はたらく細胞とは
「はたらく細胞」は、体の中の血液・免疫系の細胞を擬人化して、血液の働きや、免疫系の細胞がいかにして外敵の侵入に対処しているのかを描いた漫画です。原作は漫画家の清水茜氏。
アニメ「はたらく細胞」PV 話題の細胞擬人化マンガがアニメ化
擬人化されている可愛い赤血球の前で、頼もしい白血球と外敵である肺炎球菌が”血みどろ”の戦いをしたりして面白いです。お勉強のことは忘れて、純粋にマンガとして見ても非常に楽しめます。
TVアニメ「はたらく細胞」期間限定公開
ボンボンTVによる冬休み直前特別企画、TVアニメ「はたらく細胞」の期間限定公開情報。
はたらく細胞は、もともと原作者が高校生の妹に免疫の勉強が簡単になるようにマンガで教えてと頼まれて書いたのが元なのだそうです。たしかに、いろいろな種類の細胞が特徴的なアニメのキャラクターになっていて、強く印象付けられます。しかし、それにしても血液の細胞は種類が多くて、分類もややこしいのでかなり混乱させられます。『はたらく細胞』の中の「白血球」は、帽子に「白血球」という名前が書いてありますが、実際には白血球の中でももっとも多い割合を占めていて食細胞である「好中球」のことを指しているようです。それはアニメの中でも言及されているシーンがあります。
(黄色ブドウ球菌)「哀れなもんねぇ、好中球ってのは。毎日毎日ほかの細胞を守るために戦っているのに。自分がピンチの時には、誰からも助けてもらえないなんて。」
(白血球)「ほーぉ、俺たちのことを”白血球”ではなく、”好中球”と呼ぶとは、少しは勉強しているようだな。」(参照:「はたらく細胞」第1~4話 (YOUTUBE)2018年12月1日~10日 期間限定公開 ボンボンTV 39:42~40:08)
血液に存在する細胞のまとめ
はたらく細胞を楽しむためにも、登場人物について知っていたほうがよいので、簡単に細胞の名前をまとめておきます。しかし、なぜこんなに血液や免疫の話は難しく感じらるのでしょうか?自分が思うに、
- 名前を聞いたときにそれが細胞なのか細胞じゃないのかがわかりにくい。白血球は完全な細胞。赤血球は核がなくなっている。血小板は巨核球の細胞質がちぎれたもので形も不定形。これらを”細胞”とまとめて呼ぶわけにもいかないため、これらに対して”細胞成分”という呼び方をするみたい。
- 細胞なのに「~細胞」と呼ばずに「~球」と呼ばれるものがある。赤血球、白血球、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球など。これは、顕微鏡や染色法が未発達の時代で、そもそも細胞という概念がまだ確立しておらず、血液を観察しても「球」状にしか見えない時代に与えられた名称なので当然なのですが。
- 名前がその細胞の機能や役割を表していない。好中球、好酸球、好塩基球は、染色による分類。名前の付けられ方は当時の観察技術や方法を反映していて、細胞の働きや機能を表してはいません。
- 同じ細胞なのに複数の呼び名が存在する。細胞傷害性T細胞=キラーT細胞。複数の研究者がおのおの違う名前をつけて統一性がなくなったり、訳語が複数当てられて統一されなかったりというのはありがちです。
- 分類の階層が深くて、総称なのか個別の名前なのかがわかりにくい。血液細胞>白血球>リンパ球>T細胞>キラーT細胞
- 新たな種類の細胞が比較的最近発見されたり、古い仮説が否定されたり、研究の歴史が複雑。”NKT細胞は、1986年に谷口 克らが発見した細胞で、T細胞、B細胞、NK細胞に続く第4のリンパ球”(NKT細胞とは AMBICION) ”サプレッサーT細胞” ”2000年には、「Cell」でこの細胞について詳しく紹介して欲しいと依頼され、改めて「制御性T細胞(Regulatory T cell)」と名前をつけました。”(坂口 志文 JT生命誌研究館サイエンティスト・ライブラリー)
- 分化の段階によっていろいろな名称で呼ばれる。ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、ヘルパーT細胞。
- 分子マーカー(=特徴的に発現する遺伝子)の数が多くて覚えきれない(CD4,CD8, CD14, CD16,CD25など)
- 細胞の分化誘導を引き起こすサイトカインの種類が多く、その組み合わせも多彩。
といったことが理由なのではないかと思います。こういったことに注意して頭の中を整理するしかありません。しかし、長い研究の歴史の集大成である知識をやみくもに頭につめ込もうとせず、研究の歴史(観察方法の発展)を踏まえて理解したほうが、頭に入りやすいと思います。
血液細胞の観察
What blood looks like down the microscope
0:15 red blood cells (赤血球)の説明
1:04 platelets (血小板)の説明
2:00 while blood cells (白血球)の説明
2:15 白血球の種類:顆粒細胞(glanulocytes)(好中球、好酸球、好塩基球)と非顆粒細胞(aglanulocytes)(リンパ球、単球)の説明
2:50 neutrophils (好中球)の説明
3:47 eosinophils (好酸球)の説明
4:28 basophils(好塩基球)の説明
5:14 lymphocytes (リンパ球)の説明
6:03 monocytes (単球)の説明
細胞の系譜による分類
知識を整理する方法として、歴史的な流れを追う方法に加えて、細胞の分化の流れを追う方法もあります。がんなどの病気などとの関連からいうと、こちらの理解の仕方のほうが重要だと思います。
(転載元:造血幹細胞から血液の分化について 急性骨髄性白血病 国立がん研究センター がん情報サービス より)
もう少し詳しい図。
(好塩基球、好中球、好酸球、単球、リンパ球をまとめて白血球と呼ぶ。ウィキペディアHaematopoiesisの図を改変)
- 免疫のしくみを学ぼう!8.免疫細胞はどこで、どんな細胞からつくられるの? 9.T細胞はどこでどのようにつくられるの? 京都大学再生医科学研究所 再生免疫学分野河本宏研究室
血液細胞のまとめ
- 血液は、細胞性成分と液性成分(血漿)とからなる。
- 血液の細胞性成分として、赤血球、白血球、血小板の3種類がある
- 白血球は、顆粒球、非顆粒球に分けられる。顆粒球は細胞内に「顆粒」を持っているので顆粒球。
- 顆粒球は、好中球、好酸球、好塩基球の3種類に分けられる。染色性の違いから。
- 非顆粒球は、単球、リンパ球に分けられる。
- リンパ球は、B細胞、NK細胞、T細胞などに分類される。リンパに存在する主要な細胞種なのでリンパ球の名がある。
- T細胞には、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、レギュラトリーT細胞などの種類がある。
- 単球は血中から組織に移動し分化して、マクロファージや樹状細胞になる。
”パンくずリスト”表示するなら、以下のようになります。
血液>細胞性成分(血液細胞)、液性成分(血漿)
血液>血液細胞>赤血球、白血球、血小板
血液>血液細胞>白血球>顆粒球、非顆粒球
血液>血液細胞>白血球>顆粒球>好中球、好酸球、好塩基球
血液>血液細胞>白血球>非顆粒球>単球、リンパ球
血液>血液細胞>白血球>リンパ球>B細胞、T細胞、NK細胞
血液>血液細胞>白血球>リンパ球>単球>マクロファージ、樹状細胞 (単球が血管から組織に移動して分化)
血液>血液細胞>白血球>リンパ球>T細胞>キラーT細胞、ヘルパーT細胞、レギュラトリーT細胞
呼び名いろいろ
同じものなのに違った名称で呼ばれてややこしいことがあるので名前のまとめ。ついでに英語も。色、形、染色のされたかた、明らかにされた役割など、観察手法や研究の歴史を反映した名前になっています。
- 血液; blood
- 血液の細胞性成分;血液の細胞成分;血液細胞;血球; blood cells
- 血漿; プラズマ;plasma
- 赤血球; red blood cells (RBC); erythrocytes; red corpuscles 「運び屋」
- 白血球; white blood cells (WBC); leucocytes
- 血小板; blood platelets; platelets; thrombocytes
- 好中球; neurtophils; neutrophiles
- 好酸球; eosinophils; eosinophil granulocytes
- 好塩基球; basophils
- 単球;モノサイト;monocytes
- リンパ球; lymphocytes
- B細胞; B cells;Bリンパ球 *Bは生成される場所Bone marrowのB
- T細胞; T cells;Tリンパ球 *Tは生成される場所ThymusのT
- NK細胞; NK cells; natural killer cells 「生まれつきの殺し屋」
- NKT細胞;ナチュラルキラーT細胞;natural killer T cells
- マクロファージ; macrophages 「掃除屋」
- 樹状細胞; dendritic cells
- キラーT細胞; 細胞傷害性T細胞; killer T cells 「細胞の殺し屋」
- ヘルパーT細胞;helper T cells 「免疫系の指令塔」
- エフェクターT細胞; effector T cells
- レギュラトリーT細胞;制御性T細胞;regulatory T cells; Treg (ティーレグ)
- マスト細胞;肥満細胞;顆粒細胞; mast cells
参考
- はたらく細胞 作品紹介(月間少年シリウス)
- 免疫について 日本血液製剤協会
- NHK高校講座 生物基礎 第26回 適応免疫 (1) ~細胞性免疫~
- NHK高校講座 生物基礎 第27回 適応免疫 (2) ~体液性免疫~
- 自然免疫と獲得免疫 MBLライフサイエンス
- 細胞性免疫と液性免疫 MBLライフサイエンス
- 初めの一歩は絵で学ぶ 免疫学 「わたしの体」をまもる仕組み 田中 稔之 2016/8/31 じほう(サンプルページ)
- 【吉村チーム】「免疫反応を抑える細胞が作られる新たな仕組みを発見 」Nature Immunology 2013 (jst.go.jp)
- 食細胞(ウィキペディア)