Monthly Archives: July 2017

中学理科の教科書が教える仮説駆動型研究

研究目的が曖昧なまま実験を続ける大学院生、仮説をもたずに研究している研究者、実験結果を得ていないのにグラフを作成してしまうトンデモナイ人、考察が書けずに悩む人、次の研究テーマが思い浮かばない人など、研究の現場にはさまざまな悩みや問題を抱えた人たちがいます。いまいちど、中学校の理科の教科書に立ち戻って、研究の進め方に関する基本事項を再確認してみるというのはいかがでしょう?

以下、中学校1年生の理科の教科書(教育出版)の最初の数ページから、一部を抜粋して引用・紹介します。

理科学習の進め方

進め方1 疑問を持つ
はじめに、不思議に思ったことや疑問に思ったこと、知りたいことなどをはっきりさせておきましょう。

進め方2 課題を設定する
知りたいことや調べたいことがはっきりしたら、これから取り組む課題を設定しましょう。

進め方3 仮説をもち、計画をたてる
課題がきまったら、自分はその課題に対してどのような考えかたをもっているか、どのようにしたら自分の考えが正しいかどうかわかるのかを話し合いましょう。 自分の考えは仮説としてノートに書いておき、調べたあとで振り返ることができるようにしておきましょう。

進め方4 観察や実験を行い、結果を得る
自分で立てた計画に沿って、実際に観察や実験を行い、得られた結果は、あとで考察しやすいように表などにまとめましょう。また、結果をグラフに表すと、知りたいことがわかりやすくなる場合があります。

進め方5 得られた結果をもとに考察する
観察や実験が終わったら、得られた結果からどのようなことがわかるか、そして、自分の立てた仮説は正しいといえるか、考察し、自分の考えを発表しあいましょう。

進め方6 新たな疑問から、さらなる課題へ
みんなの考えがまとまり、設定した課題が解決したら、観察や実験を行ってわかったことが、次にどのように役に立つのか考えましょう。また、調べてみて、新たな疑問が生じたら、次の課題を設定して、さらに調べていきましょう。
(中学校理科1 教育出版 文部科学省検定済教科書 中学校理科用 17教出 理科731 平成28年度 2~6ページ)

日本の中等教育の教科書は科学的な態度を育むように書かれています。高校の教科書にも、研究の進め方が解説されています。以下、啓林館の「生物基礎」から一部を抜粋して紹介。

●私たちの探求活動●

仮説を立てずに観察・実験する方法もありますが、ここでは仮説を設定する方法で考えます。

<課題の発見>

最初は自然現象をよく観察することです。疑問を生み出す方法を紹介します。まず比較という方法があります。.. 5W1Hを活用する方法もあります。「何が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」のパターンで疑問をつくってみます。 .. この課題でやろうと思ったら、同じテーマですでに研究されているかどうかを調べてみます。

<仮説の設定>

仮説を設定します。考えつく限りの仮説をあげていましょう。仮説が立ったら、その仮説は、どのような観察や実験を行えば証明できるのかを考えて実験・観察を計画します。実験・観察から得られる結果から、立てた仮説が論理的に導かれるように計画する必要があります。

<観察・実験>

観察・実験で大切なことは「再現性」です。 .. 因果関係を調べるときには「対照実験」の設定も必要です。対照実験とは、比較のために対象とする条件以外を同じにして行う実験のことです。 ..

<結果の記録と処理>

結果の記録は正確に行うように心がけます。 ..

<考察>

実験などの結果かが仮説の正しさを証明したかを考察します。結果が仮説と矛盾しないかを考えます。ひとつの仮説を検証すると、そこから新しい疑問や課題が生じてくるものです。また明らかになった知見が、これまでに知られていることとどう関係するかも考える必要があります。 ..

<報告書の作成と発表>

研究したことは報告にまとめて、発表するようにしましょう。 ..

(引用元:啓林館 平成30年度 生物基礎 改訂版 本川達雄 谷本英一 編 (10~11ページ) 61啓林館 生基315 文部科学省検定済教科書 高等学校理科用)

中等教育(中学、高校)でも、高等教育である大学でも、サイエンスの基本はまったく同じです。たとえば、放送大学「自然科学はじめの一歩」の授業内容の説明には、

実際の科学研究は分野によらず、問いを立て、仮説を設定して検証し、結論を導き出すという一連の作業を通して進行する。さらに文献調査、論文執筆といった作業が伴う。(放送大学「自然科学はじめの一歩」第15回 自然科学の展望:さらなる一歩へ向けて)

とあります。放送大学の放送の中では、子供の自由研究と科学者が行う研究との違いは何でしょうか?実はやっていることはどちらも変わらないんです。ただし、プロの研究者は、自然界に関する新しい知識を作り出してそれを人類で共有するために論文発表をする、それが唯一の違いですと解説されていました(主任講師: 岸根 順一郎 2017年7月22日放送 第15回 自然科学の展望:さらなる一歩へ向けて)。

このように日本の理科教育では、研究がいかにして進められるかに関してしっかりと教えるようになっています。ところが、肝心の、プロの研究者を育てる場であるはずの大学院においては、仮説に基づいて実験するという当たり前の態度がなぜかないがしろにされている研究室が散見します。中学や高校での理科教育で強調されてきたことは、研究の現場である大学院でも実践されて然るべきでしょう。

呼吸に必要な酵素の遺伝子を持っていない(?)不思議な細菌を発見

地表に現れたマントル由来の岩石に湧く泉で、どのような生物がいるか調べたところ、27種の微生物の遺伝子が見つかった。周辺は強アルカリ性で、約40億年前の地球に似た過酷な環境という。 そのうち、岩石に付着した細菌では、酸素を使った呼吸など生命維持に必要とされるエネルギーを得るための遺伝子を一つも持っていなかった。(どうやって生きてるのか…「常識外れ」の細菌、泉で発見 朝日新聞 DIGITAL7/21(金) 23:27)

論文はこちら。

The ISME Journal , (21 July 2017) | doi:10.1038/ismej.2017.111

Unusual metabolic diversity of hyperalkaliphilic microbial communities associated with subterranean serpentinization at The Cedars

Shino Suzuki, Shun’ichi Ishii, Tatsuhiko Hoshino, Amanda Rietze, Aaron Tenney, Penny L Morrill, Fumio Inagaki, J Gijs Kuenen and Kenneth H Nealson

Water from The Cedars springs that discharge from serpentinized ultramafic rocks feature highly basic (pH=~12), highly reducing (Eh<−550 mV) conditions with low ionic concentrations. These conditions make the springs exceptionally challenging for life. Here, we report the metagenomic data and recovered draft genomes from two different springs, GPS1 and BS5. GPS1, which was fed solely by a deep groundwater source within the serpentinizing system, was dominated by several bacterial taxa from the phyla OD1 (‘Parcubacteria’) and Chloroflexi. Members of the GPS1 community had, for the most part, the smallest genomes reported for their respective taxa, and encoded only archaeal (A-type) ATP synthases or no ATP synthases at all. Furthermore, none of the members encoded respiration-related genes and some of the members also did not encode key biosynthesis-related genes. In contrast, BS5, fed by shallow water, appears to have a community driven by hydrogen metabolism and was dominated by a diverse group of Proteobacteria similar to those seen in many terrestrial serpentinization sites. Our findings indicated that the harsh ultrabasic geological setting supported unexpectedly diverse microbial metabolic strategies and that the deep-water-fed springs supported a community that was remarkable in its unusual metagenomic and genomic constitution.

(Copyright © 2017, Rights Managed by Nature Publishing Group)

 

 

学術機関が共闘 ELSEVIER購読を打ち切り

以下、Creative Commonsライセンスに基づく記事転載(出典元:エディテージ・インサイト)


 

60以上の学術機関がエルゼビア発行誌へのアクセスを失う(ドイツ)

スネハ・クルカルニ (Sneha Kulkarni) 2017年7月7日

ドイツの60以上の学術機関が、オランダの大手出版社エルゼビアとの購読契約を打ち切りました。これにより、数千人の研究者が同社発行誌へのアクセスを失うことになりました。

高額な購読料は、学術機関と出版社の間で生じている論戦の争点となっています。また、ドイツの学術機関は、エルゼビアへのコストの支払いを困難と感じています。こうした状況の中、ドイツの大学、公共図書館、研究機関は2014年、「Project DEAL」というコンソーシアムを結成しました。これは、大手学術出版社との2017年度のライセンス契約を、全国規模で締結することを目指すものです。しかしながら、エルゼビアとの協議は2016年12月に中断されたことが発表されました。同コンソーシアムは、エルゼビアからの提示が「オープンアクセス方針と公正な価格体系に応じるものでなかった」ため、それを拒否したと説明しています。この結果、交渉に関わったすべての学術機関が、12月31日を最後に、エルゼビアのジャーナルへのアクセスを失うことになりました。ゲッティンゲン大学は次のような声明を発表しています。「ジャーナルへのアクセスを失うことで研究や指導にどのような影響が出るかは、交渉に参加している誰もが十分に理解しています。それでも我々は皆、多くの研究機関が手を携えて圧力をかけることが、現状では、ドイツの科学コミュニティに利益をもたらす唯一の方法であるという強い信念を持っています」。一方、エルゼビアは、来年以降も交渉を続ける意向があることを表明しています。

多くの国が同様の問題に直面しており、高騰する購読料によって学術機関の運営が難しくなってきています。2016年12月初頭には、国立台湾大学(NTU)図書館が、高額な購読料を理由に、2017年以降のエルゼビアのScienceDirectジャーナルの購読を打ち切る予定であることを発表しました。購読料の高騰は、科学の発展を阻害しかねない深刻な問題であり、全世界で解決していかなければならない課題と言えるでしょう。

参考文献:

Thousands of German researchers set to lose access to Elsevier journals

本記事:60以上の学術機関がエルゼビア発行誌へのアクセスを失う(ドイツ)は元々エディテージインサイトに掲載されたものです。


参考

  1. Thousands of German researchers set to lose access to Elsevier journals (By Gretchen Vogel,  Science News Dec. 22, 2016 , 12:30 PM)

2017年採択新学術領域研究テーマと代表

2017年に新規で採択された新学術領域研究(研究領域提案型) (研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2022-03-31)が公表されました。

  1. 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 領域代表者  沈 建仁 岡山大学 教授
  2. 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 領域代表者  尾藤 晴彦 東京大学 医学(系)研究科(研究院) 教授
  3. 細胞社会ダイバーシティーの統合的解明と制御  領域代表者  藤田 直也 公益財団法人がん研究会
  4. 共創的コミュニケーションのための言語進化学 領域代表者 岡ノ谷 一夫 東京大学 総合文化研究科 教授
  5. 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 領域代表者  川村 賢二 国立極地研究所 准教授
  6. 予防を科学する炎症細胞社会学 領域代表者 松島 綱治 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授
  7. 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 領域代表者 立花 誠 徳島大学 先端酵素学研究所 教授
  8. 細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読 領域代表者  清水 重臣 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授
  9. 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 領域代表者 梅田 正明 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 教授
  10. 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ 領域代表者 倉谷 滋 国立研究開発法人理化学研究所
  11. 代謝アダプテーションのトランスオミクス解析 領域代表者 黒田 真也 東京大学, 理学(系)研究科(研究院) 教授
  12. 分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製 領域代表者  金井 求 東京大学 薬学研究科(研究院) 教授
  13. 化学コミュニケーションのフロンティア 領域代表者  掛谷 秀昭 京都大学 薬学研究科(研究院) 教授
  14.  重力波物理学・天文学:創世記 領域代表者  田中 貴浩 京都大学 理学(系)研究科(研究院) 教授
  15. 分子夾雑の生命化学 領域代表者  浜地 格 京都大学 工学(系)研究科(研究院) 教授
  16. ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 領域代表者 加藤 昌子 北海道大学 理学(系)研究科(研究院) 教授
  17. 次世代物質探索のための離散幾何学 領域代表者 小谷 元子 東北大学 理学(系)研究科(研究院) 教授
  18. 水惑星学の創成  領域代表者  関根 康人 東京大学 理学(系)研究科(研究院) 准教授
  19. 和解学の創成-正義ある和解を求めて 領域代表者  浅野 豊美 早稲田大学 政治経済学術院 教授
  20. トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 領域代表者  山口 真美 中央大学 文学部 教授

 

参考

  1. KAKEN科学研究費助成事業データベース 検索
  2. 科新学術領域研究(研究領域提案型)(文部科学省)

 

海外出張の保険料を科研費から支出?

海外出張のときの保険料は高額で、かなり懐が痛みます。ですから、学会発表や研究目的で行くのになぜそこは自腹を切らないといけないのか?という疑問、不満を持つ薄給の研究者は多いと思います。

ツイッターの議論をみると、海外出張に際して科研費による保険料の支出を認める大学や研究機関が結構あります。個人的なことなので科研費は使えませんという事務方の主張は、ローカルルールかもしれません。

 

参考

  1. 科研費の4つの費目についての質問 (文部科学省) 【Q4441】 海外への出張に係る海外旅行傷害保険料、査証(ビザ)の申請料や予防接種等を科研費から支出することは可能ですか? 【A】研究遂行上、必要であれば支出可能です。ただし、例えば、保険料においては、契約に当たって適正な掛け金となっているかなど、過度に高額な支出にならないように留意することが必要です。
  2. ローカル線に乗った研究者の皆様へ (衆議院議員 河野太郎公式サイト 2017.05.15):”ローカルルールの廃止と統一ルールへの統合について。ローカルルールを廃止できない大学の評価をどうするかについては文科省で検討中です。”

 

研究生活カテゴリーの記事一覧