阪大2017年入試「物理」出題ミスを2018年1月6日に公表した大阪大学が、正答が3つあるという主張に関して1月12日に追加説明を公表しました。模範解答および採点にあたっての考え方が、非常に詳細に述べられています。
しかし、”問題Aの前文に、音叉は常に決まった振動数の音を発することが明示されているため、問題の前提条件としてはどちらかのモードのみで振動していると考える。”と言いつつ、”A-I. では逆位相振動モードを設定していた。A-III. の問4では振動モードを特定していなかった。”という説明自体、ロジックが完全に破綻しています。
矛盾した説明しかできないということは、つまりは、この説明は苦し紛れでつくっただけで、本当のことを伝えていないということでしょう
音叉とは、軸についている二本の腕が振動することにより、ある特定の振動数をもつ音波を発生する装置である。音叉の腕の振動の様子(モード) にはさまざまなタイプがあり、主に、二本の腕が互いに逆向きに振動するモード(以下、「逆位相振動モード」と呼ぶ、A-I. で設定した振動モード) と二本の腕が同じ向きに振動するモード(以下、「同位相振動モード」と呼ぶ) がある。音叉の基本的な振動モードは一般に逆位相振動モードであり、逆位相振動モードの方が実験的に観測されやすいと思われる。ただ音叉の振動を実験的に観測した著者による参考文献Russell, D. A. (2000). \On the sound eld radiated by a tuning fork.” American Journal ofPhysics, 68(12), 1139-1145. https://doi.org/10.1119/1.1286661 および同著者によるWeb ページhttp://www.acs.psu.edu/drussell/Demos/TuningFork/fork-modes.html によると、同位相振動モードで振動している様子も実際に観測されている。音叉を一つ定めたとき、同位相振動モードおよび逆位相振動モードはどちらもその音叉に対して可能な振動モードであるが、一般にそれぞれ異なる振動数の音波を発生する(前述の参考文献)。問題Aの前文に、音叉は常に決まった振動数の音を発することが明示されているため、問題の前提条件としてはどちらかのモードのみで振動していると考える。
A-I. では逆位相振動モードを設定していた。A-III. の問4では振動モードを特定していなかった。しかし、問5においては同位相振動モードで振動していることを前提として問題が作られていた。
理科問題(物理) 〔3〕Aの解説(1月12日追記)(大阪大学) (一部を抜粋。太字強調は当サイト)
阪大がこのよう模範解答を公表したことは、非常に歓迎すべきで、高校生、受験生の物理の勉強にも有益でしょう。しかし、出題ミスの釈明部分に関して言えば、全くなんの正当化にもなっていません。
〔3〕Aの問題文中には、、音叉に複数の振動モード(同位相または逆位相)が存在するという記述はありません。この物理の問題は、音叉がどのように振動して音を出すのかという予備知識を受験生に要求しておらず、むしろ、A-Iで受験生を誘導するような形で、逆位相振動モードによって音が発生する様子を図で丁寧に説明していたわけです。音叉の振動モードの可能性を複数考えると答えが一つに定まらないため、出題者の意図として、この段階で問題の条件設定をそのように絞ったということのはずです。ですから、受験生にしてみれば、A-Iでの誘導に則って、A-III問4も音叉が「逆位相振動モード」で音を発生させているという前提で解くのが当然でしょう。
A-Iの中で音叉が「逆位相振動モード」で音を出すことを丁寧に説明して受験生を誘導しておきながら、突然、A-IIIでは「同位相振動モード」で考えた答えのほうが「正答」で、「逆位相振動モード」で考えた答えも追加で正答とする阪大の態度は、矛盾しています。当然、外部からの最初の2回の指摘を却下した理由として、「同位相振動モード」で考えた答え2d=(n-1/2)λが正答だからというロジックは成り立ちません。
この追加説明は、物理の説明に関する部分は納得のいくものですが、出題ミスに関する釈明としては全く説得力がないと思います。大問のなかで分かれている小問ごとに、実は問題設定はバラバラなんですよというのは、これまでの入試の出題方法の常識を否定するような主張です。
阪大の追加説明に対する世の中の反応
おおっ追記が!n-1/2にしたのは音叉の同位相振動モードを想定したと!それ後付けの理由じゃないかな(前の小問と違うし,だいたいそのモードは基音と違う) https://t.co/pm0fcCEslX
— Haruhiko Okumura (@h_okumura) 2018年1月12日
まず問題Aの全文に「使 用する音叉は,振動数 500 Hz の音を,必要なだけ長い時間にわたって発し続ける とする 」とあるにもかかわらず、A-ⅠとA-Ⅲでは振動数が異なる別の振動モードを想定していたというトンデモな言いわけを始めた大阪大学。
それなら問5の音速の計算はいったい何だったんだ。— MAKIRINTARO (@MAKIRIN1230) 2018年1月12日
半整数倍で同位相モードの振動も観測されるとして,参照されているリンク先を見ると「Asymmetric Modes (in-plane bending)」の振動モードのことを指しているようだけど,この振動数の共鳴板に音叉を固定しない限り,空気がこの振動数で揺れることはないと思う.
— 小島 徹也 (@coJJyMAN) 2018年1月12日
「問題Aの前文に、音叉は常に決まった振動数の音を発することが明示されているため、問題の前提条件としてはどちらかのモードのみで振動していると考える。」はどこへ。もう知らん。
— 魚田雅彦 (@muota_here) 2018年1月12日
A-Ⅰで「音叉は逆位相」という内容が明記されていながら、A-Ⅲは同位相を想定とか、物理以前に国語として崩壊している。説明として最悪。
問4と5の出題を誤り、問5から「忖度」して答えた受験生も相当いるはずなので問4は正解を3つ(実質2つ)でよいではないか。もはや失うものもないだろうに。— ノブ山 (@crzexpress) 2018年1月12日
いくらなんでも見苦しすぎるわこんなん。 問1で考えさせたのと逆のモードをスタンダードとして当初正解設定していましたは無理だろ。 これを想定したっていうならn-1/2を不正解にしなくてもよいっていう(かなり苦しい)言い訳にはなるが。
— らいね (@xibritte) 2018年1月12日
> 問5においては同位相振動モードで振動していることを前提として問題が作られていた。
とうてい真実とは思えない。
だが、もし本当だったとしたら、問1があるのにそれを前提にしたというのは極めて異常。正直に「間違いました」と言えない理由があるのか?@h_okumura https://t.co/FKwAfFcip8
— Hal Tasaki (@Hal_Tasaki) 2018年1月12日
同じ問題の中で設定(条件)が異なるというのは入試問題としては無理があると思うな。
というわけで,8割ほど完成していた論文は全面的に書き直しです。今日中の完成は諦めます。— よしだひろゆき (@y__hiroyuki) 2018年1月12日
阪大が2d=(n-1/2)λを正解に残した理由を発表した。音叉の同位相モード(両腕が同時に右、左と動く)を想定していたという。問題の前半で逆位相モードを説明しておいて、それは苦しい言い訳だろう。音波の“密部”ではなく、波の“山”が同時に左右に出されると勘違いしていたと、なぜ素直に言えないのか。
— 金子朋史 (@catom_knk) 2018年1月12日
粗密波の反射は自由端反射になるのでは…。振動モードが2通り考えられるとか、初めの問の誘導自体を無視するような言い訳はやめたほうが良いと思ふ。何のために初めの問題があるのか。
粗密波の扱いを密度と変位で取り違えてましたって認めちゃえよ。— しのぶ@このみ年越しライブ余韻 (@shinobu1103) 2018年1月12日
大阪大学、苦肉の策に出たか?
A-I.で「2本の腕は互いに逆向きに振動し,周囲の空気に圧力変動を与えて いる。」と書いているのに解説では「逆位相振動モード」もあると来たか。https://t.co/NvftYDFaK2同じ問題の中でちゃぶ台返ししちゃ駄目だろ。
— 渡辺博之(魯) (@litulon) 2018年1月12日
「設問ごとに違った振動モードを想定してた」ってさすがにギャグ(笑)
— さんた (@santasshu) 2018年1月12日
大阪大学入試出題ミス、大学側の用意した答えに加え指摘された2つ答えを合わせた合計3つが答え、というストーリーが既にできあがっているので、各方面から違うと言われてついに「実はこういう条件を想定していたんです~」と後出ししてきた。
笑える(笑えない— ぼくさー (@boxeur0211) 2018年1月12日
なにか、2(5)チャンネルで罵倒され、反例を必死でぐぐる人みたいな考え方だ。出題者は同位相モードで音叉叩いたことあるのか?
— hrk先生 (@Prof_hrk) 2018年1月12日
阪大はなぜ誤りを認めないのか
問5との整合性を考えて問4を同位相振動モードと考え直した受験生がいたであろうという配慮から、そのような答えに3点を与えるのはやむを得ないかもしれません。しかし、本来あるべき採点、すなわち、問4で同位相振動モードで考えた解答(=誤答)は0点(配点3点)、逆位相(=正答)で考えた答えに3点、問5は設問の矛盾から問題が成立しないので全員に4点(配点4点)として採点をやり直せば、1月6日の追加合格者30人以外にも、もっと多くの合格者が出るはずです。出題ミスに伴う変則的な採点方法のせいで、問4、問5を一番正しく答えた人の中に不利益を被る人が出たという批判を恐れるあまり、阪大は誤答を頑なに認めないのかもしれません。
もしかして、阪大が同位相モードなんてのを持ち出してきたのって、無理矢理にでも最初の正解を正当として扱い続けないと、すでに合格している人の点数が下がって、さらに追加で合格者を出さないといけなくなるからなのだろうか?
— しがない (@shiganai_pd) 2018年1月15日
阪大が2017年入試「物理」出題ミスを解説 | 日本の科学と技術 https://t.co/jRGZsfOLPJ
大学が用意したもとの解答を間違えにしちゃうと、追加合格者数が30人じゃ済まなくなるんだろうなと邪推。— つらっキー(元イオンモールメンバーズ会員 (@gekitsura) 2018年1月14日
参考
- 平成29年度大阪大学一般入試(前期日程)等の理科(物理)における出題及び採点の誤りについて 大阪大学 2018年1月6日(土)(1月12日追記)
- 高校物理における音波の解説 (PDF) 2018年1月12日 京大理 佐々真一
- よしだひろゆき @y__hiroyuki仕方がないので,昨日の阪大の発表を受けた小論を作成しました。
-
この際なので,阪大とやり取りしたメールを示しておきます。
1つ目が最初に僕が出したメール,2つ目が阪大からの回答,最後がそれを受けての僕の返信です。 pic.twitter.com/bOm7tzMmFd— よしだひろゆき (@y__hiroyuki) 2018年1月14日
- Vibrational Modes of a Tuning Fork (acs.psu.edu)
その他のツイート
上で紹介した以降も、阪大の1月12日の説明の矛盾を指摘するツイートが多数発信されているので、目に留まったものを挙げておきます。
- Hal Tasaki @Hal_Tasakiぼくには(もちろん、ミスがないのがベストだが、ミスをしてしまったなら)A の方が B よりもずっとずっとマシに思える。 本気で B を主張するなら、今後、阪大の入試では全てが明示的に書かれていない限りは断りなく状況をどんどん変更するということにならないか?
- Hal Tasaki @Hal_Tasaki阪大の追加説明では、 A「音の反射について勘違いしていたお恥ずかしい」 と認めればいいところを、 B「勘違いはしていない。問1で音叉の(通常の)振動の仕方を述べたが、問4,5では(極めて珍しい)別の振動の仕方をすると断りなく状況を変更した」 としている。
- Limg @LimgTW http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2018/01/files/0112_03 … で音叉モードの説明が追加されているけど、仮にそれが通るとしたら、 今度は、なぜ問5を問題文の不整合と見なし一律加点扱いにしたかの説明が要るね。 追加説明の理屈では、問題5は問題1とは独立であり、前文と整合していれば良く、実際は整合している考え方に見える。
- さんた @santasshuモードによって振動数が変わるから阪大の言い訳は間違ってるわけだけど、おそらくこの調子だと「ⅠとⅢで音叉の振動数は同じと書いたが、同じ音叉を使ったとはどこにも書いていない。ⅢではⅠとは別の音叉を実験に使うことを前提として作問した」って言いそう(笑)
- yanma @yanmaなので阪大の説明は後付っぽくて、多分真相は「どっかの位相をπ間違えてました」なんだろう。そうすると2d=(n-1/2)λが不正解っぽくなってくるが、同相モードの別音叉を使っているという解釈をすると一応は辻褄が合うのでこれも正解にしたいということなのだろう。理由はともあれ採点方針は妥当と思う。
- 延與秀人 @ENYO_Hideto音叉の振動モードで残るのは基音と倍音だけ。それ以外は周波数も違うし、音量も少なく、すぐに減衰してしまう。 特に重心が動くモードの減衰はとても速いだろう。
#阪大入試ミス - Hal Tasaki @Hal_TasakiHal TasakiさんがMasaki Oshikawaをリツイートしました 強く賛成。 昨日の資料の(嘘であることが見え見えの)異常な言い訳に固執しても得るものは何もない。むしろ、あんな「バレバレの後出し」を認めたら試験、というか、論理的な対話そのものが成立しなくなる。
- Masaki Oshikawa @MasakiOshikawa昨年の阪大入試物理の件、続報 阪大の見解が公表されていますが、問題の前半での導入と矛盾しています。常識的にも、試験という限定された舞台での「お約束」としても、これはあり得ないでしょう。こんな話が通るようでは(入試に限らず)試験というものが成立しなくなる。
- 金子朋史 @catom_knk公式暗記やパターン処理でも多くの入試問題は解ける。でもそのような表面的思考では解けず、現象を真摯に受けとめ基本法則から丁寧に考えなければ解けない問題が良問。今回の阪大のやつは実は良問だったのに、作題者自身がハマったとはね。
- トラフ(技術士) @Trough2012阪大物理入試採点ミスの件、当局の内容の解説として「音叉の二本の枝が逆位相で振動するモードと同位相で振動するモードがある」とされる過去の論文を論ってるが、オリジナルの解答を正解に含めるための強烈な後付け対策のような気がしてならない。
- 小島 徹也 @coJJyMANまとめると,大阪大学が想定した同位相振動モードは,音叉部分の重心が左右に揺れるので,音叉がある別の物体に固定されていないと発生しないし,その物体と共振しないと音が減衰する.したがって,地面に反射壁と音叉とマイクロフォンが固定された状況では発生しない.力学的に無理.
- まかろん@アニオタ @leaf0323miya返信先: @Yobinoriさん あまり波動は得意でないので誤りかもしれませんが、リード文に「音叉は逆向きに振動する」と書いてある以上その下で解くべきですよね? だとしたらこの解説は模範解答を無理矢理正当化したように感じます
- よしだひろゆき @y__hiroyuki返信先: @Hal_Tasakiさん、@h_okumuraさん それにモードが
- 異なると振動数が変わるはずなので,問5で500Hzが使えなくなります。
- ぎゃばん@明日の地球を投げ出せないから。 @gavangavan音叉の同位相モードを最初に前提していた、という説明をしたのね。逆位相モードをA-Iで問うていて続くA-IIIでは一転して暗黙に同位相を前提にするのは不自然すぎる。壁の反射と同じく、他の振動モードを考えるならもっと多様な位相ずれも同時に考慮する必要があるわけで、むーん。
- Ryuji Suzuki @silvergrain_大阪大学の入試の物理の問題。阪大解説では、音叉の振動モードを持ち出して、苦しい説明をしています。一番大きい振動は基本波で、逆相振動です。同相振動は、高次のモードで、振幅はかなり小さくなります。問題では、音が強くなる位置を問うているので、基本波で逆相振動以外には有り得ません。
- Hiraku Nakajima @hirakunakajima阪大物理の追加説明 http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2018/01/12_01 … A-I で設定した仮定を A-III で逆にしても正解って、酷すぎる。
- らいね @xibritte当の阪大が紹介している外部サイトで同位相モードの振動数は基本振動と振動数が異なる。で、大問の冒頭部で「500Hzの音を発する音叉」といわれたものが基本振動数500Hzのものと同位相モード振動数500Hzのものの少なくとも2つあって使い分けられているとか誰がまともに信じるかボケ
- 佐々真一 @sasa3341阪大から、「答えが二つあること」の解説がでた。http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2018/01/12_01 … まさかの(僕が音叉のことをよく理解していないときに可能性の一つとして適当に書いた)表と裏での密度波の位相の反転を根拠にしていた。うーむ。
- 大阪大学の言い訳がひどいと物理屋の間で話題に(togetter)
- 日本の科学と技術 @scitechjp”なおAとBは独立した内容の問題である。”と但し書きがある以上、Aの中の実験I,II,IIIで使われた音叉の振動モードは同一であると受験者が理解するのが当然。阪大の後出し説明は、詭弁ではないか。 阪大2017年入試「物理」出題ミスの真相 http://scienceandtechnology.jp/archives/16233
報道
- 阪大 入試ミス 「解説」ミス?でさらに疑念 物理問題 (毎日新聞2018年2月17日 01時21分 最終更新 2月17日 01時47分) 大阪大にミスを指摘した予備校講師の吉田弘幸さん(54)は「条件の修正がない以上、問4も(1)のタイプしか考える余地はない」と指摘する。大学で物理学を研究するある男性教授は「前の問題文で示した設定を、続く設問で説明なく覆すのは、非常識を通り越して異常だ」と批判した。 さらに、(2)のタイプの振動は、根拠にした00年の学術論文などによると「(1)よりも振動数は低くなる」とあり、ここでも矛盾が生じる。東京大の押川正毅教授(理論物理学)は「冒頭で500ヘルツとあるので、この音波が全ての問題に適応されると解釈せざるを得ない」とし、大阪大の解説について「この理屈が認められるなら、問題で与えた設定と異なる勝手な条件で考えた解答も全て正解とせざるを得なくなる」と指摘した。
- 入試ミスの阪大、音叉の振動はAとBのモードあるのに… (朝日新聞DIGITAL 2018年1月13日07時21分 (会員限定記事)石倉徹也、後藤一也、合田禄):”大阪大が入試ミスで本来合格の30人を不合格にしていた問題で、阪大は12日、設問の誤りについての説明資料を発表した。一般的でないケースを前提に問題が作られ、その場合の解答のみ当初正しいとしていた。”
更新・変更 20180301 毎日新聞2018年2月17日の記事があることに気付いて追加
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