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松本紘(前)京大学長が理研理事長に就任

理化学研究所の新理事長・松本紘氏による就任会見

11:10~ 質疑応答。
11:25 ニコニコ動画。STAP問題について。
13:45 日刊工業新聞。理事の顔ぶれについて。
16:35 弁護士ドットコム。STAP問題、小保方氏に対する評価について。
17:40 日経BP。STAP問題の理研の対応について。研究不正への対応について。まだ性善説でいくのか?
21:05 日本経済新聞。STAP問題は個人の責任なのか?そのような個人がいたら防ぎ得ないのか?CDBの今後の運営に関して。
25:15 産経新聞。アクションプランの踏襲において最も緊急で重要な課題は。京大総長時代の組織改革経験は理研でも役立つと思うか?理事が刷新されてSTAP問題経験者がいくなったがアクションプランを全うする自信のほどは?
29:15 共同通信。現場主義ということだが、CDBに行く予定は?研究費の返還は行われたのか?
30:35 朝日新聞。火中の栗を拾うような状況で理事長職を引き受けた気持ちは?具体策をいつごろまでにまとめるのか?ステークホルダーという表現もあったが、社会への還元を意識していくということだが、STAP問題などで行き過ぎた成果主義があったのではという指摘もあるが、どのような兼ね合いで進めていくのか??
34:40 読売新聞。現場をみていくにあたって、研究の特にどういう部分を見てみたいのか?今まで理研の外から見た理研のいいところ、悪いところ?
38:05 読売新聞。これまでの自身の研究経験と理研の研究内容があまりオーバーラップしないことに関しては。アクションプラン実現までのスピードは。
42:00 共同通信社。STAP細胞論文問題。未解明のまま調査終了したが、解明の再検討はあるのか。透明性、社会への説明、発信。ご自身の研究をどう進めたいとかあれば。
45:50 フジテレビ。野依前理事長と何か話しをされたのか。理研と京大の組織としての一番の違いは?
47:05 日本放送。STAP細胞問題。当時、京大総長としてのSTAP問題の受け止め方はどうだったのか。
48:25 科学新聞。京大における白眉プロジェクトのような、理研における若手育成のアイデアは?
49:50 読売新聞。科学の信頼を取り戻すために何をやる必要があるか。
52:30 フリーランス。不正が起きたときの事後処理。STAP細胞問題発覚後、不正調査を6項目に絞ったこと、再現実験を行ったことなどの対応に関して、個人的にどう評価していたのか。
54:15 東京新聞。STAP問題の対応で批判を招いたが、理研ブランドの現在の価値をどう認識しているか。
55:35 NHK。今の理研に足りない、欠けているものは?
56:55 共同通信。先生御自身のリフレッシュ方法、座右の銘。
58:50 東洋経済。世界で輝く理研であるために最低限これだけは必要というものは?

参考

  1. 理研:新理事長「胸張って研究できる体制を」(毎日新聞 2015年04月01日):”理研は1日、退任した野依良治前理事長(76)を相談役に任命したと発表。31日付で退任した川合真紀・前理事も、1日付で理事長特別補佐に就任した。”
  2. 研究不正再発防止をはじめとする高い規範の再生のためのアクションプランについて(理化学研究所 2014年8月27日):研究不正再発防止をはじめとする高い規範の再生のためのアクションプランについて、資料を公表いたします。
  3. 理研CDBセンター長に阪大・浜田氏 遺伝子発見で業績(朝日新聞DIGITAL 2015年1月29日):”理化学研究所は29日、STAP細胞論文問題を受け、組織再編した多細胞システム形成研究センター(CDB、神戸市)のセンター長に、大阪大の浜田博司教授(64)を内定したと発表した。就任は4月1日付。”
  4. 新理事長就任のお知らせ(理化学研究所 2015年4月1日):本日4月1日付で、野依良治前理事長の後任として、松本紘理事長が就任しましたのでお知らせいたします。
  5. 松本 紘: 京都から大学を変える (祥伝社 ISBN:9784396113629)
  6. 松本紘 新総長 「私は戦略を示す」(京都大学新聞 2008.10.01) :”10月より第25代京都大学総長に松本紘氏が就任し、新たな京大の運営体制がスタートした。国立大学法人化から4年半が過ぎたが、今なお大学には多くの変化が迫られている。その中で総長となる松本氏は今後の京大のあり方についてどのように考えているのか、話をきいた。”

コンピューター将棋ソフトPonanzaの実力

2015年4月4日(土)の電王戦FINAL第4局において村山慈明 七段と対戦するコンピューター将棋ソフトは「Ponanza(ポナンザ)」。

Ponanzaは2013年に行われた第2回電王戦に出場し、佐藤慎一四段と対戦して勝利しました。これにより、現役プロ棋士を破った初めてのコンピュータ将棋ソフトとして、歴史にその名を刻んでいます。

棋譜:
プロが負けた歴史的な1局

(ニコニコ静止画の棋譜。視聴にはアカウントが必要)

2013年第2回電王戦の結果(日本将棋連盟)

局数 プロ棋士 コンピュータ/開発者
第1局 阿部光瑠四段 習甦/竹内章
第2局 佐藤慎一四段 ponanza/山本一成
第3局 船江恒平五段 ツツカナ/一丸貴則
第4局 塚田泰明九段 Puella α/ 伊藤英紀
第5局 三浦弘行八段 GPS将棋/田中哲朗・森脇大悟 他

 

2014年の第3回電王戦では、最終局においてPonanzaは屋敷伸之九段と対戦。団体戦におけるいわば「大将戦」で将棋界のトップ棋士を破ったことにより、再び大きな衝撃を与えました。

棋譜 ⇒ <投了まで>第3回将棋電王戦第5局 屋敷伸之九段 対 ponanza <将棋棋譜速報>(将棋上達の探求ブログ 2014年04月12日)

 

2014年第3回電王戦の結果(日本将棋連盟)

局数 プロ棋士 コンピュータ/開発者
第1局 菅井竜也五段 習甦/竹内章
第2局 佐藤紳哉六段 やねうら王/磯崎元洋
第3局 豊島将之七段 YSS/山下宏
第4局 森下 卓九段 ツツカナ/一丸貴則
第5局 屋敷伸之九段 ponanza/山本一成

NHK 『サイエンスZERO』(サイエンスゼロ)ではこの対局に焦点を当てて、近年のコンピュータ将棋ソフトウェアとプロ棋士との戦い方の差を紹介しています。

サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」 – 2014-07-06 part 1

サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」 – 2014-07-06 part 2

サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」 – 2014-07-06 part 3

サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」 – 2014-07-06 part 4

サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」 – 2014-07-06 part 5

参考

  1. Ponanzaとは、山本一成が開発したコンピュータ将棋ソフトウェアである。(ニコニコ大百科)
  2. 山本 一成@Ponanza @issei_y

ついに人類がコンピューターに勝ち越すのか? 電王戦FINAL 第3局 稲葉陽 七段 vs 「やねうら王」 3月28日(土)午前10時開始

電王戦FINALは2回の対局を終えた時点で、予想外の人類2勝コンピュータ0勝。今週末3月28日(土) の第3局で稲葉陽 七段が 「やねうら王」 に勝てば、なんと人類が勝ち越しという快挙になります。何しろこれまでの人類の成績は、

2012年 第1回将棋電王戦 米長邦雄 永世棋聖がボンクラーズに敗れる
2013年 第2回将棋電王戦 プロ棋士の1勝3敗1引き分け
2014年 第3回将棋電王戦 プロ棋士の1勝4敗

と勝率で見る限り惨敗しています。近年はコンピュータ将棋ソフトが強くなりすぎて、もはや人間はコンピュータに勝てないのではという悲壮な空気が漂っていました。今年の電王戦での人類の二連勝は誰にも予想できなかったのではないでしょうか?

電王戦という舞台で繰り広げられるのは、人間対コンピューターの戦いだけではありません。価値観もプライドの持ち方も全く異なっていて、本来ならば相まみえることが決してなかったであろう棋士とプログラマーの異文化が激しく衝突する場でもあります。

第3局はコンピュータ将棋ソフト開発者の中でももっとも過激な発言で知られるやねうらお(磯崎元洋)氏。

第3局 稲葉陽 七段 vs 「やねうら王」

3月28日(土) 午前9時半よりニコニコ動画にて生中継
将棋電王戦FINAL公式ウェブサイト

参考

  1. 電王戦3局用のPVの撮影終わりました【中編】(やねうら王 2015年3月14日):”— おもてなし定跡を入れた理由というのは? 私「Ponanzaなんかはプロ棋士の定跡を早い段階で抜けるんですよね。中盤が長いほうが勝負どころが増えるので、棋力差がある場合、勝率が上が るからですね。しかし対局するプロ棋士の先生からすると『Ponanzaとやっていると(普段指さない戦型なので、普段のプロ棋戦で指す将棋での大局観 が)おかしくなりそう』という声があります。そこで、プロの棋譜にある指し手からだけの定跡を作成したのがおもてなし定跡です。」 — それは対局するプロ棋士側からすると舐められてると感じるのでは? 私「私にはその感覚はわかりませんね。」”
  2. 電王戦3局用のPVの撮影終わりました【後編その1】(やねうら王 2015年3月18日):”私「まあ、棋士に敬意を払うのであれば、もう少し開発者のほうにも敬意を払うべきだとは思いますね。」 — でも将棋ソフトの開発ってそんな年月かかってないじゃないですか。あちらは子供のころから将棋一筋ですよ? 私「いやいや。私とか、プログラミング歴37年ですよ?彼ら(今回の電王戦の出場棋士たち)が生まれる前からプログラムしているわけですよ?どっちが長いと思ってるんですか?」”
  3. 電王戦3局用のPVの撮影終わりました【後編その2】(やねうら王 2015年3月21日):”— いまのソフトでも研究すれば穴は見つかるものですか? 私「見つかりますね。私がこの八百長ルール(事前貸出ルール)で研究していいなら、100%ソフトに勝てますね。私にプロ並の棋力があればの話ですが。」”

電王戦FINAL参加5ソフト Apery Selene やねうら王 ponanza AWAKE

電王戦FINALを戦う5つのソフトウェアとその開発者を紹介します。これらの5個のソフトは、2014年11月1日~3日に行われた「第2回将棋電王トーナメント」で5位以上となり今回の電王戦FINALの出場権を獲得したツワモノたちです。

Aperyは昨年2014年に行われた第24回世界コンピュータ将棋選手権の優勝ソフトウェア。開発者の平岡拓也氏(@HiraokaTakuya)はAperyの実行ファイルやソースコードをブログで公開しています。

電王戦出場が決まる5位決定戦で、AperyはN4Sと対戦した。N4Sが振り飛車から強攻を仕掛けてきたのに対して、Aperyも強く応戦する。結果はAperyの勝ち。悲願の電王戦出場を決めた。cakes ドキュメント コンピュータ将棋 2015年3月13日 【 第6回】最強のドリームマッチ

Seleneは西海枝昌彦氏が開発。

やねうら王は磯崎元洋氏が開発。2013年の将棋電王トーナメント初出場でいきなり4位に入賞し2014年の電王戦に出場しています。当時の開発のいきさつを語ったインタビュー記事。

ベースとなる部分は3年前に作ったものなんですけど,そこにやね裏定跡とやね裏学習メソッドを追加するだけだから2~3日あれば出来るかと思ってたんで す。ところが,いざ電王トーナメントのエントリーが完了して3年前に書いたソースコードを引っ張りだしてきたら,当時,大改造しようと決意してソースコー ドを一から書きなおしている最中の状態でした。 エントリーした時点では,すでに建ってる家をリフォームするだけくらいの感覚で考えていたんですけど,実 際に取り組んでみたら,家は完全に解体された状態で「瓦礫だけしかないやん。いまから家を建てるところからやるのか!」と。このせいで,開発ではエライ目 に遭いましたけども。ドワンゴ・川上量生氏 x プログラマーのやねうらお氏 対談 「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」  4gamers.net 2013/12/24 

やねうら王の将棋ソフト作成の指針は非常に興味深いものがあります。

特徴1. やねうら未来定跡
やねうら王は人間が考えだしたいかなる定跡も搭載しない。
コンピューター自らが序盤で長時間考えることにより、生み出した独自の定跡(やねうら未来定跡)を使用。

特徴2. やねうら未来学習メソッド
やねうら王は人間が生み出したいかなる棋譜も参考にしない。
棋譜からの学習(評価関数のパラメーターの学習)のために人間の対局棋譜を用いていない。自己対局棋譜からのみ評価関数のパラメーターを学習する。

特徴3. やねうら未来探索メソッド
やねうら王は従来のいかなる将棋ソフトの流れも汲まない。
具体的にはBonanzaの評価関数における3駒関係、1手詰めルーチン・3手詰めルーチン、劣等局面の検出や、GPS将棋の詰将棋ルーチン、ボナンザメソッドなど、従来の将棋ソフトに見られるコンピューター将棋特有のあらゆるテクニックを一切用いない。
(2014年開催の電王トーナメントでのPR文より)

ponanzaを開発したのは山本 一成氏と下山 晃 氏。Ponanzaは「第2回 将棋電王戦」で「初めて現役のプロ棋士に勝利した将棋ソフト」となり注目を浴びました。さらに、「第1回 将棋電王トーナメント」で優勝して、初代「電王」の称号を獲得した強豪ソフトです。

AWAKEを開発したのは巨瀬亮氏。AWAKEは、今回の電王戦FINALの出場権をかけた「第2回将棋電王トーナメント」(2014年11月1~3日開催)で優勝しており、現在「電王」のタイトルを保持しています。

これまでのコンピュータ将棋の戦いの年表(一部)

1990年12月 第1回 世界コンピュータ将棋選手権

2012年1月14日 第1回将棋電王戦 米永邦雄永世棋聖 VS ボンクラーズ(結果:ボンクラーズが勝利)

2013年3月23日~4月20日 第2回将棋電王戦(結果:プロ棋士1勝、コンピュータ3勝、引き分け1)
2013年5月 第23回 世界コンピュータ将棋選手権(優勝:Bonanza)
2013年11月2日~4日 第1回将棋電王トーナメント(1位 ponanza, 2位 ツツカナ, 3位 YSS, 4位 やねうら王, 5位 習甦 第3回将棋電王戦の出場権獲得)

2014年3月15日~4月12日 第3回将棋電王戦 (結果:プロ棋士1勝、コンピュータ4勝)
2014年5月 第24回 世界コンピュータ将棋選手権(優勝:Apery)
2014年11月 第2回将棋電王トーナメント(1位 AWAKE, 2位 ponanza, 3位 やねうら王, 4位 Selene, 5位Apery 第4回将棋電王戦の出場権獲得)

2015年3月14日~4月11日 第4回将棋電王戦(FINAL)

参考

  1. 「第2回将棋電王トーナメント」の結果“電王”の称号は「AWAKE」に決定(LIVEDOOR NEWS 2014年11月5日):”株式会社ドワンゴおよび公益社団法人日本将棋連盟は、11月1日(土)から3日(月・祝)までの3日間、TOIRO(埼玉県さいたま市)にて、最強のコンピュータ将棋ソフトを決める「第2回将棋電王トーナメント」を開催した。”
  2. 第24回世界コンピュータ将棋選手権
  3. ドキュメント コンピュータ将棋【 第4回】Apery開発者、平岡拓也 :”平岡もいつかは将棋のプログラムを書いてみたいと思っていた。そして2009年、Bonanzaのソースコードが公開された。多くの開発者と同様、平岡にとってもこれが大きなきっかけとなった。 ”
  4. コンピューター将棋選手権で市大チームが世界一!(Hijicho 2014-6-5):”Aperyチームの平岡拓也さん (工・2008年3月卒) 、杉田歩准教授 (数理工学研究室) 、 山本修平さん (修士1年・数理工学研究室在籍) にお話を伺った。”
  5. 【 第5回】コンピュータ将棋界のニューヒーロー(cakes ドキュメント コンピュータ将棋 2015年3月13日) :”2014年のコンピュータ将棋選手権では、平岡だけではなく、大阪市立大・数理工学研究室の先生である杉田歩(准教授)と、学生の山本修平の3人のチームで選手権に参加した。 … すべての対局が終わった。5勝2敗でAperyとponanzaが並んだ。そして星取りの関係で、順位が上回ったのはAperyだった。Aperyが大逆転で、初優勝を決めた。
  6. 電王戦,なんで勝てたんですか?――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第15回は,「BM98」を開発した伝説的なプログラマー・やねうらお氏がゲスト(4gamer.net):”5歳からプログラミングを始め,学生時代はゲームの解析を趣味としていたというやねうらお氏ですが,そんな氏が「BM98」の開発に至った経緯,あるいは電王トーナメントへの参加を決めたいきさつなど,さまざまなことについて語ってもらいました。”
  7. やね裏評価関数とは何か?(Bonanzaソース完全解析ブログ 2014-10-20) :”そうすると、Bonanzaのfv.binをごちゃごちゃやると全く等価な後者の形式の評価関数パラメーターが導けて、KKに応じた定数項がただ一つだけ余分に出てくることが(数学的に)証明できました。これが「やね裏評価関数」の正体です。”
  8. コンピューター将棋の定跡をデザインする (やねうらお – ノーゲーム・ノーライフ 2014-11-14 )”本電王戦はソフトを事前貸出をしてソフトの穴を探すためにプロ棋士側が研究するという、非生産的な行為にプロ棋士の多くの時間が消費される。.. このようなプロ棋士側の非生産的な行為をなんとか生産的な行為に変換できないものかと考えて誕生したのが、やねうらおもてなし定跡である。”
  9. 初代電王、電王戦で活躍した将棋プログラム「Ponanza」が商品化(CNET JAPAN 2014/05/12)(https://book.mynavi.jp/info_news/ponax/
  10. プロ棋士も「強くなりすぎ」と絶句 将棋電王戦FINAL出場ソフトが決定(日刊SPA!2014.11.06):”今回「電王」の称号を獲得したAWAKEは、ディフェンディング・チャンピオンである初代電王Ponanzaを逆転で下しての初優勝。開発者である巨瀬 (こせ)亮一氏は、プロの養成機関である奨励会に在籍していた経験があり、プロ棋士を目指していた人間が、将棋ソフト開発でプロ棋士の前に立ちはだかると いう構図になる。”

電王戦FINAL開幕 斎藤五段がAperyを破る

「将棋電王戦FINAL」がついに開幕しました。第1局は斎藤慎太郎五段とAperyとの対決。「完勝」と言える内容で斎藤五段がAperyに勝利しました。

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (1/8)

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery  (2/8)

Aperyが予想外の手を指してしまったようで、解説者が激しく動揺してしまいました。

【将棋】 「りゅ、りゅ、りゅ、龍を取ったんですかぁ!?」 予想外の手に動揺を隠せない村田顕弘五段 【将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery】

デンソーの開発したロボットアーム「電王手さん」の進化した点は、駒を成る時に駒をいったん置いて裏返しに持ち直すということをしなくても良くなったことです。今回は、駒を持ったまま向きを反転させる機能が実装されました。

【将棋】電王手さん、華麗に歩を成る

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (3/8)

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (4/8)

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (5/8)

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (6/8)

今回の対局の棋譜。

20150315SaitoVSApery
(将棋電王戦FINAL第1局斎藤慎太郎五段対Aperyの棋譜を紹介しているブログ「将棋上達の探求」へのリンク(上記画像をクリック))

負けが確定した後もAperyが長時間にわたって王手を続けるなどして投了せずに最後まで指したことをネット上で「棋譜を汚す行為」だと批判する声もあるようです。しかし、これに関してはApery開発者の平岡氏は対戦前日のブログで

明日斎藤慎太郎五段とAperyが対局する訳だけれど、
Aperyは負ける時は最後の一手まで指します。
開発者に投了の権利があるらしいですが、どんな勝ち目の無い状況になろうとも、途中で投げません。
一部の将棋ファンからしたら退屈になるかも知れませんが、
もしもプログラムに興味を持ってくれた人がいるなら、、、
負ける直前のコンピュータの特徴的な手は新鮮に映るかもかも知れません。
折角棋譜が残るのだから、コンピュータの特徴的な手を残したいと思います。
それに、Aperyと斎藤五段が戦う訳で、私が間に入って投了するというのは気が引けます。
斎藤五段とは今日少しお話できました。その際に一応先にことわっておいた方が良いと思って、
すみませんが負ける時は最後の一手まで指しますと伝えておきました。
http://d.hatena.ne.jp/hiraoka64/

と事前に断っています。この情報は解説者にも伝わっていたようです。

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (7/8)

以下の動画は、対局終了直後の両者へのインタビューおよび、メディアによる質疑応答を含めた記者会見の模様など。

将棋電王戦FINAL 第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery (8/8)

コンピュータ将棋ソフトウェアの開発者はソフトを事前に対戦相手に提供しており、棋士は対戦するソフトウェアを十分研究して対決に臨んでいます。斎藤慎太郎五段とApery開発者平岡拓也氏の対戦にかける意気込み。

参考

  1. 第4回電王戦第1局 Aperyの不可解なミスと斎藤五段の完璧な準備(遠山雄亮のファニースペース 2015-03-16):”斎藤五段が完璧な準備でAperyに完勝。団体戦としては幸先の良い1勝をあげました。この将棋は35手目▲2一飛成の局面が大きなポイントでした。ここでAperyは△4四角。おそらく敗着となった一手です。△4七歩成と指すべきでした。”
  2. 「将棋電王戦FINAL」斎藤五段が完勝でプロ棋士1勝目「準備したことが出せた1局」(マイナビニュース2015/03/14)
  3. 電王戦FINAL現地からの声 : 1手目: ▲7六歩から116手目△投了 までの全指し手
  4. 電王戦FINAL公式サイト(ニコニコ動画)
  5. 電王戦FINALへの道 : 【電王戦FINALへの道】#1「五人の棋士」から#75 「五人で戦う電王戦FINAL」まで、参戦する5人の棋士と5人のソフト開発者を対局前の半年間追いかけたドキュメンタリー動画。
  6. Apery のログ、実行ファイル、ソースコード(buoyance 2015-03-16):Aperyの開発者である平岡拓也氏がブログでAperyのソースコードなどを公開されています。ちなみにAperyは今回の電王戦FINALでは斎藤慎太郎五段に惜しくも破れましたが、第24回世界コンピュータ将棋選手権(2014年5月3日~5日開催)で優勝したソフトウェアです。

2001年ノーベル賞受賞 野依良治博士(1938-) 研究の着想

光学異性体の片方のみを人工的に合成することは不可能という常識

人間の右手と左手の関係と同様,鏡に映したように対称的な化合物(キラル分子,光学異性体)がある。生物は酵素などを使って有用なキラルだけを巧みに作り分けているが,ふつうの人工合成では両者が半分ずつできてしまう。…一方が薬になっても,もう一方が毒になってしまうことがよくある…典型的な例が1950年代に睡眠薬として開発された「サリドマイド」だ。この物質の右手型は鎮静作用があって有用だが,左手型には奇形を起こす作用がある。工業合成では混合物しか作れないため,妊婦が服用して胎児に障害を起こし,悲惨な薬害を招いた。

19世紀のフランスの化学者パスツールはおよそ150年前,人工合成で別々の型をつくり分けるのは無理だと唱え,こうした“常識”を覆そうと果敢に挑む研究者は1960年代当時もまれだった。

野依氏は1960年代を振り返り,「有用物質の合成は当時,自然界の反応に任せておけばいいという考えが支配的でしたが,それに我慢がならなかった」と回顧している。ノーベル化学賞 信念でつかんだ化学の夢 日経サイエンス  2001年12月号

1966年 最初の不斉合成の触媒を発見

「このときに偶然にみつけた不斉触媒は、銅の原子にキラルな有機分子を配位させた分子です。実は当時、僕は合成を目的に研究をしていたのではなくて、反応の機構を調べていて、偶然見つけたのです。」(ネイチャーインタフェイス野依良治博士ノーベル賞受賞記念インタビュー)

In 1966, when I was in H. Nozaki’s laboratory at Kyoto, we discovered the first
example of asymmetric catalysis using a structurally well-defined chiral transition
metal complex[8]. This finding resulted from research done for an entirely
different purpose which was to elucidate the mechanism of carbene
reactions. (Nobel Lecture, December 8, 2001 by RYOJI NOYORI)

「この発見はほとんど評価されませんでしたね。その理由はふたつあります。ひとつ目は、反応機構が一般的でない特殊な反応だったこと。ふたつ目は、右と左の識別が55:45にすぎなかったことです。50:50から少しふれたけれどもそれはプラクティカルではなかった。原理はみつけたけれど、物質としてはゴミみたいなものだったわけです。そこで僕はこのふたつの反省を活かそうと考えました。つまり一般性の高い反応を作り、さらにうんと識別のよい触媒を作ろうとしたのです。」(ネイチャーインタフェイス野依良治博士ノーベル賞受賞記念インタビュー)

 1980年 不斉触媒BINAPの開発に成功

「不斉合成の触媒は、金属原子を有機化合物に配位させた形にデザインします。触媒となる有機化合物BINAPは六角形ばかりでできていて非常にシンプル、かつ美しい。…ついに七八年、BINAPを作れるようになり、八〇年にアメリカの学会誌に発表することができました。」(ネイチャーインタフェイス野依良治博士ノーベル賞受賞記念インタビュー)

In 1980, six years after the start, thanks to the unswerving efforts of my young associates, we published our first work on asymmetric synthesis of amino acids of high enantiomeric purity, up to 100% ee, together with the X-ray crystalline structure of a cationic BINAP–Rh(norbornadiene) complex. (Nobel Lecture, December 8, 2001 by RYOJI NOYORI)

1986年 ロジウム錯体からルテニウム錯体へ

「ある程度の予測をもって、一九八六年RhからRuに換えたのです。これは大ブレークスルーをもたらしましたね。Ruにしたら炭素の二重結合に使えるように なり、そしてさらに重要なのが、炭素―酸素の二重結合に使えてキラルなアルコールができるようになったのです。これによって医薬品の開発に大きく貢献する ことができました。」(ネイチャーインタフェイス野依良治博士ノーベル賞受賞記念インタビュー)

A major breakthrough occurred when we devised the BINAP–Ru(II) dicarboxylate
complexes in 1986. (Nobel Lecture, December 8, 2001 by RYOJI NOYORI)

参考

  1. Nobel Lecture by Ryoji Noyori (47 minutes):ノーベル賞受賞記念講演動画
  2. A. Miyashita, A. Yasuda, H. Takaya, K. Toriumi, T. Ito, T. Souchi, R. Noyori. Synthesis of 2,2′-bis(diphenylphosphino)-1,1′-binaphthyl (BINAP), an atropisomeric chiral bis(triaryl)phosphine, and its use in the rhodium(I)-catalyzed asymmetric hydrogenation of .alpha.-(acylamino)acrylic acids. J. Am.Chem. Soc. 1980, 102, 7932.
  3. 「高機能性金属錯体の設計と応用」 配分額:総額 1600千円、研究種目:特定研究、研究期間:1985年度~1986年度   代表者:野依 良治 名大・理学部・教授 :”いわゆる生体関連物質においては二種の光学異性体のうち一方だけが目的とする有効な活性を示すことが多い。生物ないし生物化学的手法の利用とともに、優れたエナンチオ選択的反応の開拓は学術的および実社会的要請から焦点の一つとなっている。とくに微量の金属錯体触媒の化学機能を利用する不斉触媒反応はこの観点から理想的なプロセスと言える。本研究では、化学反応において高度な三次元空間識別機能をもつ典型元素化合物、遷移元素錯体の合理的設計とその還元機能開拓に問題をしぼり、全く新しい概念と方法論をもって目的を達成した。以下、具体的に述べる。1.配位子あるいは修飾剤には、【C_2】対称群に属する軸性キラリティー分子の構造化学的特徴を活用し、中心金属にはロジウム,ルテニウム,アルミニウムを用いて、高いキラリティー認識能を有する金属錯体の設計を行ないその合成を実現した。具体的には、ビナフチル基を有するジホスフィン(BINAP)の新合成法を確立し、そのロジウムおよびルテニウム錯体の合成と構造解析を行った。同錯体を用いるα-アシルアミノアクリル酸,アリルアルコール,エナミド類の触媒的不斉水素化反応とアリルアミンの不斉-1,3-水素移動反応に成功した。1,3-水素移動に関して新しい反応機構を見出した。 2.光学活性ビナフトール修飾アルミニウムヒドリド錯体(BINAL-H)による各種カルボニル化合物の高選択的不斉還元に成功し、その一般性の確立と反応機構の考察を行なった。 3.上記錯体を用いて、プロスタグランジン,各種テルペン,アミノ酸誘導体,イソキノリンアルカロイドの合成に成功した。本研究費は目的達成のために必要不可欠な反応試剤,重溶媒,化合物資材の購入に有効に活用した。本研究補助金により所期の目的は完全に達成されたことを報告したい。” (科学研究費助成事業データベース 研究課題番号:61211013 研究概要(最新報告))
  4. 「高機能性金属錯体の設計と応用」 配分額:総額1700千円、研究種目:特定研究、研究期間:1985年度、研究代表者:野依良治 名古屋大学・理・教授 :”有用物質の効果的供給を本来の使命とする化学合成においては、各単位反応の高選択性の獲得の重要性は言をまたない。いわゆる生体関連物質においては二種の光学異性体のうち一方だけが目的とする有効な活性を示すことが多い。古典的なラセミ体の光学分割は一般的には賢明な方法とは言い難い。発酵法、固定化酵素法などの生物化学的手法の利用とともに優れたエナンチオ選択的反応の開拓は、学術的および実際社会的要請から必要不可欠となっている。金属錯体は典型的な分子機能体であり、様々な組織構造が可能であるが、中心金属に有機配位子分子、イオン等が調和してはじめて独特の化学的機能を発揮する。本研究では、方法論的には「【C_2】キラリティーをもつ軸性分子不斉化合物の利用」を、戦略的には「単一活性種によるキラリティー認識」、「分子機能体構造の動的しなやかさ」という従来例をみない独創的な概念を機軸にして、高機能性典型金属および遷移金属錯体の設計と合成に焦点をおき、特にそのエナンチオ選択的還元機能開拓に問題点をしぼり研究を行ってきた。その結果、光学活性ビナフトール修飾アルミニウムヒドリド錯体(BINALH)によるカルボニル化合物類の還元においては従来比類ない高エナンチオ面識別を観察し、その不斉誘導機構の考察とともに、プロスタグランジン合成などへ有効に利用することができた。ロジウム触媒不斉水素化反応の成否の鍵を握る軸性二座配位リン化合物であるビナフチル基を含有するジホスフィン(BINAP)とそのロジウム錯体の合成に成功し、α-アシルアミノ酸類の不斉還元においても極めて高い選択性を獲得することができた。なお本触媒はアリルアミン類の高選択的不斉1.3水素移動にも有効である。本研究費は課題研究推進の原動力ともいえる備品類および消耗品の購入のために有効に使用された。補足部分については本研究室の現有設備を利用した。所期の目的は完全に達成されたことを報告したい。” (科学研究費助成事業データベース 研究課題番号:60219012 研究概要(最新報告))
  5. キラルな金属錯体を触媒とする不斉合成反応(化学と生物 Vol.29,No.5、pp337-344)(PDFリンク)
  6. 鏡像体過剰率(きょうぞうたいかじょうりつ、enantiomeric excess)とはキラルな化合物の光学純度を表す言葉で ee と略される。ee は多い方の物質量から少ない方の物質量を引き、全体の物質量で割った値で表される(多い方の比から少ない方の比を引いても良い)。ラセミ体は2つのエナンチオマーの1:1の混合物であるから、 ee は0%である。(ウィキペディア 鏡像体過剰率)
  7. 有機合成化学特論 キラルホスフィンからBINAPまで 2001ノーベル化学賞を題材に (大学院講義2007 スライド資料PDFリンク)
  8. ノーベル化学賞・野依良治教授の業績(1)(有機化学美術館):鏡像体、不斉炭素、キラル、水素添加、金属触媒、ロジウム
  9. ノーベル化学賞・野依良治教授の業績(2)(有機化学美術館):基質特異性、BINAP、配位子

人間とコンピュータとの戦い 将棋電王戦FINAL 2015年3月14日より開催

5人のプロ将棋棋士と5つのコンピュータ将棋ソフトによる団体戦「将棋電王戦FINAL」が2015年3月14日(土)から始まります。株式会社ドワンゴと日本将棋連盟が主催するもので今年で4回目となりますが、FINALという言葉が示す通り、棋士とコンピュータ将棋ソフトを対戦させる方式は今年度で最後となります。コンピュータ将棋の代指しを担当するのはデンソーの子会社デンソーウェーブが開発したロボットアーム「電王手さん」。

対局は毎週土曜日に行われ、対局開始時刻は全局とも午前10時。ニコニコ動画で生中継されます(番組開始は9:30)。

大盤解説会が全局を通じてニコファーレで開催されるほか、第1局~第4局に関しては各対局会場近くの現地でも同時開催されます。

第1局 斎藤慎太郎 五段 vs 「Apery」 3月14日(土) 対局会場:京都・二条城
大盤解説会場:
京都烏丸コンベンションホール(解説:北浜健介八段、村田顕弘五段/聞き手:香川愛生女流王将、安食総子女流初段)
ニコファーレ(解説:鈴木大介八段、木村一基八段/聞き手:室谷由紀女流初段、貞升南女流初段)

第2局 永瀬拓矢 六段 vs 「Selene」 3月21日(土) 対局会場:高知・高知城
大盤解説会場:
高知城ホール(解説:瀬川晶司五段、佐々木勇気五段/聞き手:熊倉紫野女流初段、伊藤沙恵女流初段)
ニコファーレ(解説:屋敷伸之九段、広瀬章人八段/聞き手:本田小百合女流三段、井道千尋女流初段)

第3局 稲葉陽 七段 vs 「やねうら王」 3月28日(土) 対局会場:北海道・五稜郭
大盤解説会場:
函館金森ホール(解説:千葉幸生六段、遠山雄亮五段/聞き手:竹部さゆり女流三段、室田伊緒女流二段)
ニコファーレ(解説:糸谷哲郎竜王、深浦康市九段/聞き手:山田久美女流四段、安食総子女流初段)

第4局 村山慈明 七段 vs 「ponanza」 4月4日(土) 対局会場:奈良・薬師寺
大盤解説会場:
現地会場未定(解説:豊川孝弘七段、千田翔太五段/聞き手:村田智穂女流二段、室田伊緒女流二段)
ニコファーレ(解説:佐藤康光九段、森下卓九段/聞き手:山口恵梨子女流初段、貞升南女流初段)

第5局 阿久津主税 八段 vs 「AWAKE」 4月11日(土) 対局会場:東京・将棋会館
大盤解説会場:ニコファーレ(解説:森内俊之九段、藤井猛九段/聞き手:香川愛生女流王将、藤田綾女流初段)

参考

  1. 将棋 電王戦FINAL 人類の、けじめの戦い。 (ニコニコ動画)
  2. 『将棋電王戦FINAL』対局会場の発表 二条城、高知城、五稜郭、薬師寺、将棋会館で開催決定 大盤解説会は現地とニコファーレの2か所で同時開催 (日本将棋連盟 2015年3月 5日 更新)
  3. 電王戦最新情報、概要、電王戦過去の結果(日本将棋連盟)
  4. 平岡 拓也@HiraokaTakuya:将棋ソフト「Apery」開発者のTWITTERサイト
  5. 山本 一成@Ponanza@issei_y:将棋プログラムPonanzaの作者のTWITTERサイト
  6. やねうら王ウェブサイト
  7. 進化したロボットアーム”電王手さん”は成駒再現「将棋電王戦」にデンソー再び(マイナビニュース 2015/03/05)
  8. 2015年春「将棋電王戦FINAL」開催(日本将棋連盟2014年8月29日):”将棋のプロ棋士と最強コンピュータ将棋が対戦する 「将棋電王戦」 を2015年の3月から4月にかけて5対5の団体戦形式で開催すると同時に、4回目となる同対局を「将棋電王戦FINAL」と題し、2015年をもって終了することを発表しました。2016年からは、これまでの電王戦に代わる棋戦として、人間とコンピュータ将棋がペアを組んで対戦する「電王戦タッグマッチ」を本格開催することに決定しました。
  9. コンピューター将棋選手権で市大チームが世界一!(HIJICHO 2014-6-5):”2014年5月3日~5日に千葉県で行われた第24回世界コンピューター将棋選手権で大阪市立大学数理工学研究室・Apery (エイプリー) チームが優勝し、世界一という偉業を達成した。本大会は将棋プログラム同士による最強を競う大会である。Aperyチームの平岡拓也さん (工・2008年3月卒) 、杉田歩准教授 (数理工学研究室) 、 山本修平さん (修士1年・数理工学研究室在籍) にお話を伺った。”
  10. 第24回世界コンピュータ将棋選手権 参加チーム:コンピュータ将棋協会(CSA)主催。将棋プログラム同士の対局
  11. 第3回将棋電王戦全5局を総括。「1勝4敗」の意味するものとは?(日刊SPA 2014.04.20):”2014年4月12日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する団体戦『第3回 将棋電王戦』が閉幕した。最終結果はプロ棋士側の1勝4敗で、昨年の『第2回』と合わせると2勝7敗1引き分け(持将棋)と大きく負け越し。現在のコンピュータの実力は、プロ棋士の平均どころか、間違いなくトップクラスと言ってよいものであることは明らかだ。”
  12. 「第3回将棋電王戦」屋敷九段が敗北、プロ棋士側が1勝4敗で昨年の成績を下回る(マイナビニュース2014/04/12):”昨年の「第2回将棋電王戦」の1勝3敗1分の成績を下回る結果となった。”

大学入学センター試験は廃止、大学入学試験制度を抜本的に改革

文部科学省の中央教育審議会は、平成26年12月22日に「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜 の一体的改革について」という答申を取りまとめました。、現行の大学入試センター試験を廃止して、新たな試験制度を導入するなど非常に大きな転換を図ろう とするものです。

教育改革を行う場合、そもそもどのような人材を育てたいのかを明確にする必要があります。

高等学校教育、大学教育を通じて育むべき「生きる力」を、それを構成する「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」それぞれについて捉え直すと、以下のように考えることができる。

① 豊かな人間性
高等学校教育を通じて、国家及び社会の責任ある形成者として必要な教養と行動規範
を身に付けること。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、国、地域
社会、国際社会等においてそれぞれの立場で主体的に活動する力を鍛錬すること。

② 健康・体力
高等学校教育を通じて、社会で自立して活動するために必要な健康・体力を養うととも
に、自己管理等の方法を身に付けること。大学においては、それを更に発展・向上させ
るとともに、社会的役割を果たすために必要な肉体的、精神的能力を鍛錬すること。

③ 確かな学力
学力の三要素を、社会で自立して活動していくために必要な力という観点から捉え直
し、高等学校教育を通じて(ⅰ)これからの時代に社会で生きていくために必要な、「主体
性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」を養うこと、(ⅱ)
その基盤となる「知識・技能を活用して、自ら課題を発見しその解決に向けて探究し、成
果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」を育むこと、(ⅲ)さらに
その基礎となる「知識・技能」を習得させること。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、これらを総合した学力を鍛錬すること。

本答申における「学力」とは、上記の三要素から構成される「確かな学力」のことを指す。なお、特に「多様性」については、生徒、学生に、多様性を受容し尊重する力を
育んでいく必要があるが、そのためには、高等学校や大学の側において、多様な生徒、学生が多様な環境の中でともに学ぶことのできる場を用意する必要がある。
(中略)
また、グローバル化の進展の中で、言語や文化が異なる人々と主体的に協働していくためには、国際共通語である英語の能力を、真に使える形で身に付けることが必要であり、単に受け身で「読むこと」「聞くこと」ができるというだけではなく、積極的に英語の技能を活用し、主体的に考えを表現することができるよう、「書くこと」「話すこと」も含めた四技能を総合的に育成・評価することが重要である。また、英語のみならず、我が国の伝統文化に関する深い理解、異文化への理解や躊躇交流する態度などが求められることにも留意が必要である。(答申6-7ページ)

ここで示された人間像はまさに科学者になるために必要なものです。現行の高校教育、大学入試、大学教育をくぐってきた研究者は、非常に恵まれない環境で育ってきたということでしょうか?

現行の高校教育、大学教育、大学入試制度の何が問題なのでしょうか?一口に高校、大学、と言っても生徒や学生の学力には非常に大きな幅があるため、答申では「選抜性が高い大学」と「選抜性が中程度の大学」といった表現を用いて、個々のケースを分析しています。

学校の教育方針が選抜性の高い大学への入学者数を競うことに偏っている場合には、高等学校教育が、受験のための教育や学校内に閉じられた同質性の高い教育に終始することになり、多様な個性の伸長や幅広い視野の獲得といった、多様性の観点からは不十分なものとなりがちである。こうした教育では、大学入試に必要な知識・技能やそれらを与えられた課題に当てはめて活用する力は向上させられたとしても、自ら課題を発見し解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力や、主体性を持って、多様な人々と協働しながら学んだ経験を生徒に持たせることはほとんどできない。そうした生徒がそのまま選抜性の高い大学に入学した場合、一定の知的な能力を持っていたとしても、主体性を持って他者を説得し、多様な人々と協働して新しいことをゼロから立ち上げることのできる、社会の現場を先導するイノベーションの力を、大学において身に付けることは難しい。(答申4ページ)

ペーパーテストで測れるのが人間の能力のごくごく一部であることは間違いないでしょう。

大 学入学者選抜については、前述のように、知識の記憶力などの測定しやすい一部の能力や、選抜の一時点で有している能力の評価に留まっていたり、丁寧な評価 よりも学生確保が優先されるなど、高等学校教育で培ってきた力や、これからの大学教育で学ぶために必要な力を評価するものとなっていない。そうした背景に は、年齢、性別、国籍、文化、障害の有無、地域の違い、家庭環境等の多様な背景を持つ高校生一人ひとりが、高等学校までに積み上げてきた多様な経験や能力 を度外視し、18歳頃における一度限りの一斉受験という画一化された条件において、知識の再生を一点刻みで問う問題を用いた試験の点数による客観性の確保 を過度に重視し、そうした点数のみに依拠した選抜を行うことが「公平」であるという、従来型の「公平性」の観念が社会に根付いていることがあると考えられ る。(5ページ)

しかし大学入試に要求される公平性を考えたときに、ペーパーテストほど公平なものはありません。人間が人間を選ぶ面接試験でどれだけ公平性が確保できるのでしょうか?実は、人生における最初で最後の、全ての人にとって最も公平な機会が大学入学試験(ペーパーテスト)だったという見方もできます。

ペーパーテストは知識の記憶力を測定しているとか、受験テクニックがないとだめとかまことしやかに言われますが、それはテストそのものよりもむしろ勉強のやり方に問題があります。同じ問題を解くにしても、暗記や(ありもしない)「受験テクニック」に頼るより、その場で問題に向き合って、自分の頭で考えて解くような学習を普段から心がけたほうが楽ですし、そうしている生徒のほうが結果的に良い成績を収めるものです。

センター試験が廃止され、代わりに”「思考力・判断力・表現力」を中心に評価する”(答申10ページ)新テストとして、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)が導入される予定です。大学入学者選抜では、この新テスト導入だけでなく、さらに多様な資料を選抜時の判断材料として利用することを大学に要求しています。

具体的な評価方法としては、下記②に示す「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の成績に加え、小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、活動報告書、大学入学希望理由書や学修計画書、資格・検定試験などの成績、各種大会等での活動や顕彰の記録、その他受検者のこれまでの努力を証明す る資料などを活用することが考えられる。「確かな学力」として求められる力を的確に把握するためには、こうした多元的な評価尺度が必要である。各大学はその教育方針に照らし、どのような評価方法を組み合わせて選抜を行うかを、応募条件として求める「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の成績の具体的提 示等を含め、アドミッション・ポリシーにおいて明確に示すことが求められる。その際、英語については、高等学校教育において育成された「聞くこと」「話す こと」「読むこと」「書くこと」四技能を、大学における英語教育に引き継いで確実に伸ばしていくことができるよう、アドミッション・ポリシーにおいても四技能を総合的に評価することを示すこととし、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における英語の扱いも踏まえつつ、四技能を測定する資格・検定試験 の更なる活用を促進すべきである。(12ページ)

大学入試で面接、集団討論、プレゼンテーションの配点が高いと、おとなしい性格の人や人前で緊張しやすい人は不利になるかもしれません。

新しい大学入学希望者学力評価テスト(仮称)がどのようなものになるのか、その青写真が答申では示されています(下では一部を紹介)

「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の在り方
◆ 「知識・技能」を単独で評価 するのではなく、「知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」 (「思考力・判断力・表現力」)を中心に評価
◆ 「教科型」に加えて、現行の教科・科目の枠を越えた「思考力・判断力・表現力」を評価するため、「合教科・科目型」「総合型」の問題を組み合わせて出題す る。… 将来は「合教科・科目型」「総合型」のみとし、教科・科目に必要な「知識・技能」と「思考力・判断力・ 表現力」を総合的に評価することを目指す。
◆ 多肢選択方式だけではなく、記述式を導入
◆ 年複数回実施
◆ 「1点刻み」の客観性にとらわれた評価から脱し、… 段階別表示による成績提供
◆ CBT方式での実施
◆ 特に英語については、四技能を総合的に評価できる問題の出題(例えば記述式問題など)や民間の資格・検定試験の活用により、「読む」「聞く」だけではなく 「書く」「話す」も含めた英語の能力をバランスよく評価
◆ 選抜性の高い大学が入学者選抜の評価の一部として十分活用できる水準の、高難度の出題を含む
◆ 社会人等を含め誰でも受検可能
◆ 入学希望者の経済的負担や受検場所、障害者の受検方法を考慮

 センター試験では、そもそも思考力や論理的な判断力などを問うために十分練られた問題が出題されてきたわけで、思考力を判断するのはセンター試験ではできないので新テストを作るといわんばかりの表現は、ミスリーディングです。解答者によく考えさせるような良問を出す大学もあれば、問題のための問題でしかな くて解くのも時間の無駄という問題を出している大学もあります。そういう中にあって、センター試験は良問が揃っているといえるでしょう。これをわざわざ廃止して別のテストを導入する必要性が明確ではありません。

大学がペーパーテスト以外の多様な尺度で受験生を選抜するにしても、それが学力の低下と引き換えになっては困ります。少なくとも、将来研究職や技術職に就く人には一定の水準の学力が要求されます。また、大学入学試験で有利になるからという理由でボランティアをやったり、何か一芸に秀でるように習い事をしたりするのは全くお勧めできないことですが、入試改革にあわせてそのような風潮が今後広まってしまうかもしれません。

多様な生徒を受け入れるためのAO入試のはずが、「AO入試突破専用のワンパターンな思考法」しか持たない学生ばかり集まってしまったら本末転倒です。「ペーパーテストでしか能力を発揮できない頭の良さ」を持った学生ばかりという議論と大差なくなります。

参考

  1. 新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号)(文部科学省 中央教育審議会 平成26年12月22日)
  2. 【アンケート結果】センター試験廃止に賛成or反対? (教員STATION 2014/02/21):”在学中に複数回の試験を行うことで、生徒が部活動などに集中することができなくなり、受験勉強ばかりの学校生活になってしまう恐れはあるという意見が出ています。”
  3. 「万能細胞」小保方晴子さんは早稲田大理工卒 出身者は「私大初のノーベル賞だ」「慶応に一矢報いた」大はしゃぎ(JCASTニュース 2014/1/30):”多様な人材を入学させる機会として各大学が採用している「AO入試」だが、一芸に秀でてはいるものの授業についていく学力のない人物が「もぐりこむ」仕組みだとして批判的な見方もある。”
  4. 受験を知らない子供たち、懸念は学力低下より突破力 (東洋経済2011年01月26日):”基礎学力の低下も確かにあるが、企業の採用担当者が首をかしげるのは、コミュニケーション能力や競争心のなさ.”
  5. 大学にとって必要悪以下のAO・一芸入試学力のない学生を大学に入れることの危険性を認知せよ (JBPRESS 2014.12.05):”研究倫理崩壊事件の類はすべからく、そういう基礎能力のない人、本来研究職にいてはいけない種類の人間、独自の開発能力に欠ける人材が、何か作ったようなポーズを取るウソの上に発生していることに、注意しなければなりません。”
  6. 日本のAO入試はなぜ上手くいかないのか(人類応援ブログ 2014年11月25日):”しかし問題なのは、この「履歴書のキラキラ」がお金で買えてしまう構造を持っていることです。”
  7. AO義塾:”AO入試において、慶應合格者数 塾・予備校No.1へ!(当塾調べ、2013年11月現在)”
  8. リメディアル教育(高等学校課程の補修教育に限る)について アンケート調査回答票(内閣府)   1.北海道大学~23.東京外国語大学  24.東京学芸大学~45.愛知教育大学 46.名古屋工業大学~68.香川大学  69.愛媛大学~86.政策研究大学院大学
  9. 名古屋大学 教養教育院 e-learning サイト 名大生によるe学習コミュニティ形成
  10. 東北大学学習支援センター SLA 主に学部3年生~院生の学生がSLAとして、全学教育を受ける学部1・2年生の学習サポートを行っています。
  11. 鹿児島大学 H26年度新入生対象 補習教育のお知らせ 高等学校までの学習内容を復習し、大学の授業にスムーズに移行していただくために、補習教育を実施しています。
  12. 中堅文科系大学におけるリメディアル科目はどうあるべきか 桃山学院大学総合研究所紀要 第35巻第3号 (PDF)
  13. 約半数の大学で高校の補習授業 「達成度テスト」導入で揺れる大学の現状を専門家が解説(ベネッセ2013/12/26):”国立でも82大学中57大学で行われているのですから、既に珍しいことではなくなっています。”
  14. 「学力低下」に悩む大学たち 高校レベルの補習4割 (JCASTニュース2010/6/2):”大学が本当に問題としているのは、いわゆる『学力』がないということではありません。今の学生が受動的で、自分で考える姿勢がないということが真の問題です。”
  15. ノーベル賞根岸氏「受験地獄万歳」にネットも沈黙 (WEB R25 2010.10.14):”「私は日本の(悪名高い)受験地獄の支持者だ」→「高度な研究になればなるほど、基本が大事になるから。それをたたきこんでくれたのが、日本の教育だった」”

コピペ論文で早稲田大学准教授が懲戒解雇

早稲田大学商学学術院の准教授(50)が2001年と2003年に学内機関誌「早稲田商学」に発表した企業戦略に関する2つの英語論文が、この准教授がアメリカの大学院在学中の1995~98年に入手した他人の未公開の論文からの盗用であったことがわかり、2014年11月21日付けで懲戒解雇されました。学内の調査委員会によると7~8割が盗用だったということです。

参考

  1. 早稲田大准教授が論文盗用で懲戒解雇 「盗用と受け止められても仕方ない」(産経ニュース 2014.11.21):”早稲田大学は21日、商学学術院の蛭田啓准教授(50)が執筆した論文2本に盗用があったとして同日付で懲戒解雇した。”
  2. 論文盗用か 早稲田大学の准教授が懲戒解雇(テレ朝ニュース 2014年11月21日):”早稲田大学は、商学学術院の男性准教授(50)が2001年と2003年に発表した企業戦略に関する2つの論文について盗用したと結論付け、21日付で懲戒解雇しました。”
  3. 早大准教授、論文盗用で懲戒解雇…不服申し立て(YOMIURI ONLINE 2014年11月21日):”早稲田大学は21日、海外の研究者の論文原稿を盗用したとして、商学部の蛭田啓准教授(50)を懲戒解雇処分にしたと発表した。”

科研費を獲得した研究者への報奨金の授与

研究者が科研費を獲得すると、その金額(「直接経費」)の30%に相当する金額が間接経費として大学に入ります。つまり、大学が抱える研究者が科研費を獲得すればするほど大学は潤うのです。多額の研究費を獲得してもそれは研究にのみ使えるお金であって、研究者個人の懐には通常お金は入ってきません。

そこで、研究者の科研費獲得へのモチベーションを高める工夫として、報奨金制度を導入する大学が出てきています。報奨金の対象となる研究費の金額や、報奨金の金額は大学ごとにまちまちですが、公的研究費の一部がささやかながら研究者個人に還元される仕組みです。

東工大報奨金授与式を実施
平成26 年2 月13 日(木)に東工大蔵前会館ロイアルブルーホールにおいて東工大報奨金の授与式が行われました。この報奨金は、大学に多大な貢献等をした職員の勤労等に報い 励ますとともに、他の職員の勤労意欲の向上及び志気高揚を図り、大学を一層発展させることを目的として制定されたもので、今回で6 回目となりました。授与式では、平成24 年10 月から平成25 年9 月の間に外部資金、寄附金等により、合計1,500 万円以上の多額な間接経費を獲得し、大学の運営等に多大な貢献をされた次の22名の方々のうち7名の出席者に対して、三島学長から直接、目録が授与される とともに、本学を一層発展させるため、今後も尽力願いたい旨の言葉がかけられました。(東工大クロニクルNo.496 2014年3月 PDFファイル

名古屋大学 平成24年度 事業報告書 (PDFファイル) ”外部研究資金獲得に関して、間接経費獲得者に対する報奨金制度を構築した。”

科研費獲得金額の増加を目指す大学が考えることはニンジン作戦だけではありません。アメとムチでいえば、ムチを振るうことで科研費申請を促す大学もあります。科研費申請を行わない研究者には大学は研究費を減額、あるいは支給しないという厳しいものです。

科研費の申請の義務化について
7 月29 日に、科研費申請の義務化にかんする団体交渉をおこないました。
教員の話となりますが、科研費の申請をおこなわないことを2 年続けると、研究費がゼロに
なるというペナルティー付きです。しかも「研究代表者」としての申請が義務付けられていま
す。私たち教職員組合は、このような、ペナルティー付きの科研費申請義務化が教員にとって
も(申請業務にたずさわる)、事務系職員にとっても労働強化になる、という理由で反対の申
し入れをおこないました。(高知大学教職員組合中央執行委員会機関紙 こぶし 第 2 号 2014 年9 月4 日 PDFファイル

中でも科学研究費補助金の獲得増に当たっては、申請・採択増の方針によって、原則1人1研究課題以上の申請が義務づけられており、研究者各位の積極的な応募が不可欠であります。

法人化後、本学の研究推進会議がこうした「方針」実現のために「1人1課題以上の申請」を「義務」化し、それを果たさなかった教員には翌年度の研究経費の10%をカットするという、いわば“ペナルティ”を課してきたことは、周知の通りです。(熊本大学教職員組合 赤煉瓦 2009.10.7 PDFファイル

2014年のノーベル医学生理学賞は英ロンドン大学のジョン・オキーフ(John O’Keefe)教授(74)、ノルウェー科学技術大のマイブリット・モーセル(May-Britt Moser)教授(51)、エドバルト・モーセル(Edvard Moser)教授(52)(夫妻!)の3氏に

2014年のノーベル医学生理学賞はジョン・オキーフ(John O’Keefe)教授(74)、ノルウェー科学技術大のマイブリット・モーセル(May-Britt Moser)教授(51)、エドバルト・モーセル(Edvard Moser)教授(52)(夫妻)の3氏に
参考

  1. The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2014 John O’Keefe, May-Britt Moser and Edvard I. Moser ”for their discoveries of cells that constitute a positioning system in the brain (nobelprize.org)
  2. ノーベル医学生理学賞、オキーフ教授ら3氏に 脳のGPS発見 (MSNニュース)
  3. John O’Keefe is known for his discovery of place cells in the hippocampus and his discovery that they show temporal coding in the form of theta phase precession. (Wikipedia)
  4. Place cells were first discovered in the brain, and specifically in the hippocampus, by O’Keefe and Dostrovsky (1971).(Wikipedia)

小惑星探査機「はやぶさ」の成果として2006年にサイエンス誌に発表された論文の一つをJAXAが撤回

小惑星探査機「はやぶさ」は2003年5月9日に打ち上げられ、2005年9月12日に小惑星イトカワに到着、イトカワを周回して観測した後、2005年11月にイトカワへ着陸してサンプルを採取、その後、燃料漏れやエンジン停止、音信不通などさまざまなトラブルを克服し、2010年6月13日に地球に帰還しました。小惑星イトカワ到着時の観測結果が2006年に、さらに、その後地球に持ち帰られたサンプルの分析の結果が2011年に、どちらもサイエンス誌上で発表されています。

サイエンス 2006年6月2日第312巻5778号 (目次
Fujiwara et al., The Rubble-Pile Asteroid Itokawa as Observed by Hayabusa. Science 2 June 2006: 1330-1334.
Abe et al., Near-Infrared Spectral Results of Asteroid Itokawa from the Hayabusa Spacecraft. Science 2 June 2006: 1334-1338.
Okada et al., X-ray Fluorescence Spectrometry of Asteroid Itokawa by Hayabusa. Science 2 June 2006: 1338-1341.
Saito et al., Detailed Images of Asteroid 25143 Itokawa from Hayabusa. Science 2 June 2006: 1341-1344.
Abe et al., Mass and Local Topography Measurements of Itokawa by Hayabusa. Science 2 June 2006: 1344-1347.
Demura et al., Pole and Global Shape of 25143 Itokawa. Science 2 June 2006: 1347-1349.
Yano et al., Touchdown of the Hayabusa Spacecraft at the Muses Sea on Itokawa. Science 2 June 2006: 1350-1353.

ところが、はやぶさが取得した蛍光X線データに基づいて小惑星「イトカワ」の元素組成を解析した論文(Okada et al., 2006)に誤りがあったとして、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、掲載誌サイエンスに論文撤回を申し入れました。

「はやぶさ」のデータ 処理に誤り 論文撤回
論文を執筆したJAXAの岡田達明准教授は「データの処理に問題があることに気付くべ­きだったが思い込みがあり、事前の予想に引きずられてしまった。共著者間の情報共有も­足りなかった」と話しています。

論文を書いた宇宙航空研究開発機構の岡田達明准教授らが29日記者会見し、「地上の分析を参考に解析手法を構築したが、観測条件が悪くそのままでは問題があった。こうした点に注意を払わず、解析を進めたのは反省点だ」と述べた。” (時事ドットコム 2014/08/29

データ解析にどのような不備があったのか、論文撤回に至るまでの経過等の詳細については、JAXAが公開した資料に述べられています。

「蛍光X線分光器(XRS)について」(名誉教授 加藤學)
「データ解析方法について」 (准教授 岡田達明)
「本論文の位置付け及び論文撤回に至る経緯」(研究主幹 藤本正樹)

今回の解析の問題点
(A)エネルギー較正
•蛍光X線ピークの抽出にあたり,エネルギー較正にはゲイン変動があることを仮定したが,その後の調査によりオフセットの変動で説明できることがわかった.
•Mgのピークと同定したチャンネル番号が装置由来のピークと一致しており,それと誤認した. (B)統計的有意性
•ピーク位置抽出後は,元のX線スペクトルに対して解析を行う必要があるが,誤って平滑処理後のX線スペクトルを使用していたことがわかった.
•そのため,見かけ上は統計的有意になったが,実際はランダムなノイズでも同様の結果を示す可能性が排除できない.

データ解析手順のまとめ
本論文で用いたデータ解析方法は地上の分析装置で使用されている方法を参考にした.ノイズに対する信号の相対強度(S/N)が良好なことが前提である.本論文では観測時に太陽X線が弱く,S/Nの悪い条件であったにも関わらず,そのことに十分な注意を払わずにこの解析方法で進めたことに問題があった. 結果として、「事前予想」に大きく引きずられる形で解析作業を進めることになってしまった 太陽X線強度が弱かった等の悪条件があったとしても、S/Nの悪い条件を想定してのデータ解析手法の整備を、観測をする前から進めておかなかったことが、最も反省すべきことであり今後に生かすべき教訓だと考える

はやぶさXRSに係る論文撤回の申し入れに関する記者説明会 資料PDF1.2MB  JAXA 平成26年8月29日 より)

2006年にこの著者らが蛍光X線分光データ分析により検証しようとした仮説は、後に探査機「はやぶさ」が持ち帰ったサンプルを実際に分析することにより検証され、その結果は2011年にサイエンス誌に発表された6本の論文の一つ(Nakamura et al., 2011)で報告されました。

サイエンス 2011年8月26日 第333巻6046号 (目次(成果を解説するポッドキャスト
Nakamura et al., Itokawa Dust Particles: A Direct Link Between S-Type Asteroids and Ordinary Chondrites. Science 26 August 2011: 1113-1116.
Yurimoto et al., Oxygen Isotopic Compositions of Asteroidal Materials Returned from Itokawa by the Hayabusa Mission. Science 26 August 2011: 1116-1119.
Ebihara et al., Neutron Activation Analysis of a Particle Returned from Asteroid Itokawa. Science 26 August 2011: 1119-1121.
Noguchi et al., Incipient Space Weathering Observed on the Surface of Itokawa Dust Particles. Science 26 August 2011: 1121-1125.
Tsuchiyama et al., Three-Dimensional Structure of Hayabusa Samples: Origin and Evolution of Itokawa Regolith. Science 26 August 2011: 1125-1128.
Nagao et al., Irradiation History of Itokawa Regolith Material Deduced from Noble Gases in the Hayabusa Samples. Science 26 August 2011: 1128-1131.

参考

  1. Tatsuaki Okada, Kei Shirai, Yukio Yamamoto, Takehiko Arai, Kazunori Ogawa, Kozue Hosono, Manabu Kato. X-ray Fluorescence Spectrometry of Asteroid Itokawa by Hayabusa.  Science 2 June 2006:Vol. 312 no. 5778 pp. 1338-1341 DOI: 10.1126/science.1125731
  2. はやぶさXRSに係る論文撤回の申し入れに関する記者説明会 資料PDF1.2MB (JAXA 平成26年8月29日)
  3. はやぶさXRSに係る論文撤回の申し入れについて:” 当機構 宇宙科学研究所に所属する研究者が主著者となって投稿し、平成18年6月2日のサイエンス誌に掲載された論文「X-ray Fluorescence Spectrometry of Asteroid Itokawa by Hayabusa」について、本日、主著者らがサイエンス誌編集部に論文の撤回を申し入れましたのでお知らせいたします。なお、当該論文は、「はやぶさ」 に関連して発表された査読付き論文129件(うちサイエンス誌には14件掲載)の内の1件です。..” (JAXA 宇宙高校研究開発機構 平成26年8 月29日)
  4. JAXA、蛍光X線分光器によるイトカワの元素組成の解析に関する論文を撤回(日経テクノロジーオンライン 2014年8月30日)
  5. 小惑星イトカワの真の姿を明らかに~「はやぶさ」サンプルの初期分析結果~(JAXA 宇宙航空研究開発機構 2011年12月27日)
  6. 小惑星イトカワの素顔に迫る―「はやぶさ」科学的観測の成果― (JAXA 宇宙航空研究開発機構)
  7. はやぶさとは(JAXA 宇宙教育センター)
  8. 日本の宇宙開発の父 糸川英夫 生誕100年記念サイト (JAXA)

ハローキティは猫にはあらず サンリオが指摘

ハローキティの生誕40周年を記念するイベント「「ハロー!キティーのスーパーキュートな世界への体験」」が全米日系人博物館で開催されますが、その紹介文の原稿を書いていたハワイ大学の文化人類学者クリスティン・ヤノ氏がハローキティを猫だとする記述をしたところ、ハローキティ生みの親のサンリオから「ハローキティは猫ではない」という指摘を受けるという「事件」がありました。

ハローキティが実は猫ではなかったというニュースが、世界中を混乱に陥れています。

Hello Kitty is not a cat; UH professor explains the revelation (khon2)

BREAKING NEWZ! HELLO KITTY NOT A CAT! DUN! DUN! DUN!

Many shocked to find out Hello Kitty is not a cat

Hello Kitty Rep Explains Why She’s Not A Cat

ハローキティの研究をしていたヤノ氏ですらハローキティが猫だと信じて疑っていなかったくらいですから、世間一般で「ハローキティ=猫」が自明のこととされていたのも当然でしょう。

“Hello Kitty, the white cat with a pink bow on her ear, is the ultimate embodiment of Japan’s cute culture: She has no background and no mouth.” (From Anne Frank to Hello Kitty.(Norihiro Kato, The New York Times March 12, 2014. )

FOOD STUFF; For Fanciers Of the Cat Called Hello Kitty, A Breakfast To Purr Over” (By Florence Fabricant Published: September 4, 2002 The New York Times)

The Small White Cat That Conquered Japan” (By David Tracey Published: May 29, 1999. The New York Times)

Purr Me a Hello Kitty! Cartoon Cat Sells Beer in Asia” (By Sophie Brown Sept. 13, 2013. Times.com)

The celebrity cat adorns everything from diamond-studded jewellery, Fender guitars and digital cameras to lunch boxes, T-shirts and stationery.” (AL Jazeera 08 Aug 2007)

それだけに、今回のニュースは世界中で衝撃を持って伝えられました。

Apparently Hello Kitty is a Human Girl, Not a Cat (TIME Aug. 27, 2014)

Hello Kitty is not a cat, plus more reveals before her L.A. tour (ロサンジェルスタイムズ August 26,2014)

Hello Kitty: when is a cat not a cat?  (ガーディアン Thursday 28 August 2014)

Révélation: Hello Kitty n’est pas une chatte mais une petite fille (liberation.fr 29 août 2014)

Mais si Hello Kitty est un chat (lexpress.fr 28/08/2014)

El secreto mejor guardado de Hello Kitty: nunca ha sido una gata (abc.es 28/08/2014)

¿Qué es Hello Kitty si no es un Gato? (EL MUNDO 29/08/2014)

参考

  1. ハローキティーの公式プロフィール“Hello Kitty is a cheerful and happy little girl with a heart of gold. She lives in London with her mama (Mary White), papa (George White), and her twin sister Mimmy. Hello Kitty loves to bake and she can make really delicious cookies. She learned her baking talents from her mama, who makes scrumptious apple pies that are enjoyed by the whole family.”
  2. Cat-astrophic revelation purr-turbs Hello Kitty fans (CNN August 28, 2014)
  3. Pink Globalization: Hello Kitty’s Trek across the Pacific: “In Pink Globalization, Christine R. Yano examines the creation and rise of Hello Kitty as a part of Japanese Cute-Cool culture. Yano argues that the international popularity of Hello Kitty is one aspect of what she calls pink globalization—the spread of goods and images labeled cute (kawaii) from Japan to other parts of the industrial world.” (アマゾン)
  4. Christine Yano, PhD. Professor Department of Anthropology, University of Hawaii at Manoa
  5. サンリオ公式ウェブサイト
  6. 「ハロー!キティーのスーパーキュートな世界への体験」 (Hello! Exploring the Supercute World of Hello Kitty) October 11, 2014 – April 26, 2015 (全米日系人博物館 Japanese American National Museum)
  7. ハローキティ:猫じゃない? サンリオ見解が波紋 (毎日新聞 2014年08月29日)
  8. 『いいとも』出演記念! 汗と涙のキティちゃん誕生秘話 (リアルライブ 2010年08月21日)”.. デザイン部門はあらゆる調査データを作成し、子供に人気の動物がイヌ、ネコ、クマの3種類である事を発見。さっそく当時デザイナーのひとりだった清水侑子がデータを元に「座ったネコ」のデザインを描きあげる。サンリオはその後、オリジナルキャラクターを入れたビニール製のプチパースを発売。「座ったネコ」を含む6種類のキャラクターがデザインを飾ったが、その際に社内の評価がイマイチだった「座ったネコ」のプチケースがダントツの売り上げを見せたという。その後「座ったネコ」はその後「ハローキティ」と命名され日本を代表する人気キャラクターとなった..”

エボラ出血熱の治療に効果が期待される抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」を日本が提供する用意

 

参考

  1.  エボラ未承認薬「提供の用意」 政府方針 WHOなどに(日本経済新聞 2014/8/25):”..富士フイルムによると、エボラ熱に効果が期待されるインフルエンザ薬「アビガン」2万人分の在庫を保有する。今後も連続的に生産・供給する体制が整っているという。..
  2. 日本のインフル治療薬「アビガン」に脚光 マウス実験で効果(産経ニュース 2014.8.14)”..アビガンは富士フイルム傘下の富山化学工業(東京都新宿区)が開発し、今年3月、既存の治療薬の効果が出ない新型インフルエンザなどに限って製造販売が承認された。..”
  3.  Ebola kills Liberia doctor despite ZMapp treatment (BBC 25 August 2014):”..It is not clear whether T-705 (or Avigan) will actually work against Ebola, and no monkey or human trials of the drug have been done, the BBC’s Rupert Wingfield-Hayes in Tokyo reports. ..”
  4. Family of British Ebola sufferer says he is in ‘best possible place’ (RTE News Monday 25 August 2014):”Tokyo stands ready to offer an experimental drug developed by a Japanese company to help stem the global tide of the deadly Ebola virus, the top government spokesman has said…”
  5. Japan prepared to offer West Africa Fujifilm’s new anti-ebola trial drug called Aviga (Nigerian Watch Monday, 25 August 2014): “JAPAN has offered to help Nigeria and her West African neighbours get rid of the deadly ebola virus currently ravaging the sub-region by offering the new experimental Avigan drug which it believes is a cure. ..”
  6. Oestereich L, Lüdtke A, Wurr S, Rieger T, Muñoz-Fontela C, Günther S. Successful treatment of advanced Ebola virus infection with T-705 (favipiravir) in a small animal model. Antiviral Res. 2014 May;105:17-21. doi: 10.1016/j.antiviral.2014.02.014. Epub 2014 Feb 26.
  7. Smither et al.,  Post-exposure efficacy of oral T-705 (Favipiravir) against inhalational Ebola virus infection in a mouse model. Antiviral Res. 2014 Apr;104:153-5. doi: 10.1016/j.antiviral.2014.01.012. Epub 2014 Jan 24.
  8. Furuta et al., T-705 (favipiravir) and related compounds: Novel broad-spectrum inhibitors of RNA viral infections. Antiviral Research Volume 82, Issue 3, June 2009, Pages 95–102
  9. Ebola treatments and vaccines in preclinical development (http://blogs.nature.com/tradesecrets/files/2014/08/Ebola-treatments.pdf)
  10. 抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠200mg」の日本国内での製造販売承認取得のお知らせ (富山化学工業株式会社 ニュースリリース 2014年3月24日): “富士フイルムグループの富山化学工業株式会社(本社:東京都新宿区、社長:菅田益司、以下、富山化学)は、このたび、錠剤タイプの新しい抗インフルエンザ ウイルス薬「アビガン®錠200mg」(一般名:ファビピラビル、開発品コード:T-705、以下「アビガン」)の製造販売承認を取得いたしましたのでお 知らせします。..”
  11. エボラ感染拡大で急浮上 富士フイルムのインフル薬 (週刊ダイヤモンド編集部【第168回】 2014年8月25日) http://diamond.jp/articles/-/58074
  12. 条件付き承認で普及に足かせ 富山化学インフル薬の“無念” (週刊ダイヤモンド編集部【第975回】 2014年2月25日):”「商業的には明らかな失敗作」。富士フイルムグループの富山化学工業が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」を、大手製薬幹部はこう断じる。..”

エボラ出血熱に対する未承認治療薬ZMappが二人のアメリカ人感染者の治療において劇的な効果

WATCH: US Doctor contracted with Ebola Released from Atlanta Hospital

ZMappという治療薬の実体は、エボラウイルスの蛋白質に対する3種類の抗体です。これらの抗体がエボラウイルスに結合し、エボラウイルスがヒトの細胞に侵入することを阻害します。まだサルを用いた実験で効果が確認されていた段階でしたが、今回のエボラ出血熱の感染拡大という緊急事態を受けて、世界保健機関(WHO)はこの試験段階の未承認薬の使用が倫理的に認められるという見解を発表していました。

Is Californian company close to an Ebola cure?

The Structural Basis of Ebola Viral Pathogenesis

(Erica Ollmann Saphire, Ph.D., Professor, Department of Immunology and Microbial Science, The Scripps Research Institute)

参考

  1. エボラ感染への治療に光明:投与された「実験的治療薬」 (WIRED 2014.8.6 WED):”.. 必要な抗体(抗体医薬品)を得る手段として、研究チームはモノクローナル抗体(抗原抗体反応を利用して特定の分子の機能を阻害する免疫グロブリン製剤)の作製という、すでに確立された技術を採用した。..”
  2. Mapp Biopharmaceutical:Zmappを開発した企業のウェブサイト
  3. Therapeutic Intervention of Ebola Virus Infection in Rhesus Macaques with the MB-003 Monoclonal Antibody Cocktail. Pettitt et al., Sci Transl Med. 2013 Aug 21;5(199):199ra113.:サルを用いた実験で、抗体カクテルがエボラ出血熱の治療における有効性を示したという論文
  4. Ethical considerations for use of unregistered interventions for Ebola virus disease
    Report of an advisory panel to WHO :世界保健機関(WHO)が実験段階の未承認治療薬の使用を認める見解を発表した報告書”Conclusion   In the particular context of the current Ebola outbreak in West Africa, it is ethically acceptable to offer unproven interventions that have shown promising results in the laboratory and in animal models but have not yet been evaluated for safety and efficacy in humans as potential treatment or prevention. … “
  5. Experimental Ebola Treatment Protects Some Primates Even After Disease Symptoms Appear (United Staes Army Medical Research Institute of Infectious Diseases (USAMRIID) News Release Aug 21, 2013)
  6. Ebola therapy hopes shift to small California biotech (Reuters Tue Aug 5, 2014 GMT):”Hopes of finding a treatment for the deadly Ebola virus shifted on Monday to a small California-based biotech company whose experimental drug has been used to treat two American missionary workers. …”
  7. Five things to know about the ZMapp Ebola drug (Fortune.com August 5, 2014, 10:45 AM EDT): “In the wake of an Ebola outbreak in West Africa that has resulted in nearly 900 deaths, a tiny pharmaceutical maker has allowed an experimental treatment to be used for two Americans infected with the deadly virus. ..”
  8. Experimental Ebola drug ZMapp sent to Liberia (Al Ja Zeera August 12, 2014 ET):
  9. 奇跡的…エボラ熱感染の米国人、試験前の治療薬が効果か (サンスポ 2014.8.5 08:45):”..治療薬は米カリフォルニア州の製薬会社が開発する「ZMapp」。マウスを使った抗体を含み、免疫機能の働きを助けてウイルスによる細胞への感染を防ぐ。感染後1~2日のサルに投与すると死亡を防ぐ効果が示されたが、人での安全性や効果は未知数だった。..”
  10. What Is Mapp Biopharmaceutical, Developer Of Experimental Ebola Treatment ZMapp? (International Business Times August 12 2014 1:31 PM)
  11. Ebola drug ZMapp tested in Europe, on Spanish priest infected in Liberia (The Washington Times – Sunday, August 10, 2014): “The 75-year-old Spanish priest who became the first patient evacuated to Europe with the deadly Ebola virus now will become the first European to be treated with the experimental drug ZMapp. ..”

アイス・バケツ・チャレンジに山中伸弥氏も参加

難病の一つであるALS(筋委縮性側策硬化症)に対する世間の認知度を高め、この病気の原因の解明と治療法の開発に対する資金援助を募るための「氷水バケツチャレンジ」が世界を席捲しています。

8月20日現在、3150万ドル(約32億5千万円)もの寄付がアメリカのALS協会(The ALS Association, Washington, DC)に集まっているそうです。

Shinya Yamanaka’s ALS Ice Bucket Challenge

Yuri and Julia Milner ALS Ice Bucket Challenge #icebucketchallenge

Bill Gates ALS Ice Bucket Challenge

参考

  1.  筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは(難病情報センター)
  2. ALS筋萎縮性側索硬化症の疾患・治療に関する情報プログラム(Sponsored by サノフィ株式会社)
  3. 一般社団法人 日本ALS協会
  4. Ice Bucket Challenge Still Going Strong: $31.5 Million in Donations to The ALS Association (alsa.org August 20, 2014)
  5. Here’s How the ALS Ice Bucket Challenge Actually Started (time.com Aug. 18, 2014)

シロイルカ(ベルーガ)の人の言葉をまねる能力

人の言葉を真似する白イルカ!|ベルーガの鳴き声

鴨川シーワールド しゃべるベルーガ

シロイルカ(ベルーガ)が人の言葉をまねることができることを、村山司東海大教授らと鴨川シーワールドの研究グループが論文で報告しました。下のオーディオの再生ボタンを押すと、人間が話した言葉とイルカがそれを真似た音声が聴けます。


(Murayama et al., 2014 http://escholarship.org/uc/item/51v1z12bより)

わかりづらいものもありますが、実験で用いられた言葉は以下の通り。

「ハハハハハ!」
「ほう?」
「あわわわ」
「デューク」
「おはよう」
「つかさ」
「ピヨピヨ」
「ホケキョ」
「おお!」

人の言葉を覚えるシロイルカ(ベルーガ)の能力を示す例は過去にもあります。サンディエゴの水族館で、人の声のように聞こえる不思議な鳴き方を自然に覚えた白イルカの例が報告されています。
NOC Mimicking Human Speech

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982212010093

参考

  1. Murayama, Tsukasa; Iijima, So; Katsumata, Hiroshi; & Arai, Kazutoshi. (2014). Vocal Imitation of Human Speech, Synthetic Sounds and Beluga Sounds, by a Beluga (Delphinapterus leucas). International Journal of Comparative Psychology, 27(3).
  2. 鴨川シーワールド:イルカ「しゃべった」 8種類をまねる(毎日新聞 2014年08月18日):”イルカが言葉をしゃべった−−。村山司(つかさ)・東海大教授(54)らの研究チームは、イルカが人の言葉をまねられることを世界で初めて証明し今月、国際心理学誌電子版に発表した。..”
  3. 鴨川シーワールド
  4. Ridgway et al., Spontaneous human speech mimicry by a cetacean. Current Biology Volume 22, Issue 20, 23 October 2012, Pages R860–R861
  5.  Beluga Whale Named Noc Mimics Human Noises With Spot-On Imitation (AUDIO) Huffpost 10/23/2012):”..In 1984, scientists at the National Marine Mammal Foundation in San Diego began noticing unusual noises emanating from where they kept the whales and dolphins. These resembled two people conversing in the distance, just beyond the range of the understanding of listeners…”

IBMが脳型コンピュータを開発 Science誌

IBMが神経細胞のネットワークを模した、低電力で駆動する新たなコンピュータチップを開発しました。100万個の「神経細胞」と、神経細胞同士の結合部分である「シナプス」を2億5千6百万個備えたものです。

サイエンス論文の筆頭著者の二人が、新しいコンピュータチップ開発の動機を解説している動画。
SyNAPSE: IBM Cognitive Computing Project – Hardware

A Cognitive Information Superhighway

”IBM’s brain-inspired architecture consists of a network of neurosynaptic cores. Cores are distributed and operate in parallel. Cores operate—without a clock—in an event-driven fashion. Cores integrate memory, computation, and communication. Individual cores can fail and yet, like the brain, the architecture can still function. Cores on the same chip communicate with one another via an on-chip event-driven network. Chips communicate via an inter-chip interface leading to seamless scalability like the cortex, enabling creation of scalable neuromorphic systems.”(http://www.research.ibm.com/cognitive-computing/neurosynaptic-chips.shtml#fbid=15Zz4zjXf0H

Bringing Computing to the Data

”A video camera on Hoover Tower at Stanford University is looking down at the plaza, below. A simulated network of IBM TrueNorth chips takes in the video data and locates interesting objects. Objects might look interesting to the system because they are moving or have a different color or texture than the background. The system then further processes those portions of the interesting video to determine what the objects are. It is trained in several specific categories, such as buses, cars, people, and cyclists. In a monitoring application, the camera would only need to communicate when it found an interesting object, rather than continually streaming video to a central location.”(http://www.research.ibm.com/cognitive-computing/neurosynaptic-chips.shtml#fbid=15Zz4zjXf0H

参考

  1. Paul A. Merolla, John V. Arthur, Rodrigo Alvarez-Icaza, Andrew S. Cassidy, Jun Sawada, Filipp Akopyan, Bryan L. Jackson, et al. A million spiking-neuron integrated circuit with a scalable communication network and interface. Science 8 August 2014.
    Vol. 345 no. 6197 pp. 668-673. DOI: 10.1126/science.1254642
  2. New IBM SyNAPSE Chip Could Open Era of Vast Neural Networks (IBM News release San Jose, CA. – 07 Aug 2014)
  3. 新しいIBM SyNAPSEチップを発表 (日本IBMプレスリリース2014年8月8日)
  4. IBM社が世界最大規模の脳型半導体チップを開発、100万個のニューロンと2.56億個のシナプスを実装(日経テクノロジーオンライン 2014年8月8日)
  5. 米IBM、人間の脳のように動くチップ「SyNAPSE」を開発 (マイナナビニュース 2014/08/08)”..「SyNAPSE」は、2011年に開発された初期プロトタイプの第2世代目となり、サムスン電子製の54億個のトランジスタを土台に、100万個のプログラム可能なニューロンと2億5,600万個のプログラム可能なシナプスで構成される。..”
  6. DARPA SyNAPSE Program (artificialbrains.com Jan 11, 2013):” SyNAPSE is a DARPA-funded program to develop electronic neuromorphic machine technology that scales to biological levels. More simply stated, it is an attempt to build a new kind of computer with similar form and function to the mammalian brain. Such artificial brains would be used to build robots whose intelligence matches that of mice and cats. SyNAPSE is a backronym standing for Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics. It started in 2008 and as of January 2013 has received $102.6 million in funding. It is scheduled to run until around 2016. The project is primarily contracted to IBM and HRL who in turn subcontract parts of the research to various US universities. ..”
  7. Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics (SyNAPSE) (darpa.mil): “The vision for the Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics (SyNAPSE) program is to develop low-power electronic neuromorphic computers that scale to biological levels. ..”
  8. SyNAPSE (en.wikipedia.org)

STAP 細胞事案に関する理化学研究所への要望

STAP問題「科学研究に負のイメージが」日本学術会議(14/07/25)

“…現在、研究不正に最も深く関わったとされる小保方氏が参加する STAP 現象の再現実験が始められ、関係者の懲戒については結論が先送りされると伝えられています。しかし、この再現実験の帰趨にかかわらず、理研は保存されている関係試料を速やかに調査し、取り下げられた2つの論文にどれだけの不正が含まれていたかを明らかにするべきです。また、そこで認定された研究不正に応じて、関係者に対する処分を下すことは、この事案における関係者の責任を曖昧にしないという意味で重要です。関係試料の速やかな調査による不正の解明と、関係者の責任を明確にすることを要望します。,..”

(日本学術会議 幹事会声明 平成26年7月25日 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf//kohyo-22-kanji-1.pdf)

早稲田大学 先進理工学研究科有志教員が「小保方氏博士論文の調査報告書に対する所見」を公開

早稲田大学が先日公表した小保方氏の博士論文の調査報告書に関して、科学者や捏造問題の専門家らがコメントを発表しています。

“今回の早稲田大学の調査委員会の結論は、学位論文審査云々以前のこととして、非常識であり犯罪の容認と同等だと思います。… ” (日本分子生物学会ウェブサイト STAP細胞問題等についての、理事、元役員経験者からの自主的なコメント 上村 匡 理事 2014年7月18日

“…「これ、そもそもイントロ全体が剽窃なんだから、問答無用で、学位取り下げ以外の選択枝なし」のはずじゃないのか。…” (佐々真一 京都大学理学研究科 教授 ブログ 「日々の研究 2014-07-18 金曜日」)

“…日本の「博士号」という資格が世界でどのようにみなされるかという質保証の問題です。” (大隅典子の仙台通信 2014年07月17日 「学位論文」

“…もはや早稲田大が授与する博士学位の価値は世界最低になったと言っても過言ではない。したがって早稲田大に在籍する学者志望の学生は今すぐ退学し、できれば東京大学や京都大学などに入り直したほうがいい。今や早稲田の博士号は就職の邪魔になりかねない不良学位なのだから。…(森口尚史 元 東京大学特任教授 「探偵ファイル」 更新日07/19

早稲大学の教員からも疑問の声が上がっています。以下、https://www.facebook.com/iwasaki.hideo.5/posts/793592170693337からの転載です。

「小保方晴子氏の博士学位論文に対する調査報告書」に対する
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 教員有志の所見

2014年7月24日

早稲田大学における博士学位論文の不正に関する問題は,本学個別の問題というだけにとどまらず,科学研究や大学における教育,さらに博士の学位の信用にも 大きな影響をおよぼす問題です。私たちは,先進理工学研究科の構成員として,また自然科学の研究・教育に携わる学徒としてこの問題に対する大きな危機感を 共有しており,本問題の解決に向け、科学的規範と良心にしたがって誠実に行動していきたいと考えております。
 さて,2014年7月17日に「早稲田大学大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」(小林英明委員長)による調査報告書が早稲 田大学に提出されました。当日小林委員長による記者会見と概要書の配布が行われ,さらに7月19日に修正処理を施された報告書全文が早稲田大学のウェブサ イトより公開されました。
 調査報告書では,小保方氏によって提出され,国会図書館に収められている博士論文が極めて杜撰な内容であること,その作成過程および審査過程に重大な過 誤が認められること,さらに早稲田大学ならびに先進理工学研究科の指導体制・審査体制に欠陥があることなどが厳しく指摘されました。その一方で,私たちが 学位論文の中で重大な問題点とみなしてきたものが,この調査報告書の中では軽微に扱われている場合が散見されました。自身の責任問題を含めて厳正に臨まな ければならないと考えていた私たちにとって,後者の部分には強い違和感と困惑を覚えざるを得ませんでした。
 今後,大学ではこの調査報告書の検討を通じて,この問題に対する見解や処分を公表することとなっております。私たちは,その過程で,様々な論点について透明性を確保しながら,学内外を問わずできるだけ多くの議論が活発に行われるべきだと考えています。
 そこで,数人の有志の見解ではありますが,今回の調査報告書で特に問題と感じた点を,別紙に6項目掲げました。大学の担当部署に提出させていただくとと もに,学外の方々にも意見の一つとして公表させていただくことにいたします。ここでは,主として当該博士論文に対して厳正な判断を求める内容となっており ますが,一方で,十分な指導が行われなかったこと,このような論文に学位を授与してしまった責任は極めて重大で,研究科の構成員として重く受け止めており ます。
 この問題は小保方氏一人の問題に限らず,研究・教育に関する構造的な問題が背後にあります。その一翼を担っているものとして,今一度痛切に猛省しなけれ ばいけないと考えています。科学研究・大学教育の原点に立ち戻って,この問題の背景や責任を明らかにしようとすること,また,再発の防止や,より厳格かつ 健全な研究・教育・学位審査プロセスの立て直しのために全力で臨むことを誓います。

早稲田大学大学院 先進理工学研究科 有志一同を代表して
岩崎秀雄(電気・情報生命専攻 教授)
小出隆規(化学・生命化学専攻 教授)
寺田泰比古(化学・生命化学専攻 教授)
勝藤拓郎(物理学及応用物理学専攻 教授)

調査報告書に対する所見

1. Tissue Engineering誌論文におけるデータの改竄疑惑への言及が存在しない点

科学研究論文において,データの信頼性を損なう改竄・捏造が致命傷であることは,改めて言うまでもありません。
 しかし,博士論文のもととなっているTissue Engineering誌の論文には,明白と言ってよい画像の改竄(報告書における「実験結果欺罔行為」)が認められています。具体的には,Tissue Engineering誌論文の図2、図3、図4に電気泳動写真が掲載されていますが,まったく異なる遺伝子群の発現パターンに関して,同じゲルの写真を 上下反転したり,一部切り抜いて流用したりするといった改竄・捏造が既にネット上でも指摘されています。このうち,図3は,博士論文においても図16とし て採録されています。
 Tissue Engineering誌の図3は,ネット上での指摘を受け,責任著者のVacanti教授によって,改竄が指摘された4つの遺伝子群のデータを削除する 形で修正(correction)されています。その理由は,「類似した見かけのデータを,複数の著者が編集したために起きた過失」とされています。
 しかしながら,同様の図の改竄は,多くの場合Correctionで済むものではなく,様々な科学論文誌においてRetraction(論文撤回)の対 象となってきました。実際の写真を検討すると,「過失」というレベルではないことは明らかで,学位取り消しの条件である「不正の方法」に相当するのではな いかとの疑義があります。
 にもかかわらず,調査報告書では,「そもそも博士学位論文の条件として査読付き欧文論文が前提となっており,このTissue Engineering誌論文には修正がなされていること」を理由にデータの意図的な改竄(調査報告書に言う実験結果欺罔行為)には該当しないと結論付け ています。しかしながら,Tissue Engineering誌において,Vacanti教授は強い影響力を持つと推測されるFounding Editorであり,軽微な「過失による修正」にとどめている編集方針には疑義があります。したがって,この論点については改めて独自の調査がなされてし かるべきと考えます。

2. 公表されてきた学位論文を草稿とみなし,「真の学位論文」なるものが存在し,それをもとに学位取得の妥当性を議論していることに関する疑義

調査報告書では,国会図書館に保管された正本(と通常は受け取れる論文:調査報告書における「本件博士論文」)が,実は草稿に過ぎず,「本来提出すべきであった博士論文」が実在するとの小保方氏の弁明が最終的に支持されています。
 しかし,「本件博士論文」は,3年間にわたって修正されることなく正本として保管・開示されてきたものです。これに対して,調査開始後,委員会に要請さ れてからかなりの期間を経て提出され,しかも提出一時間前に修正された形跡もある文書を「真の学位論文」と認定する根拠は薄弱に感じられます。
 たとえば,学位審査の公聴会の際に副査が指摘した不備が修正されていないことをもって,「本件博士論文」が公聴会前の論文であるとの弁明を支持していま す。しかし,最近明らかにされた経緯によると,その後の小保方氏らのNature論文における不備は,Cell誌,Science誌の査読過程で指摘され ていたにも関わらず修正されていません。この対応を見ると「学位論文に関しては副査の指摘に素直に従い,これを修正した」との前提が自明であるとは必ずし も思えません(むろん,それを指導する責任が指導教員にあったはずであることは,調査報告書の指摘通り)。また,公聴会時に回覧されたはずの論文(報告書 中における「公聴会時論文」)については,現存が確認されておらず,プレゼンテーション資料が確認されているのみです。プレゼン資料とそれに基づく公聴会 時の副査とのやりとりをもとに,「本件博士論文」が草稿であり,それとは別に修正を踏まえた「真の博士論文が存在する」との推論を導いていますが,プレゼ ン資料が「真の博士論文」とされる論文の内容をそのまま示しているとの前提は,必ずしも自明とは思えません。
 この判断に基づいて草稿と認定された「本件博士論文」の重大な問題点が,調査報告書では最終的に軽微に取り扱われ,事実上免責されていることに大きな違和感を覚えます。代表的なものとして,以下のようなものがあります。

 i) 「本件博士論文」の図10に示されている,三胚葉分化の二つの図は,企業のカタログからの無断転載が認定されています。この図は,学位論文全体の中で最も 重要な図であるはずなのですが,常識的に本文に照らして読めば自分が出したデータのようにも読める記載となっており,実験の実在性が問われる部分でもあり ます。したがって,調査報告書にも述べられているように,著作権侵害行為,創作者誤認惹起行為に加え,科学における重大な不正行為である「捏造」(調査報 告書に言う実験結果欺罔行為)に該当する可能性が高いと考えられます。しかしながら,上記の「小保方氏が真に提出しようとしていた最終的な完成版の博士論 文」とされるものには図10は存在しないことから,この疑義が否定されています。
 ii) 「本件博士論文」には第2-5章に亘ってまったく実態を持たない(引用されていない)引用文献リストが各章末に付記されています。しかし,「小保方氏が真 に提出しようとしていた最終的な完成版の博士論文」とされるものには5章にのみ引用文献がまとめられており,修正されたことが認められています。

「本来提出するつもりであった」と小保方氏が主張する論文については,現時点で公開されておらず,私たちとしては判断材料を持っていません。いっぽう,調 査報告書によれば,5月末に紙面で提出された原稿に加え,6月末には電子媒体での原稿を調査委員会は受け取っています。注目すべきことに,電子媒体は提出 の一時間前に修正保存された形跡があったと調査委員会は報告しました。このことは当該原稿が「真の博士論文」であることの信憑性を著しく損なっています。 まずは5月末に提出された原稿と,電子媒体で提出された原稿を公開していただき,その間の修正個所を明らかにすることも重要なステップと考えます。

3. 大量の無断引用部分について

「本件博士論文」の序章には,20ページの長きに亘って米国NIHの文書が無断転用(コピペ)されています。報告書によれば,事後提出の「真の博士論文」 とされるものにも,この部分は残っているとあります。これが著作権の侵害および,調査報告書のいう「創作者誤認惹起行為」に該当することは言うまでもなく 明白です。学位取り消し条件の「不正の方法」に該当すると報告書にも明記されています。
 しかし報告書では,この序章部分に見られる「不正の方法」によって,「学位授与に一定程度の影響を与えたとはいえるが,重大な影響を与えたとまではいえず,問題箇所①(注釈:当該箇所)と学位授与との間に因果関係があったとはいえない」と論じています。
 しかしながら,自らの学位論文の背景や立ち位置を論述する序章部分を自らの文章としてまとめることは,学位論文の最も重要な要件の一つであり,それを事 実上放棄した行為は,執筆者の学問的な誠実さと能力の欠如を強くうかがわせるものです。こうした論文に対して本来学位授与がなされることはあり得ません。
 このような無断転用を,入学時より早稲田大学理工学部(当時)では厳に戒めてきました。たとえば,小保方氏が初年時に受講した年度の必修の実習科目であ る「理工学基礎実験IA」の資料(2002年度)では,実験ノートの記録の重要性や具体例が詳述され,さらに「引用とコピー」という項目において「引用な しで,他人の成果を自分の文書に書くことはいわゆる“盗用”である。字からわかるように犯罪に準ずる行為として扱われる」と太字で明記されており,学生は レポート提出時に繰り返し指導されています。
 なお,「時間があれば修正できたはずなのに,事後提出論文に修正されないまま残っていること」もまた,調査報告書において「本件博士論文」が草稿である ことの傍証の一つとされています。指摘されてから序章部分を書き直す余裕がなかった傍証とみる推論も同様に可能であるにも関わらず,調査報告書では採用さ れていない点も指摘しておきたいと思います。

4. 実験ノートの確認方法に関しての記載,および科学的正確性に関する評価が不十分である点

調査報告書では,当該論文を裏付ける実験の実態があったと述べてあります。しかしながら,その根拠となるノートの写しや明確な資料が公開されておらず,第 三者としてその論旨を詳しく確認することができません。理化学研究所の調査の過程で明らかになった小保方氏の実験ノートの杜撰さから考えて,大学院在学時 のノートや記録が十全であったと考えることには疑義があります(仮に,もし博士論文に関わる実験ノートの内容が十全であるなら,理化学研究所に移籍して以 降の実験ノートの不備の責任は,早稲田大学にはないことになりますが,とてもそうは思えません)。その印象を覆すための記述・資料が,本報告書の公開資料 には見当たりません。
 より重要な問題として,調査報告書にも明記されているように,検討されたことは論文に書かれている(一部の)実験作業の有無についてのみであり,実際の データの分析の合理性や科学的正確性について踏み込んで検討されていません。上述のように,この部分においては,たとえばTissue Engineering誌の査読判断に事実上一任しており,通常の学位審査で規範とされる,主査・副査による科学的合理性・正確性の検証を独自に行ってい ません。これは,科学論文の検証作業としては不十分なのではないかと思われます。

5. 審査体制の不備に関する指摘について

一方で,調査報告書が指摘しているように,先進理工学研究科の審査体制にきわめて多くの問題点があること,小保方氏の審査に関して重大な過誤があったことは明らかです。
 調査報告書では,常田主査,武岡副査の責任について詳述していますが,副査を務めたVacanti教授や大和教授などの学外研究者の調査やその役割につ いての判断を保留しています。しかしながら,Vacanti氏は公聴会には出席しておらず,Vacanti氏,大和氏ともに事前に博士論文原稿を閲覧して いない可能性が指摘されています。もし事実とすれば,審査報告書になぜ名前を連ねることができたのか不可解です。「学外者で責任を問えないため」と小林委 員長は7月17日の会見上で説明しましたが,副査は大学院が正式に依頼し,きちんと当該論文を審査していただくために委託する役回りであり,学外在籍副査 の審査状況を明らかにし,その責任を明確化することは本調査の要の一つであるはずだったと考えられます。

6. 調査委員会のメンバーの氏名が開示されていない点

調査委員会のメンバーは,小林弁護士以外には公開されていません。このため,理研における調査委員会とは異なり,どの程度の解釈の振れ幅があったのか,小林弁護士以外の委員の見解を正す機会がありません。これは透明性・信頼性を欠く要因であると考えます。

以上

参考

  1. 早稲田大学 先進理工学研究科有志教員による小保方氏博士論文の調査報告書に対する所見を公開します(長文) 岩崎 秀雄 フェイスブック
  2. 【小保方氏の博士論文】早稲田大学の調査に研究者から強い批判の声 The Huffington Post 2014年07月18日