精子提供の問題点、精子提供者(精子ドナー)からの入手方法、自宅での人工授精

日本で結婚していない女性が第三者から提供された精子で人工授精の治療を病院で受けることは、日本産婦人科学会が認めていません。

被実施者は法的に婚姻している夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。(提供精子を用いた人工授精に関する見解 会告の改定 平成27年6月 日本産科婦人科学会

そのため、未婚で彼氏はいないが子供だけは欲しい独身の女性が妊娠を望む場合は(いわゆる選択的シングルマザー)、精子バンクを利用したり、個人から精子の提供を受けて、自分で人工授精を試みる人もいるようです。

 

精子バンクに潜む問題

精子の取り違え

登録、保存された精子の取り違えにより白人のレズビアンカップルが白人男性の精子を希望したにも関わらず間違えて黒人男性の精子が提供されたために、生まれてきた女の子が肌の色が黒かったという事件が起きています。このカップルは精子を提供した精子バンクに対して裁判を起こしました。

Lawsuit filed over alleged sperm bank mix-up

 

不適切な精子提供者

精子バンクXytex(ザイテックス)に登録していた男性は、神経工学の分野の博士号を持ち、IQは160という頭の良さで完全に健康という登録情報であったにも関わらず、この男性が36人の子供の精子提供者となった後に、彼が実は統合失調症、双極性障害(躁うつ病)、自己愛性パーソナリティ障害を患っていて、大学は中退し、刑務所に入っていた時期もあったということが発覚した事件もありました。

His sperm has been used to create 36 children: 19 boys and 17 girls from 26 families

Chris Aggeles, a now 39-year-old man from Georgia, has struggled with serious mental illness for much of his adult life. In addition to schizophrenia, court documents show he has had diagnoses of bipolar and narcissistic personality disorders, and has described himself as having schizoaffective disorder.

He has a history of run-ins with the law, has done time in jail, dropped out of college and struggled in the past to hold down jobs. (He was the perfect sperm donor. Then 26 families found out he wasn’t By THERESA BOYLEHealth Sat., April 9, 2016 THE STAR)

  • Sperm bank’s ‘perfect donor’ was a mentally ill felon who fathered 36 kids (Rob Quinn 11:00 a.m. ET April 15, 2016 | USA TODAY)

 

精子の質

NHKスペシャル「ニッポン“精子力”クライシス」でも取り上げられた問題ですが、男性が不健康な生活を送っていると、その男性の精子も不健康となりそれは運動率の低下などに顕れるそうです。

精子の品質低下の原因について、中国メディアは、生活習慣の乱れが関係していると指摘している。喫煙や飲酒をはじめ、座ったままで長時間コンピューターゲームをすることや、夜更かし、運動不足、不適切な食生活などが悪影響を及ぼしているという。(中国「精子バンク」に異変、ドナーの合格率大幅ダウン…「腎臓売らなくてもiPhone6s買える」と提供も募る 2016.1.27 11:00 産経WEST

 

日本に精子バンクはあるか?

海外の精子バンクのウェブサイトを見るとアマゾンで本を買うような気軽さで精子バンクに注文したら精子が宅配される仕組みになっていて驚きます。しかし、日本では精子バンクという存在を全く聞きません。日本産婦人科学会がガイドラインによれば、法的な夫婦以外には提供精子による不妊治療は認められていません。

2.被実施者は法的に婚姻している夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。

提供精子を用いた人工授精に関する見解(旧「非配偶者間人工授精」に関する見解) 平成27年6月 日本産科婦人科学会

このため結婚していない女性が第三者の精子提供を受けて、産婦人科病院で妊娠のための人工授精の治療を受けることはできません。

日本には公的に認められているライセンスを持った精子バンクはありません。そのため方法としては、医療機関で精子提供を受け、人工授精(非配偶者間人工授精=AIDといいます) を行います。婚姻関係にあるご夫婦であれば精子提供(AID) は受けることが出来ますが、ごく一部の機関でしか行われていません。(卵子提供 ・精子提供・代理出産の「ミラクルベビー」公式ブログ

「非配偶者間人工授精(AID)」の治療はごく限られた病院でしか行われていないうえに、提供精子不足に陥っています。

現在AB型精子ドナーの不足により、授精のご用意ができない状況となっております。また、AB型以外もドナーが不足しているため、現在はAID初診の新規予約の受け付けを見合わせております。(非配偶者間人工授精(AID)について 慶應義塾大学学部病院産婦人科学教室 *2018年11月25日閲覧)

ネットで検索すると日本にも「日本精子バンク」という名称の組織がありますが、中身を読むと日本人のボランティアが国外に出て精子提供を行う仕組みのようです。

 

病院でのAIDにおける精子提供者の不足

AIDのための精子が需要に対して供給が不足しているのは、「出自を知る権利」が認められた場合に精子提供の事実がプライバシーとして保護されない可能性が出てきたためのようです。

夫の精子で妊娠できなかった夫婦が、やむを得ず他人の精子を使う人工授精(AID)を、国内で最も多く行っている慶応大学病院(東京都新宿区)で、事業の継続が危ぶまれている。新たなドナー(提供者)が確保できないためで、背景に匿名のドナーの情報が将来、「出自を知る権利」を理由に公表される可能性への懸念があるとみられる。(慶応病院、精子ドナー確保できず 出自公表への懸念背景 福地慶太郎 2018年10月22日14時38分 朝日新聞DIGITAL

5.精子提供者のプライバシー保護のため精子提供者は匿名とするが、実施医師は精子提供者の記録を保存するものとする。
(解説) 精子提供者のプライバシー保護のため、提供者はクライエントに対し匿名とされる。実施医師は、授精のたびごとに提供者を同定できるよう診療録に記載するが、授精ごとの精子提供者の記録は、現時点では出生児数を制限するために保存されるべきものである。但し、診療録・同意書の保存期間については長期間の子どもの福祉に関係する可能性がある本法の特殊性を考慮し、より長期の保存が望ましい。(提供精子を用いた人工授精に関する見解(旧「非配偶者間人工授精」に関する見解)平成27年6月 日本産科婦人科学会

 

男性不妊の夫の代わる精子提供者は誰であるべきか?

夫の父親という選択肢

夫の実父の精子で体外受精をし、118人の子供が誕生—。こんな衝撃のデータが、7月31日、都内で開かれた日本受精着床学会で発表された。発表した諏訪マタニティークリニック根津八紘院長が語る。「子供が欲しいが、夫に精子がないため授かれない。そういった夫婦は、養子を迎えるか、もしくは精子提供を受けることを選択します。そのとき誰から精子提供を受けるか。現在一般的なのは、『匿名の第三者』からの提供による人工授精です。しかし実は、顔も知らない他人からではなく、夫の実の父親からの提供を望むケースは少なくありません。」… 同クリニックがまとめたのは、’96年11月から、昨年末までの結果。根津院長によると、この17年間に110組の夫婦が夫の実父(50~70歳代)からの精子提供を受け、79組が出産(双子を含む)。そのうち2回出産したのが17組。3回、4回が1組ずつだったという。(すでに118人が誕生! 生まれてきた子は孫か、我が子か「息子の嫁に自分の精子」で子作り そのあと家族に起きること 2014.08.25 週刊現代 gendai.ismedia.jp

 

 

第三者個人による精子提供を受けるリスク

個人がネットで精子提供をオファーしているということがNHKクローズアップ現代でも過去に取り上げられ問題視されました。ネットで知り合ったどこのだれかわからない人と個人的に会うという行為は、犯罪に巻き込まれる恐れがあり、非常に危険な行為だと思います。

さらに、自称「精子バンク」では“タイミング法”による精子の提供も案内している。産婦人科での正規の不妊治療であるタイミング法とは、医師が経腟エコー検査で排卵のタイミングを正確に割り出し、夫婦に性交の時期を指示することを意味する。では、自称「精子バンク」のタイミング法とはいったい何だろうか? それは女性が妊娠しやすい時期に“実際にドナーとセックスする”ということにほかならない。日本では第三者からの精子提供に関する法律が整備されていないため、このような自称「精子バンク」が野放しになっているのだ。(40歳のキャリアウーマンは言った。「あと足りないのは精子だけ」 文春オンライン こみね あつこ 2017/12/23 bunshun.jp

仮にその人が常識的な人であったとしても、提供される精子に性病や遺伝病のリスクなどの問題がないとも限りません。日本産婦人科学会が示した見解と比べれば、個人から精子提供を受けることにリスクがあるのは明らかです。

4.精子提供者は心身とも健康で、感染症がなく自己の知る限り遺伝性疾患を認めず、精液所見が正常であることを条件とする。本法の実施にあたっては、感染性を考慮し、凍結保存精子を用いる。同一提供者からの出生児は10名以内とする。
(解説) 精子提供者は、感染症(肝炎、AIDSを含む性病等)、血液型、精液検査を予め行い、感染症のないこと、精液所見が正常であることを確認する。また、自分の2親等以内の家族、および自分自身に遺伝性疾患のないことを提供者の条件とする。その上で提供者になることに同意する旨の同意書に署名、拇印し、提供者の登録を行う。
実施にあたっては、HIV-1/2をはじめとする感染症にwindow期間が存在し、実際に新鮮精液使用によるこの期間の感染が報告されていることを考慮し、少なくとも180日凍結保存してその後提供者の感染症検査を行って陰性であった凍結保存精液のみを使用する。(提供精子を用いた人工授精に関する見解(旧「非配偶者間人工授精」に関する見解)平成27年6月 日本産科婦人科学会

個人提供を希望する男性と、精子の受け取りを望む女性との間を取り持つ紹介業のようなことを行う組織はあるようです。

 

第三者(ボランティア)による精子提供の実情

ネットでちょっと検索すると、個人の男性がボランティアで精子提供をしますというウェブサイトが多数見つかります。個人による精子提供者のブログが一覧できるブログランキングサイトというものもあるようです。

 

第三者による精子提供が抱える問題

精子さえボランティアの男性から供与されれば、自宅で女性が自分で人工授精が簡単にできてしまい、妊娠、出産すれば子供ができます。これは従来の社会制度、家族制度が想定していなかった状況になっていると思います。以下はアメリカでの話ですが、精子提供者の男性に子供の扶養義務があるとした裁判所の判断。

カンザス州トピカに住むウィリアム・マロッタさんは2009年、インターネット上の情報サイト「クレイグリスト」で、精子提供者を募るレズビアンカップルの広告を見かけ、自身の精子3カップ分を無料で提供した。「私は遺伝物質を提供しただけ。それで終わり」(マロッタさん)のはずだった。女性の1人は妊娠し、女の子を出産。ところがその後、このカップルが関係を解消し、一方の女性が体調を崩して働けなくなったことから州に生活支援を申請した。これを受けて州当局はマロッタさんに、今は3歳になった子どもの養育費として6000ドル(約52万円)の支払いなどを命じたという。マロッタさんは、精子の提供に当たり、生まれた子どもに対する金銭的責任は負わないとする契約書を交わしたと説明した。しかし州当局からは、医師が介在していないことを理由に、契約は無効だと告げられたという。もし医師が人工授精をしていれば、マロッタさんが単なる精子提供者であって、子どもの母親と交際していなかったことを文書で証明できる。しかしそうでない場合、カンザス州の州法ではマロッタさんが父親とみなされる。(精子提供だけのはずが――「父親」に養育費の支払い命令 米 2013.01.07 Mon posted at 15:01 JST CNN.CO.JP

 

 

参考

  1. NHKクリーズアップ現代 No.3469 2014年2月27日(木) 徹底追跡 精子提供サイト

 

第三者の精子提供により生まれた子供が抱えうる問題

そもそも、上記のように大学病院の産科でAIDによって子供を授かった夫婦は、その事実を子供に告げず隠しておくケースが大半。したがって、血のつながっていない父を本当の親だと信じたまま一生を終える人も多いと思われます。ところが人生のある時点で、血液検査などがきっかけで「自分は父だと思っていた人と血縁関係がない」と知って衝撃を受け、「いったい誰が本当の父親なのか」と悩んで、いつまでも激しい怒りを持ち続けたり、アイデンティティの崩壊に陥ったり、心を病んでしまったり……という悲劇も起こっています。(「世界一の精子バンク」で見えてきたもの 2013.10.31 COURIER

遺伝上のつながりがないことを聞いた2人は、ともに「裏切られた」と感じたそうです。そして、結果として親子の信頼関係がこじれてしまったとも言っていました。(”みらいのかぞく”を考える~精子提供による新たな家族のかたち~ 2016年06月09日 樋江井 哲郎 日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ

  • 父親は誰?「AID」で生まれた38歳女性の叫び 自分は「後ろめたい技術」で生まれたのか(大塚 玲子 2018/02/02 5:00 東洋経済ONLINE

実家の父親と,どうしてもつながりが見出せない以上、遺伝上の父親との、何らかの繋がりをどうしても求めてしまいます。 外面的に似ているとかどうとかというより、内面的なもので、自分の一部がその人からの遺伝であることが確かめたいです。 AIDだと知る以前も、明らかに実家の家族または親族から外れていたように思う自分の進路や思考、趣味などそういったものが、もしかしたら遺伝上の父親からの由来なのではないかと最近よく考えます。 もし提供者の方が許されるなら会いたいのはもちろんですが部分的な情報開示となった場合でもそういったその人の、内面的情報を公開していただきたいです。(年齢 : 23歳 性別 : 女性 職業 : 学生   御意見募集でいただいた御意見  厚生労働省

 

自宅でできる人工授精

アマゾンで人工授精用のシリンジが販売されています。精子(精液)さえ入手できれば、自宅で誰でも自分で人工授精ができるようです。

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