データ捏造など悪質な論文不正を行った研究者は研究費返還を

研究不正を防ぐには、倫理的な教育も大事でしょうが、一番効果的なのは罰則の強化でしょう。データ捏造を行うことが割に合わない行為だとわかれば、不正を行う人は減ると思われます。 平成25年7月26日(金)に行われた下村博文文部科学大臣の定例記者会見で、大臣は質疑応答で、「不正行為との関係が認められた研究費については、返還を求めるとともに、応募資格の制限等の措置を取ることにしております。」とかなり踏み込んだ発言をしています。この言葉通りに厳格に実行されれば、研究不正の状況は劇的に改善するでしょう。

――平成25年7月26日(金)に行われた下村博文文部科学大臣の定例記者会見より――
記者:「同じく東大の話ですけれども、論文の改ざんの問題が昨日報道されておりますが、それ以降、文科省の方にも何か報告等があれば教えていただけますか。」

大臣:「東大における論文不正行為の事実関係については、現在、東大において、不正の事実関係も含めて調査中であるという報告を受けている段階であります。東大に対しては、ガイドラインにのっとった厳正かつ速やかな調査を行い、その結果を取りまとめて報告するよう指示しております。文部科学省としては、調査報告の内容を精査し、不正行為との関係が認められた研究費については、返還を求めるとともに、応募資格の制限等の措置を取ることにしております。また、研究活動等の不正については、競争的資金に係る研究活動のガイドラインを策定し、大学に対して厳格な運用を求めているところでありますけれども、更に倫理教育の強化等を含めた、新たな研究不正防止のための取組についても検討していきたいと考えております。」

記者:「東大の問題ですけれども、論文の不正の方ですが、告発から1年半たっても、その状況が明らかにされていないということと、まさしく、昨日の現職の教授が逮捕された案件もあると。国民の目から見れば、国のお金を使って研究をしっかりしているはずの機関が何をやっているんだと、そんなことに使っているのかというふうなことで、疑問の目が向けられると思うのですが、文部科学省として、更に指導を厳しくするとか、どのようなお考えをお持ちでしょうか。」

大臣:「そうですね。今まで、やはり大学の先生というのは立派な先生方だからという、性善説が前提で物事が行われてきた部分があったというふうに思います。しかし、ルールとか、また私的流用したら、これはもう明らかな犯罪ですから、それは、東大の先生というか大学の先生では起こり得ないという、今まで前提条件があったのかもしれませんが、今後、どんなポストであろうが誰であろうが、やはり不正は不正として事前にチェックできるような仕組みというのも、改めて考えていかなければならない時期に、残念ながら来ているのかなと。そういう前提の中で、今回、この東大の2件の問題等、詳細な報告を受けた後、文部科学省として、改めてチェック機能の強化、二度とそういう不正が行われないような仕組みをどうつくるかと、これは、倫理教育の強化を改めてするということも当然いたしますが、そういうことも含めて検討していく必要があると思います。」

研究不正に関するタスクフォース設置へ 文科省

研究不正は今に始まったことではありませんが、このところ研究者の犯罪的行為に関する報道が続いています。それを受けてようやく文科省が研究不正の問題に正面から取り組む態度を示しました。

下村博文文部科学大臣は平成25年8月2日の記者会見で、「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」を設置することを公表しました。

(1:35秒~3:17秒)
「2つめは、研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォースの設置であります。前回も記者のみなさんから指摘されましたが、大変残念なことでありますけれども、昨今大学等大学の研究者によります研究不正や研究費の不正使用の問題が続けて報道されており科学技術への国民の信頼を揺るがすような由々しき事態になってきております。
文部科学省としてはこの問題をしっかり受け止め、スピード感を持って対応していきたいと考えており、福井副大臣を座長とする「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」を設置することを決定いたしました。タスクフォースでは、これまでの研究不正や研究費の不正使用への対応を改めて総括したうえで、これらの不正事案への対策について早急に検討を行ってまいりたいと思います。
また、先日、国立大学協会、学長の代表の方々が26年度の概算要求要望に来られた際に私からこのことについて改めて国立大学協会に申し入れをし、大学側も各大学側がこれについてはですね誠心誠意対応していきたいという答えもありました。」

ちなみに、タスクフォースとはもともと軍隊の用語で、任務(タスク)のために編成された部隊のこと。これから、軍隊に限らず具体的な特定の目的のために一時的に編成される部局や組織のことをこう呼びます(参考:ウィキペディア)。

研究不正の問題は、大学の学長が関与していた例もあったり、不正行為を働いた研究者の責任を問わずに雇用し続けている大学もあるくらいに根が深いのです。ですから、大学に申し入れをして誠心誠意対応していきたいという表面的な答えをもらっても全く無意味です。大学関係者に限らず、日本じゅうの全ての研究者、大学院生の意見をくみ上げることをしてほしいものです。

存在しないマウスを解析した不思議な阪大論文

2004年に阪大から出たNature Medicineの論文でビックリ仰天なのは、「脂肪細胞異的PTENノックアウトマウス」を作製し、その解析を行ったと言いつつ肝心の遺伝子改変マウスが存在すらしていなかったということです。

アカデミックなポストに就くことも、研究費を獲得することも非常に熾烈な競争を強いられます。これほど悪質な不正行為を働いても普通に研究を続けられるというのであれば、研究者間の公平な競争が妨げられ、日本の研究レベルが下がるだけでしょう。「これでクビにならないのなら、データ捏造しない研究者の方が頭がおかしいのか!?」と錯覚してしまいそうなくらいにたまげた話です。

論文の撤回など普通の研究者なら一生に一度も無いのが普通ですが、捏造論文を一度出したラボは面白いことに何度でも同じようなことを繰り返す傾向があります。このラボからも、2004年のnature medicineに続いて、2005年にはサイエンス誌にVisfatin: a protein secreted by visceral fat that mimics the effects of insulin.という論文が発表され(Science 307(5708):426-30)、その後撤回されています。撤回の事情はというと、

『大阪大学医学系研究科は14日教授会を開き、同研究科の下村伊一郎教授らが、肥満と糖尿病に関する研究で04年に米科学誌に発表した論文を取り下げるよう、本人に通知した。捏造(ねつぞう)、改ざん、盗用などの証拠は認められなかったが、実験がずさんで不備があり、不正の疑いがあると判断した。』(asahi.com 2007年06月14日 日々是好日

のだそうです。

存在しないマウスを解析したという不思議な論文:

Nature Medicine 10, 1208 – 1215 (2004)
Published online: 17 October 2004 | doi:10.1038/nm1117There is a Retraction (June 2005) associated with this Article.

Enhanced insulin sensitivity, energy expenditure and thermogenesis in adipose-specific Pten suppression in mice

Nobuyasu Komazawa1, Morihiro Matsuda2, Gen Kondoh1, Wataru Mizunoya3, Masanori Iwaki2, Toshiyuki Takagi2, Yasuyuki Sumikawa4, Kazuo Inoue3, Akira Suzuki5, Tak Wah Mak6, Toru Nakano7, Tohru Fushiki3, Junji Takeda1,8 & Iichiro Shimomura2,9,10

Abstract

Pten is an important phosphatase, suppressing the phosphatidylinositol-3 kinase/Akt pathway. Here, we generated adipose-specific Pten-deficient (AdipoPten-KO) mice, using newly generated Acdc promoter–driven Cre transgenic mice. AdipoPten-KO mice showed lower body and adipose tissue weights despite hyperphagia and enhanced insulin sensitivity with induced phosphorylation of Akt in adipose tissue. AdipoPten-KO mice also showed marked hyperthermia and increased energy expenditure with induced mitochondriagenesis in adipose tissue, associated with marked reduction of p53, inactivation of Rb, phosphorylation of cyclic AMP response element binding protein (CREB) and increased expression of Ppargc1a, the gene that encodes peroxisome proliferative activated receptor gamma coactivator 1 alpha. Physiologically, adipose Pten mRNA decreased with exposure to cold and increased with obesity, which were linked to the mRNA alterations of mitochondriagenesis. Our results suggest that altered expression of adipose Pten could regulate insulin sensitivity and energy expenditure. Suppression of adipose Pten may become a beneficial strategy to treat type 2 diabetes and obesity.

参考

  1. これだけの大々的な捏造論文を出して、この程度での軽い処分なら、今後捏造者がまず減ることはないだろうと思います。捏造論文に甘い大阪大学(生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ2006年 02月 16日)
  2. 「下村教授の責任は重い。その理由は、責任著者であるということだけではない。…この論文が正しいと世の中で通ればその果実の大半は下村教授が受け取っていたはずだからである。間違っていたから知りませんでは通らない。いわんや被害者のような態度を取ってはいけない。」阪大医下村グループ等捏造論文事件について On scientific fraud (生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ 2005年 05月 31日)
  3. (論文の捏造データに関して)「わたくしは、科学の世界における最悪の行為とみなしてます。」阪大での捏造論文について(続き) Scienfic fraud 2 (生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ 2005年 05月 31日)

東大教授を詐欺容疑で逮捕

東京新聞(2013年7月26日 朝刊)によると、東京大学政策ビジョン研究センター秋山昌範教授(55)が、公的研究費を着服した疑いで逮捕されました。詐欺の手口は、IT関連会社社長らと共謀してデータベース作成を発注したように装い、東大に虚偽の請求書を提出。2010年3月から2011年9月の間、7回にわたり業者の口座に研究費計1890万円を振り込ませ詐取したということです。

秋山昌範教授の略歴は東京大学政策ビジョン研究センターウェブサイトによると、

1983年 3月  徳島大学医学部医学科卒業
2005年10月 マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院客員教授
2009年 8月  東京大学政策ビジョン研究センター教授

ということで、医療IT(インフォメーションテクノロジー)が専門だそうです。

研究費名目で約2,200万円だまし取った疑い 東大教授逮捕

このテレビニュースによると、着服したお金は私的に使用していたとみられているそうです。研究者の倫理について考えるとき、このように不正により作り出したお金を研究者が自分のポケットに入れたのかそれとも研究室運営に使ったのかを区別することは非常に重要です。なぜなら、昔は、今なら不正とみなされるようなことによりお金を工面してそれで学生が学会に参加できるようにすることがむしろ普通だった時代もあるからです。しかしながら現在では科学研究費の運用に関しては以前よりも柔軟性が持たされており、また、学生の学会参加もフェローシップなどによりサポートする制度が増えてきたため、そのようなことをする必要性が薄れ、研究費の適切な使用に関しては以前よりも厳格になっています。研究費の使用に関しては研究者個人ではなく大学の事務が支出の管理をしているため、今回の事件は東京大学の事務サイドが研究者に騙されたという図式です。事務方が研究者に対して使途の厳格さを強く求めれば求めるほど、研究者側からすれば研究がやりにくくなります。逆にそこを緩くすると、今回のような事件が起こりやすくなるわけで、どこかに適切なバランスが必要です。

 

追記2017年12月13日

研究費名目で東大と岡山大から計約2180万円をだまし取ったとして詐欺罪に問われた元東大政策ビジョン研究センター教授、秋山昌範被告(60)=懲戒解雇=の控訴審判決公判が13日、東京高裁で開かれた。栃木力裁判長は「研究費を自主返納した」として懲役3年とした1審東京地裁判決を破棄し、懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。 控訴審で秋山被告側は無罪を主張し、有罪だったとしても執行猶予付きの判決が相当と主張していた。 判決理由で栃木裁判長は、詐欺罪が成立するとした1審の判断は相当とした上で、1審判決後に秋山被告が国に研究費の全額を自主返納したことから「財産的被害は回復した」と指摘。「実刑は現時点では重すぎる」として執行猶予付きが相当と判断した。(「研究費返納した」元東大教授、2審は猶予判決 研究費詐取事件で東京高裁 産経ニュース 2017.12.13

Kim et al. Nature 15 October 2009

Kim et al. DNA demethylation in hormone-induced transcriptional derepression. Nature 461, 1007-1012 (15 October 2009)

今回東京大学の調査により明らかになった分子細胞生物学研究所加藤茂明教授(既に退職)の研究室における研究不正の中でも、データ捏造の度合いがひどくしかも一流誌に掲載されているという点で一際目を引くものの一つがこの論文です。この論文に関しては、調査委員会の予備調査結果が出るよりも前に既に撤回されています。

2008年8月18日 論文投稿
2009年8月24日 論文受理
2009年10月15日号Natureに論文掲載
2011年11月1日 論文訂正
2012年6月14日 論文撤回

という経過を辿りました。論文掲載後にデータ捏造疑惑が生じて、苦し紛れの「訂正」をしているわけですから、部下のデータ捏造を教授がうっかり見逃したという図式ではないようです。

DNA demethylation in hormone-induced transcriptional derepression

Mi-Sun Kim1,2,3, Takeshi Kondo2, Ichiro Takada2, Min-Young Youn2, Yoko Yamamoto2, Sayuri Takahashi2, Takahiro Matsumoto1,2, Sally Fujiyama1,2, Yuko Shirode1,2, Ikuko Yamaoka1,2, Hirochika Kitagawa2, Ken-Ichi Takeyama2, Hiroshi Shibuya3, Fumiaki Ohtake1,2 & Shigeaki Kato1,2

  1. ERATO, Japan Science and Technology Agency, 4-1-8 Honcho, Kawaguchisi, Saitama 332-0012, Japan
  2. Institute of Molecular and Cellular Biosciences, University of Tokyo, 1-1-1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0032, Japan
  3. Department of Molecular Cell Biology, Medical Research Institute and School of Biomedical Science, Tokyo Medical and Dental University, Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8510, Japan

Correspondence to: Shigeaki Kato1,2 Correspondence and requests for materials should be addressed to S.K. (Email: uskato@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp).

Nature 461, 1007-1012 (15 October 2009) | doi:10.1038/nature08456; Received 18 August 2008; Accepted 24 August 2009

There is a Corrigendum (1 December 2011) associated with this document.

There is a Retraction (14 June 2012) associated with this document.

この論文は一度、著者により「訂正」(Corrigendum)されています。

Several lanes of the ChIP analyses in this Letter were inadvertently duplicated or erroneously created during figure assembly. We now provide corrected figure panels for Figs 1f, 2c, 2f, 2g and 3h and Supplementary Figs S8, S9a, S9b, S11, S13b, S18 and S28. Our results and conclusions are not affected by these errors, but we apologise for the careless mistakes made.

During initial preparation of the figure panels, the panels for the negative controls (with no obvious signals), inputs and some data were inappropriately duplicated and mixed up. The experiments were performed several times, so a set of data with adequate negative controls and inputs from one experimental round could be found. We have replaced the previous set of data in these panels with a correct set, and confirmed that these corrections do not affect the original claims in the published text. Representative ChIP data are displayed and significance was statistically assessed from several independently repeated experiments. We have also repeated the experiments and obtained the same results as those in the published figures.

そして結果的に、著者らにより「撤回」されました。
In this Letter, we claimed that hormone-regulated transcriptional control involves DNA demethylation mediated by MBD4. Subsequently, we corrected some figure panels that appeared to have been erroneously prepared (Corrigendum, http://www.nature.com/nature/journal/v480/n7375/full/nature10604.html). However, we later found that other figure panels contained data duplications. After further review, we now conclude that the results presented in the original figures had been inappropriately manipulated, and given these more serious concerns we no longer have confidence in the original figures. We therefore wish to retract this Letter and sincerely apologise for any adverse consequences that may have resulted from the paper’s publication.

製薬会社ノバルティス社の降圧剤ディオバン(バルサルタン)臨床研究データは捏造

京都府立医科大学が2013年7月11日に出した調査結果によると、松原弘明教授(2月に退職)が実施した日本人の高血圧患者約三千人のデータに基づく臨床研究で、「ディオバンがほかの降圧剤より脳卒中や狭心症を減らせる」と結論づけたことに関して、「この結論には誤りがあった可能性が高い」ということです。

「誤り」という言葉は曖昧です。要するに、捏造、でっち上げということです。ディオバンは年間の売り上げが約一千億円以上にもなるノバルティス社の看板商品。京都府立医科大学の学長は記者会見で、刑事告発なども視野に協議していると話したそうです。

この臨床研究にはノバルティス社の社員が参加していたこと、松原教授の研究室にはノバルティス社から一億円を超えるお金が寄付されていたことなどから、これは誰か一人の犯罪というよりも、組織ぐるみのより大きな枠組みの中で起きた事件といえそうです。

 

参考

  1. 降圧剤問題 臨床データ操作判明 京都府立医大「論文、誤り濃厚」(東京新聞2013年7月12日 朝刊
  2. 京都府立医科大学によるバルサルタン医師主導臨床研究に係る調査報告発表に対するノバルティス ファーマの見解(ノバルティス ファーマ ウェブサイト
  3. ノバルティス ディオバン(バルサルタン)臨床研究データ捏造疑惑 追求ブログ:  ノバルティスファーマ社員の白橋伸雄氏が身分を隠して多数の降圧剤バルサルタンの臨床研究(臨床試験)の統計解析に関与していことが判明。果たして、データ捏造への関与はあるのか?会社ぐるみの詐欺的販売促進活動か?(http://diovan-novartis.blogspot.jp/

 

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架空の論文実績がばれた准教授が懲戒解雇

科学者が研究費を獲得するのも、職を得るのも全て論文業績に基づいています。論文業績だけは自分を裏切りません。それがちゃんとした論文である限りにおいて。

架空の論文業績を申告して研究費をだまし取ったり、職を得たりするのは犯罪的な行為と言えるでしょう。

参考

  1. 虚偽の研究実績をのべ37回にわたり業績目録や申請書類などに記載した富山大学人文学部男性准教授が2013年6月6日付で懲戒解雇されました。(朝日新聞デジタル2013年6月14日17時42分
  2. 研究費申請などの際に虚偽の申告を行い少なくとも1490万円の研究費を受け取る。(毎日新聞 2013年06月14日 大阪朝刊
  3. 研究助成金の申請書類や教授昇任選考の際に提出した業績目録、大学のホームページの教員紹介欄に存在しない架空の論文や著書を記載(ウォールストリートジャーナル2013年 6月 13日 20:30 JST 更新

ヒトクローン胚性幹細胞作製CELL論文に疑義

2005年にソウル大の黄禹錫博士がヒトクローン胚性幹細胞作製に成功したと論文発表したのが、捏造だったというのは衝撃的な出来事でした。2013年、ついに今度こそ本当にヒトクローン胚性幹細胞作製に成功したという論文がCELLに発表されましたが、論文の図の作成時に「同じデータを再利用していた」という「ミス」が複数見つかったり、「不自然に一致しすぎている2回の実験結果」を指摘する声が上がるなど、釈然としない事態になっています。

ネイチャーの解説記事は、単純なミスか不正行為かの判断を避けながらも、責任著者の釈明だけでなく、他の科学者の厳しい意見も紹介しています。なお、疑義に関する詳細な議論は、PubPeerというフォーラム上で行われています。

マイクロアレイによる遺伝子発現の定量に関しては、同じクローンの細胞を異なるディッシュで培養して実験した場合、このように発現パターンが99.8%も一致するのはほとんどあり得ないという専門家の指摘です。

CELLのエディターが論文の著者らに対して実験ノートの提出を求めることにより、「データを取り違えて図を作製してしまった。」、「確率が低かろうが一致したのが事実だから問題ない。」という釈明が受け入れられるものかどうかを判断できるでしょう。

試料の調整を独立に2回行いそれらを測定することと、試料の調整は1回のみでそれを2つにわけて2回測定することは、明確に区別されるべきです。どちらを行ったのかを論文中で明示する限り、何の問題もありません。しかし、サンプルを2つに分けただけなのに、サンプル調整を2回行ったと言って2回分の測定データを見せるならば、それは真実に反することになります。

* * *

人クローン論文にミス「悪意ない」と責任者
2013.5.24 08:01
米オレゴン健康科学大のシュフラート・ミタリポフ博士は、人クローン胚性幹細胞(ES細胞)の論文に使われた写真や記述に複数の「悪意のないミス」があったことを認め、掲載した米科学誌セルに訂正を申し入れる考えを示した。英科学誌ネイチャー電子版が23日、伝え、セル誌は「小さなミスで、論文の科学的成果には影響しない」とするコメントを発表した。
論文の主執筆者は立花真仁研究員だが、博士はチームの責任者。博士は論文発表を急ぐあまり、同じ写真を2度使ったり、写真の説明を取り違えたりするなどのミスが起きたことが分かったと話した。
ネイチャーによると、博士は論文の7ページ目にある2種類の幹細胞の写真に付けた説明が入れ替わっていることを認め、幹細胞で働く遺伝子を調べたグラフに使われている画像も一部、誤ったものが使われていた。
人クローンES細胞をめぐっては、韓国ソウル大の黄禹錫元教授が発表した論文が捏造だった経緯がある。(共同)

  1. Stem-cell cloner acknowledges errors in groundbreaking paper (nature.com)
  2. Human Embryonic Stem Cells Derived by Somatic Cell Nuclear Transfer. (PubPeer)
  3. 人クローン論文にミス「悪意ない」と責任者 産経ニュース2013.5.24 08:01

阪大助教が研究の進まぬ大学院生を殴る蹴る!

大阪大学基礎工学研究科で起きたアカデミックハラスメントのニュースです。以下、ニュース記事の転載。

指導する学生2人に暴力をふるうなどのアカデミックハラスメントをしたとして、大阪大は15日、大学院基礎工学研究科の30代の男性助教を停職3カ月の懲戒処分としたと発表した。助教は「反省している」と話しているという。
 阪大によると、助教は昨年12月上旬、指導していた学生の研究が進んでいないことを激しく叱責。同月中旬には学生が持っていた論文のコピーを破り、脇腹を背後から蹴り上げるなどした。
 被害を受けた学生が大学側に相談し発覚。その後の調査で、平成23年にも別の学生の頭を平手で殴ったことが判明した。転載元:産経ニュース2013.5.15 22:07

データ捏造准教授が懲戒解雇に

以下、ニュースからの転載です。

日本経済新聞ウェブサイト2013/5/11 0:29
三重大准教授がデータ捏造 懲戒解雇に
三重大と名古屋大は10日、三重大大学院生物資源学研究科の青木直人准教授(47)が、名古屋大在籍時などに発表した論文で、捏造(ねつぞう)した画像データを掲載していたことを明らかにした。不正論文を研究実績として文部科学省所管の日本学術振興会などに補助金を申請、受け取っており、三重大は9日付で懲戒解雇処分とした。

FNN東海テレビNEWS 05/10(金) 18:52更新
論文データねつ造で三重大准教授を懲戒解雇
三重大学大学院の47歳の准教授が、データをねつ造するなどして11本の論文を不正に作成していたことがわかり、大学は准教授を懲戒解雇処分とした。懲戒解雇されたのは、三重大学大学院生物資源学研究科の青木直人准教授(47)。三重大学によると青木准教授は、名古屋大学の助手をしていた平成8年以降に発表した細胞の情報伝達に関する研究など11本の論文の69箇所について、別の実験で用いたデータを加工して載せるなどの不正行為をしていた。青木准教授は、「過って実験結果を掲載した」と説明していたが、該当する実験記録がほとんど確認できなかったという。このため三重大学は、意図的なデータのねつ造と認定し、青木准教授を9日付で懲戒解雇した。

以下、三重大学の公式発表(http://www.mie-u.ac.jp/topics/university/2013/05/post-285.html)より。
大学教員の研究不正及び懲戒処分について 2013年5月10日
(対象者)三重大学大学院生物資源学研究科 准教授
(事案の概要)
大学院生物資源学研究科准教授が捏造及び改ざんしたデータを用いた論文投稿を行ったとする三重大学宛申立があり,三重大学研究行動規範委員会予備調査委員会において予備調査した結果,「不正行為の可能性は有」と判断し,三重大学研究行動規範委員会において調査専門委員会による調査を行うことを決定した。
准教授は本学に赴任する以前は,名古屋大学に所属しており,両大学が協議の上,互いに協力しつつ独立して調査に当たることとした。
調査委員会では,指摘された研究論文,実験ノート及び元画像データ等の精査,関係資料の調査並びに被告発人からのヒアリングを実施した。研究行動規範委員会は,調査委員会の調査結果に基づき,研究不正行為があったと認定した。
(本学の対応)
①平成23年2月に研究不正に関する告発があり,研究行動規範委員会に調査専門委員会を設置し,慎重に調査した結果,平成25年1月に不正行為が存在すると認定した。
②平成25年2月,教育研究評議会に審査委員会を設置し,慎重に処分内容を審議した。
③審査委員会の審査結果を受け,平成25年5月9日の役員会の議決を経て,本学職員就業規則に従い,同日付けで懲戒解雇とした。

その他参考となる文書やウェブサイト

  1. 不正行為の疑いが指摘された10論文に関する認定 三重大学研究行動規範委員会(PDF)
  2. 三重大学 青木直人の論文捏造、不正 三重大学大学院生物資源学研究科と、名古屋大学大学院生命農学研究科の青木直人准教授による論文捏造、研究不正事件の追及ブログ(11JIGEN)

言葉の使い方:question

学会発表やその質疑応答の場面でよく聞かれる表現の中で、questionという単語に関する表現をまとめてみました。
he will be happy to take your questions.
座長:彼(演者)はみなさんの質問に答えてくれるでしょう。
I am happy to answer your questions.
質問があればお答えしたいと思います。
I welcome your questions.
質問があれば歓迎します。
I have a question for you.
あなたに一つ質問があります。
I would like to ask you two questions. First, ….. Second, …
2つ質問があります。ひとつは、、、2つめは、、、
Let me ask you one more question.
質問者:もう一つ質問させてください。
I am asking this question because ……
質問者:私がこの質問をしている理由は、、、、
I wanted to ask you a question about…
質問者:、、、について質問があるのですが、、、、
My question is about …
私の質問は、、、、に関してです。
… So, my question is, why ….
。。。(そんなわけで)、わたしの質問はですね、、、、、、?
I will answer your second question, first.
演者:2番目の質問からまず答えたいと思います。
I will answer your last question, first.
演者:最後の質問からまず答えます。
What was the first question?
演者:1番目の質問は何でしたっけ?
it’s a hard question to answer
それは難しい質問です。
that’s a great question
それはいい質問です。
Did I answer your question?
演者:(私の今の答えは)あなたのご質問に対する答えになっておりましたでしょうか?
Does that answer your question?
演者:これで答えになっておりますでしょうか?
Okay/Well, if there are/is no more questions, (then) we will ….
座長:さて、もし他にご質問がなければ、、、、

座長の英語表現:ご質問はありませんか?

学会やシンポジウムで演者の発表が終わったときに、座長が使う英語表現。
まず演者にお礼を述べます。
“Thank you for your presentation.”
質問時間であることの宣言。
“Now, the paper is open for discussion.”
会場に対して質問を促します。
“Is there any question?”

座長の英語:「次の発表者は~さんです。では、どうぞ。」

学会発表やシンポジウムでセッションの進行を受け持つ座長が次の演者に進むときの英語表現。
“The next speaker is Dr.XXX YYY from 研究所名 in 国名または都市名. The title of this talk is ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ. Dr.YYY, please.”

トークの締めの言葉

「ご静聴ありがとうございます。ご質問があればどうぞ。」というのが締めの言葉になります。いくつか例をあげましょう。
もっとも簡潔に、
Thank you for your attention, and I’d be happy to take your questions.
いろいろなバリエーションがありえます。
So, I’d be happy to answer any questions, and thank you for your attendance, and I hope to answer questions you might have.

英語で学会発表をするための練習方法

英語で学会発表をするための練習方法について思いついたことを書きます。
一番良い方法は、本番の学会の前に小さな学会やセミナーでリハーサルがてらしゃべることでしょうがなかなかそこまでは機会がないかもしれません。
段階的に書くと、
1.一人で家で練習
2.家族や親友など親しい人に聞いてもらいながらしゃべる練習
3.ラボのメンバーの前で発表練習
4.小さな規模の学会やセミナーで発表
5.海外の学会で発表
という順序になると思います。全部できなくてもいいですが、機会が作れるものは全部試してみるといいと思います。
誰にでもできるのが一人での練習なので、それについてアイデアを書いてみます。
まず、誰にでもできると言いましたが、恥ずかしがり屋さんは自分のアパートや部屋で隣近所や家族に聞かれながら大きな声で発表練習ができないかもしれません。
気持ちはわかります。私もそんな「変な人」になる勇気がありませんでした。
まずそのシャイな心を吹き飛ばしてください。これから大勢の外国人の前で英語で発表しようなどと大それたことを考えているのですから、近所に変な声が聞かれたくらいどうってことないです。自分がやるべきことをやる、と決めてください。
覚悟を決めてください。腹を括ってください。
それで、アイデアですが。
録音、または録画することです。いまどきPCとウェブカメラがあるんですから誰でもできますよね。
自分の発表を。自分が大舞台でしゃべっていることをリアルに想像しながら練習してくださいね。きちんと聴衆を見渡して一人ひとりとアイコンタクトを取りながら。PCの画面を見ながらやると前にスライドが来ますが、自分の背後のスクリーンにスライドがあるイメージでやったほうがいいです。この差は大きいですから。
最近スライドプロジェクターが小型化してかつ値段が安くなってきていて個人で買えなくはないところまで来ています。お金に余裕のある人はプロジェクターを買って部屋の壁に投影しながら練習すると臨場感が出ていいとおもいます。このアイデアは私がやりたくてまだやっていないことなんですが。
自分を撮影するのはかなり恥ずかしいことかもしれませんが、ヘタクソなみっともないしゃべりをしている自分を記録して見直して、どこをどう直すべきか徹底的に考えてください。これを繰り返して、まあまあ悪くないかもと思えるレベルに上げるのが目標です。

発表でアガらないために

私もかなり緊張しいです。滅茶苦茶アガり症です。ですので、どうすればアガらないで済むのかを常日頃から考えております。
あがってしまうのは、気持ちが自分に向いてしまっているから。
うまくしゃべれなかったらどうしよう?とか質問が聞き取れなかったらどうしよう?答えられなかったらどうしよう?まだストーリーが十分できてないのに恥ずかしい。
わかりますよね、これらの考えは全て意識が自分に向いています。はっきり言って、あなたの発表がどんだけひどかろうが、誰も気にしちゃいないんです。
意識を相手に向けましょう。わざわざ自分の話を聞きにこの会場にきてくれてありがとう。おとなしく座って顔を上げて聞いてくれていてありがとう。ちゃんと私の話の流れについてきてくれてますか?私の声の大きさはちょうどいいですか?
などなど。
居眠りしてたり、下向いて勝手なことやってる人も多いですが、そういう人をみたら自分がアガってるのが馬鹿らしくなりますね。
とにかく自分は一体何を伝えたいのかをはっきりとさせ、それを一生懸命伝えようと努力しましょう。そうすれば緊張していても、プレゼン自体は決して悪いものにはならないでしょう。
あとは慣れです。
いきなり英語で学会発表はきついです。研究室内での発表、大学や研究所内での発表、インフォーマルセミナー、いろいろな規模の発表の機会があるはずです。軽く考えずに、大舞台に臨むのと同じ心構えでいきましょう。「伝えよう」という気持ちを強くするための練習だと思って取り組みましょう。
今では日本の国内の学会であっても、私の知る限り発表は全部英語になっています。これは、海外での学会発表のハードルを下げるためにも好ましいことだと思います。
原稿を度忘れしてもつないでいけるようにするためには、日頃からの基礎英語力アップも欠かせません。

知らない人のために一応説明しておきますと、

聞きに来てくれた人の研究のバックグラウンドが自分と同じとは限らないため、その分野をよく知らない人のために背景の説明をする必要があります。予備知識の説明を切り出す時の表現。
for those of you
OK, so, just a little bit of background for those of you that are not familliar with the spinal cord, …(spinal cordの説明)

練習!練習!また練習!

学会発表は日本語でも大変です。日本語であっても練習を何回もするべきです。慣れていない学生やポスドクは、ラボの人たちに聞いてくれるようにお願いして発表の練習をしましょう。その前にもちろんまず一人で練習です。家で練習するときに家族や親兄弟に聞いてもらうのもいいアイデアです。私はめんどくさがる妻を拝み倒して、聞いてもらったりします。えー、が多すぎるとか声が小さいとか、語尾がはっきりしないとか、そういうフィードバックもありがたいです。
学会会場で偉い先生たちを見ると、直前までスライドを入れ替えたりしていて、練習なんてしていないように思えるかもしれません。彼らはあっちこっちで同じ話を何回も何回も飽きるくらいしゃべってきたのです。あるいは長い経験から、新しい内容であっても頭の中でトークを組み立てる能力を身に着けているのです。
自分の博士発表会を思い出すと、とにかく原稿をきっちりと書き、一字一句を選び抜き練習しました。すると言葉一つ変えただけでもきっちりそれが秒数の増減に反映することに気付きました。もちろん本番で緊張して早口になったり予期せぬことが起こるかもしれません。それでも練習の段階で、決められた時間にぴったり収める練習をするべきだと思います。
英語の場合はなおさらです。とにかく練習しましょう。海外に行ったらわかりますが、アメリカ人でも本番前に何回も練習しています。英語が母国語でない私たちはなおさら練習が必要です。
本番でしどろもどろになるくらいなら原稿を読むほうがましという意見もあるかもしれませんが、私は賛成しません。学会発表は熱気に満ち溢れているものです。以前、アメリカの学会に参加していたとき、講演者の中に日本からの学生がいました。自分の番が来たとき彼は原稿を読み始めました。そのとき、それまでなごやかだった会場がなんとも言えない異様な雰囲気になりました。会場の温度がヒューっと5度くらい下がったみたいでした。彼は聴衆を全く見ずにひたすら下を向いてえんえんと原稿を読み切りました。英語の発音はとてもきれいで流暢でした。その後の質疑応答を英語で無難にこなしていたので、なおさらもったいないことだと思いました。
「学会発表」だと思わないことです。自分が伝えたいことを目の前の複数の相手に「伝える」という非常に人間味溢れる行為なのです。
言葉がスムーズに出てこなくて間があまりに多すぎると、聴衆はどうしても集中力を失います。
どのくらい練習すべきかの目安としては、
練習してしゃべっているとは思えないくらい自然に言葉が口をついて出てくるくらい
がいいと思います。
実験データが出揃っていなくてもいいんです。話をどう組み立てるかだけ考えるのでも時間がかかります。今からスライドを作り、トークの組み立ての構想を練りましょう。練習期間が長ければ長いほどうまくなります。
初めて覚える英語表現を一生懸命覚えて、それがスラスラと口をついて出てくるようになるにはある程度の期間練習を続けることが必要です。

それに関しては詳しくは触れませんが

言及したことにそれ以上触れるつもりがないときの言い方です。

go into: 詳しく述べる

…, which is an interesting story but I won’t go into.
go through: 検討する、討論する
So, these are all clones, I’m not going to go through the data that tells you why they are clones.
(注)clones: 単一の細胞から分裂して生じた細胞集団のこと]
There is experimental evidence for this, but I don’t have time to go thourugh it, so I will just tell you a little bit about it and then sort of tell you how we hope to really look at this model in detail.