臨床研究 英語論文 最速最短 実践対談編【内容紹介&書籍レビュー】

原 正彦 日本臨床研究学会代表理事 著『すべての臨床医そして指導医いも捧ぐ超現場型の臨床研究体験書 実線対談編 臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意』(金芳堂2018年)がなかなか面白いです。臨床医が頑張って論文のアクセプトに漕ぎ着けるまでの苦労話が9話あります。『臨床研究 英語論文 最速最短』の続編として書かれたもので、この続編では先輩方の”疑似体験”ができるようにという狙いだそうです。

研究テーマの選び方:FINERを満たすか?

これらの本で何度も出てくる、研究の教えがFINERというもので、Feasible(実行可能)、Interesting(興味深い)、New(新規性)、Ethical(倫理性)、Relevant(社会的な意義)の頭文字をとったものです。Relevantというのは日本語にしにくい英語らしい英語だと思いますが、Clinical Implication(臨床的な意義の高さ)と考えるとよいのだそう。

データのとり方が大事

データのとり方として、どういう解析をするために必要なデータなのかをわかったうえでデータを取らないと、使えないデータを無駄に集めてしまう恐れがあると警告しています。

論文投稿はまだ折り返し地点

また、論文を出すまでの労力を考えたときに、Revisionはまだ「折り返し地点」に過ぎないと言います。論文を書き上げて投稿すると終わった気になりがちなのですが、実は投稿してエディターの返事をもらうのはゴール間近かところか長いコースの折り返し地点にすぎないという感覚は大事です。そうでないと、リジェクトを食らったときに心が折れて、力尽きてしまいます。リジェクトされても戦うだけのエネルギーが絶対に必要なのです。

論文で大事なのはイントロダクション

この本では、論文で一番大切なところはイントロダクションだと言います。エビデンスのパズルの中で抜けているピースが何かを読者に意識させて、そのクリニカルクエスチョンの重要性をアピールするための場所だからです。よく、サクセスフルなグラントプロポーザルの書き方でも、何が既知で何が未知なのかという知識のギャップを示して、それを埋める形で書けと言いますが、それと同じだと思いました。

レビューアーの心理を読み解く

査読者の心理を読む解くところも面白いと思いました。注文が10個書いてあっても、絶対譲れないのが1つあって、もっといえば、その譲れないポイントが10個のコメントにちりばめられているということです。そういう査読者の気持ちを汲み取れないと頓珍漢なレスポンスをしてしまうでしょう。

自分の論文がイメージできるか?

インタビュー形式で面白いと思った回答が、論文を出すという経験をしてみて、思っていたことと違っていたことが何かあれば?と聞かれた論文著者が、現実に論文が完成したことがそうですと答えていたところ。確かに、初めての論文を作成しているときは、それが出版されて印刷物になるということを想像しにくいかもしれません(オンラインジャーナルだと紙にはなりませんが)。実験で苦労した量と、それが論文の図になっている部分の大きさとはたいてい比例していなくて、出来上がった論文を見ると不思議な気持ちになることが自分は多いです。苦労して得たデータが妙にあっさりと小さな図にしかならない一方で、論文のために最後につくった実験を示す模式図がやたら大きかったりして。

査読コメントへの対応の仕方

本書ではリバイス(Revision)のときの査読者への返答の仕方に関してもアドバイスがあり、とにかく査読者の要求に従って修正をする一方で、どうしても譲れないポイントは丁寧に説明しましょうと述べています。

再現性を保証するデータ管理の重要性

この著書では統計ソフトとしてRを勧めています。スクリプトで記述するので、データを読み込むところから結果を吐き出すまでが、誰がやっても同じになるので確かにお勧めです。生データから論文の図に至るまでの再現性が問題になることがありますが、Rですべての処理をしていればそういった問題も回避できるはず。

多施設研究においては、データマネジメントの重要性を説いています。解析にかけるためのデータのクリーニングが必要なのだそうで、誰がやっても同じ結果になるようにクリーニング作業の過程は一つ一つ作業記録を残すことが重要だとのこと。そうしないとデータから論文の図に至るまでの再現性が保証されなくなります。この作業記録がないと、最悪の場合研究不正を疑われて、その疑義が晴らせないという事態になります。

この書籍の最後は論文デビューしたばかりの人ではなく、NEJMなどのトップジャーナルに論文を出している研究者へのインタビューになっていて非常に読み応えがありました。

消防庁が2005年からウツタイン研究で院外心停止のデータを毎年10万件収集しており、2008年には30万件のデータが集まっていたが、有効利用されていなかった。データクリーニングもされていなかった。論文化の発想がそもそも誰にもなかった。それを論文化してNEJMに掲載されたそうです。この場合は、国家規模のレジストリ-を用いた論文としてNEJMに掲載させることが最初から要請されていたとのこと。

学術誌の嗜好に合わせて投稿先を選ぶ

雑誌によって掲載する論文の好みがあるという話も興味深かったです。NEJMやJournal of the American Medical Association (JAMA)は学会誌。LancetはNatureと同じく商業誌なので面白い論文、つまり購読者が増えるような、雑誌が売れるテーマを好む傾向が恐らくあるのだそう。JAMAはアメリカ人にとって利益があるかを考えている印象。それに対して、NEJMは普遍的な価値と社会的なHealth Policyに影響するかを最も重要視している印象があるとのこと。こういった好みが論文の採否にどう影響してくるかというと、例えば、日本では胃がんが多いが胃がんの疫学研究をJAMANに載せるのは難しい。アメリカ人には胃がんが少ないので。乳癌や肺癌のほうが多い。論文を書くときは相手(ジャーナル)が何を求めているかを見極めてそれを提供するというマインドが必要で、それが論文を書くためのセンスなのではないかというお話。

臨床研究に新規性は必要か?

研究テーマの選び方の話もまた斬新でした。新規性は全く重要視しない。アメリカで研究でたから日本でもという後追いもやる。最終的に自分の論文がメタアナリシスやシステマティックレビューに使ってもらえればよいという考え。

論文のイントロダクションの重要性:知識のギャップを埋める

イントロの重要性も説明されていました。イントロの書き方として、過去のデータを並べつつも、ここの部分の「この時代」や「この集団」におけるエビデンスはまだ報告されていないといったもっていきかたがよいのだそうです。ガイドラインにエビデンスがないと書いてあるところを埋めるという発想だそうです。Introductionでは「こういうエビデンスがなく、ここがKonwledge Gapです」と主張するのが効果的。

論文を出す労力

論文を出す労力は、インパクトファクターの大小は関係ないそうです。インパクトファクターが1点でも、NEJMのReviseをするときと労力はなにもかわらず、同じエネルギーを割くとのこと。

時代の潮流に合わせることの重要性

トレンドを追うことも重要だと述べています。日ごろから、NEJMやLANCET、JAMAの論文タイトルだけでもみておく。m3でもいいし、メディカルトリビューンもトレンドを見るには役立つそうです。そうして、今のトレンドとKnowledge Gapを把握する。自分が持っているデータからそのGapを埋めることができる、トレンドになっているテーマの解析を行うことができる、そんなテーマがみつかればすぐに論文を書くというスタイルなのだそう。

この辺りは、基礎研究と臨床研究で異なるかもしれません。基礎系の研究者はトレンドを気にせず自分の興味のあることにこだわる人のほうが多いのではないかと思います。

査読者への対応もまた興味深い内容でした。査読コメントへの答えはクドく書くそう。徹底的に相手に応える姿勢が大事なのでしょう。

 

この本について

周りに臨床研究論文を出している先輩がいればその人から体験談を聞けますが、この本はそういう環境にいない臨床医のための貴重な「体験談」集になっています。9人x数年間の苦労話ですから、論文化に関する数十年分のノウハウが詰まった本だということになります。論文を出した経験がある人にとっては、「あるある」が満載でしょうし、未経験の人は興味津々の内容でしょう。自分はこの本を読んでいて、ワクワク、ゾクゾクしました。

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傷害誘導筋細胞由来幹細胞様細胞iMuSCs

Injury induced population of muscle-derived stem cell-like cells (iMuSCs)

かつてSTAP細胞の論文を掲載し取り下げたネイチャー誌を発行するネイチャー・パブリッシング・グループのオープン・アクセス・ジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」にCharacterization of an Injury Induced Population of Muscle-Derived Stem Cell-Like Cells“(doi:10.1038/srep17355)と題する論文が2015年11月27日に発表されました。筋肉を傷付けたあとで取り出して培養すると、筋肉に分化していた細胞が脱分化して多能性を獲得した細胞(iMuSCs)ができたという内容です。

IMuSCsFig1a

“changes in microenvironmental factors, such as skeletal muscle with injuries, can partially reprogram terminally differentiated myogenic cells into a pluripotent-like state”doi:10.1038/srep17355)

“the most remarkable discovery of this study was that iMuSCs fulfilled several in vitro and in vivo criteria for pluripotency; however, we could not obtain iMuSCs with germline transmission after blastocyst microinjection.” doi:10.1038/srep17355)

参考

  1. 米研究者が「STAP細胞」の再現に成功!?対象も方法も結果もまったく異なる研究。1万歩譲っても「研究不正」は揺るがない(Medエッジ 2015年12月13日 粥川準二 寄稿)
  2. 繰り返し言う~研究不正と「STAP現象」ありなしは別次元の問題榎木英介  | 病理専門医かつ科学・技術政策ウォッチャー 2015年12月13日

STAP細胞作製プロトコールの詳細を理化学研究所が公開へ

理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子・研究ユニットリーダー(30)がNATUREに発表したSTAP細胞の作製ですが、世界中で多くの研究室が追試しているにもかかわらず再現できていません。毎日新聞の報道によると、理化学研究所ではこのような状況を受けて、詳細な作製手順を公開する準備を進めているとのことです。

他人には再現できないように、肝心な部分をわざと論文に含めていなかったのだとしたら、現在追試に励む研究者たちの時間とお金を無駄にしていることになり、とても無責任で身勝手な行為です。自分が論文発表した実験条件に関して問い合わせがあれば速やかに返答するのが、研究者の常識的な行動です。

参考記事

  1. STAP細胞:発表1カ月再現失敗相次ぎ 理研手順公開へ (毎日新聞 2014年03月02日 11時45分(最終更新 03月02日 12時12分)):あらゆる細胞に変化できる万能細胞、STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)の作製に成功したと、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)が発表し、1カ月がたった。作製方法が「簡単」とされた点も注目を集めたが、国内外の研究者からは「実験が再現できない」との報告が上がり、論文の不備も指摘されている。理研は、詳細な作製手順を公開する準備を進め、論文の不備についても調査を始めた。

ハゲが治る? ふさふさの髪の毛を取り戻す

人の毛髪を再生することは大きなチャレンジです。しかし、今回コロンビア大学の研究者らは脱毛症の男性から採取した「毛乳頭細胞」を髪の毛を生やす能力を保たせたまま培養する方法を発見。培養した毛乳頭細胞が人の皮膚に作用して髪の毛を生えさせたと報告しました。

同様の実験はマウスなどの細胞では既にうまくいっていましたが、なぜか人の毛乳頭細胞を培養しても、皮膚に働きかけて「毛包」を誘導する作用が失われてしまうという困難がありました。マウスでは培養した細胞が塊りを作っているという観察がブレークスルーになりました。人の毛乳頭細胞の培養でも平面的に増殖させるのではなく、立体的な塊りになるような培養条件にしてみたら、うまくいったというものです。

今回の研究では、人の皮膚(新生児の陰茎の皮膚)をマウスの背中に移植しておき、その人の皮膚に脱毛症の男性から取った毛乳頭細胞を培養して増やした塊りを移植して、皮膚から髪の毛が生えてくるかどうかを実験で調べました。まだ全ての実験を人間に対して行える段階ではないため、このようにマウスの背中を借りた実験が行われました。しかし、生えてきた毛髪はマウスの細胞に由来するものではなく、人の細胞由来だったということが確かめられています。

新生児の陰茎の皮膚を用いたというのはちょっとびっくりしますが、もともと毛がまったく生えていないので毛が生えてくるかどうかの実験に適しているとのことです。アメリカでは生まれた赤ちゃんに割礼(男性の陰茎包皮の切除手術)を行うことが多いので、材料として入手しやすいのも一つの理由でしょう。

参考

  1. Microenvironmental reprogramming by three-dimensional culture enables dermal papilla cells to induce de novo human hair-follicle growth. Claire A. Higgins, James C. Chen, Jane E. Cerise, Colin A. B. Jahoda,and Angela M. Christiano, Published online before print October 21, 2013, doi: 10.1073/pnas.1309970110 PNAS (米国科学アカデミー紀要)
  2. Hair Regeneration Method is First to Induce New Human Hair Growth(コロンビア大学ニュースルームOctober 21, 2013)
  3. 毛乳頭細胞で毛を再生=立体的な培養法工夫、移植で―脱毛症治療に期待・米英チーム(ヤフーニュース・時事通信 10月22日(火)1時36分配信
  4. 脱毛症患者に新たな希望(ウォールストリートジャーナル2013年 10月 22日 15:37 JST
  5. New Hope for Baldness(The Wall Street Journal Oct. 21, 2013 2:07 p.m. ET)
  6. マルホ皮膚科セミナー ラジオNIKKEI2011 年8 月25 日放送第74 回日本皮膚科学会東京支部学術大会①会長講演「毛成長誘導の主役は毛乳頭細胞?毛包幹細胞?」北里大学 皮膚科教授 勝岡 憲生(PDF)
  7. 東京理科大学辻孝研究室「毛髪再生医療の実現を目指して
  8. 株式会社エーセル「毛乳頭細胞の活性化試験(養毛・育毛・発毛試験)
  9. 割礼、するべき?(わいわい! ママのブログ2010-08-14 15:03:22)

この論文の責任著者である2人、アメリカ・コロンビア大学のAngela M. Christianoさんとイギリス・ダラム大学のColin A. B. Jahodaさん(3分25秒~)による解説。

Angela Christiano: New Method for Hair Regeneration