研究に向いている人ってどんな人なのかは、研究者という職業に興味がある学生が知りたいことだろうと思います。
ノーベル賞取った人の半生記の話を聞いたり読んだりして、「よし、俺も!」と思える人は向いていると思います。自分は一生かけてこれを究明したいと思えるものがすでにある人も向いているでしょう。ただ、研究テーマは、実際に研究を始めてみてだんだん絞れていくものかもしれません。利根川博士の話を聴くと、分子生物学という武器を手に入れてその武器を最大限生かせる面白い領域(免疫学、ついで、脳科学)に飛び込んでいったように見えます。
研究者の適性がない人が博士課程に進学してしまうと大変です。しかし、適性があっても指導教官に恵まれないと、やはり大変なことになります。逆に良い指導教官に恵まれると、自分で思った以上に伸びるもいることでしょう。大学院生と教授との相性の問題、コミュニケーションスキルの問題というものは常に存在します。本人の能力や性向だけでなく、そういったことも含めて、一体、プロの研究者になるために必要な素養とは、どんなものなのかを考えていきたいと思います。
研究の適性と学校の勉強とが無関係な理由
高校や大学時代の学業成績の良し悪しと、研究者としての向き不向きとはあまり関係がありません。なぜなら、学校のテストでは、必ず正解がある問題が他人から与えられ、数十分間のうちに自分の頭だけを使ってそれを解いて解答用紙に書き記すことができるかどうかが試されるのに対して、研究においては、正解があるかどうかすらわからない問題を自分で考えついて、数か月から数年間にもわたる他の研究者と協同した取り組みによりそれを明らかにし、さらに論文として発表する能力が求められるからです。両者では、頭の使い方が全く違うため、学校の勉強ができた人が研究もできるとは限らないのです。もちろん、ある程度の基礎学力があることは前提となります。専門分野の知識に加えて、論文を書くための英語運用能力も必要です。
「大学時代の成績は本当に悪かった」という。当時、落第点をつけた旧制高校の物理学の教授が「小柴は大学で物理に行かないことだけは確かだろう」と話すのを聞き、発奮した。(引用元:小柴昌俊さん死去 科学発展の名伯楽 会員限定有料記事 2020年11月14日 東京朝刊 毎日新聞)
東大の物理学科はビリに近い成績で出ました。… ただし留学した米ロチェスター大学では研究漬けの生活を送り、1年8カ月で博士号が取れました。(東洋経済)
- 1944年3月 神奈川県立横須賀中学校(現・横須賀高等学校)卒業
- 1945年4月 旧制第一高等学校(現・東京大学教養学部)入学
- 1948年4月 東京大学理学部物理学科入学 1951年3月 同卒業
- 1951年4月 東京大学大学院理学系研究科入学(修士)
- 1953年9月 米国ロチェスター大留学1955年6月Ph.D.
(参考:小柴昌俊 ウィキペディア)
- たった11個の「ニュートリノ」で人類は宇宙に近づいた 村山斉 幻冬舎plus
- 小柴 昌俊『物理屋になりたかったんだよ―ノーベル物理学賞への軌跡』 (朝日選書) 2002/12/1 (朝日新聞出版)
自分は大学院に進むべきか?
学部学生が大学院に進学すべきか否かを悩んでいる場合には、下の動画が参考になります。大学院進学に関して、かなり基本的な部分を語っています。博士課程進学というテーマの動画ですが、学部学生が修士課程にいくべきか悩んでいる場合にも参考になるでしょう。修士号や博士号の取りやすさは、行く大学院の規定や研究室の教授の考え方によってかなり大きな開きがあることも念頭に入れる必要があります。
博士に向かない人の特徴3選 もろぴー有機化学・研究ちゃんねる
上の動画でも解説されていましたが、「修士号は努力賞」という言い方を聞くことがあります。これはネガティブデータしか出なくて論文発表できなくても、大学院に提出する修士論文が書けさえすれば修士号は出しましょうという意味です。博士号に関しては、ピアレビューの学術誌への英文論文掲載が要求されるのが普通です。ただし、和文論文を認めるか、論文掲載が学位論文提出より遅れることを認めるかなどは、大学院、学部によってルールが異なります。上の動画の3つ目の話(3:45-)は、「そういう考え方の人が世の中にいるのか?」と自分が思ってもみなかった新鮮な話題でした。
大学院での挫折感
- 研究の才能がないと悩む理系学生を一刀両断! もろぴー有機化学・研究ちゃんねる チャンネル登録者数 3.85万人
上の動画では、周りが優秀すぎて自分はダメかもと思う大学院生に対するアドバイスがありました。上を目指してよりレベルの高い(より優秀の人が集まる)場所に行けばいくほど、自分のできなさに気づく(気づける)可能性があります。
ファインマンも著書の中でカルテックの学生に、君たちは高校では一番優秀な人間だったが、残念ながらカルテックに来ると、君たちの約半分は、君たちが馬鹿にしていた「平均以下の人間」になってしまうんだよと言っていた。他人との優劣で価値を見出そうとする人間は、上に行けば必ず挫折感を味わう。 https://t.co/55LojeJwX7
— 博士(理学) (@scitechjp) March 16, 2018
キャリアアップ戦略
「鶏口と為るも、牛後と為る無かれ」という言葉がありますが、研究のキャリア形成の時期に関していえば逆で、鶏口になることは選ばず、牛後となることがまず第一で、そこで努力して牛口になって、さらにステップアップして次のステージで「牛後」になってそこでまた「牛口」を目指すということを繰り返すのがいいのではないかと思います。「牛後と為りて、牛口と為る」ステップを繰り返すわけです。
- ノーベル賞を受賞する確率は10の7乗分の1だが、これを1、000万分の1ということではなく、10分の1を7回掛けた数と考えてはどうだろう。
- 小学校のクラスで2、3番になったとする。30-40人、あるいは40-50人のうちの2、3番ならその段階で10分の1だ。
- 湘南高校に入った。今は知らないが、当時は成績のよい生徒が集まる高校だった。ちょっと入るときに苦労したが(笑い)。そこでもう1桁バーをクリアしたと考えてもいいかもしれない。
- 大学に入ったら、またバーを1つクリアできた、と。
- フルブライト全額支給生の競争率は50-100倍。‥ そのバーをくぐり抜け、米国に行った。これは私の人生で非常に大きな、本当に大きな転換期になったと思う。その段階でノーベル賞受賞の確率も、10の何乗分の1かに上がっただろうか。
- ペンシルベニア大学に行った。そこで私は大学院レベルの、あるいはプロとして必要な化学を有機化学も含め基礎からそっくり教えてもらった。‥ 本当に真剣になってやった。8回すべて連続してexcellent(優秀)というマークをとることができた。
- 「これなら自分ももうちょっとこの分野にのめり込んでいいのではないか。企業から学問、学界の方に少し進路を変えてみよう」。そんな気持ちになった。
- ブラウン先生の門をたたいて、ブラウン先生に受け入れてもらえた段階で、恐らくノーベル賞受賞の確率は100分の1か1,000分1ぐらいのところまで上って来ていたのではないかと思う。
- 雲の上、あるいはET(地球外生物)のような存在と思われたノーベル賞受賞者が、ひょこひょこと次々にペンシルベニア大学に来るわけで、自分も努力をしたらひょっとして、という程度の夢は持ち始めた。
- その夢を追い、幾つかゲートをくぐり、階段を上っていった先に今の私がある。
- まず自分が好きなことは何なのか、その次にその好きなことを自分はよくできるかどうか、自分の資質をある程度客観的に見てみることだ。その2つがクリアできれば、とことんそこにのめり込んでいく。大きな夢を持つことも大事だ。夢は大きければ大きいほどいい。高ければ高いほどいい。そしてその夢を追い続けること。
(夢を追い続けて 第1回「フルブライト留学が大きな転機」(根岸英一 氏 / パデュー大学 特別教授、2010年ノーベル化学賞受賞者) 2010.12.03 根岸英一 氏 / パデュー大学 特別教授、2010年ノーベル化学賞受賞者 Science Portal)
- 湘南高等学校 全日制 > 進路 確かな進路実現 ほぼ100%の生徒が、大学へ進学します。詳しい進路状況(PDF)
さて、博士課程まで進学してそのあとアカデミックキャリアを目指さないという生き方ももちろんあるわけですが、ここでは、博士号を取得して、研究者として生きる人生について考えてみたいと思います。プロの研究者になるために絶対に必要な素養とは、何でしょうか?どういう人が研究者として生き残るのでしょうか?進路を迷っている人向けの、ネット上の参考になりそうなアドバイスをまとめて、条件全30項目チェックリストを独断と偏見によりつくりました。
研究に基礎学力や才能が必要なのは当然だと思います。しかし、それだけだと足りない。
大谷選手が50/50を達成し、チームがポストシーズン進出を決めた試合後の、ドジャーズのロバーツ監督の言葉が心に響いた。「才能は俺たちの基盤(床)だ。才能は最低限の部分に過ぎない。俺たち全員にとって、性格と闘志こそが上限(天井)を決めるんだ。」(ChatGPT4o 翻訳) https://t.co/2EKD2eWB7b
— 博士(理学) (@scitechjp) September 21, 2024
あなたは研究者として生き残れるか:研究者の適性診断30項目
目次
- 1 1.運がいいか?
- 2 2.褒められるのが嬉しいからという理由で道を選ぼうとしてはいないか?
- 3 3.大学までの勉強と、大学院における研究との違いを理解できているか?
- 4 4.良いメンター(師匠)を見つけられるか?
- 5 5.人一倍強い好奇心があるか?
- 6 6.自分の頭を使ってものを考えているか?
- 7 7.コミュニケーションの大切さを理解しているか? 人と関わることの重要性を認識し、実践できるか?
- 8 8.競争に勝つマインド(心構え)があるか?
- 9 9.頑張ってしまわないか?
- 10 10.周りで何が起きようとも研究に没入し、解決すべき問題に集中し続けることができるか?
- 11 11.職業選択に迷いはないか?
- 12 12.正念場で頑張れるだけの体力、気力、忍耐力、意志の強さはあるか?
- 13 13.素直さがあるか?
- 14 14.野心はあるか?
- 15 15.緻密な論理的思考能力があるか
- 16 16.楽天的か?
- 17 17.孤独に耐えて、自分の価値を信じ切れるか?
- 18 18.人間力があるか?
- 19 19.一生スキルアップが必要と心得ているか
- 20 20. 百人百様の中に潜む共通項:単純さ、純粋さがあるか?
- 21 21.結果が出るまで努力を続けられるか
- 22 22.論文という形にするところまで持って行けるか?
- 23 23.人の言うことが気にならないか
- 24 24.なりたいか やりたいか
- 25 25.研究の世界の厳しさを理解しているか
- 26 26.配偶者の理解が得られるか
- 27 27.研究したいことがあるか
- 28 28.押し出しがあるか
- 29 29.それは研究への憧れ・研究者への憧れではないか
- 30 30.研究者を目指す自分に酔っていないか
1.運がいいか?
大学教員のキャリアというのは非常に強く運に左右されます.そもそもポストが空いていないところには着任しようがないわけで,「私講師や研究所助手が他日正教授や研究所幹部となるためには,ただ僥倖を待つほかはない(中略)これほど偶然によって左右される職歴はほかにないであろう.」とマックス・ウェーバーが述べたとおりです. https://mond.how/topics/u104fw6pkr27nco
成功した理由を聞かれたとき、「自分は運が良かった」と多くの人が言います。
松下幸之助氏は社員面接の最後に必ず「あなたは運がいいですか?」と質問したという。
そこで「運が悪いです」と答えた人は、どれだけ学歴や面接結果が良くても不採用にした (運が良い人、悪い人~松下幸之助が問いかけた「運」の意味 10mtv.jp)
「運」というと、なんともとらえどころがないもののように思えますが、桜井章一『ツキの正体 運を引き寄せる技術』(幻冬舎)という本に、運に関する解説があり、なるほどと思ったので少し紹介します。
- 運には大別して3種類あります。
- 天から授かる「天運」。これは、何の理由もなく、降って湧いたように訪れる運です。
- 同じように人を選ばないのが「地運」であり、これは場所につく運です。
- 天運、地運という、いわば「自然」から与えられる運に対して、人が作り出す運があり、これが3つ目のの運、「人運」です。
- つくかつかないかは、実は人運によるところが大きいのです。
- ついていないと嘆いている人の周りにも、よく見ればツキは漂っているのです。問題は、それを感じられるかどうか、そして、きっちり摑まえることができるかどうか。
(桜井章一『ツキの正体 運を引き寄せる技術』幻冬舎新書 2010年5月30日 15~18ページ)
運を3つに分ける考え方はしっくりきました。宝くじに当たったり、交通事故にあったり、病気になったりするのは「天運」であり、自分にはどうしようもないことなので、それよりも「人運」を上げることを心がけたほうがいいのでしょう。地運というのは、よく言う”in the right place at the right time”でしょうか。
研究者のキャリアにおける運と言った場合、自分を引っ張り上げてくれる人に恵まれる運の良さと、偶然何か大きな発見をするという運の良さと、2種類あるのではないかと思います。
人との繋がりにおける運
「運」と聞いてがっかりした人が多かったかもしれませんが、「運を上げる方法」は、↓下の ブログでも解説されていました。非常に興味深い内容だと思います。運という捉えどころのないものの本質が何なのかが理解できます。自分は運が悪いと思っている人にお勧め。
同じようにやっても大学教員に成れる場合もあれば、なれない場合もあります。結局、決定的な要因は運なのです。…
運が巡ってくる確率を上げる方法はあります。(どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室 ブログ)
運は人から与えてもらう以外、得る方法はない。ー アイン・ランド(マーク・マイヤーズ『運をつかむ人 16の習慣』三笠書房)
Talent alone is helpless today. Any success requires both talent and luck. And the “luck” has to be helped along and provided by someone. (Ayn Rand)
あなたがとことん追求した結果が、 単に独りよがりではなく、時空を越えて、誰かに共感され、評価され、貢献をすること。
もうだめだと思った時に、「こいつを埋もれさせるのは惜しい」と思う誰かに救われること。
この人生の賭に勝ち抜き、生き残ること。こうなれば、あなたは学者――教授と限らない――になれるのである。 (エッセイ あなたは学者に向いているかPDF 東京大学 松田研究室)
生まれつきの大天才は別として、ほとんどの人は偶然や運やめぐり合いによって、人生が大きく展開していく。
私たちは、無意識のうちにさまざまな選択をしながら日々行動しているわけだが、その選択・行動パターンによって、運や偶然をつかむ人とそうでない人がいる。
その人が磨いてきた能力に加えて「正しいときに正しい場所にいる」ことが重要で、それは突き詰めて言えば、誰かの心に印象を残し、大切なときにその誰かから誘われる力なのである。 (梅田望夫 著『ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか』/ 「正しいときに正しい場所にいる」幸運にめぐりあう答えは現場にあり!技術屋日記)
科学研究において発見をするための運
研究者として生き残るためには、研究においてそれなりの発見をしたり、何かを成し遂げる必要があります。それが出世作の論文となり安定したポジションを得られるというのが1つの典型的な生き残り方法です。
le hasard ne favorise que les esprits préparés ー Louis Pasteur (引用元:ウィキペディア)
chance favors only prepared minds (グーグル翻訳)
幸運は、準備していた者にしか訪れない ー ルイ・パスツール
It was a matter of good luck to have been in the right place at the right time, trying to do the right thing, first alone, and then with the right students and collaborators. (クルト・ヴュートリッヒ 2002年ノーベル化学賞受賞 peerj.com)
Everybody in science works very, very hard, and everyone makes important contributions, and you’ve got to be lucky to make a contribution that also has a medical or clinical impact.
In some sense that’s the skill of choosing, and in another sense that’s the luck of being at the right place at the right time. I’ve always felt that I’ve been at the right place at the right time. (Arnold Levine がん抑制遺伝子p53の発見者 rockefeller.edu)
17万光年離れたところに存在する銀河、大マゼラン星雲の中で起きた超新星爆発により発生したニュートリノを検出したことにより2002年ノーベル物理学賞を受賞した小柴博士は、運がよかっただけではという言われ方をされたときには、こう言い返したそうです。
「あのニュートリノは地球上の60億の人たちみんなに降り注いだんだ。それを見つけられたのはちゃんとその準備をしていたからだ」(小柴 昌俊)(引用元:NIPPON STEEL MONTHLY 2007)
大谷選手も夢を達成するための「運」の必要性を高校時代に認識していたようです。
2.褒められるのが嬉しいからという理由で道を選ぼうとしてはいないか?
子供の頃からもともと勉強が得意で、しかも親や周りが褒めてくれるのが嬉しかったからという理由で研究者への道に進もうとしている人は、一度立ち止まって自分自身に問い直したほうが良いでしょう。
勉強を頑張ると親とか先生に褒めてもらえたり、同級生から「すごいねー」と認めてもらえたりするので、中学・高校の時は嬉々として勉強していました。もう、テストで点数を取るのが楽しくて仕方がありませんでした。大学に合格してからも、最初の学期はせっせと出席して、真面目にレポートを書き、AやAAを集めていました。ところが、良い成績をとっても、もう誰も褒めてくれる人がいないことに気づきます。(承認欲求は強すぎると自分も周りも疲れる。|承認欲求との付き合い方 2019年6月21日 UTENA BLOG)
Q:承認欲求が研究の第一のモチベーションになっていないか? MESSAGE→他人からどう思われるかではなく、自分が自分の研究をどう思うかが大切。(『なぜあなたの研究は進まないのか』 佐藤雅昭 著 メディカルレビュー社)
価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない。その表現の仕方が研究だろうと、スピーチだろうと、絵画だろうと、価値の判断基準は常に自分の内部にあり、その基準に基づいて自分の考えや思いを外に問うのが表現だ。 …
君がもし表現者になりたいのだとしたら、精神的な背骨を手に入れる必要がある。それはどんなものでも良い。私が君をどう思うかではなく、君が君をどう思うかそれが重要だ。(価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない 発声練習)
3.大学までの勉強と、大学院における研究との違いを理解できているか?
教科書から学ぶ立場だったのが、教科書に新たな1行を書き足す立場にまわるのだという自覚が、まず必要です。
「大学院に行くなんてよほど勉強が好きなんだね」と言われたときには
「今までの勉強が〝教科書を読む”ことだとすると、大学院の勉強はいわば〝教科書の中身を作ること”なんですよ」
と説明している。この比喩で納得してくれる人はけっこう多かった。
— Nerco (@vmeitsmainc) August 24, 2024
下の動画は、必見です!研究に向く人向かない人が、とてもわかりやすくまとめられています。
須藤 靖「科学の役割と物理学的世界観」(2017年度学術俯瞰講義「物質のはじまりとはたらき ―フェムト、ナノ、エクサの世界」第1回) 2020/04/14 OCW UTokyo
難しいのは、勉強の出来る優等生への指導ですね。彼らは勉強と研究を混同してしまいがちなので。知識が豊富なせいか、新奇性の高い研究には後ろ向きになってしまうようです。
「今の研究テーマをデータベースで検索したら、ほとんどヒットしませんでした」と不安そうに訴えてくることも。ほとんどジョークのような話なのですが、本人は至って真剣。先人達が切り開いた道をなぞるのが「勉強」で、新しい道を切り開くのが「研究」だと言ってもすぐにはピンときてくれない。(【特別鼎談】博士後期課程から社会へ -三者の歩んだ奇跡ー Part 2 博士の選択)
優秀な学生でも、しっかり訓練されたサルと変わらないやつがあまりに多すぎる。教わったことはなんでも知っている。ーーーだがそれだけなのだ。(数学者ショレム・マンデルブロ Szolem Mandelbrojt 1899~1983 ベノワ・B・マンデルブロの叔父)
(引用元:参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 239ページ)
どんな真理も、ひとたび発見されてしまえば理解するのは簡単だ。問題は、発見できるかどうかである。(ガリレオ・ガリレイ)
All truths are easy to understand once they are discovered; the point is to discover them. Galileo Galilei
Tutte le verità sono facili da capire una volta che sono state rivelate. Il difficile è scoprirle. Galileo Galilei
長い間学校教育を受けていると、すべてのことに、正解があるのだというような錯覚におちいるのは、収斂能力だけを磨かれているからである。そういう頭で、満点の答えのない問題に立ち向かうと、手も足も出なくなってしまう。自分の考えを打ち出すことはできないが、教えてもらった知識を、必要に応じて整理するのは巧みであるという学習者が優等生として尊重される。グライダー人間である。(外山滋比古『思考の生理学』ちくま文庫1986年 p207 拡散と収斂)
「研究をする」ということは,どういうことだか知っていますか? 今までやってきた(使ってきた)「勉強する」とは,どこが違うのでしょう。
大学院は,主に研究をする場所ですので,これに対して答えられないのならば進学はやめておいたほうが無難です。なぜなら,入学した早々から,「私は何をすればいいの」というドツボにはまってしまう可能性が高いからです。
(大学院のことなど 院希望者,院生へのお説教 nanzan-u.ac.jp/~urakami)
小学校
「求めましょう」「全部で何個ですか?」「計算しましょう」中高
「書きなさい」「全て選びなさい」「答えなさい」大学
「表せ」「導け」「示せ」大学院
「なんかやれ」— 武田 紘樹 (@tomatoha831) May 24, 2024
3年生までの学生実験は、テキストがあり、そのテキスト通りに実験をすれば、事前に確かめてある実験結果が得られる訳ですが、研究室での実験は全く異なります。
うまく行くか、どうかわからない実験をするのです。むしろ、大半が失敗する実験です。研究を進める上での目標があり、その目標に向かって試行錯誤するのですから、失敗して当然(目標が達成できないことが、ほとんど)であり、どれだけ手を動かして、どうすれば目標を達成するのか考え抜いていくのです。
実験が失敗に終わってショックを受けている学生に言いたいことといえば、ショックに浸っている暇はないこと、次の考え抜いた実験がうまくいくと信じきれる事、それを失敗しても、次から次へとアイデアを生み出すこと、こんな環境が、理系の研究室だと思います。(日本大学文理学部物理学科研究室 十代研究室ウェブページ)
自分は過去の天才たちが考えた過程をトレースするのが好きなだけで 誰も知らないことを追求するのには向いていないんだと思う。 (僕は中学受験の頃から算数が好きだった はてな匿名ダイアリー)
論文や資料を見て、他にも同じような製品の研究をしている奴がいたといって安心しているようではダメなのだ。他にもいるということは、とりもなおさず独創性にかけるということなのである。それよりもむしろ、誰もとりかかっている者がいない、自分一人がやっているようだという認識に立った時、むしろそれを誇りに思うべきなのだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 p26)
勉強は「既にわかっていることを勉強する」ことで,一方,研究は「まだわかっていないことを研究する」ことです.このことは何を意味するかというと,勉強ができない,嫌いだからと言って研究者になる道を諦める必要はなく,逆に,勉強ができるからと言って優秀な研究者になれるとは限らない,ということです.(勉強と研究 似て非なるもの 境有紀のホームページ)
数学オリンピックで金メダルを獲得しても、数学の研究における成功が約束されているわけではないと、先述したハーバード大学のマクマレンは言う。「こうしたコンテストでは、すでに誰かが巧妙な解決法をもっている問題を入念につくりあげている。だが、研究においては、問題に対して解が存在するとは限らない」。(とびきりの想像力が、女性初のフィールズ賞数学者を生んだ:マリアム・ミルザハニ WIRED)
研究者からみれば、学部生までは勉強にすぎなくて、大学院ではじめて研究に触れるー未解決問題の問題解決能力をトレーニングするーのだということがあまり知られていないですね。だからこそ博士の教育はすごく大事で、一般的価値があるのだという認識も広まってほしいです。@masahirono
実際にアカデミアで成功する人は”下克上を生き残る戦国武将” or ”金儲けの達人”といった過酷な競争を生き残れる能力者です。つまり、どこに研究の種があり、どのタイミングで飛びつくかを虎視眈々と狙っている感じ。…この才能には学歴はほとんど関係ありません。例えば、成功した起業家に学歴を問うのはナンセンスなのと同じです。(研究者としての適性 ぽろっ all or something)
「問題解決力」という言葉からは、「問題はどこかから・誰かから与えられる、それを解決する」というような意識を感じます。おそらく、大学受験、大学院受験までは、そういう能力を鍛えるように訓練されているのだと思います。でも、大学院以降は、一流の研究者になるためにも、博士号取得者として違うキャリアパスを目指す場合も、「<問い>を立てる力」つまり「問題発掘力」や「問題設定力」が重要なように思います。(価値ある博士号取得者に必要なのは「問題解決力」以上 大隅典子の仙台通信)
研究者としては、実際に計算したりする能力よりも、新しい問題を見つけ出す能力、つまり企画力が重要になることが多いのです。(素粒子論研究室に興味がある人の為の良くある質問集 hokudai.ac.jp)
一般的な意味では優秀と呼ばれるような人たちが研究生活をドロップアウトしていく理由…
それは、こうした人々が「答えのない問い」に対して非常にアレルギーというか、苦手意識をもっているのではないかということです。…
答えのない世界というのは例えば、いま自分が解こうとしている問いにそもそも適切な答えがないかもしれないという可能性を排除できないまま、何年にもわたって実験を繰り返していくということだったりするのですね。…
本来科学者とは、こうしたことに対してむしろワクワク感とか知的な興奮を味わう種類の人種であって、はなっからやり方がわかっているようなことなどには見向きもしないという性質をもっている人たちなのです。…
答えのない問いに対して魅力を感じるかどうかというのが、研究の向き不向きを決めるリトマス紙になるというのが私の考えです。(研究に向く人と向かない人を見分けるためのたった一つの質問 ポスドク転職物語)
卒論と修論で先生の言うとおりにしかできない人なら、研究者としての能力は無いと判断できます。先生に言われなくても研究をどんどん進められる、或いは言われたこと以上の成果を出せる、というような能力が無ければ研究者としてはやって行けません。(研究者の向き不向き 発言小町)
博士課程はもともと『教育制度』ではありません。ここにはいれば指導教授にしかるべき教育を受け、『卒論として博士論文を書き、これがパスして博士の学位をもらえる』という『教育の仕上げ』ではもはやありません。 ここでは基本的に自分で研究して(当たり前!)、独創性豊かな研究成果を上げるのです。(2015-07-12 大槻義彦の叫び)
研究者の能力は、1つの研究テーマをまとめて論文にしてはじめて評価できます。1つ2つ実験をしてうまくできる、できないは研究者の能力とは言えません。本当に研究者としての能力を見たいなら、最低自分で論文を書くところまでして考えましょう。(九州大学 釣本先生の進路相談室)
どのような方法で解答にたどり着くことが出来るのか,そもそも解答は存在するのかさえも分からない問題にアタックするのが「研究」です。だから,「先生はきっと解答を知っているのだろうから,困ったときは先生に相談して,教えてもらおう」というメンタリティーでは,研究者には絶対になれません。 (小川研究室のアドミッションポリシー)
学生実験は「上手くいくのが普通」、研究は「上手くいかないのが普通」。つまり、毎日毎日、朝から晩まで、失敗を重ね続けることになる。当然、失敗を糧に して改良・改善をするけどね、そう簡単にはいかない。マジで精神的に参ってしまうのでは、と思ってしまう。このプロセスに馴染めない学生は、研究をやるのに向いていない。(成績は優秀だが「研究に向いていない」学生のタイプ JCAST 会社ウォッチ)
博士に必要なことは未解決の課題に挑戦して、失敗を重ねるうちにこうすれば良いという解決方法を見つけることです。それを論文にして発表させる、というのが私の教育法でした。博士は失敗の連続に耐えられる強さを持っていないといけません。研究は失敗するのが当たり前だからです。 (「大学はもっと元気を 政府に言うべきことはきちんと」第2回「博士の育成・就職は教授の責任」元総合科学技術会議議員、元東北大学総長 阿部博之 氏 JST Science Portalインタビュー )
他人の数学がよくわかるという能力と、自分の数学が創れるという能力は、あまり相関が大きくないようである。 …
学校で教わった流儀ではどうしてもわからなかったので、自分流にわかるように務めたら、このような仕事ができたといわれる大数学者は少なくない。(小松彦三郎 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 139ページ)
臨床のお医者さんは、ある程度知識が揃っていないとダメなんですが、研究者というのは必ずしも全部の知識が必要ではない。生化学者だって、生化学の教科書を全部知っている人は何人もいないでしょ。1ページか2ページ知っていればそれでいい。(早石 修 第10研究室 研究者の向き/不向き われら六稜人【第26回】科学を志す人のために )
たとえば半導体の開発をしている時、物理畑の人から見ればとても迂遠なやり方をしていると思われたとしても、それを何とも思わなかったということだ。かえって専門知識がない方がうまくいく場合だってあるのだ。 …
普通なら専門家に馬鹿にされるようなことでも、私は平気でやれた。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 pp31-32)
幸いなことに私には常識などというものがなかった。だから、別に量子力学など学ばなくても、半導体は理解できると考えていたのである。それはどういうことかというと、要は、量子力学に代わる別の「言語」でもって物の性質を理解してやればいいということだ。
では、別の「言語」とはいったい何なのか。私にとってそれは、実験結果以外の何者でもなかった。実験結果を深く深く考えること。これが私にとってのものを理解する道具だったのだ。(同 p76)
理論物理に向く人向かない人
ざっくり言えば、基礎方程式を出発点にしてそこから生み出される多様性に興味を持つ人が工学系向き、一方で、その基礎方程式は一体どこから来たのか、あるいはほかの別な基礎方程式と何か関連はあるのか、もしやそれら2つをいっぺんに導けるようなもっと基礎的な法則があるのではないか、と疑問に持つのが理学系向きと言えます。
ひとつの問題をじっくり考えること、あれを思い出せは解けるはずと思ったら、それを思い出すために自分がわかるところまで戻り、ひとつひとつ導いて思い出す、そういったプロセスが重要になってきます。それと同じくらい大事になるのが、疑問からあれこれ考える一連のプロセスが好きか嫌いかです。
また物理の中でも理論物理学を専門にしようとするならば、量子力学を学んだ時の印象が一つの基準になります。量子力学は古典力学で培った物理的直感は違った概念を与えます。その議論を正確に展開するために、線形代数や複素関数などの数学をフルに使います。これまでにない新しい概念、あるいは原理から出発して数学的な整合性を利用して計算を行い、物理現象の予言を行う、そういったプロセスがしっくりくるかこないかは、理論物理向きかどうかの判断の材料になると思います。(hep.s.kanazawa-u.ac.jp)
4.良いメンター(師匠)を見つけられるか?
本人の能力がどれほどあったとしても、それを発揮し、伸ばす環境に恵まれないと研究者としての成功はおぼつきません。「良いメンターを見つける」は、「指導者がいる研究室に大学院生として入る」と、ほとんど同義だと思います。大学院がいまひとつだった場合には、おくればせながら、「良いメンターを見つける=良い研究室でファーストポスドクをする」ということになろうかと思います。しかし、外から見たそのラボの教授と、中に入ってみた場所から見えるそのラボの教授の人物像が大きくかけ離れていることもあるため、ラボ選びは博打的な要素があって大変難しいものです。人間と人間なので相性の問題もあり、特に人間的にクセのある教授(ボス)だった場合は、他人にとっていいボスが、自分にとってもいいボスとは必ずしもいえません。もちろん人柄的に、誰にとってもとても良いボスという人もいます。
メンタルがおかしいヒトがphDを目指すのかと思ったら、普通のヒトがphDを目指してメンタルがおかしくなるらしい#目から鱗 https://t.co/bZVAoDUYhZ
— ウンポコダマシス2世 (@5G6NjJhn6s92484) September 22, 2024
指導教官は、論文を僕に書かせる必要性を感じていなかったようだし、いろいろな申請書の添削のときも僕の科学的思考の欠陥を指摘せずに優しく?してくれたし、とにかく毎日実験室で実験することを僕に最優先させ、‥ (せっかくの博士課程が無駄になった気がする 2023年4月15日 18:23 塩 note.com)
「師に仰ぐならノーベル賞級の人の下に就け。研究者としての君の将来は、全く違ってくるはずだ」(元 東大総長 有馬朗人 氏の言葉 / 林周二 著「研究者という職業」)
研究というのはノウハウです.あなたがいかに優秀であっても質の低い研究室に入ったらよい研究はできません.(学生時代をどう過ごすか – 京都大学 物理 篠本 滋)
ただ一つ確信的に言えるのは、大学院は、「どこの大学、どこの研究科」に入るかよりも、「誰のところで、何をするか」に尽きるということである。だから、大学院選を選ぶときには、事前に、自分が何をやりたいのかをよく考え、師事したい先生と直接会って考えを聞くことが必須である。(大学院で何を学ぶか、何を教えるか、、と言う話 こんどうしげるの 生命科学の明日はどっちだ!?)
残念ながら、研究者として成功するための十分条件を明確に規定することはできません。しかし、その必要条件は明らかです。それは大学院生時代を過ごすラボは、一流のラボに行け、ということです。大学院生のときの教育がその人の科学者としての基盤を形成することは明らかです。 (「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』 九州大学 教授 中山 敬一)
優れた(自然科学系の)研究者になるにはどうしたらよいか? … 結局は,かの久保田競先生が10年以上前に書いた次の一文に全てが集約されている(久保田競編 『脳の謎を解く』(朝日文庫,1995)より抜粋)。 よい指導者の大学院へ進んで院生になり,研究の訓練,指導を受けて,よい学位論文を書いて発表することです。これがよい脳研究者になる一番の近道です。しかも,唯一の道といってもよいほどで,他の道は限られています。よい指導者ではない脳研究者の大学院生となって指導を受けて,よい研究者になれる確率はほとんどありません。 … この文章は「優れた脳研究者になるには?」というタイトルの文章中の一節だが,脳研究者に限らず,自然科学系研究者に広く通じるものである。 (優れた研究者になるには 脳科学者はかく稽ふ)
私が受けていた彼の講義の最後に口述試験があり、彼はAをくれてこう告げた。「君は私のもとで博士課程に進むべきではないと思う。私への尊敬の念がたりないから」。(パコ・アクセル・ラゲルストロム(1915-89)が博士指導教官を探していたベノワ・マンデルブロに言った言葉)
引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 210ページ
若い研究者にとって、何よりも大切なのは、メンターの選択です。研究経験が豊富で、面談、資金の提供、研究者の紹介の労を厭わず、創造性や独立性を尊重し、学会発表、論文、研究費申請で若い研究者を立ててくれるような指導者を見つけられるかどうかが研究者としての将来を決定すると言っても過言ではありません。
引用元:Hulley, Cummings, Browner, Grady, Newman. Designing Clinical Research. 4th Edition. 医学的研究のデザイン 第4版 木原&木原 訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2014 25ページ
5.人一倍強い好奇心があるか?
(動画12:29~) 科学研究で成功するために必要となる条件は何でしょうか?
スティーブン・チュー:一番大切なことは、興味を持つということです。心からの興味を持っていることが必要です。好奇心がなければなりません。
Steven Chu: Well, I think the first thing is they have to be interested in it. They have to be genuinely interested. They have to have some curiostiy.
Steven Chu – Conversations with History (Uiversity of California Television (UCTV) YOUTUBE 57:14)
研究者になるということにおいて一番重要なのは、やはり、何か知りたい、不思議だなという心を大切すること。それから、教科書に書いてあることを信じないこと。常に疑いを持って、本当はどうなってるんだ?という心を大切にする。つまり自分の目でものを見る、そして納得する。そこまで諦めないこと。(参考:本庶佑 京都大学名誉教授・特別教授のノーベル賞受賞記者会見【動画&書き起こし】)
やはり第一条件は好奇心旺盛だということでしょう。あとは根詰めて考える力や簡単にはあきらめない粘り強さが必要。それは、普段まじめに勉強することである程度身に付くと思います。
あとは、コミュニケーションの能力もかなり必要ですね。問題はそこからうまく閃いてくれるかどうかという所なのだけれども、そこはコミュニケーションをたくさん積み重ねることで出てくるものだと思います。資質というよりは訓練して身につけるという感じがありますね。 (野本 憲一 教授 天文学専攻 専門:宇宙化学進化論 学生必見!! 東大教授の素顔に迫る!)
「これを研究したい。卒論のテーマにしたい」と思ったけれど、何をどうしたらいいのか、全く分かりません。そこで、学科内の先生方に相談して回ったんです。すると先生は全員がこう言いました。「無理、無理。マナティーなんて日本にいないし、希少動物はそう簡単に手を出して研究できるものじゃない」。
「いやいや、あなたには無理でも私には無理じゃない」と、私は思っていました。だって、無理とおっしゃる先生方は、やったことがないんですから。(周囲に「無理、やめろ」と言われ続けた36歳の研究者 2018年7月12日 wol.nikkeibp.co.jp)
私が研究者に必要だと考える資質はたったひとつです。それは、「まだこの世界のだれも知らないことを、自分の手で明らかにしたい」という欲求です。これを備えた学生であれば、研究室に入りたての時に多少論文読むのが下手くそでも、当初与えられたテーマをぜんぜん自分のものにできていなくても、指導者の力次第で、「研究によって新たな発見をし、それを発表する」ことを自力でできるレベルまで持っていけると考えています。 (自分は研究者に向いていない? 〜研究者に必要な資質とは〜 つなぽんのブログ)
今の学生は設備がないと研究できないと言うけれど、そんなものなくてもできるんですよ。要はアイデア。そして、本当にやろうと思う熱情ですね。情熱を超えた熱情です。
情熱があれば一定のところまで行けるけれども、物事を成し遂げるためには、どうしても自分でやってみたいという心の底から湧き上がってくる熱情が必要です。
僕が取り組んだ問題も、60年以上も多くの研究者が取り組んでうまくいかなかったテーマですから、情熱だけじゃ足りません。うなされるような取り組みが必要ですよ。(変わらない熱情で、中胚葉へと変わる過程を見る 浅島 誠 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー)
いろんな資質が必要かもしれませんが、私自身が一番大事かなと思ってるのは好奇心じゃないかと思いますね。…研究ではやっぱり「何をやるか」が一番大事じゃないかと思うんですね。…
この「何をやるか」。それがまず分かれ目じゃないかと思います。…
「How」の前にやっぱり「What」が一番大事じゃないかと思います。そこが分かれ道。これをそこの前の青色LEDっていうのは一番最初に言いましたが好奇心がそこに来るということではないかと思います。 だから好奇心が一番大事な資質かなという気がします。実際には、「What」が大事で、その次に「How」が来る。そういう具合に考えるんです。(赤﨑勇氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー )
私も好奇心というのが非常に大切で。私の最初の実験のお話をしましたが、本当に簡単な実験で、どうでもいいような実験なんですけれども、血圧を上げると思っていた薬が逆に思いきり下げた。
そのときにやっぱり人間のタイプが2つに分かれると思うんですね。どっちもいいと思うんですが、「予想どおり血圧が上がったら非常にハッピー な人」つまり、予想が外れたらがっかりしてしまうタイプと、そうじゃなくて、予想どおりだったら「まあこんなもんか」と思って、逆のことが起こったときに ものすごい興奮するタイプ。こっちが僕なんですけど、この2つに大きく分かれると思うんですね。 …
でも僕は明らかに後者だったんですね。 そのときに自分は研究者、研究をやっていこうと思いましたから。だからやっぱり、好奇心だと思うんです。「なんでこんな予想が外れたんだろう?」という好奇心が、自分でも予想以上にあったので、そのあとずっと研究してきましたから。 やっぱり研究者というのは向き不向きがあると思います。そういう意外な結果に興奮するかどうかというのが、1つのものさしじゃないかなと思います。(山中伸弥氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー )
医者は決められたことをものすごく正確に確実にやるのが仕事で、突飛なアイデアがあったとしても、すぐには試してはいけない。研究者はその逆で、ちょっと変だろうが自分の閃きから新しいことを生み出すのが仕事です。(未知なる「オートファジー」を解明する~臨床医から転身した異色の研究者~基礎医学研究者・水島昇さん SEKAI INTERVIEW 23 )
優秀な研究者の最も顕著な特徴は、特定の学問に執着する熱意です。人一倍の熱意があれば、どんなに業績が少なくても、後に大化けする可能性があります。「この分野を極めたい」と強く思い続けられることは、それ自体が貴重な能力なのです。 逆に、特定の分野への執着がないという人は、たとえ優秀で何でもそつなくこなせたとしても、あまり大成しません。(College Cafe by NIKKEI 研究者という職業(2)どんな人が向いているの? 「マニア」ではダメな理由 authored by 中田亨 産業技術総合研究所主任研究員)
6.自分の頭を使ってものを考えているか?
指導教員の言うことをなんでもかんでも聞いているようでは、はっきり言って研究者じゃないよ。そりゃ成果も出ないでしょうね。この部分は正直、指導教員のタイプによるところもあるけど、指導教員があるていど暇で手取り足取り逐一指導してくるタイプじゃない限り、必ず行き詰まる。だって自分で考えてないもの。(勉強」しかできない優等生は研究に向いてない。2017年6月20日 リケジョゆうきの活動記録)
実験や研究のことが何もわからない初心者の学生の場合、かつ、指導者が本当の意味で非常に教育的な場合は、指導者の言うことを何でもよく聞いて、それが多少不合理な内容を含んでいたとしても言われた通りに実行するということが最も望ましいという段階があります。
「素直」であることと「自分の頭を使う」ということが一見相反するように思える場面もあるのですが、両方とも大切なことです。
自分自身でモノを考える力 これさえあれば後に述べる資質は全て時間の経過と共に身につきます。修士と博士を分ける境界はここにしかないと考えています。この力がないと、どこかで研究者として行き詰まります。 (大学の研究者になりたい人たちへ 暮標)
最後に一つだけ伝えたいことを選ぶとするなら、「自分の頭で考えて欲しい」ということです。最悪なのは何も考えず、言われたままに流されていく生き方です。(春から研究室に配属される理系新四年生のための心得 ミームの死骸を待ちながら)
「本に書いてあるから正しい」「先生が言ってるから正しい」という受け身の姿勢を「自分の頭で考えて自分が正しいと判断したから正しい」という自立の姿勢に切り替えその判断の根拠をきちんと言葉にして他者の下に開く (セミナーの意義 数学書の読み方について 竹山美宏)
教科書に書いてあるから正しいとか,偉い先生の話だから正しいという概念を壊して,自立的に(勿論,独善的にではなく,客観的な根拠を揃えて)正しさを判断できるように育てることが教育の究極的な目標だと思う。見栄えではなく,中身を適正に評価する力が大切だよ。それが足りない大人が多い。
— 吉田弘幸 (@y__hiroyuki) 2019年3月12日
「論文のとおりやったのに、できません」でおしまいなのである。それで平気な顔をしているのだ。さも、自分はきちんと言われたとおりやったのに、できないのは論文が悪いのだと言わんばかりだったのだ。
これに対して、地方大学の落ちこぼれは、私が論文など読む必要がないと言うと、その通り読まなかった。そして、私と適当に会話しながらp型半導体を作り上げてしまったのある。しかも、論文などに書いてはいないような方法で完成させてしまった。
私はすでにその作り方を想像していたわけだが、彼は私の発想を会話の隅々で直感することによって、つまり勘を働かせてp型半導体の作り方を学んでしまったのだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 p213)
博士課程に限らず人生のほとんどはこれだよな。 pic.twitter.com/4Fip13cgeG
— ひろさわ (@hirosawa1230) June 18, 2023
真実を捜し求める者というのは、古い書物から学ぶ際に、書かれていることを性格的に信頼してしまうような人間ではなく、むしろ、自分が書物を信じてしまうことに疑いを持ち、書物から集めた事柄に問いかけるような人間である。
論拠や実演には従うが、あらゆる種類の不完全さや欠陥でいっぱいの人間の言葉には従わないような人間である。このように、科学者の書いたものを吟味する人間の義務というのは、もし真実を学ぶことが目的なのであれば、読んだこと全てを敵にまわすこと、書かれた内容の中核および周辺に注意を向けながら、あらゆる側面からその書物に挑むことである。
また、読んだ内容を批判的に吟味する際には、自分自身を信用しないようにしなければならない。そうすることにより、偏見や甘さに陥ることを避けることができよう。(イブン・アル=ハイサム, 965-1040 訳:当サイト)
The seeker after the truth is not one who studies the writings of the ancients and, following his natural disposition, puts his trust in them, but rather the one who suspects his faith in them and questions what he gathers from them, the one who submits to argument and demonstration, and not to the sayings of a human being whose nature is fraught with all kinds of imperfection and deficiency. Thus the duty of the man who investigates the writings of scientists, if learning the truth is his goal, is to make himself an enemy of all that he reads, and, applying his mind to the core and margins of its content, attack it from every side. He should also suspect himself as he performs his critical examination of it, so that he may avoid falling into either prejudice or leniency. (イブン・アル=ハイサム, 965-1040. https://en.wikiquote.org/wiki/Alhazen)
「君、何でもちょっとずつよう知ってるね」と言われ、ものすごく傷つきました。それを契機に、自分でアイディアを考えることが重要だと気づきそれに専念する事にしたのです。(常に問いを立て続けて—免疫・嗅覚・そして次は 坂野 仁 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー)
いざ研究をやめる事にしようと思ったとたん、悔いの残る研究生活だったということに気がつきました。それまで自分で主体的に研究について考え、なにかアイデアを思いついてそれを展開させるというようなスタイルでは研究活動を行ってきていませんでした。
「どうせ研究生活をやめるのであれば、その前に一度自分の思うとおりに実験してみよう。それでだめなら、それまでよ」そんな開き直った、なかばやけっぱちな気持ちで、何かを自分で考えて研究することにしました。…
こうした論文をさかのぼる作業によって、ある種の興奮状態にある私は、ふと「もしも今の自分がその時代に存在していたら・・・」と夢想を始めたのです。…
実験の詳しい手法や過程は述べません。結果としていくつかの新しい発見をすることができました。(自分で考えればおもしろくなる 広島大学 古本 強 研究者への軌跡)
わからないことに挑み、新しい原理を見つけていくのがサイエンス。そのためには、現状を知って、突き詰めてものを考ていく。そうすると、案外パーンとあれっと思うようなことが出てくる。それには相当考えなければだめ。考えることに尽きます。
新しい側面が少しずつ解明されて、ある時ようやく全貌がわかってくるのであって、それまでは雲の中です。だから、見つけた現象を自分のもっている知識全部で説明できるかどうか。説明できないとすると、どこに問いがあるのか。それを一つ一つ明らかにすることが基本ですね。そうやって全然予期せぬことが見つかった時は、本当に興奮します。それを一度経験したらやめられない。(自分の頭で考える ~ウイルス研究からがん遺伝子の発見へ~ 花房 秀三郎 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー)
そのような苦境下で、ふと気付いたのが自分の素朴な考えを大切にし、自分独自に考えるということでした。おもしろいことにそれを契機にして、自分なりの研究の組み立てや、結果の考察が楽になり、優れた学問とはいかなるものかが徐々にわかるようになりました。
そして、自分の個性的な考えを日毎にレベルアップし、万人が認めるまでに高めることができれば、それは立派なサイエンスであることと、自分と他人の考えを明確に区別し、決して追従しない誇りがサイエンスには大切であることを悟りました。(半田 宏先生からのメッセージ 半田 宏 東京工業大学 生命理工学部 生命科学科、生命工学科 「東日本大震災」復興と学び応援プロジェクト 今こそ、学問の話をしよう あらゆる学問分野で活躍する大学の先生たちから、中高生へのメッセージ わくわくキャッチ河合塾)
7.コミュニケーションの大切さを理解しているか? 人と関わることの重要性を認識し、実践できるか?
一人前の研究者になるために必須、と考えるのはディスカッションの力だ。人とディスカッションをすることで、自分の論理は正しいのか、どんな修正が必要なのかを明らかにできる。(研究は情熱と覚悟でできている 国立遺伝学研究所 教員インタビュー 荒木 弘之 教授)
他人と関わるには動かねばなりません。学会や研究会、勉強会など人が集まる場にコミットする必要があります。研究室に居るだけでは、あなたを知るのはあなただけです。
「コミットする」とは、参加だけを意味しません。討論で質問したり、懇親会で話をしたりを含みます。そこであなたの存在は他人の記憶に刷り込まれます。他人に認知されて初めてあなたは何者かに成るのです。(どうすれば大学教員になれるか 長束・鈴木研究室 ブログ)
研究は独力で進展するものではありません。実験研究や製品の開発研究では共同研究者たちと一緒に研究したり、チームを作ってシステマティックに進めたりし ます。
ひとり黙々と頭の中で考える理論研究でさえ、他の研究者と多面的な議論をすることは研究を深化させるのに役立ちます。理論家と実験家のコラボがとて も重要で、その成果の論文が高く評価されます。
どんな種類の研究でも、指導者、助言者、先輩、同僚、共同研究者、後輩、部下、学生、ときには競争相手などとの付き合いは不可欠です。その良否が研究の成否を決めると言っても過言ではありません。(研究者としてうまくやっていくには 長谷川修司 ブルーバックス )
いまから考えると、まことに赤面のいたりだが、教養部時代のある日、アポイントメントもなしに、木原先生の研究室のドアを突然たたいた。…
「私は遺伝学にたいへん興味をもっているが、率直な感想を申し上げますと、私は遺伝学はもうすることがないんじゃないかと思います」と一席ぶったのだ。…
木原先生は机に向いたまま、黙って私の言葉に耳を傾けていたように見えた。ややあって、ふっと顔を上げると、「君、なんていったっけ?志村くんか。そんなことはないよ。遺伝学は終わりじゃないんだ。むしろこれから出発するんだよ」と答えてくれたのだ。
訳のわからないことをほざいた私のような学生に向かって、木原先生のような高名な先生がよくまともに応対してくれたものだと思う。先生はさらにこう付け加えてくれた。
「これからの遺伝学は、物質のレベルで遺伝子の正体とか働き方というものを解いていくことになっていくと思う。そういう遺伝学はまだ全然なされていないから、君はその方向に進んでみたらどうかね」(私のサイエンス・スタイル「直感的創造力」志村 令郎 JT生命誌研究館 サイエンティスト・ライブラリー)
8.競争に勝つマインド(心構え)があるか?
サイエンスというのは、最初に発見した者だけが勝利者なんです。発見というのは、一回だけしか起こらない。同じものをもう一度見つけても、発見とはいわな いんです。
一ヶ月のちがいでも、一週間のちがいでも、早い方だけが発見なんです。サイエンスでは二度目の発見なんて、意味がない。ゼロです。だから競争は熾烈です。(精神と物質 立花隆 x 利根川進)
1954年5~6月頃、楊振寧、ロバート・ミルズとは別に一般ゲージ理論の研究を完成させ、京大基礎物理学研究所で開催された小さな研究会で口頭発表していたが、1954年10月の楊(ノーベル物理学賞受賞者)とミルズの論文に対して発表が遅れたためにプライオリティは得られなかった (内山龍雄 ウィキペディア)
研究の現状は、フロンティアめざして進む西部開拓者のようなものである。所有権のない土地を誰よりも先に見つけ、発見したあとは他人に侵されないよう垣根を作り、侵略者がいれば実力でもって追い出さなければならない。どれ一つとして気弱ではつとまらない仕事である。(小松彦三郎 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 139-140ページ)
SHO-WORDS 言葉でたどる大谷翔平の軌跡https://t.co/Qz49hQwRbB
「野球を始めてから今日まで、1位以外を目指したことはない」
正式発表されたWBC初参戦。2017年の前回大会は右足首のけがで辞退していました。会見で、大谷は栗山監督と共に意気込みを語りました。
#WBC #大谷翔平 #showords pic.twitter.com/JYmyzv4Iej
— 朝日新聞デジタル (@asahicom) March 6, 2023
9.頑張ってしまわないか?
強い意思を持って困難に当たるというような力の入ったことでは、遅かれ早かれいずれ力尽きる。むしろ、なによりも研究が好きで、客観的には大変な困難な道を歩いているように見えても、本人はそれを困難だと感じないというぐらいでなければ続かない。(研究者になるには Taka Matsubara, Nagoya Univ.)
グロタンディエクの数学に賭ける執念、バイタリティーはすさまじいものだった。 …
人から見ると血と汗のしたたるような苦労をしても、一度として彼は、苦労を苦労として感じたことはなかったのではないか。 …
人は、何かに夢中になっている時は、たとえ苦労であっても、苦労を苦労と思わないのだ。(広中平祐『生きること 学ぶこと』 集英社文庫 1984年)
10.周りで何が起きようとも研究に没入し、解決すべき問題に集中し続けることができるか?
#湯川秀樹「原子核、量子電気力学ノコトヲ 一刻モ忘レルナ」「自己ノ全力ヲ自己ニ最モ必要ナル事柄ニ集中セヨ」「新シキ時代ノ代表者トナレ」「明日カラ、夕食後モ学校ニ居ルコト」「九月中庭球絶対ニヤラヌ」https://t.co/M14qNtiIhm
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) February 2, 2024
If I have ever made any valuable discoveries, it has been owing more to patient attention, than to any other talent. (Isaac Newton)
やっぱり研究には、朝から晩まで時間をとられるんで、両立は無理だね。特に能力のない者はね、時間で稼ぐしかないんで。(戸塚洋二先生の「二十歳の頃」)
「朝起きた時に,きょうも一日数学をやるぞと思ってるようでは,とてもものにならない。数学を考えながら,いつのまにか眠り,朝,目が覚めたときは既に数学の世界に入っていなければならない。」(佐藤幹夫)(数学は体力だ!木村 達雄)
起きている時間は、ほとんど全部、科学のことを考えています。九時から五時までの職業とは違いますから。科学者として成功するためには、本当に、時間のある限り考えぬいて、眠っているときにさえ、無意識のうちに問題に挑み続けていることを願わなくてはなりません。
答えが出るまで、まるで獲物に食いついて放さないテリアのようなものです。これは、人を完全に没頭させる、一日二四時間の職業です。 (マイケル・バーリッジ (細胞生物学者) の言葉『科学者の熱い心―その知られざる素顔』[pp.276-277] より 「気ままに創薬化学」)
The only thing that kept me going was that I loved what I did. – Steve Jobs (Stanford commencement speech 2005)
私が知っている「幸せで成功している人」というのは、好きなことを仕事にしているだけではなく、自分の仕事に心を奪われているんです。 …
犬とテニスボールで遊んだことはありますか? テニスボールを手に持って見せただけで彼らはものすごく興奮します。そして投げた瞬間興奮して走り出し、ボールに向かって一直線、リードが持っていかれたりしますよね? そう、これが幸せに成功している人々の姿です。皆さんもこんな気分になれるものを見つけて欲しいと思います。(「人生のコツはたったの3つ」Dropbox創業者ドリュー・ヒューストンの卒業スピーチが感動的 logmi.jp)
日本では我慢とか忍耐の重要性が強調されますが、我慢して何かをしてもそれは良い人生にはつながらないと思います。我慢しなければ一生懸命実験できないようなら、それは単に自分が研究には向いてないという事だと思います。夜遅くまで実験するのは「楽しいから」であって、「いつかはこんなつらい状況を抜け出すため」ではありません。…
そして自分が好きなこと(それに伴うつらいことが苦にならないくらい好きなこと)を見つけられれば、その結果成功しなくても気にならないし、でも、好きなのでどんどん努力するため成功の確率は上がると思います。(“Don’t be trapped by dogma”〜人生とは、生きる価値とは〜 山下 由起子 University of Michigan 全世界日本人研究者ネットワーク 留学体験記)
「研究者になるには何が大切か」と質問を受けた小柴教授は、「何かをやっていて『つらいなぁ』と思ったら向いてないですね」と、ゆっくりした語り口でアドバイスしていました。 pic.twitter.com/91xlkiPdXl
— ラブ大暴れ (@kentz1) 2018年3月26日
自分はこれに賭けたいという研究テーマを自ら見つけて、それにのめり込むことが重要です。この「自ら」というのが大事です。自ら決めることで、頑張れるのです。何とかして次の扉をこじ開けたい、と昼も夜も考え、悩む中からブレイクスルーが生まれるのです。(九州大学 今井研究室 教授挨拶 )
働くことをエンジョイできるか否かは自分次第だ。自分のアイデアで仕事をしていけば、仕事もエンジョイすることができる。また、そういう人間は苦痛もエンジョイすることができる。(本田宗一郎)(『本田宗一郎の人の心を買う術』)
もう頭の中は四六時中、青色のことばかりになっていたのだ。… 改造しても改造しても窒化ガリウムの膜ができないのはなぜなのか。私は、くる日もくる日もそのことについて考えた。この時の状態を妻に言わせると、まさしく何かに取り憑かれたようだったという。
しかし、だからといって徹夜までして研究に没頭するなどということはしなかった。夜の八時には家に帰り、家族とともに食事をした。研究に熱中するあまり不規則な生活を送っても、結果が出ないことを知っていたからだ。(中村修二 『考える力 やり抜く力 私の方法』 三笠書房 2001年 pp151-152)
生きていれば人生においてはいろいろなことが起こります。自分の周囲や社会でも様々なことが起きます。しかし、周りで何が起きてもそれに気を取られることなくやるべきことに没頭し続けることが大事なんだと思います。
本当に職業として研究者を続けいけるかどうかは、能力ではなく、性質によると思う。それは、世間で何が起こっていようと、寝ても覚めても1つのこと(自分の研究)を脇目もふらず考え続けることが出来るような性質である。‥‥
寝ても覚めても1つのことだけを考え、研究に集中出来ない限り、どんなに能力があってもトップになることは難しい。論文を書いている時、実験をしている時、テーマを練っている時。あなたはそのことだけに思いっきりワクワクして、本気でのめり込んでいるだろうか? それとも他のことに思いを巡らしてしまっていないか?‥‥
必須の原動力は研究そのものである。(研究者に向いている人・向いていない人 Nori)
1945年3月9日夜半から10日未明、あの東京大空襲の日、被災者百万、その内十万もの人が一夜で亡くなりました。私はあの時、東大の赤門から50m離れたところにあるアパートに住んでいた。なんとか持っているものを取り出すことはできたんです。本とかなんとか…。そして、その夜が明けて10日の朝8時、当時の物理実験第一という講義を受け持っていた田中務先生はいつもと変わらず授業を行い、われわれは戦禍を忘れ、物理学の世界に没頭し、必死になってノートをとりました。田中先生は何にも言わずいつも通り授業をなさったのです。何があっても学ぶことに第一の価値を置けと教わったのです。(江崎玲於奈氏に聞く 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点)
11.職業選択に迷いはないか?
悩む人はもうそれだけで「向いていません」。米国の指揮者・作曲家の故レナード・バーンスタインがおっしゃっていました。わたしはよく 「私は音楽家になれるでしょうか?」と聞かれます。私の答えはいつも誰に対しても即座に「駄目です」です。…
音楽家は好きや嫌い、なれるかなれないかに悩むものではありません。他になるものがあるなどということを考えつかない者がなるものです。芸術家はみんなそういうものですが、研究者も芸術家と同じです。 (研究者に向いている?向いていない? 教えて!goo)
研究者になりたいのですがどうしたらいいでしょうか?
と聞く人は実は研究者には向いていません.(大学院新入生のための数学学習の手引 宇澤 達)
本当に何かが好きで成功する人って、周りが何と言おうとやっているんですよね。「好きなものを見極めよう」と思っている時点で、実はもう向いていないんですよ。
引用元:【独占】ひろゆきが語る「“天才”と“狂気”を分けるもの」 ひろゆきの仕事哲学【前編】 2019年07月18日 05時00分 霜田明寛,ITmedia
結局は、好きで仕方がない、勉強・研究するなと言われてもどうしてもしてしまうというような人が生き残る世界なのではないかと思う。(河東 泰之 新・数学の学び方 小平邦彦 編 岩波書店 2015年 65ページ)
ひとつは(能力や実力以前に)研究が好きだということです。言い換えるなら(ちょっとネガティブな言い方になりますが)それ以外は向かない、できない、ともいえます。他人と比べて向いている、向いていないという意味ではありません。あくまでも自分自身の中での話です。仮に研究能力が高くても、いろいろなことに興味や能力がある人なら、別の道へ進んでいることも多いと思います。(もし、研究を続けたいと思ってるなら 卒業生からのメッセージ)
僕: 今回の僕の相談はズバリ、このままバイオ系の分野の研究者になっていのか、ってことなんです。
教授: バイオ系研究者になりたければなればいいし、なりたいと思わなければならなきゃいいじゃないか。(教授と僕の研究人生相談所(1))
研究者に向いているという問題でなく、研究者になるつもりがどれくらいあるかの問題です。(釣本先生の進路相談室)
研究者という仕事は、研究そのものに強くやりがいを感じている人間でないと続けていくことは難しいと思います。研究者というものは、要求される能力が高い割に待遇はあまり良くありません。研究そのものが楽しいのでない限り、辞めて他の職に就いた方がきっと幸せになれます。(私が研究者を辞めた理由 2015-02-20 塞翁失馬、焉知非福)
職業ではない、生き方だ
It’s not just a job, it’s a way of life.
The London Story – River Thames Visit London チャンネル登録者数 3.31万人
ネットの普及で本国では20年ぐらいに無くなってしまったタワーレコード。創設者のラス・ソロモンが来日し「タワーレコードがまだある!」と感激。多くの社員から拍手で迎えられるシーンが感動的。完全合理主義のアメリカに対して、文化を大切にする日本。それこそがこの国が世界に誇るべき素晴らしさ。 pic.twitter.com/FuLi01oDYJ
— Brandon K. Hill | CEO of btrax x/2 (@BrandonKHill) September 7, 2024
研究者は職業ではない、生き方だ。@piyota0
12.正念場で頑張れるだけの体力、気力、忍耐力、意志の強さはあるか?
「明日カラ、夕食後モ学校ニ居ルコト」「九月中庭球絶対ニヤラヌ」(湯川 秀樹)(No.58 2021.07.28 ザッツ・京大)
僕たち数学者の研究は、まず問題を見つけるところから始まるのが普通です。‥ 自分が解こうとする問題を選んで、その問題に2年から5年くらいをかけて研究するのが一般的です。‥ まず良い問題を選ぶことが大切で、数学者としての素質にもかかわるところです。‥ 解くのに2年も5年もかかる問題に取り組む姿は一見、長距離ランナーのようにうつるでしょうが、数学者は、問題を選ぶスタートから、解決のゴールまでをゆっくりとした同じペースで進むのではありません。‥ 考えている途中でヤマ場にさしかかると、全力をあげて検討することが必要なのです。‥ 研究の過程には必ずこんなヤマ場がいくつもあるものです。こんなときは、もう夢中で、興奮して寝付けないものですが、少しも苦になりません。(広中平祐の数学教室 昭和55年6月10日 サンケイ出版 120~121ページ 思考法の秘訣)
ひとつの問題を検証するのに昔はわずかなことを確認すれば良かったのが、今は膨大な情報の中からあらゆる可能性をさぐり、テストしなければ論文にならなくなった。1報の論文を書くのに以前と比べて10倍くらいの時間を使わないといけないんです。
しかも、電子化によってサプリメンタルデータを付けなければならなくなり、論文全体としてより高い 完璧性が要求されます。技術が進歩して昔できなかったこともできるので、やれることはすべてやりなさいというわけですね。
論文を書き上げた後も、レビュワーから1論文に対して5-6ページくらいの追加実験リストが送られてくることが珍しくない。難しいジャーナルほどそのリクエストが多く、全部こなすにはまさに飲まず食わずで実験しないといけません。
ですから、論文1つ出版するのにもの凄いエネルギーがいるんです。頑張れる人だけが達成できる。頭脳だけではどうしようもなく肉体労働ですね。 (細胞のメカニズム解明から医療へ。発生・再生科学の今 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター センター長 竹市雅俊氏 トムソン・ロイター 研究者インタビュー )
Reviewer(査読者)からの追加実験要求が近年とても厳しくなってきたことが研究者を苦しめている。「追加実験の内容だけで、10年前なら一つの論文が書けてしまうデータ量になる」というようなことが珍しくなく、また、一つの論文を発表するための追加実験だけに1年以上かかるということも今では普通のことになってしまった。
しかも、このような傾向は今後も続くことが予想されるため、自らの研究成果を多くの人に知ってもらうための研究発表に要する時間と労力は、今後も増加し続けるであろう。(バイオの研究者を目指す学生が知っておくべき7つの項目 2017年2月6日更新 BioMedサーカス.com)
細かい議論を長々とするには、実は忍耐だけでは不十分です。一番大切なそして難しいことの一つは、このルーチンワークのような議論の積み重ねをすれば、必要なことができると見抜くことです。さらに、単に見抜いただけでは不十分で、その「見抜いた」ことが正しいことを確証するために、実際に長いルーチンワークに耐え、最後まで手をぬかずやり抜かねばなりません。
議論が面倒であればあるほど、自分の見抜いたことに対する確信とそれを貫く意志が必要になります。忍耐を支えるのは、自分のこうやればできるはずだという感性に対して築きあげた自信なのです。(深谷賢治 小平邦彦 編 『新・数学の学び方』)
13.素直さがあるか?
人が成功するために一つだけ資質が必要だとするとそれは「素直さ」(松下幸之助)(小宮一慶 著 社長のための「お客さま第一」の会社のつくり方: 明日から職場を変える行動プログラム)
(Q. どういう人に来てほしいですか?) 私たちが重視する素質は、素直なことです。周りから愛され、伸びていくことでしょう。(熊本大学 寺沢 研究室)
研究者は常に自らバージョンアップを繰り返していく必要があります。そのためには、人の意見や研究に素直に耳を傾ける謙虚さが必要となります。(大学院入学希望者へ 広島大学 町田 研究室)
創薬研究に携わる者には、好奇心・探求心が旺盛であることや、実験が好きでロジカルに解析できることなどは当然求められる資質です。その上で更に大切なことは、データを、先入観を持たずに素直に見る姿勢です。サイエンスは決して嘘をつきません。思いもよらぬ結果がでた時、それをダメと思うか、それとも、面白いと思えるか。つまり細胞や動物が何かしらのメッセージを発信している時、それを素直に感じ取ることができる感性を持った研究者が必要なのです。 (JT医薬総合研究所・大川滋紀所長に訊く)
大切なのは、特に自然科学は実験結果を透明な眼鏡で見るといいますか、色眼鏡で見ないということですね。どうしても自分の仮説があったら、その仮説どおりになってほしいという希望があったりして、真っ白な心で見れないので。 そうすると真実を誤認しますから、いかに自分の目を透明にするか、真っ白な心で結果を見れるかということが非常に大切だと思います。(山中伸弥氏 研究者に必要な資質は何? ノーベル賞の山中・赤﨑両教授が学生の質問に回答 ログミー)
14.野心はあるか?
新シキ時代ノ代表者トナレ(湯川 秀樹)(No.58 2021.07.28 ザッツ・京大)
私は学者として生きている限り、見知らぬ土地の遍歴者であり、荒野の開拓者でありたいという希望は、昔も今も持っている。(湯川秀樹『旅人』5ページ 角川文庫)
研究の世界に限らず、どこの世界でも、ある業界で一人前の人間として大成するためには、向上心や野心が必要です。 研究とは、まだ誰もやっていないことをやるものであり、常に失敗するリスクをはらんでいます。 そうした不安や孤独に耐えて地道に努力を続けられる、タフさも重要です。 また、研究の価値で重要視されるのは独創性、新規性です。単に教科書を読んで勉強して、それで満足しているような人は研究者には向きません。 何か新しいことをやってやろう、世界を驚かせてやろう、そういう野心や山っ気も大切です。(大学院進学希望の方へ 東京大学 戸谷 友則 教授)
四十歳より内は、知恵分別を除け、強み過ぐる程がよし。人により、身の程により、四十過ぎても、強みなければ響きなきものなり。(『葉隠れ』) (中略)
研究者は、知識を増しすぎてチャレンジ精神がなくなるよりも、知識を減らしてでも障壁に果敢に立ち向かっていく気迫が大事である。
(吉田善一『企業研究者のキャリア・パス: 物づくりのリーダーへの道』 冨山房インターナショナル 2008年 pp142-143)
ただ運がいいだけでも、懸命に研究しているだけでもダメなのです。野心も重要です。…
ノーベル賞は、不可能だと思われていたことを成し遂げたことに対して贈られます。
例えば、私がまだ学生だった頃、皆DNA塩基配列決定法など達成できないと言っていました。でも、フレッド・サンガー(Fred Sanger)はそれを成し遂げました。
もう一つ例を挙げるなら、リボソームです。複雑すぎて、結晶化することがないため、リボソームの構造を完全に解き明かすことは不可能だと教えられました。たとえ結晶化したとしても、データが多過ぎて解読できないと言われていました。大変手ごわい問題でしたが、人々はそれに取り組みました。現在、我々はリボソームがどんな形で、どのような仕組みなのかを見ることがほぼ可能となっています!
ですから、ある程度の野心は必要です。不可能と言われていることに取り組んでもいいのです。でも、中に入り込んでいくためのとっかかりとなる隙間が見つかるまで待ちましょう。 (ノーベル賞受賞者でも掲載拒否を受けることはある ティム・ハント博士/ノーベル賞受賞者 editage Insights)
ほかの人には無秩序な混乱としか映らないような、具象的で現実の領域に、一定の秩序を見出す最初の人間になるという興奮を味わってみたい。数世紀前にケプラーは合理的な数学的構造という要素を物理学の世界に持ち込んだが、私もそのような構造をどこか別の領域に持ち込む、という興奮を。
引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 196ページ
15.緻密な論理的思考能力があるか
生命科学者に求められる第一の資質は、意外に思われるかも知れませんが、「論理性」なのです。つまり、突飛なアイデアではなくて、A→B、B→C、故にA→Cというような、確実で緻密な思考能力が要求されます。(「幻の原稿」始末 九州大学 生体防御医学研究所 分子医科学分野 教授 中山 敬一 )
論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確でかつ緻密な頭脳を要する。紛糾した可能性の岐路に立ったときに、取るべき道を誤らないためには前途を見透す内察と直観の力を持たなければならない。すなわちこの意味ではたしかに科学者は「あたま」がよくなくてはならないのである。
しかしまた、普通にいわゆる常識的にわかりきったと思われることで、そうして、普通の意味でいわゆるあたまの悪い人にでも容易にわかったと思われるような尋常茶飯事の中に、何かしら不可解な疑点を認めそうしてその闡明に苦吟するということが、単なる科学教育者にはとにかく、科学的研究に従事する者にはさらにいっそう重要必須なことである。この点で科学者は、普通の頭の悪い人よりも、もっともっと物わかりの悪いのみ込みの悪い田舎者であり朴念仁でなければならない。… つまり、頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである。 (科学者とあたま 寺田寅彦 aozora.gr.jp)
16.楽天的か?
これから学問を志す人に老婆心ながら述べたいことがあります。 それは次の性格条件を満たしていることです。…
- 知的好奇心が強烈。
- 野心(ambitious)が強烈。
- 執拗な性格。
- 楽観的な性格。
1.はどうしてなのかと、問題についていろいろと発想を工夫する性格。 2.は良い意味でも悪い意味でも他人に抜きんでたい性格。 3.は飽きることなく追求する性格、たとえば誰が最初にこの仕事をしたのか論文を追跡して調べるなど。 4.は直感的に解ける問題を見分けて時間を費やす。 解けない問題は結局時間の浪費に終わるからである。 どんな難しい問題でも、これは解けるという直感があれば、必ず解けるという信念を持つことです。 (集団遺伝学 第1回 自己紹介)
「果てしない楽観」も現在の研究者に求められる資質であると私は思います。確率・統計的に考えれば、「研究者を目指す人たちの中で、成功する(ラボ主宰者PIとなって独立的に研究できる)期待値はかなり低い」ことが自明なのに、自分がそれに当たると考えている人が多いです。(研究者の資質2bioresearcher.net)
17.孤独に耐えて、自分の価値を信じ切れるか?
四面楚歌、奮起せよ(湯川 秀樹の日記より)(No.58 2021.07.28 ザッツ・京大)
研究者は孤独です。実験の種類にもよりますが、ひとりで離れ小部屋にこもって一日誰とも会わずにひたすら測定に明け暮れることはめずらしくありません。自分の研究の意義は指導教官にすら理解してもらえないかもしれません。論文を学術誌に投稿して、差読者やエディターからいろよいコメントをもらえた時点でようやくラボ内が色めきたつということもあります。
ボス知らず 差読者が知る 我が思い (詠み人知らず ラボ川柳)
さらに、PIになったらなったで、あらゆる重要な決定を1人で行わなければなりません。また、時代を先取りした研究は、評価されるまでに数年~数十年を要するかもしれません。
ハーバードビジネスレビューが最近公表した孤独感に関する職場調査の結果では、研究者・科学者とエンジニアが最も孤独な労働者ランキングの最上位を占めた。
The Harvard Business Review recently published the results of a workplace survey on loneliness, and research scientists and engineers topped the list of most lonely employees (falling only behind lawyers as the loneliest profession). (biospace.com)
私も、ラボで誰かに会うことも話すこともなく1日が過ぎるような日々を送りました。
I, too, have spent entire days in lab without seeing or talking to a single person. (Lab loneliness: Coping with science research isolation MARCH 21, 2017 BY MELISSA GALINATO QUARTZY)
教育やキャリアの構造は個人が達成したことが中心となっている。博士号は、グループで努力した結果に対して授与されるわけではない。科学の専門分野における個人的な貢献に対して授与されるのである。
The entire educational and career structure is very centered on individual achievement. You don’t get a doctorate for a group effort; it represents an individual’s unique contribution to the scientific discipline. (20 May 2010 Are scientists lonely?)
「自分の人生にはある種の目的がある」と思うことができれば、我々は孤独感を持たないで生きていくことができるのである。(wakuwaku-lotus.com)
孤独は天才が通う学校である (actionplanet.tv)
あなたが自分の人生における友達だと思っていたほとんどの人は、最終的には赤の他人以外の何者でもなくなるであろう。
Most of the people that you have ever considered friends in life will eventually be nothing but strangers to you. (newtohr.com )
18.人間力があるか?
大学院生活をはじめてとして、研究者としてのキャリアを歩む過程には何かと不条理に感じることが多いものです。そんなときでも自分の目的を見失わずに、当初は敵かと思えた人間すら味方に変えて、自分のクレジットを確保しつつ研究プロジェクトを達成することが必要となります。
このような「人間力」が最初から備わっている人は少ないでしょうが、さまざまなことを経験する中で自然と身につけていくことが、研究者になるためには必要でしょう。
48才が窓際に追いやられて強く思うのは、
・敵を作りすぎた
・会社で正しさを追求しない
・会社は正論を言う場所ではない
・出世に必要なのはシゴデキより愛嬌
・仕事とはバカを相手にバカになるゲーム
・言わないと気が済まないことは言わないが正解
・実はバカ相手に上手くやれない自分が一番バカ— キャプテンもとやま【7年後にサイドFIRE目指すサラリーマン】 (@kabu_motoyama) May 24, 2024
上のツイートは企業の人だと思いますが、合理性を追求しているはずの研究者においても、実は真理ではないかと思います。学会などで若い人が大御所に対して真っ当な意見を言っても許されるのが研究社会のいいところといった言われ方をするかもしれませんが、それは半分は本当でも半分は違っていると思います。科学者でも誰でも人前で恥をかかされて気分がいい人は多くないのです。 研究室という閉じた空間での議論も同様です。ラボミーティングで大学院生や若いポスドクが教授を論破しても、いい結果が待っているとは限りません。こいつは優秀だと評価してくれるボスかどうかは、ボスの人間性次第。逆に疎まれてアカハラの標的にもなりかねません。
教授から与えられた研究テーマが気に入らない学生はどうすべきか …
上から言われるままに受身的な「歯車」として働くのではなく、プロジェクト全体のなかでの自分のミッションの位置づけを認識し、そのなかで全体にベストフィットするための創意工夫をしながら能動的に回る「歯車」として働くことで個人的にも成長できる …
周りを巻き込みながら、方向性を持って他人の力を結集して研究なり仕事なりを進める力、いわば人間力と呼ばれている力が研究者にも重要です。 (研究者は「研究以外」のビジネス感覚がないと一流になれない! 研究室という「組織」でうまく生き抜く 長谷川修司 2016.01.07 gendai.ismedia.jp 太字強調は当サイト)
今の二十代を見ていて感じるのは「人間力」が弱くなっているということ。あとは好奇心が弱い。私が言う人間力とは、東大総長も言われていることですけれども、生きていくための力。人とのコミュニケーション力や壁にぶち当たったときに自分の気持ちをコントロールできるといった、勉強以外の人間としての力です。 ( 「人間力のある若者を育てたい」 紫綬褒章を受賞して 生田幸士先生に聞く 東京大学 先端研ニュース 2010/12/20)
サイエンスは実力主義で結果がすべての世界なので、どんなにコミュニケーションが苦手でも、立派な仕事をすれば勝てます。しかし、プロジェクトの運営は、そうはいきません。研究者といえども、人間力、コミュニケーション能力を磨かなければ。スキル(技術)だけで人を納得させることはできないのです。
僕の考える「人間力」の重要な要素として、2つ挙げる事ができます。
ひとつは、「この人は自分にないものをもっている」と意識しながら相手を見ること。自分にはない、飛び抜けた能力やプロフェッショナリティに対して敬意を払うことが、相手を信頼することにつながっていきます。
もうひとつ僕が心がけているのは、「誰に対しても裏表が無く、フェアに接する」こと。(物事を究極に成し遂げたいなら、他人をいいわけにするな 高井 研 WIRED 2013.01.17 THU 15:17)
19.一生スキルアップが必要と心得ているか
研究者になるために必要なスキルは、日常的な鍛錬を自分に課して獲得する必要があります。また、常に新しい技術が開発されそれをいち早く自分の研究に取り入れることは、研究者として生き残るために必要なことです。
勉強を続けていると,かつて分かりっこないと思っていたものが分かるようになり,やがて腹に落ち,ついには誰も知らない研究の領域にまで至ります。大切なのは続けることです。
研究の現場は日々,勉強です。毎日のように新しい技術が登場する機械学習の最先端では,誰にも分からないことがたくさんあります。しかし,勉強を続けていれば,フッと道が拓ける時があります。(園田 翔 受講者へのメッセージ SkillUp AI)
基礎学力
尾崎教授が心掛けているのは、「研究室は教育室であれ」ということ。1989年の研究室開設以来、基礎学力、人間力、研究力の三つの柱を大切にしてきた。スポーツ選手が試合に勝つために基礎練習を欠かさないように、研究者にとっては物理・化学・英語など基礎学力が重要だという。
また、人間力や国際性を高めるために積極的に留学生を受け入れてきた。(研究室で人間性を育み28年─分子分光学の世界的拠点を目指して 尾崎幸洋研究室 関西学院大学 広報室 2017年4月26日)
語学力
語学力は、あらゆる作業の出発点になります。できる限り早く、自己鍛錬を開始することをお薦めします。英語が不得意な学生の一部は、日本語の表現力が劣っていることが原因です。日本語を鍛えることにより、語学力全体が向上します。(http://ocw.kyushu-u.ac.jp/menu/faculty/20/6/1.pdf)
論理的思考能力
「トレーニングをしていない社会人」は「トレーニングをしている生徒・学生」に負けることがあります。… ロジカルシンキングは「学歴」には、あまり関係がありません。高学歴でも、アンロジカルなオッサンは腐るほどいます。
要するに「やっているか、やっていないか」「フィードバックを受けてきたか、こなかったか」だけの話です。
なるべく早い段階から、ロジカルに考える習慣や癖を持ちたいものです。(http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7823)
人間力
総合的な「人間力」(抽象的でわかりづらいですが、例えばコミュニケーション能力とか、発想力とか、忍耐力とか、そういうものをすべてひっくるめたものです)も高める必要があります。 (総合的な「人間力」を! 加藤 真悟 さん 生命科学部7期生 大学院博士課程修了 (細胞機能研究室、現・極限環境生物研究室) 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (JAMSTEC) 特任研究員 東京薬科大学 卒業生メッセージ)
新たな知見
勉強,勉強などと大声で言わずとも,勉強は,(研究者であるならば誰もが)当たり前のように,自発的に,死ぬまで,毎日行っていることです。(小川研究室のアドミッションポリシー)
新技術
目標を達成するためには他の研究分野の手法を取り入れることを臆さないことです。http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ohmiken/Lab%E3%83%A1%E3%83%A2/memo%203.html
『細胞分子生物学』から25年の間に生命科学は成熟し,研究の対象も細胞から動物個体,そしてヒトへと広がってきた。それを支えたのが遺伝子組み換え技術をはじめとするバイオテクノロジーである。PCR (ポリメラーゼ連鎖反応) 法の発明(1985年),自動DNAシークエンサーの発売(1987年),特定の遺伝子だけを人工的に破壊したノックアウトマウスの作製技術(1989年)など,この25年間に導入された革新的な技術を抜きにして,先端的な実験生命科学は存在し得なかった。http://www.nikkei-science.com/page/sci_book/bessatsu/51177-maegaki.html
ビッグデータ時代にはこれまでの科学技術におけるデータに対する考え方を変える
必要があります。http://www.lifesci-found.com/docs/doukou-tyousa27.pdf
大学院における教育 専門教育の充実を十分に図るべきである。その基本となる DNA の扱い、特に遺伝子組換え技術、急速に発達した顕微鏡を中心としたバイオイメージング技術、コンピュータによる情報科学などを十分に教えるべきであり、その教員の補充や教育プログラムの充実を図る必要がある。http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-h-2-1.pdf
21世紀の生物学ではヒトゲノムプロジェクトによって2つの大きな変革がもたらされました。まず、第一に、ヒトおよびマウス、ハエ、酵母等モデル生物のゲノム塩基配列が全て明らかになり、生命を構成する因子が少なくとも有限なものとなりました。第二に、全ゲノムレベルでタンパク、DNA、RNA、代謝物、さらにそれらの相互作用を解析するための網羅的計測技術が開発されました。
これらの技術は日進月歩の進歩を遂げており、さらなる先進的な測定技術の登場やデータベースの充実化へとつながっています。そして、現在の生命科学では、こういった膨大かつ多様なデータを統合的に解釈し、多角的に丸ごと生命現象を捉えモデル化するデータ駆動型の研究を行うことが可能となりました。http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/
異分野との融合研究を展開する力
それまで予想もしなかった方向に研究が発展することがあり、また、複数の専門分野(しかも類似の専門分野とは限らない)の研究が高いレベルで融合することによってはじめて新たなブレイクスルーが生まれることが多くなるであろう。
こうした状況において、個々の研究者に特に求められるのは、自らの専門分野にいたずらに閉じこもるような蛸壺的な専門性ではなく、周辺の専門分野や全く異なる専門分野を含む多様なものに関心を有し、既存の専門の枠にとらわれないものの見方をしながら自らの研究を行っていく能力であろう。 (世界トップレベルの研究者の養成を目指して -科学技術・学術審議会人材委員会 第一次提言- 平成14年7月 文部科学省)
20. 百人百様の中に潜む共通項:単純さ、純粋さがあるか?
長々と紹介してきましたが、これらは必要条件というわけでも十分条件というわけでもありません。個人の能力や個性に合わせた、多種多様な研究スタイルというものが存在します。
K:研究者に必要な資質は、どのようなものとお考えですか?
橋本先生:ある意味では、人は誰でも研究者じゃないですか。だから、それぞれの方がそれぞれの資質を生かせるように研究をすれば、それでよろしいと私は思います。…今、皆さんいろいろとうまくいっているわけですね。そうしたら自分の資質はどのようなものかを考えて、それを伸ばしていければいいのではないでしょうか。(教授に聞く 橋本祐一教授 分生研ニュース2006.9 PDF)
ケンブリッジで育ったので、ノーベル賞受賞者は数多く知っていますが、最も強く感じているのは、受賞者は多種多様だということです。才気あふれた人もいればそうでない人もいる、謙虚な人もいれば傲慢な人もいる。彼らは、多種多様なことを多種多様な方法で研究してきました。
皆の人柄の奥深いところを見てみると、何か単純さと言えるようなものがある、ということが唯一の共通点です。 (ノーベル賞受賞者でも掲載拒否を受けることはある ティム・ハント博士/ノーベル賞受賞者 editage Insights)
実験科学のこれらの偉大な仕事は、がまん強い人、頑固な人、直感力に富む人、創意ゆたかな人、精力的な人、不精な人、幸運な人、偏狭な人、器用な人など、さまざまなタイプの人々によって成しとげられた。(バークレー物理学コース1 力学 上 2ページ 今井 功 監訳 丸善株式会社)
多様な成功者の中に共通するものとして、単純さ、純粋さがあることが指摘されています。
— 武田 紘樹 (@tomatoha831) August 31, 2023
21.結果が出るまで努力を続けられるか
実験をしていると、ほとんどの目論見は外れます。作業仮説を立ててそれを検証する実験をし、期待通りいかなかったときに、新たに作業仮説を立ててまた検証する、そんな繰り返しでもめげずに頑張れるかどうか。
目的とする物質の探索や、方法論の開発なども、忍耐が強いられます。宝物を見つける一歩手前でやめてしまうのか、見つけきることができるのか。
— 五条悟 (@UHl7PGgFjExkYOW) May 3, 2022
22.論文という形にするところまで持って行けるか?
どんなに面白い現象を発見したとしても、それを論文として発表しない限り、何もやらずにサボっていた人となんら変わりありません。論文の形にして世に出すというところまでやり切れることは、とても重要な資質です。
研究というのは、それをまとめて論文として発表しない限りただの自己満足です。素晴らしいデータがあっても、それを論文にできない人は数多といます。それは時間の無駄遣いでもあり、税金の無駄遣いでもあります。研究者としての第一の評価は論文です。
23.人の言うことが気にならないか
長々と書いてきましたが、これらを読んでも暗い気持ちにならず、むしろわくわくしてきたとか、なんとも感じなかったとか、何言ってんの?くらいに流したなどという人は、研究に向いてなくはないでしょう。
とても含蓄のある事が書いてありますが,「自分は研究に向いているか? 」→「大きなお世話だ」という気がしないでもありません。
自分は研究に向いているか? を知る14の質問 https://t.co/d5xhdXJzGD
— TN (@BioStructChem) 2018年5月19日
24.なりたいか やりたいか
研究者に限らず、どんな職業であれ、なりたい人間が勝手になるのです。能力があるからとか、資格があるからとか、ふさわしいから、ではありません。
小学校に訪問した時に、まずきちんと勉強をしようと伝えた後に「サッカー選手になりたい人~?」って手を挙げさせるんですが、その後に「全員なれないよ」って言います。そんなに甘くないよって(笑)。… それで諦めるようなら、仕方がないです。「あ~、なんか内田言ってるな~」くらいの気持ちじゃないと、プロサッカー選手にはなれない。(内田篤人 REALSPORTS 2020/4/14(火) 12:10 YAHOO!JAPAN)
理論物理学の中でも素粒子物理学は特に潰しのきかない学問領域のようですが、普通の職業からみた研究職というアナロジーで言えば、職業選択に関しては同じ原則が成り立つと思います。
よく僕の所に相談に来る学生が「将来素粒子やりたいんですけども就職のことこう考えて」とかって言うんだけども、その段階で君向かないからやめた方がいいよって言う訳。 先輩見てもDoctorとって就職できない人がたくさんいて優秀な人もたくさんいる訳。それ見てたら自分がそれと比べていいか悪いか普通は考えちゃう訳だ。 そういう人は来ない訳よ。やっぱり面白いから、俺はやりたいから来る。それだけなんだよね 。(柏太郎助教授2001年度ニュートン祭パンフレットより転載。higgs.phys.kyushu-u.ac.jp)
25.研究の世界の厳しさを理解しているか
最後に、覚悟しておくべきことは、研究の世界で生き残ることの難しさ、苛酷さです。優秀で才能のある人達同士での生き残り競争に勝てるかどうか。パーマネント職に就けるまでは、研究者は非常に経済的に不安定な状態に置かれます。家族はたまったものではありません。家族の理解は必須でしょう。
学者の夢は一流大学で終身在職権を獲得することだ。私は最終的にこの夢を実現したが、タイミングはぎりぎりでーーー私は75歳になった
参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 452ページ
どんな人間ならば研究者として雇われるのか、募集要項を見てみて、自分がそこにフィットする人間かどうか考えるのも一つの方法です。もちろん、人間は成長するので、自分が成長していくさまが想像できるか、という問題です。
【募集職種】
職 種:研究員【応募資格】
博士号取得者または着任までに取得見込みの方で、協調性、積極性、冒険心、高い向学心、幅広い好奇心、柔軟な思考、明朗な性格、鋭い洞察力、爆発的な瞬発力、驚異的な持久力、信念宿る強靭な肉体、不屈の精神、そして散り際の潔さ、これら全てを兼ね備えている方、またはこれらの項目の内、幾つかを有している方。【待 遇】
単年度契約の任期制職員で、評価により採用日から7年を迎えた年度末を上限として再契約可能。‥ 平成25年(2013年)4月1日以降、当研究所との有期雇用の通算契約期間が10年を超えることはありません。
(web.archive.org)(内容の一部のみ転載。太字・下線強調は当サイト)
いかがでしょうか?こんなスーパーマンのような完璧な人間であっても、限られた期間内に結果が出せなければ、それでお終いです。寺田寅彦が『科学者とあたま』で、「科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であり、血の川のほとりに咲いた花園である。」と述べていますが、まさにそういう場所です。さて、こんな世界に飛び込んでみたいと思いましたか?
68 :名無しさん@おーぷん :2015/04/25(土)18:06:05 ID:Tbi ×
研究に向いている人ってどんな人?70 :名無しさん@おーぷん :2015/04/25(土)18:07:33 ID:Qy1
>>68
ムラがなくてコンスタントに努力ができて、無理しすぎない人かな
そして真面目によく勉強して信念がある人(研究者だけど質問ある? open2ch.net)
現在の日本における研究者の生き残りレースがどれほど熾烈かを十分理解しておくことも必要です。
学者の道を選択することには、大変なリスクがある。「高学歴の罠」に陥り、常勤職につけないことなど珍しいことではない。 … そもそも大学院に進学しても、それに見合った経済的な結果はついてこない。(あなたは学者に向いているか?)
偏差値50の地方国立大にいようが、旧帝大にいようが、東大京大だろうが、海外のラボだろうが、多少の(=IF~10程度)成果が上がろうが上がらなかろうが、報われない(=定職に就けない)ことには変わりないのが、いまの生命科学の業界だと思います。CNSに出して研究辞めた人も多い。トップ2報は必要か。
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2018年5月19日
トップジャーナル(C,N,Sのすぐ下の姉妹紙)に論文を出してるような研究者でも任期付きの職から脱出できず、”人たるに値する生活”を得るのに苦労している現状は、異常としか言いようがない。労基法1「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2018年4月2日
アカデミックの世界は本当に不安定です。企業は企業でやはり不確定要素があります。三菱化学生命科学研究所は、アカデミックキャリアを追求する研究者にとって非常に魅力的な場所に思えましたが、廃止されてしまいました。大坂バイオサイエンス研究所は、日本のスーパースターが集まる研究所でしたが、大阪市が財政的な支援を打ち切ったため廃止されました。せっかくPI職に就いたとしても、勤め先の研究所が無くなってしまうということが起きるのは恐ろしい話です。
IBMは大学のように身分の終身保障はしてくれないという事実を、私はしばらく考えずにいた。しかし、自転車で転ばないためには十分な速度で走る必要があるということは、一瞬たりとも忘れなかった。気取った言い方をすれば、私は身分保障が与えてくれたはずの静的安定と、IBMや外部世界で起きる変化に絶えず影響される思いがけない一次的な動的安定とを見誤りはしなかったということだ。(引用元:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 352~353ページ)
26.配偶者の理解が得られるか
妙にドラマチックな
大学院入試説明会のポスター pic.twitter.com/o0H5ICH5lh— ことばと広告 (@kotobatoad) September 8, 2021
研究の世界の苛酷さは普通の人にはそうそう理解されません。研究者としてのキャリア形成の困難さに理解を示してくれる配偶者に恵まれたらラッキーなことだと思います。
結婚前、私は未来の妻に打ち明けた。自分にはとても口うるさい愛人がいるが、彼女と別れるつもりはないと。アリエットはかまわないと言った。その愛人というのは、実は学問だった。… どんなときでも、妻は並外れて協力的だった。私が自分の人生をーーーそして妻と子どもたちの人生をーーー賭けにさらすことを彼女が喜んで許してくれなければ、私の一風変わったキャリアは想像さえできなかっただろう。(ベノワ・マンデルブロ)
引用元:参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 303ページ
日常的に科学の基礎研究をするのはとても難しく、たいていの場合は報われない仕事なのだ。職場では自分のやりたいことをする時間などとうてい足りず、土曜日の朝に子どもを野球に連れていかないで一人で研究室に行ったりすれば妻に文句を言われる。(IBM初代リサーチディレクター エマヌエル・ピオレ 1908-2000)
引用元:参照:ベノワ・B・マンデルブロ『フラクタリストーマンデルブロ自伝ー』早川書房2013年 328ページ
関連記事 ⇒ 研究者の結婚、研究者との結婚
27.研究したいことがあるか
自然に対する強い興味は、研究者になるために重要な要素だと思いますが、漠然とした興味をある程度具体的なところにまで落とし込んで考えられることが必要だと思います。
過去、科研費に落ちまくってたときに先輩(ハゲ)に言われたきつい一言
当時、1〜3年スパンで所属が変わってたから目の前のことに精一杯で、長期的な研究計画なんか考えられんかったな pic.twitter.com/0eTINEf6Nk— CholoQ (@chol_gyu) March 6, 2022
28.押し出しがあるか
研究者として職を獲るのは、生き残りをかけた戦いなわけですが、戦いで勝つためにはこれが必要だったのかと思えたのが、斎藤ひとりさん関連の本で出てきた「押し出し」でした。
大学教員の職を得た人をみていると、研究者の能力や業績とは必ずしも比例していないように思えることもあります。なるほど、そういう人には必ず押し出しがあったなあと思いあたります。
- 『斎藤一人誰でも成功できる押し出しの法則』(KKロングセラーズ)
29.それは研究への憧れ・研究者への憧れではないか
研究職への「憧れ」の気持ちで研究職を目指すのは、自分はあまり勧めません。小学校のころに憧れるのならいざ知らず、大学生や大学院性になってまだ研究職に憧れていては、あまりに心もとないと思います。どんな職業もそうですが、なると決めてなるものです。
全てに通ずると思いますが、手に入れたいものに対して憧れてちゃだめです。
Ohtani’s pregame speech:
“Let’s stop admiring them. … If you admire them, you can’t surpass them. We came here to surpass them, to reach the top. For one day, let’s throw away our admiration for them and just think about winning.” https://t.co/Y12PQ6EBHL
— Dylan Hernández (@dylanohernandez) March 21, 2023
(大谷翔平)「僕からは1個だけ。憧れるのを、やめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センターみたらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか。野球やっていれば誰しもが聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、今日一日だけは、やっぱ憧れてしまったら超えられないんで。今日、超えるために、トップになるために来たんで。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、行こう!!」(「僕からは1個だけ…」声出しは大谷翔平!!「憧れるのを、やめましょう」さあ世界一へ [ 2023年3月22日 08:47 ] スポニチアネックス)
30.研究者を目指す自分に酔っていないか
「研究するってかっこいい」、「研究者ってかっこいい」、「研究している自分ってかっこいい」、「憧れの職業を目指して本気で頑張っている自分って凄い、かっこいい」といった、自己陶酔の感覚も、研究者になるうえでは全く不必要なものです。研究してもなかなか思い通りの結果が得られないときに、格好悪い自分になってしまい、簡単にくじけてしまうのではないでしょうか。実験して何か新しい知見を得ること自体に面白味を感じられるかどうかが大事だと思います。
参考
- 「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』 Q4. 科学者としての素質って何ですか。A4. 科学者の素質は論理性です。 Q5. 学歴と科学者とのしての能力に相関はありますか?A5. かなりありますが、絶対ではありません。
- 「ある著名な音楽家についてのエピソードなんですが、彼のもとへ若者が “自分は音楽家に向いているだろうか” といった相談に来ることがある。そんな時、彼は必ず “ノー” と答える。というのも、本当に音楽家になりたいという熱意があれば、実は向き不向きなど関係がない。自分のところに相談に来るという時点で、そこまでの強い熱意はない、と彼はみなすのだそうです。この話は、研究職を目指す自分にとっても当てはまるな、と感心しました」(東郷雄二 文科系必修研究生活術 ちくま学芸文庫 / 東大生が選んだ一冊: 教科書では教えてくれないことを学んだ本 PHP研究所)
- 研究に向いてない学生には全力で就職活動をさせたほうがいいと思うよマジで (はてな匿名ダイアリー)
- 修士論文の代わりに退学願を提出してきた (riywo.com Feb 27, 2009):”ということで,さようなら東京大学.”
-
大学院進学を考えている大学生は、ラボを決めるまえに是非読んでおいたほうがいい。研究で成功するための秘訣が凝縮された文章 。⇒ ”研究者にとって最も重要な能力は「writing能力」ではないか、と思っています。” 九大今井研教授挨拶 https://t.co/nhzaIuw8K8
— 日本の科学と技術 (@scitechjp) 2017年10月27日
更新履歴: 20210706 桜井章一『ツキの正体』の中の説明を紹介 20190601 外山滋比古『思考の生理学』の言葉を紹介 20190422 園田翔氏の言葉を紹介 20190312 吉田弘幸氏のツイートを紹介 20190216 塞翁失馬、焉知非福の記事紹介 20190126 一覧から各項目へリンク 20181226 Steven Chuのインタビュー動画を追加 20181107 補足としていた「単純さ、純粋さ」を、20項目めに格上げ 20181006 本庶佑博士のノーベル賞受賞記者会見からの言葉を紹介 20180823 hep.s.kanazawa-u.ac.jpの中の言葉を追加 nanzan-u.ac.jp/~urakamiの中の言葉を追加 リケジョゆうきの活動記録の言葉を追加 20180820 この記事に対するツイッター嬢のコメントを紹介 20180815 「孤独に耐えて、自分の価値を信じ切れるか?」、「人間力があるか?」、「一生スキルアップが必要と心得ているか?」を追加 20180810 ナンバリングがー2から13だったのを1~16に変更 20180605 緻密な論理的思考力と楽天的性格を追加 20180516 College Cafe by NIKKEI 中田亨氏の記事を紹介 20180409 バークレー物理学コース物理(上)の言葉を追加 20180327 小柴教授の言葉を紹介したツイートを追加 20180209 宇澤 達 氏の言葉を紹介 20180127 募集要項を追加 20171118 湯川秀樹『旅人』の中の言葉を追加 20171118 BioMedサーカス.comの記事中の文章を紹介 20171027 九大今井研究室教授挨拶を追加 20171015 イブン・アル=ハイサムの言葉を追加 20170917 SEKAI INTERVIEW 23 水島昇教授の言葉を追加 20170716 WIREDの記事を追加 教授と僕の研究人生相談所の言葉を追加 20170710 東野圭吾『ガリレオの苦悩』の言葉を追加 20170623 広中平祐『生きること 学ぶこと』の言葉を引用 20170406 竹山美宏 数学書の読み方について の言葉を紹介 20170320 言葉遣いを一部修正 20170319 古本 強 研究者への軌跡の言葉、松田康博研究室の言葉、釣本先生の進路相談室の言葉を紹介 0170318 大隅典子の仙台通信の言葉を紹介 20170317 いくつか追加 20170315 長束・鈴木研究室 ブログの言葉を紹介 20170226「発声練習」、「ミームの死骸を待ちながら」の言葉を紹介 20170225 『なぜあなたの研究は進まないのか』の言葉を紹介 20170219 はてな匿名ダイアリーを紹介 20160418 初稿を投稿
参考(ツイート)
この記事に対するコメントを多数の方々がツイートしてくださっていますが、その中でも特に自分が共感したものや記事を補完し読者の参考になると思われるものを紹介します。
私は基本「7.研究に没入し、解決すべき問題に集中し続けることができるか?」だけだと思ってる。それ以外は研究者として生き残るために必要なことであって、向いてるかどうかではない。
自分は研究に向いているか? を知る14の質問 https://t.co/PQsXOlgeu3
— Virupaksa (@overdriver7004) 2018年5月18日
これが何度か流れてきたけど、研究に向いているかと、向いていなくても研究を進める技術と、研究が進んでいなくても研究職にしがみつく技術は別で、後2つには運も大きいので、あまり気にしてもしょうがないと思う。わたしは単に運が良かった。 https://t.co/D2tRXGvREA
— TOGASHI Yuichi (@togashi_tv) 2017年3月18日
「運」にも関係することですが、今の日本では、研究者としての適性がある人であっても、研究者として生き残れる人はごくわずかしかいないという現実を直視したほうがよいので、お勧めの関連記事も紹介しておきます。
- 若者は現状を見切り無謀な挑戦の回避を
- アカデミア研究者雇用状況の過酷な現実
- 任期が切れた助教はどこへ行くのか?
- 職を獲れる研究者になるための20のポイント
- アカデミックポジションの倍率
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- 中学理科の教科書が教える仮説駆動型研究
- 論文査読レポートで使える英語表現
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