臨床研究 英語論文 最速最短 実践対談編【内容紹介&書籍レビュー】

      2019/11/14




原 正彦 日本臨床研究学会代表理事 著『すべての臨床医そして指導医いも捧ぐ超現場型の臨床研究体験書 実線対談編 臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で行うための極意』(金芳堂2018年)がなかなか面白いです。臨床医が頑張って論文のアクセプトに漕ぎ着けるまでの苦労話が9話あります。『臨床研究 英語論文 最速最短』の続編として書かれたもので、この続編では先輩方の”疑似体験”ができるようにという狙いだそうです。

研究テーマの選び方:FINERを満たすか?

これらの本で何度も出てくる、研究の教えがFINERというもので、Feasible(実行可能)、Interesting(興味深い)、New(新規性)、Ethical(倫理性)、Relevant(社会的な意義)の頭文字をとったものです。Relevantというのは日本語にしにくい英語らしい英語だと思いますが、Clinical Implication(臨床的な意義の高さ)と考えるとよいのだそう。

データのとり方が大事

データのとり方として、どういう解析をするために必要なデータなのかをわかったうえでデータを取らないと、使えないデータを無駄に集めてしまう恐れがあると警告しています。

論文投稿はまだ折り返し地点

また、論文を出すまでの労力を考えたときに、Revisionはまだ「折り返し地点」に過ぎないと言います。論文を書き上げて投稿すると終わった気になりがちなのですが、実は投稿してエディターの返事をもらうのはゴール間近かところか長いコースの折り返し地点にすぎないという感覚は大事です。そうでないと、リジェクトを食らったときに心が折れて、力尽きてしまいます。リジェクトされても戦うだけのエネルギーが絶対に必要なのです。

論文で大事なのはイントロダクション

この本では、論文で一番大切なところはイントロダクションだと言います。エビデンスのパズルの中で抜けているピースが何かを読者に意識させて、そのクリニカルクエスチョンの重要性をアピールするための場所だからです。よく、サクセスフルなグラントプロポーザルの書き方でも、何が既知で何が未知なのかという知識のギャップを示して、それを埋める形で書けと言いますが、それと同じだと思いました。

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レビューアーの心理を読み解く

査読者の心理を読む解くところも面白いと思いました。注文が10個書いてあっても、絶対譲れないのが1つあって、もっといえば、その譲れないポイントが10個のコメントにちりばめられているということです。そういう査読者の気持ちを汲み取れないと頓珍漢なレスポンスをしてしまうでしょう。

自分の論文がイメージできるか?

インタビュー形式で面白いと思った回答が、論文を出すという経験をしてみて、思っていたことと違っていたことが何かあれば?と聞かれた論文著者が、現実に論文が完成したことがそうですと答えていたところ。確かに、初めての論文を作成しているときは、それが出版されて印刷物になるということを想像しにくいかもしれません(オンラインジャーナルだと紙にはなりませんが)。実験で苦労した量と、それが論文の図になっている部分の大きさとはたいてい比例していなくて、出来上がった論文を見ると不思議な気持ちになることが自分は多いです。苦労して得たデータが妙にあっさりと小さな図にしかならない一方で、論文のために最後につくった実験を示す模式図がやたら大きかったりして。

査読コメントへの対応の仕方

本書ではリバイス(Revision)のときの査読者への返答の仕方に関してもアドバイスがあり、とにかく査読者の要求に従って修正をする一方で、どうしても譲れないポイントは丁寧に説明しましょうと述べています。

再現性を保証するデータ管理の重要性

この著書では統計ソフトとしてRを勧めています。スクリプトで記述するので、データを読み込むところから結果を吐き出すまでが、誰がやっても同じになるので確かにお勧めです。生データから論文の図に至るまでの再現性が問題になることがありますが、Rですべての処理をしていればそういった問題も回避できるはず。

多施設研究においては、データマネジメントの重要性を説いています。解析にかけるためのデータのクリーニングが必要なのだそうで、誰がやっても同じ結果になるようにクリーニング作業の過程は一つ一つ作業記録を残すことが重要だとのこと。そうしないとデータから論文の図に至るまでの再現性が保証されなくなります。この作業記録がないと、最悪の場合研究不正を疑われて、その疑義が晴らせないという事態になります。

この書籍の最後は論文デビューしたばかりの人ではなく、NEJMなどのトップジャーナルに論文を出している研究者へのインタビューになっていて非常に読み応えがありました。

消防庁が2005年からウツタイン研究で院外心停止のデータを毎年10万件収集しており、2008年には30万件のデータが集まっていたが、有効利用されていなかった。データクリーニングもされていなかった。論文化の発想がそもそも誰にもなかった。それを論文化してNEJMに掲載されたそうです。この場合は、国家規模のレジストリ-を用いた論文としてNEJMに掲載させることが最初から要請されていたとのこと。

学術誌の嗜好に合わせて投稿先を選ぶ

雑誌によって掲載する論文の好みがあるという話も興味深かったです。NEJMやJournal of the American Medical Association (JAMA)は学会誌。LancetはNatureと同じく商業誌なので面白い論文、つまり購読者が増えるような、雑誌が売れるテーマを好む傾向が恐らくあるのだそう。JAMAはアメリカ人にとって利益があるかを考えている印象。それに対して、NEJMは普遍的な価値と社会的なHealth Policyに影響するかを最も重要視している印象があるとのこと。こういった好みが論文の採否にどう影響してくるかというと、例えば、日本では胃がんが多いが胃がんの疫学研究をJAMANに載せるのは難しい。アメリカ人には胃がんが少ないので。乳癌や肺癌のほうが多い。論文を書くときは相手(ジャーナル)が何を求めているかを見極めてそれを提供するというマインドが必要で、それが論文を書くためのセンスなのではないかというお話。

臨床研究に新規性は必要か?

研究テーマの選び方の話もまた斬新でした。新規性は全く重要視しない。アメリカで研究でたから日本でもという後追いもやる。最終的に自分の論文がメタアナリシスやシステマティックレビューに使ってもらえればよいという考え。

論文のイントロダクションの重要性:知識のギャップを埋める

イントロの重要性も説明されていました。イントロの書き方として、過去のデータを並べつつも、ここの部分の「この時代」や「この集団」におけるエビデンスはまだ報告されていないといったもっていきかたがよいのだそうです。ガイドラインにエビデンスがないと書いてあるところを埋めるという発想だそうです。Introductionでは「こういうエビデンスがなく、ここがKonwledge Gapです」と主張するのが効果的。

論文を出す労力

論文を出す労力は、インパクトファクターの大小は関係ないそうです。インパクトファクターが1点でも、NEJMのReviseをするときと労力はなにもかわらず、同じエネルギーを割くとのこと。

時代の潮流に合わせることの重要性

トレンドを追うことも重要だと述べています。日ごろから、NEJMやLANCET、JAMAの論文タイトルだけでもみておく。m3でもいいし、メディカルトリビューンもトレンドを見るには役立つそうです。そうして、今のトレンドとKnowledge Gapを把握する。自分が持っているデータからそのGapを埋めることができる、トレンドになっているテーマの解析を行うことができる、そんなテーマがみつかればすぐに論文を書くというスタイルなのだそう。

この辺りは、基礎研究と臨床研究で異なるかもしれません。基礎系の研究者はトレンドを気にせず自分の興味のあることにこだわる人のほうが多いのではないかと思います。

査読者への対応もまた興味深い内容でした。査読コメントへの答えはクドく書くそう。徹底的に相手に応える姿勢が大事なのでしょう。

 

この本について

周りに臨床研究論文を出している先輩がいればその人から体験談を聞けますが、この本はそういう環境にいない臨床医のための貴重な「体験談」集になっています。9人x数年間の苦労話ですから、論文化に関する数十年分のノウハウが詰まった本だということになります。論文を出した経験がある人にとっては、「あるある」が満載でしょうし、未経験の人は興味津々の内容でしょう。自分はこの本を読んでいて、ワクワク、ゾクゾクしました。


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