113番目の元素の発見者は日本の理研と認定される見込みで、命名権の獲得により「初めての日本発の元素」が誕生します。
原子番号113の元素にはウンウントリウム (ununtrium) という仮の名称が与えられています。理化学研究所の森田浩介博士らのグループは線形加速器を用いて亜鉛(原子番号30)をビスマス(原子番号83)に衝突させる実験を行い、1個のウンウントリウムの合成に初めて成功し2004年9月28日に発表しました。その後も研究を続け、2005年、2012年とこれまでに合計3個のウンウントリウム検出に成功していました。2012年の成果によって日本初の新元素発見が確定したと思われたにも関わらず、ロシア=アメリカ共同研究グループとの先取権獲得競争もあり、国際的な認定が今の今まで見送られてきました。
産経新聞の報道によれば、理研による113番元素の発見がようやく国際的に認定される運びとなり、日本(理研)がこの新しい元素に対する命名権を獲得することが確実になりました。
審査は新元素を認定する国際純正・応用化学連合(IUPAC)と、国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)の合同作業部会が実施。関係者によると、作業部会は理研を113番元素の発見者として承認する報告書を化学連合側に提出した。物理学連合側の同意を踏まえて正式決定する。(日本初の新元素、国際認定へ 理研に113番の命名権、「ジャポニウム」有力 産経新聞 2015.12.26)
Japanese discovery of element 113 – Periodic Table of Videos
元素の周期表には百十数個の名前が並んでいますが、これまでに日本で命名された元素は一つもありません。
The NEW Periodic Table Song (Updated)
原子番号113番の元素ウンウントリウム (ununtrium) (仮称)に対して、ついに、日本にゆかりのある名前が与えられることになります。
理研の仁科芳雄博士は昭和15年、93番が存在する可能性を加速器実験で示したが検出できず、直後に米国が発見。その加速器は戦後、原爆製造用と誤認した連合国軍総司令部(GHQ)によって破壊されてしまった。113番は仁科博士の研究を受け継ぐチームが発見したもので、雪辱を果たした形だ。(日本初の新元素 悲願100年、米露独の独占崩す 産経新聞 12月26日)
参考
- Ununtrium (Wikipedia)
- 日本初の新元素、国際認定へ 理研に113番の命名権、「ジャポニウム」有力 (産経新聞 2015年12月26日)
- 日本初の新元素 悲願100年、米露独の独占崩す (産経新聞 2015年12月26日 長内洋介)
- 【祝!のはずでした…】113番目の元素 命名権を日本の理化学研究所が獲得!?(日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ 2015年08月17日 雨宮崇):”つい先日の2015年8月12日、日本の科学史に残るビックニュースが発表されました!…いえ、【されるはずでした】。。。どんなビックニュースを期待していたかというと、「113番目の元素の命名権を、理化学研究所の研究グループが獲得!」というニュースです。もし現実になったら日本の科学史に残る快挙だったこのニュース。先日まで韓国で開かれていた国際学会で、「命名権がどの研究グループに与えられるか」が決まるはずだったのですが、どうやら今回は決まらず、次回以降の会議に持ち越されるようです。”
- 【祝・新元素発見】理研が113番元素の合成に成功!(文部科学省):”理研・仁科加速器研究センターの森田浩介准主任研究員らのグループが長年取り組んできた新元素合成の実験で、新たな成果が生まれました!2004年、2005年に続き、今年8月に3度目の合成とその新たな崩壊経路を確認することに成功しました。これは、新元素の発見の「確定」につながる成果であります。今回の合成は、実に7年ぶりの成功であり、実験開始からこれまで、元素合成のために原子を衝突させた回数は100兆回を超えます。”
- 新元素113命名権獲得へ近づく (日本化学会 2012年9月27日):”理化学研究所(野依良治理事長)は26日、新たに3個目の113番元素同位体の合成に成功した、と発表した。理化学研究所の仁科加速器研究センターの森田浩介准主任研究員らのグループが合成、崩壊経路を確認、27日の日本物理学会英文誌「Journal of Physical Society of Japan」オンラインに掲載される。野依理事長は「理研ではこれまでにも2個の113元素の同位体を合成しているが、今回の成果は従来の2個とは異なる崩壊経路を辿り、既知核に到達したことを確認した。これは新元素発見の証拠を一段と盤石とする成果で、元素命名権の獲得に大きく近づいた。周期表には多くの元素が載っているが、これまでに日本が命名した元素はない。命名権を取得し、周期表に日本発の元素をぜひ載せたい」と述べている。”
- Element 113 Uncovered by Japanese Scientists: “Ununtrium”
- Element 113: Ununtrium Reportedly Synthesized In Japan (Huff Post 09/26/2012)
- Search for element 113 concluded at last (RIKEN Press Release, September 27, 2012)
- Science mini-story (2) ~日本発・113番元素登場~ (有機化学美術館):”ちなみに今回の113番元素はすでに2004年2月にロシアチームが発見を報告していますが、これは証拠不十分で確定的とはいえないデータです。今回の理研の場合は1原子だけの結果とはいえ信憑性の高いデータであり、今後再現性が確認できれば日本チームに命名権が与えられる可能性は十分あると思われます。”
- 新元素113番 (理化学研究所 仁科加速器研究センター):”RILACによって加速された亜鉛イオンをビスマスに衝突させました。80日間にもおよぶ連続照射実験を続け、1個の113番元素が合成されました。新元素の発見は、目的とする原子核のできる確率が極端に小さいためとても困難です。世界中でその発見を競っています。113番元素の場合、原子核同士を100兆回も衝突させる必要がありました。”
- 新発見の113番元素 (理化学研究所 2004年9月28日):”今回、合成された原子核は1個です。この原子核は合成されるや否や、連続した4回のアルファ崩壊とそれに引き続く自発核分裂によって崩壊しました。この一連の崩壊の寿命および崩壊エネルギーなどから、原子番号113 (質量数278の278113)の原子核が初めて合成されたと結論付けられました。 今後、複数合成して再現性を確かめるなどして、今回のデータを補強すれば、将来、113番元素の命名権があたえられる可能性があります。その場合、周期表に歴史的な成果として、明確に足跡を残すことになります。… 113番元素については、今年2月にロシアの研究所が、「115番新元素の原子核(質量数、288と287)の初合成に成功し、その崩壊連鎖上の原子核として原子番号113、質量数284と283の原子核も発見した」と発表していますが、崩壊連鎖が既知の原子核まで到達していないため、現在はこれら115番、113番元素の命名権を獲得するに至っていません。ロシアのフレロフ核反応研究所のグループでは、実験データを積み重ね、より確かなものにしようとする努力が払われています。ただすべての崩壊の連鎖が未知の自発核分裂で終わっており、純粋実験的に原子番号Zと質量数Aを決めることができないのが現状です。元素に命名権を与える、国際純粋応用物理学連合(IUPAP; International Union of Pure and Applied Physics)と国際純正応用化学連合(IUPAC;International Union of Pure and Applied Chemistry)の合同ワーキンググループの報告によれば実験結果はかなり確実であるとしながらも既知核への連結がないことをもって、いまだ命名権を与えるに至っていないと報告しています。”
- Ununtrium – Video Learning – WizScience.com (https://www.youtube.com/watch?v=BtbHCb0WB8g): “The first report of ununtrium was in August 2003, when it was identified as an alpha decay product of element 115, ununpentium. These results were published on February 1, 2004, by a team composed of Russian scientists at Dubna , and American scientists at the Lawrence Livermore National Laboratory”