blots? This molecule is a known hypoxia target and it would be preferable not using it for data normalization. Confirmation of findings using Lamp-1 is recommended. [embj.201695642 #2]

 

論文内の実験データ間での矛盾

Further, the (図で示された実験の内容) (Figure 3C) and is not consistent with the (論文内の別の実験結果).[eLife.20832 #2]

Figure 7C seems to indicate that (図で示された実験結果からの結論). However, the data as shown
in Figure 2B looks different. It is also intriguing that (実験結果). The authors should briefly comment on that. [embj.201696127 #2]

Basal expression of (遺伝子名) appears quite variable among different figures. These differences should be explained.  [embj.201695642 #2]

(実験結果). (実験結果). How do the authors reconcile the fact that (実験結果)? [embj.201695861 #3]

 

実験デザインの不味さにより解釈が不能

Even if we accept that the data do in fact reflect (変化), we have no idea what the (シグナル) mean in terms of the (仮定する条件). [eLife.20832 #2]

アーチファクトの可能性

It is strange that (図で示された実験結果). I would like to be sure that (事象) resulted from (事象) and not from an artifact due to the (事象). [embj.201696127 #2]

Figure 4C – The evidence that (実験結果の解釈に基づく主張) is difficult to interpret as (理由:図に示された実験結果). It is possible this is an artifact of the image, but if that is the case, a quantitative measurement would be better. [embj.201696127 #3]

図作製のミスの可能性

Figure 4C – I wonder if the labeling of the figure panels was accidently exchanged? In both Fig EV4 and Fig 6B, (矛盾する図の内容). Is there a labeling mistake? If not, the authors need to explain these data. [embj.201696127 #3]

 

著者の主張は実験結果によって裏付けられているか?

The paper proposes that (主張). This is a very novel proposal; indeed an extraordinary proposal and as such extraordinary evidence is required to support it. At present I am not sure this is the case and I will set our the questions that I feel need to be resolved. [ncomms14881 #1]

好意的な書き方

The evidence that (現象) is firm  [eLife.20832 #1]

The evidence for an (事象) in Figure 3 is much more convincing. [eLife.20832 #2]

I found the conclusions developed by the authors compelling and well supported by the data. [eLife.24125 #2]

Strong evidence is presented using (測定用プローブ) and (測定手法) that (現象・解釈・主張). [eLife.24125 #2]

The results of these experiments support a role of (遺伝子名) in (現象). [eLife.21895 #1]

All of the author’s data appears to be consistent with (結論). [eLife.21895 #2]

This manuscript is of very high quality. The work is logical, the writing is clear, and the data are excellent. All of the claims made are extensively backed up by convincing data. The arguments the authors make are persuasive. [embj.201696127 #3]

 

データとストーリーとの一貫性

The result in Figure 4D is interesting, where the (実験結果の内容), even though they are both (実験条件). How would this result fit to the authors’ model? [eLife.21895 #1]

(実験結果). (実験結果) is completely ignored in the manuscript. It is proper to at least clearly mention (論文で言及されていなかった事象) in the Results and discuss how this (論文で言及されていなかった事象)may relate to the (研究対象としている分子の機能). [eLife.21895 #1]

データの解釈と言葉遣い

The authors need to be a little more careful about wording with respect to three issues:
–The authors should be more cautious about their conclusion that (主張 exclusively 条件). (差読者による図の読み取り). In addition, recent results from (著者) et al. (雑誌名号:頁), suggest that (知見).
–In several figures such as Figures 4B and 6B, it appears that (図から読み取れる結果)
(as the authors also note). Thus, it might be better to use the term (言葉) when referring to the
(対象).
–It is quite difficult to completely delineate the effects of (事象A) versus(事象B). For examine, in Figure 7A, (図から読みとれる観察結果). The authors are encouraged to be more guarded in how they describe these
findings. [embj.201696127 #1]

ネガティブな書き方

The major concern regarding the manuscript centers on the authors interpretation of the data to infer a direct, active role of the (タンパク質名) in (事象). [eLife.21895 #2]

This said, I found the data inadequate to support the key claims that (著者の主張). [eLife.20832 #2]

The title of this section “結果のセクションタイトル” is clearly not supported by the data. [eLife.20832 #2]

For these reasons, it is my opinion that the data do not convincingly demonstrate (著者の主張する事象(名詞)) or that (著者の主張する事象(名詞節)).[eLife.20832 #2]

In short, the questions are interesting, the technique fascinating, but the data do not support the claims and interpretations.[eLife.20832 #2]

Unfortunately, however, there is no direct evidence establishing its importance in (現象). [eLife.20832 #1]

However, the relevant figure (Figure 5C) does not make a convincing case for the(現象名), and the accompanying text (本文の場所) did not help much to convince me. [eLife.20832 #1]

Thus, the (実験何用) should have been examined. [eLife.20832 #1]

But even more importantly, the authors should have used the (本来用いるべきだった実験手法とその実験内容). [eLife.20832 #1]

別の解釈の可能性

The fact that (実験結果) is quite unexpected. The data presented here cannot rule out that (実験結果を説明するための別の解釈). [embj.201696127 #2]

However, the Western in Figure 1—figure supplement 2 shows (図に示されている内容), which would lead to a different and less interesting interpretation of the (データ名) data, with no evidence for a (著者らが主張する現象). [eLife.20832 #1]

In addition, it seems possible that the (実験結果の差読者による別の解釈). [eLife.20832 #1]

It is even possible that the (実験結果の差読者による別の解釈).[eLife.20832 #1]

The experiments showing that (実験内容と結果) are valuable, but they have not ruled out the possibility that (実験結果の別の解釈の可能性). [eLife.20832 #1]

The evidence for (現象) is interesting and valuable but it is unclear that it constitutes an important means of (現象) rather than being a byproduct of the (現象、別解釈). [eLife.20832 #1]

As is, the data provided suggest that the (実験結果) is not due either to(事象) or (事象).[eLife.20832 #2]

The authors state that (主張), despite (観察事実), and conclude that “結論を述べた本文”. However, it appears from the results presented in Figure 4g that (図で表された観察結果), suggesting (結論). Evaluation of the effects of (差読者が新たに提案する実験) would help substantiating or refuting the authors’ conclusion. [embj.201695642 #2]

The (事象) may be due to (事象), rather than a role in (事象). These (事象) might also be the cause of the (事象). I like to see data on (実験対象と実験条件). [embj.201694571 #1]

My main concern is conceptual. Although it is manifest as population frequency of expression in the OE, (主張). For this study, the authors appear to have conflated the two. It is not clear to what extent the (観察結果の解釈). There are two potential mechanisms that can result in the (観察される事象). First, (仮説), by (仮説、メカニズム). (推論). In this scenario, the (帰結). Therefore,(観察される事象の説明、解釈). Alternatively, (仮説), resulting in the (帰結). In this scenario,  (解釈). The authors clearly favor the former as they conclude as such, when it is equally possible that the second mechanism can completely or partially account for the observations. It is likely that both mechanisms are at play. The authors should discuss these possibilities and clarify their position. [eLife.21895 #3]

 

主張を強めるための追加実験の提案

What is needed in my view is (実験内容), and to show that (現象), thereby showing that (実証したい仮説の内容). [eLife.20832 #1]

Thus, (実験アプローチ名) would be needed to achieve this important goal. [eLife.20832 #1]

It is widely accepted that (事実). I suggest the author to perform (実験). According to the author’s model, it is expected that (予測される実験結果). [eLife.21895 #3]

The analyses were all performed in (実験動物の週齢の条件). No developmental changes were captured. The authors should perform (実験) in early postnatal and adolescent mice. If (仮説), it would be expected that at early developmental stages (予測) whereas at later stages (予測). [eLife.21895 #3]

The authors state that (主張).However, no data are presented demonstrating that (主張). Experiments in which (差読者が提案する新たな実験及び実験条件) would help clarifying this point. Furthermore, assessment of (提案する実験内容) could be useful to confirm that the observed (著者の主張). [embj.201695642 #2]

Demonstrating (the effect of … 提案実験実験) would further strengthen the authors’ conclusions that (著者の主張). [embj.201695642 #3]

The most interesting result presented here is (実験結果). The authors need to show that (確認のためのレスキュー実験), or that (別の方法で同じ結果を得られるような実験). [embj.201694571 #1]

 

論文の体裁

好意的な書き方

Overall I found this manuscript to be a fascinating read that describes a study that is rich with significant new insights, observations and testable hypothesis. [eLife.24125 #2]

図、データの見せ方

Results shown in Figures XX would be better presented as a regular than a supplementary figure, because it reports critical data. [embj.201695642 #2]

More explanation needs to be provided for a few figures:
–Figure 1B: The conditions and observations for the (図の一部) should be mentioned somewhere.
–Figure 4C: It would be nice if the authors could provide quantitation for the fluorescence.
–Figure 6: The authors should provide a key for the graph in panel B (ideally in the figure), given
that colors of the labels in the top panel and the colors of the bars do not match precisely (especially
for the yellow bar). They should also provide an explanation for why (図から読み取れる観察事実).  [embj.201696127 #1]

Some Figure Legends are not fully informative and should be expanded [embj.201695642 #2]

言葉遣い(学術用語の適切な使用)

In the second paragraph of the subsection “サブセクションタイトル”, the authors wrote, “本文の記述”. It may be better to use the term “言葉” to describe this (事象). [eLife.21895 #1]

I guess the authors are erroneously using the term RBR1 refer to the mutant? [embj.201694571 #1]

– authors should not use the term ‘astrocytes’ unless cell identity is confirmed with an astrocytemarker

However, use of the word “holoenzyme” in the pol II system has been very messy and I would avoid it. To my mind, a holoenzyme should have all the activities needed for promoter recognition and transcription initiation. There were some early papers proposing a pre-assembled holoenzyme of pol II with all the general transcription factors, but those models haven’t held up. Later papers started misusing holoenzyme to mean the Mediator – pol II complex. For similar reasons, I don’t think Rrn3-pol I would qualify as a holoenzyme. I would avoid the word altogether so as not to distract from the concept that factor interactions with the stalk and surrounding regions might help bring RNA polymerases to the promoter.[eLife.20832 #3]

言葉遣い(どれくらい断定的に書くか)

The wording in the discussion is at times too strong based on the data the authors provide. For example, on page 17, the authors intimate that (主張). Although the data that they provide shows that (実験結果から得られる結論), these data do not preclude that (別の可能性) and that (別の解釈).  [embj.201695861 #2]

The authors state that “著者の主張”, but I don’t believe this is true. For example, (文献) describe (先行研究の内容). [embj.201695861 #3]

言葉遣い(国語の問題)

Some sentences are confusing and should be edited for clarification:(8箇所の指摘)[embj.201696127 #1]

図作製ミス

Fig 4C and D are incorrectly labeled “(ラベル)”. [embj.201695861 #3]

曖昧さ

I’m assuming the experiment shown in Supplemental Figure 1E was done in (実験条件)? It doesn’t explicitly say that in the Results or Figure/Figure legend. [embj.201695861 #3]

 

研究の意義、新規性、その研究分野の進展への貢献の度合い

研究の位置づけに関する説明的な内容

The authors’ group previously identified (遺伝子名), which are (発現パターン) (文献). The authors now address the function of (遺伝子名) in vivo by using (遺伝子名) double knockout mice. [eLife.21895 #1]

Previously, the authors discovered (発見した内容). In this manuscript, they first define the (今回の発見の内容).[embj.201696127 #3]

The authors have previously demonstrated a role for the (タンパク質名) in the (現象). This evidence, combined by the (事象), suggest that a similar important role exists in vivo. Previous evidence from several laboratories, including the author, suggest that (タンパク質名) are required for, or contribute significantly to, the (事象). [eLife.21895 #2]

 

好意的な書き方

The technical approach is interesting and still novel. [eLife.20832 #2]

It’s been known for quite a while that the (これまでにわかっていたこと). Several very recent papers, including this one, have shown that the (最近の知見). This report goes beyond to the recent (雑誌名) papers from (著者名) in providing in vivo evidence for this model of regulation. [eLife.20832 #3]

This manuscript addresses (and answers) a major question that arose from a previous manuscript of this (now extended) consortium which was published in eLife last year: how is (リサーチクエスチョン). [eLife.24125 #1]

This is the first study that provides data on the anatomy and (sub)cellular organization of the (部位) which led to the discovery of a new type of (事象).[eLife.24125 #1]

This is an exciting discovery. [eLife.24125 #2]

This is a significant study addressing questions not only fundamental to the (分野名) field, but also important to (研究トピック) , (研究トピック) and (研究トピック) in general. [eLife.21895 #1]

Although many more experiments need to be done to fully address the relationship between (役者たち), the current work stands as a significant progress toward this goal. [eLife.21895 #1]

This manuscript highlights the complexity of intricate interactions between (役者A) and (役者B) for specific and efficient regulation. Even more interestingly is the hypothesis presented in the discussion suggesting that (仮説). [embj.201696127 #2]

ネガティブな書き方

The (データ) are valuable, but a (実験名) was already published. [eLife.20832 #1]

The result that (実験内容と実験結果) is the most interesting finding, but the molecular mechanism is not obvious from the (データ). [eLife.20832 #1]

 

先行研究との整合性、適切な論文の引用

好意的な書き方

Previous work on (研究対象となった分子名) has shown that (働き). This paper uses the (アッセイ名)assay to provide convincing evidence that (研究対象となった分子の働き) [eLife.20832 #1]

ネガティブな内容

かなりキツイ物言い

P 3, line 14. Does the absence of references to other described mechanisms of (現象) mean the authors reject or simply choose to ignore them? 1,2 [embj.201695642 #1] (注:文の後の数字は差読者が附した文献の番号)

ディスカッション

The authors should discuss the possible physiological consequences of (事象1)
but not (事象2) as (条件). [embj.201696127 #1]

The references are often very old and recent refs on p(トピック) are not mentionedthe discussion should be more balanced on this and avoid strong opinions on things not investigated in the manuscript, eg: “本文の引用” [eLife.24125 #3]

 

差読者の判断:受理か却下か

ポジティブな表現

Overall, I think this is an interesting and important paper that would be appropriate for eLife. [eLife.20832 #3]

Taken together, I believe this paper contains many exciting findings that can be published pretty much without major changes. [eLife.24125 #1]

ネガティブな表現

Taken together, the paper is not a strong candidate for eLife, even if the authors can address all of the shortcomings in the experiments and interpretations mentioned above or below.  [eLife.20832 #1]

While it is an interesting report in this area, and is of likely interest to the readers of more specialist journals in the field of (特定の研究分野名), I do not believe the work represents a significant new step forward that justifies publication in Nature Communications. [ncomms14881 #2]

 

まとめのパラグラフ

In summary, the paper represents a collection of three different lines of work joined by the theme of (現象名). [eLife.20832 #1]

In summary, this paper provides data that both further substantiates RBR1 role in genome maintenance and presents data supporting the more conceptually novel idea that that RBR1 plays a direct role in repair by facilitating the formation of RAD51 foci. [embj.201694571 #1]

 

具体的な個々のコメントに入るためのつなぎの文

I have several comments for the authors to consider, mostly concerning technical and/or interpretational issues. [eLife.21895 #1]

I have some minor suggestions for improvement:  [embj.201696127 #3]

Overall, the data that the authors present is clear, and the importance of the work is quite high. The authors should be commended for the depth of their analysis. Yet there are several important changes/additions necessary before it is suitable for publication in EMBO J. [embj.201695861 #2]

 

査読レポートの構成

最初のパラグラフで、論文の内容を客観的な口調で要約します。これは差読者がちゃんと論文を読んで理解したことをエディターや著者らに示す意味があります。受理を勧める場合には、好意的な言葉を散りばめる人もいます。2つ目のパラグラフで、おおまかな評価を与えます。その後、メジャーコンサーン、マイナーコンサーンを具体的に述べるのが一つの典型的な書き方です。しかし絶対的な決まりがあるわけでもないので、かなり自由なスタイルで書く人もいます。

This study investigates the effects of (実験内容). The authors demonstrate that (実験結果・発見・結論). Furthermore, they report that (実験結果・発見・結論).
General comments:
Overall, the work tackles an interesting topic and sheds new light on (研究トピック). The scientific rationale for the investigation is sound and the authors present a few novel and important observations that provide a logical extension of previous work from this team on (研究トピック). The manuscript is well organized and carried out. However, some information are missing and should be provided to clarify a few issues, and additional experiments are needed to strengthen the study and further support the authors’ conclusions.
The following points should be addressed:

Major Criticisms:
Minor Criticisms:  [embj.201695642 #2]

 

2つ目のパラグラフ(講評)の例

辛口の例

The (論文で示された内容) is certainly interesting, due to the known similarities and differences between DDR in plants and animals. The study is of high quality but in my opinion remains short in providing a sufficiently deep set of results fully supporting the major authors’ claims. One major question is how is RBR targeted to DNA damaged sites. There are a number of specific points that are listed below. [embj.201694571 #2]

 

要約と全体評価を一つのパラグラフにまとめて書く人もいます。

研究内容の要約と全般的な評価を一つのパラグラフにまとめた例

The paper by (筆頭著者) et al is a well written study describing an important issue in (研究領域) biology, namely the (研究トピック). In general the results are interesting and compelling, and will be of interest to (研究領域) researchers. However a few issues should be addressed to strengthen the several of the conclusions. (以下、Major pointsMinor pointsを列挙) [embj.201695642 #3]

This paper by (筆頭著者) and colleagues describes (発見した内容). (論文で示された内容). (論文で示された内容).This provides the first description of (現象を説明するメカニズム). These results are novel and very exciting and will provide important new insight into (研究トピック), which will be of broad interest to many in the field of (研究領域) biology. Overall, the manuscript is well written and the conclusions largely supported. Some thoughts and comments to improve the paper are provided below: (以下、Major pointsとMinor points)[embj.201695861 #2]

(論文のトピックに関する既知の事実). Here the authors present convincing evidence for a second role in some aspect of (細胞内の現象). This observation has not been previously published in other eukaryotes, making it especially valuable. The most important results are (論文で述べられた発見). (発見された内容) is especially important, as one would predict just the opposite effect if (仮定の内容). The data on the (トピック) is less surprising or novel (conceptually- the experiments themselves are new). I have a few issues with the paper, some related to problems in the writing, but in other cases an experiment needs to be either improved or dropped. [embj.201694571 #1]

 

査読の参考に、水島 昇『科学を育む 査読の技法〜+リアルな例文765』2021/6/23 羊土社

参照した論文

  1. ncomms14881
  2. eLife.24125 eLife.21895 eLife.20832
  3. embj.201696127 embj.201695642 embj.201694571

 

参考(査読レポートで頻出する英語表現をまとめたウェブサイト)

  1. 英語論文の査読表現集:”1つは自分が今後査読をする際の参考にするため、もう1つは同じ悩みを抱えている研究者のために、ささやかではありますが、ここ10年くらいの間に自分が受けた査読結果を中心に、英語論文を査読するときに役に立つ表現集を作ることにしました 。”

 

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研究論文の査読レポートの書き方

一つの研究分野でいくつか論文を出していると、ある日突然、査読依頼のメールを受け取ることになります。サイエンスの世界は、ピアレビュー、すなわち研究者同士で互いの論文を審査するシステムになっているからです。ボスが大学院生やポスドクに査読の下書きをさせるというのはよく聞く話で(本来Confidentialであるべきですが)、そういうラボにいた人は既にやり方をわかってるかもしれません。しかし、多くの場合、査読の依頼を初めて受けたときに、十分なトレーニングを受けていない状態だと思います。そこで、査読をすることになった人の役立ちそうなサイトを紹介します。

 

公開されている差読者のコメント

ありがたいことに、差読者のコメントを公開している雑誌があります。これは、査読の方法を学ぶためのお手本の宝庫です。もっと言えば、査読コメントやエディターに対する著者からの反論(リバッタル レター;Rebuttal letter)も公開されているので、論文を通す戦いの成功事例が学べます。ちなみに、STAP幹細胞論文がサイエンス誌から却下されたときの3人の差読者のコメント (Retraction Watch)も読み応えがあります。

注:差読者が公開を望まなかった場合は非公開。

  1. eLife: 論文のウェブページの右横のリストでDecision Letterをクリックするとエディターや差読者のコメントをウェブ上で読むことができます。
  2. EMBO Journal: 論文のウェブページで、Transparent Processのタブを選び、Review Process Fileをクリックすると、差読者のコメントおよび著者とのやりとりをPDFで読むことができます。
  3. Nature Communications : 2016年1月以降に投稿された論文で、Supplementary information の欄に、Peer Review Fileがある場合には、査読レポートが公開されているが割合はあまり多くない。

 

査読コメントに書くべき内容

査読で原稿を読むときに、どんなことを考えながら読み進めればよいのかを、いくつかの雑誌の査読ガイドを引用することによりまとめました。査読コメントを書くときにこれらの英語表現が参考になりますので、意味が重複する場合でも、複数を引用します。

研究は厳密に行われているか?

必要な対照実験が行なわれているか、アーチファクトの可能性はないか、研究不正の疑いはないかなどに注意。

  1. Is the paper technically sound? srep 論文に厳密さがあるか?
  2. The data is technically sound. ncomms  データが厳密であること
  3. Is the statistical analysis of the data sound? srep  ncomms  データの統計学的な解析方法は正しいか?
  4. the quality and presentation of the figures as well as the validity of the statistical methods used to interpret them  cell.com  データを解釈する際に用いられた統計学的手法の妥当性および図のクオリティと表現方法に関するコメント
  5. Does the paper offer enough details of its methodology that its experiments could be reproduced? 論文は、実験の再現が可能なくらい十分詳細に方法を記述しているか?plosbiology
  6. Have they provided sufficient methodological detail that the experiments could be reproduced?  ncomms
  7. Should the authors be asked to provide further data or methodological information to help others replicate their work? (Such data might include source code for modelling studies, detailed protocols or mathematical derivations).  ncomms

 

著者の主張は実験結果によって裏付けられているか?

実験結果から結論を導く過程が、論理的かどうかは重要なポイント。

  1. Are the claims convincing? If not, what further evidence is needed? srep  ncomms
  2. Are the claims fully supported by the experimental data? srep
  3. Do the data support the claims? If not, what other evidence is required? データは、主張を裏付けるものになっているか?もしそうでないなら、他にどんな証拠が必要か?plosbiology
  4. The paper provides strong evidence for its conclusions ncomms  結論を支持する強い証拠を示せていること
  5. alternative hypotheses that are consistent with the available data  cell.com   得られた実験データと整合性のあるような別の仮説
  6. Have the authors provided adequate proof for their claims without overselling them? 著者らは十分な証拠に基づいて主張しており、過大な主張をしていないか?plosbiology
  7. Have the authors done themselves justice without overselling their claims?  ncomms

 

論文の体裁

  1. Is the manuscript clearly written? If not, how could it be made more accessible? srep  ncomms
  2. Is the manuscript clearly enough written so that it is understandable to non-specialists? If not, how could it be improved? (Please concentrate on matters of organization and content and not on grammatical or spelling errors that will be corrected by our copyeditor after acceptance.) 原稿は十分明瞭に書かれていて非専門家にも理解できるか?もしそうでないなら、どのように改善すべきか?(構成や内容に関してのみ考慮してください。文法や綴りの間違いは、受理後に原稿編集者が行います。)plosbiology
  3. Could the manuscript be shortened to aid communication of the most important findings? ncomms

 

研究の意義、新規性、その研究分野の進展への貢献の度合いは?

  1. The results are novel ncomms  結果に新規性があること
  2. Are the claims novel? If not, please identify the major papers that compromise novelty ncomms   論文の結論に新規性はあるか?もし無いのなら、新規性を損なわせている主要な論文を示してください
  3. Are these claims sufficiently novel? If not, please specify papers that weaken the claims to the originality of this one. 論文の主張には、十分な新規性があるか?もし無いなら、この論文の新規性を弱めるような論文を挙げてください。plosbiology
  4. balanced referencing of the pre-existing literature. In particular, when previously published work has undercut the novelty of the present findings, it is extremely helpful to include in the body of the review detailed citation of the relevant articles and data.  cell.com  すでに存在する文献の適切な引用。特に、先行研究が今回の発見の新規性を下げるようなものである場合には、関連する論文とデータの詳細な引用
  5. What are the main claims of the paper and how significant are they? この論文の主要な主張は何か、どれくらい意義深いのか?plosbiology
  6. What are the major claims of the paper? ncomms
  7. an outline of the conceptual advance over previously published work cell.com これまで発表された研究に比べたときの、概念的な進展の概要(を査読レポートに書く)
  8. Is this paper outstanding in its discipline? If yes, what makes it outstanding? If not, why not? この論文は、この研究分野においてどれくらい際立っているか?もしそうなら、何が理由でそうなのか?もしそうでないなら、なぜか?plosbiology
  9. Will the paper be of interest to others in the field?  ncomms   この論文は、この研究領域の他の研究者の興味をひくものか?
  10. the paper’s potential audience (i.e., the relevant fields within the readership of the journal)  cell.com その論文の潜在的な読者(すなわち、雑誌が対象とする読者層の中でも関係がある領域)
  11. Will the paper influence thinking in the field? ncomms   この論文は、この研究領域の考え方に影響を与えるものか?
  12. The manuscript is important to scientists in the specific field ncomms  その分野の科学者にとって重要性があること
  13. In general, to be acceptable, a paper should represent an advance in understanding likely to influence thinking in the field. ncomms  その研究分野の考え方に影響を与える得るだけの理解の進歩を示す論文であること
  14. If the manuscript is unacceptable in its present form, does the study seem sufficiently promising that the authors should be encouraged to consider a resubmission in the future? srep
  15. Would any other experiments/data/analyses improve the paper? How much better would the paper be if these were performed, and how difficult would they be to do? 他にどんな実験/データ/解析があれば、この論文がより良いものになるか?それらを実現できたら、どれくらい論文が良いものになるか?また、それらを実現することはどれくらい困難か?plosbiology
  16. Are there other experiments that would strengthen the paper further? How much would they improve it, and how difficult are they likely to be? ncomms
  17. Who would find this paper of interest? Why? どんな読者がこの論文を面白いと思うか?それはなぜか?plosbiology
  18. If the paper is considered unsuitable for publication in its present form, does the study itself show sufficient potential that the authors should be encouraged to resubmit a revised version? もしこの論文が現在の原稿のままでは掲載に不適と判断される場合、改訂版の再投稿を著者らに勧めるほどの潜在的価値がこの研究自体にはあるか?plosbiology
  19. If the manuscript is unacceptable in its present form, does the study seem sufficiently promising that the authors should be encouraged to consider a resubmission in the future? ncomms

 

先行研究との整合性があるか?

Discussionのセクションで、研究の位置づけが議論されているかに注意します。

  1. Are the claims appropriately discussed in the context of previous literature? srep
  2. Are the claims properly placed in the context of the previous literature? 著者らの主張は、これまでの文献の文脈の中に適切に位置づけられているか?plosbiology
  3. Are the claims appropriately discussed in the context of previous literature?  ncomms
  4. Have the authors treated the previous literature fairly? 先行研究を公正に扱っているか?plosbiology
  5. Have they been fair in their treatment of previous literature?  ncomms

 

差読者の判断:受理か却下か

  1. a specific recommendation, the reasons for that recommendation  cell.com  具体的な勧告とその理由

 

その他

  1. Does the availability of data adhere to the expected standards of your research community? srep
  2. Are they any special ethical concerns arising from the use of animals or human subjects? srep  ncomms
  3. PLOS Biology encourages authors to publish detailed protocols as supplementary information online. Do any particular methods used in the manuscript warrant such a protocol? PLOS Biologyは著者らが詳細なプロトコールを補足情報としてオンラインで公開することを奨励している。原稿の中で用いられた方法のうち、公開すべきプロトコールはあるか?plosbiology

 

さて、実際に査読レポートを書く場合には、受理したいか、却下したいかにあわせて、良い悪いをバランスよく盛り込むようにします。

The core of any review is an objective assessment of both the technical rigor and the novelty of the presented work. (Cell Press Information for Reviewers) 論文にまとめられた仕事が、厳密に遂行されたものか、また、新規性があるかどうかの両方に関する客観的な評価が、査読レポートの核心になります。

上記で引用したジャーナル

  1. Cell Press Information for Reviewers
  2. Nature Communications Guide to referees
  3. PLOS BIOLOGY Reviewer Guidelines
  4. Scientific Reports Guide to referees

 

査読の実際的な手順

査読するときに論文をどのように読むかは人それぞれのやり方があると思いますが、WILEYが説明はステップバイステップになっていて、初心者には役立ちそうです。

WILEY Step by step guide to reviewing a manuscript

 

出版社や雑誌社による査読ガイド

査読のやり方にはある程度決まったスタイルがありますが、雑誌ごとに異なる部分もあります。自分に査読を依頼してきた雑誌社が示している査読の指針を、よく読みましょう。以下の雑誌社や出版社の査読ガイドは、一般的な査読方法を学ぶうえで非常に役立ちます。

  1. WILEY Step by step guide to reviewing a manuscript 査読する際に何を考えながらどのように読む進めるのが良いのか、査読コメントの構成の仕方と各パラグラフ、セクションに何を書くべきか、等。ステップバイステップの詳細な手引き。

  2. ELSEVIER How to conduct a review :レビューアーが返すコメントに何を書けばいいのかが具体的に述べられていて参考になる。
  3. Taylor & Francis Writing a review: a step-by-step guide 何を考えながら原稿を読むべきかが具体的に述べられている。
  4. Cell Press Information for Reviewers 差読者がレポートに書くべき事柄が述べられている。
  5. PeerJ How To Become Good At Peer-Review
  6. PLOS BIOLOGY Writing the Review
  7. PLOS ONE Writing the Review 
  8. DEVELOPMENT  Guidelines for Reviewing Research Articles and Reports

 

研究の意義・重要性

学術雑誌はピンキリなので、そのジャーナルが求める研究意義の大きさとの兼ね合いで、差読者はその論文が受理されるべきか判断します。その雑誌のことを良く知らないのであれば判断ができませんので、まずは、雑誌のウェブサイトに行き、Aims and Scopeを読んだうえで、どんな論文が掲載されているかをみておく必要があります。トップジャーナルが論文をリジェクトするときに、conceptual advanceが不十分であり、incremental advanceに過ぎないという表現をよくしますが、専門誌になればなるほど、incrementalでも内容がしっかりしていればOKになります。(参考記事:ネイチャー(Nature)に論文を出す方法

他方、論文の重要性の評価には関与しないというスタンスの雑誌も増えてきました。PLOS ONE (2006 Dec-)は、研究の意義・重要性の判断は掲載後に読者に委ねるという新しい方針を打ち出した画期的なジャーナルです。

PLOS ONE accepts scientifically rigorous research, regardless of novelty. PLOS ONE’s broad scope provides a platform to publish primary research, including interdisciplinary and replication studies as well as negative results. … PLOS ONE will rigorously peer-review your submissions and publish all papers that are judged to be technically sound.(PLOS ONE Jounral Information)

Scientific Reports (2011 June-)も、研究の意義や新たな概念の提唱ではなく、研究の確かさに基づいて掲載の可否を判断することを明言しています。

Referees and Editorial Board Members will determine whether a paper is scientifically valid, rather than making judgements on significance or whether the submission represents a conceptual advance. (Scientific Reports Aims & scope)

 

査読ガイド動画

 

査読の参考に、水島 昇『科学を育む 査読の技法〜+リアルな例文765』2021/6/23 羊土社

 

参考

  1. Peer Review at Science Publications 
  2. 2.3 Reviewer Roles and Responsibilities (Council of Science Editors)
  3. Guidelines for Reviewers of ASM Journals
  4. ELSEVIER Reviewer policy statement
  5. ELSEVIER How to review manuscripts — your ultimate checklist (By Hannah Foreman Posted on 28 August 2015) 査読のやり方とチェックリスト 1ページまとめ
  6. ELSEVIER 10 tips for reviewing scientific manuscripts – and 5 red flags (By Joseph Alpert, MD Posted on 5 December 2012)
  7. PNAS Peer Reviewer Instructions
  8. Ten Simple Rules for Reviewers
  9. Transparent peer review at Nature Communications Authors of papers submitted from January 2016 will be given the option to publish the peer review history of their paper
  10. STAP幹細胞論文がサイエンス誌から却下されたときの3人の差読者のコメント (Retraction Watch)
  11. How to review a scientific manuscript? (ResearchGate ディスカッションフォーラム Jan 9, 2013)
  12. Nicholas, K. A. and W. S. Gordon (2011), A quick guide to writing a solid peer review, Eos Trans. AGU, 92(28), 233, doi:10.1029/2011EO280001.
  13. The Joy of Peer Review or My Favorite Comments from Editors and Reviewers
  14. How to Write a Peer Review for an Academic Journal: Six Steps from Start to Finish by Tanya Golash-Boza PhD2PUblished May 9, 2012

参考(リジェクトする理由)

  1. ELSEVIER ‘Eight reasons I rejected your article’ By Peter Thrower, PhD     Posted on 12 September 2012

参考(査読システムに纏わるエトセトラ)

  1. 査読 システムに限界、基準劣化のおそれ (enago academy エナゴ学術英語アカデミー ライター紹介:粥川準二 投稿日: 2017年1月6日 ):”活動的な」査読者は毎年平均5件の論文を査読していることもわかりました。もちろん、年間何十件もの論文を査読する者もいれば、たったの1件という者もいます。また彼らの計算では、査読の需要に応じるために、2015年には180万人の査読者が必要とされたといいます。前述の通り、査読をできる研究者の数は常に査読の需要を上回っているといいます。しかし問題は、労働の配分がきわめて不平等であることです。全体のうち5%の査読者が、全査読時間の30%近くを担っている、ということが今回の研究でわかったのです。”
  2. Why high-profile journals have more retractions (Nature News 17 September 2014):”the higher the impact factor, the higher the retraction index.”
  3. high-profile ジャーナル?(たおやかな生活を希望して 2008年08月26日):”現在の論文出版における問題としてhigh-impactなジャーナルに与えられている圧倒的なステータスである。キャリアーアップには何を発表したのかというよりもどこに発表したのかを問われる。”

 

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トップジャーナルに通る論文の作り方

トップジャーナルにとっての新規性とは、その分野の本質的な問題、すなわち一般人が疑問に思うようなクエスチョンに答える明確なメッセージがあるものであり、学術的意義のみならず社会的意義もあるものなのである。トップジャーナルに限らず、論文を書くときに大事なのは、前面にだすメッセージ性はなにかといつも問いかけることである。次に論文作成に必要なのは、ロジックの強いストーリーを構築することである。論文構築は、絵を描いたり彫刻を造ったりするようなものである。まず、図を作って大まかな流れをデッサンすることからはじまって、結果の細部を描く過程で、おさえておかなくてはいけない実験や、結論をサポートする多角的アプローチからの実験を塗り重ねていく。そして、間違った解釈をせずに良いディスカッションをするためには、次にやるべき実験の結果がでているとよい。そして、最後に、英文校閲にだし、英語独特のロジックと文体を補強し色づけを鮮やかにする。作品のメッセージ、ストーリー性、そこから湧き上がるロジックをだすために、いつも美意識を忘れないようにすることである。美しい自然の摂理を描くのだから。(「化学」2009年5月号コラム 美しい論文は必ず通る 東原和成)

 

Drawing on his experience, Yokoyama focused on the perspective of journal editors and how their decision-making on high impact science affects ongoing research. Editors evaluate the potential impact of individual papers by judging their conceptual advance, that is, whether a study advances a field in a large leap, rather than an incremental step. Yokoyama emphasized that the challenge for researchers who aim to publish in high impact journals is to collect strong data that is both grounded in existing knowledge but linked to a new idea or model.Data alone provide the foundation for an advance but without communicating how the results fit or refute an existing model they fail to provide a conceptual advance.  Communication is essential for scientific impact,” said Yokoyama. (PDFA event explores the path towards creating high impact science RIKEN BSI) (下線はscienceandtechnology.jpが付した)

 

Chalesは「良い論文を書くための準備は、研究構想を練るところからすでに始まっている」と言います。方向性が悪ければ、どうやってもいわゆるhigh-impact journalに論文を出すことは難しい。そこで何が最も大事かといえば、「Conceptual Advance」に尽きるとのこと。ただこれまでの研究を発展させた、では駄目で、根本的に重要で、今までに解かれていない問題は何か、その問題を解くのに最善の(多くの場合には、もっとも最先端の)手法を用いているか……、そういう、実験を開始する前のコンセプトが大事であり、なんとなく実験を初めて、集まったデータからストーリーを考えるのではなく、きちんと最初にストーリーを考えるべし、ということなのだと思います。(何が為に科学するか Conceptual Advance 東北大発生発達神経科学分野 2015年10月16日)(太字強調は当サイト)

参考

  1. How to get published in high-impact journals: Big research and better writing (Naturejobs Blog 03 Nov 2014 Posted by Julie Gould)
  2. PDFA event explores the path towards creating high impact science RIKEN BSI
  3. 「化学」2009年5月号コラム 美しい論文は必ず通る 東原和成

 

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研究成果が新聞掲載されるプレスリリース書法

研究成果を社会に還元する一つの方法は、マスメディアを通じて世間に研究成果を知らしめることです。そのためには、論文発表のタイミングに合わせて、新聞、テレビ、雑誌、ウェブメディアなどに記事として取り上げてもらう必要があります。それを実現させるためには、報道記者に興味と関心を持ってもらえるようなプレスリリースを書く必要があります。大学の広報やURAがプレスリリース作成のサポートをする場合でも、最初の原稿は研究者が作ることになるでしょう。

そこで、プレスリリースを書く上で参考になりそうなウェブサイトを紹介します。

プレスリリースに対する考え方、文章を作成するにあたっての具体的な注意事項など、細やかな情報が得られるのが、生理学研究所・広報展開推進室の「科学者から国民への情報発信の意義と方法」。

プレスリリースは、たしかにメディアの目に触れ、そこでいったん解釈され、読者に仲介されはするが、あくまでその情報の最終的な受け手は、国民であることを忘れてはならない。プレスリリースの文章を書くときには、それを手にする国民一般、小中高校生からお年寄りまでを目に浮かべ、彼らに語りかけるように正確で分かりやすい記述にこころがけることが重要である。科学者から国民への情報発信の意義と方法 生理学研究所・広報展開推進室

プレスリリースとはそもそも何か?プレスリリースの具体的なプロセス、プレスリリースの文章の構造、その他、記者との対応方法まで、教科書的にまとまっているのが、京大「虎の巻」。

 

(スライド13)

研究成果発表「虎の巻」 – 京都大学 (PDF) *学内限定にアクセス権が変更されてました(残念)。

 

プレスリリースの例

  1. サイエンスポータル ニュース・プレスリリース
  2. 北海道大学プレスリリース(研究発表)の記事一覧 (PDF)
  3. 金沢大学研究トピック

 

参考

  1. 科学者から国民への情報発信の意義と方法 生理学研究所・広報展開推進室 / 小泉 周 科学者から国民への情報発信の意義と方法 (化学と生物 Vol. 49 (2011) No. 7 p. 503-508)(J-STAGE)
  2. 研究成果発表「虎の巻」 – 京都大学 (PDF)
  3. 研究者のための科学広報入門(基礎生物学研究所 広報国際連携室)
  4. 大阪大学企画部広報課報道係が支援するプレスリリース発信
  5. プレスリリース競争が研究者の仕事なのか インターネットで変わる高等教育の形 (日経ビジネスONLINE 田中 深一郎 2013年1月25日):”大学も予算が年々厳しくなっているから、毎年、文部科学省に『今年は新聞掲載が何件、テレビの放映が何件あった』と、具体的な数字を報告しないといけない”

 

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英文プレスリリースで研究成果を世界に発信することの重要性について

論文はせっかく出版しても意外と読んでもらえないものです。ですから、自分の論文がめでたく受理されたら、論文掲載のタイミングに合わせてできるだけ世の中に向けて宣伝する必要があります。新聞等などのメディアに記事としてとりあげてもらうために報道記者に提供する資料が、プレスリリースです。日本のメディア向けには日本語でプレスリリースを書きますが、海外の新聞や雑誌に記事にしてもらうためには、英語で書く必要があります。

まだまだ世界に発信されていない日本の研究成果

さて、日本の研究成果を世界に発信するためには絶対に必要な英語のプレスリリースですが、これを出していない大学や研究機関が多いようです。また、英文プレスリリースを出している大学であっても、日本語での本数に比べると圧倒的に少ないようです。

毎日大量に発表される英文のリリースを読んでは、どれを日本語にするかを決めているわけですが、その中で気づいたことがあります。日本の大学・研究機関の英文プレスリリースが少ない。 日本の大学・研究機関から、インパクトファクターが大きいジャーナルへの発表は、それこそ毎日のようにあるのに、英文リリースが無いのが残念でなりません。わが国の科学レベルを分かってもらえない、というのも悔しいですし、成果を出した研究者を売り込めないのももったいないことです。(日本の研究成果を世界に発信するには【日経バイオテクONLINE Vol.1909】2013.07.17 19:00 増田智子)

2014年度の研究成果に関する和文配信件数:235件    
2014年度の研究成果に関する英文配信件数:     9件
(出典:2015/5/29  第3回大学研究力強化ネットワークカンファレンス「EurekAlert!を例とした国際科学広報の効果的なあり方について」 英語による研究成果の発信:東京大学の事例紹介 東京大学本部広報室(Public Relations Office, University of Tokyo)髙祖歩美、Euan McKay)

 

国際研究広報の取り組みの広がり

英文プレスリリースを出す大学が増え始めています。

2014年

事態が好転し始めたのは,国際広報に関心をもった国内の学術研究機関の実務者や関係者が学び,互いに議論し,情報を交換できる場が増えて,海外の報道機関とのつながりがなくとも報道関係者に研究成果が届けられるプレスリリース配信サービスを国内の学術研究機関が一斉に利用し始めた2014年末辺りからである。… 2014年末には国内の13の学術研究機関がそろってEurekAlert!(https://www.eurekalert.org/)という米国発のプレスリリース配信サービスを利用し始めた注1)。(日英米の比較からみる研究成果の国際情報発信 高祖 歩美 017 年 60 巻 6 号 p. 420-428 PDF

2015年

2015年3月には,沖縄科学技術大学院大学(OIST)で国際科学広報に関するワークショップ20153)が開かれた。研究成果の英語による情報発信に関心をもった関係者およそ100名が一堂に会して各機関の現状が紹介されて,英米の報道機関や広報関係者と国際科学広報を取り巻く状況について情報交換がなされた。2015年8月には英国の報道関係者から英文プレスリリースの書き方を学ぶ講習会がOISTで開かれた。(日英米の比較からみる研究成果の国際情報発信 高祖 歩美 017 年 60 巻 6 号 p. 420-428 PDF

  1. 国際科学広報に関するワークショップ 2015報告書(OIST 87頁PDF)
  2. 集会報告 国際科学広報に関するワークショップ2015 (岡田 小枝子, 名取 薫, 小泉 周 著者情報 ジャーナル フリー HTML 2015 年 58 巻 3 号 p. 224-227)国際科学広報に関するワークショップ2015が,沖 縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University: OIST)と科学技 術広報研究会(Japan Association of Communication for Science and Technology: JACST)が主催,大学研 究力強化ネットワーク(Research University Network of Japan: RUN)が協力という形で,2015年3月19 ~ 20日に,沖縄科学技術大学院大学(沖縄県国頭郡恩納村谷茶1919-1)OISTメインキャンパスにて開催され た。
  3. 日本の科学を世界に発信するためのサマースクール開催(OISTニュース 2015-08-18)沖縄科学技術大学院大学は(OIST)は、8月15~16日の2日間、科学技術広報研究会(JACST)との共催で、国際科学広報に関する実践形式のサマーコースを実施しました。講師として英科学週刊誌「ニューサイエンティスト」編集長のローワン・フーパー氏、同誌エディトリアル・コンテンツ・ディレクターのヴァレリー・ジェイミーソン氏を迎えた同コースには、…

実務者同士が情報を交換し,国際的な 情報発信を実践する場やコミュニティーが徐々に形成 されていった(表1)。その主要な場として,自然科学 研究機構が国内の15の学術研究機関とともに立ち上 げた「大学研究力強化ネットワーク」注2)や科学広報 の関係者が集まる「科学技術広報研究会」(Japan Association of Communication for Science and Technology: JACST)4)が挙げられる。(日英米の比較からみる研究成果の国際情報発信 高祖 歩美 2017 年 60 巻 6 号 p. 420-428 PDF))

最近は(2019年)、大学によってはかなりアクティブにEurekAlert!で英文プレスリリースを出している大学があります。そんな大学を以下の記事で纏めました。

⇒ EurekAlert!英文プレスリリース発信数 大学・研究機関ランキング

 

記者の目に留まる英語のプレスリリースの書き方

英文のプレスリリースが少ない理由は、サイエンスが理解できて、英語がネイティブで、しかも一般読者にとって読みやすい英語の文章を書ける人やチームが日本の大学や研究機関の広報部門にほとんど存在しないことが要因でしょう。大学のサポートを受けられない研究者は、自分で書くしかありません。そこで、英文のプレスリリースの書き方を紹介したサイトを紹介します。EurekAlert!のリリースをいくつか見るとすぐに気付きますが、日本語でよく見るプレスリリースと、英文のプレスリリースとでは書き方のスタイルが大きく異なります。日本のプレスリリースは研究内容の解説が中心ですが、英文のプレスリリースは「人」が中心です。そのため、日本語のリリースをそのまま英語に翻訳しただけでは記者の心に引っ掛からない可能性があります。

海外の記者は社会部の記者が主で、科学ジャーナリストはまだ多くありません。このため、記事を特にわかりやすい言葉、わかりやすい文章で書く必要があります。大事なことから先に!研究成果の社会的意義(社会貢献や影響)など、大事なことから先に書きます。逆ピラミッド型の文章構造です。社会貢献や影響、研究成果、研究の背景、詳細、最後に研究機関や研究者情報の詳しい情報の順番です。文章の最初の部分で興味を引きつけないと、記事自体を読んでもらえません。タイトル(headline)や要約(intro)はトップページやヘッドラインに掲載されるため、最も重要です。インパクトのあるわかりやすい簡潔なタイトルを付けましょう。タイトルは6~8words (90 characters maximum)程度に収める必要があります。熊本大学URA推進室 研究成果の海外国際広報 EurekAlert! を使用した海外国際広報について

レスター大学(University of Leicester)の広報(Press Office)がプレスリリースの書き方(How to Write a Press Release)を詳細に説明しており文章のスタイルを学ぶのに非常に役立ちます。

Journalists are looking for a hook which will form the main focus of their story. They like to know outcomes of research and they prefer a human angle to ensure the story has a public interest. (How to Write a Press Release)

また、英文プレスリリースの書き方の指針、具体例を交えた解説が、「研究成果を世界へ配信:なぜ、どうやって、そして誰が」の発表スライドにまとめられており、自分で英文を書く際に非常に参考になります。例えば下のスライドで説明されている英語プレスリリース(右側)の例では、まず「応用」可能性を真っ先に出して強調し、「組織、関係者紹介」や「成果・背景」をその後に登場させており、日本語のプレスリリース(左側)とは構成が異なっています。

(スライド14 一部改変 出典:研究成果を世界へ配信:なぜ、どうやって、そして誰が)

 

科学記者はプレスリリースをどう見ているのか

プレスリリースは記者の目にとまる必要があります。科学記者のプレスリリースに対する考え方を知っておくことは、記事に採用されるプレスリリースを書くうえで役立ちそうです。

Journalists Comment on Science Press Releases (COMPASSBLOGS):Alan Boyle, Bryn Nelson, Chris Joyce, Ed Yong, Erik Vance, Hillary Rosner, Mark Fischetti, Susan Moran

 

良く書けたプレスリリースから学ぶ

英文プレスリリースの書き方を学ぶ最良の方法は、EurekAlert!や大学のウェブサイトのプレスリリースを実際にいくつも読んでみて、良くかけていると思われるものをピックアップし、書き出し、情報を出す順番、文体、構成などを研究することです。気に入ったものが見つかれば、それをテンプレートにして、自分の研究内容を当てはめてみると書き方の勉強になります。自分の研究に近い論文のプレスリリースを見てみたり、今ニュースメディアで話題になっている研究成果のプレスリリースを探して読んでみるのもよいでしょう。

例えば、こんな感じ。線虫を用いた研究ですが、ヒトに関する話から始めて、スムーズに研究内容につないでいます。

 

プレスリリースサイト

  1. EurekAlert! is an online, global news service operated by AAAS, the science society. EurekAlert! provides a central place through which universities, medical centers, journals, government agencies, corporations and other organizations engaged in research can bring their news to the media. EurekAlert! also offers its news and resources to the public. EurekAlert! features news and resources focused on all areas of science, medicine and technology
  2. EurekAlert!日本語版
  3. AlphaGalileo is a trusted independent business to business service for the research and media communities. Our Service is based on three fundamentals: the widest range of research topics, many types of news material, and a multilingual friendly service that delivers the services demanded by our users. As well as science, medicine and technology we cover social science, humanities, arts and high-tech business
  4. ResearchSEA is Asia’s first research news portal, a one-stop centre where journalists and the public can access news and local experts from the research world in Asia. Since 2004, ResearchSEA has been helping research institutions and connecting research in Asia with the global community. We can turn complex research papers into compelling press releases, distribute them to journalists, monitor your news coverage, train and inform researchers on the media, and more.
  5. Newswise  is where journalists choose, connect,and use smart news. A free newswire for journalists.  A press release distribution service for public relations professionals.

 

EurekAlert!(ユーレックアラート)で英文および日本語のプレスリリースを投稿

別の記事にまとめました

⇒ EurekAlert!(ユーレックアラート)の利用方法とよくある誤解について

 

主要な大学・研究機関の英語プレスリリース・研究ニュースサイト

  1. Caltech research news
  2. MIT News
  3. Japan Science and Technology Agency (JST) Press Rleases
  4. 高エネルギー加速器研究機構(KEK)プレスリリース(英語)
  5. 沖縄科学技術大学院大学(OIST)プレスリリース(英語)
  6. 大阪大学研究ニュースResOU(英語)
  7. 東京大学研究ニュース(英語)
  8. 京都大学研究ニュース(英語)
  9. 理研プレスリリース(英語)

 

英文プレスリリースに必要なネイティブチェックをどうするか

RIKENやOISTのように外国人の比重が大きい研究機関は英語のネイティブが多いのかもしれませんが、普通の大学の場合、プレスリリースの英文校正が頼めるようなネイティブが学内に存在しません。これが、英文リリース発信のハードルを上げているのではないかと思います。もちろんお金を払えば英文校正サービスは多数あります。

英文校正エナゴでは、お客様の研究成果を世に広め論文の引用(サイテーション)を飛躍的に増やす、コンテンツ編集パッケージサービスをご用意しています。プレスリリースやコンテンツライティングの経験豊富なエナゴのスタッフが、研究成果にふさわしい評価を得るお手伝いをさせていただくサービスです。サイテーションブースターでは3つのサービスをご用意しています。プレスリリース作成、簡潔なアブストラクト作成、ツイッター投稿文作成です。

納期 7営業日 料金 44,000円

サイテーション(被引用数)ブースター Enago enago.jp)

 機関の研究成果を国際的にアピールできる英文プレスリリースを作成します。同じ分野の研究者だけにとどまらず、広く一般の人々の関心を惹きつける内容を意識し、制作いたします。 プレスリリースに含まれる内容 タイトル サブタイトル プレスリリース本文(内容に応じ、200~400ワード程度で作成)料金 1本 50,000円(税別)(エダンズの英語版プレスリリース作成サービス)

研究費が潤沢にあるラボならこういうサービスが利用できますが、多くの研究室にとってこのような費用の捻出は困難でしょう。ラボに負担させず、大学が研究支援のための英語ネイティブスピーカーを雇用する制度が整備することが望まれます。

 

参考

  1. Working with Public Information Officers Dennis Meredith, North Carolina: Glyphus, 2010| 広報とのつきあい方 デニス・メレディス 著(2010) 飯島由多加 訳、岡田小枝子 編(2014)
  2. 熊本大学URA推進室 研究成果の海外国際広報 EurekAlert! を使用した海外国際広報について 研究成果が出たら、いち早く世界に向けて発信しませんか? 支援したプレスリリース一覧
  3. 研究成果を世界へ配信:なぜ、どうやって、そして誰が  RA協議会第1回年次大会・2015.9.2 今羽右左 デイヴィッド 甫(KURA)、小泉 周(NINS)、倉田 智子(NIBB)スライド60枚  http://slideshowjp.com))
  4. ISCWサマースクール2015 国境を越えて:効果的な国際科学広報発信とは 沖縄科学技術大学院大学(OIST)・科学技術広報研究会(JACST) 2015年8月15日(土)・16日(日)
  5. 平成27年度第1回大学研究力強化ネットワーク・カンファレンスを開催(2015/5/29開催)
    EurekAlert!の概要説明(AAAS EurekAlert!担当マネジャーBrian Lin) 資料
    EurekAlert!事例紹介 東京大学 特任研究員 高祖歩美、特任研究員 Euan McKay 資料
    事例紹介2 OIST コミュニケーション・広報ディビジョン・メディアセクションマネージャー 名取薫 資料
    事例紹介3 広島大学 シニアURA 三代川 典史資料
    国際科学広報ワークショップ2015報告 沖縄科学技術大学院大学 准副学長 森田洋平資料
    ResearchSEA 日本特派員 角林元子資料
    「英文ブレスリリース解剖劇場:更なる深層」 京大 国際・広報担当 シニアURA David H Kornhauser)資料
    英文プレスリリース作成のための学内個別アンケートのフォーマット 東京大学 資料
  6. 岡田 小枝子, 名取 薫, 小泉 周  国際科学広報に関するワークショップ2015 情報管理 Vol. 58 (2015) No. 3 p. 224-227 (J-STAGE)
  7. AAAS広報担当者とEurekAlert! の活用に関する意見交換会を開催(2015/2/15):”英文プレスリリースに関しては、日本語プレスリリースの単なる翻訳ではなく、英語文章表現に適した構成で書かれた方が効果が高い”
  8. How to Write a Press Release(レスター大学University of Leicester)
  9. How to write a press release (America nSociety for Biochemistry and Molecular Biology, ASBMB)
  10. “Extra! Extra! Read all about it!”: Science writing for press releases
  11. Press release guidelines for scientists (spacetelescope.org)
  12. Guest Post: Writing a press release – a guide for researchers Published 03/09/2009
  13. 研究成果の「誇張」は、プレスリリースにもある(ライター:粥川準二  エナゴ学術英語アカデミー):”ニュースが誇張されていたり、センセーショナルだったり、警告的だったりすることで、メディアやジャーナリストを非難することがよくあるが、われわれの知見の核心は、調査で見つかった誇張のほとんどは最初からメディアで生じたわけではなく、研究者や彼らが所属する研究機関が作成したプレスリリースの文章にすでに存在していた、ということである。”
  14. The perils of Science by press release: ‘overly exaggerated presentation of research findings’ Anthony Watts / June 8, 2014
  15. Exaggerations and Caveats in Press Releases and Health-Related Science News (PLOS ONE)
  16. Science Press Releases: Good, Bad or Zombies? Friday, January 18, 2013
  17. Taming Beastly Press Releases 11 September, 2012 by Liz Neeley
  18. Communicating Science: Press Releases at EHP

 

その他

  1. サイエンスポータル ニュース・プレスリリース
  2. 研究者のための科学広報入門(基礎生物学研究所 広報国際連携室)

 

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リジェクトへの怒り・落胆【論文を出す力】

研究者には論文を書く能力が必要ですが、それだけでなく、論文を世に出す(=アクセプトに漕ぎ着ける)力も必要です。両者は重なる部分もありますが、質的に全く異なります。論文を書くうえで重要なのは知性ですが、論文を出すときに重要なのはリジェクトされたときの落胆、怒り、失望、疑念などの感情をコントロールする力、揺るぎない信念、状況を見極める客観性や判断力です。

リジェクトに対する心構えが出来ているだけで、受けるダメージ及び回復力が変わってくると思いますので、これから論文を出す人の参考になりそうな記事を紹介しようと思い立ちました。また、結果だけを見ると、みんな順調に論文を通しているように思えるかもしれませんが、実際には、他人には想像がつかないような苦労の末になんとかアクセプトまで漕ぎ着けたという場合がほとんどです。そんな論文出版の苦労を分かち合える記事を、以下に紹介します。

折れない心

何年もかけてやってきたプロジェクトの成果が、辛辣なコメントともにリジェクトとなった場合は、自分の研究者としての能力を否定された気分になり、相当なダメージを受けるが、折れないタフな心をもってアクセプトになるまで戦い続けるしかない。 …

散々追加実験を頑張った上での再投稿にも関わらず、やはりリジェクトとなった場合は時間的にも精神的にも相当ダメージは大きく、また半年〜1年前にもどって別のジャーナルにいちから投稿し直しとなる、、、 (有名ジャーナルに論文が掲載される意義 IMAYOSHI LAB 2013年11月22日)

最近、友人の一人の論文が、Natureにacceptされたのですが、それが実にすさまじい闘いだったのです。彼が最初の論文を書き上げたのが、3年ほど前。まず、Natureに送りました。Editorial kickにはならず、レビューに回りましたが(トップジャーナルでは、レビューに回るだけでも凄いのです)、rejectされました。レビューアーからのコメントがあったため、追加実験を行って全てのコメントに答えた上で再投稿した。しかし、結果はやはりreject。そこで、彼はScienceに投稿しました。Scienceでもレビューに回りましたがreject。これだけでも凄すぎるのに、これからが彼の凄いところでした。Scienceで得たコメントで指摘された点を改善し、なんと再びNatureへ投稿。再びレビューに回るも、reject。再実験を重ねた上、レビューアーのコメントに答えて、Editorへ抗議。その後、結局、acceptされたのです。(Never give up! Alltid Leende April 22nd, 2013

まず青い方からこの表をみる。サイエンスの689というのは、最初の投稿先がサイエンスでそのままサイエンスに採用された論文が689報あるということである。サイエンスに蹴られてnatureに採用されたのが82報あるということ。しかしcell誌にはサイエンスリジェクト論文は一つも載らなかった(natureリジェクト論文も載っていない)。(サイエンスに蹴られた論文がネイチャーに載る・・・ がんの分子腫瘍学・遺伝学 2012年10月22日)

 

批判を受け止める力

Coping with publication rejection is a key skill for any academic. It can require emotional fortitude, an ability to profit from criticism, and, sometimes, negotiating skills. Many papers in the scientific literature were initially rejected, often sparking vigorous scientific discussions before their eventual publication, whether in the same journal or a different one. (Riding Out Rejection By Kate Yandell The Scientist March 1, 2015)

 

リジェクトされた時にやるべきこと

一度リジェクトされただけであきらめてしまうのは、マラソンを走りながら、ゴールのわずか数センチ手前であきらめてしまうようなものだ。もし著者が掲載に強い意志を持っているならば、次に取るべきステップは、リジェクトのレターにあるコメントすべてを正確に理解することである。 (原稿がリジェクトされた時の対処法 根拠と経験に基づく見解 Karen L. Woolley, PhD; and J. Patrick Barron, BA. CHEST 2009; 135:573-577. Ronbun.jp 大鵬薬品工業株式会社)

論文を書き上げることとそれをアクセプトさせることには、恋愛と結婚ほどの違いがある。論文を書き続ける限りリジェクトとのつきあいは切れないと 思った方がよい。私の場合、二本目の論文がリジェクトされて、それはそのままお蔵入りとなった。思えばその時、それから合計 33 回もリジェクトされるようになるとはちょっと想像していなかった。最初のリジェクトの時には、自分の人格が否定されたようでずいぶん落ち込んだ。もちろん 今でも、リジェクトされたときのショックは大きい(とくに、一週間に二度リジェクトの手紙をもらったときなど)。しかしものは考えようで、リジェクトされたとは思わないようにしている。つまり、どこかの大先生に論文を読んでもらったのだと思うことである。たいていの場合、その論文のどこがいけないのか指摘 が付いてくる。それらを参考にして論文を改訂し、別の雑誌に投稿すればいいだけの話だ。(これから論文を書く若者のために 改訂第二版 1999.1.21. ver. 2.1 酒井 聡樹 )

 

リジェクトという名の授業料

論文に限らず、拒絶されるのは自分を見直す良い機会だと思います。

研究者、とくにチームのリーダーは、人から学ぶ機会が少なくなるものである。レビューアーのコメントの中には、書いた本人が気づかなかったような議論がなされていることがある。そして、論理の展開に落とし穴があることが指摘されている。そのような議論をクリアするために、追加実験を行い、実験結果を見直すと、新しい発見が生まれてきたことを経験している。また、確実な論拠を得て、論理の展開がしっかりしたものとなり、論文の価値が高まっていくのを実感することがある。レビューアーの中には、ここまで結果を出せば論文になるよと、到達目標を提示してくるケースがある。このような到達目標の多くは、研究者にとり、難度の高いものである場合が多い。「それができれば苦労しない」というわけである。しかし、ここで一念奮起をしてみると、目標を絞っているものなので、意外と短期間にブレークスルーしてしまうことがある。そうなるとレビューアーさまさまである。このような「良い」レビューアーは、まさに教師である。リジェクトという高い授業料を払う価値があるものでもある。査読に関する理想と現実

 

15回リジェクトされた論文

Lynn Margulis (1938-2011)

Her ground breaking endosymbiotic theory paper, which suggested that eukaryotic organelles have evolved from the symbiosis between multiple prokaryotic organisms, has been rejected by no less than 15 journals, until it was finally accepted by the Journal of Theoretical Biology. Prof. Margulis kept submitting her revolutionary paper again and again because she knew she’s right and believed in her hypothesis. (“I am sorry to inform you” or how to deal with paper rejection. labguru.com December 03, 2012 By Chen Guttman)

 

リジェクト:苦難の始まり

最初の投稿から、すでに8ヶ月が経っていた。その後、別の雑誌に投稿し直してレビューされている最中に、ほんの少しだけ僕たちの仕事に似た論文が別の雑誌に出た。僕はその論文にはすぐに気がついたが、内容は一見似ていたが完全に違っていたので、全く影響はないだろうと思っていた。しかし、それは甘かった。(苦労の論文 2005年12月01日 ハエが星見た maplefly.exblog.jp)

 

アクセプトまでの苦難の道のり

それはもうここでは語り尽くせないほどの苫難の道のりでした。先ほどのCCS と油田の 研究は最初Natureに投稿しましたが,案の定, 3 日後にEditor reject されました。 … このEditor rejectを教訓にcover letterを徹底的に改定した後,次に投稿したのが Scienceでした。… 3 名のReviewer に回った結果のrejectでした。… わずか1 週間程度で必死に論文の改定と原稿よりも分厚いrebuttal 文書を作成してEditorに送り付けた結果, 再審査が 認められました。… Editor からの 返答は追加3名計5 名!のReviewerによる審査の結果, ポジティブが2 名,ネガティブが2 名, 超ネガティブが1名でのrejectでした。Reviewerが5人というところも驚きでしたが,超ネガティブなReviewerのコメントにはさらに驚かされ,A4 紙5枚に渡るコメントを頂き,最後に「まだまだ言いたいことは沢山あるが, もう疲れた」と書き添えられていました。… 半年間にも及んだScieneとの戦いもここで幕切れとなりました。 その後,仕方がないので次はPNASに出すかという気持ちが完全に間違いでした。原稿に「Scienceでいい所まで行ったんだぞ」といううぬぼれが出ていたのだと思います。あっさりとEditor rejectされました。… それからは気を入れなおしてNature Geoscienceを経由してNature Communicationsに投稿し,最終的に掲載が決定したのはNatureに投稿してから1 年半が経過していました。実のところ Natureにreject された時にNature Communicationsへの投稿を推薦されたのですが, この時に投稿してもアクセプトされなかったと思います。Scienceとの戦いで論文のクオリティ ーが上がったことは間違いなく,そう思うとあの時の戦いは無駄ではなかったと思っています。(CiNii地圏微生物学のおはなし〜論文投稿の厳しさと優しさ〜 Japanese Society of Microbial Ecology 微生態和文誌30巻1号)

 

2年にわたるNatureとの戦い

そこで、満を持して再投稿。今回はいけるんとちゃうか、という強い期待。そして……。平成26年1月16日、ドキドキしながらNatureからのメールを開けたところ、ああ3回目のreject。机の上に倒れ臥した。しばらく起き上がれなかった。… ほぼ倒れそうになりながらも、追加実験を行い、再投稿してみたが、「Yasu、もうリバイスももう4回目だし、Natureとしてもこれ以上この論文を扱うことはできない」とEditorから最終通告。再度、翻意を促すメールを送ってみたが、残念ながらゲームセット。2014年3月14日、2年にわたるNatureとの闘いが終わった。正直言って、Reviewerに恵まれなかったのが痛かった。… 3回目のリバイスの時に、laser ablation実験データについて、異なる記載をしていたらReviewer 3は追加実験を求めなかったのではないか。そもそも、最初の投稿時に、もっとデータを付けてから投稿するべきではなかったのか。色々な思いが胸をよぎる。YASUの呟き No. 10 激闘の果てに

 

論文投稿の苦しみ

論文投稿の苦しみ   2003年の冬頃だったと思いますが、ずっと研究してきた成果として、Natureに投稿しました。… 私の論文は、投稿から1週間以内にリジェクトされました。… 私の論文は、2-3週間かけて文面を書き換えて、Scienceに投稿しました。残念ながら、こちらも1週間でリジェクトされました。次は、順番通りCellです。Cellはフルペーパーなので、Figureの数量を増やしたり、章立てを見なおしたりといった大改訂が必要となり、投稿準備に数週間を要しました。この時点で既に季節は春を迎えていました。Cellへの投稿は、査読され、ネガティブコメントは多かったもののリバイズの機会まで辿り着きました。… この結果が来たのは既に初夏になっていました。そこから何としても論文を通したいと、追加実験を行うものの、狙ったデータが思い通りに出ません。… 苦し紛れに論点を変え、結論をやや弱くして再提出しました。残念ながらCellへの再提出もリジェクトとなりました。Cellに投稿した日から半年、Natureに出してからは1年の時がかかっています。当時の私は、研究の本質は何も進歩しないにも関わらず、1年経っても論文が通らないという日々に葛藤していました。「もうブランドジャーナルでなくて良いから論文として終わりにしたい」気を抜くとそんな弱音が出てしまう状態でした。しかし、私の上司が選んだ次の投稿先は、Natureの姉妹誌、Nature Cell Biol.(NCB)でした。… NCBの査読結果はCellと同様に、ネガティブなリバイズ。数ヶ月の追加実験をして、再提出したもののリジェクトでした。(medister Dr’sブログ 学術論文事業を始めたきっかけ ~オープン・アクセス学術誌立ち上げ記 ゼネラルヘルスケア 竹澤慎一郎 )

 

努力と結果

博士課程1年のとき、それまでの研究をまとめて『Cell』に投稿した。結果はエディターによるリジェクト。学位の取得を優先して論文のランクを下げたいと思ったが、武藤教授は実験を追加してもう1回『Cell』に出そうと言う。1年間努力し、コメントに応えるデータを出して再度投稿したが、またリジェクトされた。リジェクトを繰り返す中、上田泰己氏や木村暁氏のような優秀な人たちの活躍を論文などで知り、「自分なんかがこの世界で生きていくのはとても無理だ」という思いがあった。転機となったのは、2回目のリジェクトの後のことだ。次にどうするかについて、武藤教授は迷われていた。そこで青木さんは、いろいろな雑誌を見て、『Nature Genetics』に出しましょうと提案した。それほど下がっていないハードルに、厳しいのではないかとも言われたが、さらに実験を追加して博士課程3年の6月に投稿。すると、予想もしていなかったほどスムーズに、10月には受理されたのだ。「最初に『Cell』に蹴られた後、1年間必死に実験を行ったことが論文掲載というかたちで認められて、研究を続けてもいいんじゃないかという気持ちを少しもてるようになりました」。(制がんを目指して、真摯に研究に取り組み続ける (1)福井大学 医学部医学科 教授 青木 耕史さん jst.go.jp 科学者としての働き方。

 

Shooting for the moon

Nature reject → Science reject → Nature Chemical Biology reject → Nature Communications 2 vs 0でアクセプト,という経緯を辿りました.実験できるドクターが3人もこの研究に関わっていたし,内容が内容なのでNatureは当たり前,何か良からぬ事が起きてダメだったとしてもNature姉妹誌が下限レベルだと思っていました.結局その滑り止めの一つであるNature Communicationsに落ち着いたんですが,嬉しいというよりむしろ残念な結果となりました.(12 生きた細胞内の温度分布測定 詳細  内山聖一 研究内容)

初稿にあたる論文は、Natureとその姉妹紙、Science、そしてCellとエディターにリジェクトされ続けました。まあ、これはある程度想定の範囲内です。そして、ようやくMolecular CellというSopko2006が掲載された科学誌で、レビュー(審査員による査読)に回りました。カバーレターで、Sopkoらの論文を引き合いに出して「彼等の結果を覆す」と主張したおかげかもしれません。しかし、帰ってきたコメントはよいものではなく、エディターによってリジェクトという結論が下されました。

リジェクトしてきた審査員の1人は、どうもトロントのグループに近い人だったようで、「この仕事はSopkoらの仕事を否定するものではなく、補完的なものである」というコメントがありました。そう、私たちの戦略は見事に失敗したのです。自分の学会発表がそうであったように、私はこれまで闘いを挑むような論文を書いたことはありません。今回は御大にそそのかされて(?)、自分に出来ないことをやってしまったようです。そこで、論文の主旨を1から作り直しました。

真面目にSopkoらの仕事も引用し、比べ、私たちとの研究の違いを書きました。すると、実際にSopkoらの仕事が私たちの仕事と補完的な仕事であることが、私にも分かってきたのです。トップジャーナルに載せようとするばかりに見るべきところが見えていなかった、初稿の論文はいろんな意味で不完全でした。私の論文執筆能力が十分でないからなのかもしれませんが、これまでたいていの場合、初稿で書いた論文がリジェクトされて、繰り直し書き直して満足のいく論文になります。すんなり通ってしまったら不完全なものが発表されてしまう、それよりはいいのかもしれません。

さて、書き直した論文は、Genome Research誌に投稿しました。これは、ゲノム研究ではトップのジャーナルです。科学誌はしばしば、「インパクトファクター」と呼ばれる、どれだけその科学誌に掲載された論文がその先に引用されているかという指標をもとに評価されます。この指標には賛否両々論あるものの、やはりそれなりに、それぞれの科学誌に掲載される難しさ、要求するスタンダードの高さを反映しています。

今回の論文については、私はインパクトファクター10以上の科学誌に絶対に掲載するつもりでした。泥臭い話ですが、たくさんの研究費や人材をつぎ込んでもらったし、結果もしっかりとしたものが得られている。あとは私ががんばるしかない。この論文が「よい科学誌」とよばれるものに掲載されないのだとしたら、私の責任以外のなにものでもない。そういう意味では、インパクトファクター13以上のGenome Research誌は、次の候補としては適切だと思われました。(第4章:gTOW6000を世にはなつ HM’s webpage 2013-01-22)

 

味方を得てアクセプト

いよいよ、Nature に投稿されて……。古寺氏: はい。2009年10月のことです。でも、すぐには載らなかったのです。インパクトのある成果だし、推敲も重ねたし、論文には自信がありました。しかし、いきなりエディターリジェクト。紋切り型のお断り文章をもらって、かなりがっかりしました。どうしていいかわかりませんでしたね。… 仕方なく、次にScience にも投稿してみたのですが、これもエディターリジェクトでした。そこで、時間をかけてもう一度論文を推敲し直しました。どうしたらインパクトのある論文に仕上げることができるのだろうかと、文字通り昼も夜も考えながら。そしてその成果を、もう一度Nature に投稿したのです。2010年5月に、Letterとして。しかし、それでもまた、エディターリジェクトでした。

もうダメだと思ったのですが、安藤教授が、ミオシン研究の世界的な権威の研究者に見てもらおうと、論文を送ってくださったのです。筋肉の研究で有名な方と、ミオシンVの研究で有名な方です。そうしたら、その2人とも大絶賛してくれて。そのうえ、Nature のエディターに推薦の手紙を書いてくれたのです。… とうとうエディターから、「考え直したら、確かにすごい内容です」という連絡が来て、論文をレフリーに回してくれることになりました。そこからは、とんとん拍子でした。(動くミオシンの撮影に成功! 古寺 哲幸氏 Nature著者インタビュー2010年11月4日)

 

自身を客観的に見る

何回かリジェクト食らってたみたいですが、ストーリーを変えて、本人も納得した形になって投稿したら、好意的なコメントが来て、追加実験をいくつか加えたら、それなりにいいジャーナルに驚くほどあっさりと受理されたようです。ストーリーがやっぱり大事ですね。データをいっぱい出したい気持ちや、本当のいきさつをさておいて、読者が読んですんなり納得できる、無理のないストーリーにまとめるのが大事です。結局Reviewerも主張が裏付けられているかどうかを判断するだけで、筋が通っていたらそれ以上の批判は難しいものです。(研究雑話(1)Wunderbarな日々 2017-03-13)

 

私はリジェクトが好きだ

諸君 私はリジェクトが好きだ
諸君 私はリジェクトが好きだ
諸君 私はリジェクトが大好きだ

瑣末な批判が好きだ
追試要求が好きだ
データ追加が好きだ
検定やり直しが好きだ
大幅改訂が好きだ
文献追加が好きだ
図表削除が好きだ

Natureで、Scienceで
Cellで、PNASで
EmBioで、C.B.で
科研費で、学振で

この地上で行われるありとあらゆるリジェクト行動が大好きだ

文献をならべたレビューの一斉発射を無意味として査読無しでリジェクトするのが好きだ
再投稿された論文をリジェクトさせた時など心がおどる

(風流記 2007年10月5日 参考:「諸君 私は戦争が好きだ」)

 

リジェクトするときに使える英語表現

  • We regret to say that ~
  • We regret to inform you that ~
  • We regret that we are unable to publish it in XXXX.
  • We regret to say that we will not be able to accept this manuscript for publication in XXXX.

 

リジェクトの味

参考

  1. “Inside Nature” ―Nature誌編集の舞台裏(?) (かたつむりは電子図書館の夢をみるか 2008-06-21) 去る6/19、筑波大学若手イニシアティブセミナーとして行われたNature ジャパンのエグゼクティブディレクター、中村康一氏の講演会に行ってきました。… 「どんなに質がいい論文でもNatureとして興味持てなかったら落とす」とのことで、過去にはこの段階で後にノーベル賞を受賞する論文を落としてしまったこともあるそうだけど、未だにそのスタイルは崩していない、と。… ただ、ここでも他の学術出版と違うのは、査読者はあくまでコメントを求められるだけで、最終的な掲載の可否は全部編集者が決める、とのこと。
  2. サイエンスに蹴られた論文がネイチャーに載る・・・ (がんの分子腫瘍学・遺伝学 2012年10月22日) サイエンスの689というのは、最初の投稿先がサイエンスでそのままサイエンスに採用された論文が689報あるということである。サイエンスに蹴られてnatureに採用されたのが82報あるということ。しかしcell誌にはサイエンスリジェクト論文は一つも載らなかった(natureリジェクト論文も載っていない)。
  3. Nature Geoscienceからリジェクト、その反省と分析 (黒猫の旅 2013年9月18日)
  4. 論文がRejectされた時。~戦うべきか、否か、それが問題だ~ YASUの呟き No. 15
  5. 論文が却下されました – どうしたらよいでしょうか? (Ben Mudrak, PhD American Journal Experts):”3つめのオプションが最も一般的です。査定者から受け取ったコメントを慎重に考慮して、論文を修正して、別の雑誌に論文を投稿します。”
  6. 8 Scientific Papers That Were Rejected Before Going on to Win a Nobel Prize (Science Alert FIONA MACDONALD 19 AUG 2016)
  7. 論文リジェクトの種類 (むしのみち 2010-05-08):”リジェクトは研究者にとっての試練のようなものですが*1、どんな種類があるのか、自身の研究をもとにまとめておきたいと思います*2。”
  8. regectされた時のモチベーションの高め方というものを教えてください。(論文がregectになりました 教えて!goo 質問者:cueda 2005/08/05)

 

 

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冠詞はaかtheか無しか?可算・不可算の謎を解く、パケット英語用法百科II

日本人が英語で論文を書くときの壁のひとつが、正しい冠詞を選べないことです。辞書で可算名詞か不可算名詞か調べても、まったく解決しません。抽象名詞が文脈によって可算名詞として使われたり、修飾語句によって冠詞の選択が変わる可能性があるからです。「なぜここではこの冠詞なのか」とアメリカ人の研究者に聞いても、「なんとなく」という答えしか返ってこなくて、もやもやが残るだけです。冠詞の選択を誤ると文の意味が変わってしまうことが多く、論理が一貫しない読みにくい原稿になります。しかし、そんな日本人の冠詞の悩みを解決する、福音書とでもいうべき教科書がついに刊行されました。

グレン・パケット氏が『科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現』を世に送り出したのが2004年。それから実に12年もの歳月を経て、2016年に「科学論文の英語用法百科」待望の第2編が刊行されました(全5編の予定)。第2編「冠詞用法」は、書籍タイトル通り、一冊まるまる300ページが冠詞の選び方の説明に費やされています。

ネイティブなら自然に身につけてしまう正しい冠詞の選び方のルールを徹底的な理論的考察により炙り出し、悩める日本人研究者にそれを伝授するという、実に野心的かつ教育的な本です。

冠詞用法は、正式な指導を受けるとしても僅かなものにすぎないのに、ネイティブ・スピーカーはどうにかほとんど全ての人が完璧な直感的な理解を得る。… 上述のように冠詞の特殊性を認識した結果として、冠詞用法の理論を科学的理論と同様に構築することができるということに気付いた。…当然、英語における冠詞用法を説明する理論は他にも組み立てられ、異なった個人的観点から築かれた理論はどれも内容に多少の差異があるものとなるだろう。しかし、慎重に組み立てられたものであれば、そのいずれの理論でも、ネイティブ・スピーカーに共有される同一の直感的な理解に基づくため、冠詞用法についての帰結が必ず一致するという意味で同等のものでなければならない。…英語の場合は、冠詞があるため、日本語では普段示されない情報が各名詞に対して必ず示される。冠詞により名詞の意味するものがことごとく一定の形を持つかどうか、また特定、唯一、包括的などであるかどうかについて明確な情報が伝えられる。…原文を日本語として読むときは内容について何の違和感も感じないが、英語に訳そうとすると、初めて文章中に(英語から見れば)意味が曖昧な名詞があることに気付く、ということがしばしばある。その名詞が特定のものを意味しているのか、任意のものを意味しているのか、ある種類やある範囲内の全てのもの、あるいはその一部のみを意味しているのかなど、ということが判断できないわけである。また、その情報が文脈からでも分かり得ないことは少なくない。その多くの場合、訳文での冠詞用法を誤らないためには文献を調べる必要がある。…冠詞用法の基礎となるロジックをしっかり学習した上で、たくさんの用例を対象にそのロジックを熟考すると、冠詞の正しい使い方は徐々に直感的に理解できるようになる。本書が提供する指導はまさにそういった学び方を可能にするものである。 (前書きより)

 

参考

  1. 『科学論文の英語用法百科』とは(京都大学学術出版会)
  2. パケット道場~初級アカデミック英語講座~  (エナゴ学術英語アカデミー):パケット道場記事一覧
  3. Paquette道場(phpBB掲示板

研究プレゼンテーションの極意

大学院生や研究者が必ずやらなければならないこと、その一つが研究成果の口頭発表です。ちゃんとカリキュラムを組んでプレゼンテーションのやり方を教えている大学院は少ないため、博士号を取ったあとでも自分のプレゼンに自信が持てずに悩む人が多いのではないでしょうか?

そこで、プレゼンをどう組み立てるか、どうしゃべるかということに関して参考になるネットの記事などを紹介します。英語での発表にはそれなりの難しさが伴いますが、トークをいかに組み立てるかということに関して言えば、英語と日本語による違いはありません。

学会発表やセミナーでのトークにはある程度決まった型というものがあります。挨拶、背景の説明、仮説やキークエスチョンの提示、実験方法の説明、実験結果、結論、まとめ、将来展望といったことです。しかし、これらを順序良く無難にこなせばプレゼンが成功するかというと、そうとも限りません。では、研究者のプレゼンにおいてもっともっと大事なことは何でしょうか?

日本でプレゼンの達人といえばこの人、ジャパネットたかたの(元)社長の高田さんのプレゼンが非常に参考になるそうです。

ジャパネットたかた流プレゼン法

ジャパネットたかた社長に学ぶ学会発表の極意(こんどうしげるの生命科学の明日はどっちだ!?)

内容を簡単に紹介すると、

極意1:対話による共感の成立:学会の聴衆や査読者が疑問を感じそうなところで、自分で突っ込みを入れて、それに答える。
極意2:研究に対する信頼を得る。そのためには適切なコントロール実験の結果をわかりやすく呈示する。
極意3:演者が推定した仮説を伝え、それを証明する実験を提示し、仮説が正しい場合の結果の予測を提示する。それから、結果を見せる。このようにして、そのデータが出た時の演者の感動を伝え、感動を共有する

ということになります。これとは多少違った観点からプレゼンの極意を具体的に語っている山中伸弥氏の記事も必読です。

山中伸弥教授のプレゼン術

山中伸弥教授の「人生を変えるプレゼン術」〜とにかくココを意識せよ (現代ビジネス)

簡単にまとめると、

  1. プレゼンの重要性を認識すること。実験して結果を出すのは研究者の仕事の半分に過ぎない。重要な残り半分は、研究成果を人に伝えること。
  2. 自分のプレゼンをビデオに録画して、客観的に見直すトレーニングがお勧め。
  3. スライドに書いたことはしゃべる。しゃべらないことは書かない。
  4. スライドとスライドの間にはつながりが必要。つながり、流れを意識したしゃべりを。
  5. 論理的な流れを意識してスライドをつくり、プレゼンを準備する。それは普段の研究の進め方の改善にも役立つ。

ということでしょうか?是非、本記事を熟読してプレゼンの極意をマスターしてください。もう一つの記事「山中伸弥教授を「1億円プレーヤー」に変えた人生最大のプレゼン」もお勧め。こちらの記事では、聴衆が誰なのかを考えてプレゼンを用意することの重要さが語られています。

もう少し具体的な組み立てに関するチュートリアルも紹介しましょう。

YOUTUBEで学ぶプレゼンの組み立て

イントロダクションの構成のしかた
A 10-15 minute scientific presentation, Part 1: Introduction

まず、受け入れられている事実(Context)を話し、次に、問題点(Complication)を話し、クエスチョン(Question)を設定し、仮説(Hypothesis)を立ててそれを紹介するという流れ。

遺伝研メソッドで学ぶプレゼンの構成法

英語のプレゼンテーションのやり方に関しては多数の書籍が刊行されています。なかでも、トークをどう組み立てるかに関して基本的な考え方を示してくれる興味深い本として「遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション[動画・音声付き]」(出版社:dZERO)があります。

プレゼンの最初の部分はイントロダクションです。イントロダクションの目的は何でしょうか?この遺伝研メソッドによれば、それは、「聴衆をキークエスチョンに導くこと」です。ちなみにキークエスチョンというのは、トークの結論を「答え」としたときの、それに対応する「質問」です。キークエスチョンがトーク全体を貫く背骨になるように話を組み立てれば、聴衆は最後までついてきてくれるというわけです。

  1. 研究者のための科学英語プレゼントレーニング 出張講習も

サイエンス誌のウェブサイトにも役に立つ記事があります。

Gosling & Noordamさんらの方法

Mastering Your Ph.D.: Giving a Great Presentation By Patricia Gosling, Bart Noordam Oct. 20, 2006

ここで述べられていることを要約すると、

  1. しっかりと準備すること
  2. 聴衆を知ること
  3. 自分ひとりで、あるいは少人数を前にしてちゃんと声に出してリハーサルを行うこと
  4. 3回伝えること(最初にこれから話すことが何かを話し、次に、話すべき内容を話し、最後に、今話したことが何だったのかを話す)
  5. 声の調子、間のとりかた、アイコンタクトなどにも気を配る

プレゼンは準備が全て

準備段階で原稿を書いて読んで練習するのは大切なことですが、本番で原稿を読み上げるのは望ましくありません。学会発表はコミュニケーションの場だということを理解すべきです。

世界の指導的な数学者の講演は、さすがと思わせる説得力があるが、彼らの多くは、ちょっとした講義のためにもテキストを作り、それを憶えて、あたかもアド・リブのような印象を与えながら、すじ書き通り首尾一貫した話をしていることを注意しておきたい。(小松彦三郎 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 138ページ)

参考

  1. ジャパネットたかた社長に学ぶ学会発表の極意(こんどうしげるの生命科学の明日はどっちだ!?)
  2. 山中伸弥教授の「人生を変えるプレゼン術」〜とにかくココを意識せよ (現代ビジネス)
  3. 1億円プレーヤー」に変えた人生最大のプレゼン (現代ビジネス)
  4. Q&Aを楽しもう! その1:質問をしよう – 国立遺伝学研究所 (PDFリンク)
  5. 遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション[動画・音声付き]感じる力、考える力、討論する力を育てる 出版社:dZERO 著者:平田 たつみ 、タジ・ ゴルマン、広海 健 発売日 2016/01/28
  6. 英語のパワーポイント・プレゼンテーション~国際学会で発表する学生・研究者対象~:”話し言葉の発表原稿を用意して、暗記しよう。スライドだけで話すことはとても難しいので、初めての人は必ず作ろう。 スライドに書いてることを文章に直すと作りやすいです。 ただし、発表中原稿は見ないようにしてください。原稿を読んでいるとカッコ悪いです。少なくとも5回は、時間を測って声を出しながら練習する。話しにくいところ、忘れやすいとこがわかってくるため、そこを修正しつつ練習しよう。”
  7. How to Give a Great Scientific Presentation  Posted on February 22, 2011 by MESA Committee
  8. How to give a dynamic scientific presentation — Convey your ideas and enthusiasm – and avoid the pitfalls that put audiences to sleep By Marilynn Larkin Posted on 4 August 2015
  9. Scientific Presentation Skills. Melissa A. Hines, Dept. of Chemistry (PDF) 疑問⇒答え⇒さらなる疑問⇒答え⇒さらなる疑問 というプレゼンが効果的
  10. Ten Secrets to Giving a Good Scientific Talk Mark Schoeberl and Brian Toon

 

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沼研の伝説的なエピソード:沼正作(1929-92)

沼正作博士(1929-1992)は、神経伝達物質の受容体やイオンチャネル等の一次構造を次々と決定していき、脳内で働くさまざまな神経機能素子の分子的実体や構造機能相関を明らかにすることにおいて多大な貢献をした科学者です。あの怒涛の業績を産み出した沼研では、どのように研究が進められていたのでしょうか?当時、京都大学医化学教室(医化学第二講座) 沼 研究室で活躍された研究者の方々が語るエピソードには、非常に興味深いものがあります。

注)ここで紹介するエピソードは、昭和の時代のものです。令和の研究倫理の基準に照らし合わせると、すべてがアカデミック・ハラスメントに該当すると思います肯定も否定も礼賛もしません。単純に、凄いラボだったんだなあという気持ちで紹介しております。

研究に対する厳しさ

大学院に入って数日後に
君,もう大学院をやめなさい
と言われました。当時私の研究していた酵素は室温で数秒で失活する酵素で,私が不安定を言い訳の材料にしたことに沼先生は激怒しました。  (医 化 学 教 室 と 私)

コンピューターに間違いはつきもの。ヌクレオチドシークエンスをアミノ酸に読み替えるのは,目で全部チェックしないとコンピューター間違えますからね。今までずっとそうしてきましたから。そのおかげで,これまでの論文1つも間違いがありませんわ。」 (医 化 学 教 室 と 私)

フラコレが夜中にとまって活性画分を失ったとき:
何でや。
「フラコレがとまっておりました。」
君なんでみとらんのや。フラコレなんて故障するにきまっとる。夜中じゅう起きてチェックするのが当然で私はいつもそうしてますよ。」 (医 化 学 教 室 と 私)

沼 先生が風邪を引いたヒトに向かってよく言っていたことですが,
緊張感が足りないと風邪を引きます。緊張感を保ってACTHを分泌するようにしておけば風邪は引きませんよ。従って私は風邪を引いたことがない。
それが昂じて,風邪で病院に行っていてプログレス報告会に遅れたヒ トに先生からの一言
公私混同すべきじゃない。」 (医 化 学 教 室 と 私)

ほぼ毎日夜10時ころ沼先生が研究室へおりてこられ,
きょうの実験は如何でしたか?
と質問され,わたしがデータを説明すると,
では明日はどこそこまで進みますね。」,
なにかミスがあると,
なぜすぐやり直さないのですか。
といった調子でした。 (医 化 学 教 室 と 私)

共同研究者に対して:
もうほかの部分全部できてて,あと先生のアラインメントだけができてないんですわ。いつできますか?
「あさってくらいには」
いや,こっちはずっと待ってるんですよ。
「それではあしたには」
もう他にすることないんですわ。
「じゃ,今からすぐ やります。」
今晩遅くまでいますから。ほなよろしく。」 (医 化 学 教 室 と 私)

この精製された ACTH-mRNA の純度を調べるべく当時東大におられた本庶先生のところへ教えて頂きに行くことになり,第6研究室から本庶先生にお願いしましたところ,都合がついたら Tel しますと言われ待っていました。3~4日たったところで,沼先生が,
「北さん」東大行きはどうなりましたか??
本庶先生からの御連絡を待っています,と 答えましたところ,突然,
あなたに熱意を感じない!!以前から,あなたは,時々土,日曜日に labに来ていない事に気付いていましたが,研究に対する努力は無限ですよ!!」 (医 化 学 教 室 と 私)

ある時竹島先生が沼先生に少しだけ口答えしたらこう言われたそうだ。
私は戦争に行って上官の 言うことを聞かなかったやつを見て来た。戦場で頭を下げろと言われて逆らったやつは次の瞬間、首がなかった』 (努力は無限/竹島先生のこと Yoshimura Lab 2007-7-7)

留学するという最後の日,挨拶にうかがった時,先ず出たお言葉は,
君はこれまで私に対して数々の無礼があった
であった。これは,また2時間説教か,と思った瞬間,
まあ,ええけどな。頑張れや
ときた。(医 化 学 教 室 と 私)

厳しかったですねえ。たとえば、お昼に本庶研沼研合同の論文抄読会をやっていて、大学院生が論文を発表するのですが、論文の紹介の仕方が悪いと両巨頭の前で叱責されるんです。…沼先生は他人に厳しいだけでなくご自分にもものすごく厳しくて、研究室を帰られるのが朝の5時ごろ、サイエンスにすべてを捧げる生活をしておられた。 (テルモ生命科学芸術財団 インタビュー)

沼教授室の明かりは毎晩午前2時ごろまで消えることがなかったという (月刊 化学 2015年10月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 最終回)

 

論文発表に対する厳しさ

沼先生に
これから始めるからな
といわれたら, 筆頭著者はその瞬間から論文原稿を書き終えて出版社に郵送するまで, 沼先生との2~3週間にわたる一対一の濃厚な毎日, さらにその最後はほとんど徹夜の数日間が続くことを覚悟しなければならなかった. (月刊 化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

ペーパーワークに睡眠なし。夜中の3時か4時頃ようやくデスマッチがおわり,かえって寝られるかと思いきや,
君は今から文献やって,明日朝9時には秘書さんにこれとこれやるように指示しとけよ。」 (医 化 学 教 室 と 私)

その後論文を書いて,教授に持って行き,その後2週間に渡る「デスマッチ」が始まりました。数日経った頃でしょうか,
北さん,あなたの英語は,中学生以下です!!
といわれ私の論文をビリビリに破られました。(医 化 学 教 室 と 私)

「中学生以下ならましですよ, 僕は”幼稚園児“とまでいわれた」と語ってくれた友人もいる. (月刊 化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

沼先生の論文の書き方は基本的に「英借文」だった. 極力オリジナルの表現を排除して先行文献の表現を借りてくるよう指示した. 先行文献も英米人が一流雑誌に書いた表現でなければ採用されず, しかも一つでなく複数の先行文献で使われていることをしめさなければならなかった. (月刊 化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

それどこに例がありますか
と言うのがペーパーワークでの沼先生の口癖でした。 (医 化 学 教 室 と 私)

新しい知見や考え方が含まれている場合には当然オリジナルな文章を「英作文」せざるを得ない. 沼先生は筆頭著者が書いた原稿を, 声をだして読むように指示した. 沼先生はそれを聞きながら,
ここは文章が続かんな
とか
これはうちで使った文章じゃないな
といったコメントを発した. (月刊化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

論文は外国に遅れたらしまい。1日でも早く投稿すること。そのためには,出来上がった原稿を火曜日の午後1時までに大阪中央郵便局に持参し,窓口で今日の便に間に合いますかと確かめて投函すること,そうすればその日の夜の便でロンドンに水曜日には到着し木曜日には Nature のオフィスに届く。万一遅れても金曜日には着くのでその週にまにあう。 (医 化 学 教 室 と 私)

原著論文作成の時の沼先生の気合いの入れようは,経験したものでないと分からない,一種独特な世界があった。私などはペーパーワークの経験が乏しかったた め,ペーパーに関するいろいろな調べものを命令されたりしたとき,何事につけても要領を得ず,かつ対応が遅かったため,たびたび叱責された。沼先生は教授室から電話でお叱りになることが多く,医化学第3研究室の黒い電話のベルが鳴るたびに「また先生に叱られるのではないか」という思いから一気に心拍数が上昇し,身体が固くなり,冷や汗が噴き出すという条件反射が形成された。 (医 化 学 教 室 と 私)

教授室でのデスマッチのやり取りは一対一であり、筆頭著者の証言に頼るしかないが、ある友人は
あなたは傲慢なうえに嘘つきです。嘘つきは決して研究者にはなれません
といった厳しい言葉を浴び、激昂した沼先生が椅子を蹴り倒したのを目にして血の気が失せたと語ってくれた。 (月刊化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

当時はもちろんパソコンなどない. … そのため膨大な量の配列データを手作業で整理し, 電卓で図上の長さを計算し, B4サイズの紙に原図を書いていった. 原図を受け取った秘書はロットリングを使って作図し, できあがったものを論文上でのサイズに縮小コピーした. 沼先生はそれに定規を当てながら確認していき, 1mmの数分の一でも違っていると思ったら原図にもどっての書き直しを指示した。図のプロポーションが気に入らない場合も同じだった. … 沼先生は基本的にホワイトを使った修正を認めなかったので、何度かの書き直しの末、ようやく大きなマルチプル・アラインメントの図が完成した. ところが確認していくと1か所だけ本来破線であるべきところを実線(同じ種類のアミノ酸であることを意味する)にしていたことがわかり, 一同は落胆した. 今回ばかりはホワイトを使おうかとみなが思ったとき, 若い秘書の流した涙がこぼれ落ちて図をにじませた. これで否応なく書き直しになったという話である. (月刊化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

研究者にとっての論文というのは, 画家にとっての絵と同じなんですわ. 納得がいくまで何度でも書き直すんです. 最後の一筆まで力を抜いたらあかんのですわ.」 (月刊化学 2015年7月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回)

 

24時間365日

日曜の朝6時に沼先生に
PstI はありませんか?
と電話をかけられ起こされた (医 化 学 教 室 と 私)

12月31日に仕事を終え,医化学でのほんの少しの仕事を 沼先生に引き継いで頂き,自宅に戻り元旦を久しぶりに家族でゆっくり過ごしました。明けて2日の 昼頃でした。さて郷里の明石に帰って2~3日ゆっくりすごそうと準備していると,突然電話がなりはじめ愚妻が取り上げると沼先生からだとの事。これを聞いて小生が電話口にでると,
沼ですが(しばし沈黙)。正月は休むと言っていましたが,もう2日です。いつから研究室に来るのですか?」  (医 化 学 教 室 と 私)

医化学第二講座の故沼正作教授とアセチルコリン受容体の研究を共同でされておられた時に,沼教授が深夜でも電話をかけてくるとこぼしておられました.久野先生のほうから,沼教授に夜中は応対しないと告げられたそうで,それからは,そのようなことはなくなったそうです.(PDF 久野宗先生追悼のことば 東北大学大学院生命科学研究科脳機能解析分野 八尾寛)

 

  1. 研究室メンバーに向けて書かれた恐ろしい手紙 2016年1月23日 アレ待チ

 

沼研のやり方はパワハラだという見方が、現在では一般的だと思います。しかし、研究者という職業がどいういうものかを考えさせる言葉を、合わせて紹介しておきたいと思います。

「朝起きた時に,きょうも一日数学をやるぞと思ってるようでは,とてもものにならない。数学を考えながら,いつのまにか眠り,朝,目が覚めたときは既に数学の世界に入っていなければならない。」(佐藤幹夫)

数学は体力だ!木村 達雄 / 【研究者の適性】自分が研究に向いている人か生き残れるかを占う30の質問

ちょっと私見を書きます。

実験系の研究室では、長時間労働がやむを得ない状況もあり得ますが、自分がアメリカ留学中に見聞きしたラボでは、必ずしも労働時間が長いわけではなく、大学院生もポスドクも朝9時か10時に来て、夜は一番遅い人でも9時には帰っていて(日本人ポスドクは例外で、夜もっと遅くまで働いている人が多かった)、それでいてネイチャー、サイエンス、セルもしくはそれらの姉妹紙のトップ誌にコンスタントに論文が出るという状況でした。 夏休みやハロウィーンやクリスマスはしっかりとホリデーモードでリラックスした雰囲気があり、悲壮感を漂わせて仕事するという感じでもありませんでした。自分は大学院は、わりと「軍隊」と揶揄されるようなラボにいたので、日米のこの落差には結構驚いたものです。

そうはいっても、実験科学では思った通りの結果がそうそう得られないというのは、どんなラボでも変わらないと思いますので、いかにして必要なデータが得られる実験をデザインするかという部分で差がつくのかもしれません。ラボ内で競争が生じることもありますし、運不運に左右されることもあることは、世界のどこにいても同じです。

実験で得られたデータから何がいえるのか、取り組んでいる仮説の検証にあとどんなデータが必要なのか、データをどう組み合わせると魅力的なストーリ―になるのかと言ったことに関しては、非常に頭を使っていたと思います。

自分の個人的な考えですが、1日に何時間働くか、週末の時間をどう使うかは、個人が自分の自由意志で決めている限り問題はないのではないかと思います。ラボのボスが、部下や大学院生の事情を無視して強制するというのが一番問題で、今それをやると確実にパワーハラスメント、アカデミックハラスメントでしょう。

最悪なのは、サイエンティフィックにあまり重要ではない問題に、長時間労働をもって取り組み、体力や精神を消耗してしまうことです。それでは研究者としてのトレーニングにもなりませんし、キャリアアップのための実績づくりにもなりません。そのあたりの配慮は本来、PIの責任だと思いますが、多くの場合、PIが大学院生やポスドクのことをそこまで考えているとは思えません。そんな状況で、見通しをもたずにいきなり大学院生が研究を始めてしまうのは大変危険です。この問題は、当たり前なのに意外とラボでは議論にならないのが自分は不思議でなりませんでした。しかし、『イシューからはじめよ』という本にそのあたりのことがズバリ指摘されているのを読んで、我が意を得たりと思いました。

  1. イシューからはじめよ【書評】

 

沼 正作 博士の言葉

沼先生は、怖い先生だと聞いていましたが、私達の話を聞いて、にこやかに

教科書で得る知識も大事だが、実際に実験をしてみないと生きた知識にはならない。実験をしながら考えることがもっと重要だ。

と諭され、実験をすることを勧められました。(プロフェッサーがヒヨコの頃 第3回 筑波大学医学群医学類 副学類長 桝 正幸 先生 国立大学医学部長会議

「努力は無限ですよ。」 (『二人の偉大な研究者との出会い』筑波大学医学群 桝 正幸 教授

「何をやっても時間がたつのだから、出来るだけ大事で、意味がある仕事をやりなさい。」 (京都大学大学院医学研究科神経・細胞薬理学教室 メッセージ

「目の前の100人を治療する医師も重要だが、将来の100万人の治療に役立つ基礎研究も重要である。」 (京都大学ウイルス研究所 増殖制御学分野 影山研究室 影山教授からのメッセージ)

「私が憂えているのは、今の日本の若い研究者が比較的早く論文の書ける ようなテーマしかやらないことだ。私は日本人に独創性がないとは思わない。欠けているとすれば、思い切って難しいことに挑戦しようというチャレンジ精神だ と思う。ヒマラヤ登山なら失敗すれば命がなくなるかもしれないが研究で失敗しても命はなくならない。多少のリスクは冒してでも、これは大切と思うテーマに は賭(か)けられるような若い人を養成してほしい。これが私の言い残したいことだ」 (産経新聞 平成4年3月14日朝刊 / 1991(平成3)年度修士学位記授与式式辞 1992(平成4)年3月26日 平成3年度修士学位記授与式式辞 学長 鈴木 正裕 / 『神戸大学学報』No.427 1992〈平成4〉年4月)

世の中には重箱のすみをつつくような研究をしている学者がいっぱいおるんですわ. そんな研究は時間の無駄やから私はやりません. そして研究テーマは世の中の流れに対して早すぎても遅すぎてもいけません. 一歩早いと早すぎます. 半歩早いテーマを選ぶことで成功するんです.」 (月刊 化学 2015年8月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第3回)

最初のテーマには、痛みを感じる時に分泌される神経ペプチドであるサブスタンスPを選びました。ACTHの成功例から考えて、サブスタンスPの遺伝子をクローニングして調べれば、きっと新たな神経ペプチドが発見できる。そうすれば、痛みのメカニズムがより詳しくわかるだろうと思ったのです。この狙いも的中し、サブスタンスPとよく似た神経ペプチドを発見し、これをサブスタンスKと名付けました。この研究も世界的に高く評価され、新しい研究室を無事スタートしたとほっとしたのですが、ある時、沼先生から「君を教授にしたのは、あんな研究をしてもらうためではない。もっと新しい道を進むべきである」と言われました。(サイエンス・ライブラリーNo.53 中西 重忠 JT生命誌研究館

 

少しは酒も飲めた方がええんですわ. 人生には酒でまぎらわさないと耐えられないようなつらいことがありますから.」 (月刊 化学 2015年10月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 最終回)

  

参考

  1. 医 化 学 教 室 と 私
  2. 京都大学医化学教室 沼教授時代[昭和43(1968)年2月1日~平成 4(1992)年2月15日]
  3. 伝説の生化学者 沼正作物語 第1回 こうして誕生したデンセツの京大医化学第二講座 ●柿谷 均  (月刊化学 2015年6月号 化学同人):”京都大学医学部に沼正作(1929-1992)という伝説の生化学者がいた.幾多の優れた業績からノーベル賞候補にものぼり,自らもノーベル賞を強く意識していた.だが,大腸がんという病魔に襲われ,志なかばの63歳という若さでこの世を去った.これは,ありし日の沼先生を語る実録・沼 正作物語である.” “沼先生は教室員に元旦以外休みを取ることを許さなかったという「伝説」で有名だが, 実は厳格な論文作成の作法こそが最も際立った特徴であったように思う.” ”…この成果はNature誌のアーティクルに掲載され, 雑誌の表紙を飾った. 1979年春のことである. このとき沼先生は50歳, 世界の表舞台にデビューする年齢としてはかなり遅かった. 周囲は「遅咲きの研究者」という見方をしたが, あとから振り返ればここに至るまでの十分なトレーニングと準備を重ねていたということだろう, 沼先生の快進撃はここから始まった.”
  4. 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第2回 論文作成をめぐる壮絶をきわめたデスマッチ ●柿谷 均  (月刊化学 2015年7月号 化学同人
  5. 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第3回 ぶっちぎりのアセチルコリン受容体 ●柿谷 均 (月刊化学 2015年8月号 化学同人
  6. 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第4回 病を隠して研究の陣頭指揮をとる ●柿谷 均 (月刊化学 2015年9月号 化学同人
  7. 伝説の生化学者 沼 正作 物語 最終回 沼 正作先生が遺したもの ●柿谷 均 (月刊化学 2015年10月号 化学同人
  8. 山田財団のご援助に感謝(山田財団2005年年報)(東大医学部生化学・分子生物学 教授 清水孝雄):”7年間の早石研究室での修行を終えて、私は希望に燃えながらパスツール研究所かカロリンスカ研究所への留学という贅沢な悩みを抱えていた。パスツール研では娘のための日本人学校まで探してくれていた。タンパク化学をしっかり身につけていた私に期待されているのは当然、アセチルコリン受容体の精製である。神経科学をしっかり勉強する良いチャンスだと思った。しかし、不安もあった。留学すると最初は半年くらいフランス語を勉強しないとサラリーが出ないということ、それよりさらに問題だったのは、当時沼研で成功し始めた遺伝子工学による神経科学への接近であった。私の留学の半年ほど前に、沼教授はつかつかと私の横に来られ、「アセチルコリン受容体の材料は何が良く、それはどの様に入手できるか」と聞かれた。私はシビレエイの研究をされていた岐阜大学の先生をご紹介したが、「これは下手をするともろにぶつかるのではないか」という不安がよぎった。私は治安や言葉のこと、また、北欧への漠然とした憧れにより、最終的 にカロリンスカへの留学を決めた。この決断は、脂質メディエーターの研究から離れることが出来なくなった運命的な留学となったが、私の予想は的中し、出発から1年も経たないうちに沼研から受容体クローニングのネーチュアアーティクルが大々的に発表された。分子神経生物学の誕生の日であり、世界中が興奮したが、私の安堵感は誰も知らなかったはずである。”
  9. Beam et al., Function of a truncated dihydropyridine receptor as both voltage sensor and calcium channel. Nature 360, 169 – 171 (12 November 1992); doi:10.1038/360169a0
  10. Heinemann et al., Calcium channel characteristics conferred on the sodium channel by single mutations. Nature 356, 441 – 443 (02 April 1992); doi:10.1038/356441a0
  11. Tanabe et al., Repeat I of the dihydropyridine receptor is critical in determining calcium channel activation kinetics. Nature 352, 800 – 803 (29 August 1991); doi:10.1038/352800a0
  12. Mori et al., Primary structure and functional expression from complementary DNA of a brain calcium channel. Nature 350, 398 – 402 (04 April 1991); doi:10.1038/350398a0
  13. Adams et al., Intramembrane charge movement restored in dysgenic skeletal muscle by injection of dihydropyridine receptor cDNAs. Nature 346, 569 – 572 (09 August 1990); doi:10.1038/346569a0
  14. Tanabe et al., Regions of the skeletal muscle dihydropyridine receptor critical for excitation–contraction coupling. Nature 346, 567 – 569 (09 August 1990); doi:10.1038/346567a0
  15. Tanabe et al., Cardiac-type excitation-contraction coupling in dysgenic skeletal muscle injected with cardiac dihydropyridine receptor cDNA. Nature 344, 451 – 453 (29 March 1990); doi:10.1038/344451a0
  16. Mikami et al., Primary structure and functional expression of the cardiac dihydropyridine-sensitive calcium channel. Nature 340, 230 – 233 (20 July 1989); doi:10.1038/340230a0
  17. Stühmer et al., Structural parts involved in activation and inactivation of the sodium channel. Nature 339, 597 – 603 (22 June 1989); doi:10.1038/339597a0
  18. Takeshima et al., Primary structure and expression from complementary DNA of skeletal muscle ryanodine receptor. Nature 339, 439 – 445 (08 June 1989); doi:10.1038/339439a0
  19. Tanabe et al., Restoration of excitation—contraction coupling and slow calcium current in dysgenic muscle by dihydropyridine receptor complementary DNA. Nature 336, 134 – 139 (10 November 1988); doi:10.1038/336134a0
  20. Imoto et al., Rings of negatively charged amino acids determine the acetylcholine receptor channel conductance. Nature 335, 645 – 648 (13 October 1988); doi:10.1038/335645a0
  21. Fukuda et al., Selective coupling with K+ currents of muscarinic acetylcholine receptor subtypes in NG108-15 cells. Nature 335, 355 – 358 (22 September 1988); doi:10.1038/335355a0
  22. Tanabe et al., Primary structure of the receptor for calcium channel blockers from skeletal muscle. Nature 328, 313 – 318 (23 July 1987); doi:10.1038/328313a0
  23. Fukuda et al., Molecular distinction between muscarinic acetylcholine receptor subtypes. Nature 327, 623 – 625 (18 June 1987); doi:10.1038/327623a0
  24. Noda et al., Expression of functional sodium channels from cloned cDNA. Nature 322, 826 – 828 (28 August 1986); doi:10.1038/322826a0
  25. Mishina et al., Molecular distinction between fetal and adult forms of muscle acetylcholine receptor. Nature 321, 406 – 411 (22 May 1986); doi:10.1038/321406a0
  26. Noda et al., Existence of distinct sodium channel messenger RNAs in rat brain. Nature 320, 188 – 192 (13 March 1986); doi:10.1038/320188a0
  27. Sakmann et al., Role of acetylcholine receptor subunits in gating of the channel. Nature 318, 538 – 543 (12 December 1985); doi:10.1038/318538a0
  28. Noda et al., Primary structure of Electrophorus electricus sodium channel deduced from cDNA sequence. Nature 312, 121 – 127 (08 November 1984); doi:10.1038/312121a0
  29. Mishina et al., Expression of functional acetylcholine receptor from cloned cDNAs. Nature 307, 604 – 608 (16 February 1984); doi:10.1038/307604a0
  30. Noda et al., Structural homology of Torpedo californica acetylcholine receptor subunits. Nature 302, 528 – 532 (07 April 1983); doi:10.1038/302528a0
  31. Furutani et al., Cloning and sequence analysis of cDNA for ovine corticotropin-releasing factor precursor. Nature 301, 537 – 540 (10 February 1983); doi:10.1038/301537a0
  32. Noda et al., Primary structures of β- and δ-subunit precursors of Torpedo californica acetylcholine receptor deduced from cDNA sequences. Nature 301, 251 – 255 (20 January 1983); doi:10.1038/301251a0
  33. Noda et al., Primary structure of alpha-subunit precursor of Torpedo californica acetylcholine receptor deduced from cDNA sequence. Nature 1982 Oct 28;299(5886):793-7. (Pubmed)
  34. Kakidani et al., Cloning and sequence analysis of cDNA for porcine beta-neo-endorphin/dynorphin precursor. Nature 1982 Jul 15;298(5871):245-9.
  35. Noda et al., Isolation and structural organization of the human preproenkephalin gene. Nature 1982 Jun 3;297(5865):431-4. (Pubmed)
  36. Noda et al., Cloning and sequence analysis of cDNA for bovine adrenal preproenkephalin. Nature 1982 Jan 21;295(5846):202-6. (Pubmed)
  37. Nakanishi et al., The protein-coding sequence of the bovine ACTH-beta-LPH precursor gene is split near the signal peptide region. Nature 1980 Oct 23;287(5784):752-5. (Pubmed)
  38. Nakanishi et al., Nucleotide sequence of cloned cDNA for bovine corticotropin-beta-lipotropin precursor. Nature 1979 Mar 29;278(5703):423-7. (Pubmed)
  39. 「天才は有限、努力は無限。」(マラソンの瀬古選手らを育てた陸上競技指導者 中村清氏の言葉)
  40. Obituary  Shosaku Numa 1927–1992 (Osamu Hayaishi Osaka Trends in BIochemical Sciences)

 

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研究テーマの選び方 22のポイント

いざ大学院生として研究室に配属されたり、ポスドクとして新しいラボで働き始めたときの最初の悩みは、研究テーマとして何を選ぶかということです。フェローシップをとるために半年前に書いた研究計画があったとしても、実際にラボに来てみるとラボの状況やボスの考えが変わっていて、研究テーマを一から考え直すことになるのは珍しくありません。


それでは、どのような点に注意して研究テーマを決めればよいのでしょうか?自分が興味を持てるトピックを選ぶことや、与えられた年数で答えが出る(=論文が出せる)程度の大きさのクエスチョンを設定するといったことは当然のことですが、他にもいろいろ考えるべきポイントがあります。
それでは、順番に見ていきましょう!

 

1.研究テーマはボスから与えられるもの? [責任の所在]

そもそも、研究テーマは誰が決めるべきものなのでしょうか?やってほしいテーマをボスが提示することも、学生やポスドクの自主性に任せられることも、どちらのケースもあります。その中間として、漠然とした方向性や大きな枠組みだけが与えられる場合も多いでしょう。教授の教育ポリシーや、研究助成を受けている課題、ラボ全体の研究の進展状況なども関係するので、ボスとよく話し合うことが大切です。また、ボスが与えてくれた研究テーマが当たる保証は全くありません。むしろうまくいかないことのほうが多いでしょう。そのときにどうやって研究の軌道修正をするかは、研究している本人の力量にかかっています。

誰かの助力が欲しければ、その人のところに行きなさい。その人からあなたのところに来てくれることは決してない。(Stephen C. Stearns  大学院生への「ささやかな」アドバイス)

研究テーマについては自分で見つけると書きましたが、もちろん大学院生がゼロからテーマを決めるのは難しいです。ですので、まずは当研究室で行っているテーマや対象生物に近いところから始めるのが現実的です。 (北海道大学大学院 小泉研究室

成功している人には,年上から話しかけやすい,というタイプが多いように思えます.年上から話しかけやすい人にはアドバイスや良いテーマという形の「運」が舞い込みやすいし,そこに人一倍の働きがあれば認められて実を結びやすいと考 えれば自然な結果です.… 独立心が強くてシニアにアドバイスを求めないのは得策ではありません.(京都大学大学院 篠本 滋  大学院生へのメッセージ)

最初は僕が頭で考えた仮説をもとに、こんなことをやったらどうだろうと提案するわけですが、 多くは当たらない。だから僕が提案するテーマはきっかけにすぎず、残りはそれぞれが考えてやる。僕の提案と全然違う実験やって、こういう結果が出ましたと 僕のところに来ると、最初は当惑することもあるけれど、よく聞いているとこっちも面白くなってくる。こうして研究が進むわけです。(細胞から個体へ - 脇道から到達した発生生物学の本流 竹市 雅俊 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

生物のセの字も知らないのに、先生からの指示がないのですから何をしていいのやらと、一人で悩みました。三ヶ月後、しびれを切らして大沢先生に会いに行くと、「え?君、なにかしたいから来たんじゃないの?」と言われ、自立しないと何もできないと悟り、目が覚める思いでした。(生命現象の基本にゆらぎを発見 柳田 敏雄 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

原則として自分でテーマを探して下さい。いくら待っていても,私からテーマを指定することはありません。… 研究は,当たるかはずれるかは,誰も分からないものですから,「100%確実に博士論文になりうる安心なテーマ」など,あらかじめ誰も知りません。 そのために,博士課程の最初の1年間くらいは,視野を広げて情報を収集し,「新しく」かつ「重要な」研究テーマを見つける努力をして,できるだけまっとう なテーマ探しをしてもらっています。このプロセスは,その後に独り立ちして研究生活を続けていくための,非常に重要な訓練になります。 (大阪大学大学大学院 小川研究室

ショレムは、アダマールが誰かから論文のテーマと指導を求められて激怒しているのを目撃したことがあると話していた。「とんでもない男だ。自分でテーマを見つけられないやつが、よくも博士号をとろうなどとかんがえられたものだな!

引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 242ページ

浮田先生が、博士課程でも有機合成に関わるテーマを出されたので、「先生は自然に起きていることを研究しろと言ったじゃないですか。僕はtRNAの構造と機能をやりたいんです」と拒否しました。怒られましたね。「今日のお前は頭がおかしい。出直してこい」と言われたので、「はいっ」と引き下がって三日後にまた同じことの繰り返し。ついに三回目、「わかりました。先生のテーマもやりますが、自分が思っていることもやっていいですか」と尋ねると、「知らんっ」とまた怒られたので、「ありがとうございます」と言って戻りました。このやりとり以来、結局、教授のテーマには手を付けませんでした。(ヒトのがんウイルスに挑む 吉田 光昭 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

As a graduate student, it is wise for the principal investigator (PI) to choose the initial project, or at least play a major part in choosing the project. You simply don’t have the experience and judgment at this point to choose an interesting project with a significant chance of success. At a postdoctoral level, the decision is more conditional. If you are continuing in the field of your Ph.D. studies, you should be capable of choosing a good project. If it is a new field, however, your advisor will need to provide guidance as to what is feasible and interesting.
(How to succeed in science: a concise guide for young biomedical scientists. Part II: making discoveries. Jonathan W. Yewdell Nat Rev Mol Cell Biol. Author manuscript; available in PMC 2009 Jun 1)

上のツイートで紹介されている言葉の中に、”他人からはアドバイスできない”とありますが、まさにその通りだと思います。自分の経験で言えば、いい実験結果が出ると、ボスや周囲から良いアドバイスが得られますが、ポジティブな実験結果が出なくて苦しんでいるときには、誰も役立つアドバイスをくれません。研究というのはそんなものです。上のツイートでアカハラではないかと心配されていますが、多くの場合、本人が自力で頑張るしかないという状態を見守ってあげることしかPIはできないと思います。私の個人的な考えですが。

 

2.研究テーマ選びの落とし穴 [研究の意義]

大学院生やポスドクは期限が切られているため、「一刻も早く実際の仕事を始めなければ」というプレッシャーがかかります。しかし、正しい方向を見定めないうちに走り出すのは危険です。物事を始めることは簡単ですが、きちんと終わらせることも、途中で潔く撤退することも、どちらも簡単ではないからです。その研究の意義の大きさを見定めてから始めなくてはいけません。

 

長期的なゴール設定も無いまま、目の前の課題に盲目的に取り組み、とりあえず日々忙しいからと慢心していた。なまじ、目の前の課題は山ほどあったので、散発的にでも小さな成果が出れば、研究したつもりになれた。‥‥ 私は問題の本質から目を逸らし続け、そのまま博士3年の後期まで至ってしまった。10月後半、いよいよ問題から目を逸らせなくなった時、私の目の前にあったのは「複数の、脈絡ない研究課題の、小さな成果の寄せ集め」だけだった。個別の成果だけでは小さすぎて博論にならないし、全体を包括するストーリーは存在しない。(■博論審査を終えて(所感、長文) はてな匿名ダイアリー 2018-01-19)

 

Q:目の前の疑問やテーマにすぐに飛びついていないか? MESSAGE→その疑問には、貴重な時間と労力を費やして答える価値が本当にあるのか?(『なぜあなたの研究は進まないのか』 東京大学医学部付属病院呼吸器外科講師 佐藤雅昭 2016年 メディカルレビュー社

ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでたら、本当に大切な事をやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ。だから、自分はこれが本当に重要なことだと思う、これなら一生続けても悔いはないと思うことが見つかるまでは研究を始めるなと言ってるんです。(精神と物質 利根川進x立花隆 1993年 文藝春秋)

研究で何が大変かと言えば,研究テーマを決めることだと思います.研究の善し悪しは,はっきり言って何を研究するかを決めたときにその大勢が決まっているとも言えます.そういう研究テーマを思いつけるかどうかが分かれ目だと思います.(勉強と研究 似て非なるもの 境有紀のホームページ)

Alonはテーマ選びにおけるありがちな誤りとして、「最初に思いついたアイデアをテーマとして設定してしまうこと」を挙げています。アカデミックの研究プロジェクトは、どんな小さなものでも数カ月単位、場合によっては数年単位で組まれるものです。加えてすぐさま終わると思えた テーマでも、予測もしない箇所であちこちつまずくものです。このような事情ゆえに、安易なテーマ設定はあとで望まぬ苦痛を生み出すことになります。(「優れた研究テーマ」はどう選ぶべき? 日本最大の科学ポータルサイトChem-Station 2012年1月05日)

Choose a question that breaks new conceptural ground. Try to seek the answer to an open question, not merely to fill in some missing data in the literature. I frequently see papers where the rationale given by the authors for doing the research is that something “is not fully understood,” or that some fact is “not known.” (Stephen G. Lisberger, From Science to Citation)

長年の経験から、「良い」テーマを探すことが研究で最も難しいと思うようになりました。(a)面白い問題、(b)重要な問題、(c)人が答えを知りたがるような問題、そして(d)実際に解決できる問題を見つけるのは、とても難しいことです。研究の所要時間も考慮しなくてはなりません。一晩で解けるような些末な問題でもなく、一生かけても無理というような、永遠に取り組み続けなければならないような問題でもいけません。原則としては、大きな問題を小さな問題に分け、助成金を充当することができる3年から5年の間に、それらの小さな課題に取り組むことになります。 (ティム・ハント博士、ノーベル賞受賞者 研究で一番の難題は、取り組むべき課題を見つけること  editage Insigths)

今も一番忘れない言葉が「阿倍野の犬実験をするな」です。何のことかわからないと思いますが、阿倍野とは大阪市阿倍野区、大阪市立大学医学部の所在地であります。このことは当時の助教授の先生に何回も言われました。どういうことかというと、アメリカでアメリカの犬を調べて「ワン」と鳴いたという論文が出たら、すぐに日本の研究者は日本の犬の頭を叩いたら何と鳴くのかを調べて、「ワン」と鳴きましたという論文を書く。それは「日本の犬実験」です。さらに、うちの大学の研究者は、日本の犬が「ワン」と鳴いたので阿倍野区の犬の頭を叩いたら、やっぱり「ワン」と鳴いたという論文を書いている人がたくさんいる。だから、阿倍野の犬実験は絶対にするな。(山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長 2011年12月 日本分子生物学会 若手教育シンポジウム PDF)

銅鉄実験: 語源は,銅を材料にしてすでに結果が発表されている研究を,鉄を材料に変えて追試する実験から来ている.転じて,結果は約束されているがオリジナリティーや新奇性に乏しい研究のこと.(バイオテクノロジージャーナル 2006年7-8月号 Vol.6 No.4 / 実験医学Online

研究においては、ゴールを設定した時点で何割か勝負がついていると言っても過言ではありません。低い山にゴールを設定した時点で、それより高い山に登れる可能性はほとんど無いからです。研究を始めて間もない学生は、しばしば、ちょっとやればうまくいきそうなプロジェクトをやってみたい衝動に駆られがちです。しかし、そんなことをやっても、誰も見向きもしないようなことが分かるだけであるか、世の中の誰かがすでにそんなことはやっていて、実験がうまく行き始めたころに他から論文が出てくるか、そんなところがオチです。結局のところは時間の無駄なのです。こんなことが分かったら(できたら)すごい、一体どうなっているのか訳が分からない、そんなことにトライしないと意味がありません。第一、そのようなテーマでないと楽しくないですし。(高い山を目指そう。次の山を目指そう。九州大学大学院  今井研究室  教授挨拶)

 

3.研究テーマ選びの落とし穴  [手段と目的]

実験手段や研究対象となる実験材料が研究室にまず先にあって、「それを使って何ができるか」が研究テーマを探す出発点になるラボも多く見受けられます。その場合は、その研究手法の適用範囲にまで発想が狭まってしまいます。

また、研究目的を達成するために必要なツールをまず開発するという研究計画も要注意です。ツールの開発に何年もかかっているうちに、他の研究グループが先にもっと良いツールの開発に成功しそれが公開され、自分でそのツールを作る必要が全くなくなることがあります。

自分の研究において「手段と目的のどちらが大切なのか」を常に見失わないことが大切です。

金槌しかもっていないと、すべてのものが釘に見える (When all you have is a hammer, everything looks like a nail.)(Weblio 英語のことわざ辞典

研究テーマが決まると,次に,研究の目的や目標が決まります。つまり,「この研究では,どこどこまでを明らかにしたい」という目標が決まります。そして, その目標のためにベストな手段を用いて研究を進めるわけです。ところが,その手段を使うこと自体に徐々に満足してきてしまい,手段を使うことだけで研究が終わった気になる例が多く見受けられます。(大阪大学大学院 小川研究室の運営方針)

 

4.ホームランだけを狙いに行かないこと [リスク管理]

重要で大きな仕事をして良いジャーナルに論文を出したいという野心は誰にでもあります。しかしリスク管理が大切です。研究では、期待した結果が得られないことのほうが多いのですが、論文が全く出ないと研究者として生き残れません。

テー マは複数持ちましょう。…困難だけれどもうまくいけば大きな仕事になるテーマ(松)、確実に論文になることが狙えるテーマ(梅)、この中間的な性質を 持つテーマ(竹)を 持つことをお勧めします。 (「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』 中山敬一 九州大学大学院教授)

もう一つ言いたいことは、「ドクターコースに進もうという学生ならば、複数の研究テーマを必ず並行して進めよ」、ということです。単に博士号が欲しいならともかく、ドクターコースに進学する学生さんは、将来、「研究する」ということを職業にしたいのだと思います。その業を積むには、文字通り業績が必要です。難しいジャーナルを狙えば狙うほど、結果を得るためには難しい実験が必要となってくるし、何種類もの異なった研究手法が必要です。したがって、すぐに成果・業績は出ません。..  我々の大ボスの宗岡先生は、「学会発表する際の内容が必ず異なるように、複数の実験を走らせよ。研究は上手くいくこともあれば、そうでないことの方が大部分なので、保険実験が重要」ということを常に言われていました。桃栗3年柿8年ではないですが、2~3年で論文にできる仕事と、5年以上かかってもライフワークになる大きな仕事の両方を進めておく必要があります。(雑感 広島大学大学院総合科学研究科 人間科学部門 生命科学研究領域 脳科学分野 浮穴研究室のホームページ)

 

5.研究テーマ選びに際して論文を数多く読み、よく考えることの重要性 [研究動向の把握]

自分が思いつくようなことは、他の人も既に思いついていることが多いので、自分のアイデアが既に論文になっていないかどうか、先行研究をチェックする必要があります。どんな研究分野でも研究の潮流や歴史があります。その分野がどのように発展してきてどちらへ向かっているのか、どの程度成熟しているのかは、関連論文をたくさん読むことで見えてきます。

まず最初は、広く、徹底的に読んだり考えたりしなさい。(Stephen C. Stearns  大学院生への「ささやかな」アドバイス)

研究プロジェクトが辿る道のり 1.どんな研究をするか考える 2.関連研究を探す 3…. この中でも、2→1のバックトラック(似たものを見つけちゃって元々のアイデアがつぶれる)がものすごく多いです。(コンピュータ科学の博士課程にきて初めて分かったこと4つ junkato.jp 2012年11月13日)

その頃の私は、毎週届く一流誌の論文を誰よりも先に読んで優越感に浸り、研究の最先端に居るような気になっていたのです。でもあるとき小関先生に 「君、何でもちょっとずつよう知ってるね」と言われ、ものすごく傷つきました。それを契機に、自分でアイディアを考えることが重要だと気づきそれに専念す る事にしたのです。こうして新しい実験計画を色々と考えて志村先生のところに持って行くと、先生はよくできた人ですから、「よく思いついたね」とおだてて くれます。でも色々調べてみると、そういうアイディアはもう既に論文になっている事が多く、それに気付いてがっかりし、また別のことを考えるという日々が続きました。 そのうち次第に、5年後にはこういうテーマで世界の一線の研究が動いているはずだというところまでたどりつくようになったのです。学生時代には、最初からテーマを与えられて研究をするのではなく、自分で考えることを強いる教育が重要だと思います。(常に問いを立て続けて—免疫・嗅覚・そして次は 坂野 仁 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

留学したラボではすごく自由にさせてもらったので、例えばベンチに立ってなかったら働いてないと思われるような雰囲気は全然なかったんですね。…最初の2~3ヶ月で100本ぐらい読みましたが、良い論文とそうでない論文がわりとすぐに区別できるようになりました。そうなると、良い論文だけちゃんと端から端まで読んで、それ以外は一応内容がわかる程度に飛ばし読みできるようになりました。最初の100本を短期間で読むのが大事だと思います。どんどん反復することによって、脳が鍛えられます。…大学院の頃の自分だと大体300本ぐらいは読まないと自分のアイデアを誰もやっていないかどうかわからないという感じがありました。(実験医学 2015年6月号 Vol.33 No.9 シリーズ 日本のサイエンスを担うこれからのリーダーの条件を求めて 第3回 創造的な研究を行い、マイルストーンを築く ミシガン大学 山下由起子)

 

6.論文を読んでわかった気にならないこと、批判的に論文を読むこと [批判的精神]

自分のアイデアがどれもこれも既に論文になっているのを見つけると、「自分がやることはもう残っていないのではないか」と焦る気持ちにもなります。しかし、たいていの論文は「ギャップ」が目立たないように見栄えよく書かれているだけで、実際にはいろいろと問題があるものです。論文の結論が間違っている可能性すらあります。

月曜日から金曜日までの毎日、早石研、沼研の合同ランチセミナーがありました。いくつかの論文の内容を紹介するのですが、実験の組み方、結果の解釈の仕方、討論は正しいかなど、実に厳しい質疑討論が行われます。無理に筆者の立場に固執し、客観的に論文を評価できないと容赦なく批判され、時に翌日に持ち越 されます。恐怖のセミナーでした。ここで初めて、論文は批判的に読むということを勉強しました。(清水孝雄教授 退職記念誌 挨拶文)

科学者たるもの、根拠なしに信じてはいけないのです。誰かが論文などで言った結論を、第三者が紹介すると一見まともにみえるものですが、根拠となっている原典のデータやデザインをきちっと評価することが大事です。… 論文を読みながら、その根拠となる引用文献に記されたものを分析すればよいのです。すでに出版された論文であっても差読者の立場で読んでみると、よい点悪い点、論文の主張に穴があれば見えてきます。それから、自分の目で客観的に判断すると、どれだけ多くの未解決問題が残っているかがわかります。そうすると自分の考えで新しい研究を始めることができます。(実験医学  2015年11月号 Vol.33 No.18 日本のサイエンスを担うこれからのリーダーの条件を求めて 第5回 科学の原典をひも解き,知の体系を築く  近藤寿人 京都産業大学教授)

重要なことは雑誌に公表された論文をそのまま信じてはいけないと言うことです。私は大学院の指導教官であった西塚泰美先生(元神戸大学長)から「すべての論文は嘘だと思って読みなさい」と教えられました。まず、疑ってかかることが科学の出発点です。教科書を書きかえなければ科学の進歩はありません。しばしば秀才が陥る罠ですが論文に書いてあることがすべて正しいと思い一生懸命知識の吸収に励むあまり、真の科学的批判精神を失うという若者が少なくありません。(「STAP 論文問題私はこう考える」 質問8 答え8 新潮社「新潮45」July 2014 p28〜p33 本庶 祐 京都大学大学院医学研究科客員教授 PDFリンク

 

7.論文を出発点にするのでなく自分が観察した現象から出発すること [独創性]

良い研究の条件の一つは独創性があることですが、それはどのようにして生まれるのでしょうか?

[アドバイス] 生物学者アガシーの「自然を学べ、本を学ぶなかれ(Study nature, not books)」という名言があります。本を読んで自然を理解したように思い込まず、自分で自然を感じて課題を発見しましょう。(文部科学省検定済教科書 高等学校理科用 平成30年度版 生物基礎 改訂版 本川辰夫 谷本英一 編 啓林館 61  啓林館生基 315

早石道場での経験は他では得難いものでした。 … 「文献を読むのも重要だが、オリジナルなことをしようと思ったら、自分の実験結果を丹念に観察し、その中から課題を探すことだ」というのが教室の方針でした。(清水孝雄教授 退職記念誌 挨拶文)

魚の顔色を見ることでいろんなアイデアが浮かびます。これができたらすごいなとか、こんなこともできるのではないかとか「魚飼いならでは」のアイデアが浮かぶのです。これは論文を読んでいるだけでは絶対浮かびませんし、試験管をふっているだけでも浮かばないと思います。(サバからマグロが産まれる!? 吉崎悟朗  紀伊国屋書店 注目の本・書評で読む)

岡田節人教授は「論文を読んで、そこから研究を始めるな」と口癖のように言っていました。他人の論文を読み、次に自分だったらどうするか?というようなやりかただけで研究を進めると、その時代の研究の進歩には貢献するけれど、真のオリジナリティには繋がりにくい。 もうひとつ、既存の論文から研究をはじめることの深刻な問題は、メジャージャーナルに掲載された論文ですら、結論が間違っている場合がしょっちゅうあるんです。厳正なレビューを通過した論文でも、一見完璧にストーリーができあがっていると、 真の専門家でない限り問題があっても気づき難い。その場合、間違った結論の上に新しい論理構築をすることになります。研究というもの、自分の目で自然を観察し、発見することが一番大切だと思います。(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター センター長 竹市雅俊氏 トムソン・ロイター 研究者インタビュー

頭の悪い人は、頭のいい人が考えて、はじめから駄目にきまっているような試みを、一生懸命につづけている。やっと、それが駄目と分かる頃には、しかし大抵何かしら駄目ではない他のものの糸口を取り上げている。そうしてそれは、そのはじめから駄目な試みをあえてしなかった人には決して手に触れる機会のないような糸口である場合も少なくない。自然は書卓の前で手を束ねて空中に画を描いている人からは逃げ出して、自然の真中へ赤裸で飛び込んで来る人にのみその神秘の扉を開いて見せるからである。(科学者とあたま 寺田寅彦)

今から考えると、私にとっては非常に重大な決断を自分自身に対して下した。それは、他人の論文や参考文献は一切読まないということ。そして自分の実験結果だけから考えて研究を進めようと決意したことだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 p145)

 

8.再現実験・追試から入ること [巨人の肩に乗る]

その領域で一番重要で興味があると思う論文の追試をしろ。その結果は必ずしも著者の言っている通りにならないから、なぜ違うのかという食い違いの分析から研究をスタートするといい(細胞と人間のサイエンス 増井 禎夫 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

すべての研究はひとのまねから始まる 科学は先人達が多大な努力と年月をかけて築き上げた膨大な過去の成果の上に成り立っています。従って、あらゆる科学研究は先人達の成果をまず利用する事に始まります。その第1歩は先人と全く同じ実験をやり、それが再現することを確認する事から始まります。その過程で、自身の実験技術を確認すると同時に、先人が気がつかなかった新しいテーマを見いだすことが出来ます。(大野茂男 研究室のメンバーへのメッセージ PDF)

Pavlov’s laboratory best illustrates the replication and extension approach. As a new student, you would have replicated the last dissertation conducted there. This tested your ability to follow a write-up, and motivated Pavlov’s senior students to work most carefully. Your dissertation would have been some logical extension of this preliminary work. You neither had to to survey the entire research literature nor wonder if the equipment could be constructed. The work had just been completed in your laboratory. Consequently, the duration and other costs of new research could be estimated well. (An Insider’s Guide to Choosing a Graduate Adviser and Research Projects in Laboratory Sciences by Marshall Lev Dermer)

 

9.夢中になれる研究テーマを選ぶこと [研究にのめり込めるか?]

新しい実験を行う場合、期待した結果がすぐに出るということはそうそうありません。良い結果が得られるような実験条件を探し出す努力が必要で、それが研究の労力の大部分を占めます。八方塞のような状況に陥ってもくじけずに粘って突破口が見出せるかどうかは、その研究テーマに対する愛情の深さにかかっています。そして、良い実験結果が出たあとも、それを良いストーリーに纏め上げて論文として世に出すまでには更に長い道のりがあります。長い年月付き合っても飽きず、寝食を忘れて没頭できるくらいの研究テーマを選ばない限り成功はおぼつきません。

私が知っている「幸せで成功している人」というのは、好きなことを仕事にしているだけではなく、自分の仕事に心を奪われているんです。 …犬とテニスボールで遊んだことはありますか? テニスボールを手に持って見せただけで彼らはものすごく興奮します。そして投げた瞬間興奮して走り出し、ボールに向かって一直線、リードが持っていかれたりしますよね? そう、これが幸せに成功している人々の姿です。皆さんもこんな気分になれるものを見つけて欲しいと思います。(「人生のコツはたったの3つ」Dropbox創業者ドリュー・ヒューストンの卒業スピーチが感動的 logmi.jp/8845)

日本では我慢とか忍耐の重要性が強調されますが、我慢して何かをしてもそれは良い人生にはつながらないと思います。我慢しなければ一生懸命実験できないよ うなら、それは単に自分が研究には向いてないという事だと思います。夜遅くまで実験するのは「楽しいから」であって、「いつかはこんなつらい状況を抜け出すため」ではありません。… そして自分が好きな こと(それに伴うつらいことが苦にならないくらい好きなこと)を見つけられれば、その結果成功しなくても気にならないし、でも、好きなのでどんどん努力するため成功の確率は上がると思います。(“Don’t be trapped by dogma”〜人生とは、生きる価値とは〜  山下 由起子 Life Sciences Institute, University of Michigan / 全世界日本人研究者ネットワーク 留学体験記)

Make sure that you are genuinely interested in the question you choose so that it will continue to intrigue you through a period of several years. (Stephen G. Lisberger, From Science to Citation)

you need to “pick a problem that interests you. You will be living with it for a long time. Make sure it is something you will want to wrestle with even when the going gets rough. It has to make you want to get up early, work late, come in on the weekend, and think about it in the shower.” (How to choose a fruitful research project: advice from graduate students. Lee-Anne Huber, Alexandra Guselle.SURG;Studies by Undergraduate Researchers at Guelph Vol4,No1 (2010))

10.研究テーマが大きすぎず小さすぎないこと

科学者は簡単すぎず難しすぎもしない問題を見つけ出すことによって存在感を示すのだ(ジョン・フォン・ノイマン)

参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 313ページ

 

11.研究テーマの選択がタイムリーであること

研究テーマは、その大きさという問題もありますが、それに関連するのが隊員具です。学問のっ潮流にあって、早すぎず遅すぎずと言えるものが良いと思います。

世の中には重箱のすみをつつくような研究をしている学者がいっぱいおるんですわ. そんな研究は時間の無駄やから私はやりません. そして研究テーマは世の中の流れに対して早すぎても遅すぎてもいけません. 一歩早いと早すぎます. 半歩早いテーマを選ぶことで成功するんです. (月刊 化学 2015年8月号 化学同人 伝説の生化学者 沼 正作 物語 第3回)

ダルベッコが後に僕のことをほめて言うには、トネガワはそのときavailableなテクノロジーのギリギリ最先端のところで生物学的に残っている重要問題のうち、何が解けそうかを見つけ出すのがうまい、というんだね。いくらいいアイデアがあっても、それを可能にするテクノロジーがなければ絶対に出来ない。だけど、みんなこれはテクノロジーがなくて出来ないと思っていることの中にも、そのときavailableなテクノロジーをギリギリまでうまく利用すれば、何とか出来ちゃうという微妙な境界領域があるんですね。(精神と物質 利根川進x立花隆 1993年 文藝春秋)

The thing that differentiates scientists is purely an artistic ability to discern what is a good idea, what is a beautiful idea, what is worth spending time on, and most importantly, what is a problem that is sufficiently interesting, yet sufficiently difficult, that it hasn’t yet been solved, but the time for solving it has come now. (Professor Savas Dimopoulos, a particle physicist at Stanford University)(引用元

科学者の優劣を決めるものは純粋に芸術的才能であり、優秀な科学者はこの才能でもって、何が良いアイデアなのか、何が美しいアイデアなのか、何が時間を費やす価値があるものなのか、そして、最も重要なことだが、何が十分に面白く、それでいて十分に困難であり、しかもそれはこれまでに解かれたことがなく、しかしながら、それを解くべき時が今まさに来たということを見定めるのである。(Savas Dimopoulos教授、スタンフォード大学の素粒子物理学者)(訳:当サイト)

12.研究テーマ選びでボスと意見が合わないとき

「好きなテーマをやっていいよ」と言われていたのに、いざ来てみると「君にはこのテーマをやってもらう」、とボスに研究テーマを強硬にあてがわれてショックを受けた人がいるかもしれません。しかし、お互いに相手がどんな人間かがよくわからない「様子見」の時期に感情的にぶつかってしまうのはもったいない話です。互いの考え方がよりよく理解できれば、研究テーマの選択に関しても自然といい方向に向かうものです。ちゃんと仕事ができる人間だということをボスに認めさせたうえで、ボスに対する愛情と敬意を示していれば、ボスの態度が軟化することもあります。与えられたテーマと自分のテーマとを同時に走らせて、うまく行ったほうを発展させるといった対処が現実的です。良い論文になることが明らかな実験データが得られれば、ボスがそれを研究テーマとして認めないということはないでしょう。

About 95 percent of the time, being able to move a person to your side of an issue comes down to how you make him (or help him) feel about himself. (Bob Burg, Adversaries into Allies)

 

13.研究テーマ選びでラボ内のほかのメンバーと競合したとき

ラボメンバーが多くて研究対象が絞り込まれているラボの場合、自分のやりたいテーマが他のメンバーとかち合うことがあります。ボスが間に入ってラボメンバー 同士のテーマが重ならないように調整することもあれば、一切介入しないボスもいます。そんなときにどう対処すべきかという正解はありません。しかし、相手が口で権利を主張しているだけで全然実験しない人であれば、自分がさっさと実験して結果を出してボスに認めさせることで決着が付くことがあります。実験系の研究室では、最初にきちんと実験データを出せた人が評価されるのが常だからです。あるいは、譲れないこと(e.g., ファーストオーサー)以外はギリギリまで譲って、協調して研究に取り組むことも可能でしょう。何はともあれ、周囲からの協力があるほうが研究はスムーズに進みますので、ラボの仲間とは信頼関係を築けていたほうがいいです。研究ができる人という評価をボスやラボの仲間からひとたび勝ち取れば、自分のやりたいことが実現しやすくなります。

Then the Sun came out and shone in all his glory upon the traveller, who soon found it too hot to walk with his cloak on. (Aesop, The Wind and the Sun)

 

14.そのラボのアドバンテージを研究テーマに反映させること

どんなラボでもそのラボ独自の強みがあります。それと自分の強みとを掛け合わせると研究にユニークさが出せます。そのラボで利用可能な研究リソース(実験手法、経験、ツール、専門的な能力や知識)をよく調べてそれらを最大限に活用することにより、そのラボで仕事をするアドバンテージが生まれます。

You ought to profit from the experience of others in the lab. It is prudent to work on a topic in which your advisor is an expert so that s/he can help you solve problems. (Stephen G. Lisberger, From Science to Citation)

 

15.ラボの中心的テーマをやるか、主流から外れたテーマを選ぶか

ラ ボにはラボの研究の歴史や流れがあります。そのラボが追いかけてきた大きなストーリーの中にある研究テーマに選ぶか、それともあらたな研究テーマを開拓するかは、ひとつの決断です。より多くの研究費が主流のテーマにつぎ込まれていて研究しやすかったり、研究の流れがある分、認知度が高く論文を出しやすいかもしれません。ただし、次のステップで独立することを考えているポスドクであれば、独立後の自分の研究テーマがそのラボと競合しないような方向性を選ぶということもあり得ます。

大学院生がきた時は、最初は放っておいて様子を見ている。どんな本を読んでいるかとか、誰とどんな話をしているかとか。はじめはこれをやれとは言わないで、何気ない顔をして観察しているのです。そしてテーマを決めたら、今の研究室でIP3やCa2+に 関する研究をしていればかなりのレベルの研究ができ、注目される成果が出るので、それにつなげるようにしながらその範囲では何をやってもよいと言うんで す。ただ、やりたいと言ってきたものが、長い経験からやらない方がいいと判断できる時は止めますけれどね。こうやっているといい仕事が出てきます。(俯瞰と徹底 分子から細胞、発生へ 御子柴 克彦 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

水晶体の研究はどうするのと聞かれて、それはもうやめますと、ほぼ宣言に近い発言をしました。…細胞分化に比べると、細胞の接着なんて、発生学ではマイナーと言ってよいテーマです。いわば自分から足を踏み外したわけですが、きっと新しいことが見つかるに違いないと思っていたし、精神的にはほっとしましたね。自分で培養皿の細胞を見ていて気づいた接着現象ですが、… (細胞から個体へ - 脇道から到達した発生生物学の本流 竹市 雅俊 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

 

16.ラボの体制と研究テーマ選び 

大きなラボで複数の研究グループリーダーによる研究体制が敷かれている場合は、研究テーマ選び=どの指導者につくかという問題になります。ボスを選ぶときと 同じくらい、あるいはそれ以上に誰と一緒に研究するかは重要です。大学院生の場合、その研究グループリーダーが事実上の博士研究指導教官になります。その”中ボス”が途中でラボから独立して出ていくこともあります。

 

17.前任者の実験結果が追試できないとき

前任者が出した論文の仕事の続きを研究テーマとしてボスから任されることがあります。ところが、その論文の実験結果がどうしても再現できないということが、残念ながら珍しくないようです。この場合、研究テーマとしては完全に破綻していますが、自分のラボの論文を否定したくないボスはなかなかそれを認めないかもしれません。こういうときは、前任者の成果以上にポジティブなものことを新たに見つけて、そちらに研究テーマを移行するしかありません。

 

18.誰もやりたがらない研究テーマしか残っていないとき 

面白くてしかも実現が容易な研究テーマは、すでにいるラボメンバーが手を付けており、新参者には、ラボとしては重要なテーマなんだけど、大変そうなものしか残っていないということがあります。このような場合は、体力に自信があればハードワークで解決するか、あるいは実験ステップの合理化や測定記録自動化などで、十分実現可能な研究テーマになるかもしれません。

 

19.裏実験・裏テーマの勧め [独立心の涵養]

研究室の体制によっては自由が全くなくて、言われたこと以外の研究テーマや実験が一切できないことがあります。それでもできる限りボスの目を盗んで、自分のアイデアを試すような実験をどんなに小さなことでもいいからやってみることをお勧めします。誰に言われたものでもなく自分の中から湧き出てきたアイデアを試して、期待通りの実験結果が得られれば、非常に大きな自信につながります。もしそれが論文になりそうなところまで育てば、研究テーマとして認めてもらえる日が来ることでしょう。仮に研究テーマとしてそこまで発展しなくても、研究に対する自信が自分の内部で育まれます。

30代半ばくらいまでに、小さいことでも自分が考えたことが当たって、どうやらうまくいきそうだし、しめしめと思う体験をする。他の人が誰も認めてくれな くても自分でにっこり微笑むということがあると、またやってみようと努力をすることができる。それが研究を支えている力だ、そう思いますね。(筋肉をめぐる闘いの40年  丸山 工作  JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー

 

20.絶対に失敗しないテーマ

多くの場合は、仮説を立ててそれを検証する実験を考え、期待する結果が得られたらその仮説に基づいたストーリーをつくって論文にします。期待する実験結果が得られなかったら、ネガティブデータとしてお蔵入りです。ところが、可能性がAと¬A(Aの否定)の2通りで、どちらに転んでも面白いと思えるテーマであれば、絶対に失敗しないテーマということになり、かならず論文になります。たとえば、ある遺伝子の働きがcell-autonomousか、それとも cell non-autonomousかを調べる実験などです。生命現象の中の、何かしらの物理パラメータを決める実験も、かならず答えが出るので失敗しないテーマと言えます。例えば、ゲノム上の全遺伝子数の決定とか、細胞の中に存在する特定のタンパク質分子の個数を数える、酵素活性や、機能分子の性質を表す物理パラメータを決定するなど。

 

21.それで職が獲れるのか?

研究の意義の大きさを見定めることとオーバーラップしますが、出せるジャーナルのランクの見定めも必要です。研究者としてのキャリアを考えているのであれば、論文をトップジャーナルに出せるかどうかが極めて重要になるからです。ネイチャーやサイエンス、あるいは、せめてそのすぐ下の姉妹紙に出すかどうかで、人からの見られ方がガラリと変わります。良し悪しは別として、研究指向の大学や研究所ほどトップジャーナルに論文を出しているかどうかを重要視します。つまり、小さい論文をコツコツとコンスタントに出しても、それが評価されない、すなわち、「ジョブが獲れないため研究者として生き残れない」可能性が高いのです。

研究テーマを決めて実験を始めた段階で、仮にすべての実験が自分の思い通りになったとして論文を書いたときに、どのランクの雑誌に論文が出せるかが決まってしまいます。

研究においては、ゴールを設定した時点で何割か勝負がついていると言っても過言ではありません。低い山にゴールを設定した時点で、それより高い山に登れる可能性はほとんど無いからです。(高い山を目指そう。次の山を目指そう。九州大学大学院  今井研究室  教授挨拶)

自分にできそうなテーマを選んで、自分に書けそうな論文を、ここなら通りそうという雑誌に出したときに、その論文業績で果たしてあなたは自分が希望するジョブを得ることができるのか?と自問する必要があります。ここでしっかり吟味せずに研究を始めるのは、あまりにも考えなさすぎです。自分が想定している大学や研究所でPIのポジションを最近得た人の論文業績はどんなものなのか、よく調べてみましょう。トップジャーナルに論文を出していないと、研究ができる大学や研究所でジョブを獲るのはなかなか厳しいという現実があります。その研究テーマで実験して、全てがうまくいったときにトップジャーナルが狙えないのだとしたら、あなたのキャリアパスはPIとしてラボを持つという未来には繋がらないということです。現実的には、ラボのボスにトップジャーナルに論文を出す力があるかどうか(論文を書く力、エディターと交渉したり差読者に反駁して説得する力、部下をうまく使う力)が、大きく効いてきます。だからこそ、研究テーマ選び以前の話として、いいラボを選んでおく必要があるのです。

関連記事 ⇒ 大学院やポスドク先の研究室の選び方

 

新しいラボに入って研究テーマを選ぶことは決して容易ではありません。自分の興味やスキル、体力、将来設計、その研究分野の研究動向、そのラボの運営体制や他のラボメンバーとの兼ね合いなど、様々な要素が絡んできます。研究テーマを決めるためには、自分のやりたいことを明確にすること、自分が飛び込む研究分野の動向をよく知ること、そして新しいボスやラボメンバーと良い人間関係を築くことが大切です。

〔注意〕 人それぞれ置かれた状況により、研究テーマ選びやラボで遭遇する問題の解決方法は大きく異なることがあります。このページの内容はあくまで参考に留め、ご自分の責任で最善の判断をしてください。

22.できることをやるのではなく、本当に知りたいことをやる

Last but not least,


最後になりましたが、これが一番重要だと思います。多くの人が、入ったラボで、「できることは何か?」と考えて研究テーマを選んでしまっています。「何が知りたいのか?」という発想で研究テーマを選ぶためには、大前提として、自分が行こうとしているラボや自分が今いるラボは、自分がやりたいことができるラボか?を問う必要があります。

自分がアメリカに留学しようと決めて、どこのラボに行こうか悩んだときに、何を基準にラボを選ぶべきかをアメリカでPIをやっている日本人の人に尋ねたことがありました。その方とは初対面でしたが、「自分がやりたいことができるラボを選びなさい。」という答えが即座に返ってきました。今振り返って考えても、やはりそれしかないなと思います。

これを実現するためには、学部と同じ大学の大学院になんとなく進学したり、自分の学力で入れそうな大学院を選んだりしている場合ではありません。自分が受け入れられるかどうかという発想でラボを選ぶのではなく、本当に行きたいラボを選んで、それに向かって相当な努力をする必要があると思います。

 

参考

  1. 「優れた研究テーマ」はどう選ぶべき? (日本最大の科学ポータルサイトChem-Station 2012年1月05日):”「科学者として取り組むべき研究テーマは、どういう指針で選ぶべきなのか?」―これは研究者なら誰しも頭を悩ませる問題でしょう。”
  2. How To Choose a Good Scientific Problem (Uri Alon, Molecular Cell Volume 35, Issue 6, p726–728, 24 September 2009)
  3. 「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』 (中山敬一 九州大学 教授)
  4. 「STAP 論文問題私はこう考える」(PDFリンク) (新潮社「新潮45」July 2014 p28〜p33 本庶 祐 京都大学大学院医学研究科客員教授)
  5. Drew Houston’s Commencement address (MIT News June 7, 2013):”I was going to say work on what you love, but that’s not really it. It’s so easy to convince yourself that you love what you’re doing — who wants to admit that they don’t? When I think about it, the happiest and most successful people I know don’t just love what they do, they’re obsessed with solving an important problem, something that matters to them. They remind me of a dog chasing a tennis ball: their eyes go a little crazy, the leash snaps and they go bounding off, plowing through whatever gets in the way.”
  6. コンピュータ科学の博士課程にきて初めて分かったこと4つ (junkato.jp 2012年11月13日)
  7. 私はこうして卒研を失敗しました (はてな匿名ダイアリー 2012-04-22):”でも初めて研究する(のが大半)なB4に、「全部自分で研究しろ」っていうのはちょっと酷じゃないか?太平洋のど真ん中に、地球の地理も泳ぎ方もわからない人を放り出すようなもんだ。せめて適切な研究テーマを与える  「自分で決めろ」というのならば、その方法を教える 研究の進め方についてアドバイスする  ぐらいは必要なんじゃないか。”
  8. “博士課程の後半になって、自分のテーマのおおもとにしていた海外の論文(某三大誌)が全くのウソである可能性が濃厚になりました。うっすら気付いていましたが、しかし嘘の部分はあってもコアの部分は真実も含まれているはず、ということを信じて再現実験を続けてきました。早い段階で再現実験をしっかりしなかった自分の責任はもちろんありますが、…” — lk http://disq.us/9rnl15

 

更新 20180526 中村修二氏の言葉を追加 20180120 はてな匿名ダイアリーを紹介  201712009 寺田寅彦の言葉を紹介 20171029 九大 今井研 教授挨拶の言葉を紹介 20170724 高校理科生物基礎 啓林館の教科書のアドバイスを追加 20170623 銅鉄実験を追加 20170528 浮穴研雑感の言葉を紹介  20170321 「阿倍野の犬実験をするな」 20170225『なぜあなたの研究は進まないのか』の言葉を紹介

研究者の仕事術
研究者の英語術
研究者のための思考法

 

 

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書くことは、書き直すこと (Writing is rewriting)

文豪ヘミングウェイも、 「書くという行為には、書き直すという行為の一種類しかない(The only kind of writing is rewriting)」と言っています。

論文の原稿であれ何であれ、最初の草稿が一通り出来上がってから、ようやく書くという行為が始まります。どんな風に書き直すと良い文章になるのか、サイエンティフィックライティングにおける推敲の例を見てみましょう。伝えたいことが伝わる文章を書く際には、 Clarity(明晰), Concision(簡潔), Coherence(首尾一貫), Connection(つながり), Flow(流れ), Logic(論理)などがポイントになります。

How To Make Your Writing Flow

以下の動画は、スタンフォード大学のKristin Sainani博士によるサイエンティフィック・ライティングの講義。推敲のケーススタディ。
SciWrite Demo Edit 1

SciWrite Demo Edit 2

SciWrite Demo Edit 3

SciWrite Demo Edit 4

SciWrite Demo Edit 8.4

 

参考

  1. How to Write a Great Research Paper by Professor Simon Peyton Jones, Microsoft Research. (youtu.be/g3dkRsTqdDA) 28:40- #7 Listen to your readers. Get your paper read by as many friendly guinea pigs as possible.
  2. Writing science in plain English by Dr Lynn Dicks, manager of the Conservation Evidence project at the University of Cambridge. (youtu.be/Mn7f5tsgjx8) RULE 1: Put important messages at the start RULE 2: Write short sentences RULE 3: One sentence one idea RULE 4: Vary the rhythm RULE 5: Break the text into small chunks RULE 6: Avoid making nouns from verbs RULE 7: Avoid jargon RULE 8: Avoid long words RULE 9: Do not be afraid of repetition RULE 10: Avoid acronyms RULE 11: Cut out redundant words RULE 12: Use the active voice

 

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論文の書き方:IMRaD 序論-方法-結果-考察の各セクションで書くべきこと

原題の科学論文は一定の形式を持っており、タイトル、要旨、序論(Introduction)、材料と方法(Materials and Methods)(ジャーナルによっては最後)、結果(Results)、そして考察(Discussion)から構成されています。頭文字をとって、IMRaD (Introduction、Method、Result and Discussion)と呼ばれることもあります。順序だけでなく、各々のセクションをどう書くべきかはある程度決まっており、その原則から外れた書き方をすると、科学論文としての体をなさなくなります。以下、論文の書き方を各セクションごとに説明したYOUTUBE動画やネット上の記事を紹介します。ちなみに、研究者が論文の原稿を書くときにこの順で書き進めるというわけではありません。実際に書くときは、図表を完成させてストーリーをつくる順に並べ、本文の構成の骨組みを書き出し、それから肉付けするのがよいと思います。いきなり書き始めずに、骨組み(構想)をまず書き出す作業をすることが大事です。そうしないと書いているうちに迷走します。

論文タイトル Title

論文タイトルは、論文の内容を簡潔に示したものになります。

論文要旨 Abstract

要旨には、限られた文字数の中で背景、目的、方法、重要な結果、結論、意義を含めるようにします。

Titles and abstracts

イントロダクション Introduction

The Introduction to a research paper needs to convince the reader that your work is important and relevant, frame the questions being addressed, and provide context for the findings being presented. (Getting a Strong Start: Best Practices for Writing an Introduction by Michael Bendiksby) ← この文書には、科学論文のイントロの意義、イントロに含めるべき内容・事項、イントロの具体的な書き方が簡潔に述べられていて、非常に濃い内容になっています。

イントロでは、先行研究により既にわかっていること、まだわかっていないこと、自分の研究で明らかにしたいこと、実験で検証する仮説、研究の目的などを書きます。何を述べるにしても、その根拠となる文献を引用しなければなりません。

How to write the Introduction: Part 1

イントロダクションではどのようなスタイルで書くべきでしょうか?イントロは複数のパラグラフからなります。一つのパラグラフには、一つのトピックが含まれるようにし、トピックセンテンスによってそれを示します。文と文、パラグラフとパラグラフは、きちんとつながっていることが必要です。そのためには、論旨の流れを示す言葉(furthermore, howeverなど)を有効に使いましょう。事実や実験結果を示す際の、現在形、現在完了形、過去形の使い分けも重要です。

 

How to write the Introduction: Part 2

方法 Materials and Methods

方法のセクションは、結果の信憑性を示すためにも重要です。

How to write the Method part 1

メソッドのセクションはどのような英語のスタイルで書かれるのでしょうか?一般的に、時制は過去形が使われ、能動態でなく受動態で書かれます。

How to write the Method part 2

結果 Results

論文はストーリーです。Resultsのセクションでどのような順番でデータを見せるかにより、ストーリーの良し悪し(=論文の良し悪し)が変わってきます。

Although the fundamental purpose of your Results section is to present your data, it should never simply be a collection of numbers and tables. This part of the paper should be a story within a story. It presents an opportunity to lead the reader from one important result to the next, guiding them from initial and supporting findings to the novel discoveries that are your reason for publishing. To achieve this, the Results section should generally follow the same pattern as the Methods, following the order of data acquisition as closely as possible in most cases. However, it is more important to use a logical presentation sequence than it is to be strictly chronological. Ideally, each new set of results should build on the previous ones, presenting a logical narrative that makes sense to the reader and leads them to the conclusions you will ultimately ask them to subscribe to. (Reaping the Rewards: Best Practices for Writing a Results Section by Michael Bendiksby)

結果のセクションでは、実験で得られた結果のみを書きます。実験結果の解釈を書いてはいけません。それは議論のセクションで書くようにします。

How to write the Results part 1

結果のセクションではどのような英語表現を用いるべきでしょうか?

How to write the Results part 2

考察 Discussion

考察のセクションには、実験結果が何を意味するのかを書きます。論文執筆において最も書くのが難しい部分でしょう。なぜなら、どれほど深く考えているのか、どれくらい考えが明晰になっているのかが問われるからです。

How to write the Discussion part 1

考察のセクションは、結果のセクションで書いたことを繰り返し書く場所ではありません。

How to write the Discussion part 2

参考

  1. 医学界新聞プラス [第2回]IMRaDを理解する 『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』より 堀内圭輔 2022.05.06 英語論文を書くにあたって英語力はもちろん重要ですが,それ以上に重要なのは,論文の作法や決まりごとを理解して,自分の考えを平易に説明できる能力です。‥大きな仕事でも,小さな仕事に分割し,1つずつこなしていけば,いつか終わります.英語論文も同様です.幸い,英語論文はいくつかの項目に明確に分かれており,各々の項目で書くべき内容も大体決まっています.
  2. Scientific writing 101 Nature Structural & Molecular Biology Feb 2010;17(2):139:論文作成のポイントが1ページで簡潔にまとめられている
  3. Getting a Strong Start: Best Practices for Writing an Introduction by Michael Bendiksby:イントロは何のためにあるのか、どう書くべきなのかを簡潔かつ明確に説明。
  4. Setting the Scene: Best Practices for Writing Materials and Methods by Michael Bendiksby メソッドのセクションをきちんと書くと、論文の信頼性も上がる。
  5. Reaping the Rewards: Best Practices for Writing a Results Section by Dr. Michael Bendiksby:Resultsセクションは何を目的として書くべきなのかを端的に説明。
  6. From Science to Citation (fromsciencetocitation.com) 論文の書き方を各セクションごとに丁寧に解説し、さらに論文投稿やエディターとのやり取りに関しても書かれています。論文の書く上で参考になる非常に良い教科書。書籍としても出版されていますが、このウェブサイトから無料でもダウンロードできるようです。
  7. 論文の書き方 東京農業大学生物産業学部水圏生態学研究室 October 18, 2006
  8. 学術論文作成の基本と英語らしい論文の書き方 (PDF 54 pages) 大島勇人 Journal of Oral Biosciences誌編集長 新潟大学大学医歯学総合研究科 2014.9.26 歯科基礎医学会学術大会総会ランチョンセミナー エルゼビア社主催 若手研究者のためのAuthor Workshop
  9. From Science to Citation: How to Publish a Successful Scientific Paper
  10. これから論文を書く若者のために 改訂第二版 1999.1.21. ver. 2.1 酒井 聡樹(東北大学大学院理学研究科生物学教室)
  11. Getting Published: How to Write a Good Science Paper, by Dr. Chris Mack (Editor-in-Chief, The Journal of Micro/Nanolithography, MEMS, and MOEMS)(youtu.be/yvhYTdEMyC8)  17:00- Introduction Section 18:23- Method Section 19:46- Results and Discussion Section 21:33- Conclusion Section

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