Category: 大学入試制度

大学入学センター試験は廃止、大学入学試験制度を抜本的に改革

文部科学省の中央教育審議会は、平成26年12月22日に「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜 の一体的改革について」という答申を取りまとめました。、現行の大学入試センター試験を廃止して、新たな試験制度を導入するなど非常に大きな転換を図ろう とするものです。

教育改革を行う場合、そもそもどのような人材を育てたいのかを明確にする必要があります。

高等学校教育、大学教育を通じて育むべき「生きる力」を、それを構成する「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」それぞれについて捉え直すと、以下のように考えることができる。

① 豊かな人間性
高等学校教育を通じて、国家及び社会の責任ある形成者として必要な教養と行動規範
を身に付けること。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、国、地域
社会、国際社会等においてそれぞれの立場で主体的に活動する力を鍛錬すること。

② 健康・体力
高等学校教育を通じて、社会で自立して活動するために必要な健康・体力を養うととも
に、自己管理等の方法を身に付けること。大学においては、それを更に発展・向上させ
るとともに、社会的役割を果たすために必要な肉体的、精神的能力を鍛錬すること。

③ 確かな学力
学力の三要素を、社会で自立して活動していくために必要な力という観点から捉え直
し、高等学校教育を通じて(ⅰ)これからの時代に社会で生きていくために必要な、「主体
性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」を養うこと、(ⅱ)
その基盤となる「知識・技能を活用して、自ら課題を発見しその解決に向けて探究し、成
果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」を育むこと、(ⅲ)さらに
その基礎となる「知識・技能」を習得させること。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、これらを総合した学力を鍛錬すること。

本答申における「学力」とは、上記の三要素から構成される「確かな学力」のことを指す。なお、特に「多様性」については、生徒、学生に、多様性を受容し尊重する力を
育んでいく必要があるが、そのためには、高等学校や大学の側において、多様な生徒、学生が多様な環境の中でともに学ぶことのできる場を用意する必要がある。
(中略)
また、グローバル化の進展の中で、言語や文化が異なる人々と主体的に協働していくためには、国際共通語である英語の能力を、真に使える形で身に付けることが必要であり、単に受け身で「読むこと」「聞くこと」ができるというだけではなく、積極的に英語の技能を活用し、主体的に考えを表現することができるよう、「書くこと」「話すこと」も含めた四技能を総合的に育成・評価することが重要である。また、英語のみならず、我が国の伝統文化に関する深い理解、異文化への理解や躊躇交流する態度などが求められることにも留意が必要である。(答申6-7ページ)

ここで示された人間像はまさに科学者になるために必要なものです。現行の高校教育、大学入試、大学教育をくぐってきた研究者は、非常に恵まれない環境で育ってきたということでしょうか?

現行の高校教育、大学教育、大学入試制度の何が問題なのでしょうか?一口に高校、大学、と言っても生徒や学生の学力には非常に大きな幅があるため、答申では「選抜性が高い大学」と「選抜性が中程度の大学」といった表現を用いて、個々のケースを分析しています。

学校の教育方針が選抜性の高い大学への入学者数を競うことに偏っている場合には、高等学校教育が、受験のための教育や学校内に閉じられた同質性の高い教育に終始することになり、多様な個性の伸長や幅広い視野の獲得といった、多様性の観点からは不十分なものとなりがちである。こうした教育では、大学入試に必要な知識・技能やそれらを与えられた課題に当てはめて活用する力は向上させられたとしても、自ら課題を発見し解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力や、主体性を持って、多様な人々と協働しながら学んだ経験を生徒に持たせることはほとんどできない。そうした生徒がそのまま選抜性の高い大学に入学した場合、一定の知的な能力を持っていたとしても、主体性を持って他者を説得し、多様な人々と協働して新しいことをゼロから立ち上げることのできる、社会の現場を先導するイノベーションの力を、大学において身に付けることは難しい。(答申4ページ)

ペーパーテストで測れるのが人間の能力のごくごく一部であることは間違いないでしょう。

大 学入学者選抜については、前述のように、知識の記憶力などの測定しやすい一部の能力や、選抜の一時点で有している能力の評価に留まっていたり、丁寧な評価 よりも学生確保が優先されるなど、高等学校教育で培ってきた力や、これからの大学教育で学ぶために必要な力を評価するものとなっていない。そうした背景に は、年齢、性別、国籍、文化、障害の有無、地域の違い、家庭環境等の多様な背景を持つ高校生一人ひとりが、高等学校までに積み上げてきた多様な経験や能力 を度外視し、18歳頃における一度限りの一斉受験という画一化された条件において、知識の再生を一点刻みで問う問題を用いた試験の点数による客観性の確保 を過度に重視し、そうした点数のみに依拠した選抜を行うことが「公平」であるという、従来型の「公平性」の観念が社会に根付いていることがあると考えられ る。(5ページ)

しかし大学入試に要求される公平性を考えたときに、ペーパーテストほど公平なものはありません。人間が人間を選ぶ面接試験でどれだけ公平性が確保できるのでしょうか?実は、人生における最初で最後の、全ての人にとって最も公平な機会が大学入学試験(ペーパーテスト)だったという見方もできます。

ペーパーテストは知識の記憶力を測定しているとか、受験テクニックがないとだめとかまことしやかに言われますが、それはテストそのものよりもむしろ勉強のやり方に問題があります。同じ問題を解くにしても、暗記や(ありもしない)「受験テクニック」に頼るより、その場で問題に向き合って、自分の頭で考えて解くような学習を普段から心がけたほうが楽ですし、そうしている生徒のほうが結果的に良い成績を収めるものです。

センター試験が廃止され、代わりに”「思考力・判断力・表現力」を中心に評価する”(答申10ページ)新テストとして、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)が導入される予定です。大学入学者選抜では、この新テスト導入だけでなく、さらに多様な資料を選抜時の判断材料として利用することを大学に要求しています。

具体的な評価方法としては、下記②に示す「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の成績に加え、小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、活動報告書、大学入学希望理由書や学修計画書、資格・検定試験などの成績、各種大会等での活動や顕彰の記録、その他受検者のこれまでの努力を証明す る資料などを活用することが考えられる。「確かな学力」として求められる力を的確に把握するためには、こうした多元的な評価尺度が必要である。各大学はその教育方針に照らし、どのような評価方法を組み合わせて選抜を行うかを、応募条件として求める「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の成績の具体的提 示等を含め、アドミッション・ポリシーにおいて明確に示すことが求められる。その際、英語については、高等学校教育において育成された「聞くこと」「話す こと」「読むこと」「書くこと」四技能を、大学における英語教育に引き継いで確実に伸ばしていくことができるよう、アドミッション・ポリシーにおいても四技能を総合的に評価することを示すこととし、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における英語の扱いも踏まえつつ、四技能を測定する資格・検定試験 の更なる活用を促進すべきである。(12ページ)

大学入試で面接、集団討論、プレゼンテーションの配点が高いと、おとなしい性格の人や人前で緊張しやすい人は不利になるかもしれません。

新しい大学入学希望者学力評価テスト(仮称)がどのようなものになるのか、その青写真が答申では示されています(下では一部を紹介)

「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の在り方
◆ 「知識・技能」を単独で評価 するのではなく、「知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」 (「思考力・判断力・表現力」)を中心に評価
◆ 「教科型」に加えて、現行の教科・科目の枠を越えた「思考力・判断力・表現力」を評価するため、「合教科・科目型」「総合型」の問題を組み合わせて出題す る。… 将来は「合教科・科目型」「総合型」のみとし、教科・科目に必要な「知識・技能」と「思考力・判断力・ 表現力」を総合的に評価することを目指す。
◆ 多肢選択方式だけではなく、記述式を導入
◆ 年複数回実施
◆ 「1点刻み」の客観性にとらわれた評価から脱し、… 段階別表示による成績提供
◆ CBT方式での実施
◆ 特に英語については、四技能を総合的に評価できる問題の出題(例えば記述式問題など)や民間の資格・検定試験の活用により、「読む」「聞く」だけではなく 「書く」「話す」も含めた英語の能力をバランスよく評価
◆ 選抜性の高い大学が入学者選抜の評価の一部として十分活用できる水準の、高難度の出題を含む
◆ 社会人等を含め誰でも受検可能
◆ 入学希望者の経済的負担や受検場所、障害者の受検方法を考慮

 センター試験では、そもそも思考力や論理的な判断力などを問うために十分練られた問題が出題されてきたわけで、思考力を判断するのはセンター試験ではできないので新テストを作るといわんばかりの表現は、ミスリーディングです。解答者によく考えさせるような良問を出す大学もあれば、問題のための問題でしかな くて解くのも時間の無駄という問題を出している大学もあります。そういう中にあって、センター試験は良問が揃っているといえるでしょう。これをわざわざ廃止して別のテストを導入する必要性が明確ではありません。

大学がペーパーテスト以外の多様な尺度で受験生を選抜するにしても、それが学力の低下と引き換えになっては困ります。少なくとも、将来研究職や技術職に就く人には一定の水準の学力が要求されます。また、大学入学試験で有利になるからという理由でボランティアをやったり、何か一芸に秀でるように習い事をしたりするのは全くお勧めできないことですが、入試改革にあわせてそのような風潮が今後広まってしまうかもしれません。

多様な生徒を受け入れるためのAO入試のはずが、「AO入試突破専用のワンパターンな思考法」しか持たない学生ばかり集まってしまったら本末転倒です。「ペーパーテストでしか能力を発揮できない頭の良さ」を持った学生ばかりという議論と大差なくなります。

参考

  1. 新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号)(文部科学省 中央教育審議会 平成26年12月22日)
  2. 【アンケート結果】センター試験廃止に賛成or反対? (教員STATION 2014/02/21):”在学中に複数回の試験を行うことで、生徒が部活動などに集中することができなくなり、受験勉強ばかりの学校生活になってしまう恐れはあるという意見が出ています。”
  3. 「万能細胞」小保方晴子さんは早稲田大理工卒 出身者は「私大初のノーベル賞だ」「慶応に一矢報いた」大はしゃぎ(JCASTニュース 2014/1/30):”多様な人材を入学させる機会として各大学が採用している「AO入試」だが、一芸に秀でてはいるものの授業についていく学力のない人物が「もぐりこむ」仕組みだとして批判的な見方もある。”
  4. 受験を知らない子供たち、懸念は学力低下より突破力 (東洋経済2011年01月26日):”基礎学力の低下も確かにあるが、企業の採用担当者が首をかしげるのは、コミュニケーション能力や競争心のなさ.”
  5. 大学にとって必要悪以下のAO・一芸入試学力のない学生を大学に入れることの危険性を認知せよ (JBPRESS 2014.12.05):”研究倫理崩壊事件の類はすべからく、そういう基礎能力のない人、本来研究職にいてはいけない種類の人間、独自の開発能力に欠ける人材が、何か作ったようなポーズを取るウソの上に発生していることに、注意しなければなりません。”
  6. 日本のAO入試はなぜ上手くいかないのか(人類応援ブログ 2014年11月25日):”しかし問題なのは、この「履歴書のキラキラ」がお金で買えてしまう構造を持っていることです。”
  7. AO義塾:”AO入試において、慶應合格者数 塾・予備校No.1へ!(当塾調べ、2013年11月現在)”
  8. リメディアル教育(高等学校課程の補修教育に限る)について アンケート調査回答票(内閣府)   1.北海道大学~23.東京外国語大学  24.東京学芸大学~45.愛知教育大学 46.名古屋工業大学~68.香川大学  69.愛媛大学~86.政策研究大学院大学
  9. 名古屋大学 教養教育院 e-learning サイト 名大生によるe学習コミュニティ形成
  10. 東北大学学習支援センター SLA 主に学部3年生~院生の学生がSLAとして、全学教育を受ける学部1・2年生の学習サポートを行っています。
  11. 鹿児島大学 H26年度新入生対象 補習教育のお知らせ 高等学校までの学習内容を復習し、大学の授業にスムーズに移行していただくために、補習教育を実施しています。
  12. 中堅文科系大学におけるリメディアル科目はどうあるべきか 桃山学院大学総合研究所紀要 第35巻第3号 (PDF)
  13. 約半数の大学で高校の補習授業 「達成度テスト」導入で揺れる大学の現状を専門家が解説(ベネッセ2013/12/26):”国立でも82大学中57大学で行われているのですから、既に珍しいことではなくなっています。”
  14. 「学力低下」に悩む大学たち 高校レベルの補習4割 (JCASTニュース2010/6/2):”大学が本当に問題としているのは、いわゆる『学力』がないということではありません。今の学生が受動的で、自分で考える姿勢がないということが真の問題です。”
  15. ノーベル賞根岸氏「受験地獄万歳」にネットも沈黙 (WEB R25 2010.10.14):”「私は日本の(悪名高い)受験地獄の支持者だ」→「高度な研究になればなるほど、基本が大事になるから。それをたたきこんでくれたのが、日本の教育だった」”