大学の教員公募が実際には公募になっていないことがある理由

博士号を取得した人の多くは研究者として生きることを望みますが、アカデミアで常勤職を得るのが非常に困難な状況は依然として続いています。 かなりの数(数十~数百のオーダー)の応募書類を書き,ほぼ全ての大学から不採用を告げられ,いくつかの大学から面接に呼ばれ,そのうちの一つの大学からオファーをもらえば,例えその大学が何処のどのような大学であろうと御の字と考えなければならないのが現状である.(【大学教員への道】有益な書籍・サイト akt37 2013年9月7日) 日本の研究力を強化するには、優秀な研究者が公正な競争の結果PI (Principal Investigator)の職に就けて、さらに自分の研究を発展させられるような体制を整備することが必要です。しかしながら、現実はというと、大学の教員募集要項で「公募」と称しておきながら実際には公募でないことが多いという強い不満の声が聞かれます。 大学教員の採用については、形式的には公募制がとられていても、その情報の流通が十分でないために、結果として閉鎖的な人事が行われている場合もあると言われている。(大学における教育研究の活性化のために 文部科学省) 公募の偽装を公に認める大学はないでしょうが、まずは現実を直視するところから始めないことには、改善策が見出せないでしょう。以下では、公募出来レースの真相、問題点、応募者への現実的なアドバイスなどを議論している、インターネット上の有益な記事を紹介します。 さらに頭に来るのは、「公募」と称して自分も参加したポスト獲得競争において、明らかに自分よりも業績や能力に劣ると思われる候補者が選ばれることをしばしば経験することでしょう。そのたびに、この国にはフェアな競争がないと絶望的な気持ちになることは想像に難くありません。 (ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日) このブログ記事では興味深い議論がなされており、論文業績の格差にも関わらずなぜ内部昇進が行われるのかの内情を説明するコメントが紹介されています。 多くの教員は業績があって採用されて、その後成果を上げられなくなっていっています。特に最近は。なぜか?まず週に講義を5-6コマ担当し、入試・教務・学生委員会など委員に選ばれれば必ず出る必要のあるさぼれない委員会や会議が週平均1.5回くらいあります。校費は昔は100万以上あったのが今は10-40万です。大手の大学と違って、卒業研究の指導も教授自ら真剣に手取り足取りやる必要があります。そのうちちょっとデキの良い学生は大手の大学の大学院に行ってしまい、自分のところには誰も来ないか、来ても2年間バイトにあけくれるモラトリアム組です。  そして、論文も急速に出なくなり、着任当時は当たっていた科研費も次第に当たらなくなります。  ここで公募で(場合によっては所属ラボのお陰もあって)すばらしい業績をもつポスドクと競っても、地方で苦労して教育と運営をしている教員は負けるでしょう。しかし、そのポスドクも慣れない教育と運営に四苦八苦しているうちに結局は前任者と同じ運命をたどるでしょう。  そこで現場で行われているのは、公募条件を厳しくして当該内部候補しか当てはまらないような募集をするのです。 (ポスドクから見たダメ教員 5号館のつぶやき 2007年 10月 28日) 地方大学ならではの悩みがあるようで、実際に公募要項にもその理解を求めるような記述をしている大学もあります。 応募資格…(3)地方大学の現状を理解して教育・研究および大学運営に対応できる者 岩手大学は男女共同参画を推進しています(http://www.iwate-u.ac.jp/gender/)。 … (https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D115080098&ln_jor=0)  公正な審査をすっ飛ばした結果、最悪の事態を迎えたのが、あのSTAP細胞事件でした。小保方氏がリクルートされたときの状況が詳細に報道され、公募の実態の一端が一般の人の目にも明らかになった珍しい事例です。 2)運営における不誠実なヤラセ行為を止めよ 私は、STAP問題にあった背景の本質の1つは、「人事」であったと思っています。ところが、メディアなどでは、これを真正面から取り上げた記事を見たことがありません。1つは、小保方氏をCDBのユニットリーダーに採用した「出来レース」。これは、理研CDBの関係者は「出来レースではない」と言い張るが、本当でしょうか。幹細胞の分野のPIを募集するという「公募」の英文を書いたのは、一体誰だったのでしょうか?(昨今の科学研究体制への苦情と提言 わがまま科学者 2014年12月29日) RIKENですらこうなのですから、偽装公募の問題は地方大学に限ったものではなさそうです。公募だったはずの人事が、フタを開けてみたら内部昇進させていただけだったという例は、首都圏にある日本有数の研究大学でも見受けられます。学生を優れた研究者に育て上げることが期待される研究大学であれば、PIの任用にあたっては極めて高い研究能力(=研究業績)が要求されて然るべきなのですが。 自分が教官となって自覚させられることは、研究成果を挙げていない人間が大学院の学生を指導できるわけがないということの一語につきる。 (新大職組新聞1996年3月29日【検証・大学改革④】「同情するなら職をくれ!」その後ー研究妨害とはこのことだ 露崎史朗(元大学院自然科学研究科)) 業績欄のレベルについては、今の日本の助教(40歳前後)はおろか、准教授(45歳前後)でも今のポスドクよりも業績欄が寂しいことは珍しくないように思います。 … 結局、現在のバイオ業界は、ポスドクが次のステップに行くための業績の最低ラインだけを著しく上げている(Nature/Cell /Scienceクラスの論文が必須)にも関わらず、いったん助教や准教授となった人たちは過剰なまでに守るという図式になっていて、これこそが、今のポ スドク就職難の原因なのではないかと思います。(BioMedサーカス.com 研究者の声:オピニオン 2013年12月15日更新 執筆者:ポスドク@関東地方)  みせかけの公募はいつの時代にもあるようです。 また,ある地方に県立大学が開設されることになり,学会誌の求人欄にて,その教授や助教授の募集の公示が出 ておりました。それには,ちょうど私の専門分野に関係する部門のポストがありました。 当時の私は,一応の論文数もあったので,教授職に応募するべく自信 を持って書類を作成し,大学開設準備室へ送付しました。 しかし,締め切り後,面接の通知もなく,一ヶ月ほどして紙切れ一枚の不採用の通知。なぜ不採用な のか自分でも疑問に思えてなりませんでした。 ところが,翌年に開設されたその大学の教員リストを見ると,なんと,全部,地元の旧帝大のOBであることを知り,唖然とし,腹立たしさも覚えまし た。 しかも,私が応募した部門の採用者の業績はそれほど多くはありませんでした。 結局,その採用者以外の応募者ははじめから「当て馬」であり,利用さ れただけでした。 公募には,「候補者が決まっているが,公募で採用を決めたという形式にする」ためのものと,文字通り「広く門戸を開いた完全に平等な人材募集」の2種類があることを,そして,いずれの場合でも,複数の著名な方々からの推薦書が絶大な効果をもたらすことを,私は学びました。(大学院博士課程のあなたへ、たやすく研究者の道、諦めないで! 大槻義彦の叫び  2015-07-12)   こうなると公募に応募書類を出す意味がどれだけあるのか、ということになりますが。 公募の体裁を取っていながら、実際は出来公募だったり、教員選考委員にコネを持った他の応募者がいるので、面接に呼ばれてもコネがなければ採用に至るのは難しく連敗を重ねてしまうことが多いようだ。しかし、デキ公募でも選考委員全員の意見が「デキ公募」で完全に一致していることは稀である。即ち、公平に選考しよう(したい)と考えている選考委員は少数だが存在する。 (私の公募に対する心構えメモ http://www.geocities.jp/ryannmaryu16/point.html) 就職において人間関係が重要というのは普遍の真理です。 Q. […]

日本の科学研究の問題点~ブラック企業のような構造と研究者が抱える雇用不安~

先日、京大の山中伸弥教授が、「京大iPS細胞研究所は、これが民間企業ならすごいブラック企業」という表現をしたそうです(記事)。しかし、これは決して京都大学のiPS細胞研究所に限った話ではありません。研究者の雇用不安は、現在の日本の科学研究全体を覆う非常に深刻な問題です。 ブラック企業とは、定義にもよりますが、労働者を劣悪な労働条件で酷使し、峻烈な選別を行い、非情に使い捨て、組織だけが成長するような会社のことです(参照:コトバンク)、これはそっくりそのまま今の研究の世界にも当てはます。 研究室では、任期付きの研究者は少しでも早く成果を出さないといけないので必然的に長時間労働を強いられます。ポスドクの報酬は年齢や学歴からは一般の人が想像できないくらいに低く、時給換算したら国が法で定める最低賃金並みになります。ポストの数があまりにも少ないため、ある程度の成果を挙げたとして もそう簡単に定職は見つかりません。任期が切れたり財源が途切れれば、ボスが温情を施したくても研究者はラボを去らざるをえません。しかし買い手市場のおかげで研究室はまた新たな労働力を調達して存続し発展できます。現在の日本の科学研究において、研究室というのは構造的にブラック企業そのものなのです。 ブラック企業の場合は経営者の人格や経営姿勢が問われるところですが、研究室の場合は教授の人柄が良く部下思いであったとしても、現在の研究制度が抱えるこの構造的問題をどうすることもできません。 日本の科学技術政策に関する提言の中では、「至高の科学力で世界に先んじる」とか、 「世界的な卓越した教育研究拠点の形成」などと非常に耳当たりの良いフレーズが飛び交っていますが、人生設計もままならずに不安に苛まされているポスドクや任期付き教員ばかりという暗澹たる研究の現場で、そのような崇高な目標が本当に実現し得るのでしょうか? ”ポスドク等の約40%の年収は400 万円以下である。また半数以上が退職金や住宅手当の支給を受けられない。” ”任期制であることが結婚、子どもを持つこと、住宅購入などに影響すると考えている人の割合は70%もしくはそれ以上” “1週間の労働時間は平均54.8 時間、40%以上が60 時間を超え、100 時間を超える人もいる” ”13%程度が自身もしくは配偶者の実家から経済的援助をうけている。年齢別では41 歳以上の人、また子どもの有無別では子どもがいる人が実家から援助を受けている率が高く、…” “給与の財源は文部科学省研究費助成金( 26% )、その他の競争的資金(22%)、戦略的創造研究推進事業とグローバルCOE プログラム(それぞれ8%)が多く、上司の研究費による雇用が中心である” “78%の人が次の職を探している。…大学や研究所での求人が少ないこと、公募していても形式的で内部昇格が多いことを危惧している。” (引用元:生命系における博士研究員(ポスドク)ならびに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題 平成23年 日本学術会議題) 「世界最高水準の卓越した研究」の担い手の多くが、1年契約で年収が300万円台のポスドク(博士研究員)や時給1000円程度のラボテクニシャン(技術員) だったりするのが実際のところです(人件費の財源や機関にもよる)。しかも、彼らは成果を挙げても、どれほど優れた実験技術を持っていても、何歳になっても報酬は増えず生活の保証もありませ ん。せめて、能力や成果に応じてパーマネントの職を得る機会や、昇給の機会を与えるような人事制度へ早急に変えない限り、日本の科学研究は国際的な競争力を失っていくでしょう。 “ポスドクを複数回繰り返す35 才以上のポスドク(シニアポスドク)が2012 年の調査で全体の37.1%に達しています” (引用元:生科連からの<重要なお願い> 生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会) 「酷使」や「使い捨て」というのは認識の問題もありますが、日夜研究に勤しんで、(少なくともボスがその地位に安泰で居られる程度の)論文成果(インパクトファクター5~10)を挙げ、ラボに対してもサイエンスにおいても貢献した研究者が、研究を辞めて教育職や研究事務に転向したり、研究や教育とは全く無関係な職に転じたり、最悪の場合完全に失業するしかないというのが、日本の科学研究の現状です。成果が出ない人間を切り捨てるブラック企業。成果が出ている人間をも切り捨てる研究所。現在の日本の研究社会は、ある意味、ブラック企業よりも更にブラックかもしれません。 ”「お前が研究者をやめてくれて心底ほっとした」 母親もそんな言葉で大卒初任給ほどの待遇で居場所を探してきた息子の転身を心から喜んでくれ、…” (ポスドクからポスドクへ 円城塔 日本物理学会誌 Vol.263, No.7, 2008  PDF) 参考 提言 生命系における博士研究員(ポスドク)ならびに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題 平成23年(2011年)9月29日 日本学術会議 基礎医学委員会 (PDF55ページ) 生科連からの<重要なお願い> 生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください。平成27 年4 月(第二版)生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会(PDF16ページ) 理研の松本理事長、人事制度の一本化・英語の公用語化などの改革案を発表 – 「他の研究機関の手本となるようなモデルを構築したい」(マイナビニュース 2015/05/25):”2つ目の柱は「至高の科学力で世界に先んじて新たな研究開発成果を創出する」となっている。” 地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省):平成26年度東京都最低賃金時間額888円 平成19 年度文部科学省科学技術振興調整費 女性研究者支援モデル育成事業「研究者養成のための男女平等プラン」成果 2007-1 研究者養成のための男女平等プランに関する調査(3)若手研究者の現状と支援ニーズ調査報告書(聞き取り調査編)(PDF194ページ):”具体的な数字を挙げてくれた例によれば、手取りで毎月18 万円程度ということであった(J 助手・20 代・男)。なお規程上は、早稲田大学全学共通で、助手には年間3 ヶ月分の賞与が与えられているとのことである。したがってJ さんの年間所得は270 […]

京大iPS細胞研究所は、これが民間企業ならすごいブラック企業~京都大の山中伸弥教授が研究者の雇用不安に言及

2015年5月23日に橿原ロイヤルホテル(奈良県橿原市)で奈良県立医科大学開学70周年記念式典が執り行われ、京都大の山中伸弥教授が記念講演を行いました。その中で所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA)について、CiRAの約300人の教職員のうち9割が不安定な有期雇用であることから、「これが民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないといけない」と、研究者の雇用不安にも言及したそうです。 参考 iPS細胞研究所の9割有期雇用 山中教授「民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないと」 奈良で講演(産経WEST 2015.5.24):”一方で、所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA)については、約300人の教職員のうち9割が不安定な有期雇用であることから、「これが民間企業ならすごいブラック企業。何とかしないといけない」と指摘。” 開学70周年記念式典を挙行しました(奈良県立医科大学 2015年5月27日):”記念講演 細井理事長・学長と古家理事(附属病院長)が座長となり、山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長・教授を講師にお迎えし、iPS細胞が移植治療だけでなく難病治療薬の開発にも重要な役割を果たし始めている等「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」について、ご講演いただきました。” 日本の科学研究が抱える問題点~ブラック企業のような構造と研究者が抱える雇用不安~