仮説を書かない科研費申請書なんて…

科学研究は仮説の検証という形で進展します。

参考記事⇒科学における仮説とは何か?

論文を書くときには、仮説を提示するのが一般的です。

参考記事⇒論文から学ぶHypothesis-driven research

しかし日本の大学院教育ではあまり仮説を立てることの重要性が言われていないように思います。今どき、中学の教科書にも仮説を立てることの大事さを教えているというのに。

参考記事⇒中学理科の教科書が教える仮説駆動型研究

中学生が学ぶことを、博士号を取得した研究者が実践していないのだとしたら不思議なことです。全ての研究が仮説駆動のスタイルをとるわけではないのですが、生命現象のメカニズムに迫るためには、モデルや仮説が必要です。ですから、科研費の申請書にも仮説を書くべきでしょう。

参考記事⇒採択される申請書の条件:研究目的を明確に伝える~作業仮説を示す~

 

仮説を書かない科研費申請書なんて、クリープを入れないコーヒーみたいなものです。

  1. クリープの歴史(森永乳業)

 

グラントライティングに仮説を書くのは当たり前すぎることですが、当たり前のことを教えるウェブ記事を、日本語サイト、英語サイトともに纏めておきます。

 

入念なプレゼン準備のおかげで研究内容が正確に伝わったのか、その方に開口一番「興味深い仮説を立てておられる」といって頂けたのでかなり場の雰囲気が柔らかくなりとてもやりやすかった記憶があります。(論文ゼロでも学振DC1に面接経由で採用された申請書の書き方のコツと面接対策ポイント minoblog)

1ページに1つくらいの簡易な表または図を挿入するとグッと引き締まった申請書になります。特に、①研究の仮説やアイデアの基盤になる図、②年度ごとの経時的研究概要の図または表、③研究構成メンバーの役割分担に関する図の3枚は必須といえます。(科研費獲得の意義と申請書の書き方 高知大学医学部外科学講座外科)

「こうだと思う・こういう疑問がある⇒分析して検証する!」⇒こういう論文は仮説があるとものすごく読みやすいです。なくてもいいんですけどね、でもあると読みやすさが全然違うんですよね。仮説は目的よりももっと具体的。分析した結果を想像して、「AはBに影響する」→これが仮説です。目的は、「Bへの影響要因を検討すること」この程度でいいでしょ。仮説は目的の後に書きましょう。「本研究では~~~を目的に、「~~~~」を仮説に立て検証した。」これでOKです。(研究目的、目標、仮説の使い分け 学術研究支援塾ARS Academic Research Support

●審査員の状況を理解する ●達成への道筋を示す ●「概要」で引き付ける ●仮説を使う etc. (令和2年度スキルアップセミナー「木暮セミナー:科研費申請書の書き方」 琉球大学

本研究は、この紀元前4千年紀にオアシスの生業と景観が成立したという仮説を立 て、検証するものであり、それによってアラビアの環境考古学に新しい知見を付加するものである。(若手・中堅研究者のための科研費 平成29年度 総合地球環境学研究所 科研費申請説明会 基盤研究(B)、(C)、若手研究等の申請準備等に関する説明 スライドシェア

研究をしていて陥りがちな誤りの1つは、実験結果が出てから結論や解釈を考えようとすることです。本来、実験は仮説が正しいか誤っているかを判断するものであり、解釈は結果が出る前から決まっていなければなりません。きちんとした研究計画には、予測どおりの結果や違う結果が得られた時の解釈まで織り込まれているので、このような誤りに陥ることがありません。(科研費申請の目的 科研費申請 循研での研究 久留米大学循環器病研究所)

日本語のサイトでは、科研費申請書で仮説を提示することの重要性に触れた記事があまり多くはなかったのですが、英語のサイトで探すと逆に仮説の重要性を説かないサイトが一つも見当たらないくらいです。

The specific aims page demonstrates a problem and a gap in current knowledge and suggests a solution.

The objective is then linked to a critical need or central hypothesis whose testing will achieve the global objective of the application. Take care that the objective is not to test a hypothesis. Be sure to have a thorough plan for negative and null findings that will be explained in later sections. An ideal hypothesis is one in which any result actually advances the field of inquiry and can be explained in such a way (rather than we learned something or we were wrong).

Academic Emergency MedicineVolume 25, Issue 9 Original Contribution Free Access Introduction to the Specific Aims Page of a Grant Proposal Andrew A. Monte MD Anne M. Libby PhD First published: 02 April 2018 https://doi.org/10.1111/acem.13419

There are several steps that need to be taken for the initial steps of grant preparation. The first and perhaps the most critical step is formulating a study question. The study question on which the overall hypothesis is based on should be a testable hypothesis and of high significance. (How to Write a Successful Grant Application and Research Paper Hossein Ardehal Circulation Research. 2014;114:1231–1234

It is a hypothesis that makes your proposal distinguishable from others. Hypothesis is a very critical section of a grant proposal. Most of the peer reviewers just read this section to either accept or decline the proposal. (Developing and Writing Hypothesis for Grant Application. conductscience.com)

Specific Aims: common mistakes

• Lack of clarity

Lack of hypothesis

Grant-Writing-Seminar-Cyndi-Bradham.pdf

What makes for an excellent grant? 
• A compelling question
• Clarity of thought and expression
A strong, testable hypothesis

(NIH-4-Grant-Application-Components.pdf)

 

仮説を模式図で示す

研究のデザインや仮説は本文で説明するだけでなく、模式図で示すのがお勧めです。申請書を全く読まなくても、仮説の図一つ見れば全てがわかるというのが理想。下のグラフィックデザインのセミナーは非常に役立ちます。図を作るということは、研究のデザインやアピールポイントを深く考え抜くことでもあります。科研費の申請書に載せる図は、ささっと作ってしまう場合が多いかもしれませんが、実際には、ここにかなりの労力を費やすことが採択のためには必要でしょう。下のセミナーでは、細部に気を配ることにより見栄えを劇的に良くする方法も説明されています。

(転載元:科研費 研究計画調書のグラフィックデザイン 京都大学 次世代研究創成ユニットURA 小野 英理 PDF

 

参考

  1. How to prepare a Research Proposal Asya Al-Riyami Oman Med J. 2008 Apr; 23(2): 66–69. PMCID: PMC3282423 PMID: 22379539
  2. How to write a grant proposal Michael Zlowodzki, Anders Jönsson,* Philip J Kregor,** and Mohit Bhandari  Indian J Orthop. 2007 Jan-Mar; 41(1): 23–26. doi: 10.4103/0019-5413.30521 PMCID: PMC2981889 PMID: 21124678
  3. 学術研究支援塾ARSとは 学術全般の活動における補習塾のようなイメージで、研究活動にあたって発生する、 研究計画の整理からデータの扱い・まとめ方 統計解析 執筆した原稿の精査 等、学術領域でお困りのことに対して、お持ちのデータや原稿をもとに適切なご回答またはご助言、ご提案する学術支援事業です。