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サントリー ケルセチン配糖体配合「特茶」の広告
電車の車内広告や駅の構内などでやたらと派手に宣伝しているサントリーのケルセチン配糖体配合「特茶」。
東京駅の階段沿いで見つけた特茶の広告。
「エビデンスのあるお茶なんです!」って一言に目を引かれました。階段沿いだからこそ、一瞬で興味関心を惹くコンテンツ大事!特茶の広告の影響か、“ケルセチンゴールド”ってキーワードも最近よく耳にしますが、ちゃんとエビデンスあるみたい。 pic.twitter.com/wHtuF3iyhX
— 加藤誠也 街中広告マニア (@adbrex_) October 13, 2023
この広告でやたらと目立つのが「エビデンス」と言う言葉と体脂肪低減効果のグラフですが、これってどうなの?と見るたびに思います。
サントリー ケルセチン配糖体配合「特茶」のTV CM
上白石萌音研究員と本木雅弘研究所所長が、特茶の値段の高さの説明として、ケルセチンゴールドが体脂肪を下げるからとアピールしています。
サントリー緑茶 伊右衛門 特茶『特茶研究所 腹落ち』篇 30秒 本木雅弘 上白石萌音 サントリーCM サントリー公式チャンネル (SUNTORY) チャンネル登録者数 31.8万人
「8週目から差があり!」と言うわけですが、これってそこにアテンションを持っていくことにより、肝心のグラフそのものの信頼性から目を背けさせるありがちなテクニックのようにも思えます。これって誇大広告にならないのかなぁ。縦軸も0からではなく、差が強調されるように部分しか見せていません。
ケルセチン配糖体配合体の体脂肪低減効果
上白石萌音(かみしらいし もね)研究員の可愛さよりも、本木雅弘研究所所長のカッコよさよりも、はるかに強く目をひくのが、このエビデンスとされるグラフの怪しさです。
このグラフを見せて、8週目でケルセチンのほうは脂肪が摂取前と比べて有意に減少したとしていますが、対照実験のほうは逆に摂取前と比べて有意に増加しています。何も入っていなくても有意な差が出るような実験なのだとしたら、ケルセチンが入っていたから減少したとも言えないのではないでしょうか。
また、摂取前との比較で有意差があったということに加えて、対照群と比較しても脂肪が減少したと言っています。
某トクホのグラフなんだけどさ、何でケルセチン配糖体がない緑茶飲んでる人は腹部全脂肪増えてるの。 pic.twitter.com/kdoRL1ZRWj
— すーぱーきゅーとがーるももさん (@momosan_compass) July 27, 2023
上のツイートで紹介されている広告の例では、グラフだけでなく、わざわざ表にして示していますが、そもそも有意に脂肪が増加した対照群と比べて脂肪が下がってましたというのは、なんの説得力もありません。
つまり、この実験では2つの比較方法を用いて解析していますが、どちらにもなんの説得力も感じません。
サントリーの広告に対する突っ込み
特茶の対照群、脂肪量増えるのおかしいやろ
— yusuke yamamoto (@yamamotojax) October 7, 2023
特茶の広告の対照群の人たち、なんでこんな短期間に太っちゃったの… #特茶
— yz (@yzkuma) July 13, 2023
特茶のグラフ、対照群の人たちの脂肪は増えてるのなんかモヤるんだよな
— きるしゅ (@kirsch_cnol) August 1, 2023
伊右衛門の特茶で体脂肪減るか実験してみようと思ってサントリーのHP見てたんだけど、対照飲料飲んだ群の脂肪面積が増加してるのはなぜ?何が起きてるのか教えてください pic.twitter.com/5ff0RgAJ53
— よしだ (@airuki) October 31, 2013
特茶のケルセチンゴールド飲んだら痩せるかな
対照飲料はなにを飲ませたんだろう
脂肪が増えるようなドリンクだったのかな— 404 (@shiki_master) July 11, 2023
ケルセチン入ってない方のお茶が0-8週目で体脂肪増えてるの謎。8-12週での変化だけみたらケルセチン入ってるほうとグラフの下がり具合同じだし。
…まあ味好きだから飲んでるけど。— つー@でこ:ねこつむじ (@tsu_deco_drive) August 2, 2023
被験飲料群内の(0週との比較)低下(* 印)はいいけど,対照飲料群との群間比較(# 印)のほうはそこがわからないとなんともいえないな。
単純に読みとれば,「特茶じゃない」緑茶を飲み続けると体脂肪(腹部全脂肪面積)が増える,ということになりません?
— ᴉɥsoʇɐsᴉʞnzᴉɥɔoɯ (@1hc0m) August 11, 2023
ケルセチンのCMなんかおかしいなと思ったら対照の体脂肪面積が増えてるんじゃん。だから有意差が出てるんだろう。それっておかしくない?
— sin (@sm623) October 1, 2023
当然のごとく、SNSでも対照実験のグラフに突っ込みを入れているつぶやきが多数ありました。
ケルセチン配糖体配合「特茶」の体脂肪低減効果を報告した論文
肥満者に対するケルセチン配糖体(酵素処理イソクエルシトリン)配合緑茶飲料の体脂肪低減作用および安全性の検証 サントリーウエルネス(株) 薬理と治療 Jpn Pharmacol Ther 2012;40(6):495-503.
referenceが載ってたんでそのままコピペして
Google検索へ
その雑誌にはケルセチン配糖体について書かれた論文が二本あって、、
特茶と同じ量のケルセチン配糖体が含まれる飲料で介入した、RCTでした。対象は20-65歳のBMI25-30の人達ってことで
その層の人達には効果があるみたい。— くに (@1214kc) July 29, 2018
特茶を2ヶ月飲み続けても、5cm²しか脂肪減らないの? pic.twitter.com/GZ6IIInKqb
— ジャイアント松山 (@Giant_Matsuyama) October 8, 2023
商品の販促が目的なのか、エビデンスとは到底呼べないようなデータに基づいて消費者を煽るのってどうなんでしょう。
以前、明治がカカオで脳が若返るなどという研究発表をして問題になっていましたのを思い出してしまいました。
- 食べると脳が若返る!?高カカオチョコの効果発表 [2017/01/18 18:55] テレ朝ニュース
- 「チョコで脳若返り」実験やり直し 内閣府 2018年3月8日 11:02 日本経済新聞 比較対照がなく、実験手法などに問題があると外部から批判が相次いでいた。8日の有識者会議では内閣府の担当者が「個別の商品にお墨付きを与える結果になった」と発言。
明治の場合は対照実験がないことが指摘されるなど、厳しい批判がありました。
見えない成果、重なる虚飾 捏造に近い誇大宣伝が続発しているということだ。内閣府のImPACTを利用し、「カカオを多く含むチョコレートを食べると脳が若返る可能性がある」と発表した研究成果は、科学的データが不十分として実験のやり直しを迫られた。‥ 成果を焦って人前を繕うあまりか、研究者倫理の歪みも目に余る。(「国策イノベーション」の現場で何が起きているか──科学技術基本法改定の先に 千葉紀和 学術の動向 2021.5)
明治の場合は、日本の科学政策の「選択と集中」の一環である内閣府の事業ImPACTによる”成果”として出されたため、巨額の投資に値するアウトプットとは言えず強い批判を浴びたのだと思います。
サントリーの場合は公的資金が投入された研究ではないと思いますが、怪しい”エビデンス”をマーケティングの目玉にした大々的な販促活動が、研究者からするとかなり違和感を覚える行為なのではないかと思います。
販促といえば、ディオバンの事件もちょっと頭をよぎりました。
高裁判決は論文について、専門家向けの学術研究報告で、正式な審査を経て掲載に至っていると指摘。「実質は販促のための広告だ」という検察側の主張に対し、広告の「準備行為」にとどまると認定した。(ノバルティス論文不正、二審も無罪「立法措置」に言及 有料記事 阿部峻介 小坪遊 月舘彩子2018年11月19日 18時18分 朝日新聞デジタル記事 )
サントリーは対照実験は実施していますが、その対照実験自体に脂肪増加の効果があったので、「普通のお茶を8週間飲みつづけると脂肪がつきますよ」という結論が得られることになり、対照実験としてあまり意味をなしていないのではないでしょうか。
特茶の値段の高さについて
特茶のCM
「なぜ特茶は高いのですか?」
「体脂肪の減少が認められるからです(どや)」高い理由の説明になってなくてすごいすごくイライラするのは私だけ?
「体脂肪減少のためのケルセチンが1gいくらだから、高いのです」ならまだ分かるけど。 pic.twitter.com/WwpqeavZsX
— グチカワ (@SCOTTIGER) October 8, 2023
- トクホの『特茶』ってなぜ高い?サントリーのお姉さんに聞いてみました!2014年6月13日 LifeReformer
感想
研究を実施したサントリーの研究者は実験結果を正直に報告しただけだと思いますが、データが自分の手を離れて独り歩きして、このように大々的にマーケティングに利用されてしまうと、心中いかばかりかとお察し申し上げたくなります。
”科学的エビデンス”に基づいたこのサントリーの販促活動は、いかがわしさ満載ですが、なんなら、研究倫理の教科書やサイエンスコミュニケーションの教科書で紹介したいと思いました。
- Q 「カレーがほんとに好きで、なんなら毎日食べてます」というような言い方、どうもどこかひっかかります。 最近気になる放送用語 2019年7月1日 NHK放送文化研究所
- 副詞「なんなら」の新用法 ―なんなら論文一本書けるくらい違う― 島田泰子 二松学舎大学学術情報リポジトリ
ケルセチンの発見者
「#特茶」に含まれる「#ケルセチン」が、東北大で学んだ日本初の女子大学生、#黒田チカ の発見によるもので、ご提供いただきました♫ https://t.co/4St0qJJKi8
— 大隅典子@東北大学(『小説みたいに楽しく読める脳科学講義』羊土社より刊行) (@sendaitribune) October 12, 2023
トクホについて
トクホ認可の実情が内閣府の中の議論の議事録に紹介されていました。一部(座長の言葉の一部)を紹介します。
- 関与成分の臨床試験については論文としてきちっと公表されている必要があるが、それぞれの製品ごとには必ずしも必要ない
- トクホの場合にも同じ関与成分のもので臨床的な有効性が示されたと言っても、実際にそれをほかの製品でやった場合に同じように吸収されるかどうか
- トクホに関しては統計的有意差ということが重視されていて、統計的な有意差がつけば承認しなくてはいけないのではないかというような雰囲気
- paired t‐testで解析してみて、摂取前と比較して差があったということで、摂取後の値そのものを対照群と比較・解析すると有意差がなくても、認められていることが多い
- 作用が本当に臨床的な意味があるかどうか、栄養学的、生理学的に意味があるかどうかということを重視してやっていくべき
- 企業が作成した論文というものは当然もともとバイアスがかかっているわけです。その論文のデータをそのまま信じるわけにはいかないのです。
- 有効性が曖昧なものについては、行政がお墨つきを与えるようなことはやめたほうがいい
(私がこのトクホに関与してから常々思っていること 内閣府 食品ワーキング・グループ(第4回)日時平成27年5月12日(火)13:29~15:02 特定保健用食品に関するヒアリング 大野 泰雄 委員 消費者委員会新開発食品評価第一調査会座長、(公財)木原記念横浜生命科学振興財団理事長)
- 特定保健用食品について 消費者庁 特定保健用食品は、からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品です。特定保健用食品として販売するには、食品ごとに食品の有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得なければなりません。(健康増進法第43条第1項)
- トクホ(特定保健用食品)とは?期待できる効果や安全に活用する方法 2023年8月28日 トクホは通常、商品ごとにその有効性および安全性を消費者庁が個別に審査しています。‥ トクホには、用途に応じて5つの種類があります。 ‥ 特定保健用食品(規格基準型)通常、トクホは商品ごとにその有効性および安全性についての審査が行われています。しかしトクホとしての許可件数が多く科学的根拠も蓄積されている関与成分を含むものは個別審査を省略し、規格基準に適合するかどうかの審査のみを行います。このような流れで許可を得たトクホが「規格基準型」です。
- トクホ許可の条件にもランダム化比較試験 北澤京子・医療ジャーナリスト/京都薬科大学客員教授2017年8月19日保存 毎日新聞医療プレミア:健康食品のうちトクホ(特定保健用食品)では、RCTを行ってその効果を示すことが、国の許可を得るための条件となっています。
- 平成16年度厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業 新特定保健用食品制度に関する 基準等策定のための行政的研究・中間とりまとめ 主任研究者 田中 平三 平成16年10月28日:現行の特保の有効性の審査基準は、(1)作用機序が明確であって、(2)RCT(Randomized Controlled Trial:無作為化比較試験)により効果が示される(原則として5%以下の有意水準)ものであるのに対し、条件付き特保に求める審査基準をどのように考えることができるかについて、研究班では、以下のような意見があった。‥ 対照群のない介入試験については、平均回帰や経時的変動を除外できないことから、有効性を判断する試験デザインとしては不適切であると考えられ、条件付き特保のエビデンスとしても認められないと判断した。
- 「機能性表示食品とは?」を丸ごと解説 特定保健用食品(トクホ) 健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品です。 機能性(効果)や安全性は国が個別審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可しています。
このようなトクホ認定の実情を知ったうえで、サントリーのグラフを改めて眺めると、味わい深いものがあります。