「 研究力強化 」 一覧

英文プレスリリースの書き方 ~ 日本の研究成果を世界に発信するために

論文はせっかく出版しても意外と読んでもらえないものです。ですから、自分の論文がめでたく受理されたら、論文掲載のタイミングに合わせてできるだけ世の中に向けて宣伝する必要があります。新聞等などのメディアに記事としてとりあげてもらうために報道記者に提供する資料が、プレスリリースです。日本のメディア向けには日本語でプレスリリースを書きますが、海外の新聞や雑誌に記事にしてもらうためには、英語で書く必要があります。 まだまだ世界に発信されていない日本の研究成果 さて、日本の研究成果を世界に発信するためには絶対に必要な英語のプレスリリースですが、これを出していない大学や研究機関が多いようです。また、英文プレスリリースを出している大学であっても、日本語での本数に比べると圧倒的に少ないようです。 毎日大量に発表される英文のリリースを読んでは、どれを日本語にするかを決めているわけですが、その中で気づいたことがあります。日本の大学・研究機関の英文プレスリリースが少ない。 日本の大学・研究機関から、インパクトファクターが大きいジャーナルへの発表は、それこそ毎日のようにあるのに、英文リリースが無いのが残念でなりません。わが国の科学レベルを分かってもらえない、というのも悔しいですし、成果を出した研究者を売り込めないのももったいないことです。(日本の研究成果を世界に発信するには【日経バイオテクONLINE Vol.1909】2013.07.17 19:00 増田智子) 2014年度の研究成果に関する和文配信件数:235件     2014年度の研究成果に関する英文配信件数:     9件 (出典:2015/5/29  第3回大学研究力強化ネットワークカンファレンス「EurekAlert!を例とした国際科学広報の効果的なあり方について」 英語による研究成果の発信:東京大学の事例紹介 東京大学本部広報室(Public Relations Office, University of Tokyo)髙祖歩美、Euan McKay) 記者の目に留まる英語のプレスリリースの書き方 英文のプレスリリースが少ない理由は、サイエンスが理解できて、英語がネイティブで、しかも一般読者にとって読みやすい英語の文章を書ける人やチームが日本の大学や研究機関の広報部門にほとんど存在しないことが要因でしょう。大学のサポートを受けられない研究者は、自分で書くしかありません。そこで、英文のプレスリリースの書き方を紹介したサイトを紹介します。EurekAlert!のリリースをいくつか見るとすぐに気付きますが、日本語でよく見るプレスリリースと、英文のプレスリリースとでは書き方のスタイルが大きく異なります。日本のプレスリリースは研究内容の解説が中心ですが、英文のプレスリリースは「人」が中心です。そのため、日本語のリリースをそのまま英語に翻訳しただけでは記者の心に引っ掛からない可能性があります。 海外の記者は社会部の記者が主で、科学ジャーナリストはまだ多くありません。このため、記事を特にわかりやすい言葉、わかりやすい文章で書く必要があります。大事なことから先に!研究成果の社会的意義(社会貢献や影響)など、大事なことから先に書きます。逆ピラミッド型の文章構造です。社会貢献や影響、研究成果、研究の背景、詳細、最後に研究機関や研究者情報の詳しい情報の順番です。文章の最初の部分で興味を引きつけないと、記事自体を読んでもらえません。タイトル(headline)や要約(intro)はトップページやヘッドラインに掲載されるため、最も重要です。インパクトのあるわかりやすい簡潔なタイトルを付けましょう。タイトルは6~8words (90 characters maximum)程度に収める必要があります。(熊本大学URA推進室 研究成果の海外国際広報 EurekAlert! を使用した海外国際広報について) レスター大学(University of Leicester)の広報(Press Office)がプレスリリースの書き方(How to Write a Press Release)を詳細に説明しており文章のスタイルを学ぶのに非常に役立ちます。 …

論文を出す力 ~ リジェクトをどう受け止めるか

  2017/02/26    研究力強化, 論文投稿

研究者には論文を書く能力が必要ですが、それだけでなく、論文を世に出す(=アクセプトに漕ぎ着ける)力も必要です。両者は重なる部分もありますが、質的に全く異なります。論文を書くうえで重要なのは知性ですが、論文を出すときに重要なのはリジェクトされたときの落胆、怒り、失望、疑念などの感情をコントロールする力、揺るぎない信念、状況を見極める客観性や判断力です。 リジェクトに対する心構えが出来ているだけで、受けるダメージ及び回復力が変わってくると思いますので、これから論文を出す人の参考になりそうな論説をいくつか紹介します。 一度リジェクトされただけであきらめてしまうのは、マラソンを走りながら、ゴールのわずか数センチ手前であきらめてしまうようなものだ。もし著者が掲載に強い意志を持っているならば、次に取るべきステップは、リジェクトのレターにあるコメントすべてを正確に理解することである。 (原稿がリジェクトされた時の対処法 根拠と経験に基づく見解 Karen L. Woolley, PhD; and J. Patrick Barron, BA. CHEST 2009; 135:573-577. Ronbun.jp 大鵬薬品工業株式会社) 論文を書き上げることとそれをアクセプトさせることには、恋愛と結婚ほどの違いがある。論文を書き続ける限りリジェクトとのつきあいは切れないと 思った方がよい。私の場合、二本目の論文がリジェクトされて、それはそのままお蔵入りとなった。思えばその時、それから合計 33 回もリジェクトされるようになるとはちょっと想像していなかった。最初のリジェクトの時には、自分の人格が否定されたようでずいぶん落ち込んだ。もちろん 今でも、リジェクトされたときのショックは大きい(とくに、一週間に二度リジェクトの手紙をもらったときなど)。しかしものは考えようで、リジェクトされたとは思わないようにしている。つまり、どこかの大先生に論文を読んでもらったのだと思うことである。たいていの場合、その論文のどこがいけないのか指摘 が付いてくる。それらを参考にして論文を改訂し、別の雑誌に投稿すればいいだけの話だ。(これから論文を書く若者のために 改訂第二版 1999.1.21. ver. 2.1 酒井 聡樹 東北大学大学院理学研究科生物学教室) 研究者、とくにチームのリーダーは、人から学ぶ機会が少なくなるものである。レビューアーのコメントの中には、書いた本人が気づかなかったような議論がなされていることがある。そして、論理の展開に落とし穴があることが指摘されている。そのような議論をクリアするために、追加実験を行い、実験結果を見直すと、新しい発見が生まれてきたことを経験している。また、確実な論拠を得て、論理の展開がしっかりしたものとなり、論文の価値が高まっていくのを実感することがある。レビューアーの中には、ここまで結果を出せば論文になるよと、到達目標を提示してくるケースがある。このような到達目標の多くは、研究者にとり、難度の高いものである場合が多い。「それができれば苦労しない」というわけである。しかし、ここで一念奮起をしてみると、目標を絞っているものなので、意外と短期間にブレークスルーしてしまうことがある。そうなるとレビューアーさまさまである。このような「良い」レビューアーは、まさに教師である。リジェクトという高い授業料を払う価値があるものでもある。(査読に関する理想と現実) Lynn Margulis (1938-2011) Her ground breaking endosymbiotic theory …

no image

aかtheか無冠詞か?理詰めで学ぶ、正しい冠詞の選び方  グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』第2編 冠詞用法

日本人が英語で論文を書くときの壁のひとつが、正しい冠詞を選べないことです。辞書で可算名詞か不可算名詞か調べても、まったく解決しません。抽象名詞が文脈によって可算名詞として使われたり、修飾語句によって冠詞の選択が変わる可能性があるからです。「なぜここではこの冠詞なのか」とアメリカ人の研究者に聞いても、「なんとなく」という答えしか返ってこなくて、もやもやが残るだけです。冠詞の選択を誤ると文の意味が変わってしまうことが多く、論理が一貫しない読みにくい原稿になります。しかし、そんな日本人の冠詞の悩みを解決する、福音書とでもいうべき教科書がついに刊行されました。 グレン・パケット氏が『科学論文の英語用法百科 第1編 よく誤用される単語と表現』を世に送り出したのが2004年。それから実に12年もの歳月を経て、2016年に「科学論文の英語用法百科」待望の第2編が刊行されました(全5編の予定)。第2編「冠詞用法」は、書籍タイトル通り、一冊まるまる300ページが冠詞の選び方の説明に費やされています。 ネイティブなら自然に身につけてしまう正しい冠詞の選び方のルールを徹底的な理論的考察により炙り出し、悩める日本人研究者にそれを伝授するという、実に野心的かつ教育的な本です。 冠詞用法は、正式な指導を受けるとしても僅かなものにすぎないのに、ネイティブ・スピーカーはどうにかほとんど全ての人が完璧な直感的な理解を得る。… 上述のように冠詞の特殊性を認識した結果として、冠詞用法の理論を科学的理論と同様に構築することができるということに気付いた。…当然、英語における冠詞用法を説明する理論は他にも組み立てられ、異なった個人的観点から築かれた理論はどれも内容に多少の差異があるものとなるだろう。しかし、慎重に組み立てられたものであれば、そのいずれの理論でも、ネイティブ・スピーカーに共有される同一の直感的な理解に基づくため、冠詞用法についての帰結が必ず一致するという意味で同等のものでなければならない。…英語の場合は、冠詞があるため、日本語では普段示されない情報が各名詞に対して必ず示される。冠詞により名詞の意味するものがことごとく一定の形を持つかどうか、また特定、唯一、包括的などであるかどうかについて明確な情報が伝えられる。…原文を日本語として読むときは内容について何の違和感も感じないが、英語に訳そうとすると、初めて文章中に(英語から見れば)意味が曖昧な名詞があることに気付く、ということがしばしばある。その名詞が特定のものを意味しているのか、任意のものを意味しているのか、ある種類やある範囲内の全てのもの、あるいはその一部のみを意味しているのかなど、ということが判断できないわけである。また、その情報が文脈からでも分かり得ないことは少なくない。その多くの場合、訳文での冠詞用法を誤らないためには文献を調べる必要がある。…冠詞用法の基礎となるロジックをしっかり学習した上で、たくさんの用例を対象にそのロジックを熟考すると、冠詞の正しい使い方は徐々に直感的に理解できるようになる。本書が提供する指導はまさにそういった学び方を可能にするものである。 (前書きより) 参考 『科学論文の英語用法百科』とは(京都大学学術出版会) パケット道場~初級アカデミック英語講座~  (エナゴ学術英語アカデミー):パケット道場記事一覧 Paquette道場(phpBB掲示板)

研究プレゼンテーションの極意

大学院生や研究者が必ずやらなければならないこと、その一つが研究成果の口頭発表です。ちゃんとカリキュラムを組んでプレゼンテーションのやり方を教えている大学院は少ないため、博士号を取ったあとでも自分のプレゼンに自信が持てずに悩む人が多いのではないでしょうか? そこで、プレゼンをどう組み立てるか、どうしゃべるかということに関して参考になるネットの記事などを紹介します。英語での発表にはそれなりの難しさが伴いますが、トークをいかに組み立てるかということに関して言えば、英語と日本語による違いはありません。 学会発表やセミナーでのトークにはある程度決まった型というものがあります。挨拶、背景の説明、仮説やキークエスチョンの提示、実験方法の説明、実験結果、結論、まとめ、将来展望といったことです。しかし、これらを順序良く無難にこなせばプレゼンが成功するかというと、そうとも限りません。では、研究者のプレゼンにおいてもっともっと大事なことは何でしょうか? 日本でプレゼンの達人といえばこの人、ジャパネットたかたの(元)社長の高田さんのプレゼンが非常に参考になるそうです。 ジャパネットたかた社長に学ぶ学会発表の極意(こんどうしげるの生命科学の明日はどっちだ!?) 内容を簡単に紹介すると、 極意1:対話による共感の成立:学会の聴衆や査読者が疑問を感じそうなところで、自分で突っ込みを入れて、それに答える。 極意2:研究に対する信頼を得る。そのためには適切なコントロール実験の結果をわかりやすく呈示する。 極意3:演者が推定した仮説を伝え、それを証明する実験を提示し、仮説が正しい場合の結果の予測を提示する。それから、結果を見せる。このようにして、そのデータが出た時の演者の感動を伝え、感動を共有する ということになります。これとは多少違った観点からプレゼンの極意を具体的に語っている山中伸弥氏の記事も必読です。 山中伸弥教授の「人生を変えるプレゼン術」〜とにかくココを意識せよ (現代ビジネス) 簡単にまとめると、 プレゼンの重要性を認識すること。実験して結果を出すのは研究者の仕事の半分に過ぎない。重要な残り半分は、研究成果を人に伝えること。 自分のプレゼンをビデオに録画して、客観的に見直すトレーニングがお勧め。 スライドに書いたことはしゃべる。しゃべらないことは書かない。 スライドとスライドの間にはつながりが必要。つながり、流れを意識したしゃべりを。 論理的な流れを意識してスライドをつくり、プレゼンを準備する。それは普段の研究の進め方の改善にも役立つ。 ということでしょうか?是非、本記事を熟読してプレゼンの極意をマスターしてください。もう一つの記事「山中伸弥教授を「1億円プレーヤー」に変えた人生最大のプレゼン」もお勧め。こちらの記事では、聴衆が誰なのかを考えてプレゼンを用意することの重要さが語られています。 もう少し具体的な組み立てに関するチュートリアルも紹介しましょう。 イントロダクションの構成のしかた A 10-15 minute scientific presentation, Part 1: Introduction まず、受け入れられている事実(Context)を話し、次に、問題点(Complication)を話し、クエスチョン(Question)を設定し、仮説(Hypothesis)を立ててそれを紹介するという流れ。   英語のプレゼンテーションのやり方に関しては多数の書籍が刊行されています。なかでも、トークをどう組み立てるかに関して基本的な考え方を示してくれる興味深い本として「遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション[動画・音声付き]」(出版社:dZERO)があります。 プレゼンの最初の部分はイントロダクションです。イントロダクションの目的は何でしょうか?この遺伝研メソッドによれば、それは、「聴衆をキークエスチョンに導くこと」です。ちなみにキークエスチョンというのは、トークの結論を「答え」としたときの、それに対応する「質問」です。キークエスチョンがトーク全体を貫く背骨になるように話を組み立てれば、聴衆は最後までついてきてくれるというわけです。 サイエンス誌のウェブサイトにも役に立つ記事があります。 Mastering Your Ph.D.: Giving a Great Presentation By …

沼研の伝説的なエピソード : 沼 正作 博士 (1929-1992)

  2016/04/22    研究の進め方

沼正作博士は、神経伝達物質の受容体やイオンチャネル等の一次構造を次々と決定していき、脳内で働くさまざまな神経機能素子の分子的実体や構造機能相関を明らかにすることにおいて多大な貢献をした科学者です。あの怒涛の業績を産み出した沼研では、どのように研究が進められていたのでしょうか?当時、京都大学医化学教室(医化学第二講座) 沼 研究室で活躍された研究者の方々が語るエピソードには、非常に興味深いものがあります。   研究に対する厳しさ 大学院に入って数日後に 「君,もう大学院をやめなさ い」 と言われました。当時私の研究していた酵素は室温で数秒で失活する酵素で,私が不安定を言い訳の材料にしたことに沼先生は激怒しました。  (医 化 学 教 室 と 私) フラコレが夜中にとまって活性画分を失ったとき: 「何でや。」 「フラコレがとまっておりました。」 「君なんでみとらんのや。フラコレなんて故障するにきまっとる。夜中じゅう起きてチェックするのが当然で私はいつもそうしてますよ。」 (医 化 学 教 室 と 私) 「コンピューターに間違いはつきもの。ヌクレオチドシークエンスをアミノ酸に読み替えるのは,目で全部チェックしないとコンピューター間違えますからね。今までずっとそうしてきましたから。そのおかげで,これまでの論文1つも間違いがありませんわ。」 (医 化 学 教 室 と 私) 沼 先生が風邪を引いたヒトに向かってよく言っていたことですが, 「緊張感が足りないと風邪を引きます。緊張感を保って ACTH を分泌するようにしておけば風邪は引きませんよ。従って私は風邪を引いたことがない。」 …

自分は研究に向いているか? を知る14の質問

  2016/04/18    研究の進め方

大学院博士課程進学などの進路を決めるにあたって、自分は研究者になれるだろうか?研究者に向いているだろうか?と悩む人は多いと思います。 プロローグ 一つの現実的な方法は、どんな人間ならば研究者として雇われるのか、募集要項を見てみることです。 【募集職種】 職  種:研究員 【応募資格】 博士号取得者または着任までに取得見込みの方で、協調性、積極性、冒険心、高い向学心、幅広い好奇心、柔軟な思考、明朗な性格、鋭い洞察力、爆発的な瞬発力、驚異的な持久力、信念宿る強靭な肉体、不屈の精神、そして散り際の潔さ、これら全てを兼ね備えている方、またはこれらの項目の内、幾つかを有している方。 【待  遇】 単年度契約の任期制職員で、評価により採用日から7年を迎えた年度末を上限として再契約可能。‥ 平成25年(2013年)4月1日以降、当研究所との有期雇用の通算契約期間が10年を超えることはありません。 (web.archive.org)(内容の一部のみ転載。太字・下線強調は当サイト) いかがでしょうか?こんな世界に飛び込んでみたいと思いましたか?   プロの研究者になるために絶対に必要な素養とは、何でしょうか?どういう人が研究者として生き残るのでしょうか?進路を迷っている人向けに、参考になりそうなアドバイスをまとめました。 -2.運がいいか? 成功した理由を聞かれたとき、「自分は運が良かった」と多くの人が言います。 松下幸之助氏は社員面接の最後に必ず「あなたは運がいいですか?」と質問したという。そこで「運が悪いです」と答えた人は、どれだけ学歴や面接結果が良くても不採用にした (運が良い人、悪い人~松下幸之助が問いかけた「運」の意味  10mtv.jp) 同じようにやっても大学教員に成れる場合もあれば、なれない場合もあります。結局、決定的な要因は運なのです。… 運が巡ってくる確率を上げる方法はあります。(どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室 ブログ) あなたがとことん追求した結果が、 単に独りよがりではなく、時空を越えて、誰かに共感され、評価され、貢献をすること。もうだめだと思った時に、「こいつを埋もれさせるのは惜しい」と思う誰かに救われること。この人生の賭に勝ち抜き、生き残ること。こうなれば、あなたは学者――教授と限らない――になれるのである。(エッセイ あなたは学者に向いているか 東京大学 松田研究室) It was a matter of good luck to have been in the right place …

研究テーマの選び方 18のポイント

  2016/04/10    研究の進め方

いざ大学院生として研究室に配属されたり、ポスドクとして新しいラボで働き始めたときの最初の悩みは、研究テーマとして何を選ぶかということです。フェローシップをとるために半年前に書いた研究計画があったとしても、実際にラボに来てみるとラボの状況やボスの考えが変わっていて、研究テーマを一から考え直すことになるのは珍しくありません。 それでは、どのような点に注意して研究テーマを決めればよいのでしょうか?自分が興味を持てるトピックを選ぶことや、与えられた年数で答えが出る(=論文が出せる)程度の大きさのクエスチョンを設定するといったことは当然のことですが、他にもいろいろ考えるべきポイントがあります。   1.研究テーマはボスから与えられるもの? [責任の所在] そもそも、研究テーマは誰が決めるべきものなのでしょうか?やってほしいテーマをボスが提示することも、学生やポスドクの自主性に任せられることも、どちらのケースもあります。その中間として、漠然とした方向性や大きな枠組みだけが与えられる場合も多いでしょう。教授の教育ポリシーや、研究助成を受けている課題、ラボ全体の研究の進展状況なども関係するので、ボスとよく話し合うことが大切です。また、ボスが与えてくれた研究テーマが当たる保証は全くありません。むしろうまくいかないことのほうが多いでしょう。そのときにどうやって研究の軌道修正をするかは、研究している本人の力量にかかっています。 誰かの助力が欲しければ、その人のところに行きなさい。その人からあなたのところに来てくれることは決してない。(Stephen C. Stearns  大学院生への「ささやかな」アドバイス) 研究テーマについては自分で見つけると書きましたが、もちろん大学院生がゼロからテーマを決めるのは難しいです。ですので、まずは当研究室で行っているテーマや対象生物に近いところから始めるのが現実的です。 (北海道大学大学院 小泉研究室) 成功している人には,年上から話しかけやすい,というタイプが多いように思えます.年上から話しかけやすい人にはアドバイスや良いテーマという形の「運」が舞い込みやすいし,そこに人一倍の働きがあれば認められて実を結びやすいと考 えれば自然な結果です.… 独立心が強くてシニアにアドバイスを求めないのは得策ではありません.(京都大学大学院 篠本 滋  大学院生へのメッセージ) 最初は僕が頭で考えた仮説をもとに、こんなことをやったらどうだろうと提案するわけですが、 多くは当たらない。だから僕が提案するテーマはきっかけにすぎず、残りはそれぞれが考えてやる。僕の提案と全然違う実験やって、こういう結果が出ましたと 僕のところに来ると、最初は当惑することもあるけれど、よく聞いているとこっちも面白くなってくる。こうして研究が進むわけです。(細胞から個体へ - 脇道から到達した発生生物学の本流 竹市 雅俊 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー) 生物のセの字も知らないのに、先生からの指示がないのですから何をしていいのやらと、一人で悩みました。三ヶ月後、しびれを切らして大沢先生に会いに行くと、「え?君、なにかしたいから来たんじゃないの?」と言われ、自立しないと何もできないと悟り、目が覚める思いでした。(生命現象の基本にゆらぎを発見 柳田 敏雄 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー) 原則として自分でテーマを探して下さい。いくら待っていても,私からテーマを指定することはありません。… 研究は,当たるかはずれるかは,誰も分からないものですから,「100%確実に博士論文になりうる安心なテーマ」など,あらかじめ誰も知りません。 そのために,博士課程の最初の1年間くらいは,視野を広げて情報を収集し,「新しく」かつ「重要な」研究テーマを見つける努力をして,できるだけまっとう なテーマ探しをしてもらっています。このプロセスは,その後に独り立ちして研究生活を続けていくための,非常に重要な訓練になります。 (大阪大学大学大学院 小川研究室) 浮田先生が、博士課程でも有機合成に関わるテーマを出されたので、「先生は自然に起きていることを研究しろと言ったじゃないですか。僕はtRNAの構造と機能をやりたいんです」と拒否しました。怒られましたね。「今日のお前は頭がおかしい。出直してこい」と言われたので、「はいっ」と引き下がって三日後にまた同じことの繰り返し。ついに三回目、「わかりました。先生のテーマもやりますが、自分が思っていることもやっていいですか」と尋ねると、「知らんっ」とまた怒られたので、「ありがとうございます」と言って戻りました。このやりとり以来、結局、教授のテーマには手を付けませんでした。(ヒトのがんウイルスに挑む 吉田 光昭 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー)   2.研究テーマ選びの落とし穴 [研究の意義] 大学院生やポスドクは期限が切られているため、「一刻も早く実際の仕事を始めなければ」というプレッシャーがかかります。しかし、正しい方向を見定めないうちに走り出すのは危険です。物事を始めることは簡単ですが、きちんと終わらせることも、途中で潔く撤退することも、どちらも簡単ではないからです。その研究の意義の大きさを見定めてから始めなくてはいけません。 長期的なゴール設定も無いまま、目の前の課題に盲目的に取り組み、とりあえず日々忙しいからと慢心していた。なまじ、目の前の課題は山ほどあったので、散発的にでも小さな成果が出れば、研究したつもりになれた。‥‥ 私は問題の本質から目を逸らし続け、そのまま博士3年の後期まで至ってしまった。10月後半、いよいよ問題から目を逸らせなくなった時、私の目の前にあったのは「複数の、脈絡ない研究課題の、小さな成果の寄せ集め」だけだった。個別の成果だけでは小さすぎて博論にならないし、全体を包括するストーリーは存在しない。(■博論審査を終えて(所感、長文) はてな匿名ダイアリー 2018-01-19)   Q:目の前の疑問やテーマにすぐに飛びついていないか? MESSAGE→その疑問には、貴重な時間と労力を費やして答える価値が本当にあるのか?(『なぜあなたの研究は進まないのか』 東京大学医学部付属病院呼吸器外科講師 …

書くことは、書き直すこと (Writing is rewriting)

  2016/02/20    論文の書き方

文豪ヘミングウェイも、 「書くという行為には、書き直すという行為の一種類しかない(The only kind of writing is rewriting)」と言っています。 論文の原稿であれ何であれ、最初の草稿が一通り出来上がってから、ようやく書くという行為が始まります。どんな風に書き直すと良い文章になるのか、サイエンティフィックライティングにおける推敲の例を見てみましょう。伝えたいことが伝わる文章を書く際には、 Clarity(明晰), Concision(簡潔), Coherence(首尾一貫), Connection(つながり), Flow(流れ), Logic(論理)などがポイントになります。 How To Make Your Writing Flow 以下の動画は、スタンフォード大学のKristin Sainani博士によるサイエンティフィック・ライティングの講義。推敲のケーススタディ。 SciWrite Demo Edit 1 SciWrite Demo Edit 2 SciWrite Demo Edit 3 SciWrite Demo Edit 4 SciWrite Demo …

科学論文の書き方: タイトル、要旨、序論、実験方法、実験結果、考察

  2016/02/20    論文の書き方

科学論文は、タイトル、要旨、序論、材料と方法(ジャーナルによっては最後)、結果、そして考察から構成されています。頭文字をとって、IMRaD (Introduction、Method、Result and Discussion)と呼ばれることもあります。順序だけでなく、各々のセクションをどう書くべきかはある程度決まっており、その原則から外れた書き方をすると、科学論文としての体をなさなくなります。以下、論文の書き方を各セクションごとに説明したYOUTUBE動画やネット上の記事を紹介します。ちなみに、研究者が論文の原稿を書くときにこの順で書き進めるというわけではありません。 論文タイトル Title 論文タイトルは、論文の内容を簡潔に示したものになります。 論文要旨 Abstract 要旨には、限られた文字数の中で背景、目的、方法、重要な結果、結論、意義を含めるようにします。 Titles and abstracts イントロダクション Introduction The Introduction to a research paper needs to convince the reader that your work is important and relevant, frame the questions being addressed, and provide …

審査員の目で読み返してみることのすすめ 科研費申請書を書き上げたあとにやるべきこと

科研費の審査基準や採点方法は明確に定められており、文書化されて一般に公開されています。 研究目的や計画の欄をどう書いたらいいのかわからない人は、逆に、その欄に何がどのように書いてあれば評点が高くなるのかを知れば、通りやすい申請書が書けるかもしれません。 既に申請書を書き上げた人も、審査の手引きの採点項目・採点基準をみながら自分が審査員になったつもりで再度チェックしてみてはいかがでしょうか? 日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 審査・評価について 審査の手引き : 第1段審査の手引(平成26年度) 基盤研究( S )基盤研究(A・B・C)(審査区分「一般」)若手研究( A ・B )挑戦的萌芽研究 第2段審査の手引(平成26年度) 基盤研究(A・B・C)(審査区分「一般」)若手研究( A ・B )挑戦的萌芽研究 基盤研究「海外学術調査」書面審査の手引(平成26年度) 基盤研究(B・C)「特設分野研究」審査の手引(平成26年度) 「奨励研究」書面審査の手引(平成26年度) 「研究成果公開促進費(研究成果公開発表・学術図書・データベース)」書面審査の手引(平成26年度) 「研究成果公開促進費(国際情報発信強化)」書面審査の手引(平成26年度) 「研究活動スタート支援」書面審査の手引(平成26年度) 科学研究費補助金「新学術領域研究」の審査要綱 平成27年 8月10日一部改正 (mext.go.jp) 参考 誰も教えてくれなかった”通る”科研費申請書の書き方 はじめての科研費申請に役立つウェブサイト