英文プレスリリースで研究成果を世界に発信することの重要性について以前書きましたが、科学論文の出版に合わせて英文プレスリリースを出す場所としては、そのメジャーさからいってもまずはEurekAlert!だと思います。
EurekAlert!(ユーレックアラート)の利用方法
EurekAlert!にプレスリリースを投稿するためには、予め大学や研究機関の広報担当者(Public Information Officer, PIO)が、EurekAlert!に登録しておく必要があります。
- 広報担当者の登録ページ Register
また、EurekAlert!からプレスリリースを公開してもらうためには、SUBSCRIPTION FEEの支払い手続きを行う必要があります。
- サブスクリプション費用の案内ページ EurekAlert! Services ノンプロフィット団体の場合、年間だと1345ドル、一回ごとの投稿だと150ドルの費用がかかるようです。中国語など多言語への翻訳サービス(?)などのオプションもあります。
- 1回ごとに支払いたい場合の申込書 Fee-per-posting Subscription Form
- 年間契約したい場合の申込書 Annual Subscription Form
EurekAlert!は英文のプレスリリースを投稿するサイトですが、同時に日本語訳(日本語版プレスリリース)も投稿することができます。これは逐語訳である必要はなく、日本のスタイルで書かれたプレスリリースの原稿を投稿しても問題ないようです。英文プレスリリースを投稿後に、翻訳版を投稿するステップが表示されます。投稿後の修正や図の追加などが必要になった場合にはメールで受け付けてもらえるようです。日本語のみの投稿は受け付けていません。
EurekAlert!に関するありがちな誤解を解く
EurekAlert!は、英文プレスリリースを投稿するための非常にポピュラーなサイトですが、どのようなシステムなのかを理解していない研究者の方が結構多いので、ありがちな誤解を解いておきたいと思います。
Q1:インパクトファクターが高い論文しか掲載されないんだよね?
A:トップジャーナル掲載論文のプレスリリースしかEurekAlert!に載せられないと思っている人が多いのですが、それは全くの誤解です。インパクトファクターの大小は掲載の可否とは全く関係ありません。研究成果をプレスリリースする場合には、査読付き論文であることが条件として求められるだけです。
Q2:EurekAlert!に審査されて、選ばれた論文しか掲載されなんでしょ?
A:それも誤解です。EurekAlert!による審査はありません。英文プレスリリースの原稿を投稿すれば誰でも掲載してもらえます。英語が多少ヘンでも多分誰も直してくれず、そのまま掲載されます。
Q3:日本の有力大学がつくる組織の加盟メンバーしか投稿できないの?
A:そんなことはありません。EurekAlert!の活用を推進する目的の、複数の大学からなる組織があるようですが、そのメンバーでなくても大丈夫です。大学の広報担当者がEurekAlert!に登録しさえすれば、どこの大学からでも投稿可能です。ちなみに、日本語版プレスリリースを投稿したい場合でも、英文プレスリリースの投稿が必須です。日本語単独のプレスリリースは受け付けられていません。
- 英文プレスリリース配信プラットフォーム 【参加校】(国際情報発信に関するプラットフォーム整備 研究力強化に資する 大学・研究機関ネットワーク の構築とその活動 『大学研究力強化ネットワーク』 自然科学研究機構・研究力強化推進本部 特任教授 小泉 周 PDF 文科省)
- Chiba University
- High Energy Accelerator Research Organization (KEK)
- Hiroshima University
- Kanazawa University
- Kobe University
- Kumamoto University
- Nara Institute of Science and Technology (NAIST)
- National Institutes of Natural Sciences (NINS)
- Okinawa Institute of Science and Technology (OIST)
- Research Organization of Information and Systems (ROIS)
- Tokyo Metropolitan University
- Toyohashi University of Technology
- The University of Tokyo
- Kyoto University
- Osaka University
- Tsukuba University
Q4:EurekAlert!に投稿すれば、必ず新聞に掲載されるの?
A:そんなに甘くはありません。新聞記者が面白いと思って記事にしてくれない限り、新聞記事にまではなりません。事情は、日本と同じです。海外の新聞記事として取り上げられることを目指すのであれば、自分の研究の意義や面白みを平易な英文で表現することが求められます。
Q4:EurekAlert!に投稿した後、取材の電話が殺到したりする?
A:研究成果の大きさによります。反応が無い場合には、EurekAlert!に投稿した次の日も、通常の平穏な1日のままです。少し反応がある場合には、新聞記者から研究成果の説明を求めるメールがチラホラ届きます。電話でコンタクトを取りたいという記者もいるかもしれません。
Q5:英語論文の要旨をそのままプレスリリースの原稿に転用していい?
A:それは止めた方がよいです。論文は専門家が読むために書かれたものですが、プレスリリースおよびその先の新聞記事の読者は、一般市民です。そのため、わかりやすい言葉で書きなおす必要があります。
Q6:日本国内向けの和文のプレスリリースを英訳すればいいのかしら?
A:逐語訳はお勧めできません。日本語のプレスリリースと英文のそれとでは、書き方のスタイルがかなり異なります(別に規則があるわけではなく、あくまで自由ですが)。日本語の場合、実験データの説明を中心として記述されていることが多いのに対して、英文の場合はあまり細かいデータには触れずに、要するに何がわかったのか、何ができるようなったのか、どういう意義があるのかを研究者が語るという、人間を中心とした構成が好まれるようです。
Q7:EurekAlert!の投稿内容がいろんなウェブサイトに掲載されたけど?
A:最近は個人でも簡単にウェブサイトが作れます(当サイトのように)。それが信頼性の高いメディアサイトなのか、アクセス目的の乱立サイトなのかを見極める必要があります。専属のライターがプレスリリース記事の内容を多少なりとも自分の言葉で書き直しているようなら、かなり真面目な科学ニュースサイトだと思います。日本のメディアでもそうですが、単に英文プレスリリースの文章を貼り付けただけのメディアサイトも多いです。
Q8:そうは言っても、英文プレスリリースを出すのは大変なんじゃないの?
A:ある程度「型」があるので、それにのっかって書けば、さほど大変ではないと思います。「研究成果を世界へ配信: なぜ、どうやって、そして誰が」(←コレは本当に役立つ!)や、実際にEurekAlert!に掲載されている文章を読んでコツを掴めば、論文を英語で書ける人にプレスリリースが書けない理由はないはず。
参考
- Using EurekAlert! for Science News-gathering NINS Press Seminar 19 APR 2018 | Tokyo, Japan Brian Lin, Director, Editorial Content Strategy blin@aaas.org EurekAlert!利用法に関する新聞記者・科学ジャーナリスト向けの解説
- 大学の研究が海外メディアに取り上げられる新手法 ( ニュースイッチ livedoorNEWS) 一方、同機構は米科学振興協会が運営するプレスリリース配信プラットフォーム「ユーレックアラート」において、日本用のジャパンポータルを開設してもらった。傘下の研究所の研究成果のプレスリリースを日本語・英語で国内外のメディアに届けられる。 これを京都大学や大阪大学などでもURAによる研究成果の英文プレスリリース配信に活用している。年間約50件を発信したり、海外から大きな反響を得たりと、各大学で成果が出はじめた。
- 研究力強化に資する大学・研究機関ネットワークの構築とその活動 Science誌(平成27年7月31日号)及びAAASのホームページにおいて、ネットワークとしての国際情報発信の活動や EurekAlert!日本ポータルの活動などが記事として紹介され、国際的にも高く評価されている(Science, 31 July 2015:Vol. 349 no. 6247 pp. 488-489)。
- 自然科学研究機構研究大学強化促進事業中間自己評価書 平成28年3月(PDF)例えば、国際情報発信タスクフォースについては、AAAS との交渉のもと EurekAlert!日本ポータルの設立を働きかけ、こうしたプラットフォームを通じた国際プレスリリースの配信を開始した(現在、16 大学・研究機関が参加)。
- Japan’s universities open up to the world Brian Lin Science 31 Jul 2015