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科研費研究計画調書(申請書)の書き方:様式の項目ごとの実際的なポイント

科研費申請書の書き方には、厳然とした守るべき「作法」が存在すると同時に、審査委員を納得させることができるのならどう書いてもOKという「自由さ」とがあります。科研費になかなか採択されずにいる研究者は、とりあえず作法を守るために「型」にはまった書き方をマスターするのがいいと思います。

2025年度科研費の様式は、基盤研究(C)は(6)国際性が追加され、(3)にあった「着想に至った経緯」が(1)に移動するなど、少なからぬ変更がありました。そのため、何をどう書けばいいのか戸惑っている人も多いようです。

 

注意:以下は、自分(本ウェブサイト管理人)個人の考えであり、自分の過去の科研費採択経験(生物系の基礎研究、少額の研究種目)、同僚や先輩、その他の人たちの採択調書から学んだこと、さまざまな書籍の内容、ウェブ上の情報、大学で開催された科研費セミナーで聞いた内容、科研費の審査をしたことがあるという先生から聞いた話などを自分なりに総合的にまとめた結果です。書籍やセミナーの内容が自分の考えとは多少ズレると思ったこともありますので、ここにまとめたことが絶対正しいわけでも、全ての科研費応募者に当てはまるわけでもありません。書き方のヒントになれば幸いです。研究内容や書きかた次第で、それぞれのセクションの分量の割合は大きく変わってきます。全体としての整合性、一貫性があることが大事です。

 

1 研究目的、研究方法など

科研費研究計画調書の様式はちょっとずつ変更されてきました。今年度(2025年度科研費)は、また少し変更がありました。基盤研究(C)の場合、「1 研究目的、研究方法など」を4ページにわたって書くことになりますが、書くべき内容が指示されており、

本文には、
(1)本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心をなす学術的「問い」、
(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、
(3)関連分野の研究動向と本研究の位置づけ、
(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、
(5)本研究の目的を達成するための準備状況、
(6)本研究がどのような国際性(将来的に世界の研究をけん引する、協同を通じて世界の研究の発展に貢献する、我が国独自の研究としての高い価値を創出する等)を有するか
について具体的かつ明確に記述すること。

との指示が様式の上部にあります。新たに(6)国際性についての記述を求めているのが目を引きます。また、いままで(3)の中にあった「本研究の着想に至った経緯」が、(1)の中に移行しているのも要注意です。

(1)本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心をなす学術的「問い」

さてこのセクションには何を書けばいいのでしょうか?「学術的背景」として何を書くかを考える際の手がかりがあります。それが、もう少し具体的な指示として、様式の真ん中の「留意事項①」に書いてある、

学術の潮流や新たな展開などどのような「学術的背景」の下でどのような「学術的『問い』」を設定したか、

という文言。これを解釈するに、学術的な問いが生まれた妥当性を書けばよいでしょう。審査の観点として、

学術的な意義や独自性、創造性など学術的重要性を評価する

と留意事項①に明確に説明されています。つまり、学術的問いの重要性の説明が求められているわけです。問うに値する面白い問いなのかどうか?ということです。そもそも学術的問いとは何なのか?研究目的とどう違うのかという点に関して、自分の研究テーマに沿って自分の考えをまとめておく必要があります。

申請書を具体的にどう書けばいいのかというと、通常の論文のイントロダクションの書き方が参考になります。まず「何」についての研究なのかを述べて、それに関して何がすでに「わかっていること」なのか、そして何がまだ「わかっていないこと」(=学術的な問い)なのか、なぜそのわかっていないことを知ることが重要なのかを書きます。そして、その「わかっていることとわかっていないことの間のギャップ」を「どうやって」自分が埋めるのか(=研究目的)、そのようなアプローチをどのように発想したのか(=着想に至った経緯)を書きます。

論文を書くときのノウハウで申請書の文章を書こうとしたときに、ここで少しやっかいな問題があることに気づきます。学術的な問いというのはその研究領域における大きめのクエスチョンであったほうがよいわけですが、自分のアプローチまで書いてしまうとそれはもうすこし具体的な「研究目的」になってしまい、研究目的を書くセクションはその次の「(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性」になるという点です。話を具体的に絞り込んでからまた広げなおすと話が戻ってしまったことになり、流れが悪くなります。文章の流れとしては一方向に流れていてほしいわけです。前年度までは、「本研究の着想に至った経緯」は(3)のセクションにあったので、まだ書きやすかったように思いますが、「着想」、特に、研究アプローチ(方法論)に関する着想を(1)の中で書くとなると「研究目的」まで(1)で言及したほうが自然な流れが作りやすいかもしれません。

科研費は人文科学から理学、医学、工学など全く異なる研究領域を対象にするため、研究のスタイルは非常に多様です。しかし科研費の様式はすべての研究領域に対応して1つしか用意されていないので、応募者が自分の研究領域に合わせて、あるい程度柔軟に対応することは許容されると思います。ただし審査の観点は公開されているのでそれを外した書き方は不利になります。何をどう書いているのか意図が明確であれば自由に書いてよいのだと思いますが、例えば、

研究テーマのトピックの提示→わかっていること、わかってきたこと、最近の進展やブレークスルー→それでもまだわかっていないこと→それをわかる必要性、喫緊性→学術的問い→問いに答えるための自分なりのアプローチ(研究目的)の着想(=着想に至った経緯)

という順に書いていくのが一法でしょう。「本研究の着想に至った経緯」が(3)から(1)に移動したというのは実はかなり大きな変更点であり、「何の着想」なのかまで変わってしまった可能性があります。「研究目的を設定するに至った着想」なのか、「学術的な問いを設定するに至った着想」なのか、というあいまいさ、多義性があります。「本研究の着想に至った経緯」を書けという指示を、学術的な問いを設定するに至った経緯と解するのであれば、

研究テーマのトピックの提示→わかっていること、わかってきたこと、最近の進展やブレークスルー→それでもまだわかっていないこと→それをわかる必要性、喫緊性(=着想に至った経緯)→学術的問い

となります。学術的な問いと研究目的との関係をどうするかで書き方が変わってくるでしょう。抽象度ー具体性 という観点で、問い>>目的 とするか、問い>目的 とするか、 問い~目的 とするかは、研究内容によるでしょう。問い=仮説とするか、目的=仮説(の検証)とするかも、研究領域や研究内容によって自由度があるのではないかと思います。

研究者によって各セクションにどれくらい詳しくどれくらいの量を書くかは、異なるでしょう。異なっていてよいのだと思います。ただし大事なことは、書く意図を明確にすることです。応募者がどういう意図で申請書を構成したのかにまぎれがなければ、スタイルが多少違っても審査委員によっては読みやすいものになるはずです。

重要なことは、このセクションを書く目的は何かを意識することです。すべての文章にはその文章を書く目的があります。背景の文章を書く目的は、応募者が学術的問い(もしくは研究目的)を設定した理由を審査委員に納得させることです。

ここで大事なのは「客観性」であり、客観的であることとはすなわち、すべての主張に根拠(文献もしくは予備実験の実際のデータ)を示すことです。引用文献が多くなりすぎると文章が読みにくくなるということもあるので、適度なバランス感覚が要求されます。文献は他人の文献と自分の文献を適度に織り交ぜて書くのが理想です。自分の文献だけだと独りよがりな印象を与えますし、他人の文献だけだと業績が無い人かと思われます。何をどう書くかに関しては、昔の申請書の様式の指示も手掛かりになります。

① 研究の学術的背景(本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ、応募者のこれまでの研究成果を踏まえ着想に至った経緯、これまでの研究成果を発展させる場合にはその内容等) (平成29年度科研費の基盤研究(C)の様式より 太字・下線強調は当サイト)

これを読むと明らかなのですが、科研費の基盤研究というものは、基本的には、応募者がこれまで行ってきた研究の積み重ねの上に、さらに発展的なテーマを設定することが当然のこととされています。現在の様式の指示からはこれらの文言が抜け落ちていますが、この考え方は基本的には生きています。だとすると、新規テーマで応募したい場合どうなるんだ?という声が聞こえてきそうですが、新規テーマだと採択されにくい恐れはあるが、絶対ダメというわけではもちろんないので、様式の自由度が上がるように改善されたのだと思います。

文献の引用の仕方として、(Daresore et al., 2000)と書くか、(Daresore et al.,, 2000, Journa Name)とするか、(Daresore et al.,, 2000, J Nam 1(2):345)などどこまで細かくするかは好みもあるでしょう。(Daresore et al., 2000; Hokano et al., 2001)など論文の区切りに使う記号は表記の中でユニークなものにするなどの細かな配慮も大事です。番号で引用してあとからリストを添えたり、自分の業績の場合には(業績1)などと書くのもありでしょう。ただ、リストの番号で引用した場合にいちいちそれを他のページに見に行って確認する読み手もあまりいないのではないかと思いますので、読む動作・視線の動きを妨げないのが一番だと自分は思います。その考え方にのっとれば、引用文献の位置は句読点の直前がベストです(Daresore et al., 2024)。

背景に書くべきことは、そのトピックに関する一般的な説明ではなく、あくまで設定する問いの妥当性を納得させるための材料に絞ります。背景の書き始めから「問い」までが読んでいて一直線で無駄がないという印象を与えることが大事で、話題がそれたり、戻ったりするのは、学術的意義の重要性を理解されにくくするので要注意です。論文を書くときにIntroductionを書く理由は、hypothesisを導くためですが、それと同様に考えればいいと思います。

「背景」と「関連する研究動向」との書き分けという問題にもなりますが、背景には関連はしていても問いを導き出すことに直接関連しないことは言及する必要はありません。そういったことは関連する研究動向のセクションに書けばよいでしょう。研究動向には、他の研究者がどんなアプローチで自分と同じゴールを目指しているのか、そんな中で自分のアプローチはどんな点で優位なのかを書けばいいのです。こう考えれば、背景と動向の書き分けに悩むことはなくなるはず。

背景もしくは研究目的のセクションには、仮説を示した模式図を置くのが良いでしょう。良いでしょうというよりも、置くべきと言いたいところです。「仮説を示した模式図」というのは、相当頭の中が整理されていないと描けませので、模式図を描きなおしているうちに頭の中が整理されてきますし、模式図が完成するとあとは模式図を説明する形で本文をスムーズに書き進むことができます。

  1. 仮説を書かない科研費申請書なんて…

さて、新たに場所が移動してきた「着想に至った経緯」はどう書けばいいの?という問題があります。なぜこれが(3)から(1)に移動されてきたのかを考える必要があるでしょう。自分が思うに、背景から問いを導く過程がすなわち着想なので、着想に至った経緯は本来、背景→問いの思考そのものであって、不可分です。別物として書く必要はないのではないかと思います。しかしそうはいってももともと(3)にあったものなので、以前の不採択調書の「着想に至った経緯」の部分をコピペして、(1)の背景と問いの間に入れ込んでいる人も多いことでしょう。実際、「背景」として客観的な内容を書き、次に「着想」として自分の業績やアイデアを中心に書き、両者から導きだされる「問い」を書くというスタイルも、おさまりがよいのでお勧めできます。とくに、このセクションの文章量が多くなるとどこに何が書いてあるのか読み手にもわかりにくくなりますし、読む労力も増えてストレスです。「背景」「着想」「問い」と3つのセクションに分ければ、読み手に優しい申請書になるでしょう。

【このセクションでよくある失敗例】、

  • トピックに関する教科書的説明(無駄な情報)をしている
  • 文章に、学術的問いへ向かう方向性がない。
  • 文章の流れとは無関係な”関連する”話題が、流れの途中に挿入されている。←ありがち
  • 自分の業績を引用していない(なければ仕方ないですが)
  • 自分の業績しか引用していない(問いの客観性が担保されない)
  • 学術的な問いが書いていない。書いてあったとしても、どの部分がそうなのかが読み手にわからない。

(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性

このセクションをどう書くかも、自由度が高く人それぞれですが、どこに何をどう書いたのかという応募者の意図が明確に読み取れることが大事です。また、(1)のセクションから話がつながっていることも必要です。

研究目的

「目的」というのは日常語としては、将来の夢や願望、目標という意味もありますが、研究助成への応募書類における「研究目的」は、研究期間内で研究計画において「実際にやること・明らかにすること」を意味します。つまりやらないこと(将来的な願望)を含めてはいけません。時間があればやるとか、研究がうまくいけばもう少し先までやるなどと、あいまいなことを書いてもいけません。

研究目的は、学術的問いに答えるものになっているべきで、きちんとした対応関係がそこにないと不自然です。問いに答えるための実験系や方法論まで含めて具体性を増したものにします。

研究目的の中身は、学術的な問いに答えるためのアプローチを含みます。問いにどんなアプローチで取り組んで答えを出すのか、そのアプローチにはどんな独自性や創造性があるのかを書くことになります。

【研究目的を書くにあたってのよくある失敗事例は】

  1. 研究目的がそもそも書いていない
  2. 研究目的が学術的な問いに答えるものとして書かれていない
  3. 学術的な問いと研究目的の「抽象度ー具体度」の関係が逆になっている
  4. 研究目的(やること)に願望(できれば~したい)を書いている
  5. 「研究目的、研究の意義」を一文にまとめて書いているため目的が伝わりにくい。(例. ~することは、~の意義が大きい)

独自性

独自性 originalityは、他人にはないその人だけのものという意味です。科研費が不採択になる人の多くが、「~(研究目的)の研究は報告がないので独自性が高い。」と書いてしまいますが、この書き方は賢明ではありません。科研費は相対評価ですので他人の申請書と比べられて採否が判断されます。「~(研究目的)の研究は報告がないので独自性が高い。」という文は、他の申請書でもそのまま使える文言です。つまり審査委員に対して審査に有用な情報をなんら与えていません。情報量ゼロの文です。なぜ今まで論文報告がなかったのか?重要な課題だとみな思っていたのに適切なアプローチが見つからなかったから?技術的に不可能だったから?重要なのにその重要性が見落とされていたから?なにかしら理由があるはずで、その理由を書く必要があります。

独自性のアピール方法として、他人にはできないということをアピールすることも可能です。自分にしかない技術を使って初めて実現可能になるアプローチだからといった具合です。また、誰よりも早く自分がその重要性に気づいてこの分野を開拓してきたからと、過去の論文業績と絡めて独自性をアピールすることも可能でしょう。

【独自性を書くにあたってのよくある失敗事例】

  1. ~(研究目的)に関する論文報告はなく、本研究は独自性が高い と書いてしまう。論文報告がないことだけ言っても、なぜそれが独自性になるのか読み手には全くわかりません。

創造性

創造性に何を書けばいいのかは、多くの応募者が頭を悩ませるところです。通常の日本語の意味だと、創造性はcreativityのことであり、creativeといえばゼロから何かを作り出すという意味になります。しかし科研費の申請書においては「創造性」として書くべきことは、多少日常語とはズレているように自分は感じています。

  1. 科研費研究計画調書 創造性 何を書くべき?日本語の解釈

審査のポイントとして、

A.研究計画の内容に関する評定要素
(1)研究課題の学術的重要性
・学術的に見て、推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究課題の核心をなす学術的「問い」は明確であり、学術的独自性や創造性が認められるか。
・研究計画の着想に至る経緯や、関連する国内外の研究動向と研究の位置づけは明確であるか。
・本研究課題の遂行によって、より広い学術、科学技術あるいは社会などへの波及効果が期待できるか。
https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_01_03_shinsahyoutei_2024-1/r6hyoutei03_ja_bc.pdf

ということが言われていますので、「本研究課題の遂行によって、より広い学術、科学技術あるいは社会などへの波及効果が期待できる」ことを申請書のどこかでアピールする必要があることがわかります。しかし明示的なセクションはないため、書くとすれば、「創造性」を書く場所に書くことになろうかと思います。そこで、創造性の欄に、新たな価値を生み出すことができるという内容の説明をする人が多いようです。科研費の書き方を指南した書籍もそのような説明に終始しています。

【創造性に関する失敗事例】

  1. 創造性についての言及がない

(3)関連分野の研究動向と本研究の位置づけ

細かい話ですが、2025年度科研費から、様式の指示は、「関連する国内外の研究動向」が、「関連分野の研究動向」に変更されています。これは(6)国際性 の項目を新たに作ったことに伴う措置だと文科省の資料では説明されています。ただ(6)でアピールすることはすこし内容がずれるので、従来通り書けばよいでしょう。「背景」と「研究動向」をどう書き分ければいいのかというのも悩みのタネです。ほとんど同じことを繰り返してしまうのは印象を下げます。

実際のところ、「背景」と「研究動向」で書く内容がある程度重複するのはむしろ自然なことだと思います。内容は重複してもアピールしたいことが異なるので、文は当然異なったものになります。

何を書くべきかで考える必要があるのは、「関連分野の研究動向」という指示において、何に関連する研究の動向かという点です。「何に」というのは普通に考えれば、「学術的な問い」や「研究目的」に関連する研究動向ということになるはずです。「学術的な問い」と「研究目的」のどちらに寄せて書くかというのは、「学術的な問い」と「研究目的」をどう設定したかにもよるので、ケースバイケースでしょう。「研究目的」を非常に狭くとらえてそれに関する研究動向を書いてしまうと、研究の意義が理解されない恐れが強まります。なので、「学術的な問い」に関する研究動向を書いて、国内外の他の研究者がその問いにさまざまな方法でアプローチしているなかで、応募者はどのような独自性・優位性のあるアプローチをしているのかが明確になるように書けばいいと思います。

【研究動向と位置付けを書くにあたってのよくある失敗事例】

  1. 研究動向=論文であるべきなのに、論文の引用が全くない
  2. 他人の研究紹介は書いているが、本研究の位置づけに関する言及がない
  3. そもそも「何」に関係する研究動向なのかがあやふや。書くべきは、「学術的問いや研究目的」に関係する研究動向であるにもかかわらず、そうなっていなくてズレたトピックに関する研究動向を書いている。

(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか

このセクションは長ったらしいタイトルでわかりにくいかもしれませんが、以前の「計画・方法」という欄に対応した部分です。まだ科研費の様式に「研究業績」というページがあってそこは単に論文業績を羅列するだけだった当時(平成29年度の例)の様式がどうだったかというと、基盤研究(C)の場合は最初の2ページが「研究目的」で、

研究目的
本欄には、研究の全体構想及びその中での本研究の具体的な目的について、冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述した上で、適宜文献を引用しつつ記述し、特に次の点については、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください(記述に当たっては、「科学研究費助成事業における審査及び評価に関する規程」(公募要領81頁参照)を参考にしてください。)。
① 研究の学術的背景(本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ、応募者のこれまでの研究成果を踏まえ着想に至った経緯、これまでの研究成果を発展させる場合にはその内容等)
② 研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか
③ 当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

つぎの2ページが「研究計画・方法」で、

研究計画・方法
本欄には、研究目的を達成するための具体的な研究計画・方法について、冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述した上で、平成29年度の計画と平成30年度以降の計画に分けて、適宜文献を引用しつつ、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください。ここでは、研究が当初計画どおりに進まない時の対応など、多方面からの検討状況について述べるとともに、研究計画を遂行するための研究体制について、研究分担者とともに行う研究計画である場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割(図表を用いる等)、学術的観点からの研究組織の必要性・妥当性及び研究目的との関連性についても述べてください。
また、研究体制の全体像を明らかにするため、連携研究者及び研究協力者(海外共同研究者、科研費への応募資格を有しない企業の研究者、その他技術者や知財専門家等の研究支援を行う者、大学院生等(氏名、員数を記入することも可))の役割についても記述してください。
なお、研究期間の途中で異動や退職等により研究環境が大きく変わる場合は、研究実施場所の確保や研究実施方法等についても記述してください。

となっていました。「研究目的」(2ページ)と「研究計画・方法」(2ページ)が「研究目的、研究方法など」(4ページ)の一つに合わせられたわけです。この経緯を見れば、「(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」が、「研究計画・方法」に対応することは明らかでしょう。

古い様式も今見返してみると申請書を書く上で示唆に富むことに気づきます。

指示がなくなった=書かなくてよくなったと考えるより、自由度を増やすために指示を減らしたと理解したほうがいいでしょう。つまり指示がなくなったことであっても、意識しておいたほうが良いのです。

さて、計画・方法は以前はまるまる2ページ書くようになっていたのですが、今は他との分量のバランスからそこまで多くの紙面を割かなくてもいいようになったと思います。採択された人の研究計画調書を見せてもらったことがありあすが、多くの場合1ページ程度(他の部分に何をどう書いたかとの兼ね合いにより、半ページ~2ページ弱の幅がある)で書いているようです。

抽象>具体 ということで言えば、

学術的問い>研究目的>研究計画・方法 という図式になります。

当たり前のことですが、「研究計画・方法」で書く内容は、「研究目的」と完全に対応している必要があります。研究目的を達成するうえで過不足がある計画を書いてしまうとまず採択されないでしょう。計画に書く課題が少なくてさみしいので余計な課題を付け足して整合性を失い不採択になるというのは典型的な失敗パターンです。

【研究計画・方法のセクションにありがちな失敗例】

  1. ~を解析する ~を比較する ~を分析する など一言でまとめていて、具体的にどうやって解析するのか、どうやって比較するのか(統計学的手法)、どうやって分析するのかが書かれていない。
  2. 研究目的との対応が不明
  3. 計画された課題が実施されても研究目的が達成されない(不足)
  4. 研究目的を達成するうえでやる必要がない課題を計画している(過分)
  5. ひと続きの文章で1ページ以上書かれていて、読む気がしない 課題ごとに項目をつくって、「読ませる」というより「見ればわかる」ようにしましょう。どこまで細かく読むかを読み手に任せるようなレイアウトに。
  6. 研究分担者の役割が書いていない

(5)本研究の目的を達成するための準備状況

このセクション「準備状況」とあとにでてくる「研究環境」とをどう書き分けるかで悩む人も多いようです。環境は必要な研究機器などであり、準備状況はそれらの研究機器がすでに稼働して予備データが出始めているといったことなんだろうと思います。予備実験データをここに書くのもありでしょう。ただし、予備実験データは研究計画欄のほうに書くというのも効果的です。

実際のところ、予備実験データは背景のところから出してもよくて、好みによると思います。できるだけ早くインパクトを示して読み手(審査委員)の興味をひきたければ、早い段階で出すことです。4ページめの最後など、そもそも審査委員はまともに読んでいないかもしれません(特に最初の部分が稚拙にしか書けていない申請書の場合)。

【準備状況で良くある失敗事例】

  1. 研究環境を書いている
  2. 素晴らしい予備実験データを、審査委員の頭の中で採否が決まった今ごろになって載せている(きちんと書かれた申請書ならここまで読んでもらえるでしょうが、最初のほうのページが稚拙だと準備状況まできちんと読んでもらえる保証はない)

(6)本研究がどのような国際性を有するか

このセクションは2025年度科研費からあらたに加わったもので、何を書けば正解なのかは誰も確かには知らないことだと思います(まだ採択された申請書というものが存在していないので)。そのため、日本学術振興会は親切にも様式の指示の中で具体例を挙げて示してくれています。

  • 将来的に世界の研究をけん引する
  • 協同を通じて世界の研究の発展に貢献する
  • 我が国独自の研究としての高い価値を創出する

などを書けばいいのだそうです。「将来的に世界の研究をけん引する」というのは、得られる研究成果を見た他の研究者がこぞって参入してくるので、その結果として、新しい学問の潮流がつくりだせて、自分がその最先端にいて世界の研究を牽引することになるのだと思います。

「協同を通じて世界の研究の発展に貢献する」というのは、得られる研究成果を見た他の研究者がこぞって共同研究を是非やりませんか?と声をかけてくるので、その結果として、協同して研究領域を発展させることになるのでしょう。

「我が国独自の研究としての高い価値を創出する」ということでもOKというのはなかなか興味深いと思いました。つまり、なんでもええんかい!と思ったのですが、これは日本人の起源とか、日本文学の研究、日本の戦後政治など、日本固有の問題に取り組む研究者を想定してのことなのかなと想像しています。

もっと詳しく知りたい人は、文科省のサイトに公開されている国際性の記述が導入された経緯の説明した資料お読みください。この「経緯」を読めば、(6)国際性をどう書けばよいかが自ずと明らかに浮かび上がってきます。つまり、「基盤研究」に統合される「国際共同研究加速基金」と「海外連携研究」の趣旨を、基盤研究の様式の中で受け継いだのが(6)国際性 の部分というわけです。このことを認識しているかどうかで、ピントの合った内容が書けるかどうかの勝敗が決まります。

第 1 2 期 研究費部会 における科研費 の 改 善 ・充実及び 今後の 議論の方向性について( 中間まとめ ) 令和6年 6 月 2 4 日 科学技術・学術審議会 学術分科会研究費部会

①国際的に波及効果が高い学術研究の推進
(科研費(基盤研究)における研究の国際化等)
コロナ禍後の国際研究交流の回復傾向や、「基盤研究種目群」における基金化の拡大状況等により、今後は、「国際共同研究加速基金」以外の研究種目においても、更なる研究活動の国際化が期待される。
既に基盤研究等の枠組みでも国際競争力のある研究は数多く行われているところ、上記の環境の変化を踏まえ、「国際共同研究加速基金」として別枠で助成する仕組みではなく、審査によりそうした研究を見出し、助成する仕組みが必要である。
また、我が国の研究力の相対的・長期的な低下が懸念される中、現在の物価高や為替安等の厳しい社会情勢も踏まえ、研究者が国際競争力のある研究に十分取り組めるよう、応募額を尊重した研究費配分が望まれる。
このため、本部会及び振興会の学術システム研究センターにおける議論を踏まえ、「国際共同研究加速基金」について、その機能を勘案しつつ可能なものは段階的に「基盤研究種目群」等に統合していくこととする。その際、「基盤研究(B)」との間で実質的な差異がなくなった「海外連携研究」については、令和7年度助成から公募を停止し、速やかに「基盤研究種目群」等に統合することとする。
また、令和7年度助成に係る公募から、「基盤研究(A)・(B)・(C)」において「研究課題の国際性」を新たに評定要素に加え、高く評価された研究課題については、研究費配分額の充実により国際競争力のある研究に挑戦できる環境を実現することとする。更に、若手研究者の参画を要件としていた「海外連携研究」の「基盤研究種目群」等への統合後においても、国際共同研究の助成を通じた若手研究者の育成に資するよう、「基盤研究(B)・(C)」において、研究課題の国際性」の評定要素で高く評価された研究課題であって若手研究者を研究代表者とするものを優先的に採択する枠組み(「国際・若手支援強化枠」)を設けることで、高い国際競争力を有する研究の量的拡大をも目指すこととする。https://www.mext.go.jp/content/20240624-mxt_gakjokik-000036755_1.pdf

上の資料を読んでいてちょっと驚いたのですが、国際性のアピールのセクションは実ははかなり大事みたいです。若手研究者で高い点数がついたものは優先的に採択すると言っています。若手、若手、と若手優遇政策が目につきますが、ついにここまで来たかの感があります。老兵去るのみですね。

しかし、国際性がない科学ってあるのか?と思いますので、今回の様式の変更は、改悪のような気がしています。自分と同じことを考えている人もきっと多いはず。

  1. 2025年度科研費申請書新様式(6)どのような国際性を有するか をどのように書けばいいのか?について

以上、各セクションの書き方をざっと見てきましたが、大事なことは指示を守るということです。つまり、このセクションにはこれを書けという指示がある以上、その指示を守る必要があります。学術的な問いが書いていない、もしくは、どの部分が問いか不明瞭というのは論外です。指示=評価ポイントなので、指示を守らない=得点が得られない=不採択にする格好の理由を審査委員に与える、ということです。また、一貫性があることも大事です。研究課題名と学術的問いと研究目的と研究計画・方法との間に一貫性がなくて、論点がブレていては採択はおぼつきません。

概要

さて4ページを書いたあとで、その内容を概要としてまとめて冒頭部分に書きます。概要から書き始める人がいるようですが、そうすると本文の要約になっていない代物ができあがってしまっていることに気づけない恐れがあります。本文に書いていない情報がなぜか概要に書いてあるというのは、典型的な失敗例です。

概要で第一印象が決まります。人間が初対面の人を判断するときにおそらくぱっと見の数秒でその人がどんな人かの判断を下すと思います。概要は「ぱっと見の数秒」で、ここで悪い印象を持たれると挽回するのは難しいでしょう。特に、日本語が変だったり、何が言いたいのかわからなかったり、論理的な流れが無かったりすると、審査委員の人は本文を真面目に読む気が失せるんじゃないでしょうか。

【概要でよくある失敗事例】

  1. 概要に本文よりも詳しい情報が書かれている(本文の要約になっていない)
  2. 概要を本文の一部として書いている
  3. 概要の1文1文につながりがない。
  4. 問題提起をせずに問題解決(=研究目的)を述べている
  5. 文章の流れに論理性がない
  6. 誤字脱字、日本語の文法的な間違いが存在する

 

2 応募者の研究遂行能力及び研究環境

さて、応募者の研究遂行能力及び研究環境を2ページにわたって書くわけですが、「及び」とあるからといって能力と「環境を1ページずつ書くものではありません。審査委員が特に知りたいのは能力のほうなので、能力に関して1.5ページ以上使って書いたほうがよいでしょう。まずは様式の指示を良く読みましょう。

応募者(研究代表者、研究分担者)の研究計画の実行可能性を示すため、(1)これまでの研究活動(主要な研究業績を含む)、(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)について2頁以内で記述すること。
「(1)これまでの研究活動」の記述には、研究計画に関連した国際的な取組(国際共同研究の実施歴や海外機関での研究歴等)がある場合には必要に応じてその内容を含めること。また、研究活動を中断していた期間がある場合にはその説明などを含めてもよい。

研究分担者についても書く必要があります。特に異分野の研究者と組んで研究体制を構築しているのであれば、研究分担者の業績は重要です。同じラボの人を分担者に置いている場合には、研究代表者の業績のほうが重視されると思います。でなければ分担者が自分で代表者として応募しろよということになるからです。

昔はここは論文のリストを見せるだけだったのですが今は真っ白な2ページが与えられているだけで、何をどう書いても構いません。採択された人がどう書いているのかを見せてもらったことがありますが、典型的な書き方は、文章でこれまでの研究内容を説明し(自分の業績を引用しながら)、そのあとで業績リストを示すというパターンです。やはり業績リストはその人の業績が一目瞭然ですので、審査委員にとって審査しやすいはずです。文章しかないと、この人はファーストで書いた論文はいくつあるんだ?どんなジャーナルに出してるんだ?といちいち細かく読み解く必要があり、そんな面倒なことはやってられません。かといって業績リストだけだと、たとえ論文数が多くてもそれらが今回のこの研究提案とどう関連してるんだ?という疑問が解消できません。やはり文章+業績リストがベストでしょう。

業績が無いからといって余白が半ページもあったりすると、ああ本当に業績がないんだ、そして、応募の熱意もないんだと思われます。業績が少ないのなら少ない業績を丁寧に文章や図で説明したり、原著論文だけでなく学会発表その他なんでも書くようにして、絶対に余白を作らないようにしましょう。原著論文の積み上げがしっかりある人は、学会発表などを書く必要はないでしょう。

余白があるのに、学会発表も書いていないと、学会発表すらしていない人と思われます。余白があるのに、共著論文が書いていないと、共著論文すらない人と思われます。つまり、あることを書いていない=その業績がない と判断されるので、あることは書けるだけ書いて余白をなくすようにしておかないと、損な見られ方をします。

過去の科研費採択歴を書くべきかどうかで悩む人もいるかと思います。十分な実績のある研究者であれば、いちいち過去の科研費採択歴を書く必要は全くありません。そうでない場合は、「科研費採択→論文化」のサイクルがきちんと達成できている人なら、それをアピールするのは効果的です。前回の科研費の結果の論文化が間に合っていないのなら、科研費採択歴を書くと論文のアウトプットがないことを馬鹿正直に申告してマイナスの印象を与えるだけなので、書かないほうが無難でしょう。

【よくある失敗事例】

  1. 余白が大きすぎる
  2. 書けるネタがあるのに(学会発表など)書かずに余白を残している
  3. 研究計画と業績との関連性を説明していない

 

経費(ウェブ入力)

経費をどれくらい具体的に細かく書くかは人それぞれです。国内 学会発表 と書いても採択される人はされますし、第XX会日本〇〇学会年会(福岡)参加 など具体的に書けばベターだと思います。海外も同様です。学会の開催地がどの国のどの都市あkで航空運賃もかなり変わってきますので、おおざっぱに何十万円と書くだけだといい加減な印象を与えかねません。

経費の必要性を作文する部分も丁寧に書きましょう。大型の機器がすでに研究室や大学に備わっている場合には、これこれはすでに設置されていて、消耗品のみ必要なので経費に計上したといった記述をするのも良いことだと思います。研究計画の内容が具体的にリアルに想像できる書き方が好ましいでしょう。当たり前のことですが、研究計画の欄で必要になりそうな経費が計上されていなかったり、計画欄で全く言及のなかったものが経費として計上されているのは不自然ですので、全体として矛盾がないか再度確認しましょう。

科研費申請書の各セクションの書き方は、別に文科省や日本学術振興会が細かく教えてくれるわけではありません。様式の指示や留意事項を「読み解く」ことは応募者の責任です。実際には審査委員が審査するので、審査委員がどう思ってどう評価するかが全てです。しかし審査委員の考え方も多様ですので、どんな人が読んでも評価される書き方をしておく必要があります。

 

審査区分選び

各セクションの書き方のヒントになりそうなことをつらつらと書いてきましたが、実は申請書を書くまえに「審査区分」を選んでおく必要があります。というのも、専門家向けに書いて申請書を完成させてしまうと、もうより分野融合的な審査区分に変更できなくなるからです。自分のこれまで経験からすると、専門分野の審査区分の中にも採択されやすいユルイところと激戦区なところとがあります。そういう競争の激しい激戦区となっている専門分野の審査区分と比較すると、分野融合的な審査区分あるいはより一般的な学問領域の審査区分のほうが、容易に採択されやすい傾向があるような気がします(肌感覚)。そういう審査区分は、応募者のバックグラウンドもバラバラで審査委員のバックグラウンドもバラバラですので、かなり一般読者向けの言葉遣いで申請書を書く必要があるわけです。オーラルのプレゼンを準備するときにまず聴衆がどんな人たちなのかを知ることが大事といわれるのと全く同じで、申請書の準備をするときには審査委員がどんな人たちなのかを知ることが大事です。多くの人が軽視して不採択をくらっていることですが、読み手が定まらないうちに書き始めてはならないのです。

  1. 科研費に採択される人と不採択になる人の違い

【よくある失敗事例】

  1. 自分の所属分野(プライド)にこだわって審査区分を選んでおり、テーマとのマッチングで選んでいない
  2. もっと容易に採択される可能性がある審査区分があることに気づいていない(KAKENデータベースを研究内容のキーワードで検索すれば、複数見つかることがあります)

書く順番

多くの人は概要から書き始めたり、様式の順番通りに背景から書いているのではないでしょうか。様式の6ページの空白を最初から埋めていく書き方が、一番お勧めできない方法です。申請書で重要なのは一貫性や整合性なので、まず最初に書くべきは、申請書全体の骨子、アウトラインだと思います。

  1. 本研究で知りたいこと、すなわち学術的な問いを1文、1~2行で書きだす。
  2. 学術的な問いに答えるための本研究のアプローチ、すなわち研究目的を1~2文、2~3行で書く。
  3. 研究目的を達成するのに必要な小実験課題の項目名を3つ程度書きだす(研究計画の骨子)

以上が、申請書の背骨に相当する部分です。それができたら、手足か肋骨かわかりませんが、周辺部分に関係するところの骨格を書きだします。

  1. 背景から問いに至る論理的な粗筋をいくつかの文で簡単に書きだす。
  2. 学術的な問いに関連する研究動向を示すような、複数の論文を列挙し、それらのアプローチの限界点を書きだす。それらに対して、自分のアプローチの利点を書きだす。
  3. 自分のアプローチの独自性、創造性をそれぞれ1行ずつで書きだす。
  4. 研究がうまくいった場合の発展性や意義を1行で書きだす。
  5. 仮説を示す模式図を作る。図の中で、既知のこと未知のこと(本研究で知りたいこと)、検証したい部分に対応する小実験課題を決める。

このように本文を肉付けする前に、骨格となる部分を簡潔な文で書いてみることをお勧めします。ここまでしてから本文を書けば、申請書全体の骨格がブレる心配がなくなります。

 

大事なこと

科研費申請書の様式は、すべての学問分野に共通です。人文科学からコンピュータサイエンス、臨床研究、素粒子論、遺伝学、なんでもです。学問分野によっていろいろしきたりや作法が違うので、本来は一つの様式で事足りるとは思えないのですが、個別に様式をつくるわけにもいかないので一つで済ませているわけです。ですから、様式の指示の解釈は複数通りありえます。同じ研究領域でも、何をどのセクションにどれくらいの分量で書くかは、研究者の常識と良識に任されている部分があります。ですから、明確な意図をもって、ここにこれを書いたということが審査委員に伝われば、様式の解釈の正しさに必要以上にこだわる必要はないのではないかと思います。実際、何冊も出版されている科研費の教科書を読み比べても、どのセクションに何を書くべきかは必ずしも一致していません。科研費セミナーを聞いていても、セミナー講師が自分が解釈したことを話しているだけで、それに万人が賛成しているわけでもありません。JSPSや文科省の科研費担当部署に訊いても、何も教えてくれません。つまり、様式の指示は、「研究者の常識」に基づいて解釈して書けばよいのだと思います。

 

その他の注意事項

科研費の様式の指示や留意事項は、審査の評点と対応しています。日本学術振興会のウェブサイトには、審査における評定基準等 や 審査の手引 が公開されていますので、これらを読んでおけば、様式の指示を守ることの重要性がより一層感じられるはずです。

第三者に読んでもらうことの重要性(必須!)

かなり丁寧に科研費の書き方の説明をしたつもりですが、こういったノウハウを自分の申請書に日本語の文章として落とし込めない人が実際にはほとんどでしょう。そういう場合は、第三者に読んでもらうことを強く、強くお勧めいたします。大学内にそういう支援をしてくれる人がいない場合は、商用サービスを利用するのも手だと思います。

  1. ココナラ(科研費に特化した添削サービスを提供している個人)

研究内容を知りすぎているラボの同僚よりも、研究のことは何もわからない素人だが日本語力(論理的思考能力)だけはある配偶者やラボの秘書などのほうが的確な指摘をしてくれる可能性もあります。

  1. 科研費申請書の書き方の教科書 厳選5冊を解説【書籍レビュー】

科研費を書く際の態度や考え方に関する話を知りたい人は、以下の記事も参考に。

  1. 採択される科研費申請書の書き方22のヒント

 

国語力に自信がない方へ

科研費計画調書は日本語で書くので、日本語に自信がないというのは致命的です。とくに、接続語の使い方が怪しい人、具体的に書けない人、逆に、抽象化した記述が苦手な人、論理的に書けない人、メリハリのある日本語の文章が書けない人、そういう人たちは小学校からやり直したほうがいいです。小学校の国語から勉強しなおすのに最適な参考書がコレ。

親必読!難関中学への合格者続出! 「本当の国語力」が驚くほど伸びる本: 偏差値20アップは当たり前! 2009/7/18 福嶋 隆史(アマゾン)

いい歳した大人が小学校の国語の勉強からやりなすなんて、プライドが許さない?そんな大人の人向けに、内容は基本的に同じですが大人が読んでいて恥ずかしくないように装いを新たにしたバージョンもあります。

言葉を自在に操るための論理思考トレーニング 考えていることが正しく伝わる、シンプルで確実な方法 「ビジネスマンの国語力」が身につく本 2010/12/11 福嶋隆史 (アマゾン)

上の本は文字数は少なくて1時間弱で読めますので、科研費申請書が書けず煮詰まったときに読むと、劇的な効果があります。なぜ自分が書いた申請書が読みにくかったのかがハッキリと説明できるレベルで理解できるようになるでしょう。

科研費が採択されない人の特徴

毎年、科研費に応募しているのに全然採択されないという「科研費が採択されない人の特徴」とはどのようなものでしょうか?

一回も採択されたことがない若手と、以前は採択されていたのに最近はサッパリというベテラン研究者で原因が異なると思います。そこで「若手」と「ベテラン」それぞれについて考えてみます。

採択未経験の若手研究者が科研費を採択されない理由

「若手」で採択未経験の人が不採択の泥沼に陥る理由の一つが、「無知」です。

どういう研究テーマや研究デザインが科研費で採択されるのかを知らない。

科研費の様式の指示や留意事項を無視してはいけないことを知らない。

自分が書いた日本語が全然日本語になっていない(つまり自分には国語力がない)ことを知らない。

採択される研究計画調書がどのようなものかを知らない(見たことがない)。

自分には業績がないから科研費に採択されるなんて無理と思う謙虚な人もいるかもしれません。しかし「若手研究」は博士号をとりたてほやほやの人もたくさん応募しており、誰かが採択されています。博士とりたてだと、せいぜい博士論文一報しか原著論文がないということは普通にあります。業績がないからと諦めるのは早いのです。

不採択が続く若手研究者が不採択沼に陥るもう一つの理由、「持たざること」です。

採択されるコツを教えてくれる先輩や先生が身近に存在しない。

科研費採択のための教科書(市販されている書籍)を持っていない。

持ってない人はまず買いましょう。

  1. 科研費申請書の書き方の教科書 厳選5冊(別記事にとびます)

科研費の教科書を持っていても、読んで内容を理解してそれを自分の申請書に落とし込むことができていないというケースがあります。指導者がいないとどうしようもないですね。

東大をはじめとする旧帝大などの研究大学でアクティビティが高いラボであれば、科研費に採択されるのが当たりまえの人たちが多いので、そういう人の採択調書を見せてもらったりアドバイスを受ければなんてことないのですが、自分のラボも周りのラボもそのレベルの人がいない場合は、孤独に書いて出して落ち続けている人が多いのだろうなと思います。

周りに科研費申請書の書き方を指導してくれる人がいない人は、元大学教員、元研究支援職員などが提供している個人サービスが利用できます。

ココナラで科研費チェックを依頼する(Coconalaサイトにとびます)

個人のスキルが売買されている上記サイト「ココナラ」で、”科研費 研究計画調書 チェック”などのキーワードで検索すると、科研費申請書をチェックして添削しブラッシュアップしてくれるようなサービス提供者(個人)が見つかります。令和5年度の応募件数は約89000件です。ココナラで科研費に特化した添削サービスを提供している個人はざっと数えて30名程度のようです。科研費はシーズンがありますので、締め切り前の1~2か月は多分依頼が殺到して捌ききれないんじゃないかと思うので、早く動いたもの勝ちでしょうね。

 

以前は採択されていたベテラン研究者が最近は科研費がサッパリ採択されなくなった理由

ベテラン研究者が科研費を獲れなくなった一番大きい理由は、科研費制度の進化と競争の激化、つまり「変化」についていけていないからでしょう。

科研費の制度や申請書の様式はかなり変化しました。改善されてきたというべきでしょうか。2018年には審査区分の「細目」が「小区分」となり数が激減しました。これにより自分の「居場所」(必ず採択されていた審査区分)を失った人もいるはずです。

時代の流れに取り残されているというのも理由だと思います。つまり、科研費申請書の書き方が複数刊行され若い人ほどそういった書籍をよく読んでソツのない見栄えの良い申請書を仕上げてきます。それに対して、過去の栄光にとらわれているベテラン研究者は「科研費申請書はこう書けばいいんだ」という思い込みから脱却できなくて、いつまでも古臭いスタイルの申請書を書いているため、見栄えという点でも大きく見劣りしている可能性があります。

ベテランの年齢になって大学での雑務が増えて研究に割ける時間が減り、科研費の申請書作成に注力する時間が十分とれなくなったからということも考えられます。

人間は年を取ると頭が固くなり考え方が硬直するので、一度自分がそういう状態に陥っていないかを第三者に見てもらったほうがいいのではないでしょうか。まあ大学教員はみなプライドが高いので、いい歳してなかなか他人にアドバイスを求めたりはできないものです。それこそが不採択が続く理由なんですが。

ココナラで科研費研究計画調書をチェックしますというサービスを提供している個人の経歴を見ると元科研費審査委員・元大学教授というかなりシニアレベルの方もいらっしゃるようなので、そいう科研費採択のコツを熟知した人に今さらながらでも指導を仰ぐというのがいいのではないでしょうか。

 

以上、科研費が採択されていない研究者の特徴をまとめると、「無知、情報弱者」の場合と、時代の変化についていくための「自分のバージョンアップができていない」場合の2つがあるのではないかと思います。

ここまで科研費申請書作成のノウハウがネット上に氾濫していて、書籍もいくつも出版されているのにつたない申請書しか書けない人は、第三者に助言を求めたほうが早いです。

  1. ジーラント株式会社(代表取締役 児島 将康科研費費申請書の添削サービス(個人向け) 科研費獲得総合プラン(研究機関向け)
  2. ココナラ(科研費に特化した添削サービスを提供している個人)

 

科研費が採択されない人の特徴:一般論

若手、ベテラン問わず、もう少し一般的な話に広げてみたいと思います。科研費への応募というよりも、人間対人間のコミュニケーションというところまで広げて考えると普遍的な原理が見えてきます。

例えば、女性の気持ちがわかる男性はモテるのと同じで、審査委員の気持ちがわかる応募者は採択されやすいのではないかと思います。大学教員の公募に応募する場合に、大学側・採用側の本音が理解できているほど、それにピッタリの応募書類が書けるというのも同じでしょう。要するに、「相手が望むものを与えてあげられる人が、自分が望む結果を得られる」ということですね。

イエスの教え「己の欲する所を人に施せ」(自分がしてもらいたいように、人にもしなさい)(新約聖書 マタイ伝・七)というものがありますが、自分がしてもらいたいことと、相手がしてもらいたいと思っていることとはたいていの場合異なりますので、この教えは人生であまり役立ちません。あくまで、相手が何を望んでいるのかを理解することが大事。話がちょっとズレました。さて、と。

審査委員は専門家なんだから、これくらい専門的な内容を理解できないわけないよなみたいな態度で研究計画調書を書いたときに、それを読まされる側はどう思うのか?そもそも誰がそれを読むことになるのか、あなた(応募者)はわかってるの?という話もあります。今年の審査委員が誰かはわかりませんが、過去にその審査区分を誰が審査していたのかの情報は科研費のサイトで公開されています。もちろん審査委員になっている人は研究者としてはそれなりの人ばかりです。しかしだからといって、応募書類全部を短時間で読んで隅々まで完全に理解できるかというとそれはありえないでしょう。自分がやったこともない実験手法の細かいことが書いてあってもピンとこないはずです。研究の興味が同じだとしても、自分がやっていないアプローチを書かれたらそのアプローチのロジックが完全にわかるとも限りません。ましてや初めて聞いた研究トピックだった場合、そもそもなぜそれが面白い研究なの?というところからのスタートになります。「俺の研究の面白さがわからないなんて審査委員はレベルが低いぜ」などと内心どこかしらで思っているような傲慢な人間には、決して「採択」は近づいてこないでしょう。業績で相手をぶん殴るような申請書は、もはや相手にされません。いくら業績アピールしても、読みにくくて理解されないものが採択されることはないでしょう。何しろ、わかりやすく書くことに関しては、申請書のレベルは昔よりもかなり上がっているのですから。

結論として、不採択が続く人には、「相手の望むことを理解できず、独りよがりな申請書を書いていることに自分で気づけていない」という特徴があるといえます。無知ゆえか、傲慢ゆえか、いずれにせよそうなっているのでしょう。

まあ、科研費の申請書の個々の書き方以前の話ですね。

さて、多くの人は、採択の常連さんと不採択続きの人の間、つまり採択されたり落としたりとボーダーラインを越えたり越えなかったりという辺りに位置しているのではないでしょうか。そういう人たちは、行き当たりばったりに書いてあとは運に任せているだけで、確固たるノウハウが身についていないのだと思います。

  1. 採択される科研費申請書の書き方22のヒント(別記事)

科研費が不採択だったら、開示された審査結果を分析して改善点を探そう

科研費で採択された場合、どれくらい余裕でボーダーを超えていたのかがわかりませんが、不採択だった人には、審査結果が開示されます(2月末の採択通知になってからは、4月の上旬くらいの時期だったと思う)。それを見れば、落ちた人の中でのおおざっぱな位置づけがわかります。

おおよその順位は「A」でした。なら、審査区分における採択されなかった研究課題全体の中で、上位20%に位置していた、ということです。とても惜しいですね。

おおよその順位は「B」でした。なら、審査区分における採択されなかった研究課題全体の中で、上位21%~50%に位置していた、ということです。改善の余地が大いにあります。

おおよその順位は「C」でした。なら、審査区分における採択されなかった研究課題全体の中で、上位50%に至らなかった、ということです。採択されるためには、劇的に改善させる必要があります。

採否が決まるのは「総合評点」によりますが、参考として、評定要素ごとの点数がつけられその情報も開示されます。評定要素は、①研究課題の学術的重要性、②研究方法の妥当性、③研究遂行能力及び研究環境の適切性 の3つです。総合評点は相対評価ですが、評定要素ごとの評点は絶対評価でつけられます。一人の審査委員が4点満点(1点~4点)で評点をつけ、若手研究や基盤研究(C)だと4人審査委員がいるので、合計点を4で割って算出した平均点が開示されます。採択課題の平均点は3点を少し超えるくらいです。3.25点だとすると3.25×4=13点、つまり4人の評点が(3、3、3、4)なら平均的な採択者になれます。平均点なので、もっと悪くても採択されている人はいるのでしょう。

自分の点数から、一番ありそうな審査委員4人の評点分布を予想してみる:

  • 3.25点 ⇒ 3点、3点、3点、4点
  • 3.00点 ⇒ 3点、3点、3点、3点
  • 2.75点 ⇒ 3点、3点、3点、2点
  • 2.50点 ⇒ 3点、3点、2点、2点
  • 2.25点 ⇒ 3点、2点、2点、2点
  • 2.00点 ⇒ 2点、2点、2点、2点

採択者の平均レベルに達するためには、3(良好である)は最低確保すべきで、一人くらいが4(優れている)をつけてくれればよいということになります。

平均点が2.25点だとかなり低いと感じますが、それでもみんなが2点をつける中で、3点をつけて評価してくれた人が一人はいたのだということがわかり、励みになります。

また、1や2をつけた審査委員は、さらに細かく何が悪かったのか、その項目に*印をつけて教えてくれます。

(2)【審査の際「2(やや不十分である)」又は「1(不十分である)」と判断した項
目(所見)】

評点「2(やや不十分である)」又は「1(不十分である)」が付された評定要素に
ついては、そのように評価した審査委員の数を項目ごとに「*」で示しています。(最
大4個)

評定要素 項目    審査委員の数

①研究課題の学術的重要性   

  • 学術的に見て、推進すべき重要な研究課題であるか   **
  • 研究課題の核心をなす学術的「問い」は明確であり、学術的独自性や創造性が認められるか
  • 研究計画の着想に至る経緯や、関連する国内外の研究動向と研究の位置づけは明確であるか
  • 本研究課題の遂行によって、より広い学術、科学技術あるいは社会などへの波及効果が期待できるか

②研究方法の妥当性     

  • 研究目的を達成するため、研究方法等は具体的かつ適切であるか。また、研究経費は研究計画と整合性がとれたものとなっているか   * *
  • 研究目的を達成するための準備状況は適切であるか

③研究遂行能力及び研究環境の適切性   

  • これまでの研究活動等から見て、研究計画に対する十分な遂行能力を有しているか   *
  • 研究計画の遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等、研究環境は整っているか

3.その他の評価項目の評定結果
研究経費の妥当性について
「研究経費の内容に問題がある」と評定した審査委員はいませんでした。

4.留意事項
人権の保護及び法令等の遵守を必要とする研究課題の適切性につい
「法令遵守等の手続き・対策等に不十分な点が見受けられる」と指摘した審査委員はいませんでした。

 

「研究目的を達成するため、研究方法等は具体的かつ適切であるか。また、研究経費は研究計画と整合性がとれたものとなっているか」というのは2つの異なる観点を含んでいるため、ここに*印が付いていた場合、前半と後半のどちらが該当するのかがわかりません。これはJSPSに改善してもらいたいものです。

上述した情報を踏まえて、あらためて不採択になった計画調書を読み返せば、計画調書のどの部分がこれらの低評価と対応するのかが、見えてきます。もし自分で見当がつかないのであれば、同僚などに頼んで読んでもらいましょう。

次こそは採択されたいというあなたへお勧めの記事

採択される科研費計画調書の書き方と申請書作成の戦略22のポイント

採択される科研費申請書を書くためのノウハウ集です。ネット上の有益なアドバイスを総まとめにしました。

 

落ちる科研費の申請書の典型例

問題設定がない

「論文報告がないので、本研究を行う」という論調で科研費申請書を書く人が非常に多いのですが、なぜその研究をやるの?という読み手の疑問に答えないままいくら実験の詳細を書いても、研究の価値を認めてもらえません。分野外の人が読んでもわかるような易しい言葉遣いで、当該領域の問題が何なのか、なせその問題設定をする必要があるのかをしっかり述べるべきです。問題提起をして初めてそれに対する解決策としての実験目的・実験計画が意味を為すのです。問題提起を丁寧に説明している申請書は、たとえ専門外の審査委員が読んだとしても、この領域は自分はよくわからないけれども、重要な研究みたいだということは伝わります。

独自性が独りよがり

「本研究に関しては他に論文報告がないので独自性がある」と申請書に書いてしまう人がとても多いみたいですが、それだけ書いても全く説得力がありません。これは採択されない申請書の典型的な書き方と言えます。

関連記事 ⇒ 採択される科研費申請書の書き方22のヒント

 

まずこれを読みましょう

多くの研究者が科研費の申請書の書き方に関する教科書を読んでおり、申請書のレベルは一昔前よりもあがっています。今どき、これらの本を読んでいなければ差は広がる一方なのではないでしょうか。

とくにシニアレベルの研究者で最近科研費が取れなくなっている場合は、古臭い書き方を続けているのが不採択の原因かもしれません。なぜなら科研費は、他の(若くて勢いのある研究者らの)申請書と比較されて採否が決まるからです。当然、見栄えも大事になってきます。ぱっと見で見劣りしたら負けます。

  1. 科研費 採択される3要素 第2版: アイデア・業績・見栄え 2017郡 健二郎

「科研費 獲得の方法とコツ」が定番中の定番ですが、今年2022年8月20日、あらたな科研費バイブルが登場しました。狙って獲りにいく科研費 です。審査委員がどうやって審査しているのかを徹底解説しており、落とされにくい科研費申請書とはどのようなものかを解説しています。科研費本も増えてきましたが、自分の感覚に一番近いのは、この、狙って獲りにいく科研費 かもしれません。

  1. 狙って獲りにいく!科研費 採択される申請書のまとめ方 2022 中嶋 亮太

それと、実は「科研費改革と研究計画書の深化」というマイナーな本が自分は好みです。絶版なのかアマゾンでの中古の価格が高騰してしまっていますが、研究支援部署の大学職員の方が、長年の添削経験に基づいて書いており、非常に納得させられる内容です。読者ターゲットは研究者というより研究支援者なのかもしれませんが、当然のことながら研究者が読んで役に立つ内容です。

論理的とは?

申請書を論理的に書かない人は、論理的じゃない人。論理的じゃない人は研究できない人。研究できない人には研究費をあげられない、と思われると思います。

  1. マンガでやさしくわかる小学生からはじめる論理的思考力 苅野 進

 

日本語からやり直そう

話すのと書くのは大違い。学会発表ができるから文章も書ける、ということは決してありません。日本語の文法や語法を守っていない人は論外ですが、理解できない、伝わらない文章を審査委員に読ませておきながらお金をくれというのはいかがなものかと思います。

  1. こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド 林 健一 (amazon.co.jp)

最近思うのですが、やはり文豪が書いた文章や何百年も前にかかれていまだに読み継がれている本などは、非常にうまく書かれています。そういういい文章に日頃から親しんでおくことは、科研費の文章を書くときに役立ちます。最初から始めて、最後で終わるまでによどみなく、ぎくしゃくせずに一貫した流れをつくるイメージをもつことが大事。それってつまりはいい小説と同じなんじゃないかなと思ってます。直接的ではないですが、何かしらプラスになるんじゃないでしょうか。

 

何が悪かったの?

自分が書いた文章の欠点は、書いた本人はなかなか気付けないものです。誰かに読んでもらうのが一番。同僚、先輩、先生、部下、URA、研究支援部署の事務職員、国語力のある配偶者や親兄弟に頼めればいいのですが、適任が見当たらなければ、商業的な添削サービスを利用してみてはいかがでしょうか。

提供されるサービス内容や新規依頼受付の有無等に関してはそれぞれのウェブサイトをご参照ください。科研費応募時期には依頼が殺到して受付けてもらえない恐れもあると思います。説明文はサイトからの引用です。

  1. coconala 個人のスキル・経験を、必要とする人に結びつけるプラットフォーム。←「科研費チェック」、「科研費」などのキーワードで検索すると、科研費の添削サービスを個人で提供している人が見つかります。
  2. 科研費の添削.com 科研費の申請のプロであるURAによる添削サービス 添削支援の流れ
  3. 科研費.COM 申請書の添削サービス お申し込みの流れ
  4. ジーラント株式会社 科研費申請書の添削サービス(個人向け)科研費申請書のプロフェッショナル添削サービスです。 ← 『科研費獲得の方法とコツ』の著者 児島将康氏が立ち上げた会社。
  5. ROBUST JAPAN 科研費申請支援サービス 個別に申請書内容のレビューを実施 お早めにお問い合わせください
  6. クリムゾン・ジャパン 科研費申請支援申請書作成のノウハウを解説するコンサルティングや講演を実施するほか、個別に申請書内容のレビューを実施
  7. アスナル 研究申請調書の第3者的視点からのレビューや様式点検、若手研究者等についてはテーマ探索や研究計画立案上の基本事項に係るアドバイスなど
  8. educe 支援業務 概要一覧 申請書類のブラッシュアップを目的とした、個別のレビュー・添削を行います。
  9. 株式会社 早稲田大学アカデミックソリューション

 

論文があれば

科研費は相対評価、競争なので、他の人よりも論文業績で劣っていたら、いくら申請書の質を上げても限界があります。

  1. できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか ポール.J・シルヴィア (amazon.co.jp)

科研費は基盤Aか、手堅くBか、審査区分は?

審査区分導入の余波

2018年度(平成30年度)科研費(2017年秋の申請)から、審査のための領域の分け方が変更されました。それまでお馴染みだった「細目」がなくなり、「小区分」という呼び名に代わり、分け方や大きさも変わりました。

平成 30 年度助成(平成 29 年9月公募予定)からの審査は、「小区分・中区分・大区分」で構成される新しい審査区分で行う。それに伴い、現行の「系・分野・分科・細目表」は廃止し、新しく「審査区分表」を設定する。科研費審査システム改革2018

基盤(C)は小区分の中での相対評価となり、小区分の数は細目数の7割程度なので、やや分野が広がった程度といえます。それに対して、基盤(A)は中区分、基盤(S)にいたっては大区分という、かなり大雑把なわけ方の中での審査となります。

審査区分表(大区分、中区分、小区分)(JSPSのサイト)

このため、狭い研究分野でしっかりとした足場を築いてきた研究者の場合、これまではコンスタントに基盤研究で大型予算が獲得できていたのに、科研費審査システム改革以降は、自分の足場がどこ(の審査区分)にあるのかを見失ってしまい、思うように大型予算がとれなくなってしまったということもあるようです。場合によっては、基盤(A)をあきらめて基盤(B)を狙いにいこうかと悩むこともあるでしょう。

 

基盤(S)、基盤(A)と基盤(B)の審査のされ方の違いを理解する

基盤S,A,Bのどこに出すかを悩む前に、まずはそれらがどのように審査されるのかという審査の仕組みを理解する必要があります。

基盤研究(S)      審査区分:大区分 審査方式:総合審査(書面審査及び合議審査) ヒアリン グ審査を実施 
基盤研究(A)( 一般) 審査区分 :中区分 審査方式:総合審査(書面審査及び合議審査) 審査委員の人数:6人~8人
基盤研究(B)( 一般) 審査区分 :小区分 審査方式:2段階書面審査 審査委員の人数:6人
基盤研究(C)( 一般) 審査区分 :小区分 審査方式:2段階書面審査 審査委員の人数:4人

もう少し詳しい説明は、以下の通り。

「基盤研究(S)」は、研究計画調書及び専門分野が近い研究者が作成する審査意見書(国内の研究機関に所属する審査意見書作成者、3名程度が作成)等に基づき、大区分ごとに、6人の審査委員が全ての応募研究課題について、書面審査。その後、 書面審査と同一の審査委員が合議審査の場で各応募研究課題について幅広い視点から議論により審査を行い、ヒアリング対象課題を選定し、ヒアリング審査を行います。(総合審査)
「基盤研究(A)」(応募区分「一般」) 中区分ごとに、6人~8人の審査委員が、全ての応募研究課題について、書面審査を行った上で、同一の審査委員が合議審査審査。(「総合審査」)
「基盤研究(B・C)」(応募区分「一般」)及び「若手研究」は、小区分ごとに、「基盤研究(B)」は6人、「基盤研究(C)」「若手研究」は4人の審査委員が2段階にわたり書面審査

(参考:平成31年度 科学研究費助成事業 公募要項 PDF

こうしてみると、基盤Aと基盤Bは単に金額の大きさが異なるだけでなく、審査のされ方が大きく異なります。基盤Bと基盤Cの方が、審査のされ方という点では近いのです。

 

その審査区分におけるライバルの強さを把握する

例えば、科研費改革の前の細目の時代に分子生物学や遺伝学をやっていた人は、今はどこに出せばよいのでしょうか?大区分や中区分を選ぶ際に、その中の小区分の名称が一つの手がかりになります。

大区分G

中区分43分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野

小区分43010 分子生物学関連(染色体機能、クロマチン、エピジェネティクス、遺伝情報の維持、遺伝情報の継承、遺伝情報の再編、遺伝情報の発現、タンパク質の機能調節、分子遺伝、など)

小区分43050ゲノム生物学関連 (ゲノム構造、ゲノム機能、ゲノム多様性、ゲノム分子進化、ゲノム修復維持、トランスオミックス、エピゲノム、遺伝子資源、ゲノム動態、など)

中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野

小区分44010 細胞生物学関連(細胞骨格、タンパク質分解、オルガネラの動態、核の構造機能、細胞外マトリックス、シグナル伝達、細胞周期、細胞運動、細胞間相互作用、細胞遺伝、など)

小区分44020 発生生物学関連 (細胞分化、幹細胞、再生、胚葉形成、形態形成、器官形成、受精、生殖細胞、遺伝子発現調節、発生遺伝、進化発生、など分解、オルガネラの動態、核の構造機能、細胞外マトリックス、シグナル伝達、細胞周期、細胞運動、細胞間相互作用、細胞遺伝、など)

中区分 45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野

小区分45010 遺伝学関連 (遺伝機構、分子遺伝、細胞遺伝、集団遺伝、進化遺伝、発生遺伝、行動遺伝、遺伝的多様性、など)

ざっと見ただけでも、3つの中区分の中に遺伝学や分子生物学っぽい内容が含まれています。こうなると、どこにでも当てはまりそうという状態になりそうです。各々の小区分でどんな人が審査委員になっているのかがわかればよいのですが、審査委員氏名が公表されるのは2年後です。ただし、小区分名と以前の細目名との対応がつく場合は、その細目での過去の審査委員を調べることは可能でしょう。

 

ライバルチェックを実際にやってみよう

科研費の審査が区分ごとの相対評価である以上、ライバルが強い区分に出すのは避けたいものです。基盤Aなどはどんな先生方が獲得されているのでしょうか?KAKENデータベースを使えば直ちにわかります。例えば、中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野で2019年度に基盤(A)を採択されたものは、中区分名をキーワードに入れて検索すると、9件しかないことがわかります。

研究課題名 研究代表者
“記憶の局所フィードバック仮説”ーその中枢単一同定ニューロンでの検証 吉原 基二郎 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 総括研究員 (80222397)
プロテアソームの細胞生理学 田中 啓二 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 理事長 (10108871)
シグナルと力のゆらぎが上皮組織の可塑性を支配するしくみ 林 茂生 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60183092)
抑制と抗抑制によるエピゲノム分化機構の解明と操作 角谷 徹仁 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 教授 (20332174)
細胞が材料を組み立てて体を「建築」する仕組みの解明 近藤 滋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10252503)
細胞増殖因子情報伝達系の活性波による細胞集団移動制御機構 松田 道行 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (10199812)
合成生物学のアプローチを導入したプロトン駆動力ネットワークの解明 鹿内 利治 京都大学, 理学研究科, 教授 (70273852)
気孔の発生とパターン形成を制御する新奇メカニズムに合成化学で切込む 鳥居 啓子 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 客員教授 (60506103)
脊椎動物の季節適応機構の解明 吉村 崇 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 教授 (40291413)

こうしてみると基盤(A)で採択されるのは、全国的に名の知れた研究者ばかりということがわかります。試しに2018年度の中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野での基盤(A)採択者も見てみると、

研究課題名 研究代表者
哺乳類の複雑脳形成プログラムの解明 松崎 文雄 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (10173824)
小胞体における活性酸素除去に関わる新たな分子機構の解明 永田 和宏 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (50127114)
植物の光受容体フィトクロムによる転写開始点制御の分子機構解明 松下 智直 九州大学, 農学研究院, 准教授 (20464399)
幹細胞における細胞周期制御と代謝系との連関に関する基盤的研究 中山 敬一 九州大学, 生体防御医学研究所, 主幹教授 (80291508)
上皮バリアの構築と機能を制御するタイトジャンクション・アピカル複合体の解析 月田 早智子 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00188517)
造血幹細胞を維持する微小環境(ニッチ)の形成と作用の分子機構の解明 長澤 丘司 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (80281690)
細胞間情報を担う糖鎖AMORの発見に基づく植物糖鎖シグナリングの解明 東山 哲也 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00313205)
植物の浸透圧ストレスに対する感知システムと初期応答の分子機構の解明 篠崎 和子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30221295)
浸透圧ストレスの受容・認識から応答に至る分子機構の解明 一條 秀憲 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00242206)
細胞競合と接触阻害を統合的に制御する分子メカニズムの解明 藤田 恭之 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (50580974)

やはり、メジャーな大学に所属する著名な研究者ばかりでしかもたったの10件しか採択されていません。厳しい戦いですね。全然その分野のことを知らない自分のような人間が見ても、面白そうな採択課題名が並んでいます。審査委員の専門分野が多岐にわたることを考えれば、広く興味を引くように、研究課題名にも工夫を凝らす必要がありそうです。

 

さて、基盤研究(A)のレベルの高さがわかったので、基盤(B)がそれに比べてどうなのかも見てみたいと思います。基盤研究(B)でのライバルのレベルを知るには、自分が出してみようと思っている小区分名を入れて同様の検索を行ってみるとよいでしょう。例えば、この同じ中区分の中の一つの小区分44050 動物生理化学、生理学および行動学関連で検索をかけてみると、2018年度、2019年度の採択課題は、

研究課題名 研究期間 (年度) 研究代表者
昼行性生物と夜行性生物における概日光受容体メラノプシンの機能解析 2019-04-01 – 2022-03-31 羽鳥 恵 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任准教授 (90590472)
概日時計細胞間の接続様式とその役割 2019-04-01 – 2023-03-31 吉井 大志 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (50611357)
嗅覚受容体クラス選択の遺伝学的操作による嗅覚行動の制御とその分子基盤の解明 2019-04-01 – 2023-03-31 廣田 順二 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 准教授 (60405339)
眠気の統合センシングシステムの理解 2019-04-01 – 2023-03-31 Liu Qinghua 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 教授 (90723792)
動物変態の進行を協調的に制御する神経伝達・ホルモン調節機構の解明 2019-04-01 – 2023-03-31 笹倉 靖徳 筑波大学, 生命環境系, 教授 (10400649)
微小脳における習慣記憶形成とその神経基盤の解明 2019-04-01 – 2022-03-31 水波 誠 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30174030)
機能未知光受容タンパク質に着目した脊椎動物の脳内光受容とその多様性の解明 2018-04-01 – 2022-03-31 小柳 光正 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (30379276)
ショウジョウバエの睡眠覚醒制御機構の総合的研究 2018-04-01 – 2021-03-31 粂 和彦 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (30251218)
昆虫概日時計の複眼依存性光同調の分子機構 2018-04-01 – 2021-03-31 富岡 憲治 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (30136163)
メダカの顔認知の分子神経基盤の解明 2018-04-01 – 2021-03-31 竹内 秀明 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (00376534)
昆虫の光周性の分子・神経機構:概日時計と日長測定 2018-04-01 – 2021-03-31 沼田 英治 京都大学, 理学研究科, 教授 (70172749)
概日リズムの時刻情報変換に関わる神経回路動作原理の理解 2018-04-01 – 2021-03-31 小野 大輔 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (30634224)
ショウジョウバエにおける求愛定位行動解発の神経回路メカニズム 2018-04-01 – 2023-03-31 古波津 創 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 研究員 (40571930)

となっています。基盤(B)採択者も業績のある研究者ばかりで、やはり熾烈な戦いのようです。採択件数も少ないですし、手堅く基盤(B)などとはとても言えない厳しさであることがわかりました。

 

 

審査委員の顔ぶれを知る

ライバルチェックと並んでもう一つ重要なことが、いったい誰が審査しているのかを知ることです。科研費はピアレビューのシステムですから、審査委員も自分の友達、知人、同業者です。JSPSのウェブサイトに、2年たったら審査委員の氏名が公開されますので、2年前の科研費であれば自分の計画調書を誰が読んで採択してくれたのか、あるいは不採択にしてくれたのかがわかるわけです。

審査委員名簿 https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/14_kouho/meibo.html

 

応募件数を知る

もう一つ気になるのが、自分が出す研究種目、審査区分にどれくらいの応募件数があって、採択率はどれくらいなのかということです。このような個別のデータもJSPSのウェブサイトに公開されています。

https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/27_kdata/index.html 

審査区分別配分状況(平成31年2月14日更新) 平成30年度(2018年度) などが参考になります。

 

こういった、自分が戦う場所を知ることが、科研費を勝ち取るためには必要です。やみくもに計画調書を書いて出しても、実は土俵にすら上がれていなかったということになりかねません。

 

審査区分を選ぶときの考え方

どの審査区分に出すかの決断は難しいものです。研究テーマがマッチしており、なおかつ、その審査区分で採択されている人たちの業績などを調べて、自分が勝負を挑んだときに業績的に勝てる相手かどうかを見極めることが必要でしょう。その審査区分の中での相対評価で採択・不採択が決まるわけですから。自分の研究を高く評価してくれる審査委員がどの審査区分にいるのかを調べることもまた重要です。普段からいろいろな学会で発表していれば、自分の研究をどういう人たちが面白がってくれるかがわかります。自分の研究を面白いと言ってくれた研究者が審査委員をやっている審査区分を選んで出せば、採択される可能性は高まるでしょう。

 

基盤研究(B)か基盤研究(C)か

世の中には基盤(A)に出すか基盤(B)にするかで悩む研究者がいるのと同様に、基盤研究(B)と基盤研究(C)との間で悩んでいる研究者もいます。ここでも、考え方は同様です。しっかりと、自分が出そうとしている審査区分のライバルたちの業績を調べ上げましょう。勝てない人たちに喧嘩を売っても、勝てません。自分が買いたい測定装置が高価で、基盤(C)の金額を超えてしまうので基盤(B)に出そうなどとナイーブに考えたら、痛い目に合います。基盤(C)と基盤(B)との間のギャップは、単に申請できる金額の上限の差ではありません。採択される研究者の業績の差は、それよりもはるかに大きいのです。

そのへんの事情は、科研費の教科書を書かれている児島将康先生のウェブ記事(↓)が参考になります。

実際に審査した経験からいうと,基盤研究(B)と基盤研究(C)の間には,かなりのレベルの違いがある.両者の採択率はほとんど変わらないが,基盤研究(B)になると優れた業績(ということはインパクトファクターの高い雑誌に掲載された論文)をもっていて,これまでにも基盤研究(B)以上の研究費を獲得している研究者が多く,かなりハイレベルの競争になる.一方,基盤研究(C)になるとある程度の発表論文さえあれば十分に採択される.本来なら必要とする研究費の額に応じて基盤研究(A),基盤研究(B),基盤研究(C)のなかのどれに応募するか選択するのがよいのだろうが,実際には自分の研究レベルを考慮して選択するのがよい.(第1回 応募種目の選び方 科研費獲得のための応募戦略 Smart Lab Life 羊土社)*太字下線は当サイト

 

計画調書を人に読んでもらう

アドバイスをくれる人みんなが口を酸っぱくして言っていることなのに、それを聞いたみんながちっともやらないこと、それが「計画調書を人に読んでもらう」ということです。なぜ一人で書いてそのまま出してしうのでしょうか?「俺は今まで一人でやってきたんだ。だから一人でできる!」という自信でしょうか?「大型の科研費をとったこともないやつに何がわかる?!」というプライドでしょうか。「自分の計画調書を人に読まれるのはなんとなくいや。」という恥じらいでしょうか。サイコロジーはよくわかりませんが、書いたものを他人に見せられるだけのオープンマインドな人のほうが、採択される可能性が高いのは当たり前の話です。

 

科研費改革2018で審査のルール(区分)が変わりました。申請者はこの変化に対応する必要があります。基盤Aは、より広い分野の研究者が審査することになったため、今までと同じように書いても理解されない恐れがあります。ですから、書き上げた計画調書をできるだけいろいろな人に読んでもらい、研究の意義や目的が理解しやすいかどうかを聞いてみたほうがよいと思います。


 

科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版
科研費 採択される3要素 第2版
いかにして研究費を獲得するか

科研費申請書を書いたら審査員の目で読み返す

科研費の審査基準や採点方法は明確に定められており、文書化されて一般に公開されています。

shinsa

研究目的や計画の欄をどう書いたらいいのかわからない人は、逆に、その欄に何がどのように書いてあれば評点が高くなるのかを知れば、通りやすい申請書が書けるかもしれません。

既に申請書を書き上げた人も、審査の手引きの採点項目・採点基準をみながら自分が審査員になったつもりで再度チェックしてみてはいかがでしょうか?

参考

  1. 誰も教えてくれなかった”通る”科研費申請書の書き方
  2. はじめての科研費申請に役立つウェブサイト

採択される科研費申請書の書き方22のヒント

科研費申請書の書き方 記事一覧

【注意】科研費の申請書は研究者が個人的にJSPSにに提出するものではありません。所属機関・大学を通じた提出になります。したがって、研究者は、JSPSのウェブサイトにある締切り日時ではなく、所属大学・機関の締切り日時を守る必要があります。

文部科学省の科学研究費補助金(科研費)は、研究テーマの自由度が最も高く、全ての研究者にとって非常に重要な外部資金です。研究領域や研究テーマが予め指定されているトップダウンの研究費とは異なり、誰にでも研究資金獲得のチャンスがあります。

そこで、初めて科研費を出す人、まだ一度も科研費が当たったことがない人に向けたアドバイスを、自分の経験とネット上の情報を纏めて書きました。「基盤(C)」や「若手」といった少額の研究種目を想定しています。

初心者が陥りやすい失敗

まずは、初心者が陥りやすい失敗31個がまとまっているスライドシェアがあったので紹介しておきます。

#01 研究テーマが科研費向きではない
#02 応募先の審査種目(小区分)は、何も考えずに決めた
#03 応募先の審査種目(小区分)の審査委員の顔ぶれは、知らない
#04 研究計画調書(様式)の指示は、読んでいない
#05 「概要」が概要になっていない
#06 審査における「概要」の重要性がわかっていない
#07 「背景」で教科書的な説明を書いている
#08 「学術的な問い」が書かれていない
#09 「学術的な問い」と「研究目的」が同じ
#10 問題提起がない
#11 仮説がない・仮説の図がない
#12 「研究動向と位置づけ」が書かれていない
#13 申請書全体で、目的が一貫しない
#14 仮定の上に仮定を重ねた実験デザイン
#15 予備実験データを見せていない
#16 計画欄の記載に具体性が足りない
#17 方法ありきになっている
#18 研究の意義・売りを書いていない
#19 論文業績が業績ページにしか書かれていない
#20 研究者(=審査委員)の常識から外れている
#21 読む人のことを考えずに書いた
#22 読まれ方を考えずに書いた
#23 4人の審査委員の幅を意識して書いていない
#24 申請書内の矛盾
#25 説得力がない
#26 先まで読まないと理解できない
#27 文と文とがつながっていない
#28 申請書にふさわしくない言葉遣い
#29 採択された調書を見たことがない
#30 落とし穴にはまっていることに気付かない
#31 いつも締切り間際になる

採択される申請書の条件:研究目的を明確に伝える~作業仮説を示す~

科学は「仮説の検証」の繰り返しで作り上げられていくものです。研究の提案は、「仮説の検証」の形をとるのが典型的なやり方です。ところが、日本の科学教育ではあまり仮説をもつことの重要性が強調されてこなかったように思います。研究目的に書くべき事柄は、「申請者はどんな仮説を立ててそれをどうやって検証するのか」です。これを明確に伝えられない場合、何がやりたいのか不明瞭な申請書になる可能性が高いでしょう。

中学校の教科書で教えている仮説駆動型研究が、なぜか、実際に研究を始める大学院ではほとんど教えられていないという日本の現状は憂うべきものです。

  1. 中学理科の教科書が教える仮説駆動型研究
  2. 科学における仮説とは何か
  3. 論文から学ぶHypothesis-driven research

仮説駆動型でないタイプの研究も勿論ありえますが、何か興味深い生命現象のメカニズムを探ることを科研費研究として行いたいのであれば、仮説が書かれていない申請書というのは考えにくいと思います。

作業仮説は図にして、見せましょう。本文を読まなくても図を見ただけでどんな作業仮説なのかがわかることが大事です。そして、その作業仮説の図を中心に文章を書いていくのがお勧め。審査委員が本文を読んでいてわかりにくいと思ったときに仮説の図があると理解を助けますし、迷子にならなくて済みます。

自分が何を研究したいのかが明確になっていない段階だと、仮説の図は描けないはずです。逆に、仮説の図を作り上げる過程で自分のアイデアが明確になっていきます。

関連記事 ⇒ 仮説を書かない科研費申請書なんて…

採択されるための早道:書いたものを他人に見せる

科研費に採択されるための最良の方法は,「書き上げた申請書を誰かに見せて添削してもらうこと」だと思う.見てもらう人が採択経験豊富な人ならなおよい.そういった人に申請書を見てもらって何度も何度も直すのが一番よい方法だ.(小噺その10:科研費に採択されるための最良の方法 Smart Lab Life 羊土社)

今回初めて科研費を申請する人や、毎年出し続けているのに採択されない人は、ひとりよがりな申請書を書いてしまっている可能性が(極めて)大です。研究内容以前の話として、申請書の書き方がなっていないというだけの理由であっさりと不採択になっている人がかなりの数に上ると推測されます。業績もある程度あり、研究のアイデアや熱意もあるのに、それが全く計画調書に表現されていないだけで不採択を食らっているのに、本人はそのことに全く気付けていない、といのは実にもったいない話です。

落ちる申請書には理由があった!京都大学で採択・不採択になった科研費申請書を網羅的に分析すると、明らかな差があることに気付いた。「科研費申請書の教科書」学外非公開)

だから、一番のおすすめは、自分の書いた申請書を人に読んでもらい、ダメ出しをしてもらうことです。研究者はみな忙しいので、なかなかこれが実際にはできないものです。そんな場合は、大学でURA(リサーチアドミニストレーター)が研究支援活動を行っていれば、そのサポートを活用することをお勧めします。

計画調書を読んでもらう人は科研費採択経験者であればベストですが、必ずしも研究者でなくても、得るものはあります。自分の親兄弟、配偶者などの家族、親しい友人、とにかく国語力のある人に読んでもらうことができれば、自分で気づけない点が見えてくるはずです。

身近に読んでくれる人がいない場合には、添削サービスを利用するという手もあります。

  1. coconala での科研費添削サービスの検索結果(68件)

科研費を採択されるための王道:情熱を示す

自分の研究に賭ける情熱、想いを科研費計画調書に凝縮して落とし込むことです。

「本当に真剣に考えた申請書は、読む人を感動させるものになります。そういうものが、いい申請書だといえるでしょう」(JREC-IN Portal 研究人材のための5分間キャリアップ読本 インタビュー記事)

ページ下部に余白を1行足りともつくらないというのは、情熱のひとつの表れです。(見やすくするために、項目タイトルの上に空行を入れるのはOK)

科研費採択の条件:研究の意義を伝える

科研費の『審査の手引き』に書かれていますが、「学術的な意義」があるかが審査の一つのポイントになっています。お金をもらうのですから当たり前の話で、やる価値がないことにお金はあげられません。

ところが、やる内容、目的までは書いているのに、研究の意義についてまでは計画調書で触れていない人が結構います。「言わなくてもわかるでしょ」というつもりなのかもしれませんが、言わなきゃわかりません。どうして自分の研究はやる意義があるのか、お金をもらってまでやる価値があるのか、うまくいけばどれくらい学術的な波及効果や社会へのインパクトがあるのかをアピールすることは、非常に重要です。

 

科研費採択の条件:研究計画は具体的に書く

研究課題の意義がいくら大きくても、研究計画に具体性が欠けると説得力がありません。まだ行っていない実験のことを細かく書きようがないではないかと思う初心者も多いでしょうが、だからこそ予備実験を行いある程度実験を進めておくことが必要なのです。ただ単に「解析する」と書いても、何をどう解析するのかが書かれていなければ、審査委員を説得できません。具体的にといっても、実験のプロトコールを書けという意味ではありません。適度な具体性が必要だということです。具体性に欠ける計画調書は、いくら立派なことを言っていても、実現可能性がないと判断されて不採択になります。

 

採択される科研費計画調書とは:神は細部に宿る

研究計画のアイデアが十分に湧いてきていない状態だと、申請書の空欄が広大に見えてしまい、どう埋めればいいのかと途方にくれるかもしれません。全部埋める必要はあるのでしょうか?

無駄な余白は(一行たりとも)あってはいけない
2008.3.21 第1.01版私大研究者のための「採択率を上げる研究費申請書」の書き方、七つの基礎早稲田大学先進理工学部 竹内淳(PDFファイル 2ページ)

だからといって、やみくもに文字でびっしりと埋めればいいというものではありません。通る申請書は内容だけでなく、見た目も自ずと良いものになるのです。

用いる文字や図表の位置、大きさ、形、色などには全て必然性がなければならない、なぜそこで使うのかを説明できなければいけない。
研究資金獲得のためのガイド 2011年7月 立命館大学博士キャリアパス推進室 (PDFファイル 96ページ)

割り当てられた多量の科研費の申請書を読まなければならない審査員の負担を想像できるかどうかも、勝敗を分ける要因になりそうです。

文字でびっしり埋められていると、「読む気がしなくなる」研究にかける熱量を短い言葉に凝縮し、申請書に落とし込む JREC-IN Portal 研究人材のための5分間キャリアップ読本>2. 研究資金を獲得する>#06 東京都総合医学研究所 所長 田中 啓二氏)

とにかくギリギリまで何度も読み返して、少しでも読みやすいものを提出しましょう。

できるだけ頭を空っぽにして.先入観をなるべく捨てて私は音読する.私は誤字脱字などの自分の書いた文章を校正するのが非常に不得意(間違っていないと無意識に思ってしまう)ので,音読するようにしてる.そうすると,一言一句間違えずに読み上げることになるので,案外間違いに気づいたりする.(博士課程(女)の記録)

気持ちのこもった申請書であれば、誤字脱字などあるはずもなく、スカスカに空いたスペースもなく、かといってぎっちり文字だけが詰まっているわけでもなく、遠目にみてもレイアウトが素晴らしく、中身をじっくり読んでもウーンと唸らされるような寸分の隙もないものに仕上がっているはずです。

 

評点を落とさないためのノウハウ:指示に従う

これまでに科研費を申請したことがない研究者にとっては、非常に気が重くなることかもしれません。しかし、科研費の研究計画調書には何をどうかけばいいのかが細かく指示されていますので、全く気に病む必要はありません。むしろ、”指示された通りに書く”ことこそが最重要なのです。

研究者にとって、これほど書きやすい応募書類はない
科学研究費(科研費)研究計画調書の書き方説明会 2013年9月20日(金)吉田地区URA室 (PDFファイル スライド25枚)

計画調書には、この欄にはこれこれについて書きなさいと具体的な指示があり、それに従って書けばよいだけの話なのですが、初心者の人はそれが全く出来ていないことが多いのです。

なぜそんな細かい指示があるのでしょうか?それは、申請者が書きやすいように、また、審査員が審査しやすいようにそうなっているのです(多分)。あなたの研究の独自性をアピールしてくださいという場所であなたが何も書かないでいると、評点をつけようがないので、良い評価は得られないでしょう。仮に、ほかの部分にそれらしいことが書いてあったとしても、審査委員がそれに気付かなければ評価されません。

不採択となる調書は、研究計画や内容は素晴らしいのに、その素晴らしさがまったく伝わってこないようなものが多いと思います。

 

採択される申請書であるための絶対条件:論理的な日本語で書く

日本人だから日本語が書けるかというと、そうでもありません。忌憚のない意見を言ってくれる人に、自分が書いた文章を読んでもらいましょう。文章を書くことの難しさをちゃんと自覚して、自分の至らなさに気づくことが、科研費採択への第一歩です。日本語の文章を書くことが仕事の一部である以上、研究者は一度徹底的に自分の日本語作成能力を鍛え直す必要があります。

良い申請書を仕上げるコツ以前に重要なのは、読んだ人に内容が理解できて、言いたいことががちゃんと伝わるような、まともな日本語の文章を書くということです。

論理力のない科学者に税金をあげようと思う方は多分いないです
論理力があるかどうかは、5行読めば分かってしまいます
研究計画調書を見比べて想うこと 日本大学文理学部物理生命システム科学科 松下祥子 (PDFファイル スライド30枚)

論理的な文章を書く技術は、誰でも学ぶことができます。

パラグラフライティングを徹底する!これは日本の教育システムで教える機会がほとんどなく、大半の人が身についていません。論理的文章を書くための黄金律なのですがね・・・。
学振申請書を磨き上げる11のポイント [文章編・前編] chem-station.com

不採択となる計画調書にありがちな日本語のマズさを、いくつか挙げておきます。

  1. 主語と述語の呼応がおかしい。
  2. 複数の節からなる文の場合、1つめの節と2つめの節とで主語が変わっていて読みにくい。
  3. 文と、次の文とのつながりがない。
  4. 論理的なつながりを表す接続詞が使われているのに(したがって、それゆえ、しかしながら、等)、その論理が実際には存在しない。
  5. 文章に、結論に向かう流れがない。方向性が見えない。
  6. 一つのパラグラフの中で、主題が変化していて、何について書きたいパラグラフなのかがわからない。
  7. ところどころ話し言葉が混じる。
  8. 略語が説明抜きで使われている。
  9. その専門分野の人にしか理解できないテクニカルタームが説明抜きで使われている。
  10. 言葉足らずで、ギャップを読者に埋めさせようとしている。(専門外の読者にはそのギャップを埋められない、もしくは、労力を要するので、読みにくい日本語になる)

読みやすい 文章というのは、重力にまかせて上から下に流れていくだけできちんと意味のとれる、読み手にストレスを与えない文章である。学振に通るための5つのポイント 2013年5月2日 渡辺佑基 日本バイオロギング研究会の会報への寄稿)

科学的な文章の書き方に関しては、いくつか定番といえる本があります。45年前に書かれたロングセラーが『理科系の作文技術 』です。研究者でこの本を知らない人はおそらくいないでしょう。

木下 是雄 理科系の作文技術 (アマゾン)

木下 是雄 まんがでわかる 理科系の作文技術  2018/1/19 久間月 慧太郎 (イラスト)(アマゾン)

福地 健太郎, 園山 隆輔 増補改訂版 図解でわかる!理工系のためのよい文章の書き方 論文・レポートを自力で書けるようになる方法 (アマゾン)

 

科学的な文章以前に、自分の国語力に自信がない人は、基本から身につけるほうが早道です。フクシマ式が速習に向いていてオススメ。下の本は1時間くらいで読めますが、効果は抜群です。

福嶋隆史 (著) 言葉を自在に操るための論理思考トレーニング 考えていることが正しく伝わる、シンプルで確実な方法 「ビジネスマンの国語力」が身につく本(アマゾン)

上の本によれば国語力とは突き詰めれば「3つの力」にまとめられるということですが、その1番目の「言いかえる力」(具体→抽象、抽象→具体の言い換え)に話題を絞って書かれた本もあります。

細谷 功(著) 具体と抽象 (アマゾン)

文章を書いている時、多くの場合、具体と抽象を行き来しています。上の本を読んでおけば、それを意識しながら書くことができますので、書いた文章が慢然とならず、非常に明解でシャープなものになります。上記の本は2冊とも、普通の文学作品のように文字がぎっちり詰まったものではなく、非常に読みやすいので、1時間くらいで読めます。国語力アップに1時間を投資するだけで、異次元の科研費申請書作成能力(前後比較)が身につくのですから、こんなコスパの高い努力はめったにありません。

 

科研費採択のための絶対条件:計画調書の中に矛盾をつくらない

概要と本文が対応していなかったり、研究計画と経費の項目がつじつまが合っていなかったり、不採択だった計画調書はいろいろと矛盾を含んでいることが多いのです。目的を達成できそうにない実験計画というのも、致命的な矛盾です。申請書を書いている当人の頭の中ではなんとなく繋がっていて、実は辻褄があっていないのに気付けないということが多いのです。数多くの調書を読みなれている審査委員は直ちにその矛盾に気付き、不採択のほうへ振り分けてしまうことでしょう。

私が確認を頼まれた後輩の申請書や、ギリギリ評価点が足りずに落ちてしまった方の申請書にはほぼ必ず論理的におかしいと思う部分があります。つまり、論理性を保った申請書を書くだけでも差別化に繋がるということになります。(論文ゼロでも学振DC1に面接経由で採用された申請書の書き方のコツと面接対策ポイント minoblog

  1. 児島 将康『科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版(2022年7月14日新発売)
  2. 郡 健二郎『科研費 採択される3要素 第2版』(臨床医学系)

 

科研費採択への道:採択された計画調書を見せてもらう

何をどう書けば良いのかわからない人は、まずは、実際に採択された人の申請書を見せてもらい、採択のためのスタンダードの高さを知ること。また、他人の申請書を読めば、どんな文章表現を使うと効果的なのかがわかり、具体的な言葉遣いを学べるというメリットもあります。

①~である.しかしながら,Aに関しては未だ不明な点も多く,その解明には既存の手法ではなく,新しい視点からのアプローチが必要である.②申請者らは,近年Aの生理学的意義が注目されている~に着目し,Bを明らかにした.③本研究では,AにおけるBの意義・役割について明らかにする. (①現状の問題提起,②申請者らの研究成果,③研究目的)(若手研究者向け科研費セミナー ー採択されやすい計画調書の書き方ー URA室倉石泰平成27年8月4日 東京医科歯科大学 PDF 19ページ)

 

大学によっては、採択された科研費計画調書を学内で見せたりしているところも結構あるようです。採択された、他人の計画調書を見る機会がない人も多いと思いますので、ネット上で公開されている調書を紹介します。様式が変わっても、良い申請書の本質的なことは普遍的です。

基盤研究(A)

下の申請書は、自分には馴染みがない研究分野ですが、読んだときにその迫力に圧倒されました。きっと多くの人に役立つと思うので紹介させていただきます。

① 研究の全体構想・具体的な目的・何をどこまで明らかにしようとするのか?
動物媒の花の著しい多様性は、送粉動物への適応を通じて進化したと考えられている。しかし、送粉動物による花形質への淘汰を実測しようとした研究は、必ずしも成功していない。その理由として、花形質の集団内変異が小さいことが指摘されている。本研究では、種間雑種を作り、さまざまな花形質を分離させることによってこの障害を克服し、異なる送粉動物への適応進化の過程を実証的に調べる。研究材料として、ユウスゲ属の 2 種をとりあげる。2 種は、‥

(基盤研究(A)計画調書PDFリンク http://seibutsu.biology.kyushu-u.ac.jp/~ecology/yahara/KibanA.pdf

 

学振DC2

下のリンク先で学振の申請書が公開されていますが、計画調書作成の戦略まで細かく解説されています。異なる分野の人にも絶対に役立つであろう内容です。

■研究背景
申請者は”薬剤の効かない難治性てんかん患者”をターゲットに、生体冷却を用いた代替治療総日の開発(図1)を行ってきた。てんかんとは、‥

(引用元:面接免除になった学振DC2の書類を公開と工夫した点について 更新日:2019-05-04 公開日:2018-09-20 そうだ研究しよう

 

採択されるためのヒント:審査の手引きを読む

科研費計画調書の審査は、公正を期するために審査基準が明確に定められておりそれは「審査における評定基準等」や「審査の手引き」という文書として公開されています。

審査委員のための「審査の手引き」は、実は申請者にこそ必読の書です。公開されている「審査の手引き」に目を通しておけば、自分の研究計画がどのように採点されるのかの具体的なイメー ジが湧きます。すると、科研費申請書をどう書けばいいのかのアイデアが、自然にいろいろ浮かびます。申請書を書き上げたあと、自分が審査員になったつもりで自分の申請書を採点してみると、ちゃんと書けているのかどうかのチェックになります。

基盤研究、萌芽、新学術などの種目ごとに存在意義が異なるため、当然のことならがら審査される際の観点も異なります。その種目が助成した研究はどのような種類の研究なのかをきちんと理解しておくことは、申請書を書く以前の問題です。

審査の手引きを読めば点数が付けられるさいの審査のポイントがわかりますから、逆に、そのポイントを押さえた調書を仕上がることが可能になります。大学受験で採点基準を意識して解答すれば減点されにくい答案が書けるのと同じ理屈です。

  1. 審査における評定基準等(平成31年度)基盤研究(B・C)、若手研究(PDF)
  2. 審査における評定基準等(平成31年度)挑戦的研究(開拓・萌芽)(PDF)
  3. 科学研究費助成事業 審査・評価について(JSPS )

 

採択されるための戦略:敵を知る

誰が自分の科研費の審査をしたのかは、公開されています。自分が出す分野の審査委員の顔ぶれを知っておくことは非常に重要です。出す分野を決める際の参考にもなります。

また、審査委員がどのような気持ちで申請書を読んでいるのか、その心理を理解しておくことも大事です。科研費の取り方に関する教科書などでも紹介されていることですが、一人の審査委員に100近くもの計画調書が送られてきて、審査委員は忙しい業務の合間を縫ってその調書の評価をしなければならないため、一つの調書あたりにかけられる時間は申請者が想像するよりもはるかに短いようです。本では言葉を濁していますが、科研費審査経験者が説明会に引っ張り出されて話ているのを総合すると、おそらく10分~20分程度ではないでしょうか。この程度の時間しか割けないとなると、隅から隅まで一字一句漏らさずに読むという読み方は到底できないはずで、緩急を付けながらサッサと読んでいっているはずです。日本語が読みにくかったり、説明がわかりにくいものは当然、良さが伝わりにくいので低評価を受けることでしょう。

また、採択率から考えると、ほとんどの調書(~7割)を「不採択」のほうに振り分ける必要があるため、ダメなところが見つかり次第「不採択」の方に分けていくことになるでしょう。ですから、明らかにダメな部分を作らないということが、一つの重要な戦略になると思います。振るい落とされるような隙を作らない、ソツのない計画調書に仕上げることが、採択のための最低条件といえそうです。

 

採択されるための戦略:敵を味方に

どんな大学であっても、科研費審査を経験された先生がいらっしゃるはずです。過去の審査経験者は公開されているわけですから、自分の大学に所属する審査経験のある先生を見つけて審査のポイントを聞きに行くということも可能なのではないかと思います。みんながやると先生の時間が奪われてしまうでしょうが。その場合、大学のURAがそういう情報を学内に還元するのが良いのではないでしょうか。

 

科研費採択のための戦略:勝てる場所を選ぶ

科研費を申請するときには、審査区分を選ぶ必要があります。それぞれの審査区分ではその分野の研究者が審査委員を務めるわけです。自分の研究内容がどの審査区分にマッチするかをじっくりと考える必要があります。さらに、自分の研究計画が複数の審査区分で出せそうなときには、どこに出せばライバルが弱くて自分の勝つチャンスが増やせるかを考えましょう。それというのも、科研費の審査は「区分ごとの相対評価」だからです。これに関しては、審査の手引きなどを熟読して、自分の申請書がどのようなプロセスを経て合否の判断が下るのかを理解しておく必要があります。

KAKENデータベースをみれば、どの程度の論文業績の人がどの審査区分においてどのような研究プロジェクトで採択されたかを知ることができます(過去に、審査委員の先生が誰だったかも)。過去に採択された人たちの研究と自分がこれからだそうとしている研究計画とを比べたときに、ここで戦って自分は勝てそうか?と考えて、勝てそうな場所(=審査区分)を選ぶことも非常に重要な戦略です。

 

採択の条件:他者との差別化をはかる

何を究明したいのか問題意識を明確にし、どのような手法でそれを実現するのかを具体的に立案。…例えば、分野の空白を埋める研究なのか、学問・科学の発展の流れを把握し、切り開いていく研究なのか、全く新しい発想による研究なのかなど「特色」を明らかにして「他の人との違い」を積極的にアピール。
科研費応募の手引き 平成21年8月20日 小山和義 原子力GCOE (PDFファイル スライド47枚)

 

評点を稼ぐノウハウ:採点されやすい調書に仕上げる

審査委員はみな大学の研究者ですから、超多忙の合間を縫って科研費の申請書を読んで採点しています。一つ一つの申請書を全部同じようにじっくり読む時間はないはず。「当確」な調書と「論外」な調書は時間をかけずに判断されると思います。問題は、当落線上の調書でしょう。少しでも採択の可能性を上げたければ、審査委員の心証を良くする必要があると思います。それは結局、審査委員の負担を軽くする、つまり、読みやすく採点しやすい調書に仕上げればよいのです。

極意1 審査員に読ませない、まとめさせないK3茶論 第15回 科研費申請書作成のポイント 高等教育コンソーシアム信州 加藤鉱三 スライド+ウェブキャスト)

審査員は、一度に短い時間で多くの調書を読まなければならないことを十分意識して書く。そのため斜め読みでも、重要な要点がきちんと伝わるように書く。
科学研究費助成事業(科研費)研究計画調書作成のポイント集 産学公連携センター (PDF スライド22枚)

 

科研費採択のための必要条件:予備実験データを見せる

どんな立派な研究計画であっても、その実現可能性が低そうだと思われると採択されません。実現可能性の高さをアピールする最善の方法は、予備実験を行ってその結果を図にして示すことです。

* 実際のデータを入れる。(具体性、実現可能性をアピールできる)
* 自分のデータを入れる。あと一歩で金さえあればできると言外に示す。
* 何らかの予備データ(レターペーパーでもいいので既に発表済み)があってその課題で結果が得られる可能性が高いことをアピール … 既に結果のある人、つまり結果を出せる能力 があると客観的に証明できないとなかなか取れない
Bio TEchnicalフォーラム No.882-TOPIC – 2008/03/27 (木) 21:29:37 – 申請書の書き方でアクセプトされやすいコツなどがあれば何でも構わないので教えてください。)

「科研費に申請を出すために予備実験を行う」というよりも、日常的に研究をしているわけですから、「次に論文が出そうな内容で科研費を出す」ほうが現実的かもしれません。つまり、既に結果が出ている内容で、研究費の申請を行うのです。

研究計画の実現可能性を研究費を獲得したら、きちんと論文を出すことが必要ですが、研究者として確実に生き残るための絶対に失敗しない方法は、すでに結果が出ている内容で研究費を獲ることです。

「申請を出す研究は80%程度完成していて,残りの20%を達成するために科研費を申請するぐらいが丁度良い.」
(文部科学省科学研究費若手B を獲得するための5 つのポイント 勝平 純司 国際医療福祉大学学会誌  第18巻2号 2013)

論文を書き上げて投稿を済ませたものを申請書に書いてもいいくらいです。

論文投稿後に研究費が獲得できたら、そのお金はリバイス実験に当てるくらいの感覚です。こうやって、先取りしながら論文とお金を回していければ、追われる生活にならなくてすみます。

 

採択される計画調書の条件:実現可能性をアピールする

科研費申請書には、「これまでの研究について」書く欄や、「研究環境」について書く欄があります。ここを漫然と書いている人が結構多いのですが、申請書の目的は、研究の意義と研究計画の実現可能性をアピールすることであることを思い出せば、「これまでの研究について」や「研究環境」は、研究計画の実現可能性をアピールするための場所であることは明らかです。これらのセクションを書くときも、研究計画につなげて書く工夫をしたほうがよいでしょう。そうすれば、自分がこの研究をやることが相応しい人間であり、それが可能であるということが伝わります。

 

採択への早道:科研費の教科書を読む

こんなウェブ記事を自分で書いていて言うのもなんですが、定評のある科研費の教科書を読めば、必要なこと全てが書いてあります。 羊土社から出版されている児島 将康の著作『科研費獲得の方法とコツ』は、最新の科研費制度の変更に合わせて改訂されており特におすすめ。この本の読者と、読んだことがない科研費初心者は、例えていうなら、オトナと赤ちゃんくらいの違いがありますから、科研費採択を賭けた土俵に出たときに全く勝負にならないでしょう。

これらの本を読めば、申請書の各セクションで、何をどう書くべきか、ポイントの押さえ方がわかります。公式の記入要領に目を通しても初心者には思い及ばないことばかりです。豊富な実例、徹底的な解説、そして著者の情熱に触れながら自分の申請書を書くと、モチベーションも上がります。教科書に数千円投資して、科研費採択で数百万円以上を手にするのですから、費用対効果は抜群です。こういった書籍を読んだ人と読まずに書く人との差は今後ますます開いていくのではないかと思います。

自分は、世の中で売られている科研費関連本にはすべて目を通しています。応募歴・採択歴がある程度あるが、こう書けば必ず採択されるといったノウハウまで体得できているという自信がない人には、審査員の心情を暴露してくれている『狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方』が、一番オススメです。この申請書を読む審査委員は、どう感じるのか?が分かれば対処すべきことが自ずとわかります。初心者にはオーソドックスで網羅的に書かれた書籍が良いかもしれません。

  1. 中嶋 亮太狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方  2022/8/20
  2. 児島 将康『科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版(2022年7月14日新発売)
  3. 郡 健二郎『科研費 採択される3要素 第2版』(臨床医学系)

関連記事 ⇒ 科研費申請書の書き方の教科書 厳選5冊

医学書院から出ている郡 健二郎著『科研費 採択される3要素』は、医学部の先生が書かれているので、文例が医学関連なので医学部の研究者には親和性が高いと思います。ただし、これら2冊は分野を超えて普遍的な原則が解説されていますので、解説のスタイルに関して自分の好みで選べばよいと思います。

 

採択へのまわり道:日本語の文章力を上げること

急がば回れといいますが、採択されるためには読み易い日本語の文章を書くことも大事です。毎年不採択という人の申請書を見せてもらうと、そもそも読みにくい日本語を書いていることが多いように思います。

『こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド』を読み通せば、日本語の文章力が一段確実に上がります。

こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド』(アマゾン)

 

科研費採択への早道:学内の支援制度を利用する

いまどき、多くの大学で研究推進のためにURAが設置されています。京大などはURAが科研費採択の教科書を作成して学内で配布するなど、科研費採択率アップのために活発に活動しているようです。このような研究支援制度が学内で利用できるのであれば、使わない手はありません。

東京大学リサーチ・アドミニストレーター推進室(UTRA)が科研費獲得の方法や申請書の書き方を教える文書を公開しています。

電子書籍 「研究生活とキャリアパス -はじめての競争的資金獲得をめざして-」 iTunesにて無償公開  (ダウンロードサイト)
 第1分冊-科研費獲得を目指す「若い君たち」へ 勝木元也
 第2分冊-研究生活と競争的資金、研究計画書の書き方
 東京大学リサーチ・アドミニストレーター推進室(UTRA)

科研費採択への早道:商業サービスを利用する

  1. ジーラント株式会社(代表取締役 児島 将康)科研費申請書の添削サービス(個人向け) 科研費獲得総合プラン(研究機関向け)
  2. ココナラ(科研費に特化した添削サービスを提供している個人)

採択のために:制度の趣旨を理解する

科研費にはいろいろな研究種目があり、それぞれに存在する理由があります。萌芽であれば文字通り萌芽的な研究テーマが期待されているわけで、「これ、別に基盤(C)でいいんじゃね?」と思われるような常識内に収まるテーマだと、高い評価を受けないようです。

新学術領域の公募の場合は、当然、その領域の趣旨に完全に合っていないといけません。どんなに優秀な研究者であっても、領域の趣旨から外れた研究テーマで申請すれば採択される可能性は低いでしょう。

平成30年度から審査体制がだいぶ変更されたことも無視できません。審査区分が大きくなった研究種目の場合には、審査委員になる先生の研究分野が相当ばらけている可能性があり、制度変更前までと同じような書き方をしていると、せっかくの研究の意義も伝わらない恐れがあります。

 

科研費採択のノウハウのまとめ

押さえるべきポイントを押さえるかどうかで、申請書の出来に天と地ほどの差がでます。科研費申請書を書く上で重要なのは、(1)審査員の気持を理解し、(2)審査員が自分の申請書をどのように評価、採点するのかその具体的なプロセスを把握したうえで、(3)自分の研究のアイデアと目標達成能力をしっかりとアピールしつつ、(4)自分が研究期間内に実現したいことを明確に述べ、(5)非常に読みやすくかつ審査しやすい計画書を作り上げることです。そして、(6)「コイツにお金をあげたい」と審査員に思わせるのです。もちろん、未来の計画実現可能性をアピールするためには、過去の論文実績が重要です。科研費申請の締め切りまでに今の仕事の論文がアクセプトされるよう、全力を尽くしましょう。

関連記事

  1. 科研費研究計画調書の書き方 セクションごとの具体的、実践的な書き方のアドバイス

科研費制度の変化

平成30年度(平成29年申請)から科研費の制度が大きく変わりました。主な変更点やその対策に関しては、以下のサイトをチェック!

この速報では,「科研費獲得の方法とコツ 改訂第5版」では詳しく触れられなかった来年度からの新しい申請書への対応について解説していく.【速報】平成30年度公募の要点と申請書の書き方(児島将康/羊土社)

科研費不採択の受け止め方

万が一、不採択の結果に終わったとしても、研究計画を真剣に練って文章化するという作業は、自分のやりたいことを整理し、研究意欲を高め、自分の研究に対する信念を強固にしてくれるものです。

無鉄砲に挑戦し続けた科研費が私の研究を伸ばしてくれたと感謝している。
「科研費-伸びる研究」(私と科研費(2014年2月号))伊藤 早苗

 

参考

申請するたびに必ず通る先生がいました。その先生は研究者として特定の分野で有名人なわけでもありません。しかし、研究種目を変えても、審査区分を変えてもやっぱり通るのです。どのように計画調書を組み立てるのかを伺うと、目から鱗が落ちたものです。 ‥

そのような経験を事務方と教員全体で共有していった結果、10年間で科研費の獲得件数は実に25倍になりました。

科研費申請書類の書き方のコツ (大学で研究助成金獲得業務に携わった「もとじむ」さんのサイト)

  1. 研究者コミュニティへの影響大 30年ぶりの科研費改革 (Science Portal サイエンスポータル 2015年10月27日):”一見するとただ分野融合を進めるだけの見直しにも見えるが、実は日本の研究者コミュニティに大きな影響を与える改革である。現在の科研費の各分野における配分額は、分化細目ごとの応募数によって決まっている。つまり、ある分野の研究者が多くなり、科研費の申請が増えれば、自然とその分野への研究費の配分額も増えてくる。学問の進展に柔軟に対応していくシステムといえる。しかし、逆に言えば、特定の研究者コミュニティが一定の研究費を継続的に確保し続けるため、その分野のボス支配が強まるシステムであるといえる。”
  2. 科研費改革説明会(「科研費審査システム改革2018」について)(動画時間44:02)
    講演者:文部科学省研究振興曲学術研究助成課課長 鈴木 俊之 氏
    平成29年6月8日於東京大学本郷キャンパス安田講堂
  3. 平成30年度科学研究費助成事業-科研費-公募内容の変更点(動画時間1:25:02)
    講演者:日本学術振興会研究事業部研究助成第一課課長 吉田正男氏
    平成29年9月6日 東京大学本郷キャンパス安田講堂

 

 

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