Category Archives: 生命倫理

中国で人間の遺伝子を導入されたサルが作り出される

人間らしさを決めている遺伝子の候補であるMCPH1遺伝子をサルに導入するという実験が中国で行われ、その結果が中国の科学雑誌National Science Reviewに報告されました。

Transgenic rhesus monkeys carrying the human MCPH1 gene copies show human-like neoteny of brain development. National Science Review https://doi.org/10.1093/nsr/nwz043

 

報道

  1. ヒトの脳の発達に関わる遺伝子をサルに移植、中国で実験(2019年4月12日 18:36 AFP BB NEWS)【4月12日 AFP】中国の研究チームが、ヒトの脳の発達において重要な役割を持つとされるマイクロセファリン(MCPH)遺伝子をアカゲザルの脳に移植する実験を行った。
  2. サルの脳に人間の遺伝子、中国の研究者が移植実験 批判も (2019.04.13 Sat posted at 13:18 JST CNN.co.jp) 中国の研究グループがこのほど、人間の脳の発達に関わる遺伝子をサルに移植することで認知機能を向上させたとの論文を発表し、科学界を二分する論争を引き起こしている。
  3. 高い知能の「遺伝子組み替え猿」が誕生、人間の脳発達に関わる遺伝子を注入(2019年4月16日 11:45 BUZZAP!  exciteニュース)
  4. 『猿の惑星』が現実に? 中国が「サルの脳」に人間の遺伝子を移植した結果、認知機能が向上したと発表(2019/04/17 14:00ナゾロジー ニコニコニュース)中国南西部にある「昆明動物研究所」は先日、人間の脳の発達に寄与したとされる遺伝子を、サルの脳に移植することで認知機能を向上させることに成功したと発表しました。この実験に対して「倫理に反する」と世界中から非難の声が挙がっています。中国は「遺伝子操作ベビー」で物議をかもしたばかりですが、まだ同様の研究は続きそうです。
  5. 「猿の惑星」が現実に? 猿に人間の遺伝子を移植、中国の研究チーム(2019年04月15日 BBC NEWS JAPAN)中国の科学者が、猿に人間の遺伝子を移植し「遺伝子組み換え猿」を作り出していた。先月、中国の科学誌「ナショナル・サイエンス・レビュー」に掲載された論文で明らかになった。昆明動物研究所と中国科学院の研究員が、米ノースカロライナ大学の研究員と共同で行なったもの。人間の知能がどのように進化していったのかを突き止めるため、アカゲザルの脳に人間の遺伝子「MCPH1」を移植したという。

 

ヒト受精卵にCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を適用して赤ちゃん(双子)が誕生

香港で2018年11月27日~29日に開催されるヒトゲノム編集国際会議に合わせたタイミングで、中国の広東省深圳市にある南方科技大学の賀建奎(が・けんけい;He Jiankui)副教授が、世界で初めてとなるゲノム編集された赤ちゃん(双子)を誕生させたと発表しました。この発表は倫理的にも法的にも許されるものではないとして大きな批判を浴びています。会議2日目の28日にはHe Jiankui博士が登壇し実験結果の報告を行いました。

CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集は、実験動物を用いる研究者の間では非常に一般的になっています。そこで常に議論となるのはオフターゲットの効果(狙った遺伝子とは異なる場所の遺伝子を破壊してしまうこと)で、オフターゲットの遺伝子が破壊されることは、予期しない遺伝病を導入してしまう恐れがあります。実験動物ならオフターゲットの可能性がゼロに近ければ許されるかもしれませんが、ヒトの場合は完全にゼロでないと困ります。CRISPR/Cas9をヒトに応用したときの安全性に関して研究者間でコンセンサスが得られていない状況で、一人の研究者が倫理規定などを無視してデザイナーベビーを誕生させてしまったというは極めて重大な事件です。

 

ヒト受精卵でノックアウトされた遺伝子CCR5

人類初となるゲノム編集ベビーの誕生にあたって、何の遺伝子が編集の対象となったのでしょうか?He Jiankui博士がCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を行ったのはCCR5という遺伝子です。これはエイズウイルス(HIV)が細胞に侵入するのを助ける働きがあり、この遺伝子が働かないようにすればエイズウイルスに感染しなくなります。今回の遺伝子編集ベビー誕生にあたっては、父親がHIV感染者で、母親がHIV陰性の夫婦が選ばれ、受精卵のCCR5遺伝子をノックアウト(破壊)することにより遺伝子の働きをなくしました。この結果、ゲノム編集された赤ちゃんはエイズウイルスに感染しないことが期待されます。

参考

  1. 「エイズに免疫を持つ人々」の遺伝的特性が明らかに(上)(2005.01.11 TUE 04:00 WIRED)最も高いレベルのHIV免疫を持つ人には、1対の変異遺伝子――対になっている相同染色体のそれぞれに1つずつ――を持っているという共通点がある。この遺伝子があると、免疫細胞はエイズウイルスを侵入させる「受容体」を生成しない。この、いわゆる『CCR5』受容体――科学者たちによると「錠」のようなものだという――がないと、HIVは細胞に入り込めず、乗っ取ることもできない。(英語原文の記事 wired.com

 

ゲノム編集ベビー誕生までの実験手順

今回のゲノム編集ベビー実験では、HIV感染者である父親とHIV陰性の夫婦らを対象としています。顕微授精(ICSI) で得た受精卵に、Cas9とCCR5遺伝子のsgRNAをインジェクションします。インジェクションした受精卵は、胚盤胞(blastocyst)の時期まで培養し後、母親に体内に移植します。複数の夫婦がこの実験に参加していますが、そのうちの一組の夫婦から双子の赤ちゃん(LuluとNana)が誕生しました。

(図の引用元:のJiankui He博士の講演動画

 

ゲノム編集ベビー誕生の報道

First gene-edited babies reported in China (Associated Press2018/11/25 に公開)

HONG KONG (AP) — A Chinese researcher claims that he helped make the world’s first genetically edited babies — twin girls born this month whose DNA he said he altered with a powerful new tool capable of rewriting the very blueprint of life. If true, it would be a profound leap of science and ethics. (Chinese researcher claims first gene-edited babies
By MARILYNN MARCHIONE November 26, 2018 AP)

「ゲノム編集」で双子女児が誕生か

問題になっているのは中国の南方科技大学(広東省深圳市)の賀建奎副教授の研究。エイズウイルス(HIV)に感染した男性の精子を使ってできた受精卵にゲノム編集を施し、ウイルスが細胞に入らないようにした。その後、女性の子宮に入れ双子の女児が生まれたと報道されている。

同会議組織委員長のデービッド・ボルティモア米カリフォルニア工科大教授によると、賀副教授はゲノム編集の研究で専門家の間では知られた存在。ただ双子出生の報道後は「本人と接触しておらずデータも見ていないので真偽はわからない」と述べた。28日の賀副教授の講演予定に変更はないという。(引用元:受精卵のゲノム編集で女児出産の報道、国際会議で批判 2018/11/27 17:17 日本経済新聞

Second International Summit on Human Genome Editing

He Jiankui副教授は、ヒトゲノム編集国際会議の2日目(28日)の午前中のセッションHuman Embryo Editingに登壇し研究成果を発表しました。

11:30 a.m.
Human Embryo Editing

Moderator:
Robin-Lovell-Badge,* The Francis Crick Institute

Speakers:
Kathy Niakan, The Francis Crick Institute
Paula Amato, Oregon Health & Science University
Maria Jasin, Memorial Sloan Kettering Cancer Institute
Xingxu Huang, Shanghai Tech University
Jiankui He, Southern University of Science and Technology

(引用元:SECOND INTERNATIONAL SUMMIT ON HUMAN GENOME EDITING AGENDA

下の動画で1:15:30~からが、Jiankui He博士によるプレゼンテーションです。今回の騒動を受けて、司会者が予めに観客に静かに最後まで聴くようお願いしています。また、今回のゲノム編集ベビー誕生はもともとJiankui He博士が事前に提出していた講演資料には存在していなかったものであり、「ヒトゲノム編集国際会議」としては全く知らなかったことであると説明しています。そして、Jiankui He博士に説明の機会を与えようと述べて、演者を登場させました(Jiankui He博士の登壇は、動画1:17:53~)。講演タイトルは、CCR5 gene editing in mouse, monkey and human aembryos using CRSPR/Cas9 です。

 

 

中国政府がHe Jiankui副教授の研究を停止

中国政府は副教授の研究を全て停止させる措置をとりました。

中国政府は29日、世界で初めてゲノムを編集した赤ちゃんを作り出したと主張している中国・南方科技大学の賀建奎准教授について、研究の中止を求めたと発表した。研究について調査も始めるとしている。中国科学技術部は、「関係組織に対し、関連する個人の科学的活動を中止するよう求めた」と発表した。中国衛生部は既に、賀氏の研究が「中国の法、規則、倫理的基準を深刻に違反している」と指摘。賀氏の主張内容を調査すると表明していた。(中国政府、「世界初のゲノム編集赤ちゃん」研究の中止を命令 2018年11月30日 BBC日本版

 

参考

  1. Chinese researcher claims first gene-edited babies (By MARILYNN MARCHIONE November 26, 2018 AP)

中国の研究者らがヒト受精卵でゲノム編集

世界で初めてヒト受精卵にゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)の適用を試みた論文を中国の研究グループが発表

革新的なゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用いて、ゲノムを人工的に改変した実験動物が数多く作られていますが、倫理的な問題のため、このゲノム編集技術をヒトの卵に応用した研究はこれまで知られていませんでした。

今回、世界で初めてヒト受精卵にゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)を適用した論文を中国の研究グループがPROTEIN & CELL誌に発表しました。倫理的な問題を回避する目的で、この実験では卵子に精子が2個入ったため発生が正常に持続しない卵(3PN)が使用されています。

ProteinCell(論文のウェブサイト http://link.springer.com/article/10.1007/s13238-015-0153-5/fulltext.html

日付に注目してみると、この論文の原稿をPROTEIN & CELL誌が受け取ったのが2015年3月30日、なんと2日後の2015年4月1日にはもうアクセプトされています。学術論文の投稿から受理までの日数がこれほど短いのは極めて異例で、差読者がこの論文を精読する時間があったのかという懸念を生じさせるほどの短さです。

ABSTRACT
Genome editing tools such as the clustered regularly interspaced short palindromic repeat (CRISPR)-associated system (Cas) have been widely used to modify genes in model systems including animal zygotes and human cells, and hold tremendous promise for both basic research and clinical applications. To date, a serious knowledge gap remains in our understanding of DNA repair mechanisms in human early embryos, and in the efficiency and potential off-target effects of using technologies such as CRISPR/Cas9 in human pre-implantation embryos. In this report, we used tripronuclear (3PN) zygotes to further investigate CRISPR/Cas9-mediated gene editing in human cells. We found that CRISPR/Cas9 could effectively cleave the endogenous β-globin gene (HBB). However, the efficiency of homologous recombination directed repair (HDR) of HBB was low and the edited embryos were mosaic. Off-target cleavage was also apparent in these 3PN zygotes as revealed by the T7E1 assay and whole-exome sequencing. Furthermore, the endogenous delta-globin gene (HBD), which is homologous to HBB, competed with exogenous donor oligos to act as the repair template, leading to untoward mutations. Our data also indicated that repair of the HBB locus in these embryos occurred preferentially through the non-crossover HDR pathway. Taken together, our work highlights the pressing need to further improve the fidelity and specificity of the CRISPR/Cas9 platform, a prerequisite for any clinical applications of CRSIPR/Cas9-mediated editing. http://link.springer.com/article/10.1007/s13238-015-0153-5/fulltext.html

この論文は最初ネイチャーやサイエンスに投稿されてリジェクトされたそうですが、ネイチャーはニュース欄でこの論文を紹介しています。

Huang says that the paper was rejected by Nature and Science, in part because of ethical objections (http://www.nature.com/news/chinese-scientists-genetically-modify-human-embryos-1.17378)

倫理的な問題もあってネイチャーやサイエンスに掲載を拒否されたというこの論文を瞬速でアクセプトしたPROTEIN & CELL誌とは一体どのような雑誌なのでしょうか?

PROTEIN & CELL誌を発行しているのはシュプリンガー(Springer)社ですが、チーフエディターが中国の人で、他のエディターも5人中4人が中国、ボードメンバーも66人中26人が中国の人です。また、この雑誌は通常の学術論文を掲載するだけでなく、特に、

Presents research highlights, news and views, and commentaries covering research policies and funding trends in China (http://www.springer.com/life+sciences/biochemistry+%26+biophysics/journal/13238)

中国の研究動向を取り上げる方針を持っており、さらに、オープンアクセスのための論文掲載費用は、

Protein & Cell is a peer-reviewed open access journal published monthly. The open access fees (article-processing charges) for this journal are kindly sponsored by Higher Education Press, Beijing Institutes of Life Science, Chinese Academy of Sciences and Biophysical Society of China. Authors can publish in the journal without any additional charges.(http://www.springer.com/life+sciences/biochemistry+%26+biophysics/journal/13238)

中国の機関が負担しています。この雑誌へ論文を投稿している研究者もほぼ全てが中国人で、『中国人研究者のために中国人が作った中国の英文科学雑誌』という趣きが伺えます。

参考

  1. Liang et al., CRISPR/Cas9-mediated gene editing in human tripronuclear zygotes.  Protein & Cell 18 Apr 2015
  2. Chinese scientists genetically modify human embryos (Nature News 22 April 2015)
  3. ヒト受精卵:遺伝子改変…中国チームが論文(毎日新聞 2015年04月23日):”国立成育医療研究センター研究所の阿久津英憲・生殖医療研究部長は「技術は革命的だが、目的外の遺伝情報にも改変が起きてしまう点で未完成。ヒトの受精卵 に応用するような段階ではない。論文の結論部分も、やる前からわかっていたはずの内容だ。科学的にも倫理的にも、問題の多い論文と言える」と話す。”
  4. First experiment ‘editing’ human embryos ignites ethical furor (Reuters Apr 23, 2015):”Biologists in China reported carrying out the first experiment to alter the DNA of human embryos, igniting an outcry from scientists who warn against altering the human genome in a way that could last for generations.”
  5. ヒト受精卵の遺伝子を操作 中国チーム論文に倫理的懸念(朝日新聞DIGITAL 2015年4月24日):”17日付の中国の科学誌「プロテイン&セル」に掲載された論文によると、チームは酵素を使って遺伝子を改変する「ゲノム編集」という技術で、狙った遺伝子だけを置き換えようとした。”
  6. 人の受精卵DNA改変か – 中国チームが発表(マイナビニュース/共同通信社 2015/04/23):”人の受精卵のDNAを改変し、異常な遺伝子の修復が可能かどうかを調べたとする研究結果を中国・中山大のチームが23日までに発表した。”

 

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自分の赤ちゃんをデザインする時代が到来?

生まれてくる自分の赤ちゃんが健康で、人よりも容姿や運動能力、頭の良さが優れていて欲しいと思いますか?

精子銀行や卵子銀行から理想的な遺伝子を持った精子、卵子を手に入れて、自分の思い通りの赤ちゃんがデザインできたらいいと思いますか?

アメリカの遺伝子解析会社「23アンドミー」(23 andMe)が、提供される精子や卵子の遺伝子と自分の遺伝子の組み合わせからどんな赤ちゃんが生まれるかを予測する遺伝子解析技術を開発し、その特許がこの度認められました。

男女の産み分け、ガンなどの病気のリスクを減らすこと、足の速さ、髪の色、眼の色、‥。

生命の操作はどこまで許されるのでしょうか?

 

参考

  1. United States Patent 8,543,339 Wojcicki,et al. September 24, 2013
  2. FreePatentsOnline.com/8543339.pdf
  3. A 23andMe Patent (23andme.com October 1, 2013)
  4. “I prefer a child with …”: designer babies, another controversial patent in the arena of direct-to-consumer genomics Genetics in Medicine 03 October 2013
  5. Personal-genetics firm denies pursuit of designer babies in patent filing (blogs.nature.com 02 Oct 2013 | 14:35 BST)
  6. 遺伝子解析で赤ちゃん設計? 外見や能力予測、米で特許(朝日新聞DIGITAL 2013年10月20日07時57分
  7. 子供の遺伝子予測、米企業に特許 「デザイナーベビー」と批判(産経ニュース 2013.10.20 21:21
  8. Design Your Own Baby: Patent Granted (Discovery.com Oct 4, 2013 05:00 PM)
  9. Personal Genomics Firm 23andMe Patents Designer Baby System, Denies Plans to Use It (Wired.com 10.02.13 12:08 PM)
  10. 23andMe’s Designer Baby Patent (HuffingtonPost.com 10/04/2013 2:29 pm)
  11. GenoChoice.com:Create Your Own Genetically Healthy Child Online!
  12. Announcing 23andMe’s First Patent (23andme.com May 28, 2012)
  13. Design Your Baby (BigThink.com August 20, 2010, 12:00 AM)
  14. The Need to Regulate “Designer Babies” (Scientific American 2009)
  15. Would You Design Your Own Baby? (About.com March 12, 2009)
  16. Simmons, D. (2008) Genetic inequality: Human genetic engineering. Nature Education 1(1) 

 

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