科研費の繰越し・期間延長・次年度使用の違い、正当な理由と書類作成方法

      2019/02/15




研究はかならずしも当初の計画通りには進まないものです。研究期間中に予想外のことから大きな修正を迫られることがあります。年度ごとに区切りよく研究が進んでいけばよいのですが、大抵の場合そうはなりません。そのため、年度を超えて予算を繰り越したり、期間を延長せざるを得なることがあります。かつては研究費を業者に預ける「預け金」という悪しき風習があったらしいですが(現在では、これは完全なクロ、研究不正)、今では研究の実情に合うように研究助成制度がかなり改善されており、正当な理由があって必要な手続きを期間内に行えば、今年度の予算を次の年度に使うこと許されます。

 

科研費の繰越し制度の正しい理解の必要性

科研費には「基金」と「補助金」の区別があり、また、研究期間の最終年度かどうかによっても、適用されるべき制度が変わってくるので、これらの理解は重要です。

『繰越』と『調整金を使用した次年度使用』のあらましと違い(http://kenkyo.office.uec.ac.jp)という記事がわかりやすいです。

平成30年度が研究計画最終年度にあたる科研費(基金分、一部基金分)の研究課題のうち、研究計画変更等に伴い補助事業期間の延長を希望する場合には、別紙「科研費(基金分、一部基金分)の補助事業期間延長承認申請書の提出について」を確認の上、関係者への周知及び必要な手続きを行っていただきますようお願いいたします。(引用元:科研費(基金分、一部基金分)の補助事業期間延長承認申請書の提出について jsps.go.jp

同一の言葉が使われていてもそれが一般的な日本語としてなのか、テクニカルタームとしてなのかがわからないと、混乱を招きます。renkeika.sci.waseda.ac.jpの資料をもとに、こんがらがりやすい3つの制度をまとめておくと、

「繰越し」:「補助金」が対象。今年度の科研費を翌年度に繰り越す制度。最終年度でも申請可能。

「期間延長」:「基金」が対象。最終年度のみ申請可能で、研究期間を1年間延長する制度。(結果として、翌年度に科研費を繰り越すことが可能)

「次年度使用」:「補助金」が対象。前年度に未使用額(返金)が発生した場合、国に一度返還した科研費を今年度分として交付を受ける制度。最終年度は申請できない

持っている科研費が補助金か基金か、最終年度かそうでないかで自分は混乱してしまい、該当する所内締め切り日を過ぎてしまうという失態を犯してしまいました。事務の方、すみません _(._.)_

 

繰越しのススメ

科研費の公式な丁寧な説明(繰越申請書作成に当たっての参考資料集繰越事由別記入例、繰越しFAQなど)を読んでもらえば済む話ですが、実際には、繰越しという制度になじみがない研究者にとって、オフィシャルな説明は無味乾燥でイメージが湧きにくいものです。もう少し研究者の心情に寄り添った説明があったので紹介します。

繰越し手続きは難しくありません
科研費の繰越しについては、手続きが煩雑だと思われがちですが、研究者が作製する書類は、①繰越しを必要とする理由書、②繰越しを要求する額の計算書、③研究スケジュールの変更表の3つで、いずれもA4で1枚程度であり、事実関係や理由を明確に示すなどのポイントさえきちんと押さえれば、書類の作成が大きな負担になることはありません。(osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.j

自分も昔繰越しか期間延長か何かをしたことがありますが、なんだか非常に面倒くさかった記憶だけがトラウマになって残っています。何が書類作成のポイントかがわからないと頓珍漢な書類になり事務に怒られて、面倒くさいと感じてしまうわけです。最初からポイントを理解し書類作成の見通しが立っていれば簡単です。

研究者の立場としては、どんな理由なら認められて、どんな理由は繰越しが認められないのかをまず理解する必要があります。

【対象経費】
繰越しの対象となる経費
交付申請書において確認できる研究計画であって交付決定時には予想し得なかった要因によるやむを得ない事由(以下の「繰越事由一覧」参照)により、当該計画部分に係る経費を繰り越す必要が生じた場合でありかつ、翌年度内に完了する見込みのあるもの

繰越しの対象とならない経費
病気や怪我を除く、研究者の自己都合に起因するもの(多忙、事前の調整不足、所属研究機関の異動等)研究終了後に余った研究費(余剰金)(引用元:jsps.go.jp

次年度に研究費が取れていなかったら困るのでとか、職探しで忙しかったからとか、次年度に移動するので研究費を確保しておきたいなどと言っても、受け入れられません。

JSPS作成文書の説明もわかりやすい。以下の要件を全て満たさなくてはなりません。

(参照元:繰越制度の概要(研究者用)平成30年11月日本学術振興会研究事業部研究助成第一課)

繰越要件 ×該当しないもの
①当初計画の内容と時期が明確であるもの ×当初から当該年度中に完結しないことが明らかなもの
②交付決定後に繰越事由が発生したもの ×交付決定時には既に発生・判明していたもの
③当初計画では予想し得なかったもの ×研究者の自己都合
×事前の調整不足や甘い見込みの研究計画、当初から容易に予想される事由
④計画の見直し、繰越しが不可欠
であるもの
×当該年度中に再調整を検討していないもの
×当該年度中に再調整が可能なもの
⑤計画の見直しの具体的内容、見直し期間が明確化されているもの ×全く異なる研究目的への変更
×不合理な変更
×翌年度中に事業が完結することが未確定なもの

書類作成方法は、いつ変更があるかわからないので詳細は書きませんが、所属機関・大学の事務の人にちゃんとチェックしてもらえるように早めに作成することをお勧めします。理由を書くことは研究者にとってまったく難しくないと思いますが、この決められたフォームにウェブ上で記入するコツを知るのがむしろわかりにくいかもしれません。

 

忘備録

繰越しのための書類はウェブ上のシステムで作成しますが、他人がつくったシステムの挙動は理解し難いと感じたので、自分用の忘備録として自分の作業記録を残しておきます。以下は参考にせず、所属機関の事務の人に相談して書類を作成してください。

  1. 「JSPS科研費電子申請システム応募者ログイン」のウェブページhttps://www-kaken.jsps.go.jp/kaken1/shinsei/logon.doで、IDとパスワードを入力してログインする。
  2. 「応募者向けメニュー」というページに来るので、一番下の「交付決定後の手続きを行う」をクリック。
  3. 繰越しの申請を行いたい研究課題(今の場合、区分が補助金で年度は2018年度のとある課題)を選び「課題状況の確認」をクリック。ちなみに、古い方2017年度を間違えてクリックしたとき、もう今更申請できませんよ~みたいな語句があらわれて、ゾッとしました。勘違いでよかった。
  4. 「必要に応じて提出する書類」のセクションの、「繰越(翌債)を必要とする理由書[C-26]」(提出期間:2018年12月7日~2019年2月15日)という欄にある「⇒作成する」をクリック。すでに作成を始めている場合には、「変更履歴等」というセクションの中の該当する項目の「修正」をクリック。
  5. 「繰越(翌債)承認要求額」の欄には直接経費の繰り越したい金額を1円単位で正確に入力。ここは、自分の予算の消化具合を把握しておく必要があります。「間接経費」の金額は事務の人に聞いて言われた金額を入力しました。【繰越(翌債)承認要求額の費目別内訳】に、物品費、旅費、人件費・謝金、その他の金額を入力。ここに入力する金額はもともとの自分の計画を参考に考えて記入。「算定根拠」は最大200文字という制限内でできるだけ具体的に記入しました。
  6. 「所属研究機関事務担当者による修正を希望しない。」のチェックボックスは空欄(すなわち希望する)で「⇒一時保存をして次へ進む」をクリック。
  7. すると月ごとに研究計画を書く欄が表示されます。この表に圧倒される必要はありません。まず、「①繰越事由の発生した時期」を決める必要があります。お金が交付された月を事務の人に聞いてそれよりも後の月にします。研究の流れからして、いついつと厳密にいうのは難しいと思いますので、それほど神経質にならなくていいと思います。
  8. さて、左側の②当初計画をまず仕上げましょう。計画を書く欄は確か20字以内の制限があったと思うので(したがっていなければエラーが出て教えてくれる)簡潔に書きます。例えば、「~の構築」みたいに、体言止めで書きます(重要)。次の月もその実験の続きなら、↓の左側のチェックボックスをクリック。以下同様。自分の場合、数カ月ごとに作業内容のまとまりを簡潔に表現して記入しました。どう書くかは、記入例などを参考にすればよいでしょう。たとえば最後のほうの月は、「研究成果のとりまとめ」みたいな感じです。
  9. 「③反映」ボタンをクリックすると、「②当初計画」の内容が「④変更後の計画」に反映されます。 という緑色のボタンがありますが、さいしょこれがなんのためにあるボタンなのかわかりませんでした。これは左の欄を右の欄にコピーしてくれるだけです。自分はそれがわかっていなくて、右半分の④変更後の計画をせっせと書いたあとで、うっかり「③反映」ボタンをクリックしてしまい、上書きされてしまったので再度書くはめになりました。このボタンは右側を埋めるのを助けるために存在していたということを後から理解しました(理解力なさすぎ)。
  10. さて、「①繰越事由の発生した時期」を決めたわけですから、「④変更後の計画」では、繰越事由の発生に対処するために新たに行った作業課題を、対応する時期に書く必要があるでしょう。そして問題が解決されるのに何カ月かかかって、それ以降は、左側の当初の計画を、延長期間をずらして書いてできあがりです。注意事項として、まる1年間延長するのでなくやむをえず研究期間を何カ月か追加する形にすべきだそうです。自分の場合4カ月延びて、2019年7月に研究が終了するような「④変更後の計画」にしました。実際には7月までしか繰越した研究費が使えないというわけではなくて2019年度めいいっぱい(2020年3月まで)使えるとのこと。
  11. ⑤「反映」ボタンをクリック ・「②当初計画」の内容が「⑥研究概要」に反映されます。 ここでは、自分で記入する必要はなくて、緑色の⑤「反映」ボタンを押すだけで、⑥研究概要の欄に自動的に記入されます。②当初計画で体言止めにする必要があったのは、この⑥では自動的に、(西暦2018年XX月までに~「を行い」2019年3月までに~「を行う」予定であった。というふうに、「を行い、」と「を行う」が自動的に自分の書いた語句に付け足されるからです。これに自分はずっと気づけず、自分の書いた語句が反映されていないと思い込んで悩んだ末、事務の人に聞きにいきました。
  12. 次のページでは繰越事由を一覧から選ぶことになります。自分は「研究方式の決定の困難」にしました。だいたい理由なんて複合的なので必ずしも一つに絞れないかもしれませんが、②「補足説明」の内容と一致させることが重要でしょう。②補足説明を書く場合には、①事例は選ぶ必要がないようです。補足説明部分は、まあ正直に書けばいいわけですが、大事なポイントは、「②当初計画」や「④変更後の計画」の欄に記入した語句ときちんと対応させる(要するに、同じ語句をそのまま使う)ことです。説得力のある文章にするための”キラーフレーズ”として、例えば、「研究遂行上、~が不可欠なため」といったメリハリのある言葉を入れたほうが読みやすいので、事務の人と相談するか、記入例の中の文例を参考にするといいでしょう。
  13. お疲れ様、これでお終いです。「記入内容確認」ボタンをクリックすると、様式B-2 別紙2、BK-2 別紙2(共通)が現れます。「様式C-26表示(PDF)」をクリックすると内容が確認できます。問題なければ、「確認完了・送信」ボタンをクリックします。すると再度確認のメッセージとして、繰越(翌債)を必要とする理由書の入力情報を送信すると、修正・削除をすることができなくなります。よろしければ、[OK]ボタンをクリックしてください。というおどろおどろしいメッセージが出現しますが、機関の事務の人がチェックしてもし不備が見つかれば「却下」してくれて作業ができますので、怖がらずに[OK]ボタンをクリック。すると、所属研究機関担当者が確定できる状態になりました。繰越(翌債)を必要とする理由書の入力情報を修正・削除したい場合は、所属研究機関担当者に連絡してください。というメッセージが現れます。[OK]しないことには事務の人が見られる状態にならないので、通常は「送信」する前に紙媒体を事務に提出してチェックしてもらっています。ですから事務の人と相談して作業を進めてるのがスムーズ。で「OK」をもう一度クリックして、完全に終了。
  14. 研究者からするとそれってどうでもよくね?みたいなことであっても、事務屋さん的に、ここはこう書いてもらわないと困るというポイントがあるみたいなので、緊密にコミュニケーションをとることが大事だと思います。幸い自分の所属機関の事務の人はめっちゃ親切で、研究者の心理・行動をよく理解してくれているので助かっています。
  15. 研究者としての良識を持って申請書を作成すれば、繰越しの申請が審査の段階で却下されて繰越せなくなるなんてことはそうそう起きないだろうと自分は楽観しています(締め切りは厳守)。常に正直で正しいことをしているのが一番強いですね。

 - 科研費の適正な使用