Monthly Archives: March 2014

研究論文の著者が担うべき説明責任

理研では8年前の教訓が生かされているのでしょうか?理研のこの声明文では、「不正のないことを示すための客観的資料・データ等の管理保存を徹底する。」と明言されています。現在、理研のSTAP論文に非常に重大な疑義が生じているわけですから、著者らのグループに論文の再現性を確認する実験をさせている場合ではありません。むしろ実験を直ちにやめさせて、これまでの実験サンプル、実験データ、実験ノートが「紛失」したり新たに作り出されたり、書き換えられたりしないように、証拠の保全に努めるべきなのではないでしょうか?論文に示されたすべての図に対応する実験記録が本当に論文著者らの実験ノート中にあったのかどうかをまず最初に公表すべきです。STAP細胞が本当にできるのかどうかと、不正行為がなかったのかどうかは全く別の問題であって、混同させるべきではありません。

理研はRIKENとして世界の研究者の誰もがその名を認める存在です。世界中の注目を集めるこのSTAP論文疑惑に対してRIKENがどう対応するのかは 全世界が注視しています。これを所内政治のレベルでうやむやに済ませれば、これまで築き上げられたRIKENの評価が揺らぎかねません。

理研のこれまでの対応は、残念なことに自らが出したこの声明に逆行しているように見えます。「世界最高水準の研究を実施できる」機関として「特定国立研究開発法人」に指定されさらなる特別扱いをこれから受けるというのなら、理研内外の研究者が納得できるだけの高潔さをここで示してもらいたいものです。理化学研究所には莫大な税金が投入されているのですから、理化学研究所の研究者らは自らの言葉に責任を持つべきです。理化学研究所の中に、捏造論文を出した研究者らの居場所があっていいはずがありません。

 

科学研究における不正行為とその防止に関する声明

平成17年11月2日
理研科学者会議

 科学者は、その研究目的が自己の好奇心に基づくものであれ、国策的戦略にのっとったものであれ、できうる限り自律的かつ誠実に研究を遂行する義務を持ち、その研究成果を自らのものとして公表する権利を有している。
 理化学研究所は、わが国随一の自然科学における総合研究機関であり、自然科学の新しい研究分野を開拓するとともに、国民の負託に応じた重要な分野での戦 略的研究を遂行し、研究成果の社会への還元に努めている。すなわち、世界に伍して先端的研究を推進するわが国の拠点である。この理化学研究所において、研 究者は他の機関にも増して、前述にある研究者としての義務と権利を心して自覚し、諸外国としのぎを削りつつ研究を遂行しなければならない。
 昨今、科学研究において、捏造(Fabrication)、改ざん(Falsification)、盗用(Plagiarism)などの非倫理的不正行為が発生しており、理化学研究所もその例外ではなかったことは悲しむべき事である。
 研究における不正行為は、研究者に社会が託した夢と信頼を裏切る行為であり、科学に対する裏切り行為であるとともに、研究者自身の自殺的行為であると極 言できる。理化学研究所の研究者一人ひとりが、このような不正行為に陥ることのないよう、厳しく自らを律するとともに、他者にその疑いがある場合に、すみ やかに適切な対応をなし、不正行為を未然に防ぐ努力をなすべきである。
 科学研究の不正は科学者に対して社会から託された夢と希望を自ら踏みにじる行為であることを改めて強く認識し、科学をこよなく愛する理化学研究所の研究者として、以下のことを宣言する。

  1. 科学の真理を追求するうえで、いつも他を欺くおそれがないよう自らを律する。
  2. 他者の不正を決して黙認しない。
  3. 指導的立場に立つ研究者は、研究に不正が入り込む余地のないよう日々心を配る。また、不正のないことを示すための客観的資料・データ等の管理保存を徹底する。
  4. 研究論文の著者は、その論文の正しさを客観的にいつでも誰にでも説明する責任がある。

(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/siryo/attach/1334735.htm)

参考

  1. 研究開発法人に理研と産総研指定 4閣僚が合意 (日本経済新聞2014/3/5 19:28):下村博文文部科学相や山本一太科学技術相ら4閣僚は5日、世界的な研究成果を目指す「特定国立研究開発法人(仮称)」に理化学研究所と産業技術総合研究所を指定することで合意した。月内にも開く総合科学技術会議で正式に決め、内閣府などが関連法案を今国会に提出する。新法人に指定されれば、優れた研究者に高い給与を支払える。2機関については、論文の引用数や特許数、国際性などをもとに国内を代表する研究機関で、世界最高水準の研究を実施できると判断された。
  2. kahoの日記: STAP細胞の非実在について
  3. Key Initial Reactions to RIKEN’s detailed STAP stem cell protocol (Knoepfler  Stem Cell Blog)
  4. 不自然なテラトーマ画像について (小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑 2014年3月5日水曜日)

産経ニュースが「小保方博士がSTAP細胞作製の再現に成功」と報道

産経ニュースが、NATURE論文発表後としては初めて小保方博士がSTAP細胞作製の再現に成功したと報じています。理化学研究所は2014年3月5日に「STAP細胞作製に関する実験手技解説の発表について」という声明をウェブサイト上で発表していますが、小保方博士がSTAP細胞作製の再現に成功したという記述は見当たりません。

STAP細胞 小保方さん、再現実験に成功 論文発表後初めて
2014.3.6 08:59 [先端技術]
理研は5日、小保方晴子研究ユニットリーダーが1月末の論文発表後、初めてSTAP細胞の再現実験に成功したことを明らかにした。実験の客観的な証明には第三者による再現が必要だが、成果の正しさを一定程度裏付けた形だ。

理研によると、小保方氏は理研発生・再生科学総合研究センターで先月、再現実験を開始。論文通りの手法でマウスの体細胞を弱酸性溶液で刺激し、あらゆる細胞に分化できるSTAP細胞を作製することに成功した。細かい実験手順も含め同センターとして正しさを再確認したとしている。
(http://sankei.jp.msn.com/science/news/140306/scn14030609000001-n1.htm)

日本報道検証機構@Watchdog_Japan 2 時間

【調査結果】産経新聞3月6日付朝刊31面(電子版:http://sankei.jp.msn.com/science/news/140306/scn14030609000001-n1.htm …)が、理研発生・再生科学総合研究センターがSTAP細胞の再現実験に論文発表後初めて成功したと報道。他紙が報じていないことから調査した結果、理研広報室より事実であるとの回答を得ました。

 

何の証拠も示さずにSTAP細胞作製の再現に成功したと言ったところで、一体誰が信じるのでしょうか?

理研がSTAP細胞の作り方の詳細なプロトコールをネイチャーのProtocol Exchangeで公開(理研CDBサイトでもPDFを無料公開)

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)がSTAP細胞およびSTAP幹細胞の作製方法の詳細を公表しました。

Haruko Obokata1, Yoshiki Sasai2 and Hitoshi Niwa. Essential technical tips for STAP cell conversion culture from somatic cells. Protocol Exchange(理研ウェブサイト内のPDFファイルへの直接リンク

参考

  1. 「STAP細胞 TCR再構成は無かった」という話の衝撃 (ka-ka_xyzの日記 2014-03-05):今回小保方氏は論文中で、「STAP幹細胞はT細胞がリセットされたものです、その証拠にTCR遺伝子はシャッフル済みです」と主張していました(論文のFig. 1i)。また、理研のプレスリリースでも、以下のように「T細胞受容体遺伝子が組み替えられている(TCR再構成が発生している)ということから、一旦T細胞に分化した細胞が初期化されたことがわかる」と明確に書かれています。「TCR遺伝子が再構成されている」というデータは、分化済みのT細胞がリセットされてSTAP幹細胞になったという主張のキモだったはずです。それが理研の出したドキュメントであっさり覆った衝撃ときたら。
  2. Key Initial Reactions to RIKEN’s detailed STAP stem cell protocol (http://www.ipscell.com Posted on March 5, 2014): On a simple level to me this new statement seems like a red flag, but perhaps others can clarify the meaning and whether this suggests the authors are making STAP cells actually not from lymphocytes but rather from some kind of hematopoietic progenitor/stem cell.
  3. T細胞はSTAP幹細胞になれない(吉村研究室)STAP幹細胞にはTCR再構成のあとはありません。。。予想はしていたけれどこれは(少なくとも私に とっては)衝撃的だ。これは論文のabstractの”induction”説を否定して結局cell-type- dependent=selection説を肯定するものではないか?少なくとも終末分化した細胞のリプログラミングに成功したとは結論できないのではな いか。
  4. STAP細胞作製に関する実験手技解説の発表について (独立行政法人理化学研究所 2014年3月5日):科学研究における再現性を含む評価は、科学的根拠を基に研究者社会において検証いただくものと考えております。研究グループが既に発表した論文(Nature 505, 641–647)には、STAP細胞作製法の方法論を掲載していますが、文書スペースの都合上、詳細の記載には限界があります。論文発表以来、研究グルー プでは多くの研究者が今回の現象を再現するための一助として、細かいノウハウを説明する実験手技解説の準備に取り組んで参りました。今回、その一環とし て、STAP細胞等の作製に関するより詳細な実験手技解説を発表します。[Nature Protocol Exchange ][PDF ] *Nature Protocol Exchangeに登録されていない方はこちらをご覧下さい。
  5.  理研、STAP細胞の作製法公開 論文への批判受け(日本経済新聞 2014/3/5 20:37):作製効率を上げるには、生後1週間以内のオスのマウスを使うことなどを明記した。
  6. STAP細胞の作製法公開 理化学研究所 “再現できない”に対応 (スポニチ2014年3月5日 17:19):重要な点として、生後1週間を過ぎたマウスの体細胞では作製効率が大幅に落ちることや、細胞を浸す溶液の酸性の度合いが変化しやすいことなどを挙げた。雄マウスの体細胞の方が、雌よりも効率がいいという。

理研は今後の規範となるような適切な対応を!

研究不正を疑われている人たちが自らを調査をして、研究不正の疑いを晴らすことは可能でしょうか?

もしも研究不正の事実が一切なければ、それは可能でしょう。実験ノートや生データ、サンプルをすべて公開し、論文で示された実験結果が確かに実際に行われていたことを証明すればよいからです。しかし、もし不正が本当に行われていたのだとしたら、自分で自分の不正を調査、検証できるはずがありません。保身に走るのが人間の自然な行動だからです。組織なら、自らの組織を守るように行動します。理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)の最有力メンバーが今回のNATURE論文の責任著者であるため、今回の事件でもし研究不正があったとしたら理研CDBが総力を挙げて組織を守る方向に動くことは自明です。

何の証拠も示さずに小保方博士が実験結果の再現に成功したと言ったりNATURE論文の主張を変更するようなプロトコールを後出ししてみせたりするのは、理研CDBに公正な調査を期待していいのかどうか不安にさせるような行為です。

外部の人間を交えた調査委員会を立ち上げたといっても、有力メンバーの知り合いだとしたら無意味です。理研CDBが調査委員会を設置するのではなく、理研CDBを監督する権限のある機関が理研CDBのメンバーを外した調査委員会を立ち上げて、理研CDBそのものを調査対象とするべきでしょう。実験ノートに記録がないのに論文の図が出来上がってくることは、あり得ません。「実験ノートが提出できない=実験していない」とみなすべきです。

日本分子生物学会は、STAP細胞に関する論文疑惑に関して、理化学研究所が迅速な対応をするよう促す声明文を出しました。

2014 年3 月3 日理事長声明『STAP 細胞論文等への対応について』特定非営利活動法人 日本分子生物学会理事長 大隅 典子

本年1月に理化学研究所からNature 誌に発表されたSTAP 細胞樹立にかかわる論文2報の著者には、本学会員が含まれますが、これらの論文および第一著者の以前の論文に関する生データ(画像)の取扱いや実験方法記述について、各種報道やWEB 上において多くの問題点が指摘されていることを、本学会としては大変憂慮しています。日本の科学をリードする研究機関の一つである理化学研究所が、可能な限り迅速に状況の正確な報告について公表されるとともに、今後の規範となるような適切な対応を取って下さることを本学会は期待します。(PDF link)

参考ウェブサイト

  1. kahoの日記: STAP細胞の非実在について#2 私は件の論文に直接関わる立場ではないのですが,研究所の外から見れば「中の人」になります.…科学的な事実を争う立場としては私は間違っていないという自信がありますが,政治的に勝利できるかどうかは全く分かりません.
  2. kahoの日記: STAP細胞の非実在について#3 残念ながら政治的には勝てそうにありません.
    しかしここを読んだ人に誤解していただきたくないのは,私が孤独な戦いをしているというわけではないということです.むしろ話をした方々は全て私に賛同し応援してもらっており,数の上では私の方が圧倒的なマジョリティだと思っています.
  3. Robert Geller ‏@rjgeller  不正行為が発覚した場合、キチンと対応しないことはまじめな若手の落胆を誘発します。何よりも質・倫理観が高い雰囲気を保つことは若手を励ます。
  4. 科学的事実は政治的事実に勝る。所長に直訴奨励:コレスポンディングオーサーの一人である笹井氏は4月から所長になることが内定していると聞きます。

 

STAP細胞作製プロトコールの詳細を理化学研究所が公開へ

理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子・研究ユニットリーダー(30)がNATUREに発表したSTAP細胞の作製ですが、世界中で多くの研究室が追試しているにもかかわらず再現できていません。毎日新聞の報道によると、理化学研究所ではこのような状況を受けて、詳細な作製手順を公開する準備を進めているとのことです。

他人には再現できないように、肝心な部分をわざと論文に含めていなかったのだとしたら、現在追試に励む研究者たちの時間とお金を無駄にしていることになり、とても無責任で身勝手な行為です。自分が論文発表した実験条件に関して問い合わせがあれば速やかに返答するのが、研究者の常識的な行動です。

参考記事

  1. STAP細胞:発表1カ月再現失敗相次ぎ 理研手順公開へ (毎日新聞 2014年03月02日 11時45分(最終更新 03月02日 12時12分)):あらゆる細胞に変化できる万能細胞、STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)の作製に成功したと、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)が発表し、1カ月がたった。作製方法が「簡単」とされた点も注目を集めたが、国内外の研究者からは「実験が再現できない」との報告が上がり、論文の不備も指摘されている。理研は、詳細な作製手順を公開する準備を進め、論文の不備についても調査を始めた。

理研STAP細胞NATURE論文中に剽窃行為が発覚

理化学研究所(野依良治理事長)のSTAP細胞NATURE論文に、他人の論文からの文章の無断使用が見つかる

理研の小保方博士らがネイチャー誌に発表したSTAP細胞の論文でさまざまな不自然さが指摘されていますが、一部の文章が他の研究者の論文からの「借用」であったことが指摘されました(詳細はstapcells.blogspot.jpを参照)。

ほぼ同一の文章が使われていたのは、Obokata et al., Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency. Nature 505:641–647の論文の中のMethodsのセクションの中の、

Karyotype analysis was performed by Multicolor FISH analysis (M-FISH). Subconfluent STAP stem cells were arrested in metaphase by colcemid (final concentration 0.270 µg ml−1) to the culture medium for 2.5 h at 37 °C in 5% CO2. Cells were washed with PBS, treated with trypsin and EDTA (EDTA), re-suspended into cell medium and centrifuged for 5 min at 1,200 r.p.m. To the cell pellet in 3 ml of PBS, 7 ml of a pre-warmed hypotonic 0.0375 M KC1 solution was added. Cells were incubated for 20 min at 37 °C. Cells were centrifuged for 5 min at 1,200 r.p.m. and the pellet was re-suspended in 3–5 ml of 0.0375 M KC1 solution. The cells were fixed with methanol/acetic acid (3:1; vol/vol) by gently pipetting. Fixation was performed four times before spreading the cells on glass slides. For the FISH procedure, mouse chromosome-specific painting probes were combinatorially labelled using seven different fluorochromes and hybridized as previously described41. For each cell line, 9–15 metaphase spreads were acquired by using a Leica DM RXA RF8 epifluorescence microscope (Leica Mikrosysteme GmbH) equipped with a Sensys CCD camera (Photometrics). Camera and microscope were controlled by the Leica Q-FISH software (Leica Microsystems). Metaphase spreads were processed on the basis of the Leica MCK software and presented as multicolour karyograms.

という記述です。この部分とほぼ同一の文章が、

Guo et al., Multicolor karyotype analyses of mouse embryonic stem cells. In Vitro Cellular & Developmental Biology SEPTEMBER and OCTOBER 2005, Volume 41, Issue 8-9, pp 278-283

の論文の279ページ左段中ほどに見られます。

Chromosome preparation. Metaphase spreads of the ES cells were performed
as follows. Subconfluent ES cells were arrested in metaphase by adding
colcemid (final concentration 0.270 Ixg/ml) to the culture medium for
2.5 h at 37 ~ C in 5% CO2. Cells were washed with PBS, treated with trypsinethylenediaminetetraacetic
acid (EDTA), resuspended into cell medium and
centrifuged for 5 min at 1200 rpm. To the cell pellet in 3 ml of PBS, 7 ml
of a prewarmed hypotonic 0.0375 M KC1 solution was added. Cells were
incubated for 20 min at 37 ~ C. Cells were centrifuged for 5 min at 1200 rpm
and the pellet was resuspended in 3-5 ml of 0.0375 M KC1 solution. The
cells were fixed with methanol/acetic acid (3:1, vohvol) by gently pipetting.
Fixation was performed four times prior to spreading the cells on glass slides.
Multicolor FISH analysis (M-FISH). For M-FISH analysis mouse chromosome-
specific painting probes were combinatorially labeled using seven
different fluorochromes and hybridized as previously described (Jentsch et
al., 2003). For each cell line 9-15 metaphase spreads were acquired by using
a Leica DM RXA RF8 epifluorescence microscope (Leica Mikrosysteme
GmbH, Bensheim, Germany) equipped with a Sensys CCD camera (Photometrics,
Tucson, AZ). Camera and microscope were controlled by the Leica
Q-FISH software (Leica Microsystems hnaging solutions, Cambridge, United
Kingdom). Metaphase spreads were processed on the basis of the Leica MCK
software and presented as multicolor karyograms.

(PDFファイルからコピーペーストしたため一部文字化けしているようです。原文は発行元ウェブサイトのPDFファイルをご参照ください)。

ちなみに理化学研究所の野依良治理事長は、Noyori, R. and Richmond, J. P. (2013), Ethical Conduct in Chemical Research and Publishing. Adv. Synth. Catal., 355: 3–9という論説文の中で研究不正に関する分析を行っており、研究者にとって何が許されない行為であるのかを明確に述べています。この野依良治理事長の論説文を解説した日本語の記事から引用すると、

研究・出版における不正行為には、明白なデータねつ造だけでなく、別の実験で得たスペクトルデータを偽って載せる、反応収率を過大に表現するなど細かいも のもあります。また、論文の剽窃(plagiarism)にもさまざまな形態があり、参考にした文献を故意に引用しない、他の著者の論文から表現の一部を 借りながら自分のものとして発表するなども含まれます。特に後者は、論文のintroductionで化合物や反応の重要性を述べるなど誰が書いても似た ような内容になるときに起こりやすく、また英語を母国語としない研究者が他の著者のうまい表現を借りたくなる気持ちは分かるが、あくまで許されることでは ないと指摘します。(http://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=14657

小保方博士らが先行論文の実験方法に従って実験したのであれば、実験操作に関する記述も当然同じような文章になってしまうことでしょう。英語を母国語としない日本人なら他の著者の論文から文章を借りてしまいたくなるのも共感できます。しかしパラグラフを丸ごとカットアンドペーストしてしまう行為はあまりにもレベルが低すぎます。

参考

  1. なぜポンコツ器具で…「STAP細胞」ついに実験にも疑問の声(日刊ゲンダイ2014年3月4日):今度はその論文中に「あり得ない記述がある」と大騒ぎになっている。「小保方論文では、実験にライカ社製の蛍光顕微鏡とフォトメトリクス社のCCDカメラを使った、と記されています。これらは90年代後半の器具で、今は現場でほとんど見られないといいます。そのため『小保方さんらは本当に実験したのか』との声が出ているのです」(科学ジャーナリスト)…小保方さんのグループだけが10年以上も前のポンコツ器具を使わされたとは考えにくい。となると、最新器具を使ったと考えるのが自然だが、そうすると今度は「論文通りの手順で実験していたのか」という新たな疑問が湧く。

 

京都大学iPS細胞研究所(山中伸弥所長)で遺伝子組み換えマウスが管理区域外に

遺伝子組み換え動物を扱う研究所は、組み換え動物が外へ逃げ出して生態系に影響を与えないように厳重に管理する必要があります。新聞報道によると京都大学iPS細胞研究所で組み替えマウスが管理区域外である洗浄室で見つかる例が何回もあったとして文部科学省が厳重注意していたことが明らかになりました。飼育ケースを洗浄するために飼育室から運び出す際に、飼育ケース内の床敷(とこじき)の中に紛れているマウスを見逃してしまっていた可能性が考えられています。

 

参考記事&参考サイト

  1. 京大iPS研:組み換えマウス、飼育室外に 文科省、厳重注意  (毎日新聞 東京夕刊 2014年03月01日):京都大によると、マウスは研究所2階にある飼育室と実験を行う処置室で管理されるが、2011年以降で10回以上、1階の洗浄室で見つかった。正確な数は不明だが、死骸を含めて20匹前後とみられ、生きた遺伝子組み換えマウスもいたという。
  2. 日本エスエルシーの実験動物用床敷(チップ)
  3. 道央理化産業 とこじき:マウス・ラット飼育用床敷です。全国の大学動物実験施設、衛生研究所、製薬メーカーに納入実績があります。特殊なフレーク状カットにより吸水性が非常によく、3段階のふるいに掛けており微粉末が少なくなっています。