今回ロケットが打ちあがらなかったのは「失敗」なのか「中止」なのか、科学報道について考えさせられる出来事なので、記事をまとめておきます。思い込みは恐いです。
目次
ロケット発射中止
H3ロケット、メインエンジン点火するも発射失敗したようです。開発中に取材させてもらいました。応援しています。
朝日新聞デジタルの中継映像からです pic.twitter.com/F6D2H87FLj
— 小出大貴(朝日新聞記者) (@koide__t) February 17, 2023
*失敗でなく中止というべきだと、引用ツイートで指摘されています。
これリアタイでみてました。 一旦はメインエンジンはスタートしましたが、すぐに停止。しばらくして理由はSRBが点火しなかったための打ち上げ中止とアナウンスがありました。日本語は正しく使いましょう。(午後7:57 · 2023年2月17日 【フィニアスと】カモノハシペリー【ファーブ】@kamonohashibus)
ロケット発射中止に関する記者会見
発射直前に異常を検知して発射を中止したことが、打ち上げ「失敗」なのか打ち上げ「中止」なのか、JAXAと共同通信社の男性記者の間で解釈の違いが生じたようです。
H3プロジェクトチームプロダクトマネージャJAXA岡田匡史氏:
「こういった事象が時々ロケットにはあるのですが、その時に自分たちは失敗と言ったことがありませんので」
「どのような解釈をされるのかは、受け止められ方はもちろんあると思いますので、そうではないですとは言い難いんですけれども、ロケットというものは基本安全に止まる状態でいつも設計しているので、その設計の範囲の中で止まっている、つまり意図しないというのはそういう設計の範囲を超えて、そうじゃない状態になることは大変なことになると思いますが、ある種想定している中の話なので、そこに照らし合わせますと失敗とは言い難いと思います」
「ある種の異常を検知したら止まるようなシステムの中で、安全、健全に止まっているのが今の状況です」
共同通信記者:「わかりました、それは一般に失敗といいます。ありがとうございます」
(「それは一般的に失敗といいます」JAXA打ち上げ中止会見での共同記者の“指摘”に批判続出 2/18(土) 6:01 コメント868件 女性自身 YAHOO!JAPAN)
上のやり取りを動画でみると、JAXAはエンジニアの考え方を非常に率直に説明していて、誤魔化す意図なども全く見受けられません。失敗ではないかという攻撃的な質問に対する答え方のこの真っすぐさには、自分は感動すら覚えました。しかしながら質問した記者は、なにがなんでも「失敗」として捉えたがっていたようです。
「自分が取材した結果」を受け入れないで、「もともと自分の頭の中にあった結論」を押し通そうとするのは、報道記者として正しい態度だとは思えません。
自分の「仮説」の”正しさ”に対する思いこみが強すぎて、得られた実験データを捻じ曲げて解釈する(もしくはデータを改ざんする)研究不正が起こる過程に通ずるものがあると思いました。人間は見たいものを見て、信じたいものを信じるとよく言われますが、研究者や記者がそれをやったらだめでしょう。
「事実」は、「異常が発生したのを検知してシステムが停止した」のであり、「失敗した」というのは「解釈」もしくはその本人の受け取り方に過ぎません。記事を読んで解釈するのは読者のやることなので、報道記者は、判断材料として十分な「事実」を伝えてくれればよいと思います。事実と解釈をごちゃまぜにするのは、ありがちな「失敗」です。
技術者の人が設計思想を丁寧に説明してるのに、最後、よく分かってない記者が自分の思う意見を押し付けていくって変な話だよね。記者なら聞き出すことに専念したらいいのに。
→「それは一般的に失敗といいます」JAXA打ち上げ中止会見での共同記者の“指摘”に批判続出https://t.co/1sU1tQxPst
— むぎSE (@MUGI1208) February 18, 2023
H3ロケット試験機1号機に関する記者会見 JAXA | 宇宙航空研究開発機構
報道(当日17日夕刊)
この日経のH3ロケット打ち上げ「失敗」という速報が飛んできて本体が爆発したのかと焦ったけど、実際は打ち上げられなかったということ。
高度な技術力がいる宇宙産業はまだ日本が勝てる数少ない産業だと思うからなんとか成功して欲しい https://t.co/1hXG9M0kfy
— 「都市計画のお知らせ」@YouTube (@OSAPCO1) February 17, 2023
僕はこの記事の担当デスクだったが、これを「失敗」と捉えるかどうかについては、発生直後から夕刊、朝刊の制作段階まで社内でいろいろ議論をした結果、こういう記事や見出しにしたということは申し添えたい。
— 酒造唯@「誰が科学を殺すのか」科学ジャーナリスト賞2020を受賞 (@yuishuzo) February 18, 2023
【失敗なのかどうか】
H3ロケットは発射されなかった。共同通信と日経、読売、東京新聞は失敗だと報じた。第一報の共同通信と日経のタイトルから、衛星の軌道投入に失敗したのかなと思った。しかし実際には発射が停止された訳で、事故が起きたとは言えなかった。解釈とし…https://t.co/3lxnY0UOB2 pic.twitter.com/lRffj9cuBq— F&F (@FandF_JP) February 18, 2023
H3ロケット報道。昨日紙面で「失敗」とした読売、同じく「失敗」とした日経も会見やその後の世論受けてか以後「中止」に変更。
一方、会見が騒動になった共同はきょうも意地の「失敗」報道。
H3は異常を検知し発射取りやめたことで「失敗」ではなく「中止」となるわけだけど、共同は「中止」できず。 pic.twitter.com/Unvlz1Cyv5
— 徳重龍徳(ライター、グラビア評論家)@ちいかわ好き、グラドル取材多い (@tatsunoritoku) February 18, 2023
今話題になってる?、ロケットの表現の件、日経がカギカッコまでして失敗じゃないことを強調してるの笑う
H3打ち上げ「中止」 JAXA:日本経済新聞https://t.co/NH7syJfLzZ
— まんなか (@mannaka_37) February 18, 2023
2月18日付日経朝刊の2つめの社説はH3ロケットの打ち上げに関してだが、文中には「ミス」「失敗」「トラブル」の言葉が並んでいる。異常を察知して「中止」したのだから、的確にリスクは回避できたわけで、日経の社説の評価はちょっとおかしいと思うけど。(マーケットエッセンシャル主筆・前田昌孝)
— 前田昌孝 (@market_maeda) February 17, 2023
日経の記事本体は「H3ロケット、離陸せず」に訂正済み。
打ち上げ中止の10分後の速報で一時的に「発射失敗」となってしまうのは仕方ない。ここまで叩くのは行きすぎ。JAXAからの発表を受けて記事タイトル訂正してるのでまともだと思う。 https://t.co/zsRqmTBL1O
— lanuvas (@lanuvas) February 17, 2023
- 文科省「H3は失敗ではなく中断」 2/17(金) 12:06コメント1557件 産経新聞 日本の次世代ロケット「H3」初号機が、17日午前に予定通り打ち上がらなかったことについて、文部科学省宇宙開発利用課は同日、産経新聞の取材に対し「打ち上げ前に取りやめを判断しており、失敗ではなく中断と受け止めている」との見解を明らかにした。
報道に対する反応
- 「あり得ない」「敬意のかけらもない」 H3打ち上げ中止、JAXA会見で反発広げた「記者の捨て台詞」 2023年02月17日20時56分 J-CASTニュース YAHOO!JAPAN(コメント4099件)この記者は「つまりシステムで対応できる範囲の異常だったんだけれども、起こるとは考えられなかった異常が起きて、打ち上げが止まった。こういうことでいいですね」と論点を整理し、岡田氏が主張を繰り返すと、「わかりました。それは一般に失敗といいます。ありがとうございます」と突き放すように切り上げた。
失敗とは何か
装置の不具合による発射シーケンスの「中止」です。
ここで失敗とは「ロケットに搭載したものを目的の軌道に乗せられなかった」と定義されます。
やり直しができる所で止めたので「中止」です。このまま強行したら「失敗」してたでしょう。
「中止」と「失敗」の区別ははっきりしてます。— 風のSILK (@PSO_SILK) February 18, 2023
間違った記事が配信されてしまう … 失敗
記事に間違いがあることが判明して配信直前で撤回 … 中止あなたに理解できないのは仕方がない。
— tmrtmrtmr (@_tmr_tmr_) February 18, 2023
一部報道が打ち上げ延期を失敗扱いしたり、それに反発する意見に対し「ロケット打ち上げを特別視するのはどうか?」などの話題が出ていますが、
そもそも打ち上げ成功-失敗とは何でしょうか?
案外日常と同じ基準だったりしますよ? pic.twitter.com/eeMPPcWYf6— LH2 (@LH2NHI) February 17, 2023
失敗ではないとする捉え方
これみて?
— 宇推くりあ❤️JAXA H3ロケット応援サポーター (@clearusui) February 17, 2023
信頼性技術に携わった経験のある技術者として言わせて下さい。あの記者の発言はH3開発に携わった全ての技術者の皆さんと不断の努力への冒涜であり、強い怒りを禁じ得ません。異常検知システムの正常作動により打ち上げプロセスが中断されたのであり、『失敗を回避できた』とするのが正しい表現です。
— Kenichi KONO (@KenichiKono_F1) February 17, 2023
JAXAの件、制御システムを開発している者としては、想定した範囲内の例外を期待通りに検知して期待通りに停止出来たことを、想定していない例外が起きてクラッシュしたり甚大な被害に繋るようなことと同一視されて、失敗と決めつけられるのは、本当に悔しいと思うし、技術も技術者も冒涜してると思う。
— じんべえざめ (@jinbeizame007) February 17, 2023
- フェイルセーフを理解しない?/H3ロケットの発射に関する記者会見で「それは一般的に失敗と言います」と発言した共同通信の記者に注目あつまる togetter
- 打ち上げ中止「H3」会見で共同記者の質問に批判相次ぐ ロケットを救った「フェールセーフ」とは 2023年02月17日 19時50分 公開 [山川晶之,ITmedia]
失敗とする捉え方
福井新聞すごいな。「発射失敗」とはっきり書くだけでなく「三菱重工業」の名前も見出しに入れて「新型ロケットの失敗は日本の宇宙戦略に打撃となる」と指摘している。
相手の言い分垂れ流しでない欧米メディアのような書き方ですが、ジャーナリズムとしてはこれが正解です。https://t.co/wa90q0PsOO
— 山崎 雅弘 (@mas__yamazaki) February 18, 2023
間違った記事が配信されてしまう … 失敗
記事に間違いがあることが判明して配信直前で撤回 … 中止江川さんは違いがわからない方ですか。
— tmrtmrtmr (@_tmr_tmr_) February 18, 2023
各社の記事の見出しは、「打ち上らない」といういささか奇妙な言葉。なぜ、打ち上げ失敗と書かないのだろう。大本営発表シンドロームの現れか。 https://t.co/B115iFLhWS
— 山口二郎 (@260yamaguchi) February 17, 2023
今朝の読売新聞、我が国の根本的問題が報じられている。ロケット打ち上げ中止を失敗と認めないJAXA。教科書訂正1200か書を、検定結果が不適切だという認識はないと語る文科省教科書課。まさに大本営発表を彷彿させる事態。施策を検証し失敗から学ばない国は滅びゆく。子ども達の未来が本当に心配だ! pic.twitter.com/Ze6PGfOfdM
— 伊藤隼也 (@itoshunya) February 18, 2023
日本人なのに日本語を間違える
点火前なら中断や中止が成り立つが、発射ボタンを推して火が吹いたのに飛べないことが中断と言うか
「転進」、敗退なのに別の方向に進撃するという
「終戦」、無条件降伏なのに戦争をやめたという変わらないね… https://t.co/s3EmLLAOhh
— 宋 文洲 (@sohbunshu) February 17, 2023
H3ロケットが物議を醸している。
明らかに「失敗」そのものだが、JAXAは「中止」と言い張り失敗を認めようとしない。
これは旧日本軍が撤退を「転進」と言ったり、殲滅を「玉砕」と言ったりする事と同じである。
つまりテクノロジーの粋を極めるJAXAですら前近代的なのだ。https://t.co/4o8s7wSANS— 白坂和哉|YouTuber 3.7万人&ジャーナリスト ”突き刺さる” 政治情報を提供します! (@shirasaka_k) February 18, 2023
「H3ロケット発射できず 異常検知 着火信号出ず JAXA『失敗と考えていない』」大事故に至らなかったのは幸いで、関係者の無念は察するに余りあるが、それを伝えるマスコミが妙だった。「打ち上がらず」との表現を使ったのだ。なんだそれは? そんな曖昧な日本語があるのか。まさかロケットの擬人化か。
— 立川談四楼 (@Dgoutokuji) February 18, 2023
ロケットの打ち上げ中止会見で、厳しい質問を浴びせる記者に批判が集まる日本。
「失敗」がどうかさえ、曖昧にする社会。
まともな反省ができるわけがない。— 白石草 (@hamemen) February 17, 2023
余波
【悲報】H3ロケット発射失敗で三菱重工(7011)の株価グラフがズコー(´・ω・`) pic.twitter.com/AyS74m252Z
— 環境破壊ちゃん(マウスおえかきそつぎょう?) (@kankyouhakai) February 17, 2023
報道(翌日朝刊)
中国新聞の記事では「H3ロケット打ち上げ失敗」という見出しの隣りに、白抜き文字で「異常検知 着火信号出ず」というJAXA側に配慮したともとれる副見出しを付けてるね。
「衛星打ち上げという目標達成には失敗してるよね」という見解も、記事概要に書かれている。https://t.co/kUqveZjd7i pic.twitter.com/e4U209iBf6
— Westwind (ペーター) (@denpa_westwind) February 18, 2023
多分日本語と英語の違いか?
英語の大手のニュースではabortと見出しで書いてて発射に失敗と記事にしているし。
ロケットはabort (強制終了)でlaunch(打ち上げ)失敗とは違う。
でもlift off(発射)にはfailure (失敗)。
カウントゼロまでしてたからね。
でも言葉にこだわらないで欲しい。— 肥和野 佳子 (@lalahearttwit) February 18, 2023
電車に乗ってると共同通信が流れてるから『H3ロケット打ち上げ失敗』と一言で片付けてるし、地方紙は共同通信の配信を載せてるから同じ論調。
ただネット上では「大失敗してるのは共同通信」
・・・此処まで乖離してると別世界みたいだな。 pic.twitter.com/SXQClSTIYZ— がじろー (@mangajiro) February 18, 2023
- H3ロケット「失敗ではなく中止」 前日は異常なし、担当者も悔しさ 有料記事 玉木祥子 嘉幡久敬 竹野内崇宏2023年2月17日 19時33分 朝日新聞デジタル