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大学の助教とは?年収、仕事、キャリアパス

大学教員と聞くと一般の人は、教授?くらいしか思いつきませんが、日本の大学の研究教職員には教授、准教授、講師、助教という職があります。以前は助手という職種があったのですが、2007年に研究をする助手が助教になり、教育専門の助手が助手と分けられました。しかし「助教」という職は、一般の人にはほとんど知られていません。

 

助教とは

大学教員の職名に「助教」というものがあります。英語でいうと助教はAssistant Professorと訳されるので、むしろ昔の助教授のようなポジションかとも思う人がいるかもしれませんが、実際には、昔の助教授は今の准教授に対応していると思います。つまり英語名と日本語名で、職名が意味するものが異なっているという、わけのわからない状態になっていると個人的には感じています。なぜならアメリカでAssistant Professorというと、通常はラボを主宰するPrinsicpal Investigatorだからです。その上に教授がいるわけではありません。テニュアトラックのAssistant Professorは業績が認められればAssociate Professorとしてパーマネント職に移行します。日本の”Assistant Professor”(助教)はほとんどの場合、任期付きであり業績をあげても任期が切れると終わりになります。

(補足:上は、国立大学の場合。私立大学の場合、定年制のこともあれば、逆に任期が非常に短く3年程度のこともあるなど大学によって大きな違いがある。)

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日本の助教は上にいる教授がどう扱うかでかなり状況が異なりますが、研究や生活の自由度が高いとはいえないでしょう。

 

助教という中途半端な職名についての雑感

助教という職の中途半端さは、本人がそう思っているくらいですから世間から見たら全く理解できない代物です。英語でいうとAssistant Professorですが、英語をあまり気にしない一般の人にはProfessorの部分しか目に入らないため、中学の同窓会に行くと「お前、大学教授になったんだ、すごいなぁ。」と間違って持ち上げられたりします。「いやいや、そうじゃなくて助教っていう職なんだよ、むかしでいう助手ってやつ。しかもどんだけ成果を上げても所詮任期付きで、俺、今職探し中なんだ。」と、現実を解説し始めると自分が惨めになるだけなので、中途半端な笑いを浮かべてその場をやり過ごすことになります。

 

ウィキペディアによる助教の説明の大間違いについて

ウィキペディアによれば、助教が以下のように説明されています。

2007年4月1日以降、旧来の助手は、教授候補の研究者として位置づけられ、単独で研究室と講義を持つことのできる助教と、研究や実験の補助や事務などを専ら担う助手とに分かれることになった。(助教 ウィキペディア)

この解説はあまり的確ではありません。そもそも助教は教授候補ではありません。もちろん今はまだ助教でも将来、業績を挙げて教授になる人はいますがごく一部の人に限られます。助教のことを「教授候補」とみる人などどこにもいません。大昔は、助手⇒助教授⇒教授という内部昇進のキャリアパスが日本に存在していたので、その名残がこのウィキペディアの記述に残っているでしょうか?ウィキペディアは自分も百科事典としてよく利用しますが、このように、完全に誤った情報も掲載されていることがあるので要注意ですね。

また、助教が「単独で研究室を持つ」ことはありえません。そもそも助教の人事は建前は別として現実的には教授が100%決定権を握っていると思います。公にそういうと語弊があるので誰もおおっぴらにそうは言いませんが。教授の一存で雇用された助教に研究の自由があるはずもないのです。一部の理解のある教授は助教に最大限の自由を与えてひとつの研究グループを任せることはあります。

 

テニュアトラック助教とは

近年は、テニュアトラック助教という制度を導入している大学もあるため、その場合には助教が研究室を主宰するケースがあります。そのあたりは大学によって、あるいはその人事によってかなり事情が違ってきます。テニュアトラック助教であっても、メンターとなる教授がいて、事実上その教授の支配下に入ることも多いのではないかと思います。教授の下にいる「助教」と、「テニュアトラック助教」は別ものと考えるべきです。

講義に関しても、実験や演習を持たされることはあっても、通常の講義は助教は持たないのが普通だと思います。そんなわけで、上記のウィキペディアの説明は、助教の現実からはかけ離れています。

 

研究代表者としての助教

人事制度的にも助教は教授の完全な支配下にあると考えられますが、教授が上にいても、「研究代表者」として科研費などの外部資金を獲得すれば、助教も自分独自の研究ができます。ただしここでも教授との関係で状況が変わってきます。助教が研究資金をとってきても研究室全体で使うことになる場合、100%の自由はないかもしれません。教授が学位指導教官になっている大学院生の実験や研究指導を助教が任されている場合には、線引きが曖昧になるため、これをおかしいと目くじらを立てるわけにもいきません。

 

助教の研究成果は誰のもの?

科研費などの外部資金は助教の身分でも獲得できますので(獲得できればの話ですが)、研究はできます。しかしいざ論文発表の段階になると、教授がラストオーサーかつコレスポンディングディングオーサー(責任著者)を要求してくることも一般によくあることでしょう。ここで助教の身分でありながら、自分(一人)が責任著者だなどと言い出すと教授との人間関係は壊れ、職探しに必要な推薦書を書いてもらえなくなり、研究者としてのキャリアが閉ざされることになると思われます(試したことはありませんが)。つまり、研究の自由はあるが、研究成果のクレジットや名誉はボスである教授が持っていってしまうということが、頻繁に起こるのです。これは、教授が悪いという単純な話でもありません。仮に教授が助教にコレスポンディングディングオーサーを渡したとしても、研究成果が新聞記事に取り上げられるときには「○○大学の××教授の研究グループが」というタイトルになりがちですから。

助教という身分でいる限り、自分の研究成果であることを世に認めさせることは困難なのです。それが不満なら、早く教授になるしかありません。

  • 助教のキャリアパス この助教は、制度上、将来、准教授、教授へつながるキャリアパスの一段階に位置付けられるものであり、助教に就く者としては、例えば、大学院博士課程修了後、ポストドクター(PD)等を経た者などが想定される。(引用元:文科省 > 中央教育審議会 > 大学分科会 > 大学の教員組織の在り方について<審議のまとめ> > 2.大学教員の職の在り方について

 

助教の任期

大学の助教が任期付きであることを一般の人に話すと、一様に驚かれます(なぜか、他大学の教授にも驚かれることが多い)。コンスタントに論文を出して研究者として十分な業績があったとしても最長10年間の任期が延長されることはありません。なぜなら10年を超えると法律によって無期転換する義務が生じるため、大学側は雇用財源が確保できないことを理由に絶対にそうしないからです。まあ、このへんの取り扱いは、最近は、大学によって大きな差があります。”進んでいる”大学の場合、実際にはラボ付き(=教授がラボヘッドで、部下としての助教を雇う場合)の助教であっても、あえてテニュアトラック制度を活用してパーマネント職につなげようと努力している公募もJRECINなどを見ているとちらほら見受けられます。私立大学の場合には両極端で、任期が3年程度と短い募集を見かける一方で、定年制の常勤職としての助教のポジションがある大学もあります。

関連記事 ⇒ 任期付き大学教員の任期について

業績が出ているのなら、次の職が得られるのでは?と誰しも思うでしょうが、PIの職は非常に少ないため業績があるのに職が得られない状態の人がたくさん出てきています。研究を続けたければ、再び任期付きの研究員などに戻るしかありません。

こうしてみると、研究者という職業は独身者にはいいのかもしれませんが、今の日本で、結婚して家族を持ってまで続けられる職とは到底思えません。

関連記事 ⇒ 研究者の結婚、研究者との結婚

いまどきの助教は任期付きが当たりまえですが、「任期付き」の制度が導入される以前にすでに助教だった人は、定年まで助教としての地位が保証されるようです。このへんの事情は自分は詳しくないですが、10年以上助教をやっている人がどこの大学にも見受けられるので、そうなのでしょう。助教に限らず、任期導入前に雇用された准教授、講師なども、パーマネントだと思います。上の教授が定年退官してしまうと、他所から別の人が教授になったときに、お荷物扱いされて辛い立場に追い込まれるでしょうが、最低限の雇用が保証されていて、「生きていていい」というだけでも素晴らしいことです。教授退官後に外から教授をとらずに、研究室の准教授が内部昇進して教授になるパターンも、JRECINなどを見ているとありそうで(=デキ公募)、外から見ると「なんだよ!」と思いますが、中の人にとっては研究者としてのポジションが保証されていて良い話です。昔はこちらが普通だったわけで、この時代は研究者にとってはいい時代だった(=研究者が職業として成り立っていた)と思います。

助教の年収

助教の年収がいくらなのかは、年齢や国立・私立の違いなどで変わってくるので一概には言えませんが、ネット上の情報をまとめておきます。学生数が多いマンモス大学の私学なら国立よりも給与水準は高いでしょうし、そうでない私立大学なら国立大学よりも低いのではないでしょうか。教授もそうですが、日本では大学からもらう給料の額は、研究能力とは全く関係がありません。ノーベル賞をとるような研究をしていようが、論文も書かずにのらりくらりしていようが、給与に差はないのです。

  1. 助教の年収と経済事情 2016-08 Bioresearcher.net
  2. 東北大学 の役職員の報酬・給与等についてPDF) 助教 501人 平均年齢41.4歳 平均年間給与額6611千円 最高8228千円~最低5115千円 (東北大学 役職員の報酬・給与等の公表
  3. 東京大学 年収事例:35歳助教650万円 (Vorkers.com
  4. 大阪大学 年収事例:助教、650万円 (vorkers.com)
  5. いまどきの国立大学教員の給与 2017/05/03 00:40 (JST) http://ymatz.net

 
http://oxon.hatenablog.com/entry/2018/03/17/073043

助教と特任助教との違い

助教といえばさらに、「特任助教」という職名もあります。これは期間限定のプロジェクトを財源として雇われるものです。「特任」と聞くと一般の人は、通常の助教よりもエライの?と思うでしょうが実際には、通常の助教よりもさらに不安定な雇用形態です。「特任」の意味は、雇用の財源が一時的な研究費によるものということです。例えば5年間のプロジェクト資金が得られたらそのプロジェクトの期間だけ雇われる「特任助教」が出現するのです。プロジェクトが終了したらその職はなくなります。つい最近、私立大学研究ブランディング事業で問題が生じましたが、当初5年の予定が3年に短縮された場合に、この事業のために雇用された特任助教の任期が5年でなく3年にいきなり短くされるという恐ろしいことが起こり得ます(個々の大学がこの問題にどう対応するのか自分は知りません)。特任助教の実態はむしろ普通のポスドクに近いのではないかと思います。

助教、テニュアトラック助教、特任助教の3つは、別モノと考えるのが適当です。最近は研究支援職であるリサーチアドミニストレータ(URA)にも「特任助教」などの職名を与える大学があるため、さらにややこしさを増しています。URAに与えられる特任助教の特任の意味は、想像するに、普通の研究職としての助教と区別したいからか、定年制ではなく1年契約で更新していく職(あるいはその両方)ということでしょう。URA特任助教は、あくまでURAの業務が仕事で、公募要項などによれば、実験して研究することは許されていません。

  1. 特任助教とは?助教やポスドクとの違い(元助教が解説)(2016-12 Bioresearcher.net)

 

助教の任期が切れたあとはどうなるのか

任期が切れた後の助教が、その後どんな職に就いているのかは、国に是非、追跡調査をしてもらいたいものです。

関連記事 ⇒ 任期が切れた助教はどこへ行くのか?

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