日本の研究者がなぜここまで惨めな状況(業績がある程度あっても職がない)に追い込まれているのか、長年考えてきましたが、結局は、科学技術政策の失敗によるところが大きいのかなという気が最近してきました。もともと大学教員を長くされている方々にとっては当たり前の認識かもしれませんが、大学組織に属することができない中途半端な状態で何年も研究に専念してきた自分はそういったことを考える余力はなかったのです。
文科省が大学の理事に天下りしたりするニュースもずっと見てきましたが、自分の中でその意味がよくわかっていませんでした。いろいろな断片的なことがつながって初めて全体像が見えます。
文科省が大学のあるべき姿を定めて、その要件を満たしているかどうかを評価し、評価が高い大学には資金を多くあげましょうというわけです。大学は文科省からのお金が欲しいので、文科省に言われた通りにするようになります。
資金配分による文科省の思惑通りの政策誘導
91年以降、文部(科学)省は、政策主導と政策誘導の2つの方法によって、大学の教育に関与するようになった。政策主導とは、大臣の諮問に対する審議会の答申などによる改革の推奨や大学設置基準の改正(これは義務化を意味する)を言う。政策誘導とは、教育に関する競争的資金事業を指して用いる。この2つによって、文部(科学)省の要請する改革は大学に浸透してきた。
大学「教育」は改善したのか―30年間の軌跡― 吉田 文 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku/87/2/87_178/_pdf
文部省幹部や大臣が口を極めて強調したのは、国立大学は国の行政組織から外れて独立の法人格を持つことで、中期目標・計画の策定をはじめ人事や財政など業務運営の諸般にわたって大学の自由度が増し、自主性・自律性がより拡大されるとした点であった。しかし、法人化後の事態は、ガバナンス強化と新自由主義に傾斜した大学組織の効率優先・成果主義的運用と、財政・政策誘導的な大学「改革」によって、実質的にはむしろ、国・文科省の統制と支配がより強まり、いうところの自主性・自律性はいまや空文に帰している。
文科大臣が大学の業務運営に関する中期目標を「定め」、それに基づく中期計画を「認可」し、それら目標・計画の達成状況と実績を国の評価機関が「評価」して、その結果を次の目標・計画期間の予算配分に反映させるというものである。要するに、大学の基本的業務に関わる目標・計画の策定と、業績「評価」に基づく「資源配分」を通じて、教育研究に対する国・政府の介入が強められているのである。
大学の再構築を考える 田中弘允(元鹿児島大学長)https://www.kagoshima-u.ac.jp/shoujukai/tanaka.pdf
- 国立大学の独法化問題
- 企画・立案は文科省の権限に移され、大学には実施機能しか割り当てられていない
- 文科省には、大学が実施した業務の達成度の評価と資源配分や大学の改廃を決定する権限までも与えられている
東海高等教育研究所 大学と教育 35 巻頭言 : 国立大学法人制度の本質的問題点 https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/2003570
- 令和6年度国立大学法人運営費交付金 「成果を中心とする実績状況に基づく配分」について https://www.mext.go.jp/content/20240404-mxt_hojinka-100014170_1.pdf 国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下、「国立大学法人等」という。)におけるマネジメント改革の推進や教育・研究の更なる質の向上を図るため、令和元年度予算から、各国立大学法人等の成果や実績を評価する「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の仕組みを導入している。
大学の自治を奪い文科省の言いなりにさせる方策
文部科学省の大学改革政策は、教授会の権限縮小、その反射としての学長のリーダーシップ強化が基本となってきた。しかし、国立大学のような総合大学の場合、学部間の価値観や伝統の違いは、産業で言えば異なる業種間ほどの差があり、その大組織の運営を、一人学長のcapacityに依存することは無理がある。筆者は、国立大学法人化の議論の中で経営と教学を分離するオプションを大学側に与えるべきだと主張してきたが、その理由は、経営と教学の一致という組織構成概念が、経営面での権限と責任が文部科学省に属していたこれまでと違い、一個人の能力に過度に依存する組織設計論だからである。
国立大学法人化による大学改革の死角 澤 昭裕 RIETIコンサルティングフェロー https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/sawa/01.html
法人化当時の文科大臣であった遠山氏の名を採った,いわゆる遠山プラン4)によれば,「国立大学の再編・統合を大胆に進める」とされ,各大学や分野ごとの状況を踏まえ再編・統合,国立大学の数の大幅な削減が目標として挙げられた。現在のところ101の国立大学が86校へ再編されている。大学への運営費交付金は法人化以降,毎年1%以上削減され,こうした削減・統合に向けた環境作りが進んでいる。
国立大学法人化と大学自治の再構築――日米の比較法的検討を通して― 中富公一
https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/10-56/nakatomi.pdf