ヒト受精卵にCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を適用して赤ちゃん(双子)が誕生

   




香港で2018年11月27日~29日に開催されるヒトゲノム編集国際会議に合わせたタイミングで、中国の広東省深圳市にある南方科技大学の賀建奎(が・けんけい;He Jiankui)副教授が、世界で初めてとなるゲノム編集された赤ちゃん(双子)を誕生させたと発表しました。この発表は倫理的にも法的にも許されるものではないとして大きな批判を浴びています。会議2日目の28日にはHe Jiankui博士が登壇し実験結果の報告を行いました。

CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集は、実験動物を用いる研究者の間では非常に一般的になっています。そこで常に議論となるのはオフターゲットの効果(狙った遺伝子とは異なる場所の遺伝子を破壊してしまうこと)で、オフターゲットの遺伝子が破壊されることは、予期しない遺伝病を導入してしまう恐れがあります。実験動物ならオフターゲットの可能性がゼロに近ければ許されるかもしれませんが、ヒトの場合は完全にゼロでないと困ります。CRISPR/Cas9をヒトに応用したときの安全性に関して研究者間でコンセンサスが得られていない状況で、一人の研究者が倫理規定などを無視してデザイナーベビーを誕生させてしまったというは極めて重大な事件です。

 

ヒト受精卵でノックアウトされた遺伝子CCR5

人類初となるゲノム編集ベビーの誕生にあたって、何の遺伝子が編集の対象となったのでしょうか?He Jiankui博士がCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を行ったのはCCR5という遺伝子です。これはエイズウイルス(HIV)が細胞に侵入するのを助ける働きがあり、この遺伝子が働かないようにすればエイズウイルスに感染しなくなります。今回の遺伝子編集ベビー誕生にあたっては、父親がHIV感染者で、母親がHIV陰性の夫婦が選ばれ、受精卵のCCR5遺伝子をノックアウト(破壊)することにより遺伝子の働きをなくしました。この結果、ゲノム編集された赤ちゃんはエイズウイルスに感染しないことが期待されます。

参考

  1. 「エイズに免疫を持つ人々」の遺伝的特性が明らかに(上)(2005.01.11 TUE 04:00 WIRED)最も高いレベルのHIV免疫を持つ人には、1対の変異遺伝子――対になっている相同染色体のそれぞれに1つずつ――を持っているという共通点がある。この遺伝子があると、免疫細胞はエイズウイルスを侵入させる「受容体」を生成しない。この、いわゆる『CCR5』受容体――科学者たちによると「錠」のようなものだという――がないと、HIVは細胞に入り込めず、乗っ取ることもできない。(英語原文の記事 wired.com

 

ゲノム編集ベビー誕生までの実験手順

今回のゲノム編集ベビー実験では、HIV感染者である父親とHIV陰性の夫婦らを対象としています。顕微授精(ICSI) で得た受精卵に、Cas9とCCR5遺伝子のsgRNAをインジェクションします。インジェクションした受精卵は、胚盤胞(blastocyst)の時期まで培養し後、母親に体内に移植します。複数の夫婦がこの実験に参加していますが、そのうちの一組の夫婦から双子の赤ちゃん(LuluとNana)が誕生しました。

(図の引用元:のJiankui He博士の講演動画

 

ゲノム編集ベビー誕生の報道

First gene-edited babies reported in China (Associated Press2018/11/25 に公開)

HONG KONG (AP) — A Chinese researcher claims that he helped make the world’s first genetically edited babies — twin girls born this month whose DNA he said he altered with a powerful new tool capable of rewriting the very blueprint of life. If true, it would be a profound leap of science and ethics. (Chinese researcher claims first gene-edited babies
By MARILYNN MARCHIONE November 26, 2018 AP)

「ゲノム編集」で双子女児が誕生か

問題になっているのは中国の南方科技大学(広東省深圳市)の賀建奎副教授の研究。エイズウイルス(HIV)に感染した男性の精子を使ってできた受精卵にゲノム編集を施し、ウイルスが細胞に入らないようにした。その後、女性の子宮に入れ双子の女児が生まれたと報道されている。

同会議組織委員長のデービッド・ボルティモア米カリフォルニア工科大教授によると、賀副教授はゲノム編集の研究で専門家の間では知られた存在。ただ双子出生の報道後は「本人と接触しておらずデータも見ていないので真偽はわからない」と述べた。28日の賀副教授の講演予定に変更はないという。(引用元:受精卵のゲノム編集で女児出産の報道、国際会議で批判 2018/11/27 17:17 日本経済新聞

Second International Summit on Human Genome Editing

He Jiankui副教授は、ヒトゲノム編集国際会議の2日目(28日)の午前中のセッションHuman Embryo Editingに登壇し研究成果を発表しました。

11:30 a.m.
Human Embryo Editing

Moderator:
Robin-Lovell-Badge,* The Francis Crick Institute

Speakers:
Kathy Niakan, The Francis Crick Institute
Paula Amato, Oregon Health & Science University
Maria Jasin, Memorial Sloan Kettering Cancer Institute
Xingxu Huang, Shanghai Tech University
Jiankui He, Southern University of Science and Technology

(引用元:SECOND INTERNATIONAL SUMMIT ON HUMAN GENOME EDITING AGENDA

下の動画で1:15:30~からが、Jiankui He博士によるプレゼンテーションです。今回の騒動を受けて、司会者が予めに観客に静かに最後まで聴くようお願いしています。また、今回のゲノム編集ベビー誕生はもともとJiankui He博士が事前に提出していた講演資料には存在していなかったものであり、「ヒトゲノム編集国際会議」としては全く知らなかったことであると説明しています。そして、Jiankui He博士に説明の機会を与えようと述べて、演者を登場させました(Jiankui He博士の登壇は、動画1:17:53~)。講演タイトルは、CCR5 gene editing in mouse, monkey and human aembryos using CRSPR/Cas9 です。

 

 

中国政府がHe Jiankui副教授の研究を停止

中国政府は副教授の研究を全て停止させる措置をとりました。

中国政府は29日、世界で初めてゲノムを編集した赤ちゃんを作り出したと主張している中国・南方科技大学の賀建奎准教授について、研究の中止を求めたと発表した。研究について調査も始めるとしている。中国科学技術部は、「関係組織に対し、関連する個人の科学的活動を中止するよう求めた」と発表した。中国衛生部は既に、賀氏の研究が「中国の法、規則、倫理的基準を深刻に違反している」と指摘。賀氏の主張内容を調査すると表明していた。(中国政府、「世界初のゲノム編集赤ちゃん」研究の中止を命令 2018年11月30日 BBC日本版

 

参考

  1. Chinese researcher claims first gene-edited babies (By MARILYNN MARCHIONE November 26, 2018 AP)

 - 生命倫理, 生殖医療, 遺伝子治療, ゲノム編集技術